君は小宇宙を感じたことがあるか?俺はない。   作:高任斎

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女神の化身ちゃん。(推定5歳)



8:よそ者だもの……そして、強襲。

 現実ってやつは、いつだって最悪の予想の斜め下をぶっ飛んでいく。

 

 それをわかっていたはずなのに。

 少し考えれば、予想できたことのはずなのに……。

 

 俺は自分の迂闊さを呪った。

 

 

 

 聖域に保護された女神の化身ちゃん(推定5歳)が、俺を見て泣き叫びます。(白目)

 近くに寄るだけで、めっちゃ怯えて、泣き叫びます。(白目)

 

 

 

 この世に生きとし生けるものにある小宇宙の存在っていうのは、女神アテナをはじめとした、神々の支配下というか、子供のようなものの証なんだろう。

 だからあの時、我が女神様は『子供の一人なのです、それを忘れないで』と言ってくれたわけだ……おそらく、だけどな。

 

 さて、ここであらためて俺という存在に注目だ。

 小宇宙が感じられず、そしてそれなりに力のある存在は、邪悪扱いなわけだ。

 

 基本、聖闘士って俺の強さを物理でしか感じられないみたいなんだが、女神の化身ともなると……その、邪悪の力みたいなものも感じられるのかなあと……まあ、結局は本人に確認しなけりゃわからないけど。

 ただ、俺が近づくだけで怯え、泣き叫ぶ幼児(俺の姿は目に入っていない)の姿を見ると……そういうものかなあと納得するしかない。

 

 その前提で考えると、女神の化身として覚醒していないただの幼児が、身近に邪神レベル(?)の存在を感じたらどうなるか?

 

 そら、泣き叫ぶわ。(白目)

 

 ははは、なんだ、この状況は。

 俺にどうしろというのだ。

 どうすればいいというのだ。

 

 マイゴッデスよ、寝ているのですか(神も仏もいないのか)!?

 

 寝ている(目覚めてない)んだよなあ、チクショウ!

 

 いや、子供は泣いて寝るのが仕事だ。

 大人として、子供の成長を妨げるような真似は慎むべきだ。

 

 さすがに、黄金聖闘士と違って、泣き叫ぶということは余裕がある証拠だな、なんて考えてはいない。

 

 

 ……一般人の子供や幼児は、俺を見ても平気よ、念のため。(震え声)

 

 

 

 

 まあ、邪悪云々はともかく。

 親しみのない『よくわからない大きな力』を感じるだけでも、子供としてはかなりのストレスだろう。

 本能的な恐怖とでも言えばいいのか……。

 

 ……というわけで。

 真実がどこにあるかわからないけど、俺が聖域に一歩でも足を踏みいれたら、今代の女神の化身ちゃん(推定5歳)が、火が付いたように泣き叫ぶんだ。

 

 はは、おまわりさん、私です。(白目)

 

 

 

 ……あれ?

 

 俺の存在が邪悪扱いだとしたら、聖域の結界って、俺に対して作用してないの?

 先代の、我が女神様が、どうにかしてくれたんだろうか?

 

 まあ、今はいいか。

 

 

 しかし、困ったな。

 聖域に近づけないとなると、いざという時に困った状況になる。

 

 

 

 

「アイリス。俺とお前の間で、意思をやり取りする手段を編み出したいんだが、協力してくれ」

「え……え、ええ!?」

「いや、聖闘士同士だと、小宇宙を用いて、遠距離での会話っぽいものができるだろ?でも、俺はそれができないわけだ……聖域を離れた俺と、聖域を守るお前との間で、情報をやり取りできる手段が欲しい」

 

 アイリスが、俺を見る。

 

「つまり、好きな時に会話ができる、と?」

「まあ、そういう感じ……この状況は想定してなかったから、後手に回った感は否めないが」

「教皇様でもなく、イオニス様でもなく、私と、なのね?」

「お、おう……」

 

 まあ、アイリスなら気軽に話せるというのもあるが、双子座の黄金聖闘士といえば、あの技。

 あれを利用すれば、という考えがあった。

 たぶん、いける。

 いけるはず。

 

 え、できないなら、覚えさせるよ。

 結界を作れるんだから、それを応用すればどうにかなるはず。

 

 

 説明中。

 

 

 飛行中。

 

 

 模索中。

 

 

 実験中。

 

 

 検証中。

 

 

 

『魔力』って便利、超便利。

 

