海道×めぐる、案外行けるのではという思いつきから書いてしまったこの一本。本編中であまり関わりないけど二人のあのテンションなら意外と合いそうなのになぁ。
一応柊史くんは和奏ルートを歩んでいる設定で、細かい時系列にゆらぎはあるものの基本的にはそこに準拠しています。
念の為、主人公は絶対柊史くんじゃないとヤダというヒトはちょっと読まないほうがいいかもしれませんね...
あとpixivに同時投稿してあります
サノバのキャラ、太一パパも海道くんももっと救われていいと思う。
柊史くんはちょっとだけ弾ける程度のレベルなので、大体そのあたりで設定してくれればと。
ハロウィンパーティのために立ち上げた急造バンド計画は今の所うまく行っている。柊史は和奏ちゃんとの個別レッスンを受けて急速にベースの腕前を上げていき、和奏ちゃんは元から十分うまい。ドラムのオレはベースのことなんてわからないから、二人で練習してちょっとでも柊史のレベルを上げるのがいいだろう。オレはオレで、久々にドラムを再開したおかげで少しばかりブランクがある。
今日は3人でスタジオを借りて練習だ。なんか、オレが見ないうちに2人がいい感じになっているのはちょっと気になるが、まぁ茶化せばそれだけ練習の時間もなくなることだし、程々にいじっておく程度にしよう。
「海道がこんなにうまかったなんて知らなかった、そもそもドラムやってたことすら知らなかったけど」
「おいおい、前に言ったろ。オレだって前はちょっとばかしモテたくて真面目にドラムをやってたって」
「モテたいって動機の時点で、本当に真面目なのかねぇ」
「そういうお前たちだって、バンド始めてから見ても付き合ってるようにしか見えないけどな!」
「ち、ち違うって!海道が考えすぎだよ!」
「ふーん、それなら毎朝ああやって弁当を作るのは何なんですかねぇ」
「あれは…ちょっとでも練習時間を増やすためだから、ほら保科って自分で弁当を作ってるでしょ。その時間を少しでも少なくできればって」
「おやおや必死に弁解しますねぇ、別にオレはなんだっていいけど」
顔を赤くしながら必死で否定する和奏ちゃんと、それを渋い顔で見ている柊史。二人の関係が進展するのも悪くないし、入学当初の柊史からしたら、こんなに親しい女の子が出来るなんて全く思えなかったからな。ま、オレが仲間外れにされるまで行かないなら友人たちの青春を純粋に祝福したい。
「ほ、ほらもうこんな時間、あと2回ぐらい合わせたら時間だよ!」
「それじゃ練習するか。柊史も和奏ちゃんの個別レッスンの成果を見せてくれよな。」
「なんかその言い方に含まれた意味が気になるんだが」
「別に?とにかく、こんな短い時間で一気にうまくなってるのはすごいと思うぜ。」
「まぁ…仮屋の教え方がうまかったから」
「あーあー聞こえない!オレの前でノロケる二人組の声なんて聞こえない!」
「勝手に話を進めるな!」
容赦ない一撃が肩に振り下ろされる。背丈に大きな差があるおかげで、平手打ちは背中でいい音を鳴らす。
「ありがとうございます!」
「うっわ、ドM引くわぁ…」
柊史に引かれているが気にしない。ドMであることも否定したところで無駄だから、今更何も言わない。
「そろそろ時間か、片付けて帰るぞ」
「今日二人はこの後どうする?親父は飲み会だから今日は外で食べて帰ろうと思うんだけど」
「あたしは特に、家にはいまから連絡したら大丈夫と思う」
「オレも、用事があるわけじゃないしこの時間ならいくらでも」
「ライゼリヤでいい?」
柊史がメシに誘ってくるとは珍しい。普段は外食なんて一切しないような奴だ、それが今日に限って誘ってくるとなれば乗らない訳にはいかないからな。
「…あれ、君は」
「あっ、どうも」
駅まで行くその道すがら、最近教室でたまに見かける子に出会った。確かオカ研の因幡めぐる…だったかな、なかなかハデななりをしている割には真面目そうな子だったと思う。
「あっ、センパイ。今日はバンドの練習ですか?」
「うん、ちょうど今から帰るところ。因幡さんは?」
「めぐるはちょっと駅前の本屋に用事があって」
「因幡さん。晩ごはんはまだ?よかったらあたしたちと一緒にライゼリヤ行かない?」
「えっ、いいんですか?」
「良いよ良いよ、一緒にごはん食べる人は多いほうが楽しいし」
和奏ちゃんが因幡さんをご飯に誘う。オカ研の人は教室でよく見かけてたから一度メシでも一緒にして部活での柊史がどんなことしてるかとか、聞いてみたかったんだよな。
「オレもそう思う、部活の柊史が何してるとか気になるから聞いても良い?」
「部活の保科センパイ……あっ、なんでもないです。ご飯は一緒に行きましょう」
なんか考えてたみたいだ、もしかして柊史があのハーレムで覗きか痴漢でもやったのか?
