アテナの化身が、神殿に降臨するのではなく、世界のどこかで人として……という独自設定です。
わりと、独自ではなかった模様。(目逸らし)
「……これ以上は、苦痛を長引かせるだけだと思います」
「そう……そうね」
ここ1年ほど、俺はほぼ毎日彼女の身体に『気』を送り続けていた。
治療ではなく、延命だ。
というか、女神の化身なのに、『気』とか流し込んでいいのだろうかと思ったのだが、本人に望まれたのだからいいんだろう。
しかし、ただ自分の死を迎え入れる……そんなイメージを持っていたので、少々意外だった。
死にたくないのか。
それとも、死ねない理由があるのか。
それももう、虚しい。
「迷惑を……かけたわ」
「他人に迷惑をかけずに生きていける人はいませんよ」
「……あなたって……本当に」
どこか、痛々しさを覚える微笑み。
「……シュルツのこと、ごめんなさい。止められなかった……」
「あれは、俺が、友に望まれたことですよ」
シュルツが逝って、5年。
今年、俺は18歳になる。
「そう……少し羨ましいわ」
人でありながら。
女神の化身として覚醒、あるいは降臨。
その境遇を思いやることはできても、理解はできない。
「……アデリー」
「……?」
「聖域に連れてこられる前……そう呼ばれていた女の子がいたわ」
「……」
「
そう言って、彼女は目を閉じた。
「ありがとう……それと、ごめんなさい」
聖域が深い悲しみに包まれたのは、その3日後だった。
俺は1人、彼女との約束を守って、アデリーという女性の死を悼んだ。
女神の化身が地上からいなくなろうとも、人の世の営みは続き、時は流れていく。
「アル」
「ああ、アイリス……昨日はすまなかったな」
「いえ、いいのよ」
初めて会ったときは、ぽんこつ臭が漂っていた彼女だが、数年に渡る受け継がれる想い(かわいがり)が彼女を大きく成長させた。
そして、女神の化身が地上を去ってから数年……彼女の精神的な成長が目覚しいように思う。
落ち着きはもちろん、どこか風格を漂わせるようになった。
黄金聖闘士といえば、真っ先に彼女の名を挙げられる現状、イオニスが言う『次代の教皇候補』という評価にふさわしい成長を遂げたとするべきだろう。
サガ枠としては、少し不満なのだが……原作世代は別格と考えるべきか。
ところで……ここ数年、従者のアリスを見かけないというか、会ってないんだけど。(震え声)
もしかして、双子座の運命が、デスティニっちゃったのか?
だとしたらもう、アリスは……。
触れるのが怖いので、触れない。
うん、人の心というのは、安易に触れるものじゃない。
人は誰でも、心の中に聖域を持っている。
そこに踏み込んでいいのは、それを許されたものだけだ。
アイリスから邪な気配は感じないので、大丈夫なはず。
たぶん、アリスは聖域からでて、幸せなキスをして、いい母親になったんだろう、きっと。
い、いざという時は、俺がこの手で……その覚悟さえあれば、うん。(震え声)
と、いかんいかん。
今日の本題は……。
視線を移す。
新しく黄金聖闘士となった、ミケーネ、だったな。
牡牛座の黄金聖闘士……うむ。
原作のアルデバランを思わせる巨漢で、精悍な顔つきをしている。
……不憫枠などと思った俺は悪くない。
強いと思うんだけどな、グレートホーン。
「アイリス様、何故黄金聖闘士たる私が、このような小宇宙の欠片も感じ取れぬ者に挨拶をせねばならぬのですか?」
うん、アイリス。
目を逸らさずに、ちゃんと見ろよ。
かつての、お前の姿だぞ。
受け継がれる、想い。(物理)
「ぐあああああああっ!!」
空を飛ぶ、ミケーネ。
うん、身体が大きいから迫力があるな。
「見込みはあると思うから、適度にやっちゃって」
いい笑顔で、アイリス。
そういえば、彼女を俺のところに連れてきたイオニスも笑ってたなあ。
まあ、年の功というか、もっと慎ましやかな感じに隠してたけど。
また、数年かけて……鍛え上げようか。
「アイリスも、久しぶりに飛ぶか?」
「……きょ、教皇様に仕事を命じられてるから」(目がバタフライ)
「相変わらず忙しそうだが、鍛錬を忘れるなよ。平和が壊れるのは一瞬だからな」
「ええ、最低でも瞑想は続けてるから……だから、その……また、食事でも一緒に……」
お、海から這い上がってきたか。
「く、油断した……だが、今度はそうはいかぬ、くらえっ、我が小宇宙を!」
おい、だからアイリス。
目をそらすなって。
いや、お前もあのまんまだったからな。
「この技を前に、よそ見などと!ピアッシング・クローッ!!」
……グレートホーンじゃなかったか。
やっぱり、技って受け継がれるものじゃないんだなあ……。
いや、黄金聖闘士を師匠にもち、その技を見て育てば……そうなるのか?
