SOUL REGALIA   作:秋水

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※18/08/26現在、仮公開中。
大幅な変更、改訂を行う可能性があります。


第三章 英雄不在
第一節 厄災の先触れ


 

 第四地区の一角。

 ちょうど、『歓楽街』と『繁華街』の間に私達の本拠地(ホーム)は存在した。

 盛況な二つの街に挟まれているのが嘘のように、その区画は寂れている。それが、各々の街の支配者である女神の関係性を示していた。

 あえてその場所に陣取り、やや『歓楽街』に肩入れしつつも、両者の間でうまく立ち回り、彼らはこれまで甘い蜜を啜ってきていた。

 表向きは平凡な探索系派閥だが、『暗黒期』の混乱に乗じていくつかの派閥を取り込み、今では商業や調剤系でもそれなりの勢力を誇っている。

 もっとも、その取り込んだ派閥は主に闇派閥(イヴィルス)の残党だ。

 無論、煮ても焼いても食えぬ狂人揃いの【タナトス・ファミリア】や【イケロス・ファミリア】ほど振り切れた連中ではない。精々、リヴェラの街のならず者どもよりいくらか狂暴という程度だ。

 とはいえ、それでも暴力を生業の土台に据えている冒険者の中でも特に血気盛んな連中である。

 ギルドによる等級はEだが、実際にはDかC程度の戦力はあると考えていた。これでもまだ多少控えめであろう、とも。

 過大評価ではない。

 団長である私――パール・ブラドーはLv.3……と、ギルドには申請しているが、実際にはつい先だってLv.4に昇格している。周りを固める総勢一二人は全員が上級冒険者だ。

 全員が『暗黒期』の苛烈な抗争を経験し、あるいは賭博剣闘に参加しては人を斬った経験を豊富に持っている。

 複数人での闇討ちであれば、格上の冒険者でも殺せる。その程度の力量と実績を持っている。

 そこに加えて、派閥の資産を考慮すれば、むしろそうなって然るべきであろう。

 何しろ、あえて闇派閥(イヴィルス)を取り込んだ理由は、単純に彼らが麻薬の調合や売買経路を持っていたからだ。

 暗黒期が終わり、多少息苦しくなったが……それでも、それらがもたらす利益は莫大だった。

 二柱の女神のご機嫌取りをしてなお、潤沢な資金が残る程度には。

 二大派閥である【フレイヤ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】のように表立って権勢をふるう事はできないにしても、ゆくゆくは【イシュタル・ファミリア】のようにオラリオの一区画を牛耳る勢力になれるであろう――と、誰もがそう思っていた。

 そう、その【イシュタル・ファミリア】――『歓楽街』の支配者が潰えるまで。

『イシュタルが殺されただと?!』

 駆け込んできた団員の報告を聞き、主神が絶句したのは記憶に新しい。

 そして、予見した通り、神フレイヤが神イシュタルよりも寛大なのを良い事に『歓楽街』に肩入れしていたのが仇となりつつあった。

 これから神フレイヤに取り入ったところで、かねてよりの取り巻き程の待遇は期待できない。むしろ、神イシュタルのと関わりを指摘され、制裁を受ける可能性すらあるのだ。

 いや、神フレイア自身が動くとは思えないが、他の取り巻き達はその限りではない。

 いっそ主を失った『歓楽街』を乗っ取ろうという案も出たが、そちらはすでに【ガネーシャ・ファミリア】が押さえており、今すぐに手出しはできない。

 何より、同じような事を企む勢力は他にもいた。片肺を失った今、派閥抗争に陥れば衰退は避けられない。奇妙な男が姿を見せたのは、そんな時だった。

『女神イシュタルの『遺産』に興味はないか?』

 その男は、そう言った。

 それが資産という意味であっても充分に魅力的だったが、実際にはそれどころではなかった。

『女神イシュタルが、女神フレイヤとの決戦のために用意した切り札だ』

 立ち会った幹部全員が唾を飲み込んだのを覚えている。

 確かに【イシュタル・ファミリア】は精強だったが、【フレイヤ・ファミリア】は文字通り格が違う。

 それを覆せるほどの『切り札』。そんなものが手に入るなら、この先の抗争で大いに有利となる。

 無論、独占するつもりだった。だが――

『それは今、【正体不明(イレギュラー)】が持っている』

 そう言われてしまえば、流石に自派閥だけで仕掛けるのは躊躇われた。

 何しろ、その剣闘士はLv.0とはいえ、神フレイヤが()()()()()程の力を持っている。

 ならば、手頃な相手と一時的な同盟を組み、『遺産』を奪い取る。その過程の中で、他の連中が消耗してくれればそれでよい――と、そんな打算を抱いていた。

 つい先ほどまでは。

「クソッ、【正体不明(イレギュラー)】め。人間のくせに……!」

 仮初の盟主――その後の、『遺産』争奪戦で最大の障害となると予見していた二派閥はすでにない。主神を【正体不明(イレギュラー)】に殺されたからだ。おそらく『遺産』の正体を知っていたであろう幹部諸共に。

 そして、盟主の座は私達の主神へと回ってきた。

(よもや、あれほどか……)

 なるほど、神フレイヤが気にかけるだけの実力者は伊達ではなかったらしい。

 あるいは、【猛者(おうじゃ)】との一戦もあながち八百長ではなかったのだろうか?――と、ありもしない想像を抱く程度には。

「仕方ありません。しばらくの本拠地(ホーム)に立てこもるべきでしょう」

 苛立つ――あるいは、怯える――主神を窘める頃には、本拠地(ホーム)まで数百Mというところまで来ていた。

 元より寂れたこの区画の中でも、特に人気のない場所だ。

 設置された魔石灯も壊れ、頼りとなるのは月明かりのみ。そんな中、隊列を組みながら緩やかな階段を登っている。

 私のすぐ後ろに主神と魔導士三人。私達の前に四人。主神達の四人という布陣だ。

 もちろん、全員が得物を携えている。

「『殺生石』さえ手に入りゃいいんですよ!」

 月が雲に隠れた頃、先頭を歩く団員が努めて覇気ある声を上げた。

「そうすりゃ、いかに【正体不明(イレギュラー)】といえど――」

 しかし、その声は突然に途絶えた。

「そうか。お前達もそれを知っているのか」

 闇が、密度を増したような気がした。それと同時、血の匂いが辺りに漂う。

「ああ?」

 突然混じってきた声――というより、突然立ち止まった先頭の団員にぶつかったすぐ後ろの団員が、怪訝そうな声を上げる。

 そして、それがその団員の最後の声だった。

「うわあああああっ!?」

 ()()()()に怪訝そうな顔をこちらに向けた二番手。

 彼と目が合った三番手が悲鳴を上げながら抜剣する――が、それを振るう事までは許されなかった。獲物を握る腕ごと、袈裟斬りに身体を両断され崩れ落ちる。

「て、敵襲だ!!」

 生暖かい何かが頬を濡らすと同時、四番手の団員が叫んだ。

 そして、それが末期の言葉となる。四番手の背中から剣の切っ先が突き出していた。

「詠唱始めッ!」

 指示を叫びながら、大剣を構え斬りかかった。

 が、それより早くすぐ後ろからぐくもった声が返ってきた。

 視線だけ振り向くと、魔導士の喉元には投擲用のナイフが突き立っている。

「ひいぃいぃいぃぃっ!?」

 白目をむき息絶えた魔導士に抱き着かれた主神が、その重さに負けて階段から転がり落ちる。

「ぬぅ!?」

 その間に、黒い風が吹き抜ける。

 それに紛れていた剣戟を辛うじて受けたが――しかし、それができたのは私だけだった。

 残り二人の魔導士の首が転がり落ちる。

「い、【正体不明(イレギュラー)】!!」

 黒い長衣を着込み、目深くフードを被ったその姿は古い伝承に語られる死神を思わせた。

 いや、違う。それは神殺しの大罪人だ。死神よりもなお忌まわしい。

「ぜあああああっ!」

 愛用の大剣を振るう。

 度重なる抗争で幾人も斬り捨ててきた。階層主であるゴライアスを斬った事もある。

 しかし――

「なに!?」

 しかし、それは御大層な竜の紋章が施された――いっそ調度品の様にも見える盾にあっさりと弾かれる。それと同時に振るわれた切っ先が、胸元を浅く斬り裂く。

 飛び退くのがもう少し遅ければ両断されていただろう。いや、Lv.4に昇格してなければ、飛びのいていたところで間に合わず、真っ二つになっていたはずだ。

「……掃き溜めも鶴か」

 ぽつりと、【正体不明(イレギュラー)】が呟いた。

「残念だ。『殺生石』さえ知らなければ、殺さないで済んだんだが」

 自分を包囲する者達を一瞥し、小さくため息を吐く。

「殺せえええええええッ!」

 息絶えた魔導士を蹴り除けながら、主神が叫び――そして、殺戮が始まった。

 

 そして。

 ほんの束の間、雲に隠れていた月が再び姿を見せる頃。

 白々と差し込む月光に照らし出されたのは、路地の上、血の海に沈む一二体の遺体だけだった。

 

 

 

「シャクティ! 起きているか!?」

 その日は、まだ日も昇らぬうち、私を呼ぶ声で始まった。

 別に珍しい事ではない。血気盛んな連中が住まうこのオラリオで、治安維持になど携わっていれば日常茶飯事である。

 とはいえ、好ましい事ではない。夜間帯を受け持つ団員にも相応の手練れがいる。

 冒険者同士の小競り合い程度なら、彼らだけで充分に対応できる。

 そんな彼らが団長である私を起こしに来た以上、控えめに言って厄介な事が起こっているのは間違いない。

 いや、今回はそれどころではなかった。

 声の主はガネーシャだ。

「ガネーシャ、どうかしたか?」

 寝台から跳ね起き、夜着を脱ぎ捨てながら訊き返した。

「そう。俺がガネーシャだ!」

「分かっている。要件はなんだ?」

「すまんが至急、団員を率いて歓楽街へ向かってくれ!」

「歓楽街だと?」

 愛用の戦闘衣(バトルクロス)を身に纏いながら訊き返す。

(確かに、ここ数日奇妙な動きを見せていると捜査員から報告が上がっているが……)

 何分、あの区画は繁華街――特に大賭博場(カジノ)と並んで私達が介入し辛い区画だ。

 しかも、五年前からはギルドの制御も碌に利いていない。

(一体何が……?)

 いや、ここで考え込んでいても仕方がない。

 愛用の拳装(メタルフィスト)と槍を携え、扉を開けた。

「一体何があった?」

「うむ。色々と緊急事態だ!!」

 ざっくりとした説明にも慣れていた。

「とにかく大急ぎで歓楽街に向かい、『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』を押さえてくれっ!」

「『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』を押さえろだと……?」

 その場所こそが歓楽街を支配する【イシュタル・ファミリア】の本拠地(ホーム)だ。

 押さえろと言われたところで押さえようが……、

「ひとまずの事はここに書いておいた!」

 ガネーシャが軽く丸められた書簡を差し出してくる。

「詳しい事が分かれば追って知らせる! 今は大急ぎで『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』を押さえるのだ!! ここにギルドからの許可書もあるゾウ!」

「分かった」

 書簡とギルドからの許可書を受け取り、頷いた。

 ひとまず聞くべきことは聞いた。ならば、あとは主命を全うするのみだ。

「姉者!」

 詰所に向かうと、全員が装備を整えて待機していた。

 私と同じLv.5であるイルタ・ファーナを筆頭に総勢一八名。全員がLv.3以上の精鋭だ。

「一体何が起こったんだ?」

 おそらくガネーシャが手配したのだろうが――単に集めるだけ集めたらしい。

 私と同じく、まだ詳細は聞いていないらしい。

 しかし――

(これほどか……。いや、当然だな)

 この布陣は完全に切り込み部隊だ。通常の捕り物なら過剰戦力となりかねない。

 かつて闇派閥(イヴィルス)への()()()()を行った時と比べても見劣りしないのだから。

「これより、『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』を押さえる」

「はぁ!?」

 宣言すると、全員が驚いた声を上げた。

 何しろ、あの派閥と私達はそれなりに因縁がある。

「どういう事だ姉者! まさか派閥抗争でもしようとでもいうのか?!」

 本拠地(ホーム)を押さえようとするなら、確実にそうなるだろう。

 ……本来なら。

「いや、それはもう終わっている」

 ここに来るまでに、書簡には軽く目を通してある。

「【イシュタル・ファミリア】は壊滅した」

 箇条書きに書き殴られたその書簡は、ひとまず重要な項目だけを簡潔に伝えてくれた。

「【正体不明(イレギュラー)】クオンが関わっている」

 それ以上の言葉は、もはや必要なかった。

 

 未だ朝日の気配すら感じない街を疾走する。

 歓楽街は、第三区画から第四区画にかけて広がる広大な区画だ。

 私達の本拠地(ホーム)がある第六地区からは、第四地区の入口を目指すのが一番近い。

(まだ夜が明けていないのがせめてもの救いか)

 広大なオラリオにおいて、複数の区画を超える移動には馬車(タクシー)を用いる事が多い。

 オラリオ有数の大派閥である私達には専用の馬車もあるが……そこはガネーシャより『神の恩恵(ファルナ)』を賜った私達である。

 特に高位の冒険者であれば、馬に頼るより自らの脚で走った方が速い。

 真に緊急を要する場合、馬車など使わないのが通例だった。

 酔いつぶれ、路地に盛大に寝転がる冒険者を飛び越え、さらに加速する。

「姉者。先ほどの話は本当なのか?」

 並走するイルタが、いつになく険しい顔で問いかけてくる。

「分からん。その真偽も含めて調査するのが私達の役目だ」

 とはいえ、歓楽街に対しては特に腰の重い――五年前の一件以降は動いた事がないギルドが許可書まで発行したのだ。相応の根拠があるのは間違いない。

 ……まぁ、クオン絡みである以上、ロイマンを素通りして出された指示とも考えられるが。

「それはそうだが……。いくらあの【正体不明(イレギュラー)】といえど、本当に神殺しなどするのか?」

 返事をしかねた。答えを持ち合わせていなかったからではない。

 きっかけさえあれば、躊躇いはしないだろうという確信があったからだ。

(だが、何故【イシュタル・ファミリア】なんだ?)