「それにしても人多いですね、普段はこんな時間に外出歩かないんですけど」
「この時間は帰宅ラッシュだからなぁ、オレもライブハウスからの帰りじゃないなら絶対に通らない」
「ってあれ、保科センパイたちの姿がいつの間にか」
ふと前を見ると、さっきまで少し前を歩いていた柊史と和奏ちゃんがいない。この人混みで見失ってしまったか。
「あちゃー…このダンジョンで柊史たち見つけるなんて無理だろ…」
「と、とりあえず連絡だけしてみましょう」
「あー…そういやあいつら今日携帯忘れたとか言ってたな…」
「それって、もしかしてめぐるたち取り残されました?」
「目的地はライゼリヤだ、そこまで行けば居る…はず」
「いやこの駅の中だけでライゼリヤ2店ありますよ!?」
何で同じ建物の中に2店もあるのか。まずそこからわからないが、いきなりこれはピンチだ。
「あわわ…どうしましょう、めぐる、めったにここ来ないんでどこへ行ったら良いかもう全くわからなくて」
「落ち着けって、まずは一番近い方のライゼリヤに行くぞ。そこでいなかったら考えよう」
オロオロする因幡さんをなだめつつ、手を引いて人混みをかき分け進む。この時間はやたらと人が多い。帰宅途中のサラリーマンの群れに突っ込みつつ、因幡さんとははぐれないように進む。
「うわぁ…人多い…」
「もしかして、人混みって苦手?」
「人多すぎて酔いそうです」
「それじゃちょっと遠回りになるけど、こっち通るか」
ダンジョンと呼ばれるほど複雑に入り組んだ駅ビルにはいくつも抜け道が存在する。中高ずっとここで遊んでいると結構覚えてしまったわけで、人混みを突破するほど気力がないときにはそういう道を使っている。ムリに引っ張りすぎないよう、ちょっと歩速を緩めつつも、いち早くこの人混みから抜け出そうとする。
「…あの、センパイ?」
「ん?……あっ!」
人が少ないところまで来てから気付いた。はぐれないためと手を掴んで進んでいったが、初対面までいかなくてもあんまり親しいわけでもない女の子の手をずっと掴んでいたのだった。気付いて手を離そうとしたものの、逆に因幡さんから強く握られた。
「あの、もうちょっと掴んでていいですか?ちょっと人混みが怖かったので…」
「オレはいいから、とりあえず先を急ぐよ」
女の子の手って柔けぇ…なんてことを考えている暇はない。とりあえず柊史たちを早く見つけなければ。
「おーい柊史!探したぞ!」
「あっ海道、どこではぐれたかと思ったら」
「ようやっと追いついた、いやぁこの時間の駅は本当混んでるな」
「ごめんごめん、保科と話してたらはぐれてたのに気付かなくて」
「……」
オレの後ろでまだ因幡さんは小さくなっている。流石に手を握るのはちょっと恥ずかしかったのだろうか、代わりに裾を掴んでいる。
「…因幡さん、大丈夫?」
「えっ、はっ、だ、大丈夫です!めぐるは元気です!」
