だが俺はレアだぜ。報酬は高いぞ。

1 / 1
サレンダーするなら今のうちだぜ。


HAGAAAAAA!!


我が名は……

 

 

 

 

 

彼女が初めて彼と出会った時、こう告げた。

 

「というわけで、この依代での召喚に限り、冥界からちょっとだけ手助けに来たエレシュキガルよ。……う、……ううう、……ううううう、な、何よそのニマニマ顔! 普通なら権能を半分預けてもらうのだけど、あなたは人間だし、今回は大目に見てあげるんだから、感謝してよね!」

 

そうして数多くの戦いを経て、絆を深め、彼との距離は縮まっていく。

 

「地上で戦うのって、疲れるのね……正直、甘く見ていたのだわ。でも、疲れる以上に面白い物がたくさんあって、私は好きよ? 花も風も、星も水も色鮮やかだし……なにより、あなた達の営みは勉強になるわ。私もいつか、地上に負けない街を作ってみせるから」

 

時には決意を表明し、それぞれの好みについて語りあう。周りの仲間たちはそんな自分たちの様子を見て、からかってきたりもした。

 

「マスター? そ、相談があるのだけれど……さっき、他の英霊に『随分とマスターにこき使われているな、何かしたのか』って言われたんだけど……も、もしかして私、知らない間にあなたに呪いでも掛けていたのかしら……! え? 違う? 友人として甘えているだけ? ……友人!? ……っそうよね、私たち、友人だものね!」

 

やがてそれは自他共に認める、友人と呼べる間柄となり。

またやがて、彼女は━━気づいてしまったのだ。

 

「戦いが続く限り一緒に居られるのはいいけど、戦いが続く限りあなたは傷付くのよね。楽しい事ばかりで気付かなかったけど、私は一刻も早くあなたが元の生活に戻れるよう努力しないといけないんだ……こんな事なら……」

 

 

 

━━いっそ冥界に閉じ込めて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ここは……?」

 

 

内心では(またこのパターンかい)と思いつつ、現カルデアのマスターである彼は体を起こし、周りを見渡した。

 

踏みしめているさらっさらの砂漠。遠くに見える古代っぽさを感じさせる遺跡。

お、もしかしてここはエジプトか?と彼は一瞬思ったが、すぐにその考えを改める。

何故なら遺跡の上、その上空にゆらゆらと蜃気楼染た透明さを持つ、逆さになったもう一つの遺跡が浮かんでいたからだ。

 

(なんだあれ?オジマンディアスの宝具ってわけじゃないよな。透けてるし)

 

こんな時でも、彼は冷静に状況を分析する。

人類救済のために、今まで数多くの修羅場をくぐり抜けて来たからね。是非もなし。彼にとっては余裕のよっちゃんである。

とりあえずはあの遺跡の手前に見える市場?のようなところまで行くか。聞き込みから始めることとしよう、そう彼は考え一歩踏み出した。

そんな時、

 

「どういうことなの!?まるで意味が分からないのだわ!」

 

 

そんな彼の背後で女性の、それも自分の仲間である女神━━エレシュキガルの声が響き渡った。

 

 

 

女神エレシュキガル。

シュメル神話における冥界の神。メソポタミア神話原典においては植物の成長と腐敗を司り、蛇や竜を使役し、冥界の使いであるガルラ霊を自在に操ったと記される彼女は、今では自分たちの仲間となり特異点を巡る戦いに力を貸してくれている。

 

そんな彼女は今自分が直面している状況が理解できないのか頭を振り、次にこちらの視線に気づくと「ち、違うのだわ!ガルラ霊が勝手に!」と否定するよう慌ただしく手を振り叫んだ。

 

「……?まあとりあえず、エレちゃんがいて助かったよ。ここがどこなのか分かる?」

 

マスターである彼はエレシュキガルの様子を不審に思いながらも、安堵し彼女にそう質問する。

エレシュキガルは彼の疑問を耳にし、一つ間をおいて気を落ち着かせてた後、恐る恐ると言った様子で声を返した。

 

