SOUL REGALIA   作:秋水

14 / 36
※18/09/30現在、仮公開中。
大幅な変更、改訂を行う可能性があります。


第三節 過去からの侵略者

 

 書庫でロキとのやり取りを終えてから。

「神グヴィン? 聞き覚えがないねぇ」

 馴染みの魔導師(メイジ)――レノアの店に顔を出して問いかけるが、結果は芳しくなかった。

 まぁ、そこまで期待していたわけでもないが……それでも、落胆を感じずにはいられない。

「また何かおかしなことに首を突っ込んでるのかい?」

「かもしれんな」

「いひひ、物好きだねえ……」

 怪しげな薬をかき混ぜながらレノアが笑う。

「今話題の【正体不明(イレギュラー)】かい?」

「さてな。どこまで関係がある事やら」

 どうにも前に進んでいる気がしない。

 暗中模索もここまでくるとただの遭難だ。

「『古代』の歴史書か遺物を知らないか?」

「エルフの王女様の目に適うような歴史書なんて知らないねえ。うちは書店じゃないのさぁ」

 それはそうだが。

 こうなると本当に(じっか)の書庫が恋しくなってくる。

 あそこなら何か一冊くらいは役立ちそうな本があるかもしれない。

「ああ、でも」

 嘆息していると、不意にレノアが言った。

「こんなのはあるよ」

「これは?」

 円形をしたそれは、見たところ護符の一種らしい。しかも、随分と古い。

 そして、見覚えのない意匠だった。

「オラリオ郊外から出土した代物さぁ。【デメテル・ファミリア】の連中が開墾の時に見つけたらしくてねぇ。魔道具(マジックアイテム)の一種のようだってうちに持ってきたのさ」

 ひょっとしたら『古代』の遺物かもねぇ――と、レノア。

神聖文字(ヒエログリフ)……?)

 しかも、噂に聞く古字らしきものが刻まれている。

 そのうえ掠れていてほとんど解読できないが……

(ロヴィット? いや、ロフィードか?)

 それとも、ロイドだろうか。

 はっきり解読できないものの、大体そのような文言が刻まれている。

 人名か。それとも()()か。いずれにせよ高貴な身分だったのは間違いない。

 断片的に読み解ける範囲から察するに、刻まれているのはこの何者かを讃える句らしい。

「効果は?」

 解読は諦め、レノアに訊ねる。

 魔道具(マジックアイテム)だとするなら、何かしらの効果があるはずだ。

「さぁね。私が見たところ、それは使い捨てだ。一個しかないのに確かめられるものかい」

 それはまったくその通りだが。

「いくらだ?」

 再び嘆息してから、言った。

 効果を確かめるにしても、神聖文字(ヒエログリフ)を読み解くにしても、ここでは限界がある。

 いや、これが本当に古字なら、それこそロキの協力が必要だろう。

 いずれにしても――

「いひひ。まいどあり」

 今はレノアが提示した金額が適正なのかどうかすら判断できなかった。

 

 …――

 

(やれやれ。すっかり日が暮れてしまった)

 オラリオ外から訪れた観光客や旅人達が集まる第三地区と、第五地区にある交易所。

 それぞれ数時間ほどかけて調査したものの、これと言った手掛かりは得られなかった。

(やはり一人では無理か)

 空振りだったのは念のため素性を隠して調査した影響――と、言うのも考えられるが。

 とはいえ、あまり派手に動き回れない。

 事は非常に繊細な問題でもある。荒立てては思わぬ波紋を広げかねない。

(彼女の手助けを得られれば、あるいは――)

 とも思うが。

 しかし、そうすると今度は他派閥間のやり取りという名の厄介事をこなす必要が出てくる。

 まして相手はあの――

「こんばんは。素敵な夜ね」

 そこで、玲瓏な――だが、不思議と怖気を感じさせる女の声がした。

 暗い路地の向こう側。幾分か欠けた月を背に、声の主は立っている。

(エルフか……)