技というのは、イメージが重要だろう。
師匠の技のイメージに影響されるというのは十分にありえるか。
しかし、アイリスって……あの時点でも、優秀だったんだな。
「ば、馬鹿な……この、小宇宙も感じられぬ男が、黄金聖闘士の攻撃を受け止めるだと!?」
光に届かぬものが、黄金聖闘士を名乗るな。(おこ)
「ぐあああああああぁっ!!」
いけね。
いつもより余計に飛ばしちゃった。(汗)
ただ、空を飛ぶ
原作世代の黄金聖闘士が優秀なのは、周囲に優秀な人間が揃っていて、競い合ったせいじゃないかと。
ぽつり、ぽつりと、誕生する聖闘士は……ライバルというか、好敵手に恵まれないのかもしれない。
特に、黄金聖衣に選ばれるような存在は周囲からは浮くだろうし、師匠よりも上なんて状況になれば……子供なら有頂天になってもおかしくない、か。
自己を見つめることは大切だが、競い合う相手もまた、大切だろう。
あの原作みたいに大規模でやるのもどうかと思うけど、好敵手を得るためにはある程度の仲間の数が必要だろうか。
生きるということが綺麗ごとだけではすまない以上、人の数に応じたものが必要になってくる。
ああ、原作のあの財団って、そういう……。
でも、金が絡むと、面倒事が増えるからなあ。
そもそも、この時代、大航海時代ですら、遥か未来のことだし。
「……」
「アイリス?なんでさっきからずっと、そっぽ向いてるんだ?」
昔の自分の姿を見るようで、恥ずかしいのか?
それは、成長の証だと思うんだが。
シュルツが逝ってから、10年。
23歳の俺は、黄金聖闘士の小宇宙を輝かせる日々を生きている。
時の流れは残酷で……。
「聖衣に、『もう休め』って言われちまったよ」
この1年で急激に老いの道を歩み始めたテリオス師匠が、聖闘士を引退した。
以前からちょっと疑問だったので、尋ねてみたのだが。
「俺が生まれた年に、前々回の聖戦が起きたって聞いたなあ……」
まさかの長老格。(震え声)
イオニスよりも、教皇様よりも、はるかに年上じゃないですか、やだー。
聖闘士として、250年以上っすか……パネェ。
どうりでいろいろ詳しいわけだわ。
そういや、原作でも250歳とかいうレベルの黄金聖闘士がいたなあ……。
まあ、シュルツみたいに燃え尽きたいとか言い出さなくてほっとした。
ただ、師匠の命はしっかりして見えるから、そこそこ余生を過ごせるとは思う。
「……アテナがいなくなってから、平和すぎるんだよなあ」
「聖戦が迫ると、降臨する……と聞きましたが?」
師匠が、俺を見る。
「聖戦はな……ただ、アテナが地上からいなくなると、わりと邪悪との戦いは激しくなる。世界のあちこちで、いろんなものが眠りから覚めたり……な」
黄金聖闘士ではなく、世界各地を飛びまわる白銀聖闘士や青銅聖闘士なんかの視点だとそうなるのか。
女神の化身が地上にいるかいないかで、そういう影響が出てくるのだとすると……。
「……そういえば、俺って邪悪扱いでしたね、師匠」
「最近、物忘れがひどくなってなあ……」
「……役に立てるかどうかわかりませんが、俺も世界を回ってみます」
「ああ、見たものを色々と教えてくれ」
シュルツが逝って15年。
師匠が、聖闘士を引退し、俺は世界を回り始めた。
なお、師匠の言う『世界』と俺の考える『世界』は、広さが異なっていた模様。
普通、聖闘士は空を走ることができないらしい……。
……優しくもある。
やべえ、これってじゃがいもの原種だ。(震え声)
歴史が変わるぞ、おい……。
でも、悪くなる可能性も大いにある……か。
短期的な有用性に目がくらんで爆発的に広がると、栽培知識の普及が追いつかなくなって……地獄の飢饉が起こるのは目に見えている。
で、でも……これがあれば、聖闘士候補の数を確保できて、競い合うという場が。
偽善かもしれないけど、親を亡くした子供たちを保護することも……全部ではないけど、支える力は確実に増える。
せ、聖域周辺だけで……とにかく、連作だけは絶対にするなと戒めれば……いやでも、じゃがいも栽培と一番相性がいいのが農業革命後の方式なんだよなあ。
でも、それをやるには時代が追いついていないというか、じゃがいもそのものが、厄ネタになりかねん。
教皇様に頼んで、丸投げの方向で。
そもそも気候風土の違う場所の植物だから、適した栽培法の確立まで最低でも10年、20年の時間が必要だろう。
ひとりでなんでも背負うなんて、傲慢だよな、うん。(目逸らし)
教皇様は、人を使うことに慣れてるし。
適材適所ってやつだ、うん。
師匠が聖闘士を引退した年、世界はじゃがいもの存在を知った。(白目)
そして俺は、30代が近づいてきたが……ここ数年、外見の変化がなくなったような気がする。
まあ、イオニスも100歳を軽く超えているのに、外見は20歳ぐらいにしか見えないから、外見はあんまりあてにはならない。
あてにはならないのに、なぜかアイリスが気にしている。
また、美味いメシでも作ってやろうと思う。
ある日。
教皇様に呼び出されて、聖域へと赴いた。
なんだろう、スニオン岬の岩牢に入れられるようなことは……多分、してないと思うが。
正直、あそこはもう、罰にも訓練にもならないんだよなあ。
何回かアイリスも閉じ込めてみたけど、イオニスと違って、効果はなかったし。
ミケーネは、少しだけ小宇宙が成長したとか言ってたが、最初だけだった。
そんなことを考えながら、教皇の間に。
……何があった?
