君は小宇宙を感じたことがあるか?俺はない。   作:高任斎

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ギャラクシアンエクスプロージョンを使えるサガさんは、すごいなあ。(白目)



5:これが、ギャラクシアン・エクスプロージョン……。(震え声)

 俺ももう10歳か……。

 村を追い出されたのが5歳の夏で、テリオス師匠に拾われたのが6歳になるかならないかの頃だから……。

 ギリシャに来て、ちょうど4年ぐらいか。

 生まれはイタリアの方でも、ギリシャ育ちと言っていいんじゃないかな。

 途中、修行で2年ほどいなくなってるけど、気にしない。

 

 え?

 スニオン岬の岩牢はどうなったって?

 

 いやあ、最初はちょっと辛かったけどさ、もう慣れたよ。

 身長が伸びたのもあるけど、やっぱり人間ってさ、たいていの環境には適応できる生き物なんだね。

 ははは。

 というか、ついさっきまで岩牢にいたからね、俺。(目逸らし)

 

「……聞いているのかね、アル?」

「はい、聞いてます、教皇様」

 

 俺はまだ10歳。

 元気の良い返事で、いろんなものがごまかせる年齢だ。

 

「……慣れるほど、あの岩牢の常連になってもらっては困るぞ」

「お言葉を返すようですが教皇様、俺はむしろ被害者です」

 

 10歳が『お言葉を返すようですが』なんて言わない気もする。(白目)

 

「う、む……まあ、確かに」

 

 渋々だが、教皇様が俺の言い分を認めた。

 

 俺が度々あの岩牢に閉じ込められるのは、『聖闘士同士の私闘を禁ずる』という決まりを破るから。

 俺は一応聖闘士候補ってことで、拡大解釈の結果……そうなった。

 

 そして。

 俺に私闘を仕掛けてくるのが、シュルツとイオニスの2人。

 まあ、シュルツが9で、イオニスが1ってとこ。

 

『なんとしてもアルに小宇宙を目覚めさせる。これは黄金聖闘士としての義務だ』

 

 とか言ってるけど、シュルツは俺を相手に戦うのが楽しくて仕方ないって感じ。

 たぶん、バトルジャンキーの気があると思う。

 イオニスはまあ、俺が聖闘士になるのを楽しみにしてるのかな……うん。

 

 青銅聖闘士や白銀聖闘士は、世界各地へと赴くこともあるからあれだろうけど、黄金聖闘士って、普段は12宮というか、ずっと自分の受け持ちの場所を守っているだけだから、ストレスが溜まるんだろうね。

 聖闘士の最高の戦力でありながら、引きこもりを強要されるってことだ。

 しかも、聖戦でもなければ、その力を振るうこともない。

 

 そう思うとさ、俺は、シュルツを強く責める気にはなれないんだ……。

 

「その、なんだ……すまんな、アルよ」

「はい?」

「あの2人は、貴重な黄金聖闘士で……度が過ぎるといっても、お前を鍛えたいという気持ちは本物だと思うのだ。だから、あまりきつく罰を与えられないという感じでな……」

 

 ……まあ、教皇様の気持ちもわかる。

 

 ずいぶんとフランクだなと思うかもしれないが、俺が教皇様と言葉を交わす回数はわりと多い。

 まあ、普段から接してるのが、テリオス師匠と、シュルツと、イオニスの3人ぐらいしかいないしね。

 以前、俺を代わる代わる吹っ飛ばしてくれた聖闘士も、最近は全然顔を見ないし。

 

 だけど、教皇様もちょっとずれてきてる。

 一応、ツッコミは入れておこう。

 

「でも教皇様、本来はあの岩牢って、黄金聖闘士にとってもきつい罰だったはずなのでは……」

「う、うむ……慣れというのは、怖いな」(震え声)

 

 最初は疲労困憊だったくせに、今じゃシュルツは1週間程度じゃちょっとやつれる程度にしかならない。

 というか、あの岩牢でヒントをつかんだそうだ。

 

 シュルツ曰く、『飢えることで食物の大事さを知るように、あの岩牢で小宇宙を封じられると、小宇宙の真髄を知ることが出来る』んだとさ。

 たぶん、シュルツにとっては罰じゃなくて、修行の一環なんだろう。

 