 ここは第五地区。いわば私達【ガネーシャ・ファミリア】のお膝元である。

 オラリオの中でも有数の治安の良さだと自負しているが、それでも夜道――しかも、人目のない路地裏――に女性の一人歩きというのは少々不用心だった。

 特に薄緑色の髪に、碧色の瞳。エルフらしく顔立ちは秀麗そのものといった彼女なら。

 もっとも――

(同業者か)

 私と同じなら、話は別だ。

 何しろ、その女は腰には細身の剣を下げ、左腕にはバックラーを装備しているのだ。

 一方で、身にまとっているのはゆったりとした白い衣装だった。

 薬師が着込む白衣のようだが……本人の顔立ちと相まって白いドレスのようにも見える。

 しかし……、

戦闘衣(バトルクロス)の類だろうな)

 よく見れば、然るべき場所には充分な動きやすさを保つ細工がなされている。

 いや、おそらく防御も考えられているだろう。それこそプレートの一枚や二枚、仕込まれているかもしれない。

 Lv.と経験次第だが、無所属(フリー)のゴロツキならまず相手にもならないだろう。

 ……入団先を探している途中の()()()()()()という可能性も皆無ではないが。

(いや、それはないか)

 ただ立っているだけだというのに隙がない。

 相応の経験を積んでいるのは明らかだ。

 となると――

(油断はしない方がいいな)

 闇討ちの類はよくある話だ。大派閥……名の知れた冒険者の宿命とすら言えた。

 そこに加えて私達は治安維持を担う派閥だ。ガラの悪い連中に限って私達を目の敵にしている。

 名うての暗殺者が派遣されてくる事も決して珍しくはなかった。

「ああ、そうだな」

 念のため重心を整えながら応じる。

 その女は、まるで血でも啜ったかのように赤い唇に小さな笑みを浮かべた。

 並の人間では見えないだろう。だが、『神の恩恵(ファルナ)』によって強化された感覚なら、これだけ()()()()()まず問題ない。

「ええ。赤く染めたくなるような綺麗な月ね」

 ただし、その一撃が()()()かと言われれば、返事に困るところだった。

 迷いなく心臓を狙った一撃。

 つい先日、似たような攻撃を受けていなければ完全な防御とはいかなかっただろう。

「くッ!?」

 速い。そして、文句なく鋭い一撃だった。

 先日と違うのは使い手の性格だけだ。

(あの闇霊だったらまた貫かれているところだな)

 感触からして、威力にそこまでの差はない。

 あの闇霊の様に初撃から必殺を狙ってきたなら、この予備の拳装(メタル・フィスト)まで壊されていたところだ。

 いや、それとも単に武器の差だろうか。

「ふッ!」

 しかし、その幸運――あるいは相手の慢心――に感謝している暇はない。

 護身用の()()()を抜き放ち、間合いを確保する。

 とにかく数十秒は時間を稼がなくては。

 連絡用の閃光弾をその女に向けて放つ。

「このっ!」

 その女は刺剣(エストック)で反射的に両断して――その瞬間、膨大な光量が路地を蹂躙した。

 閃光弾は光を放つ際に同時に熱を伴う。直撃したならただでは済まない。

 とはいえ、

(あの程度ではどうにもならないだろうな)

 Lv.6なら致命傷どころか、深手にもならない。

 精々火傷を負うかどうか。

(だが、時間は稼いだ)

 柄にある()()()を外し、横に振るう。

 と、柄が伸びて槍となった。伸縮性を持たせた護身用の代物だった。

 長さは二Mほど。穂先の鋭さは愛用の槍にも負けない。

 欠点としては、伸縮機構を組み込んだ分だけ脆い事か。『下層』や『深層』に巣食う怪物どもを相手にするには、少しばかり心もとない。

 だが、街中でならこれで充分だった。

 それこそ大派閥の主力陣とでも出くわさない限りは何の問題もない。それどころか、大体の相手は素手でも鎮圧できる。

 ――少なくとも、今までは。

「やってくれるわね!」

 槍を構えると同時、エストックが振るわれた。

 重量のある武器ではないが、それでも接続部分が小さく軋みをあげる。

(あの闇霊並みだと?)