 ここしばらくの間、あいつが襲撃していたのは【フレイヤ・ファミリア】のはずだ。

 それに【イシュタル・ファミリア】はあいつと懇意にしているアイシャが所属する派閥でもある。

 大体――

(あいつは歓楽街とほとんど関わりがないはずだが……)

 しばしば誤解されているが、四年前にあいつが姿を見せたのは歓楽街ではなく繁華街だ。

 それは本人以外にも、霞やアイシャからも聞いている。

 そう。クオンと歓楽街を結ぶ唯一の接点こそが、アイシャ・ベルカだった。

(一体なぜ?)

 いや、神イシュタルは神フレイヤに隔意を抱いているらしいという噂は耳にしている。

 連日の【フレイヤ・ファミリア】襲撃の噂を聞き付け、クオンと接触したとしても不思議ではない。

 例えば、その時にクオンを『魅了』しようとしたなら――

(逆鱗に触れるだろうな)

 五年前の神フレイヤ同様に。

 しかし、仮にそうだとして――

(何故、アイシャは止めなかった?)

 彼女は幹部の一人である。そうなる前に止める事ができたはずだ。

 その疑問に答えが出ないまま、歓楽街へと到着した。

「特に異変はありませんね……?」

 団員の一人が周囲を見回して呟く。

 世界中の建築様式の見本市とも揶揄される街並みにはこれといって変化はなかった。

 未だ夜が明けきらぬとはいえ、すでに客引きをする娼婦の姿はほとんどない。

 酒でも飲んだのか、それとも()()()()()()のか、軒下で暢気に眠りこけている男がいるのも普段通り――と、言っても、私も報告に聞くだけだが――だった。

 いや……、

(男神達の様子が……?)

 ここまでの道中で一番多く見かけたのは男神達だ。

 普段であれば鼻の下を伸ばしている筆頭とも言える彼らだが、今は一様に険しい顔をしている。

(これは、本当なのか……)

 クオンが神殺しを行ったのは。

 内心で呻く頃には、城と見紛うばかりの巨大な娼館――【イシュタル・ファミリア】の本拠地(ホーム)である『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』が見えてきた。

「これは、派手にやったようだな……」

 街の様子から一転して、異変は明らかだった。

 外壁の入口と建物の入口を繋ぐ石畳は抉られ、溶けては変質していた。

 それをなした何かが直撃したらしい大扉と、外壁に設置されてたであろう鉄柵はどこにもない。

 鉄柵と言っても、本当に『鉄』でできている訳ではない。迷宮資源を用いられているはずだ。

 それが跡形もなく消し飛ばされるほどの火力がここで使われたのは間違いない。

「よう、同族(アマゾネス)。入団希望なら、ちょいと遅かったな」

 建物内には凄惨な光景が広がっているに違いない――と、全員が固めたであろう覚悟は、ひとまず空振りに終わってくれた。

「そっちのヒューマンもなかなか……って、なんだ。よく見りゃ【象神の杖(アンクーシャ)】じゃねぇか」

 広大な玄関ホールに踏み込むと、灰色髪のアマゾネスに気楽な様子で出迎えられる。

「派閥抗争なら、お前らの勝ちでいいぜ。やりようがねぇからな」

 何なら投降の証にオレが全員()()にしてもいいぜ?――と、笑うアマゾネスに安堵すればいいのかどうなのか。

 ……そして、お前達(男ども)は動揺するな。仕事中だ。

「【正体不明(イレギュラー)】と抗争したというのは事実か?」

「おうよ。耳が早いな」

 あっさりと肯定してくるあたりは、豪胆なアマゾネスらしい。

 いや、流石はあのアイシャの同僚と言うべきなのか。

「噂以上の化物だなありゃ。普通に客として来てくれりゃこっちも普通に大歓迎してたぜ」

 あっさりと笑って見せるのは、実にアマゾネスらしい反応だと言えよう。

「ホーム内を捜索したいが、構わないか? ギルドの許可書もある」

「好きにしな。さっきも言ったが、止めようがねぇ。今日は客もいねぇしよ」

 肩をすくめるアマゾネスの言葉に頷き、団員を連れて奥へと進む。

 とはいえ、全員ではない。まずは本館を押さえ、守りを固めなくては。

 火事場泥棒を企む不届き者はいつだって現れるのだから。

(見事なものだな)

 半数を残して先に進む途中、小さく呟いていた。

 流石は大派閥の一つ【イシュタル・ファミリア】の本拠地(ホーム)だけあって、調度品はどれも豪奢なものだった。

 それに――

(もっと淫靡な造りなっていると思ったが……)

 予想していたよりもずいぶんと上品な内装だった。

 とはいえ、随所に蠱惑的な裸婦画や裸婦像が飾られている辺りは、いかにも戦闘娼婦(バーベラ)の城といったところだろう。

 特に裸婦像は英雄譚に語られる蛇の女怪によって石に変えられたのかと疑うほど精巧なものだった。本当にただの石像か?――そんな疑問と共に、つい手を伸ばしてみたくなる程に。

 いや、それはともかくとして……、

「本当に派手にやったものだな」

 恐れ半分、呆れ半分と言った様子でイルタが呟いた。

 クオンが通り抜けたと思しき場所は、絵画も壺も盛大に破壊されている。

 破壊痕を辿って行くと、いったん外に出た。

 その先には、どうやら別館らしき建物がある。

 その入口も、例によって派手に吹き飛ばされていた。

「これはまた……」

 中に入ってすぐ、思わず呟いていた。

 どうやら、ここが主戦場となったらしい。

 四〇階層以上はありそうな本館に迫る勢いで広大な別館を登りながら内心で呻いた。

 破壊の痕跡は先に進むほど深くなり――しまいには床に大穴が開いているほどだ。

「一体どこに向かっているんだ?」

「空中庭園さ」

 案内役として連れてきた灰色短髪のアマゾネス――サミラという名前らしい――に問いかけると、彼女はあっさりと言った。

「何故そんな場所に?」

 造りにもよるだろうが、防衛戦にはあまり向いているとは言い難いように思うが。

 いや、それとも開けた場所で物量に物を言わせて圧倒するつもりだったのか。

「色々とあってな。そろそろだぜ」

 その先の広間は、今までで一番派手に破壊されていた。

 どう考えても大規模な魔法が放たれたとしか思えない。調度品どころか、絨毯や壁紙すら焼かれ、まるで廃墟の様だ。

「ここの防衛にあたった連中も、本当に来るとは思ってなかったんだよ」

 サミラが肩をすくめる。

 私達からすれば何を暢気なと思うところだが……まぁ、これが真っ当な反応か。

(正体不明の名は伊達ではないからな)

 有名な冒険者なら誰でもそういう傾向にあるが、あいつの場合は特に噂が先行している。

 滑稽夢想、奇想天外、奇妙奇天烈な噂も多いが……。

(あいつの場合、実歴も規格外だからな)

 Lv.0でありながら【猛者(おうじゃ)】と互角に渡り合う――と。この時点で、常識的に考えれば滑稽夢想な話だ。私とてこの目で見ていなければ信じられなかっただろう。

 そんなものが事実として成り立ってしまうのだから、あいつの噂が混沌を極めるのも無理はない。

 そして、話の種として語るなら奇天烈なほど面白いというのはある種の真理だろう。

 だが、そういう噂ばかりが広がると、事実すら噂となって信憑性を失っていく。

 結果として、あいつの実情はかなり曖昧にしか知られていない。

 まさに正体不明という訳だ。

「ここが空中庭園か……」

 ここの異変も明らかだった。

 まずその一角が完全に焼け落ち、大穴が開いている。

「あそこには何があった?」

「さてね」

 先ほどと同じく、サミラは何も話そうとしない。

 小さくため息を吐いてから、視線を動かした。

 もう一つの異変は、玉座にも似た立派な椅子の前にある。

 こちらはあまり目立たない。

 ただ、よく見るとその周辺の石畳が弧を描いて、滑らかに削り取られている。

 距離にしておよそ七Mほど。魔法の痕跡に似ているが――

(術者はあの椅子の傍にいたとしか思えないな)

 近くに片膝をつき、その痕跡を指先で撫でながら呟く。

 その痕跡は、椅子を始点にやや右に湾曲した円錐を描いて広がっていた。

「あの椅子は誰のものだ?」

「そりゃ、もちろんイシュタル様のものさ」

 当然だろ――と、言わんばかりにサミラ。

 確かに豪奢な椅子だ。それ自体は何の疑問もない。

 だが、そうなると……、

(この痕跡は、神イシュタルが何かした結果という事にならないか?)

 それはあり得ない。天界ならばまだしも、下界では如何に神と言えど人間と……それも恩恵を持たない常人と変わらないのだ。こんな真似ができるはずがない。

 その痕跡は、まるで熟練の石工が丹念に磨き上げたかのように滑らかだ。

 余計な傷はない。よほど高位の――それこそ、【九魔姫(ナイン・ヘル)】ほどの魔力とそれを御する精神力を有していたとして、果たして真似できるかどうか。

 そんな事をもし神イシュタルができたとするなら、それは――

(なりふり構わず、『神の力(アルカナム)』を使用した?)

 それも場合によっては許可される『神の鏡』ではなく、攻撃の手段として。

 それほどの危機感を、神であるイシュタルに抱かせたという事になる。

 いくら手練れとは言え、ヒューマンであるクオンがだ。

 そんな事が本当にあり得るのだろうか。

(いや、()()()()のか?)

 彼の話が本当なら。

 そして、実際にデーモンは姿を現した。

 あれが神すら脅かす厄災であり、クオンがそれを討滅する力を持っているならば――

「ところで【象神の杖(アンクーシャ)】」

 戦慄していると、サミラが言った。

「何だ?」

「どうせここを漁るんなら、ついでにオレ達も守ってくれねぇか? 敵が多くてさ」

 イシュタル様がいなくなっちまって戦えねえんだ――と、サミラは苦笑した。

「……いいだろう。お前達には聞きたい事が山ほどある」

 どのみち、その手はずは整えてある。

「拷問は勘弁だぜ? アイシャの二の舞は勘弁だっての」

 それは軽口だったのだろう。

 ただ、後半の言葉を口にした時、サミラはしまったと言わんばかりの顔をした。

 とはいえ、それはそこまで差し迫ったものではない。

 つまらない軽口を叩いてしまった――と、その程度のものだろう。

 だが、その言葉は聞き流せない。

「その話、詳しく聞かせてもらおうか?」

 さっさと立ち去ろうとするサミラを追って、問いかける。

「どの話だよ?」

「アイシャ・ベルカについてだ。拷問されたとはどういうことだ?」

「あー…。いや、大した話じゃねぇよ。【ファミリア】内のけじめって奴で、お前には関係ない」

 ほらほら、本館に戻ろうぜ――と、露骨に話を逸らそうとするサミラをさらに問い詰める事にした。

「いいや、そうとも限らん」

 何しろ、アイシャはクオンの……まぁ、何だ。おそらく情婦という奴だ。

 少なくとも、出会ったのは――男女の関係を持ったのは霞が先のはずだ。

(あいつらの関係性はよく分からないがな)

 霞とアイシャの仲の良さを思い出しながら、内心で首を傾げる。

「ずいぶんとアイシャにこだわるじゃねぇか。あれか。お前も【正体不明(イレギュラー)】の女ってのはマジだったりするのかよ?」

 ……まぁ、そういう噂が立っているのは知っているが。

 同じ噂を持つ【九魔姫(ナイン・ヘル)】よりも頻回に顔を合わせているだろうし、それも致し方ない事だ。……もっとも、全ての原因はあの男がふしだらなせいだが。

「ちなみに、私以外は誰なんだ?」

 事実無根――少なくとも私に関しては――の噂をいちいち相手にしていても仕方ないが……どうやら今は利用できそうだ。

 否定も肯定もせず、ただ問いかけた。

「あん? そりゃ、【九魔姫(ナイン・ヘル)】とアイシャだろう?」

 ……やはりか。

「アイシャとクオンの関係を知っているんだな?」

「……あ」

 今度こそ失言を悟ったらしく、サミラは露骨に視線を逸らした。

 ならば、隠し立てする必要はない。

「クオンとアイシャは確かに男女の関係にある」

 以前アイシャは否定したが、あの二人は馴染みの客と娼婦というには少々親密過ぎた。

「そんなクオンが何故【イシュタル・ファミリア】を襲撃したのか腑に落ちなかったが、もしアイシャ・ベルカが拷問されていたとするなら、それも説明がつく」

 そう、その原因が必ずしもアイシャに非があるものではないとすれば。

 そして――

「その時、直接手を下したのは神イシュタルなのではないか?」

 だとすれば、可能性は充分に出てくる。

 もっとも、今のところの手ごたえからして、まだもう少し裏がありそうだが。

 そして、おそらくはその『裏』こそが、オラリオをひっくり返しかねない何か、という事だ。

「さーて! レナ達の様子を見に行かねぇとな!」

 露骨に話を誤魔化し、サミラは空中庭園から逃げ出していく。

「やれやれ……」

 イルタと他に数名を空中庭園に残し、私達も後を追った。

「流石に手際が良いな」

 幸い【イシュタル・ファミリア】の関係者は、別館にあるいくつかの大部屋に揃っていた。

 本館で見かけた者達は、取り急ぎ貴重品の回収を行っていたらしい。

 残してきた団員にはその作業を手伝わせ、終了後はこちらに合流させてある。

 ……もっとも、そのせいで本当に隠さねばならない『何か』はまだ向こうに残されている可能性もあるが。

「いや、単に面倒だっただけだ」

 ともあれ。私の呟きに、サミラはあっさりと肩をすくめる。

「アイシャの奴に後の事は全部押し付けられちまったからな。本拠地(ホーム)中に散らばられちゃ指示出すのも一苦労だろ? それに、怪我人も派手にやられた奴はこっちの方が多かったしよ」