「海道、もしかして…」
「いやいや違うよ!?後輩の女の子にいきなり手を出すほど女の子に飢えてないよ?」
「ふーん…」
和奏ちゃんから冷たい目線が送られる。ちょっと興奮しなくもないが。柊史はというと、どういうわけかちょっと好奇の目といった感じだ。
その後は4人でメシを食べ、それぞれの帰路についた。
ここ最近ドラムを叩いてばかりだったからか、ベッドに寝っ転がるとすぐうたた寝してしまった。日付が変わる直前ぐらいだろうか、突然着信音が鳴り響く。今どきメールなんて珍しいな。どうせ迷惑メールだろうと思って開いてみる。見たことの無いアドレスだ。
「このご時世にこんな迷惑メールに引っかかる人間…あれ、見たことある名前だけど」
題名:因幡です
本文:
今日はありがとうございました。人混みが苦手でちょっと酔っちゃいました。お礼だけはいいたくて、保科センパイからメール教えてもらいました。
「……あんな見た目だけど真面目そうだな、って思ってたけど。ここまで律儀とは驚いたな…」
そう言いながら久しぶりのメールを返す。最後に使ったのなんて数年前、親にメシいらない連絡したときぐらいだろうか。
題名:Re.因幡です
本文:
今日はごめん、その後体調は大丈夫?
ただの業務連絡程度のメールなのに、返信する内容をいちいち考えてしまう。そもそもオレが謝るような内容だろうか、もともと柊史と和奏ちゃんに置いていかれたのがことの発端なのだから、むしろあいつらを謝らせるべきじゃないだろうか。なんてことを考えつつ、送信ボタンを押す。
「さて、流石に風呂行くか」
家の連中はもう寝静まっているみたいだ。手早くシャワーを浴びて部屋に戻るとメールが返ってきていた。
題名:re.Re.因幡です
本文:
体調は大丈夫です。ご心配をおかけしました!
このお礼はいつか必ずお返しします。
「お礼だなんて、単に道案内した程度なのにな」
そうは言っても直球の感謝をされて嬉しくないわけがない。ちょっとニヤニヤしてしまう。
題名:Re.re.Re.因幡です
本文:
そんな気にしなくていいよ(笑)
そんなことより今日は疲れただろうからしっかり寝たほうがいいよ。夜更かしはお肌にも悪いよ
「……いきなり女の子にこんなメールするの、流石に気持ち悪いかもな」
自分のメールを冷静になって見直すとちょっと気持ち悪くなってきた。ただ、もう送信ボタンは押してしまった。
それからというもの、目が冴えてしまい寝付けないからと買った漫画を読むことにした。そしてようやく眠気が来ようかという3時過ぎ、ふいに携帯がなる。
題名:re.Re.re.Re.因幡です
本文:
はっ、ちょっと居眠りしちゃいました。私はもう元気なので大丈夫です!あとお肌の心配なんていきなりでちょっとびっくりしちゃいました。もしかして海道センパイって…そういうこと気にするんです?