 伝わってくる力からして、この女はおそらくLv.6。あるいは()().()()()()なのか。

 またしても私より格上だが――

「一体何者だ?」

 闇霊ではない。しかし、見覚えがなかった。

 Lv.6などオラリオにもごく一握り――いや、一摘みしかいないというのに、だ。

 もちろん、その全員と面識があるとは言わないが……。

「さぁ、何者かしら?」

 その女には一切心当たりがない。所属する【ファミリア】すらも見当がつかなかった。

 と、なるとやはりクオン側の存在なのか。

(まったく、次から次へと!)

 これほどの強敵が姿を見せるとは、Lv.5の座はずいぶんと安くなったものだ。

(今さらか)

 クオンの台頭と共に、オラリオの歴史は動いた。

 先日も思い知ったはずだ。もはやLv.差が絶対などとは言っていられないのだと。

「おおおおおッ!」

 刺剣と槍。互いの命を狙い、切っ先が交差する。

 間合いの優位で言えば私が。

 身体能力で言えば敵が一段上となる。

 だが――

(甘いな!)

 技と駆け引きなら、先日の闇霊の方が――そして、私の方が上だ。

 あえて懐に踏み込ませ、刺突を誘う。

「はぁあっ!」

 肋骨の隙間から内臓を狙うその切っ先が届くより僅かに早く、その刀身に左肘と左膝を同時に――打点を互いに少しだけずらして――叩き付けた

「あら?」

 刀身がへし折れ、虚空を舞った。

 流石に安物ではないが、そこまでの業物でもない。精々が第三等級武装。

 ならば、Lv.5の力なら折れるという予測はこうして正鵠を射ていた。

「もらったッ!」

 会心の踏み込みと共に槍を突き出す。

 闇霊の体すら貫いた一撃だ。直撃さえすれば――

「ざ・ん・ね・ん♡」

「何ッ!?」

 まるで右腕にも盾を装備しているかのように、硬質な何かに槍が逸らされる。

 同時、何か仕掛けが動くような小さな音が確かにした。

「くっ……!」

 避ける間もなくその右手に()()()()()()

 生半可なモンスターの爪なら容易く弾くはずの戦闘衣(バトルクロス)が容易く斬り裂かれた。

 焼けるような痛みに毒づく暇もなく、その女を蹴り飛ばす。

「それは『銀の腕(アガードラム)』か……?」

 感触が浅い。自分で後ろに飛ばれたか。

「フフッ。そうよ」

 破れた白衣の袖を引き千切り、手袋を脱ぎ捨てながら女が笑う。

 剣と見紛う程滑らかな光沢を放ち、関節部分は宝石が埋め込まれている銀の義手。

 主にはダンジョンで四肢を失った冒険者に提供される代物だが――

「私が作ったの。なかなか便利よ」

 指先に()()()のようなナイフが仕込まれているなどと言う話は聞いた事がない。

「お前、【ディアンケヒト・ファミリア】の団員なのか?」

 オラリオ広しと言えど、失われた身体を補うほどの叡智を有するのは医療系最大派閥の【ディアンケヒト・ファミリア】くらいなものだ。

「馬鹿にしないで欲しいわね」

 その言葉には、明らかな侮蔑が宿っていた。

 だが、気にすべき事はそこではない。

「あなた達()()()()が作り出せるのなら、私達が作れないはずないでしょう?」

「お前、まさか……」

 迂闊だった。まさかこの程度の()()で動き始めるとは。

 いや、当然か。闇派閥(イヴィルス)ですら口封じに動いているのだ。

 彼女達が動いていたとしても不思議ではない。

 ()()()()()()()()()。そう思っていた私の失策だ。

 首飾りがあったなら、持ち主もオラリオにいると考えるべきだった。

「――――――」

 だが、問答や後悔などしている暇はない。

 これは――

(クオンと同じ詠唱か……ッ!)