 あと、物資もこっちに集まってたんだ――と、サミラ。

 クオンの襲撃に備えて、という事だろう。

「離反者はどれくらいいる?」

「実はまだ数え切ってねぇんだ。何しろ、見ての通り戦えない高級娼婦(おんな)もいるからな。そっちの保護を優先してたもんでね」

 確かに、一見すると()()()()に見える女性も相当数この本拠地(ホーム)にいる。

「けど、ヒキガエル達……団長と副団長は揃っていねぇよ」

 だから、オレが面倒見てるってのもある――と、そんな言葉を聞き、ため息を吐いた。

(まぁ、当然と言えば当然だろうが……)

 重要な何かを知っていたであろう団長と副団長が揃って不在とは。

 あるいは、他にも重要な事を知っていた団員を()()()()と言っているだけなのか。

「この別館は何のために建てられたんだ?」

「見りゃ分かるだろ? 特別上等な客のための貴賓室さ」

 確かに臨時の病室となった部屋は広大で上等な造りだった。

 何しろ、室内には浴室まであった。設えられた湯舟は大人数人でもゆったりと浸かる事が出来ただろう。しかし、部屋の広さに反して寝台は一つしかなかった。

 ……まぁ、天蓋付きの立派なもので、一度に五人ほど横になれそうな大きさがあったが。

「その割にはあまり使われていなかったようだが?」

「そりゃ、そんな上物が毎日来るわけでじゃねぇからな」

 それはそうだろうが――しかし、それだけが理由とは思えない。

 いや、別館の建築の()()()()()はサミラの言う通りだったのかもしれないが――

(気になるのは空中庭園だな)

 特に、完全に焼き尽くされていた一角だ。

 あれをやったのはクオンに違いない。だが、一体何故そこまでしなくてはならなかったのか。

「空中庭園には何があった?」

 改めて、本題に移った。

「見ての通りの場所だぜ」

「何のための場所だ?」

「そりゃもちろん、外でシたい客のための場所さ」

 ニヤニヤと笑うサミラに、胸中で嘆息する。

 どうにも埒が明かない。

(手札が少なすぎるな)

 そもそもガネーシャからの指示書には『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』を押さえろとしか書かれていない。

 事前情報がほぼない状況だ。普段通りに事を進めようとする方が無理がある。

(ひとまず続報を待つしかないか)

 これ以上の離反者を出さず、重要な『何か』を破壊ないし隠蔽させない事を最優先とすべきだろう。

「団長!!」

 これから先の人員配置を考えていると、団員の一人が飛び込んできた。

「どうした?」

「襲撃です! ガネーシャ様からの伝令がやられました!」

「何だと?!」

「幸い伝令は生きていますが、敵はなおも攻撃を継続中です!」

本拠地(ホーム)内に侵入を許したのか?」

「申し訳ありません!」

 団員の返答に、流石のサミラも顔色を変えた。

 だが、今はそれどころではない。

「全員を呼び戻せ。まずは別館最上階の安全を確保する」

 たった一九人では別館全域の確保すら不可能だ。

 それどころか、実際に守れる範囲はもっと少ない。

(空中庭園に本陣を敷くしかないか)

 非戦闘員全員が集まれる場所はそこくらいなものだ。

「はっ!」

 その団員が外に出ると、特定の旋律を刻む笛の音が響き渡る。

 耳を澄ますと、同様の笛の音が輪唱の様に数ヵ所から聞こえてくる。

「心当たりはあるか?」

「ああ。ありすぎて逆に分からねぇぐらいにな」

 それはそうだろう。今さら嘆息する気にもならない。

(まったく、ハシャーナの仇も追わねばならないというのに……)

 やっとフィリア祭の騒ぎが一段落ついたかと思ったらこの有様だ。

(今日も長い一日になりそうだ)

 迫る殺気を感じながら、小さく呻いていた。

 

 

 

 ギルドの最奥――主神ウラノスが座す『祈祷の間』。

 ダンジョン封印の要であるこの部屋は、普段から陽気さとは程遠いが……

(今日は飛び抜けて酷いな)

 それも当然か。

 恐れていた事がついに起こってしまったのだから。

 神殺し。下界における最大の禁忌をクオンは冒した。

 しかも――

「……まさか神イシュタルとは」

 ()()()()のは、あいつと親密な関係にあるアイシャ・ベルカの主神だ。

 いや、詳細を聞けば確かに納得だが――

「私はむしろ、かの女神がクオンを抱き込み、手出しできなくなる事を恐れていたよ」

 繰り返すが、神イシュタルはアイシャ・ベルカを眷属としている。

 ある意味において、どの派閥よりもクオンを取り込みやすかったはずだ。

 とはいえ、事ここに至っては安堵する気にもなれないが。

「あの男と私達(神々)の確執はそう容易いものではない」

 腹に鉛でも詰まっているかのように重苦しい声でウラノスは呟いた。

「クオンなら殺すだろう。必要とあらば、それが例えガネーシャやミアハであっても」

「……それほどか」

 かつてまだ体があった頃なら、鳥肌と冷や汗に悩まされた事だろう。

 それほどまでに、ウラノスの言葉は確信に満ちていた。

 ほんの僅かな疑念すら、そこには宿っていない。

「ウラノス。改めて聞くが、本当に神イシュタルは()()()()のか?」

 しばらくの沈黙の後、口を開いた。

「ああ。イシュタルは死んだ。天界に還った訳ではない」

 再び、何の疑念もない声でウラノスが頷く。

 しかし、何度聞いても信じがたい。

 ……人間(クオン)超越存在(イシュタル)を完全に殺せるなど。

「『ソウルの業』か。話には聞いていたが……」

 まさかこれほどのものだとは。

 ないはずの肌に鳥肌が立つどころか、骨まで泡立ったような気分だった。

「『火の時代』の闘争とは、魂の喰らい合いだったと聞く」

 神座にもたれかかり、ウラノスは言った。

「いかに我ら神とは言え、魂を奪われては死ぬしかない。今のガネーシャなら納得するだろう」

「……それは、デーモンと対峙したからか?」

「ああ。あれもまた我らを殺しうる厄災だ。それを殺せるのであれば、私達も殺せる。いや、それができなければ生きていけなかった時代だったとも言えるだろう」

「格上殺しができなければ生きていけない時代か……」

 神にも匹敵する敵を打ち倒さねば生きていけなかったとするなら――と、胸中で呟く。

 なるほど、クオン達がこの時代を平和だと言うのも納得がいくというものだ。

「そして、今やその脅威がダンジョンにそれが巣食っていると?」

「おそらくな」

「……今さらなのだが、ウラノス。貴方ならダンジョンに異変があれば分かるのではないか?」

 少なくとも、ダンジョン内の深刻な異変に関しては把握しているはずだ。

 異端児(ゼノス)という飛び切りの異常事態(イレギュラー)にすら勘付いたのだから。

「見通せない」

「……何だって?」

異邦人(フォーリナー)達の誰かが邪魔をしているのか。ダンジョン自身がそれを受け入れているのか。あるいは、取り込もうとしているのかもしれんが。いずれにしても、ある領域より先で何が起こっているのかはまるで分からない」

 異邦人(フォーリナー)。クオンをはじめとした『火の時代』から流れ着いた者達。

 まだ詳細を知らなかった頃に、私達は彼らをそう呼称していた。

 その後、クオンらと関わり、彼ら不死人が()()()()()()()だと分かってからは使わなくなって久しい。それを今、改めて使うとなると――

「不死人以外の何かが存在していると?」

「ああ。それが私の祈祷(神の力)を受け付けない」

「まさか神とは全く別の超越存在がいると?」

「何を以って超越と言うのか、という問題にもなりそうだがな」

 確かに、完全な神殺しをやってのけた以上、クオンは人間を超越しているとも言えるが……。

「私が探っているのと同じく、異邦人(フォーリナー)もこちらを探っている。今この時もだ」

 思わずゾッとした。

 慣れ親しんだ『祈祷の間』の薄闇が、妙に不気味に感じる。

 すぐそこの物陰から、得体の知れない何者かの息吹が伝わってくるような……、

「覗き込めん。無理に覗き込めば、おそらく私は耐えきれない」

 愚かな妄想に耽っている間に、ウラノスが言葉を続けた。

「どういう意味だ?」

「これは私達にとっての猛毒だ。もし触れれば、あとは狂うしかない」

 ウラノスは、こうして詳細をはぐらかす事があった。

 ()にとっては長い付き合いだが、ウラノス()にとっては刹那の事なのだろうか。

「許せ、フェルズ。私にも恐ろしいものがある。そして、できれば語りたくない事もだ」

 それを見透かしたように、ウラノスは言った。

「語りたくない事、か……」

 それは、おそらく――

「千年前。降臨した時……いや、旧バベルを破壊した時の事か?」

 神が降臨し、『神時代』が幕を開けた時の事だろう。

(その時に、何かがあったはずだ)

 神々は『遊びに来た』などと言うが……いや、それは事実だろう。

 大半の神々が地上に娯楽を求めてきているのは間違いない。

(だが、最初に降臨した神々は本当にそうなのか?)

 少なくとも、ウラノスは違うような気がしてならない。

 ここで祈祷を続ける事に、一体どんな娯楽があるというのか。

 私には時に懺悔しているようにも見える。

(そして、もう一つ)

 こちらは心情的なものではない。

 客観的に見れば――そして、探究心を僅かでも持つなら――誰でも疑問に思う事だろう。

(痕跡が少なすぎる)

『古代』についての記録がほとんどないという事だ。

 いや、それは語弊がある。

 それこそ迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)や各種の英雄譚は、『古代』の英雄達の姿や功績を伝える。あるいは、彼らが生まれた国や旅した世界についても。

 気になるのは、オラリオだ。

 かつて『世界の果て』と恐れられたこの地に旧オラリオが築かれたのは神々が降臨する前だ。

 その旧オラリオに関する情報がほとんど残されていない。

 どうせあっても粗末な小屋ばかりで、残す気にもならなかっただけだろう――と、そう言って笑う者もいるが、私はそうは思わない。

(この地には『古代』にも文明があったはずだ)

 そうでなければ、仮にもダンジョンの蓋となった旧バベルを建築できるはずがない。

 モンスターの侵攻を防ぎつつ塔を築くには、相応の人員や物資、施設が必要となる。

 それを賄えるだけの都市がここにはあったはずである。

 だが――

(何故、何も残っていない?)

 遺跡だろうが文書だろうが……旧オラリオを伝えるものはほとんど残されていない。

 ……いや、理由にも見当がつく。理由というよりは原因か。

(……【狼騎士】アルトリウス)

 語られざる大英雄【狼騎士】アルトリウス。

 種族を問わず数多の英雄を束ね率いて、かつて『世界の果て』と恐れられていたこの地に攻め込み平定したという大英雄。エルフもドワーフもアマゾネスも……あらゆる種族の全てを束ねたかの英雄は、まさにオラリオ――すべての種族が共存するこの都市の生みの親だ。

 オラリオ開闢を成した英雄達の間に上下関係はなかったとされている。

 しかし、彼が英雄同盟――『円卓の誓い(ラウンズ)』の盟主であり、中核――全軍指揮担っていたのは明らかだ。

 そもそも彼無くしてその同盟が成立しなかったのは誰の目にも明らかであり……それは当事者である数多の英雄達ですら、認めるものであったはずだ。

 

【狼騎士】――あるいはまた【狼王】アルトリウス。

 

 その呼称こそが何よりも雄弁にそれを語っている。

 無論、彼がオラリオの王だったという確たる証拠はない。

 しかし、この英雄がいなければオラリオの始まりは数百年ほど遅れただろう。そう語る歴史家は多い。

 いや、ダンジョンから無限に生み出されるモンスター達に蹂躙され、神蓋(バベル)建築を待たずして人類史そのものが途絶えていた――と、そう推測する者も決して少数とは言い難い。

 比類なき偉業を成し遂げた大英雄だが……彼について現在(いま)に伝わる事は少ない。

 理由ははっきりしている。

(神々への反逆、か)

 その英雄は『古代』の終わり、神々の降臨に際して、彼らに反逆したとされる。

 理由は定かではない。少なくとも現代には伝わっていなかった。

 ただ、彼が仲間の一部を率いて神に反逆したという短い記述だけが遺されているばかりだ。

(保身、とは思えないがな)

 街の支配権を奪われる事を恐れたのだ――とする説はある。

 戦場にあっては無双の強さを誇り、平時においても数多の種族から厚い信頼を寄せられ、至高の騎士と称賛されたその英雄と言えど、野心には勝てなかったのだと。

 理由は何であれ、かの英雄の物語はその大逆を以って幕を閉じる。

 原初の『冒険者』達に討たれたとも、オラリオを去ったとも言われるが――そもそも、生没年はおろか、どの種族だったのかも定かではない。

 彼の足跡は古代史からほぼ完全に削ぎ落されている。

 それでも数多の英雄譚にその痕跡を残しているが、彼自身の逸話は遺されていない。

 少なくとも神公認のものは。

 旧オラリオと言い、旧バベルと言い、アルトリウスに関するあらゆるものを歴史から葬ろうと誰かが画策したかのように。

 そして――

(そんな事を企めるとしたら、それは神々しかいない)

 人々の口を封じ、記録を残さないように――あるいは、その痕跡を悉く破壊するよう人々を誘導できたとすれば、それは神々しかありえない。

(だが、一体何故?)

 そこまでして、一体何を隠そうとしたのか。

 ……それに関しても、推論はある。

 古代の英雄達も、まるで『神の恩恵(ファルナ)』を賜ったかのような人間離れした逸話を多く持っている。

 もちろん、精霊の加護を得た結果――と、多くの場合は伝えられている。

 実際、それもまた事実だろう。神の降臨以前、精霊が英雄の導き手だったのは歴史的にも明らかではある。

 だが、クオンの存在を……何より彼が神殺しを可能とする理由を考慮するなら――

「……まぁ、語りたくないと言うならこれ以上は訊かない。すまなかった、ウラノス」

 おそらく『神時代』の幕開けは、語られるほど華々しく、祝福に満ちたものではなかったのだろう――と、一足飛びに結論だけを呟き、思索を打ち切った。

「……いずれ」

 私が話を変えるより先に、ウラノスが呟く。

 その声は、見た目通りに年老いた老爺のそれに似ていた。

「いずれ、話そう。……時が来たなら、全てを」

 いや、声だけではない。

 その姿は、遠い昔の何かを後悔する老人のそれだ。

 ギルドの創設神であり、神蓋(バベル)の要でもある偉大な老神の姿は、今そこにはなかった。

「……分かった」

 それ以外に一体どんな言葉をかけられる?