「流石にあんなこと聞くのは違ったか……さてどう返したものか」
徐々に眠気が襲ってくる。メールの本文を書こうと開いた当たりで、オレの意識は遠のいていった。
窓から強い日差しが差し込む。眩しさに耐えられず起きると時刻はもう7時。早く朝ごはんを食べて高校に行かねば。結局今日の予習はすっぽかしてしまったから、できる限り早く着いて誰かの写させてもらわないと困る。
朝飯を済ませ、顔を洗い、身支度は整った。携帯をポケットに入れ…たときに気付いた。昨晩のメールを返し忘れていたことに。
「あちゃー……完全に忘れてた、今からでも遅くないかな」
題名:Re.re.Re.re.Re.因幡です
本文:
おはよう、昨日メールには気付いたけど寝ちゃった(笑)
オレは昔にきびがひどくて、そのときにちょっと知ったかな。
そういえば、昨日聞き忘れたけど部活での柊史ってどんな感じなの?また教えてくれないかな
家を出ながらメールを返す。そして学校に行き着いて一息ついていると着信があった。
題名:re.Re.re.Re.re.Re.因幡です
本文:
おはようございます、結局昨日はあれから眠れず徹夜でゲームしちゃいました。センパイの言うようにお肌には悪いんですけどね……
部活での保科センパイですか?それはもう…
そこから先は部活での柊史がいかに活き活きしているかということが書かれてあった。更に知りたいオレは、休み時間のたびにメールを返す。すると次の休み時間には因幡さんから返信がやってくる。そうやって今日一日、ずっと結果的とはいえメールをすることになってしまった。
「あれ、海道珍しいねメールなんて」
「ん?まあな。和奏ちゃんに連絡するときも普通はチャットだしな」
「それにメールしてるときの海道、やたらニヤニヤしてたよ。またやらしいものでも見てたの?」
「また、っていい方は何だよまたって」
「それで、送信相手は?」
「言えるか!」
「へぇ…海道が隠さなきゃならないような相手…ねぇ…うひひ」
「こらそこ、何か良からぬことを考えているだろ」
「別にあたしはなんにも考えてないよ」
柊史はこの日先生に呼び出されて昼休みはちょっと席を外している。どうやらハロウィン絡みだということは分かるから、オレたちは珍しく二人で昼飯だ。だからメールの中身なんて隠す必要はないのに、何故か黙っていたほうがいいような気分になった。
「ま、海道がよっぽど必死になって返すぐらいだから大事な人からのメールなんでしょうねぇ」
「別に、ちょっと面白い話が聞けるから返してるだけだって」
「ふーん、また話せるようになったら教えてね」
「へいへい、そんなことよりお前たち本当仲良さそうだよな」
「そう?それは海道の考え過ぎだって」
などと、久々に柊史がいない昼飯と思ったら今度は和奏ちゃんから柊史とのノロケみたいな話を聞かされる。アイツらはやく付き合ってしまえばいいのに。
学校帰り、家の用事でスタジオに行くほどの時間は用意出来ないがそう急ぐ程でもない。とりあえず片付けを済ませいつもどおり下駄箱に行くとそこには因幡さんがいた。
「あっ、センパイ」
「あれ、どうしてここに。2年生の下駄箱でしょ。柊史に用事でも?」
「いえ、今日はちょっとセンパイにきちんと会ってお礼が言いたくて」
「そんな律儀にしなくても」
とはいいつつ、流れでなんとなく二人並んで帰ることに。途中までは同じルートだ。
「…で、センパイったらこの前あろうことか私達の採寸中にドアを…あっ」
「あのさ、この話、聞くオレもそうだけど話す因幡さんも辛くね?」
「そ、そ、あっ」
自爆した因幡さんはうつむいている。こっちからは見えないが、その顔がどんな状況かは容易に想像できる。
「で、ですから!それは保科センパイがマジエロセンパイだったってことで!」
「マジエロ…センパイ…ぷっ」
そのネーミングセンスに思わず吹き出してしまった。そうか、柊史がマジエロか、普段ろくでもない話にはあまり乗ってこないような柊史が。
「なんで笑ってるんですか!もう本当センパイの周りはデリカシーのないヒトばっかですね!」
「悪い悪い、柊史がマジエロっていうのがちょっとおもしろくて」
「そうです、保科センパイはマジエロセンパイです」
「それにしても因幡さん、こんな明るくて面白いヒトだったんだ」
「なんですかその言い方は!?いくらなんでもひどくないですか」
「だって昨日は…」
「あ、あれだって、普段のわ、わたしならああはならなかったですから!ね!」
「ふーん、まあ、昨日のテンパリ方を見たらちょっと信じられないなぁ」
驚いた。因幡さんといえば格好こそハデだが、性格自体はちょっと地味な方かと思っていたがこんなに話していておもしろいなんて。
「っと悪い、今日ちょっと用事なんだ。またメールは見れるから連絡してくれよな」
「あっ、お疲れ様です、センパイ」
そう言って交差点を右に曲がり、因幡さんと分かれる。そして数分後、家につくかつかない
かと言ったところで携帯が鳴り響く。
題名:さっきの話
本文:
さっき聞き忘れてましたけど、海道センパイって部活とか入らないんですか?