 銀腕に組み込まれた宝玉が輝く。

 どうやら『杖』としての属性を帯びているらしい。

「チッ!」

 頭上に放たれた青白い光球から、閃光が降り注ぐ。

 幸い、狙いはそこまで正確ではない。勘を頼りにそれを掻い潜る。

 それでも数発掠めたが、ダメージはさほどではない。精々皮膚をいくらか削られただけだ。

「―――――」

 さらに詠唱が続き、女の右手に見事な拵えの刺剣――いや、直剣だろうか――が……その幻影が浮かび上がる。

「それっ!」

 いや、幻影でない。少なくとも、実際に()()()を持っている。

 一方で重さはないのかまるで小枝でも振り回すような気やすさで刃が虚空を斬り裂いていく。

「なめるなッ!」

 だが、動き自体は決して洗練されていない。

 掻い潜る隙は微かだが確かにある。

 体中を浅く斬り裂かれながらも、感覚を研ぎ澄まし、槍を操る速度を上げていく。

 格上殺しなら既に経験した。私の限界はまだここではない。

 今の『器』でも極限にまで使いこなせば、決して届かない敵ではない――

「ッ!?」

 苛烈を極めていく攻防の中で、唐突に膝から力が抜けた。

 いや、それどころか体中の傷の痛みすら感じない。

 これは――

「お薬が効いてきたみたいね」

 麻痺毒。おそらく、あの爪に仕込まれていたのだろう。

「それだけ派手に動けば当然でしょう?」

 いかにLv.5の体とは言え、毒を全く受け付けない訳ではない。

 あくまでも耐性であって、完全なる無効化ではないのだから。

 体内で燻っている最中に、限界に迫る動きをすれば一気に回ってもおかしくはなかった。

 ……もちろん、それもこの毒が相応に強力だという事実があってこそだが。

「大丈夫よ。死にはしないから」

 その言葉と共に、強烈な蹴りが鳩尾を抉った。

 いや、直撃ではない。とっさにずらしはしたが、そのつま先は確実に内臓に届いている。

 人形のように吹き飛び、近くの木箱に激突する。

 毒のせいで痛みはほとんどない。ただ、いくら吸っても空気が足りない。

(読み違えた……!)

 格上殺しをするには、よほどの幸運を味方にするか、相手の隙を部分を突くしかない。

 格上の隙とは、例えば慢心であり、技術の未熟である。

 もちろん、この女が今まで見せてきたそれらが全て演技だったとは思わない。

 だが、自らの急所を餌とし死地へと引きずり込む狡猾さと大胆さ。この女が持つ最も恐ろしい手札をついに見抜けないまま、偽りの活路に飛び込んでしまった。

 優っていると考えた『駆け引き』で負けたという事だ。

「それにしてもLv.5のはずなのにずいぶんやるわね」

 槍が掠めていた頬を撫でながら、女が笑う。

「神の血に溺れるだけ、という訳でもないのかしら?」

 銀腕――その獣の爪が首筋から臍あたりまで戦闘衣(バトルクロス)を引き裂いた。

 体に傷があるかは分からない。もはやあらゆる感覚が曖昧だ。

「綺麗な体。それによく鍛えているみたいね」

 男色ならぬ女色――と、いう訳ではない。その視線に好色なものは読み取れなかった。

 むしろ、品評だ。あるいは、狂気に侵された薬師が、実験動物に向ける無機質な視線だろうか。

「決めたわ。あなたを母体に使ってあげる」

 光栄に思いなさい――と、その女が笑う。

 神の奴隷。母体。女が口にした重要な言葉はその二つ。

「やはり、お前は……」

 そして、彼女はエルフだ。

 純血かどうかはともかく、それは間違いない。

「何故、ここにいる?」

「何故? おかしなことを訊くのね」

 女が嗤う。

「ここは元々私達の街よ。神の血に酔い、裏切ったあなた達に簒奪されたこの街を奪還するのは、当然の権利だわ」

我らが地を取り戻せ(レコンキスタ)

 千年前、反逆の英雄達が遺した呪詛が脳裏に谺する。

「呪われた神の奴隷。あなたもその礎になりなさい」

 ああ、その謳い文句も知っている。

「お前は、女だろう……?」

「あら。(はら)に子種を注ぐのなんて、漏斗一つあれば充分でしょう? それとも、その前の運動がお好きなのかしら? それなら、そうね。一度くらいは好きな(たね)を選ばせてあげる」