 例え過去にウラノスが何をしていたとして――それでも、この千年にわたる安寧は、彼の献身なくしてはあり得なかった。

 そして、私はその姿を数百年に渡って傍で見てきたのだ。

 咎める言葉など、もはや持ち合わせていない。

「それより、これからどうする?」

 改めて、話を変える。

 今は遠い過去よりも、すぐ先の未来の方が重要でもある。

「流石に()()()()()()()。四年前の小競り合いとは訳が違う」

 実のところ、クオンが神殺しを冒すのはこれが初めてではない。

 四年前――それもオラリオに迷い込んですぐに、あいつは神を殺している。

 知られていないのは、その時に殺された神は闇派閥(イヴィルス)残党の主神だったからだ。

 もっとも、事が済んでから露見した事だが……それも含めて、まだ細々と続いていた残党狩りに紛れ込み、さしたる話題にはならなかった。

(……まぁ、私達が慌てて誤魔化したというのもあるが)

 それが、私達がクオンの存在に勘付いた最初の原因でもある。

 と、それはともかく。

 何であれ今回はそうはいかない。

「【イシュタル・ファミリア】ほどの大派閥が壊滅したとなれば噂になるのは避けられない」

 そして、眷属達の【ステイタス】が封印されている事実もある。

 ならば――

「神イシュタルがどうなったかは明らかだ」

 クオンがギルド公認のLv.0である以上、自ら手を下す以外の方法はあり得ない。

「事が神殺しとなれば、ロイマンなら安易に討伐命令を出しかねない。そうなれば終わりだ。クオンと全面戦争になるどころか、アン・ディールとやらも動きかねない」

 最悪の場合、彼に従う異端児(ゼノス)達までが敵に回る。

 もしそうなれば、リド達とも対立する事になりかねない。

 そして、今回はそれ以外にも脅威となるものがある。

 下手を打てば、オラリオそのものが滅びかねない。

 私達に、クオンを完全に殺し切る術はない。

 遠い昔、まだ超越存在(かみ)として君臨していた神々。その英傑達ですら、ついに出来なかかった事だ。

 オラリオの総力を挙げれば何度か――あるいは、幾度となく殺す事はできるかもしれない。だが、最後に生き残るのはまず間違いなくクオンだ。

 そうでなければ、あいつは知られざるその大偉業を成し遂げる事などできはしなかっただろう。

「……クオンが持ち込んだ資料は本物か?」

 ウラノスはそう問いかけてきた。

「ああ、本物だ。神イシュタルは間違いなく『殺生石』を作ろうとしていた。私が保証しよう」

 これでもかつては『賢者』などと呼ばれていた身だ。

 かの邪法についても()()として知識を有している。

 ああいや、もはや嗜みとは言い難いか。

(まさか再び関わる日が来るとはな)

 遠い昔、ふとした縁で持ち込まれたあの石を思い出す。

 あの時は石こそ無傷のままだったが、戻すべき肉体がすでに失われていた。

 あれこれと手を尽くしたが……結局、石から魂を解放して天に還してやる事しかできなかった。

 そんな苦い思い出のある代物だが、まさかまた頭痛の種になるとは。

(まぁ、今回は完成していない。それで良しとしておくか)

 そう言って自分を慰められるだけ、あの時よりも随分と気が楽だ。

 もっとも――

「となれば、例の話も事実と見るしかない」

 頭痛の種なら、まだ他にある訳だが。

「……階位昇華(レベル・ブースト)魔法か。五年前の一件は、ある意味正しかったようだな」

 団員のLv.を虚偽報告しているのではないか?――複数の派閥が【イシュタル・ファミリア】を告発した事から始まった一連の騒動は、『暗黒期』らしい狂奔の中でおよそ最悪の形で終わった。

 訴えた神々は天界に送還され、ギルドは賠償金を支払う事に――その結果、委縮して『歓楽街』での違法行為を黙認するようになった。

(全ては神イシュタルの思惑通り、か)

 結局、神イシュタルを訴えた派閥の主神達が正しかったわけだが……今さらそれが判明したところでどうなるものでもない。

「まさかそんな魔法が存在しているとは夢にも思わなかった」

 一時的にとは言え『神の力(アルカナム)』に干渉するなど。

 同じ魔導士として言わせてもらえば、それだけでも卒倒ものだ。

 だが、問題はもっと現実的である。

「そんな魔法が存在し、しかも()()()使()()()手段がある。もしこの情報が流出すれば、オラリオ中の【ファミリア】が追い求めるだろう」

 一時的にとはいえ、一切の危険なくLv.を一段階上げられる。

 冒険者にとってLv.が絶対の基準である以上、その魔法が持つ魅力は計り知れない。

 まして、『発動対象は一人限定』という制限を取り払う手段まで存在しているとなれば――

「下手をするとその魔導士の身柄を巡って動乱が起こりかねない」

 それこそ『暗黒期』の再来だ。

 いや、あの時はまだギルド派閥対闇派閥(イヴィルス)という明確な対立構造があった。

 だが、これはそうならない。

 全ての派閥が各々それを狙いだしかねないのだ。

 そうなれば、もはや収拾はつくまい。

 乱戦に次ぐ乱戦がオラリオ中で起こるのだから。

「その魔導士を殺してしまえ。そういう過激な発想をするものが現れないとも限らない」

 それもまた充分に考えられる。

 動乱に幕をひくためか。それとも、自分の物にならないならいっそ――という理由かはさておき。

 それを恐れたからこそ、クオンもその魔導士の身柄を別の場所に隠したのだろう。

 ……まぁ、実を言えばどこにいるか凡その見当はついているが。

(何しろ、お互いに頼れる相手は限られているからな)

 と、それはともかく。

「そうなったら、おそらくクオンも参戦する」

 そして、参加する他の全てを殺すだろう。

「分かっている」

 ウラノスが深々と嘆息した。

「ひとまず、ガネーシャの子供達に期待しよう」

闇派閥(イヴィルス)との接点か?」

 クオンはそう言っていたが……それについてはどうにも怪しいのだが。

(何しろ、幹部の一人である【麗傑(アンティアネイラ)】すら詳細を知らされていなかったらしいからな)

 とはいえ、彼女と神イシュタルとの間に確執があったのも事実。

 幹部の中で彼女だけが知らされていなかった可能性もあり得るが。

「ああ。もしそれが事実なら、それを全面に押し出す」

 確かに闇派閥(イヴィルス)の残党狩りだとすれば、多少は心証も良くなるが。

「……褒められた方法ではないが、それしかあるまい」

 許せ、イシュタル――と、岩でも吐き出すような声で、ウラノスは言った。

 確かに現状ではそれが最善となるだろう。

 クオンと敵対するのは言うに及ばず、『殺生石』の情報が露見するのもオラリオの危機だ。

 しかし――

悪魔(デーモン)の次は、闇派閥(イヴィルス)の暗躍に期待する事になるとは……」

 そう言えば例の『魔石』は結局発見されなかったのだが、無事に砕かれたのだろうか。

(いや、それもどうだか……)

 あの直後、どこかの派閥が闘技場周辺を捜索していたと聞く。

 今のところまだ確定には至っていないが、おそらく――

(【ディオニュソス・ファミリア】か)

 その団長である【白巫女(マイナデス)】だったのではないか――と、神ガネーシャは言っていた。

 何でも、団員が地下水路でもそれらしい姿を見かけたらしい。

(また妙なところが動き始めたものだ)

 団長の【白巫女(マイナデス)】こそ少々剣呑な噂があるが、それを除けば可もなく不可もなくと言った平凡な派閥である――と、少なくとも一般的には認識されている。

 主神であるディオニュソスは少々食わせ者だが……それを言えば、神は大体そうだった。

 だが――

(『食糧庫(パントリー)』の一件にも【白巫女(マイナデス)】は関わっているらしいな)

 それどころか、出してもいない冒険者依頼(クエスト)について問い合わせてきていた。

 どうやら、彼女達もまたギルドを疑っているらしい。

(まさか【ロキ・ファミリア】と組んだか?)

 地下水路と言えば、【ロキ・ファミリア】も大々的に捜索に乗り出してきた。

 ギルドを疑っているのはあの派閥も同じだが……いや、そもそも神ディオニュソスが唆した結果と可能性もあるか。

 何であれ厄介だった。

 例の『魔石』だけならまだしも、異端児(ゼノス)達の存在まで探り当てられようものなら、控えめに言って悲惨な事になる。

(多大な苦労を背負うと覚悟はしていたが……)

 せめてもう少し加減してもらいたいものだ――と、叶うはずもない願いを胸中で呟いた。

 

 

 

 ようやく淫都に日の光が満ち始めた頃。

「ひとまず、物資の確保は終わったぞ。姉者」

「ああ。ご苦労だった」

 空中庭園に敷いた仮初の本陣でイルタの報告に応じる。

 クオン襲撃に備えていたおかげで、この別館――特に重要な拠点だったらしい空中庭園周辺には予め回復薬や武器の類が多く保管されていた。

 ひとまず、その半数以上を回収できたのは幸運と言えよう。

(おかげで伝令も何とか持ち直したな)

 それでもまだ、この建物内で一番の重傷者だが。

 同じくまだ自分で動けない戦闘娼婦(バーベラ)達もこちらに運び込んである。

 空中庭園はいくつもの柱に守られており、本館からの狙撃はそこまで気にする必要がない。

 ここに繋がる空中廊下と、おそらくクオンが突破してきた大広間には即席の阻塞(バリケード)を構築し、それぞれ六名の団員を配備してある。

 見晴らしのいいここなら、姿を消しでもしない限り奇襲もできないはずだ。

(いや、決して油断ならないな)

 ガネーシャからの封書を見やって嘆息した。

 イシュタルは生贄の儀式を企んでいたらしい!――と、最初の一行目には書かれている。

 とはいえ、そちらに関してはクオンが儀式場を破壊し、生贄となるはずだった誰かと資料も持ち出しているという。

(つまり、あそこか)

 徹底的に焼き尽くされた区画を見やり、胸中で呟く。

 いや、この空中庭園そのものが儀式場と言われればその通りか。

 もし何か残されていたら確実に確保ないし破壊するように――と、その手紙には記されている。

 ……もし流出したなら、それだけでオラリオがひっくり返りかねないとも。

 そこまででも頭の痛い話だ。

 だが、まだ続きがあった。

「サミラ。【イシュタル・ファミリア】が闇派閥(イヴィルス)と接点があったというのは確かか?」

 イルタ達を案内してもらっていたアマゾネスに問いかける。

「あー…」

 しばらくの間、槍――護身のため、携行を許可した――で肩を叩いてから。

「そうらしいな」

 観念したように、彼女は髪を掻きむしった。

「けど、オレも詳しくは知らねぇんだ。そっちの方はイシュタル様が自分でやってただけでね。詳しい話は何も聞いてねぇ。マジだぜ? 今さらンな嘘つくかよ」

 まぁ、それこそタンムズの奴だったら、何か聞いてたかも知れねぇけどな――と、サミラ。

「つまりこれは口封じということか?」

「おそらくはな。サミラ達を介して自分達の情報が流出するのを嫌ったのだろう」

 イルタの問いかけに、肩をすくめて返す。

 と、それを見ていたサミラも流石に顔を強張らせる。

 いかに勇猛なアマゾネスと言えど、【ステイタス】が封じられていては常人とさほど変わらない。

 ……いや、それでもLv.1程度なら相手にできるだけの実力者もいると聞くが――

(問題は相手だな)

 それとて、連携を組まれれば話は変わってくる。

 いや、それ以前に肉体の強度――『器』の差は明白だ。

 一度や二度なら互角に渡り合えるかもしれない。

(だが、三度目は? 四度目は耐えられるか?)

 無理だろう。確実に先に息が上がるのは彼女達の方だ。

 何より、相手は闇派閥(イヴィルス)と見ていい。

 目的を達するために、どんな手段を使ってくるか知れたものではなかった。

 過去には自爆特攻すら厭わなかった事実がある。

 ……そして、『二七階層の悪夢』という惨劇すらも引き起こしている。

「伝令はLv.2。それも上位に食い込む実力者だ」

 イルタが、改めて言った。

 もちろん、私は団長だ。そんな事は心得ている。

「ならば、敵もLv.2以上と見ていいな」

 相手がLv.1であるなら、奇襲を受けたとしてもああまで手酷くやられはしない。

 少なくとも同格(Lv.2)。練度でも互角かそれ以上。

「今のオレ達じゃ束になっても、テメェの身を守るのが精いっぱいだろうな」

 ステイタスなしじゃこんなもんだったか?――と、サミラ。

「何、自分の身を守れるだけでもありがたいものだ」

 これで守るべき相手が全員、完全な一般市民だったら、とっくに詰んでいる。

 たった一九人でこの人数を守れると思える程には傲慢にはなれない。

「ま、確かにLv.0で【猛者(おうじゃ)】に喧嘩売る馬鹿がいるんだ。オレ達だって多少はな」

 腹を括ったかのように不敵な笑みを浮かべるサミラに、小さく笑い返してから。

「さて、では作戦会議といこう」

 持ち込んだテーブルに、ガネーシャの封書に同封されていた『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』の見取り図を広げる。

「こんなもん、どこで手に入れたんだ?」

「知らないな。興味があるなら【正体不明(イレギュラー)】に直接聞くといい」

 少なくとも、ガネーシャはクオンから受け取っているらしい。

 手紙にはそう書かれていた。

「つーか、アイシャも絡んでるのかよ」

 さらに言えば、見取り図にはアイシャによるものと思しき添え書きがある。

 どうやら、神イシュタルの私室や隠し倉庫の類の位置らしい。

 欲を言えば、こうなる前に届けて欲しかった。

「道理で空中庭園まで迷いもしないで攻め上がってきた訳だ」

「その時はアイシャの手助けはなかったようだがな」

 新しい注釈はお前への詫びだ――と、クオンと思しき筆跡の走り書きもある。

 お前とは私の事で、新しい注釈はアイシャが書き込んだ分だろう。

(詫びだと思うなら、せめて事前に……)