実のところ部活に入る予定もなければ入ろうとも思ったことはない。もともとドラムやっていて入る余裕がなかったというのもあるが、正直あまり興味を持てなかった。ただ、柊史がああやって変わった様子を見ると、入ってみるのも悪くないかもな。
題名:Re.さっきの話
本文:
もともとドラムやってたから、ちょっと入る余裕がなかったかな~
今なら新しくどこか入ってもいいけど、今更どこかに入れるところなんてなかなか無いからね
題名:re.Re.さっきの話
題名: Re.re.Re.re.Re.re.Re.re.Re.re.Re.さっきの話
題名: Re.re.Re.re.Re.re.Re.re.Re.re.Re.re.Re.re.Re.re.Re.さっきの話
徐々に増えていくReの数。気付いたらもはや題名が読めない程になってしまった。久々のメールはそれからも積み重なり、気付いたら翌朝、学校に行くまで続いてしまった。
「ん、あれ因幡さんもここ通学路なの」
「はい、めぐるも朝はこっちの方を通るんです」
「へぇ…昨日あんな遅い時間までメールしてたけど、寝れた?」
「あっ、えーっと…その、実はめぐる、昨日あの時間までゲームをしていて…」
「こらこら、そんなことしているとそのうち体壊しちゃうぞ?」
「わかってるんですけどね、やめられない止まらないというか」
「まるで某えびせんみたいにまとめるな!」
学校への登校中、偶然因幡さんを見つけて話をする。気付いたらこれが毎朝の流れになってしまった。メールも引き続き、学校が終わったら一晩中届いては元の題名が見えないほどのreで埋め尽くされていく。久々のドラムはちょっとつかれるが、一日の終わりにメールをする時間はその中で本当に癒やしだった。
その後、一週間はまたたく間に過ぎていった。そして本番当日。オレはちょっと早めの会場入りをしてセットアップをする。
「よし、これでOKだ!」
「ありがとな、イベントが多分4時過ぎには終わるから、撤収は4時半お願いするわ」
「おう、久々のライブで腕を鳴らして女の子でも引っ掛けてこいよ!」
「てめぇは一言多いわ!」
ドラムをセットし、軽く音を出す。よし。これで今日は大丈夫。
「あっセンパイ」
「因幡さん、どうしたの」
「今ならセンパイぐらいしかここ来てないかなって」
そう言いながら現れた因幡さんはハロウィンのコスプレをすでにしていた。露出度も高く、ケモミミのその姿は正直興奮しないといえば嘘になる。
「その、この前お礼って言ってたじゃないですか」
「…へ?」
「もう、だからお礼するってってたじゃないですか!」
駆け寄ってきてそそくさと手渡してくるたくさんのお菓子。会場で配る予定のとはちょっと違う、個包装もされ心なしか豪華だ。
「これは?」
「だから、これがセンパイへのお礼です!」
因幡さんのお菓子作りがうまいとは聞いていたが、見た目もきれいでまさかコレほどとは思わなかった。
「…ありがとう、今日のライブ楽しみにしておけよ!」
「あと、めぐるのこと、めぐるって呼んでいいですよ。私もソッチのほうが落ち着きますし」
「そっか、それじゃめぐるちゃん、今日のライブしっかり聞いててくれよな!」
「もちろんです!ライブうまく行ったら今度はご褒美をあげますよ?」
会場を出ていくめぐるちゃんに手を振り送り出す。もらったお菓子を少しかじりながらドラムの音を確かめていく。いつもよりしっかり響いているような気がした。
「柊史、よく本番に間に合ったな、これなら普通にライブハウスでも演奏できるぞ」
「仮屋に相当厳しく指導されたからな、あれでうまくならない方が申し訳ないさ」
「なんかその言い方気になるけど、まああたしのスパルタ教育が実を結んだならよかった」
「ってか、海道もなんか今日はやたら調子が良いじゃん、何かいいことでもあったの?」
「オレは別に、なぁ?」