 まるで家畜そのものの扱いに嫌悪感がこみ上げるが、体自体の感覚は未だ戻らない。

 もはや身動きすら取れない。辛うじて呼吸ができているだけだ。

 言葉を発する事すら辛い。

「さぁ、そろそろ眠りなさい。あまり騒ぐと手足を落としちゃうわよ?」

 別に母体に必ずしも必要ってわけじゃないし――と、その女はあっさりと言った。

 まったく。生粋の闇派閥(イヴィルス)と並ぶ……あるいはそれすら上回る狂人だ。

「ああ、それでいいかしら。このまま運ぶの面倒だし」

 冗談ではない。どこの誰とも分からない子を宿すのも手足を落とされるのもご免だ。

 呼吸を練り、体に力を込める。まずは指が動いた。

 ならば、次は立ち上がらなくては。

「やれやれ。物騒な話をしているな」

 絶望的な悪あがきをする最中、玲瓏な声を聞いた。

 

 …――

 

 レノアの店を後にしてから。

(空振りか)

 その足で交易所に向かい、目についた骨董屋や古美術商を一通り巡ってはみたが、結果は芳しくなかった。

 いや、ほぼ徒労といっていいだろう。

 この区画にある店でダメなら、他の区画の店に向かっても成果は得られまい。

(あの類の店は、元より素人向きではないがな)

 骨董品や古美術品は、買い手にも相応の知識が求められる。

 例えば薬舗で五〇〇ヴァリスのポーションを一〇〇〇ヴァリスで売っていたなら暴利どころか詐欺として訴えられるだろう。

 だが、骨董品、古美術品ではその程度は日常茶飯事だ。

 倍どころか十倍以上の高値で売り付けられる事もある。最近はいくらかマシになったが、ロキが散々そういう手合いにしてやられてきた。

 何故神が騙されるのか?――と、長年疑問だったが、最近そのカラクリを知った。

 知ってしまえば、手品の種は実に単純なものだった。

 無知……いや、素直で弁が立つ店番を用意して、その『謂れ』を念入りに吹き込んでおけばいい。

 少なくともその店番にとってはそれが真実なのだから、(ロキ)も嘘とは見抜けない。

 店番が店長に疑いを抱いていなければいないだけ、露見しづらい。

 そして、仮に露見したとしても――

(鑑定に誤りがありました。ただそれだけの話だ)

 まさに魔法の言葉だった。

 何しろ、いかに目の肥えた真っ当な鑑定士でも、そう言った誤りを犯す事はままあるのだ。

 加えて言えば、そういう事もある――という暗黙の了解のもとで売買は行われている。

(ある意味、賭博に近いのかもしれないな)

 鑑定士の失敗は、何も高値を付ける事ばかりではない。

 あまりに安く売ってしまう事もある。

 いつだったかも、『古代』の有名な画家が描いた絵が、古物市で捨て値で売られていた――と、いった騒ぎがあった。

 最終的には数百億ヴァリスもの値で買い取られ、今はオラリオ美術館に展示されている。

 ロキに連れられて、人ごみの中を見に行ったのでよく覚えていた。

 確に見事な絵だったが――

(私も教養としていくらか知識は持っているが)

 その辺りについても、城でいくらか仕込まれている。

 だが、少なくとも専門家ほどの目や知識は持っていない。

 だから、まぁ――おそらく、私がその古物市で見かけたとしても気にかけなかっただろう。

 そういう領域での商売だ。ドロップアイテムや迷宮資源の売買交渉とはまた勝手が違う。

 飛び込みで成果を上げようとした私が、少しばかり浅はかだったのかもしれない。

(面白い話なら、それなりに聞けたが……)

 いずれ――そう、レフィーヤが育った暁には、自分の目で確かめに行きたいものだ。

 そう思う話はいくらか聞けたが、どれも今回の本題からは外れている。

(戻るか)

 すでに夕食の時間は過ぎている。

 必要ない場合は事前に連絡を入れるように――と、普段からアイズ達に言っている手前、急いで戻らなくては。

(しかし、面倒なものだ)