「その、冥界、だと、思うのだけれど」

 

「ゑ?」

 

「ち、違うのよ!私は貴方を冥界に連れていくつもりだったのだけど、ここは私の知る冥界ではないというか……でも、この場所は冥界のような雰囲気が感じられるというか、つまり……どういうことなの!?」

 

まるで意味が分からないのだわ!と彼女は先ほども叫んだ言葉を繰り返す。

マスターである彼はまたしても「ゑ?」という疑問が思い浮かぶ、気になるところ(冥界に連れていくつもりだった云々)があったのだが、彼女も混乱してる様子だし「ああ!」と力強く頷いて場を収めることにした。とりあえずはエレシュキガルもよく今の状況がわかっていないこと、そしてここは冥界?のような場所だということを把握できただけでもよしとしよう。

 

 

「じゃあ現地の人に話を聞いてみようか」

 

 

 

 

 

巨大な遺跡の手前に広がる市場は、大勢の人で賑わっていた。日本人である彼とは違い、現地の人たちは浅黒い肌色をし、異なる言葉を話している。しかし彼は言語の壁など苦にも感じさせず、時には談笑するほどの余裕をもち情報を引き出していた。

彼の手の空いた頃合いを見て、エレシュキガルは疑問を投げ掛ける。

 

「ずっと不思議に思っていたのだけど、貴方って日本語しか喋ってないのに、どうして会話出来てるの?」

 

彼女の言葉に、彼はなんてことのないように答えを返した。

 

「ん?ああ、このくらいはフィールを感じれば誰でも出来るよ」

 

「……え?」

 

「フィールを感じるんだ」

 

まあ、人によってフィールの形はそれぞれ違うから、見極めが大事かな。ちなみに俺のフィールはカウンター型のフィールだよ、と彼は言葉を続けた。

エレシュキガルは(フィール?フィールってなんだ?)と思いつつも、ふーんそうなのね(思考停止)と納得したように頷いた。

 

実をいうと、マスターである彼はこのような、よく理解できない言動をすることが多々見られた。例としてあげるなら「~って?」という質問に対して、食い気味で「ああ!それってハネクリボー?」という反応を返してきたり(ハネクリボーってなんだ)、「~とはどういうことなの」といったりすると、「~ということです」とオウム返しをするか「調整中」と返事をする(調整中ってなんだ)。

あとエレシュキガル自身が霊基再臨をし、新調した礼服、地上に出かける用の普段着を似合ってるかどうか彼に聞いた際も、「似合ってるよ━━でも俺からしたらまだ地味すぎるくらいだぜ!もっと腕とかにシルバー巻くとかさ!」とやけにシルバーに拘っていたりシルバーってなんだ)。

 

(この意☆味☆不☆明の言動を、私が理解できる時はくるのかしら……)

エレシュキガルは俯き、考え込む。

 

多分無理なのだわ(確信)

 

今の若者は彼のように、みんな変わっているのかもしれないわ、そう心の内で呟きつつ彼の方を見た。

 

彼は、

 

 

「ミルクでも貰おうか」

 

「なめてんのか!?小僧!」

 

 

出店をしている現地の人の逆鱗に触れ、両手で胸ぐらを掴まれていた。

 

 

「ちょ、何やってるのよ!?もう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレちゃんの言う通りみたいだ。ここは冥界で間違いない」

 

「本当に?」

 

 

彼の導きだした結論に、彼女は驚愕する。

自分でいっておいてなんだが、ここは自らの知る冥界の影も形もない。自分の認知している冥界はもっと暗いというか、腐敗してるというか、そんな感じだ。しかしこの冥界?は太陽がすごい(語彙力皆無)爛々と輝いてるし、多くの人で賑い、活力で満たされている。

 

「でもここは私の知る冥界ではないのだわ!どうしてここが冥界だと貴方は結論づけたの?」

 

「ああ、それは簡単だよ」

 

エレシュキガルの追求に彼は一呼吸おき、当然のようにその理由を告げた。

 

 