 なんとなく、前世の記憶の都市伝説が頭をよぎったが気にしない。

 いつの間にか30歳超えてたけど気にしない。

 

 そしてアイリス。

 さすが双子座の黄金聖闘士。

 さすがサガ枠。

 

 簡単に原理を説明すると。

 アイリスが、なんちゃってアナザーディメンション(笑)で、2人の間に限定した極小の空間をつなぎます。

 そして俺が、『魔力』でその空間の維持を補助しつつ、空気の振動……つまり音を伝えます。

 

 ひどく贅沢な糸電話というか、小宇宙と魔力のゴリ押しともいうか。

 

 ただ、いざつなぐときはアイリスと俺がそばにいないとダメだし、俺からはつなげないため、常時つなぎっぱなしにせざるを得ないのが、ネックといえばネック。

 それを維持する俺の『魔力』の負担は、まあそれほどでもない。

 ただ、アイリスの方は……それなりの集中を強いられるらしく、その状態でいざ戦闘となると厳しいようだ。

 まあ、無理は言うまい。

 

 というか、アナザーディメンション(偽)ってものすごい便利ツールじゃないの?

 いざという時、女神の化身ちゃんの緊急避難とか、隔離とか……銀河を爆殺する技より、応用が利きそう。

 

 

 

 

 

 

 

 聖域を遠く離れて、俺は空を駆けている。

 

 黄金聖闘士は、基本ひきこもりだ。

 そして、青銅聖闘士や白銀聖闘士は、短距離ならともかく、太平洋や大西洋みたいな長距離は自力では越えられないっぽい。

 まあ、俺の考える『世界』と聖闘士たちの考える『世界』の認識に、誤差があったのはそのあたりが原因か。

 

 テリオス師匠。

 世界は、あんまり平和じゃなかったです。

 いや、女神の化身ちゃんが地上に現れてからの変化かもしれないけど。

 

 小宇宙を感じられない俺には、何が邪悪で、何が邪悪ではないのかわからない。

 とりあえず、人の生活を脅かす存在……という判断基準で、それらを排除して回っている。

 

『アル、今はどこで何をしてるの?』

『んー、に……じゃなくて、やまとの国っていうのかなあ?とにかく、すっごい東の、小さな島国で、鬼とか妖怪とか退治してます』

『鬼?妖怪?』

 

 ところでアイリス。

 ものすごい頻度で話しかけてくるのはやめてください。

 

 黄金聖闘士が孤独な状況なのはわかるから、強くは言えないが。

 

 でもまあ、俺もメールの使い方を覚えたとき、こんな感じになったなあ……と、思い直す。

 話し相手がいるのも、悪くはない。

 

 

 

 しかし……俺は、無力だな。

 

 鬼や妖怪を倒したところで、人の生活が良くなるってわけじゃない。

 助かる命を救うこともできる、が。

 でもそれは、苦しみを長引かせるだけになることもあるだろう。

 

 飢えて苦しむ人々に、俺ができることは……ない。

 それでも、こうして拝んでくれる人がいる。

 礼を言ってくれる人がいる。

 明日を信じる、人がいる。

 

 うん……ここ、水が出るな。

 水量も十分。

 井戸を掘る……俺に出来るのはこのぐらいだ。

 

 ただの自己満足。

 しかし、それでも……救われる人がいる。

 そう、信じたい。

 

 

 そして俺は、また空を駆けていく。

 

 あの……海の怪物って、ポセイドンの管轄じゃないんですか?

 まあ、世界観が違うけど。

 世界感(誤字にあらず)が違うけどな!

 

 俺を通せんぼしようとした海坊主を、『滅っ!』しておく。

 

 

 

 

 

『ねえ、アル……』

『南の方の大きな大陸で、なんというか、光る蛇をこらしめてるとこ』

 

 蛇とか龍って、水害の象徴だと思ってたが。

 こいつ、水を操って攻撃してくるよ。

 

 この世界は、不思議な生き物がいっぱいだな。(白目)

 

 しかし、こいつって倒していいのか?

 退治したら、あとでこの近辺が水不足に苦しむなんてことにならない?

 

 とりあえず、『滅っ!』ですませておく。

 討ち滅ぼすのではなく、封印処理される理由は、このあたりにあるのかもしれない。

 

 念のため、井戸を掘っておく。

 水は、命の象徴だ。

 

 

 空を、駆ける。

 駆けていく。

 

 アンデスの山脈では、人や動物を手当たり次第に食い殺す鳥の化物を退治した。

 

 ロッキーの山脈では、正気を失っているとしか思えないグリズリーの化物を退治した。

 

 大西洋の真ん中で、歌声を響かせる精霊を……いや、こんな場所で何をしてるのよ?

