つまり学園祭の時と行き先は大体同じってことです。
パコーンパコーンとボールを打ち合う音がする。ここはテニスコート、セシリアとラウラが絶賛対戦中である。
「なかなか!お上手ですわねッ!」
「貴様もッ!言うだけのことはある!」
セシリアがラインギリギリを攻めれば、ラウラも同じように応える。かと思えば流れるようにネット際の攻防へ。
男子特有のパワーショットの応酬ではなく、技術と技術のぶつかり合い。それもかなりの高レベル。
「セシリアがこれほどやるとは…」
「僕もラウラがこんなに上手いなんて思わなかったよ」
セシリアが上手いのは知ってたけど、まさかラウラが張り合えるとは思ってもいなかった。
「このままではッ!キリがないですわね!」
「まったくだ」
会話を交わしながらもラリーを続ける二人。一体なにが二人をそこまで駆り立てるのだろうか。
気が付けばテニス部の部員だけでなく、近くを通りがかった生徒達も集まって観戦している。
しかし辺りに響き渡るのはボールの音のみ。ギャラリー達はそのボールの行方を固唾をのんで見守っている。
「ですが!」
「だが!」
「「勝つのは…」」
「「私だ(です)!」」
なに?この熱血テニスアニメ。
――――――
「いやなに、テニスというのも存外悪くはなかったな」
「お気に召されたようでなによりですわ」
試合も終わり、談笑する二人。割れんばかりの拍手に包まれ握手をした二人の間には新たな友情が芽生えたようだ。
「ですが、まさかネットが切れるとは思ってもいませんでしたわ」
「まったくだ。いいところだったというのに」
「なんでボールが直撃しただけで針金が真っ二つになるんだ…」
「さっき謝ってきた時に聞いたんだけど、あのネットほぼ新品だったらしいよ…」
どこの世界に打球で竜巻をおこすお嬢様がいるんだ。みんな雰囲気で拍手してたけどその実顔が引きつって…やめておこう。セシリアがこっちに来る。
「申し訳ありません一夏さん。せっかくの機会でしたのにお相手することができませんでした」
「いや、俺は見てるだけで充分だったぜ?二人とも上手いんだな」
「一夏さんったら、お上手ですこと」
「うむ!もっと誉めてよいのだぞ?嫁よ」
「二人ともすごかったぜ!なあ箒、シャル!」
「あ、ああ…」
「そうだね一夏。ところでさ」
「ん?」
「テニス部、入部するの?」
全力でお断りさせていただきます。
――――――
「なあシャル、料理部に行かなくてよかったのか?」
「うん。一夏は教える側になっちゃうだろうから、あんまり部活って感じしないでしょ?」
「部活らしいとかよくわからないけど、俺は別に構わないぜ?」
「それか毎回一夏が料理をつくってみんなで食べる部になっちゃうかも」
「それ大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないから言ってるんでしょ」
シャル、なんてできた子なんだ…。お父さん感激だよ。
「それでいつもの面子で茶道部に来た、というわけか」
「はっ!よろしくお願いします、教か…織斑先生!」
「ククッ、いいだろう。ボーデヴィッヒ、案内してやれ」
ラウラが織斑先生と呼んだのが面白かったのか、千冬姉が笑みをもらしている。珍しい。
「さて、体験ということだったな。お前らもやるか?」
「私達も、ですか?」
「いいんですか?」
「構わんぞ。オルコットはどうする?」
「わ、私は遠慮しておきますわ…」
青くなって言うセシリア。そういえば正座がダメだったんだっけ。
「そう言うな。正座ができない奴用の椅子くらいある」
「ほ、本当ですの?」
「私をなんだと思っている。ほら、足を折ってここに座れ」
「先に足を使い物にならなくしろと!?」
「お前はバカか?足を折りたためと言っているんだ」
「あ、ああそういうことですのね…てっきり足の神経が生きていなければ痛みも感じないとかいうことかと」
「ほう?お望み通り、つけ根から抉ってやろうか?」
「じ、じじじじじ、じゃじょ冗談ですわ!」
あまりの殺気にセシリア…と周りの三人が泣き出しそうになっている。正直俺も漏れそう。
「…さて、織斑は前にやったから知っているだろうが、体験だから難しいことはやらん。ラウラ!」
「はっ!」
黒子よろしく俺たちの前に茶碗を並べるラウラ。心なしか手が震えている気がする。
「茶をたてろ。飲め。そして帰れ」
「は、はあ」
「気に入ったなら入部しろ。そこに入部届がある」
「この流れでどう気に入れと!?」
「なにか言ったかァ?ン?織斑?」
「みんなこのお茶旨そうだな!」
お前らそんな目で見るな。千冬姉が軽くキレている以上俺にはどうすることもできないんだ。
「結構なお咎めで」
「一夏、そこは御点前だ」
「織斑、頭は正常か?叩いて直してやろうか?」
俺は昭和の家電じゃねえ。そしてお前ら!今のでは別に千冬姉の機嫌は損ねてないからそんな目で見るなって!
「…む」
「…まあ!」
「わあ、美味しいですねこれ」
「本当だ。結構高いんじゃないのか?これ」
「そうであろうそうであろう。なにせ教官こだわりの一品だからな!」
「適当に発注しただけだがな。しかしまあ、国の金で飲む日本茶は美味いか?」
千冬姉の一言で全員が吹き出した。あんたそれでも教師かよ。
「冗談だ。真に受けてどうする」
「冗談に聞こえないですよ…」
「ククッ、それもそうか。して織斑、どうなんだ?」
「どう、って何がだ…ですか?」
「お前が部活がしたいというからこうして体験させてやってるのだろう。入部するか?」
「そ、そうだ!どうするのだ嫁よ!」
「うーん、まあ考えておくよ」
「なー!一夏貴様、この期に及んで!」
そんなこと言われてもこの場で決めるのはちょっと無理がある。
「ほら小娘ども、本人がこう言っていることだしとっとと帰れ」
「一夏!入るなら剣道部にするんだぞ!」
「嫁なのだから茶道部に入るのだろうな?」
「一夏さんはテニス部ですわよね?」
ごめんセシリア。テニス部だけは、ないかな。
――――――
「えー、それじゃあ織斑君、結局部活に入ってないの?」
「ああ、途中で楯無さんに止められてな」
「せっかくのチャンスだったのに…」
あの後も様々な部活を回っていたが、次第にヒートアップしていく勧誘に楯無さんがストップをかける形で俺の部活動体験は終息した。
そして俺の入部はどこも許可されなかった。全部は回り切れてないけど、いくつか面白そうなのがあっただけに残念だ。
ちなみにラウラはあれ以来時たまテニス部に顔を出しては、セシリアとハイスピード学園テニスバトルを繰り広げているらしい。
「まあこれからも生徒会の貸し出し業務は続くらしいから、その時にまたいろいろさせてくれたらありがたいかな」
「うんうん!織斑君なら喜んで!」
「次の貸し出しってどこだっけ?剣道部?」
「あそこは再来週。次はバレー部だってさ」
「ついに七月のサマーデビルと呼ばれたこの私のじちゅりょくを見せる時がきたわね!」
「頑張ってじちゅりょく見せてよね!」
「じちゅりょくをみせるのだ~」
「恥ずかしいからやめて?ねえ?」
そんなこんなで、俺の学園生活は変わりなく平和だ。
はて、何か忘れてる気もするけど…まあいいか。
「一夏ァ!なんでいつまで経ってもラクロス部に来ないのよ!あのバカ!」