 イオニスはというと、『ふむ、どうやら私にはもう伸び代がないのかもしれません』とのことだ。

 同じ黄金聖闘士とはいえ、やはり差は出てくるものらしい。

 

 まあ、俺の場合……どうしても原作世代の黄金聖闘士が頭をよぎるので、いわゆる基準というものがよくわからない。

 今4人いる黄金聖闘士では、シュルツが抜けていて、イオニスがその後……そして残り2人がはるか後ろってとこらしいが。

 ただ、小宇宙を使いこなすという意味では、『イオニスには負ける』ってシュルツが言ってた。

 小宇宙の大きさは重要だが、それだけでもないってことか。

 筋肉だけじゃ、一流のスポーツ選手になれないのと一緒なんだろう。

 

 一方、この2年ほど、俺は小宇宙を感じるきっかけすら掴めない状態だ。

 新たに特訓したいところではあるが、『気』と『チャクラ』というか『プラーナ』の他に、なにかそれっぽいものを思いつかない。

 もちろん、もともとのチートボディを含め、色々と成長はしている。

『気』にしても、『チャクラ』にしても、まだ山頂にたどり着いたとはとても言えない。

 というか……大事なのは小宇宙を感じることだからなあ。

 

 ああ、こういう時にあのセリフを使うのか。

 

 聖闘士候補としては、評価されない項目ですからね。(憂いの表情)

 

 

 冗談はさておき。

 このままだと、今の黄金聖闘士の実力トップ(シュルツ)と互角に戦える『無冠の帝王(雑兵)』という結末が待っている。

 いや、雑兵でも小宇宙に目覚めた人はいるみたいだから……それ以下か。

 

 

 

 ……何を言ってるんだ俺は?

 

 黄金聖闘士も、青銅聖闘士も……そして、雑兵のみなさんも、アテナを守る兵士という意味で、貴賎はないはずだ。

 志を同じくした仲間であって、強いか弱いかで語るのは、戦いの時だけでいい。

 

 聖闘士は戦うことでアテナの力になる。

 その一方で、農作業や漁業に携わることで、聖域に住む人の生活を支える者もいる。

 そこに、貴賎はない。

 

 村を追い出されたあの時から、確かに俺は強くなった。

 でも、今の俺は……胸を張れるような人間か?

 貴重な人間か?

 

 俺は、胸に手を当てて目を閉じた。

 あの森の、俺が命を絶った大樹を思い出す。

 インドで救った人を、救えなかった人を思い出す。

 

 焦り、なんだろう。

 あるいは、拭えない疎外感か。

 

 俺の、心を濁らせるもの。

 

『気』を練りながら『チャクラ』を開きながら、いつの間にか俺は、あの時の心を失いかけていたらしい。

 小宇宙ではなかったとはいえ、『気』も『チャクラ』も、あの時芽生えたチートと同じで、今では俺の大事な半身でもある。

 あのときの心を汚すということは、俺自身を汚すのと同じだ。

 

 心技体。

 

 精神主義のきらいはあるが、まず心を第一に置いた、あの教育が間違っているとは思わない。

 

「……心?」

 

 閃くものがあった。

 

 6つの『チャクラ』は、肉体のエネルギー回路のようなものだ。

 そして、『気』もまた、基本は肉体の生命力より発する力。

 

 その先に向かう、個でありながら全となす……その境地に至るためには、悟りとも言うべき『心』の穏やかさを必要とした。

 そう、穏やかさ。

 

 世界は、綺麗なものばかりではない。

 白と黒。

 

 世界がそうであるように、人もまた、その白と黒の間の灰色の道を生きていく。

 白と黒の間を、行ったり来たりする……それを、迷いと切り捨てて良いものか。

 

 それは、世界の綺麗なものばかりを見つめているとは言えないか。

 

 

 聖闘士の小宇宙。

 小宇宙を燃やす。

 

 そこには、『感情』が大きく関わっていないだろうか?