 え、聖闘士に地中海を追い出された?

 歌うのが好きなだけで、他意はない、と。

 

 ああ、うん。

 どうしよう。

 こういうのが一番困る。

 

 とりあえず、途中で見かけた海の真ん中の無人島を紹介しておいた。

 

 

 

 

 

 さて、次は欧州かアフリカを……っ!?

 

 全身の毛が逆立った気がした。

 汗が噴き出す。

 

 聖域にいるアイリスに向かって叫ぶ。

 

『アイリス!』

『え、えっ、なに?』

 

 馬鹿な、感じないのか?

 感じてないのか?

 

 いや、違う。

 

 俺は、小宇宙を感じない。

 そして、聖闘士は、俺を……俺の力を、感じない。

 

 その俺が、遠く離れていて、なお、感じてしまう、気配。

 それはつまり。

 考えろ、最悪のケースを。

 

『アイリス!女神のもとへ急げ!』

『……どういうこと?』

 

『俺が、全身に冷や汗をかくような気配が、突然、現れた。なんの前触れもなく、突然だ』

『でも……いえ、わかったわ』

 

 12宮を順番に登っていかないと、女神の化身ちゃんのところへはたどり着けない。

 それを盲信して裏切られたとき、最悪の事が起きかねない。

 

 俺はよそ者だ。

 ああ、俺はよそ者だ。

 だから、この世界の感覚とはずれている。

 

 今俺が感じたこの気配が、よそ者のものだとすれば。

 この世界にとってのよそ者が、この世界にどうやって訪れる?

 討ち滅ぼされるのではなく。

 この世界から追い払われたものは、この世界から別の場所へ行く手段を持っていたはずだ。

 それはきっと。

 

『戻ってくる』ことだってできるのではないのか。

 

 

 俺は、上空に向かって駆けた。

 速度を上げるために。

 低空で速度を上げると、影響が大きすぎることを懸念したから。

 

 遠回りの道こそが近道だと信じて。

 俺は。

 飛んだ。

 

 聖域の、女神の化身ちゃんのもとへ。

 

 

 

 

 ギリシャが近づく。

 聖域が近づく。

 聖域はまだだ。

 なのに。

 

 俺の耳に、アイリスとの回線を通じて……女神の化身ちゃんが泣き叫ぶ声が、聞こえてきた。

 

 頼む、アイリス。

 

 唇を噛み締めながら聖域へ。

 12宮を、駆け上がっていく。

 

 今は空席だらけの12宮。

 その2つめ、牡牛座のミケーネとすれ違う。

 

「えっ、アルさん!?」

「後だ!」

 

 地を強く蹴る……あっ。

 

「ちょっ、アルさ!?ああああっ!!」

 

 

 め、女神の化身ちゃんが泣いている。

 つまり、アイリスも無事ってことだよな。

 信じるぞ。

 

 なにか崩れたような音は聞こえなかった、いいね?

 

 

 

 イオニスは、何も聞かずに俺に遅れて付いてきた。

 さすがだ。

 

 

 クラウスとニルスの嘆きは聞こえない。

 女神の化身ちゃんの泣き叫ぶ声以外は聞こえない。

 聞こえないったら聞こえない。

 

 

 その、泣き叫ぶ声が途絶えた。

 それは。

 アイリスとの、回路が、消えた。

 

 心が締め付けられる。

 走る。

 駆け上がる。

 

 教皇の間に飛び込んだ。

 

 教皇様っ……息はある。

 簡単に、でも一気に気を流し込んで手当。

 あとはイオニスに任せよう。

 

 ……ついてきてるはず。

 

 

 気配が巨大すぎて距離感が不明だったが、さすがにもうわかる。

 この先にいる。

 すぐそこにいる。

 

 そして。

 俺の目に飛び込んできたのは……。

 

 

 巨大な気配を放つ、人の形をしながら、明らかに別なもの。

 

 そして、膝をつき、血を流すアイリスの姿。

 

「アイリスッ!」

 

 俺の声を聞くと……アイリスは、そのまま倒れこんだ。

 同時に、俺のそばに女の子が放り出されてくる。

 

 ああ、アナザーディメンションで隔離……してたのか。

 守って、くれたのか。

 

 女神の化身ちゃんを腕に抱いたまま、アイリスに駆け寄り、身体を掴んで後ろに跳ぶ。

 