 相談しろ――と呟きかけた言葉は、ため息に変わった。

 相談されたからと言って、それに応じられたかどうか。

 派閥が大きくなり、都市全域を警備できるようになったが、その反面、大派閥としてのしがらみも増え、足回りは鈍くなった。

 まして相手はギルドの制御を受け付けない大派閥【イシュタル・ファミリア】だ。

 クオンがいつその『生贄の儀式』について知ったかは定かではないが――いずれにしても、私達が調査を強行するだけの証拠を揃えていては間に合わなかったのだろう。

 ギルドも同じだ。……いや、ロイマンなら『生贄の儀式』すらも見て見ぬふりをしかねない。

(彼女達がいてくれればな)

 盟友として共にオラリのために戦った、とある派閥を思い出す。

 少数精鋭だった彼女達の足回りのよさは、私達の弱点を補ってくれていた。

 ……今はもうない、【アストレア・ファミリア】は。

「チッ、どのみち下準備は万全だったって事だろうが」

 サミラの舌打ちで、つかの間の回想は終わる。

 感傷に浸っている暇はない。そして、ない物ねだりもしていられない。

 今は、目の前の危機に対応しなくては。

「それはそうだろうな」

 その見取り図には、クオンらしき筆跡で小さな走り書きや記号が書き込まれている。

 最短距離を――いくつもの防衛状況を想定した()()最短距離を模索した証だった。

「お前達がどう思っているかは知らないが――」

 小さく苦笑して見せる。

「あいつはあれで意外と慎重なんだ」

 敵対した相手に容赦しない苛烈さもまた、その慎重さの表れと言えよう。

 確実に無力化するまでは手を止めようとしない。

 おそらく、そうしなくては自分が殺されるからだ。少なくとも、今まではそうだったに違いない。

(それも同然か)

 フィリア祭の日に対峙したデーモンを思い出す。

 あんな怪物といつどこで出くわすか分からないような場所を、あの男は旅し続けてきたのだ。

 油断などできるはずもない。慎重すぎても足りない。だが、豪胆でなくては先に進めない。

 そして、苛烈さがなくては生き残れない。

(その心構えは見習うべきかもしれないな)

 特にこういった危機に際しては。

「ひとまず、この書き込みに対して全て対策を講じる」

 この際、敵はクオンだと想定しておく。

 あいつを仮想敵に据えるなら、何を仕掛けてきたとしても驚くに値しない。

 手紙ではすぐに援軍を送ると書かれている。

 そして、異常事態を伝える烽火はすでに上げてあった。

 編成が完了し、部隊が到着するまであと数時間守り切ればいい。

 ……相手に他の狙いがないなら。

「イルタ。ここの防衛は任せた」

 だが、おそらくそんな事はあり得ない。

 ここを守っているだけではオラリオを動乱に導く何かが外に流出するだろう。

 それでは意味がない。打って出るしかなかった。

「心得た。だが、姉者は?」

「神イシュタルの神室を目指す。何か残されているとすれば、そこが有力だろう」

 神室は別館と本館の最上階にそれぞれ存在している。

「ひとまずは別館の神室に向かう。サミラ、悪いがついてきてもらうぞ」

 襲撃者達が求める『何か』があるとしたら、どうにもきな臭いこの別館の神室の方が有力だろう。

「オレにイシュタル様の神室を荒らせって?」

「奴らにやられるよりはいいと思わないか?」

 少しばかり意地の悪い質問を返すと、サミラは肩をすくめて見せた。

「様子はどうだ?」

 大広間側の阻塞(バリケード)に向かい、そこを守る団員に問いかける。

「相変わらずです」

 その言葉に応じるように、阻塞(バリケード)に投げナイフやボルト、矢の類が突き刺さる。

 ただ、それは散発的なものですぐに収まった。

「ひとまず、我々をここに()()()()()()()()()らしいです」

「あちらの狙いも同じか……」

 今頃は本館を家探ししている最中と言ったところだろう。

 オラリオを転覆させる何か、というのはあながち誇大表現ではなさそうだ。

(あるいは、闇派閥(イヴィルス)残党の拠点の手がかりなのか?)

 暗黒期が終わりまだ五年。

 奴らの残党は今もオラリオに潜伏しているはずだが、その拠点は不明のままだ。

 ダンジョンの中にいるとも、ダイダロス通りに分散して潜んでいるとも言われているが、どちらも確たる証拠はない。

(ハシャーナ……)

 ハシャーナの死にも闇派閥(イヴィルス)残党の関与が疑われている。

 ならば――

「これより、作戦を開始する」

 努めて静かに命令を下した。

 私情に囚われていては、足元をすくわれる。

「了解です」

「よっしゃああああああ!」

「あいよ」

 同行者はモダーカとイブリ、そしてサミラの三名。

 空中庭園の防衛を考えれば、これ以上は引き抜けない。

「援護を頼む」

「了解!」

 団員達が、ここで回収した弓やボウガンを構えるのを見届けてから改めて槍を構える。

「行くぞ!」

 一息に阻塞(バリケード)を飛び越える。

 同時、向こう側から襲撃者が攻撃を仕掛けてきた。

(当たる訳にはいかない)

 槍を振り回し、可能な限り払いのける。

 刃に毒が塗られているのは明らかだった。

 掠めただけでも、場合によっては致命傷になりかねない。

 特に【ステイタス】を封じられているサミラにとっては。

 だが――

(悲観する事もないな)

 逃げ遅れた三名にそれぞれ拳と蹴りを叩き込みながら、胸中で呟いた。

 向こうも、私達の介入は想定外だったらしい。

(Lv.2。精々がLv.3か)

 相手の【ステイタス】も決して高くはない。

 間合いさえ詰めれば、無力化するのは容易かった。

 だが――

「全員回避!」

 物陰から最後の一人が動くのを見て、叫んでいた。

「うおおおおおお!?」

 イブリの悲鳴をかき消すように()()が響き渡る。

 拳を触れさせた際、服の下に拳大の何かがある事に気づいていた。

 そして、それが何なのかも経験として知っていた。

(やはり『火炎石』か!)

 それは超硬金属(アダマンタイト)をはじめとした様々な迷宮資源やドロップアイテムを素材とするこの街の鍛冶師達が愛用する強烈な発火剤の名前だ。

 その正体は『深層』領域に出現するモンスターのドロップアイテムであり、その強烈な作用から一般販売は固く禁じられているほどだ。

 彼らはそんな代物を複数個も身に着けている。

 理由も分かっている。

闇派閥(イヴィルス)の自決装備!)

 彼らは自決に毒など用いない。事切れたとしても、背中には己と己の主神の真名が刻まれた【ステイタス】が残るからだ。

 だからこそ、彼らはそれを『開錠薬(ステイタスシーフ)』で暴かれる事の無いように、己の肉体を焼くのだ。

「クソッたれ! これだから闇派閥(イヴィルス)は! 他人(ひと)ン家で自爆すんじゃねぇ!」

 イブリに抱えられたサミラが軽く咳き込んでから毒づく。

 厄介なのは、冒険者の肉体をも瞬時に焼き払うほどの火力である。

 当然、巻き込まれれば私とてただでは済まない。

 それを知っているからこそ、彼らは単なる自決だけではなく、自爆特攻という悪夢すらやってのけるのだ。

 その狂気の戦法は、この装備が普及し始めた頃には特に猛威を振るった。

 今もこれと言った対処法はない。自爆される前に完全に無力化して装備を引き剥がすか、こうして急いで距離をとるかのどちらかだ。

「この馬鹿野郎ども! もっと命を大切にしろおおおおおおおおお!」

 イブリの絶叫に、内心で同意する。

 一体何が彼らをここまで駆り立てるのか。

 薬品によって自我を奪われているのではないかという説も出たが――

(どうやら、そうでもなさそうだな)

 自爆する直前、彼ら――あるいは彼女達――の多くが、誰かの名前を呼ぶ。

 贖罪や再会を望む言葉と共に、だ。

 意味は分からないが、少なくとも自我や思考がないわけではないのは明らかである。

「イブリ! サミラは任せた!」

 新手を一通り打ち倒しながら叫ぶ。

「了解です! 闇派閥(イヴィルス)ども、幼気(いたいけ)な乙女にはこの【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】が指一本触れさせねええええええ!」

「……いいけど。オレ、アマゾネスで戦闘娼婦(バーベラ)なんだけどな」

 イブリに抱えられながら、サミラが眉間を指先で掻く。

 確かに幼気(いたいけ)な乙女かどうかは議論の余地がありそうだが……あえてイブリの気合いに水を差す事もない。

「次から次へと……。装備を解除している暇がない!」

 モダーカが叫ぶ。

 遺憾だが、確かに彼の言う通りだ。

 迂闊に足を止めれば、自爆特攻の餌食になりかねない。

「今は突破する事だけ考えろ!」

 そして、団長として今優先すべきは団員の命であり、オラリオの安寧だ。

 如何に恩恵を得ようと、所詮は神ならぬ身。抱えられるものには限界がある。

「り、了解!」

 それから数回、襲撃と自爆を経たところで、ようやく神イシュタルの神室へと到達する。

「おい、ナントカ! 早く鍵閉めろ!」

 飛び込むと同時、サミラが叫んだ。

「モダーカだ! いや、それより鍵ってどれだ?!」

「それだ、そこの細工!」

「これか!?」

 モダーカが指さされた細工を弄ると、錠が落ちる音がした。

 扉もかなり堅牢な造りになっていて、簡単には破られそうにない。

 ……それこそ自爆特攻でもされない限りは。

 念のため警戒したが、待ち伏せの様子もない。

 大きく息をつくと、高級そうな香水と香の匂いが鼻をくすぐった。

「鍵が開いていたという事は、先回りできたのか?」

「いや、終わってんじゃねぇかな……」

 イブリの言葉に、その腕から飛び降りつつ、サミラが呻いた。

「確かにな」

 豪奢な室内は、明らかに荒らされていた。

 生活感ではない。誰かが何かを探した痕跡だ。

(とはいえ……)

 慌てて引っ掻き回したようには見えるが……何かが壊れている様子はない。

 部屋の主に敬意を持った誰かの仕業と見るべきだろう。

(となると、所在不明の【男殺し(アンドロクトノス)】の仕業か?)

 いや、副団長のタンムズの方だろうか。

「捜索を開始する。サミラ、心当たりはあるか?」

 何であれ、やる事は変わらない。

 何か一つでも……どんな些細なものだとしても、手掛かりを得なくては。

「オレもこの部屋にはほとんど入った事がねぇんだよな」

 と、言いつつ胸元から紙片を取り出す。

「ええと、専属の従者の話だと、そこが衣装戸棚(クローゼット)らしいな」

 その紙片――メモを見ながら、彼女は部屋の一角を指さした。

「ってうおおおおい!? これ、部屋じゃないのかよおおおおおおお?!」

 サミラが指さした扉を素直に開けたイブリが叫ぶ。

「い、いや。それより……何か、下着しかないような……」

「いや、それイシュタル様の普段着だぞ?」

「普段着?!」

「ああ。外出着ならもっと奥の方に――」

 あるのも、やはり下着同然のものばかりだったが。

 流石は淫都の主という事だろう。

(いや、神フレイヤも大胆な衣装(ドレス)を好まれると聞くが……)

 となると、『美の神』の性と言うべきなのだろうか。

「「うおおおおおおおお! おのれ【正体不明(イレギュラー)】! 何て事をおおおおお!?」」

「モダーカ、イブリ、うるさい」

「「すみません団長!?」」

 ……ひとまず、揃って絶叫する男ども(馬鹿二人)を黙らせる事にした。

 女神――いや、それ以前に女性の服を掻き抱きながら叫ぶな。

「イシュタル様に()()()()()()()なら、まずはオレ達にたっぷり貢いでもらわないとな」

 ニヤニヤとサミラが笑う。

「ち、ちなみにおいくら……いってぇ?!」

「仕事中だ」

 イブリの頭を槍の柄で小突いてから、ひとまず掛けられた服の隙間に手を差し込み、その奥にある壁を丹念に撫でていく。

 こういう場所に隠し金庫が設えられているのはよくある事だ。

(しかし――)

 掛けられているのが神の私物だと思うと、妙に緊張する。

 しかも、触れるだけで高価だと分かるその服は極薄の生地で作られており、拳装(メタルフィスト)でひっかけようものなら、容易く破けそうだ。

 余計に緊張感があるのはその事実も影響しているだろう。

「ちなみにオレは一晩一七〇〇〇ヴァリスからだな」

「高っかあああああああああいっ!?」

「イブリ、うるせぇ!」

「カッコいいところ見せてくれたら、少し安くしてもいいぜ?」

「マジで?!」

「うるせぇ、ナントカ!」

「モダーカだ!」

「全員真面目にやれ!!」

 この状況でも平常心を保てるその精神力は認めるが、どうにも方向性に難がある。

「あった!」

 それからしばらくして。

 衣装戸棚(クローゼット)だけではなく、神室全体――設えられていた浴室まで――を捜索していると、モダーカが歓声を上げた。

 視線を向けると、ひと際見事な裸婦像――あるいは、神イシュタル自身を模したものかもしれない――を撫でまわしている。その裸婦像に何かしらの仕掛けがあったらしいが……

「あった……のはいいけど……」

 どうにも歯切れが悪い。

「何が見つかった?」

「いえ、シャクティ団長。それが……」

 裸婦像の土台の一部が開き、ちょっとした金庫――いや、宝石箱になっている。

 飛び切り育ちのいい宝石樹でも見つけない限り手に入らなそうな大粒の宝石で飾られた首環や耳飾りなどの装飾品(アクセサリー)が保管されている。

 そして――

「やはり遅かったのかもしれません」

 その中心に、小さなくぼみだけが残る小さな台座があった。

 ここに何か置かれていたのは確かだろう。

 あるいはこれこそが、()()()だったのか。

「かもしれんな」

 とはいえ、その何かは直径一〇C程度のものだったはずだ。

 金銭的な価値を求めてそれを持ち出したとは考えづらい。

 それなら、他の装飾品(アクセサリー)を置いていく理由がない。この隠し金庫を空にするだけで、ちょっとした財産を築く事ができるほどなのだから。

 となると――

魔道具(マジックアイテム)の類か?」

 これそのものに代替不能な意味があったと見るべきか。

「ああ。それか、鍵か何かかもな」

 サミラが呟いた。

「鍵の形には見えないが……」

「いや、あり得るな」

 モダーカの言葉に、そう応じた。

「鍵として機能する魔道具(マジックアイテム)という可能性はあり得る」

 そして、その先にこそ神イシュタルが隠したかった何かがあるのかもしれない。

「まさか。それなら普通の鍵でいいじゃないですか?」

「そうですよ。そんな大げさな鍵をつけたって、蹴破られたらそこまでですし。そりゃまぁ、分厚い超硬金属(アダマンタイト)製の扉だっていうなら話は別ですけど。あんなもの、ギルド本部か超大手の保管庫(セーフポイント)……それか最大賭博場(グラン・カジノ)にでも行かなきゃお目にかかれませんよ。それに、少なくともギルド本部の奴は魔道具(マジックアイテム)じゃありませんし」