教皇様は当然だが、現在の黄金聖闘士が5人、勢揃いだ。
イオニス、アイリス、そしてミケーネの3人。
そして、先の聖戦が終わったあと、シュルツが存命中に黄金聖闘士に選ばれた2人。
ちなみに、射手座のクラウスと、山羊座のニルス……正直、これが2回目なんだよなあ、顔を合わせるのって。
俺とはほとんど関わりがない2人だが、シュルツとイオニスがかわいがった枠らしいので、黄金聖闘士として問題ないと思いたい。
ただ……アイリスやミケーネの事を考えると、この時代の黄金聖闘士は聖衣に選ばれてからが本番なのかもしれない。
聖戦というか、戦争は、勝った方も負けた方も、深い傷あとを残す。
そして、この時代は、聖戦から50年ほど経ってようやく聖戦の傷あとが癒えてきた……そんな過渡期にあるわけだ。
原作でも、聖戦を生き残った聖闘士は、教皇になったシオンと、老師の2人しかいなかったとか、そんな感じだったはず。
それはつまり、聖戦が終わったあとは、そもそも聖闘士候補を育てる人材が払底して、育成システムとかがボロボロになってるってことだろう。
聖戦直後の聖闘士候補と、次の聖戦間近の聖闘士候補では、当然差が生まれてくるはずだ。
聖戦から250年近く経過した原作世代と、今の時代の状況が違う以上、あのドリームメンバーと一緒に考えてはいけないと思う。
まあ、アイリスはサガ枠としてともかく、イイ線まで成長したと思うんだが。
「ふむ、みんな揃ったな」
教皇様が口を開く。
その内容は……。
女神の化身が、地上に現れたというものだった。
「……星の動きと、かすかに感じる女神の気配から間違いはないと思う。だが、どこにおられるのかまではわからない」
イオニスとアイリスは、緊張した表情、ミケーネと2人の黄金聖闘士は純粋に喜びの表情で、教皇の言葉を受け入れていたように思う。
『女神が降臨するとき、聖戦あり』ということを分かっていてなお、女神の化身が地上にあるということが心の支えとなる……その反応を責める気にはなれない。
今代の女神も、覚醒するまでは人として生きていくことになるのだろうか。
「教皇、これは聖戦が近いということを示しているのか?」
「わからん。聖戦なき時代に降臨された例もあるが……」
イオニスの問いに教皇様が答え、一旦言葉を切った。
そして、なぜか俺を見る。
「聖闘士は、女神を守る戦士……女神が降臨するとき、聖衣に選ばれる聖闘士もまたその数が増えるはずだが……」
黄金聖闘士はもちろん、青銅聖闘士、白銀聖闘士、ともにその数がいきなり増えるような気配はない。
むろん、俺に聞くまでもなく、教皇様はそれを知っているはずだ。
「師匠……テリオスが言っていた。女神が地上からいなくなると、世界各地での邪悪との戦いが増えると」
俺がそう言うと、興味深げな視線を寄せられた。
「ただ、女神が地上を去ってから……『平和すぎる』と」
「……ふむ、テリオスがそう言ったか」
教皇様が考え込む。
イレギュラーは、いつも人を惑わせるからなあ。
こういう時は、悪い予想をすれば大抵外れない……たとえば『来るべき日に向けて、各地の邪悪が力を溜めている』とかな。(白目)
ははは、その各地の邪悪を率いる親玉は一体誰なんだ。(棒)
フラグ回収早すぎませんかね、我が女神様。
永久を生きる神様なんだから、千年とか万年の単位で回収してくださいよ、マジで。
あ、でも。
古の神の侵略だったら、冥王や海皇もタッグを組んで、防衛に協力してくれるかも。(震え声)
……そんな甘くないだろうな。
女神の化身は、未だ覚醒せず。
聖闘士の数は、半分にみたず。
挙句の果てに、小宇宙を封じられる戦いを強いられるんですね、わかります。(白目)
そうか。
俺は、このためにこの世界に生まれたんだなあ。(自己暗示中)
よし。