 本拠地(ホーム)のある第一区画に戻るには中央広場(セントラルパーク)を通過するのが一番近い。近いが、そこはバベルが聳え立つ区画である。

 それはつまり、オラリオ中の冒険者が集う場所を意味する。

 当然ながら、今は神罰同盟が加盟者を求めて網を張っていた。

 フィンは加盟を断ったが……それでも、もし私の正体が露見したなら、確実に面倒な事になる。

 そのため、いつもの外套ではなく、もっと大きくフードもついたものを羽織ってきていた。

「うん……?」

 念のため大通りを避けて歩いていると、不意に魔力の気配を感じた。

 耳を澄ませば、戦闘音らしきものも聞こえる。

(クオンか?)

 今のオラリオなら、その可能性が一番高い。

 少し迷ってから、気配を消して音のする場所へと向かう。

 私は『殺生石』についてすでに知っている。秘密にするという約束をあいつが信じているなら、殺されはしない。信じていないなら、あとは時間の問題だ。

 ここで殺されるか、別の場所で殺されるの違いでしかない。ならば、躊躇う事はなかった。

(少しでも情報を得ておくべきだ)

 と、それなりに悲壮な覚悟を決めていたのだが。

「あら。(はら)に子種を注ぐのなんて、漏斗一つあれば充分でしょう? それとも、その前の運動がお好きなのかしら? それなら、そうね。一度くらいは好きな(たね)を選ばせてあげる」

 聞こえてきたのは、女の声だった。

 それも、あまり品がいいとは言えない内容だ。

 眉間に皺がよるのを自覚した。

(クオンもこの手の冗談を時折口にするが……)

 いや、あいつもここまで悪趣味ではないか。

 ともあれ、声の主はクオンではない。彼とともにいるハーフエルフ――霞のものでもない。

 まったく無関係の喧嘩だろうか。

 ……だが、内容が内容だけだ。流石に無視はできまい。

 気配を消したまま先の路地を覗き込み――その光景に首を傾げていた。

(あれは【象神の杖(アンクーシャ)】?)

 すぐに確信を持てなかったのは、彼女が木箱の残骸に埋もれていたからだ。

 どうにも解せない。彼女はオラリオにも数少ないLv.5だ。

 それをああまで追いつめられるとしたら、敵対する女エルフもまた最低でも同じLv.5。

 だが――

(見覚えがないな……)

 対峙している女エルフには見覚えがなかった。

 と、なると――

(私も段々慣れてきたな)

 クオン側の存在か――と、推測している自分に小さくため息を吐く。

 昔から人外魔境だと言われているこの街(オラリオ)だが、いよいよ極まってきたらしい。

「さぁ、そろそろ眠りなさい。あまり騒ぐと手足を落としちゃうわよ?」

 と、暢気に嘆いている暇もなさそうだ。

 愛用の杖を握り直し、その路地へと踏み込む。

「やれやれ。物騒な話をしているな」

 フードは外してある。

 あまり騒いで神罰同盟やクオンに乱入されても面倒だ。

 できれば手早く済ませたい。そのためには、使えそうなものは何でも使おう。

 ……と、いうのは少々傲慢に過ぎたのかもしれない。

「【九魔姫(ナイン・ヘル)】……」

象神の杖(アンクーシャ)】が呻いた。

 どうやら立ち上がる事もままならない様子だった。

 しかし、傷はそこまで深いようにも見えないが――

(となると、毒か)

 それも麻痺毒の類だろう。

 それなら安全とは言わないが、言葉を発せるならまだ呼吸できていると見ていい。

 ならば、あとは心臓が動いている限り、死にはしないはずだ。

「深緑の長い髪に翡翠色の瞳。なるほど、あなたがリヴェリア・リヨス・アールヴね。()()()セルディアの末裔」

「何……?」

 聖女セルディア。迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)に語られるエルフの英雄が一人。

 リシェーナ・リヨス・アールヴの姉――つまり、私達王族(ハイエルフ)と同じ血をひく永遠の乙女。

 ()()()()()なメタス・ハーストと違い、彼女の物語は全ての里に伝わっていると言われる。

 彼女の物語をまとめた書籍は聖書と称され、自分達こそがセルディアの血を継ぐ正当な王家だと主張する者まで現れる程だ。

 ある意味において、王権の象徴と言ってもいいほどの大英雄である。

(裏切者だと……?)