 澄み切った穏やかさとは真逆の、ある種の激しさ。

 

 穏やかさの中に答えがあるならば。

 激しさの中にもまた、別の答えが……。

 

 なんのために戦う?

 倒すため。

 守るため。

 

 戦うための、目的。

 想い。

 意志が、人を強くもするし、弱くもする。

 

 感情の、発露。

 感情の、爆発。

 

 しかしそれは……『気』や『チャクラ』を捨てることにつながりはしないか?

 

 いや、まだ浅いということかもしれない。

 

 感情を突き詰めるということは、究極まで自分を見つめるということ。

 穏やかさも、激しさも、自分の中にある。

 

 必要なのは、純粋さか。

 

 純粋な白。

 純粋な黒。

 

 純粋な穏やかさと、純粋な激しさ。

 どちらも、同じ心から発するもの。

 ならば、それは両立する。 

 

 ありのままの心を信じる。

 ありのままの、心の力を信じる。

 

 そうだな、シンプルに心の力。

 

 心力とでも呼ぶか。

 

 自分がイメージしやすいもの。

 それが一番大事だ。

 

 

 

 

 

「テリオス師匠、相談が……」

「はいはい、行ってらっしゃい。帰ってくるのは一年後か?」

 

 

 ……この、モヤモヤした気持ちを力に変えればいいんだよな。(震え声)

 

 

 

 

 

 ダイジェスト。

 

 1週間。

 1ヶ月。

 1年。

 

 

 

「テリオス師匠、シュルツ、イオニス……ようやく、見せられるよ」

 

 深い感謝を込め、3人に頭を下げた。

 

 顔を上げ、海に向かって拳を構える。

 俺の『心』だけを見てもらいたいから、『気』を抑え、『チャクラ』を絞り、最低限に。

 

 怒りを。

 悲しみを。

 喜びを。

 楽しさを。

 そしてなによりも、感謝の心を。

 

 すべてを、拳へと集めていく。

 

 この世界の、生きとし生けるものすべてに与えられた力。

 生きることによって得られる力。

 美味いものを食べる……また食べられるように頑張ろうと思う。

 悲しいことに出会う……同じ過ちを繰り返さないと思う、あるいは立ち上がろうと思う。

 そうした日々の営みの積み重ねが、心だ。

 

 村を襲ってきた盗賊への怒りも。

 村を追い出された悲しみも。

 

 人としての営みが、生きてきた証こそが……力となる。

 それこそが……。

 

 俺の拳が、淡い光に包まれ、どんどんと大きくなっていく。

 見てくれ。

 感じてくれ。

 

 これが、俺の小宇宙(コスモ)だ!

 

 

 海が割れ、一筋の道が彼方へと続いていく。

 

 5秒。

 10秒。

 1分。

 

 開かれた空間に、左右から押し寄せる海水が、大波となって荒れ狂った。

 

 大きく息を吐き、俺は3人へと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、タコの下ごしらえをしなきゃ。

 いや、ぬめりを取るためだから。

 仕方ない仕方ない。

 

 言い訳しながら、俺はタコをびったんびったん叩きつける。

 

 命に感謝、感謝。

 砂で表面を揉み、海水で洗う。

 

 あー、今日は酢の物でも作ろうか。

 うん、強めに酢を効かせよう。

 

 なんだか、テリオス師匠、疲れた表情をしてたもんな。

 疲れた時は酢の物だよ。

 あれ、夏バテには、だったか?

 

 ……美味しければいいよね。

 

 

「テリオス師匠、ご飯できましたよ」

「……」

 

 俺は、ちょっと背筋を伸ばし、頭を下げた。

 

「お騒がせしてすみませんでした」

 

 

 

 海を無駄に騒がせたという理由で、教皇様に怒られた。

 

 岩牢、1週間の刑。(いつもの)

 

 もしかすると、海を荒らされたポセイドン様が激おこだったのかもしれない。

 その1週間、岩牢はずっと海水で満たされていた。(大潮)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……どうすりゃいいのかねえ。

 

 心の激しさを見つめることで得た『心力』によって、またひとつ強くなれたが、小宇宙を感じないのは相変わらずだ。

 ようやく見つけた手がかりをあっさりと否定され、さすがに落胆する。

 働けど働けど……って感じだ。

 