 それは、動かない。

 巨大な気配を振りまきながら、こちらを見ることもなく、動かない。

 

 何が狙いか、目的か……見逃すというなら、治療させてもらおう。

 

 左手でアイリスを抱き、右手で、文字通り手当てを行う。

 治療を始めてすぐに、アイリスの目が開く。

 

「ごめんなさい、アル……あなたの言葉を疑った罰ね、これは……」

「いや……すまない」

 

 ハンデを背負わせたまま、戦わせてしまった。

 あれだけの、気配を放つものと。

 

 というか、死なないからな。

 死なせないからな。

 ひどいケガで、血も流れてるけど、大丈夫だからな。

 

 女神の化身ちゃんは、俺のそばに。

 泣き叫んだりせずに、じっと俺のやることを見ていた。

 ああ、初めてのコミュニケーションができそう。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

「……アテナ」

 

 首を振り、もう一度尋ねた。

 

「呼んで欲しい、名前はないのかな?」

 

 俺を見つめ、困ったようにつぶやく。

 

「……いいの?」

 

 ああ、やっぱりか。

 聖域で保護して、『アテナ様』の連呼か。

 

 そんなのは、実際に目覚めてからでいいじゃないか。

 子供なんだから。

 

 小さく頷いてやると、女神の化身ちゃんが……囁くように、言った。

 

「……アニエス」

「そうか……アニエス、よく頑張ったな」

 

 女神の化身ちゃんが……アニエスとして泣いた。

 うん。

 

 うん?

 アイリスが、グイグイ袖を引っ張ってアピールしてくるので褒めておく。

 

「アイリスも、よく頑張った……ありがとう。そして、すまなかった」

 

 仮面をつけていてなお、笑っているのが分かる。

 

 ……余裕あるじゃねえかよ。

 

 

 それで、だ。

 

 視線を、向けた。

 

 アイリスを傷つけ、アニエスを泣かせたな?(心の棚増築中)

 

 とりあえず、こちらを攻撃せず悠然と構えているそのラスボスムーブには感謝しておくけどな。

 いったい、何が目的だ?

 いきなりの聖域強襲とくれば、当然女神の化身というか、本命狙いだと思ったが。

 

 俺の身体にしがみつき、泣いているアニエスを見る。

 

 ……目覚めてないから気づかない、なんてことがあるのだろうか?

 なら、むしろ本命はアニエスではなく、この場所?

 

 聖域の中の、このアテナ神殿……?

 うん、まあ考えても意味はないか。

 

 情報不足の、推測まみれになるのがオチだな。

 

 

「もう、大丈夫よ……アル」

 

 アイリスの強がりを信じて、アニエスを任せる。

 

 ……アニエスを任せようとした。

 

 いや、アニエス?

 なんでいやいやするのかな?

 

 少し心が痛んだが、引き剥がすようにして、アニエスをアイリスに任せた。

 

 

 さて、あとはコイツを……どうにか、できるかなあ?

 こっちに興味がないっぽいけど、アイリスの治療を待ってくれたとも言えるし、いきなり攻撃するのはちょっと気がひける。 

 

 いや、アイリス。

 アニエスを連れてここから離れてくれないと、こいつとドンパチできないんだけど。

 

 そう言おうと思ったら イオニスが、教皇様が、やってきた。

 教皇様も、うん、大丈夫みたいだな。

 

 うん?

 アイリスも、教皇様も、致命傷ではなかった……。

 時間の余裕はあった、はずだ。

 

 やっぱり、この場所が目的か?

 

「アル……たぶん、相手にされてないと思う」

「というと?」

「邪魔だから追い払った……そんな認識よ、きっと」

 

 教皇様を見ると、頷かれた。

 

 しかし、これだけの気配を前に、みんな平然として……。

 あ、逆なのか。

 俺だけが、あの存在にプレッシャーを感じている。

 

 みんなは、何も感じていない。

 そういうことか。

 

 

 唐突に。

 こちらに視線を向けられた。

 

 人型の巨大な気配。

 密度が違う、そんなイメージが浮かぶ。

 

「死にたくなければ、去れ」

 

 淡々とした口調。

 警告とは思えなかった。

 

 

 ……うん?