 その聖女を裏切者と呼ぶとなると――

「まぁ、いいわ。正統な英雄の血に帰してあげる」

「生憎と、今は手のかかる娘が一人いてな。そんな余裕はない」

 考え事をしている余裕はない。

 そんな事をしていれば【象神の杖(アンクーシャ)】の二の舞だ。

「血だけくれればいいわよ」

「そうはいかない」

 距離にしておよそ八M。魔導士の間合いとしては少々近すぎるが――

「―――――――」

 右手に幻影の剣が生じる。

(あの拵えは……)

 見覚えがあった。もちろん、私が知っているのは贋作(レプリカ)だが……。

(やはり、そういう事なのか?)

 いや、今は後回しだ。考え事をしながら戦える相手ではない。

(どうやら、あちらは近距離戦もお手の物らしいからな)

 幻影の剣を生み出す――と。

 その程度の魔法であるはずがない。あれはクオンのものと同じだ。

「【集え、大地の息吹――我が名はアールヴ】」

 反射的に歌を紡いでいた。

 相手は【象神の杖(アンクーシャ)】を圧倒できる手練れである。

 慢心などできない。

「【ヴェール・ブレス】!」

 詠唱の完結と共に緑光の加護が体を包んだ。

 効果は物理、魔法両方に対する抵抗力の向上。一定時間持続し、僅かだが体の傷も癒やす。

「そぉれ!」

 同時、女との間合いが詰まる。

 幻影の剣が青白い軌跡を描いて通り抜けた。

(厄介だな)

 白銀の長杖と幻影がぶつかり合い、火花を散らす。

 重さはないくせに、威力は本物だ。

「便利な魔法だな」

 何度目かの激突は鍔迫り合いにもつれ込んだ。

 精製金属(ミスリル)聖皇鉱石(ホーリーダイト)の合金で作られた長杖が軋みを上げる。

「魔術よ」

 そう言えば、クオンも自らの魔法をそう呼んでいたか。

 いや、あいつのは他にもいくつか別の呼び方をしていたが。

(これは一体……)

 この女はクオンとは関係がないはず。

 だが、これを果たして偶然の一致と簡単に片づけていい事なのか。

「まぁいい。あとでゆっくり聞かせてもらおう」

 相手の刺突を逸らし、石突を跳ね上げる。

 狙いは鳩尾――だが、流石にそう容易く当てさせてはくれないか。

「あら、ずいぶんと余裕ね?」

「そうでもない」

 余裕があるかどうかと言われれば、あるはずもない。

 私達の基準で言えば、おそらくLv.6相当。それも、私とほぼ同じだけの実力者だ。

 ならば、余裕などあるはずもない。

 はずもないが――

(動きは見えている)

 首筋を狙う青白い刃を逸らしながら、胸中で呟く。

 うちのはねっ返りども(アイズ達)に比べればまだ動きは見やすい。

(性格は悪いがな)

 毒蛇か蠍か毒蜘蛛か。

 緩やかに密やかに迫り、毒の一撃で獲物をしとめる。そういう手合いだ。

(うちにはいないな。こういった手合いは)

 力ではない。強さでもない。そういうものにはこだわらない。

 ……ただ殺せさえすればそれでいい。

(ロキやフィンの趣味でもない)

 この思想は闇派閥(イヴィルス)のそれに近いと言えよう。

(嘆かわしいな)

 もっとも、かつて暗黒期においてもこう言った手合いの同胞(エルフ)と対峙した事は幾度となくあるが。

「か……ぁ!?」

 感傷は動きを鈍らせるものではない。

 杖の石突が女の鳩尾を抉る。

「だが、私とて最低限の護身くらいは心得ているとも」

 杖頭を一閃。こめかみを痛打され、女の体が大きくよろめく。

 この女は本質的に前衛型ではない。いや、そもそも戦闘自体が本業ではない。

 当然だ。

(この女は魔導師(メイジ)だ)