 前世の記憶から、転生チートものの物語を思い出す。

 

 転生チートっていったら、もっとイージーな人生が待ってるもんだよな。

 あるいは、ざまぁされるというか、難易度ルナティックとか。

 

 いや、俺の人生ってイージーといえばイージーだけど、別の意味でルナティックモードになってるか。

 ハイブリッドってやつだな。

 

 まあ、俺は転生チートにありがちな剣と魔法の世界じゃなくて、聖闘士星矢の世界なのに、原作のはるか昔なんてわけのわからない状況に転生したわけだし。

 

 剣と魔法の世界……か。

 

 なんとなく、自分の手を見た。

 魔力、ねえ。

 

 はは、まさかな。

 うん、ないない。

 ここは、聖闘士星矢の世界だってば。

 

 でも、小宇宙って、わりと魔法っぽい感じも……。

 

 ……。

 ……。

 

 ちょ、ちょっとだけ。

 ほら、ほかに手がかりもないし。

 気分転換もかねて、さきっちょだけ試してみよう。

 そう、さきっちょだけ。

 

 

 

 

 

 

 1週間。

 3ヶ月。

 1年。

 

 ……あるやん。(震え声)

 

 いや、『魔力』といっても、なんでも出来るって感じの力じゃない。

 純粋な、『力』。

 そこに、方向性を与えて、初めて『力』を行使できるって感じ。

 身体に巡らせて身体能力を強化するとか、力をぶつけるとか……まあ、『ファイアボール』とか口ずさんだのはお約束だけど、無理だった。

 万能な力はないってことだ、きっと。

 

 ただ、困ったことがひとつ。

 

『気』と『プラーナ』と『心力』はよくなじむ。

『気』と『プラーナ』と『魔力』もよくなじむ。

 

 なのに、『心力』と『魔力』がすっごい反発する。

 なので、魔力で身体能力を向上させると、『心力』が使えない。

 

『気』と『プラーナ』を両輪にみたてて重ねることができたのなら、この『心力』と『魔力』とでも出来ると思ったんだが。

 

 んー。

 だったら、別々に集めるとどうなる?

 協調ではなく、競い合わせるイメージ。

 ふむ、やってみよう。

 

 右手に心力、左手に魔力。

 

 うわ、どちらかに偏るといきなりダメになるぞ。

 ということは、両方を同時に、バランスをとりながら……難しいな。

 

 慣れてないってのもあるが……初めて気を練ることを覚えたときのように、まずは少しずつ、だな。

 

 俺の身体を巡り、満たしている『気』と『プラーナ』……そこに、『心力』と『魔力』を。

 別の道筋を通り、右手と、左手に、薄皮を重ねるように集めていく。

 

 慣れてくる。

 その感覚に、俺が、身体が、なじんでくる。

 

 トントントンっと、階段を駆け上がっていくのにも似た感覚。

 

 それが、ある水準を超えた瞬間……。

 

「あっ、あっ、あっ……やばい、これやばい!」

 

 コントロールが効かないっていうか、制御は出来るんだけど、出力が勝手に上がっていく。

 制御できてねえじゃんとツッコミたいが、俺が、コントロールしてるんだ。

 その『結末』にむけて。

 

 やがて。

 心力と魔力が共鳴を始めたかのように、『キュイーン』という甲高い音を発し始めて、俺は恐怖を覚えた。

 

 右手が。

 左手が。

 

 引き合う。

 

 頭に浮かんだのは、『メ〇ローア』。

 

 反発してたはずの、『心力』と『魔力』が、引き合って、ひとつになろうと……そうしている間も、それぞれの力は集まり続けている。

 

 チャクラを全開、気も全力。

 チートも全部のせで、それでも、二つが引き合うのを……耐えられない。

 

 右手と左手が重なった。

 

 爆発的な高まり。

 高まり続ける、『それ』。

 

「ああああああっ!!」

 

 叫ぶことで恐怖をねじ伏せ、俺は『それ』を夜空に向かって押し出した。

 

 

 

 光の帯。

 夜空を埋め尽くす、光の奔流。

 