 確かにイブリとモダーカの言う通りだ。

 ギルドの大金庫の扉に用いられているのは『深層』で採掘された超高純度の超硬金属(アダマンタイト)だ。その強度は相当なもので、設計者曰く【猛者(おうじゃ)】の剣戟だろうが【九魔姫(ナイン・ヘル)】の魔法だろうが耐え凌げるらしい。

 それがどこまで本当かはさておき、それだけの物を作ろうとしたなら、その費用も莫大なものとなる。世界最高位の財力を誇るオラリオにおいて、その経済の中核を担うギルドの融資があるからこそ、各ギルド支部に設置できているのだ。

 いや、それとてギルド本部の大金庫程ではないと言われている。

 ……有体に言えば、その分だけ安い訳だ。

(派閥単体で考えれば、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】でもどれほどのものが造れるか)

 さらに言えば、完成した時に入れるべき()()が残っているかどうかという問題もある。

 少なくとも私達の派閥にはそこまで大げさな金庫は……

(まぁ、ないとは言わないが)

 治安維持に関する機密情報のための保管庫はギルドから融資を受けて作られていた。

 とはいえ、それもギルド本部の奥にある大金庫と比較すれば圧倒的に狭く、何より()()と聞いている。

 もっとも、これについては常に複数の冒険者が詰めている私達の本拠地(ホーム)と、恩恵を持たない職員しかいないギルド本部の違いを考慮すれば当然と言えよう。

「サミラ。心当たりはあるか?」

 経済力という視点で論ずれば、歓楽街を支配下に置く【イシュタル・ファミリア】はオラリオでも最上位に君臨する勢力の一つだった。

 ()()()()()()()資産だけでも、下手をすると【ロキ・ファミリア】に匹敵――あるいは上回りかねない。それこそ繁華街をはじめオラリオの至る所に太い人脈を有する【フレイヤ・ファミリア】に続く程の勢いがあったはずだ。

 とはいえ――

(まぁ、あそこはそれに加えて探索系派閥としても大成しているからな)

 一方で【フレイヤ・ファミリア】はオラリオの年間予算に迫る勢いだと聞く。

 バベルの最上階を貸し切れる程なのだから、あながち単なる噂でもないだろう。

「確かに隠し部屋の類はいくつかあるけど。オレが知ってるのはどれも、そこまで大げさな扉じゃねえよ。保管庫や宝物庫の鍵だってそんな特殊なもんじゃねぇ。ンな事する必要がねぇからな」

 それはその通りだった。

 派閥の本拠地(ホーム)に押し入る盗人なり強盗なりがいるとしたら、同じ冒険者でしかない。

 仕掛ければ派閥抗争の始まりだ。そして、仮に勝ったとして元が取れるかどうか。

(争うとしたら等級(ランク)が近い派閥同士だからな)

 ごく単純に資産狙いで派閥抗争を仕掛けると仮定して。

 等級が下の派閥を狙っては本当に赤字になりかねない。いや、よほど差があるなら問題ないだろうが……その場合は、わざわざ抗争を仕掛ける意味がない。実入りは少なく、ただ悪評だけが残るのだ。あるいは、ギルドからの罰則(ペナルティ)が課せられる事もありえる。

 かといって、上の派閥を狙えば自派閥が消滅するという最悪の事態に陥りかねない。

 そして、眷属が『血の契約』である以上、身内の造反もよほどの事がない限りは起こらない。加えて、神には嘘がつけないのだから、精々魔石売買の際に端数を着服できるかどうかと言ったところだ。

 堅牢な金庫が必要となるとすれば、まさに今【イシュタル・ファミリア】が陥っているこの状況になった時くらいなものだろう。

「となると、これこそが闇派閥(イヴィルス)の狙いなのか……?」

 とはいえ、サミラのこの様子なら――そして、クオンから届いた見取り図を見る限り――本当に大仰な隠し金庫はなさそうだが。

「さて…ね……ッ?」

 呟くと、サミラが突如としてその場に片膝をついた。

「どうした?!」

「分かんねぇ。急に……眠気…が……」

「眠気だと?」

 反射的に嗅覚を研ぎ澄まし、舌打ちした。

「ぬかった……!」

 部屋に立ち込める香水と香の匂いに混じって気づかなかった。

(この甘い匂いは――!)

 眠りの香のものだ。

 その言葉が思い浮かぶ頃には、大窓に近くの椅子を投げつけて叩き割っていた。

「警戒しろ!」

 外気を入れた事で部屋に満ちた香は薄まっただろうが、身体に回った分は打ち消せない。

 しばらくの間、サミラは動けないと見るべきだ。

「シィ!」

 新たな襲撃者は、叩き割った大窓から飛び込んできた。

(速い!)

 Lv.2の身体能力ではない。

(Lv.3か……!)

 相手の刃を避けながら、舌打ちする。

 間合いを詰められ過ぎた。もはや槍の間合いではない。

 決断は一瞬だった。槍を手放し、拳を握る。

「ジャ!」

 今まで通り――いや、今まで以上に攻撃を受けてはいけない。

(こいつら……)

 この体捌きは間違いなく暗殺の専門家のものだ。それもかなり熟達している。

 となると、おそらく【セメクト・ファミリア】の手の者だろう。

 刃に冒険者にも通じる致死毒が塗られていたとしても驚かない。

「うおおおおおおお! 夜這いなんぞさせねええええええええ!」

「うるせぇ、イブリ! そんな暢気なこと言ってる場合か!?」

 一体どこに潜んでいたのか。モダーカとイブリにも別の刺客が襲い掛かる。

(いや、狙いはサミラか)

 辛うじて意識は保っているようだが、それ以上の事は望めない。

 だが、あちらはあの二人に任せておけばいい。

 まずは目の前の敵を無力化する。

「フ――ッ!」

 いかに熟達した暗殺者と言えどもLv.3なのは変わらない。

 相手の動きは充分に見えていた。

 左右から迫るダガーを躱し、逸らし、受け流しながら大窓へと押し返す。

 こんな場所で自爆でもされたら流石に面倒だ。

「シャア!」

 こちらの思惑を察知したのか、相手は左のダガーを投げつけてきた。

 投擲に向いた拵えには見えなかったが……流石と言うべきか。

 それには驚くべき速さと鋭さがあった。そして、何より距離が回避を許さない。

「チッ!」

 両手を掲げ、直撃を防ぐ。

 拳装(メタル・フィスト)越しに鋭い衝撃を感じたが、貫くほどの威力はない。

 素早く防御を解くが、その一瞬で死角に飛び込まれていた。

「この!」

 今のは少し危なかった。

 毒液に濡れて鈍く輝く刃が首筋のすぐ傍を通り抜けていく。

「ガァ――!?」

 その礼に、肘を鳩尾に叩き付ける。

 それなりの感触だったが、無力化するにはまだ少し足りない。

「―――!」

 のけぞった襲撃者のつま先には、小さな刃が生えていた。

 毒の蹴りが胸元すれすれを通り抜ける。まったく、飛び退くのが一瞬遅ければ当たっていた。

 つくづく抜け目がない事だ。

「シッ!」

 右腕一本の連撃。

 動きが絞り込まれたおかげで、隙はそこまで増えていないが……さしたる問題ではない。

 動きは遅い。攻撃の密度が減った分、付け入る隙は多い――

(と、思わせるのが狙いだろう?)

 露骨に大ぶりな一撃を掻い潜り、あえて狙いに乗って間合いを詰めた。

(今の一撃は、間合いを詰めさせるのが狙いだ)

 自棄になって――その演技と共に突き出される左の貫手。

 右目を狙うそれを回避する。

 と、そこまでが罠だ。

 バチン!――と、何かが爆ぜるような音が響く。

 それが本命。

 回避した先に――そのはずの場所をダガーの切っ先が貫く。

 柄の中に強力な発条が仕込まれているのだろう。

 回避した直後の不意の一撃。普通であれば避けられるはずがない――

「なに!?」

 が。私とてオラリオにも少ないLv.5の一人。

 ()()()()()()()()()()その腕の内側にまで飛び込むくらいの真似はできる。

 何も難しい事はない。来ると分かっている攻撃に対応しただけだ。

「その類の武器には、昔散々世話になった」

 暗黒期の動乱の中で、その類の暗器相手に一体何度命を落としそうになった事か。

 その言葉を告げるのと同時、拳を横腹に沈めていた。

「が―――ぁ……ッ!?」

「そして、お前達とは別の形だが――」

 辛うじて踏みとどまった襲撃者が最後の悪あがきとして掴みかかってくる。

 その手を軽く振り払ってやる。それと同時、がら空きになった脇へと肘を叩き付けた。

 底は人体の急所の一つ。打ち込んだ衝撃はそのまま肺へと到達し、呼吸を阻害する。

「対人戦闘には慣れている。私達は、荒くれ揃いのオラリオの治安維持を受け持っているからな」

 悲鳴もなく悶絶するその相手の鳩尾へと拳を埋めた。

「ふいー…。やっぱ火炎魔法が撃てないと調子でないぜ」

「室内で撃つな、馬鹿」

 その頃には、モダーカとイブリも襲撃者を仕留めていた。

「団長。この二人、どうします?」

「連行したいのは山々だが――」

 そう上手くはいかないだろう。そう思った矢先のことだ。

「この……!」

 モダーカ達が打ち倒した襲撃者が、最後の力を振り絞って何かを投げつけてくる。

 ナイフの類ではない。弱々しいそれを反射的に受け止めていた。

「これは――!?」

 赤い何か。『火炎石』かと思い、とっさに外へと投げようとして――

「何ッ!?」

 それと()()()()()

 瞳を思わせる罅の入った赤い宝玉。それは私を見据えると同時に砕け散って――

「シャクティ団長!?」

 赤黒い燐光が渦を巻き、何かを象る。

 いや、何かではない。それは人間の姿だ。

 赤黒い燐光でできた人のようなもの。

「――――!」

 それは、有無を言わさず攻撃を仕掛けてくる。

 恐ろしく鋭い一撃を、辛うじて躱す。

 いや、避け切れなかった。横腹を軽く斬り裂かれている。

 だが、そんな事を気にしている暇もない。

 その何かは、さらに続けて攻撃を仕掛けてくる。

 左の拳装(メタル・フィスト)を盾代わりにそれを受けようとするが――

「くっ?!」

 左腕に焼けるような痛み。腕の内側から切っ先が突き出している。

 拳装(メタル・フィスト)はあっさりと貫通されていた。

 だが、そのおかげでようやく敵の得物が見える。

(短剣……。いや、刺剣か?)

 小ぶりの剣程の長さの鋭い刃。

 おそらく≪鎧貫き≫という代物だろう。……それにしても鋭すぎるが。

「サミラを連れて逃げろ!!」

 丁寧な事に毒まで塗られていたらしい。

 焼けつくような熱と痛みが絡みつく左腕に舌打ちしながら叫ぶ。

 だが、一瞬たりともその敵から視線を離せない。

(マズい……!)

 これはおそらく霊体……闇霊という存在に違いない。

 詳しくは知らないが、クオン側の代物だ。

 それだけでも厄介だが――

(これは、Lv.6相当か……?)

 相手の攻撃に反応が追い付かない。

 拳装(メタル・フィスト)すら軽々と貫くその剣先に、少しずつ身体を啄まれていく。

 流れる血は体力を消耗させるが、それ以上に――

(毒が……!)

 刀身には毒が宿っているらしく、少しずつ身体が蝕まれていた。

 今はまだ踏みとどまっているが、これ以上食らえば毒が回り始める。

 そうなれば終わりだ。

 毒で死ぬより先に、心臓を串刺しにされるだろう。

「ハァアッ!」

 そうなる前に、決着をつける。

 その覚悟と共に、一気に間合いを詰める。

 だが――

「しま――!?」

 放った拳は、金属製の小さな円盾の表面を滑った。

 と、同時その腕が払われる。

 クオンが得意とする『受け流し(パリィ)』だ。

(死――!)