「なぁ、ってどういうことよ…まぁいいけど。とりあえず、そろそろ生徒入ってくるし撤収するよ」
和奏ちゃんに促されステージ裏へと撤収する。ドラムは隠しようもないからそのままだが。
そして本番。アナウンスで呼び出されステージに登る。そして一曲、無我夢中でドラムを叩いた。オレの今できる全てをぶつけた演奏は柊史のぎこちないながらも精一杯の演奏、そして和奏ちゃんの一級品の演奏を引き立てることには成功しただろう。フロアが完全に沸き立つこの感覚。久々でちょっとしびれてきた。
「……よし、久々ながら上出来だな」
歓声に包まれるステージの上から見下ろす客の顔はそれぞれ相当に興奮している。こんな素人バンドでもこう喜んでくれるなら、またドラムやるのも良いなとちょっと思ってしまう。
その後、柊史の公開告白とそれに対する和奏ちゃんによるドギツイ一撃なんていう茶番もあったが会は概ねスムーズに終わった。予定通りドラムを片付ける頃には体育館もほとんど片付けが終わっていた。
「ま、元気を出せって。ブレイブマン」
「てめぇ…うっ…」
「そう気を落とすなよ、正直オレだってあんな関係だったらフツー行けるって思うさ」
「やだもうおうちかえる」
「いまさら幼児退行するなって、ほら、部活の連中が待ってるぞ。そっちに行きな」
柊史もオカルト研究会の一員だ。後片付け以外にもいろいろ面倒が残っているだろう。オレは今日ぐらいゆっくり休みたいな。
「…センパイ……海道センパイ!」
「ん?ってあれめぐるちゃん」
「センパイ!かっこよかったですよあの演奏!もう惚れちゃいました!」
めぐるちゃんが走り寄ってきて、こっちが振り向いたところに抱きついてきた。まだコスプレ衣装から着替えてるわけではないから肌の露出が多い。体を支えようと掴むとそこは素肌で、そのすべすべの感触が気持ちいい。
「…ありがとう、オレもあれだけうまく演奏できるとは思ってなかった…でさ、いつまでこうするつもり?」
「あっ、はっ…そ、そ、その、ちがいますよ、違うんですよ!めぐるはそそそそんなビッチじゃ」
「あー、いや、そういう意味じゃなくて。こんな格好で抱きついて惚れちゃったとか言われたら、オレだって意識すると言うか、さ」
正直言って理性の限界だった。仲良くなった後輩の女の子から抱きつかれ、惚れられたなんて言われたらオレだって意識しないわけにはいかない。
「……海道センパイ、ちょっと目をつぶっててくれませんか?」
「ん、どうした」
言われるがままに目を瞑る。ちょっとしてから冷たい手で顔を捕まれ、そして唇に何やら柔らかいものが押し付けられた。頭が混乱する。ここにはめぐるちゃんしかいない。つまりこれはもしかして……
「えへへ…これはご褒美…になりましたか?」
「……」
頭はまだ混乱するが、理性はもうおしとどめられる限界を超えていた。直ぐ側にいるめぐるちゃんを抱きしめる。
「わっ、センパイ、ちょっと強すぎますって」
「あ、ああ、すまん。ちょっと混乱してた」
「それで、女の子にこんなことさせてなにも無いんですか?」
「参ったな…こりゃ……ありがとう、めぐるちゃん」
そう言ってからもう一度強く抱きしめてキスをした。
翌朝、結局付き合った柊史と和奏ちゃんが学校中の話題をかっさらったおかげで、オレが変な詮索を受けることはなかった。その点は柊史たちに感謝だ。
そのうち海道×他ヒロインもやりたいけど、センパイルートだけは思いつかないから絶対に無いな...
あと和奏ルートもちょっと厳しいものがある。あまりに二人の関係が親密なところからスタートというのもね。
というわけで全年齢向けの海道くんによるめぐるルートという完全に想像の産物でしたがいかがでしたでしょうか。もしコレもやってほしいなどありましたらここの感想でも作者twitter(@shun_syamojin)でもどうぞご自由にご連絡ください。