 

 違和感。

 それが、広がっていく。

 包むように……。

 

 周囲を、妙な気配がゆっくりと包み込んで……。

 

「アイリスッ!」

 

 予感を信じて、アイリスを女神の化身ちゃんごと神殿の外に向かってぶん投げた。

 そして、イオニスと教皇様をぶん投げる。

 

 ……教皇様の姿が神殿の外に消えた瞬間、視界が一変した。

 

 懐かしい感覚だ。

 いや、少し違うか。

 慣れ親しんだ、スニオン岬の岩牢とは違う。

 それでも、同質の何かを感じた。

 

 世界から、切り離された……そんな感覚。

 

『気』と『プラーナ』を確かめた。

 世界とつながれない、それを前提にして……全てを、自分の中で完結させる。

 

 岩牢もそうだったが、これはより徹底されている感じがする。

 

 世界の中に、小さな世界が無数にあるように。

 世界の中に、理の異なる小さな世界を構築した……そんな感じか。

 イメージとしては、やはり結界が近い。

 

 同じ世界の中の、別の世界。

 世界とつながることを拒絶した、小さな世界。

 

 おそらくは、小宇宙(コスモ)の力というか、存在を理から排除した世界。

 

 ただ、これは……おい。

 小さな世界が……広がっていくのを感じる。

 

 前世の記憶を総動員。

 それっぽい知識を、かき集める。

 

 教皇様を殺すよりも、アイリスを殺すよりも、女神の化身をどうこうするよりも、優先する行為。

 むしろ、どうでもいい。

 この場所をおさえに来た。

 

 聖域。

 世界の中心、源。

 そこを、切り替える、穢す、支配する。

 

 聖域を。

 アテナの神域を。

 小宇宙の存在を理から排除した世界へとおいた。

 

 こんなとこか。

 

 もっと想像を。

 推測を。

 最悪を予想。

 

 たぶん、聖域が、神域が穢された。

 世界を、穢す行為。

 

 

 身体が震えた。 

 

 小宇宙を排除する理の世界が、広がっているってことは……。

 

 世界を作り変える準備。

 文字通りの侵略。

 もしかすると、神話の創世記にあたる瞬間。

 

 人型の、モノを見つめた。

 

 こいつを、どうにかする。

 そうすれば、なんとかなる。

 

 いや、なんとかしなければ……。

 

「……まだいたのか?去れといっても、いまさら遅いが……」

 

 推測とハッタリ、俺のひとりごと。

 反応するキーワードはあるか?

 

「侵略しに来たのか?それとも、取り戻しに来たのか?」

「……ここはもともと、我々の聖地であり、故郷」

 

 その言葉ににじみ出る、感情らしきもの。

 

「もっとも……忌々しい連中の侵略で、仲間は滅ぼされ、この故郷もおぞましく変貌させられたがな。あるべき姿に戻す、それだけだ……ただ、邪魔をさせぬように細工はしたがな」

 

 わりと理性的。

 でも、相容れない。

 

 それがはっきりとわかった。

 

「それで、貴様はなんだ?あの忌々しい連中に与する者とは毛色が違うようだが?」

「……俺は、よそ者だよ」

 

 そう言いつつ、胸に。

 

『子供の一人なのです、忘れないで』

 

 我が女神様の言葉を。

 

 

 

 無意識に。

 ある歌を口ずさみ始めていた。

 

 あの歌だ。

 あの主題歌だ。

 

 ははっ。

 燃えるぜ。

 

「よう」

 

 あらためて、問いかける。

 

「お前は、小宇宙を感じたことがあるか?」

「小宇宙だと……あの忌々しい奴らが使う力のことか?ふふっ、時間はかかるが、そんな力は消えてなくなる。我らの故郷が、我らのもとへと還るのだ」

 

「そうか……お前は、感じたことがあるのか」

 

 そうか。

 お前も、感じることはできるのか。

 

 笑う。

 笑うしかない。

 

「俺は、感じたことが、ない」

 

 だから、俺は歌を口ずさむ。

 

 小宇宙はなくても。

 少年の日は遠くなっても。

 

 あの時俺を、そして、村を助けてくれたチートボディ。

 世界を知った、教えてくれた『気』の力。

 人の身体を知った『チャクラ』から生み出される『プラーナ』の力。

 説明しづらい、『魔力』。(目逸らし)

 そして、この世界に生まれ、生きてきた証の、『心力』。(お休み中)

 

 これが、俺の聖衣。

 

 そして、これが俺の聖戦だ。

 

 さあ、やろうか……。

 ブレーキを、アクセルに切り替えて、な。

 




アル、30歳を超えて魔法使いに。(意味深)

主題歌は、みんなの心の中だけでお願いね。(震え声)

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