 体勢を完全に崩され、無防備となった心臓に≪鎧貫き≫の鋭い切っ先が迫る。

 もはや防ぎようも避けようもない。

「うおおおおおお!」

 心臓を貫くより早く、モダーカの体当たりが炸裂した。

 切っ先がそのまま戦闘衣(バトルクロス)の胸元を掠め、うっすらと右に斬り裂いていく――が、心臓には遥か遠い。ならば、何の問題もなかった。

「フ―――ッ!」

 身をかがめ、足払いを仕掛ける。

 モダーカに注意を向けていたそれは反応が僅かに遅れた。

 充分な感触と共に、敵の身体が揺らぐ。

「おおおおおっ!」

 一瞬の隙。その瞬間に跳ね上がるようにして肩を叩き付ける。

 敵の体勢はまだ立て直されていない。

「はあぁああっ!」

 身体を回旋させ、その威力のままに蹴りを叩き付ける。

 直撃の瞬間、後ろに跳ばれたせいで感触は浅い――が、今はそれでいい。

「一時撤退だ!」

「り、了解!」

 ひとまず解毒し、左腕を治療しなくては。

 両腕が揃っていても勝てるかどうか怪しい相手だ。片腕ではまず勝ち目がない。

「うお!? 追ってくるぞ?!」

 サミラを抱えたイブリが首だけ振り返って叫んだ。

「そりゃ逃がしてはくれないだろ。というか、あれ何なんだよ?!」

「知らねぇよ! いきなり湧いて出たしモンスターじゃねぇの?!」

「なら、さっさと調教(テイム)でもしてこい!」

「生態の欠片も分からない相手に無茶言うなナントカ!」

「モダーカだ! わざとやってるだろ!? ……あ、いや待てよ?」

 走りながらイブリと怒鳴りあっていたモダーカが、不意に言った。

「どうしたんだよ?」

「あれって噂の『太陽の戦士』に似てないか?」

「ダンジョンにたまに現れて助けてくれるって奴か? けど、そいつは黄金に輝いてるんだろ?」

「黄金は味方で、赤は敵とか?」

「てか、赤い奴なんて今まで目撃例がねぇだろうがおおおおおおおっ!?」

「……一つ怖い話をしよう。目撃した奴は生きていない」

「この状況で不吉な事を言うなよおおおおおおおおおおおおおおいぃ?!」

 ……まぁ、おそらくモダーカの想像は概ね正しい。

 正しくは白が味方で赤が敵だという。黄金はむしろ特殊な存在らしい。

(四年前にあのクオンを倒した相手、か……)

 ダンジョンにはそういう脅威が存在すると、クオン本人から聞いている。

 もしそれが事実なら、モダーカの言う通り遭遇した冒険者は生きてはいないだろう。

 とはいえ――

(少なくとも、あれは同一人物ではないな)

 もしクオンを倒したとするなら、私を仕留め損ねるなどありえない。

 それどころか、先ほどの交戦から察するに――

(精々、私より一回り上という程度だ)

 強敵である事に変わりはないが、全く勝算がないという訳でもない。

 常に携行している解毒薬の栓を口で開け、一気に飲み干す。

 幸い、充分に効果を発揮してくれたらしく、悪寒と疼痛、破滅的な怠さを伴う熱が消えていく。

 続けてハイ・ポーションを煽ると、体中の傷が塞がり、左腕にも握力が戻った。

「それで、どうします? イルタさんと合流しますか?」

 今のところ、来た道を逆走している。

 このまま戻ればそうなるが――

「いや、この先の広間で迎撃する」

 それは必然的に、本陣間近まであの闇霊を案内する事になる。

「万が一私達が突破されたなら、保護している戦闘娼婦(バーベラ)達まで危険に晒される」

 ……いや、必ずしもそうとは言えないか。

(おそらく、あの闇霊の狙いは私だ)

 あの宝玉に()()()()()のは私だけだ。

 つまり、私を殺せばこれは消えるはずである。

 ……無論、死ぬつもりはないが――

「もし、私が追い詰められたなら――」

 団長として、現場指揮官として、いざという時の指示は出しておかなくてはならない。

「その時は、私を置いてイルタのもとへ向かえ。あれの狙いは私だ」

 イルタなら残る闇派閥(イヴィルス)構成員や、暗殺者達の迎撃も可能だ。

「その命令は聞けません」

 しかし、モダーカはあっさりとそう答えた。

「そうですよ! ここで団長を置いて逃げたら、あとで俺達がイルタさんに殺されますって!」

 イブリまでがそう言って笑う。

「それに、三人でやればまだ何とかなる範囲です。本陣の守りを考えるうえでも、全員で迎撃するのが良いかと思いますが……」

「……そうだな」

 確かに、少々弱気になりすぎていたか。

 相手は()()()()().()()()()だ。この程度の相手に動じていては、これから先()()()()()()()事はとてもできない。

(デーモン……)

 フィリア祭で対峙した偉業を思い浮かべる。

 クオン曰く、あれはデーモンという存在の中では()()()()()()()だったという。

 それであの脅威。神ですら手を焼く厄災というのは伊達ではない。

 そんなものが、ついに地上に姿を見せたのだ。

 たった一レベル差で動じていられるような猶予はもう残されていない。

「なぁに。Lv.7とやりあえるLv.0もいるんです。俺達だってそれくらいの事はしなけりゃ――」

「冒険者の名が廃るってもんですよおおおおおおお!」

 その通りだ。

 確かに迫る脅威は深刻だ。だが、それに臆していてはまさに冒険者の名折れ。

 ……そう。都市の警備を担っているとはいえ、私達も冒険者だ。

 強大な敵。未知へと挑む事こそ誉れである。

「……よし。ならば、行くぞ!」

 広間の少し前で足を止める。

「先に行け。サミラを安全な場所へ」

 敵がクオン達と同じ存在なら、殺さずに止める必要はない。

 いや、そんな事を考えていたらこちらが殺される。

「了解!」

 槍を構えるのと闇霊が追い付いてくるのはほぼ同時だった。

「せいっ!」

 心臓を狙った突きは、あっさりと円盾に弾かれた。

 とはいえ、武器の間合いなら私が有利だ。

 そして、この通路なら回り込まれる心配はほぼない。

 サミラをどこかに隠す時間を稼ぐくらいは――

(……いいや)

 油断などできるはずもない。慎重すぎても足りない。豪胆でなくては先に進めない。

 そして――

(ここで倒す!)

 苛烈さがなくては生き残れない。

 完全にスイッチを入れた。背中の【ステイタス】がその瞬間、熱を帯びる。

「はぁあああッ!」

 眉間。咽喉。心臓を狙った三段突き。

 会心の連撃だった。ほぼ同時だったはずだ――が、やはり通じない。

 この程度ではLv.の差を貫けない。

(構うものか!)

 己の限界に挑むように、槍の速さを上げていく。

 階位の差はたった一つ。拒む物は小さな円盾一つ。

 ならば、貫けぬはずがない――!

「――――!」

 ……やはり、そう容易い相手ではない。

 槍の穂先が闇霊の身体をいくらか啄んだ時、武器が切り替わる。

 驚くことはない。【正体不明(イレギュラー)】クオンの代名詞とも言えるこの『スキル』は――しかし、彼らにとってはできて当たり前の他愛ない技術でしかないのだから。

 現れたのは分厚い刃を持った斧。

 闇霊は、それを両手で握りしめる。

「――――ォ!」

 裂帛の咆哮。直後に放たれたその重撃は、強引に槍の軌跡を捻じ曲げた。

「くっ!?」

 槍に引きずられて、体勢が崩れた。

 穂先が床に触れた一瞬、闇霊はそれを踏みつける。

 そのせいで、引き戻す機微(タイミング)を完全に失った。

 武器が再び≪鎧貫き≫に戻る。

 しなる槍を踏切台代わりに、闇霊が跳躍した。

 間合いが消滅する。

(なめるな――!)

 声を上げている暇などない。

 先ほどの仕返しの様に咽喉を狙って繰り出される切っ先を辛うじて躱す。

 正に首の皮一枚と言ったところか。もっとも、繋がったのではなく、断ち切られたのが――だが。

「はぁ!」

 頸動脈の傍を掠めた刃にゾッとする暇もなく、その顔面を狙って左の拳を放つ。

 優先すべきはとにかく速さ。追撃を阻止する牽制の一撃だった。

 視界を塞がれるのを嫌ったのか、闇霊はそれを回避して見せた。

 その隙にこちらも後ろに跳ぶ。

 とはいえ、槍の間合いとするには少々近い。

 動きを制限されれば、Lv.の差が顕在化してくる。

(やはり簡単にはいかないか!)

 たちまち攻防が反転した。

 拳装(メタル・フィスト)すら容易く貫く、鋭い切っ先が少しずつ迫ってくる。

 それでも解毒剤の効果が残っているのか、まだ毒は回っていない。

 ひとまず小さな負傷は無視する事に決め、相手の接近に逆らわず、素直に押されていく。

 間合いの有利さを失った以上、この場所に留まる理由はない。

 少しずつ、モダーカ達が待ち構える広間へと後退する。

 ……言うほど容易い事ではない。撤退戦ほど難しい戦いはないのだから。

 押されていたとしても、押し潰されてはいけない。

 敗北の一歩手前で踏みとどまっているようなものだ。

 あと三Mも廊下が長ければ、耐えきれなかっただろう。

「シャクティ団長!」

 廊下が途切れ、広間へと変わる。

 その瞬間、モダーカが叫んだ。

「――――!?」

 なりふり構わず横に飛ぶ。

 一瞬――いや、半瞬前まで私がいた場所を火炎が飲み込んだ。

「フハハハハッ! どうだ!? これが『喋る火炎魔法』こと【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】の火炎魔法だあああああああ!」

「イブリうるせぇ! てか、今ちょっと早すぎただろ?!」

 高笑いするイブリに、大盾を構えるモダーカが叫び返した。

「油断するな!」

 跳ね起きながら、檄を飛ばす。

 確かに並みの相手なら、今の一撃で終わっていただろう。

 だが、相手は闇霊だ。

「うお!? 燃え残っただとおおおおおおっ!?」

 狙いをイブリに変えた闇霊に、横から槍を奔らせる。

(効いてはいるな――!)

 無傷ではない。やはりこの闇霊は、神の域にも手を届かせるような怪物ではない。

 とはいえ、

(クオン達と同じなら多少の傷はないも同然だな)

 なるほど、不死人とはよく言ったものだ。

 五体をバラバラにしたとしても殺し切れるとは限らないというのも、あながち嘘ではないのだろう。

「おおおおおおおッ!」

 会心の踏み込みからの一撃。

 例えどんな防御でも貫通できる。その確信は、次の瞬間には現実となった。

「っしゃあ! 流石はシャクティ団長!!」

 盾を強引に押しのけ、その体を貫通する。

 思わず舌打ちしていた。

 完全に貫通してしまった以上、引き抜くのに一瞬以上の時間を要する。

 ……無論、通常なら反撃などありえない。確実な致命傷だ。

 だが――

「なぁにいいいいいいいい!?」

「っておい!? 詠唱中断するな!!」

 この程度では死なない。だからこその不死人だ。

 再び両手に斧を構え、その闇霊はこちらに突進してくる。

 槍を手放し、それを迎え撃つ。

「――――!」

 紙一重のところで、斧の一撃を躱す。

 大ぶりの一撃は、その分だけ隙も大きい。

 建て直される前に、右手を心臓の真上辺りに添える。

 右指を軽く曲げるが、拳はまだ握らない。脱力しきった、最も自然な形のままだ。

「ふ―――ッ!」

 次の瞬間、全身の力を一気に流し込み腕を突き出す。同時、固く拳を握った。

 これは衝撃を貫通させる特殊な打法。いかに堅牢な外皮を誇るモンスターでも、然るべき場所にあてれば、体内の魔石を粉砕できる文字通り必殺の一撃。

 人間相手にはまず使わない。例え心臓を避けたとしても、臓器を破壊するだけで人を殺すには充分すぎるのだから。

 ……そう。相手がただの人間なら。

「まだ動くか――!」

 心臓を破砕する感触が確かに伝わってくるというのに、闇霊は意も介さず再び≪鎧貫き≫を突き出してくる。

 二つの完全なる致命傷を負っているというのに、動きはまるで鈍らない。

 不死人。まさかこれ程とは。

(なるほど、クオンをして()()と言うわけだ)

 不死となる祝福を賜った――と、謳う英雄譚はいくつかあったはずだが……なるほど、実際に得た側にとっては呪いだろう。

 いや、英雄譚に語られる不死身の英雄は、全員が何かしらの弱点を持っている。

 そして、全員が死んでいるはずだ。

(その不完全さがあったからこそ祝福と呼ばれたのかも知れないな)

 闇霊自身の手で引き抜かれ、投げつけられた槍を躱す刹那、ふとそんな事を考えていた。

「畳み掛けるぞ!」

「了解!」

 槍を回収している暇はない。

 拳を握り、接近戦を挑む。少し遅れて、モダーカが参戦した。

 二対一。相手は確実に深手を負っている。精々がLv.6程度。そして、イブリも詠唱を再開した。

 勝敗はほぼ決している。次の火炎魔法が止めとなるはずだ。

 ――と、その時。

 

 リン

 

 ――と、鈴が鳴った。

 闇霊の左手には、まるで敬虔な信徒が使うような大型の鈴が握られている。

「―――――」

 闇霊が物語を口ずさむ。

 言葉は聞き取れない。だが、それは暗く悍ましい物語だった。

 そして、その末尾にもう一度鈴が鳴る。

 黒い塊が蠢いた。

 距離が近すぎた。回避が間に合わず、その塊に包まれる。

「ぐ、あああああああ――ッ?!」

 いや、塊ではない。これは群れだ。

 異形の蟲の大群。

 それがまとわりつくと瞬く間に皮膚を裂き、次々と体に潜り込んでくる。

 尋常ならざる激痛に肺が締め上げられ、悲鳴すら途絶えた。

 ゆっくりと体中の肉を啄まれ、掘り進まれる中、空気を求めて喘ぐ。

 体中が血で染まっていた。

「シャクティ団長!」

 一人闇霊を迎え撃つモダーカの声が遠くに聞こえる。

「ええいクソ! この蟲、離れろ!」

 イブリがその大群から私を引っ張り出そうとしている。

 詠唱を止めるな――と、言う叱咤は言葉にならなかった。

「―――――――」

 再び物語が聞こえてくる。

 勇壮で荘厳な物語。

(マズい――!)