とりあえず、これより最悪な展開はいまのところ思いつかないわ。
だが、現実ってやつはいつだって想像の斜め下をぶっ飛んでいくからな。
覚悟だけは決めとかないと。
「女神の探索は行うとして……イオニスを除けば、みな聖戦を知らない黄金聖闘士ばかり。ここはひとつ、いざということを想定して、気を引き締めるべきか」
そう言って、教皇様が俺を見た。
その表情で分かってしまう。
教皇様も、想いを受け継いで育ってきたんですね。(慈しむ目)
『いくらなんでも、4対1とは……我らを甘く見るにも程がある』
『シュルツ殿が認めていたとは言え、心外だな』
『……ミケーネ、あなた自分が10人いたとして、勝てると思う?』
『ははは、アイリス様。全力でぶつかって、ただ飛べばいいんです……ええ、それで終わりですよ』
……この温度差よ。(震え声)
なぜだ。
俺は、シュルツやイオニスがやったのと同じようにかわいがったはずだが、何故俺が面倒を見た2人と、シュルツとイオニスが面倒を見た2人とで、こんなに差が。
ふと、前世で読んだスポーツ漫画を思い出した。
先輩のかわいがりを、後輩へと引き継ぐ際に……手加減をしたつもりが、自分たちと同じぐらいでかわいがったはずが、なぜか少しレベルがあがっているというお話。
それはつまり、かわいがられた後輩は……より心を込めて自分の後輩をかわいがってしまうということだろう。
……受け継がれていく想いに、自分たちの想いをのせて。
こうして、想いは重みを増していくんだな。
人の心というのは、尊く、美しい。(目逸らし)
まあ、黄金聖闘士が連携を考えるというのは悪くないはずだ。
しかし、4対1か。
最初は不慣れだろうが……4人が連携になれれば、俺も、久しぶりにブレーキを解除できるかな。
「「アル」」
教皇様と、イオニスに声をかけられた。
「「結界に負担を与えない程度に頼む」」
あ、はい。
仕方ない。
『魔力』はブレーキのまま、『身体能力弱化』で様子を見るか。
時折緩めたりはするけど……シュルツが逝ってから、常に戦場に在り、の心構えで生きてきたつもりだ。
そう思ったら、戦いを意識していちいちチャクラを開くとか、気を練るとかいうのは甘えだと気づいた。
そしてたどり着いたのが、常に全力に近い形で維持して、それを魔力でブレーキをかけるというスタイル。
これなら、最悪のケースでも、魔力を切ればトップギアに入れる。
『魔力』と『心力』がなじまない以上、その2つの切り替えは必須で……だとすると、『気』と『チャクラ』は常にスタンバイしておくのがベターだろう。
そうして『気』と『チャクラ』に負荷をかけ続けて15年ほど。
……負荷をかけるって、大切だよね。(震え声)
努力をきっちり受け止めてくれる俺のチートは、本気でチートだと思う。
さて。
わりと、無防備な姿を晒していたつもりだったんだが。
……不意打ちを仕掛けても来ないし、こっちからいくか。
「アル、次は多少達成感を与えてやってくれ」
あ、はい。
さすが教皇様、注文が細かい。
その前に、回復させないと。
「もう、何も怖くない……」
「まだだ、まだ飛べますよ……」
「「……」」
うん、やっぱりアイリスとミケーネはまだ余裕があるな。
俺は間違ってなかった。(確信)
クラウスとニルスは……ちょっと、OHANASHIが必要かも知れない。
嵐の予感を感じながら、数年の時が過ぎて……。
女神の化身が、未だ覚醒しないまま発見され、聖域に保護された。
女神の化身が聖域に入る……おそらくこれが、引き金になるんだろう。
俺は、わけもなくそう思った。
女神の化身を保護って……誘拐を連想してしまう私。
そして、家のどこかにあるはずの原作コミックスを探してたら、モ〇モテ王国のコミックスが出てきた。
地味に、腹筋にダメージ。