 時の流れを永遠に感じる光景。

 

 実際、それがどのぐらい続いたのかはわからない。

 でも、遠ざかっていく光の帯を見た瞬間、ほっとした。

 

 すとん、と腰が落ちる。

 右手と、左手の無事を確かめ……どっと汗を流した。

 

 うん、これは封印しよう。

 やばすぎる。

 

 そう決意したとき。

 

 遠ざかっていた光の帯が、弾けた。

 夜空が、明るく輝く。

 真昼のように、光り輝く。

 

「うわぁ……」

 

 前世の記憶。

 口に出してはいけない単語がこぼれそうになって、慌てて口を手でふさいだ。

 

 そして。

 

「ギャ、ギャラクシアン・エクスプロージョンだよな……聖闘士星矢の世界では、何の問題もない、うん」

 

 ははは、俺もついに原作世代の最強枠に追いついたか。(白目)

 

 お、追いついただけだから。

 まだ、平気。

 全然、兵器……じゃなくて、平気。

 

 でも、封印。

 絶対封印。

 

 だって、あれ……途中で投げ出したから、まだ全力じゃなかった。

 あれを全力で放つと……。

 

 想像し、ごくりと唾を飲み込む。

 

 俺の身体が、耐えられない。

 

 うん、封印だ。

 深く深く、封印。

 ダメ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼び出されたので、聖域に向かってます。

 

 な、なんの話か、見当もつかないや……。(目逸らし)

 

 地面には影が2つ。

 うん、昼間なのに明るく輝く星が見えるんだ。

 

 200年にひとつぐらいの割合で起こる、超新星爆発ってやつだな。

 一番古い記録は、2世紀の中国だったかな。

 

 そして、記録に残ってる超新星爆発の中で、最も明るいと推測されるのが、西暦1006年に観測されたものだったかな。

 うろ覚えだけど。

 

 いやあ、偶然って怖いよね。

 

 最初は俺のせいかと思っちゃったよ。

 ははは、ナイスタイミング。

 

 人間が、遠く離れた星を爆発させるなんて、出来るわけないじゃん。(震え声)

 光の速さで何百年とか、何万年とか、そういうレベルの距離だしね。

 自意識過剰も、いいところだぜまったく。

 ははは、12歳だけど、厨二病は卒業さ。

 

 絶対に、俺のせいじゃないって。

 

 

 

 

 教皇様が激おこだった。

 

 俺をじっと見つめ、何も言ってくれない。

 何も言ってくれないから、俺にはわからないなあ。(目逸らし)

 

「……スターヒルを知っているか?」

 

 スターヒル……?

 言葉通りに受け取れば、星の丘か。

 

「まあ、知らぬとも良い……ただ、昨夜お前がいた場所の南東の方角にあるとだけ教えておこうか」

 

 南東?

 南東って、海の……いや、ブラフだ。

 ポーカーフェイスで通そう、考える素振りもなしだ。

 

 教皇様が、笑った。

 俺の肩を掴んでぎりぎりと締め上げる。

 

「そこで、ちょうど夜空を見上げて星を見ていたのだ……ふふふ」

 

 やだ、教皇様が、怖い。

 

「……ちょっと目をやられてしまってな。ああ、心配はいらぬ……すぐに癒えるだろうよ。ふふ、命に比べればどうということもなかろう……」

 

 ぎりぎりと肩を締め上げたまま、教皇様が俺の身体を持ち上げた。

 

「……が、呼んでおられる、きなさい」

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュルツやイオニスを例に挙げるまでもなく、外見で年齢を判断するのは意味ないんだろうな。

 なので、ありのままを見ることにした。

 

 俺の前に、女神(アテナ)がいる。

 

 いや、正確には……人の世に、人の身体をもって降臨したこの時代のアテナの化身。

 

 

 

 君は、小宇宙を感じたことがあるか?

 この期に及んでも、俺はまだない。

 

 女神の化身の小宇宙ですら感じられない俺は、もうダメかもしれない。

 




ひとます、主人公の目に見えるチートは打ち止めです。(打ち止めとは言ってない)
そして、物語は少年期の終りへと向かいます。

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