 朦朧とする意識の中で、悲鳴を上げた……ような気がする。

 そして、再び鈴の音が響いた。

「が――ぁ!」

 轟く雷鳴と共に、雷撃が周囲を蹂躙する。

 そのうちのいくつかが私と、私を庇おうとしたイブリに直撃した。

「団長! イブリ! ……ぐぁ!?」

 私達に代わって悲鳴を上げたモダーカの肩に≪鎧貫き≫が突き刺さる。

「しま…った……! 毒が――」

 毒が回り始めているのか、モダーカの動きが鈍っていく。

 まったく理不尽だ。相手(不死人)は致死量に至ってようやく影響が出始めるというのに。

(いや、あれだけ致命傷を受けているのに動ける時点で理不尽か……)

 雷撃に焼かれたのか、蟲は消えていた。

 それでも抉られた傷は塞がらず、今も血を滴らせている。

 一つ一つの傷は致命傷ではないが、止血しなければいずれ命に関わるだろう。

「ああ、クソ……。ハシャーナさんがいればなぁ……」

 雷撃に焼かれた身体を何とか床から引き剥がそうとしながら、イブリが呟いた。

(ああ、確かに)

 タフなあいつなら、この状況でも踏ん張ってくれただろう。

 ……いや。

「泣き言を、言って…い、る場合か……」

 無事だった最後のハイ・ポーションを半分飲み、残りをイブリにかけてやる。

 回復には程遠い。だが、まだ戦える。

「私達は『群衆の主(ガネーシャ)』の眷属だ」

 そう。私達は冒険者だ。

 不死人には及ばないかもしれないが、しぶとさには自信がある。

「……行くぞ!」

「了、解ぃい!」

 壊れかけの体に鞭打って、最後の攻勢に出る。

 どのみち、全員が限界だ。

 あとは意地だけ。どちらがしぶといかだ。

「はぁあッ!」

 モダーカに斬りかかっている闇霊の首筋を狙い、蹴りを放つ。

 それ自体は、円盾に防がれたが――

「おぁあぁ!」

 私に注意を向けた一瞬、今度はモダーカが攻撃を繰り出す。

 その一撃は届かなかったが、とある確信を得た。

(この辺りの事情は、私達と同じか)

 この闇霊は自分自身の練度、いわゆる『技と駆け引き』にまだ未熟さが残っている。

 冒険者で言うところの『【ステイタス】に振り回されている』傾向が見られるのだ。

 ……無論、それはごく僅かなものではある。

 どちらかと言えば、ランクアップ直後の()調()に近いのかも知れない。

 だが、何であれそれこそがこちらにとって貴重な()()だった。

「はぁ!」

 そして攻撃は()()()()()

 ()()()()()()かどうかはともかく、撃退する事は可能だ。

(そう。こいつらとて完全無欠ではない)

 所詮はLv.6相当。つまり、まだ()()()から外れていない。

 少々特異な『スキル』を持ち、ほんの一歩私の先を行く冒険者。極端に死ににくいだけの人間だ。

 ならば――

(勝てない道理などどこにもない!)

 突き出される腕を掴み、渾身の力で捩じ上げる。

 もっとも初歩的な関節技が極まった。

「おおおッ!」

 その瞬間、脚を振り上げてその腕――動かせない肘を蹴り砕く。

「―――!」

 強引に腕を引き抜き、後ろに下がろうとする闇霊の頭頂に、振り上げたままの脚――金属靴(メタルブーツ)に覆われた踵を叩き付けた。

 ゴクッ――と、花瓶が割れるような鈍い音が響く。

 流石に少しばかりふらついたが、闇霊はまだ生きていた。

「本当にしぶとい奴だな?!」

 折れているはずなのに平然と振り回される腕を見て、モダーカが悲鳴に似た罵声を上げた。

 本当に最後の一撃以外は意味をなさないらしい。

(いや、意味をなさない訳ではない)

 例え目に見えた影響はなくとも、全てはその一撃のための布石だ。

(もう数発だな)

 もう数発、然るべき攻撃を加えれば、この闇霊は限界を迎える。

 その手ごたえがあった。

(焦ったな!)

 斧に持ち替えての大ぶりの一撃。

 それは、私の確信を証明するかのように大雑把な攻撃だった。

 体一つ横にずれる。それで、その雑な一撃は完全に標的を見失った。

「はぁああッ!」

 身体を鞭のようにしならせた蹴り。

 それは狙い通り首筋に決まり、その()をへし折った。

「――――!」

 闇霊が再び後退する。

「チィ!」

 後を追おうとする私達を闇霊が放った投げナイフが足止めをした。

 その間に、黄金に輝く瓶を取り出して――

「させるかっての!」

 物陰から、誰かが飛び出してきた。

 手には私の槍。それを闇霊の足の間に差し込んで、さらに彼女は駆け抜けた。

 完全に不意を突かれたのだろう。足を払われて闇霊が大きく体をよろめかす。

「返すぜ」

 一気に間合いを詰める私に、()()()が槍を投げ返してくる。

 

 数の暴力に抗うのは流石に厄介だな――

 

 いつだったか、クオンが言った言葉を思い出す頃には、すでに槍の間合いに相手を捕らえていた。

「おおおおおッ!!」

 防御を捨てた突撃。

 槍の切っ先は、闇霊の心臓辺りを完全に貫き――それでも勢いが止まらない。

 いや、あらかじめ闇霊が仰け反っていた分だけ、軌道が変わった。

 仰向けに倒れこむ闇霊に引きずられて下方へ。

 それに合わせて、こちらも体勢を整え――改めて踏み込む。

 

 ズン!

 

 床へ、杭のように槍を打ち込む。

 遠い昔、まだ迷信が蔓延っていた頃、呪われた――少なくともそうだと噂される――遺体の心臓には杭を打ち込んだと聞く。

 いや、今でも行っている場所もあるらしい。何しろ、偏見の根絶とは神にもできない難業なのだから。

 まして、外には今もモンスターという脅威が現実として存在しているのだ。

 その恐怖に偏見が混ざりこみ、オラリオでは考えられないような奇妙な――あるいは残酷な――風習を生み出していると聞く。

 それにまつわる数多の悲劇を嘲笑うつもりはないが……それでも、今だけは暴言を言わせてもらおう。

(それで死んでくれるなら可愛いものだな!)

 まだ闇霊は動いている。

 体を貫き、心臓を破砕し、頭蓋を砕き、首を折り、さらに()まで打ち込んだというのに。

(これで足りないなら――!)

 最後の方法だ。

「イブリ、やれ!!」

 槍をその場に残し、飛び退く。

「よっしゃああああああああっ!」

 火葬。彷徨う死体という迷信を消し去る唯一の方法だとされている方法。

 実際、その埋葬法が定着している地方にはその類の迷信は残っていないという。

 ……代わりに、彷徨う悪霊の噂があるらしいが。

(今ここにあるのは迷信ではないがな)

 彷徨う死体。彷徨う悪霊。

 この先、オラリオにはそれが()()()()()として襲い掛かってくるはずだ。

「あー…。いいところはみんな持ってかれたか」

 ようやく闇霊が燃え尽きた頃、解毒剤を煽りながらモダーカが呻いた。

「次の機会には期待している」

 小さく笑ってから、モダーカがまだ持っていたハイポーションを煽る。

 それに、彼が踏みとどまっていてくれなければ、回復する間もなく皆殺しにされていただろう。

「勘弁してくださいよ、シャクティ団長……。あんな化物、一度出会えば充分ですって」

 それについては、心から同意するが。

(そうはいかないだろうな)

 すでに事態は動き出していた。

 少なくとも闇派閥(イヴィルス)はそれと繋がりを持っていると見ていい。

 ならば、これから先、闇霊とは確実に敵対する。

(訓練内容の見直しが必要だな)

 そして、可能なら鍛錬のための遠征にも赴かなくては。

 とにかく、団員全員の能力の底上げが急務となる。

 でなければ、一人二人の死人では済まない。

 団員だけではない。その使者の中には、私達が守るべき民も含まれる。

「まさか、アレを倒すだと……!」

「殺せ! 今の奴らなら殺せる!」

 などと、先の事をあれこれ考えている暇もない。

 まさに闇派閥(イヴィルス)の構成員が複数名、姿を現した。

「おいおい……。さらに増援だと?」

「マジかよ。おい、モダーカ。まだやれるか?」

「だから――いや、あってるか。やれるも何も、やるしかないだろ」

 イブリとモダーカが構える――が、どちらも消耗が激しい。

 もちろん、私自身もだ。

「マジかよ」

 冷や汗を流しながらも毒づくサミラに、無言で槍を渡してやる。

 そんなものを持ったところで今の彼女は満足に戦えないのは分かっている。

 だが、それでもないよりはいいだろう。

「殺せ!」

 闇派閥(イヴィルス)達が一斉に動き出す。

 が――

「撃てぇえええ!」

 その時、別の号令が響き渡った。

 荒れ狂う氷結魔法。無論、かの【九魔姫(ナイン・ヘル)】程ではないが――少なくとも、『火炎石』の起爆を抑える程度の威力はあった。

「無事か姉者!」

「イルタ! 何故ここに!?」

 いや、それは愚問だ。

「思いの他早く増援が到着したからな。こうして救援に来た」

 ああ、そうだ。

 あの氷結魔法を放ったのは、私が連れてきた一九名ではない。

 ガネーシャが寄こした増援だ。

(数時間はかかると思っていたが……)

 まさかこれほど早く到着するとは。

 いや、私達が出立してすぐに編成を開始していたのか。

「姉者達にエリクサーを!」

「はい!」

 サポーター用の大型バックパックを背負っていた団員が、万能薬(エリクサー)を手渡してくる。

 半分を煽り、残りを頭からかける。

 全快とはいかないが、充分に戦闘可能だ。

「よっしゃああああああ! 復・活!」

「いや、本当に。一時はどうなるかと……」

 すぐ近くで、イブリとモダーカも同様に回復している。

「状況は?」

「本館、別館共にこちらが優勢だ。もちろん、空中庭園の守りも万全だ」

 イルタの言葉に、小さく頷く。

 耳を澄ませば、各地で戦闘音らしきものが聞こえてきた。

「と、言っても。増援もあまり詳しい話は聞いていないようだが。精々敵は闇派閥(イヴィルス)残党だと聞かされているだけだな」

 後の事は(シャクティ)に訊け――と、そう指示されていたらしい。

 ……私とてそこまで全容を把握しているわけではないのだが。

 いや、ぼやいている暇はない。今、戦いの流れは私達にある。この機を逃さず一気に片を付ける。

「これより闇派閥(イヴィルス)残党の殲滅および『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』の確保を行う。この一戦はオラリオの安寧を左右すると心得ろ!」

 サミラから槍を返してもらいながら、号令を下す。

戦闘娼婦(バーベラ)達はもちろん、神イシュタルの『遺産』は何一つ渡すな!」

「了解!」

 凍り付いた闇派閥(イヴィルス)構成員から自決装備を解除していた団員達が一斉に応じる。

「行くぞ! 『群衆の主(ガネーシャ)』の名のもとに!」

「『群衆の主(ガネーシャ)』の名のもとに!」

 それから、一時間と経たず私達は『女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)』を制圧。

 さらに、そこから数時間後には歓楽街全域の安全確保に成功した。

 人的被害はない。闇派閥(イヴィルス)にはさらに数名の自爆を許したものの、都市機能にも――少なくとも、周辺の建築物への深刻な被害はなかった。

「よっしゃああああああ! 完全勝利!」

「おー…。味方だと意外と頼りになるな、【ガネーシャ・ファミリア】って」

「なかなか格好良かっただろ?」

「そうだな。ちょっと安くしてもいいぜ?」

「よっしゃああああああ!」

「うおおおおおおおおお!」

「お前らは今日、夜警も担当しろ。この馬鹿どもが!」

 サミラの言葉に、とある団員二人が雄たけびを上げ―――即座に団長……を慕うアマゾネスにしばき倒された。激闘を終え、歓楽街(まち)に安寧を齎した団員(えいゆう)達はそれを見て一斉に笑い声をあげる。

 その騒ぎに、今まで青い顔をしていた他の娼婦達も小さく噴き出して――いつしかちょっとしたお祭り騒ぎとなった。

 ひとまず闇派閥(イヴィルス)の脅威は去った。

 誰もがそう思ったし、それは決して間違いではない。

 

 ――が。

 私達の奮闘むなしく、オラリオの安寧を揺るがす事態はこの頃すでに進行していたのだった。

 

 

 




―お知らせ―
 お気に入り登録していただいた方、感想を送ってくださった方、ありがとうございます。
 次回更新は18/09上旬から中旬ごろを予定しています。
 18/08/26:一部加筆修正
 18/10/26:誤字修正

―あとがき―

 皆様、ご無沙汰しております。
 今までと違って土曜日の0時とはいきませんでしたが、何とか8月中に更新できました。

 さて、そんな訳で第三章の開幕です。
 この章では最近ちょっと押され気味だった冒険者サイドに焦点を当てていこうかと思っています。
 そのため、主人公の出番は控えめにしよう…と、決めたせいで結構難産になってしまった訳なのですが…。

 ともあれ、今回はシャクティさんが主役並みの大活躍です。
 原作小説だと10巻11巻、ファミリアクロニクルで少しだけ登場するだけなので、戦い方はほぼオリジナルですが…。
 コミック版のファミリアクロニクルとスマホアプリのダンメモからするとメタル・フィストのほかに槍や鞭も使うようなので、今回は槍を主体に戦ってもらいました(最初は二つ名から深読みして槍ではなく棍かな?――と、思っていたのは秘密です)。
 なおステイタス、特に魔法やスキル、アビリティなどはまだ分からないため、しばらくの間はオリジナル色が強くなりますのでご了承ください。
 その辺りは他にオッタルもそうなんですが…。次のファミリアクロニクルはフレイヤ・ファミリア編のようなので、その時には分かるかな――と、思いつつのんびり待っています。

 今回の闇霊が使用した奇跡は『蝕み』と『天の雷鳴』。二次創作ならではの組み合わせとなっております。
 武器の方もDS2の刺剣としての『鎧貫き』だと思っていただければ。いつかDS3の短剣としての『鎧貫き』も出すかもしれません。

 それ以外に、ちょっとずつこの作品オリジナルの設定が姿を見せ始めています。ダンまちやダークソウルの世界観や設定から大きく乖離しないように、それと、あまりご都合主義になりすぎないように気を付けているつもりですが…。

そして、申し訳ありませんが書き溜めができるほど話が進んでいません。なので、次回の更新もしばしお時間をいただければと思います。
 今度こそ土曜の0時更新と言う形だけは守りたいと思いますが…。

 なるべく早めに更新したいと思いますので、どうか次回もよろしくお願いいたします。
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