「現地の人が教えてくれたんだ。今この場を治めている王様の名前を。彼の名は━━アテム。決闘者なら誰でも知ってる、古代エジプトの王だからね」

 

 

それを聞き、とりあえず、は?(語彙力喪失)と彼女は思った。

 

 

「あの、その、……え?アテムって、誰なの?」

 

「ゑ?」

 

 

マスターである彼は信じられないといったように目を見開いて、彼女の顔をまじまじと見つめた。

そして「もしかして……」と小さく呟いた後、彼はエレシュキガルに確認をとる。

 

 

 

 

「エレちゃんは……決闘者ではない?」

 

「いや!!そもそもデュエリストってなんなのだわ!!初耳なのだわ!!」

 

「でも、英雄王とイシュタルは決闘者だったよ。だからエレちゃんもそうでしょ?」

 

「ウッソなのだわ!?アイツらもその、デュエリストとかいうのを認知してたの!?え、いや、え!?私は違うのだわ!絶対そんなのに関わりをもっていないわ!」

 

「何?イシュタルと英雄王が決闘者ならエレシュキガルも決闘者ではないのか!?」

 

「だから違うって言ってるでしょ!?なんでわざわざ確認をとるの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

マジかぁ……マジかぁと彼は呟きつつ、「でも今になって思えば、可笑しいと思う時はあったなあ」とエレシュキガルに向かって言った。

 

「イシュタルは『選ぶ』と『選択する』についての違いが分かってたけど、エレちゃんは「どっちも同じに決まってるのだわ!」って言ったことがあったっけ。あの時はあまり気にしなかったけど、決闘者じゃなければしょうがないか」

 

「だって同じじゃない」

「いや、『選ぶ』は対象をとらないんだ。『選択する』は対象をとってるからなあ。ちょっと効果解決が違うんだよ」

 

「納得できないのだわ!」

 

 

エレシュキガルはそう叫ぶ。そんな彼女の姿を見ても、彼は困ったような笑みを浮かべるだけだった。

 

(わ、私が可笑しいの……?)

 

エレシュキガルは彼の曖昧な笑みを見て思う。そういえば、彼に対して(自分よりもイシュタルの方が仲が良いのでは?)と嫉妬のようなものを覚えたことがある。その時は、その差はカルデアにどちらが早く呼び出されたか否かだと考えていたが、今回のデュエリスト云々を知り考えを改めた。というかデュエリストとはなんなのだわ。

 

 

「でも良かったよ。今回はもうカルデアに帰る方法が分かってきたし。多分大丈夫」

 

「そうなの?」

 

「ああ!!」

 

彼は力強く頷く。

そしてその方法をエレシュキガルに満面の笑みと共に示す。

 

 

「アテムさんとデュエルすれば━━この冥界から抜け出せるはずだ!」

 

 

「そのね?私の分かる言葉で喋ってくれない?」

 

 

「デュエルって?」そうエレシュキガルは彼に質問する。彼は「ああ!!」と答えを返した。イラッとくるのだわ!!

 

 

 

そんな時である。

 

━━貴様、今何と言った。

 

そんなふうに騒いでいる彼らの背後から、重々しくも響く男の声を耳にした。

 

エレシュキガルはその聞き覚えのない声を発した相手の方へ振り返り、その姿を目にする。

 

長身にして鍛えられ、引き締まった身体。

目立つ襟の立った、白色の外套を着用し、左腕には、中心が青く輝く機械のディスクを付けている。

 

 

━━アテムと、そう言ったのか。

 

 

そう再度言葉を紡ぐ男の名は━━海馬瀬人。

伝説の決闘者の人であり、白き龍を操るアテムの数少ないライバルの内の一人。

 

 

 

しかしそんなことを知るはずがないエレシュキガルは、その男性から感じる、重く迫力あるフィールを前に「あわわわわ……」と涙目で震えるだけでだった。

 

 

 

 

 




なぜ俺はあんなムダな時間を……(咽び泣き)

作者はね、エレシュキガルがヒロインの二次小説が見たかったんだ(爺さん感)

きっと、別の人が書いてくれると、そう、信じている…

頼んだぜ……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。