 いや、その呼び方が正しいかは分からないが……いわゆる()()()と呼ぶべき存在だ。

 私の予想が確かならそう考えていい。

(それも、今はどうでもいい事だがな)

 同じ魔導士。戦闘技能に大きな違いはない。

 同じLv.6。身体能力に顕著な差はない。

 ならば――

「そして、これが経験の差だ」

 最後に物を言うのはそれだ。

 杖を用いて足を払う。

 呆気なく体勢を崩す女に、さらに杖頭を叩き付けた。

「【終末の前触れよ、白き雪よ――】」

 一撃。二撃。それでも打撃はやめない。

 私と同じならこの程度では倒れない。

 反撃は、必ず来る。

「この――!」

 幻影の剣の冴えが増す。

(やはりいくらか手を抜いていたらしいな)

 刺突と斬撃が入り混じったそれを受け、胸中で呟く。

 だが、それとて想定以上のものではない。

 そう。この女なら、元よりこの程度の事ができないはずがない。

「【黄昏を前に(うず)を巻け――】」

 頬を掠める刃もまた心を乱す事はなかった。

 女の蹴りを、後ろに飛び退いて躱す。

 そこはもう魔導士の間合い。

「――――――――」

 幻影の剣が消え、四つの光球――いや、 青白い()()が浮かぶ。

(何っ!?)

 直撃した四つの結晶は、私が纏う光の衣を貫通せんと迫る。

「チッ!」

 いや、一発貫通を許した。

 穴が開いた結界では今まで通りには防げない――が、そもそもの狙いが甘い。

 飛び退くだけで射線から逸れられる――

「くぅ……ッ!」

 更なる結晶が肩を掠めた。

追尾属性(ホーミング)か……!)

 だが、傷は浅い。戦闘続行に何の支障もありはしない。

「【閉ざされる光、凍てつく大地――】」

 痛みは無視して、詠唱を続ける。

「―――――――」

 再び幻影の剣が右手に生じる。

 だが、遅い。この女の攻撃の癖は掴んでいる。

「【吹雪け、三度の厳冬――】」

 予見できる攻撃など当たりはしない。

「この! ちょこまかと……ッ!」

 剣を避け、あるいは杖で受け流しながら詠唱を続ける。

 直撃さえさせなければいい。掠めた程度なら緑光の加護を破れはしない。

 それを可能とするのが、並行詠唱。魔導士の奥義。

「【――我が名はアールヴ】!」

 皮肉なものだ。この奥義を完成させた者こそが――

「チィ!」

 女が、幻影の剣を突きの形に構える。同時、その刺剣は更なる輝きに包まれていく。

 その『剣』を使うなら、切り札はそれだと思っていた。

 あとは私が、どこまで偉大な先人に近づけるか――あるいは、その女がその先人の絶技をどこまで()()できているかだ。

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 時すら凍てつかせる吹雪と、青の閃光群が激突する。

 抵抗は一瞬。その猛吹雪は古き英雄の剣閃をも凍てつかせた。

 だが――

「……逃げたか」

 吹雪が散った後に残っていたのは、凍てついた路地だけだった。

 女の姿はない。しばらく周囲を警戒したが、奇襲もなさそうだ。

「大丈夫か?」

「あ、ああ。助か、った。礼を、言うぞ……」

 呻きながら、【象神の杖(アンクーシャ)】が体を捻るように動かした。

 だが、それはまるで見えない縄にでも縛られているかのような緩慢でぎこちない。

 やはり麻痺毒の類に侵されているようだ。

 彼女の代わりにポーチから解毒薬とハイ・ポーションを取り出し飲ませてやる。

 程なくして、【象神の杖(アンクーシャ)】が大きく息をついた。

「どうやら、無事に薬が効いたようだな」

 それを見届けて、小さく呟いた。

 身体から力が抜けたのは、毒によって弛緩したのではなく彼女自身が気を抜いたからだろう。

 そのまま数回、緩やかな呼吸をしてから彼女は体を起こした。

「ああ……。【九魔姫(ナイン・ヘル)】。改めて礼を言うぞ」

「なに、気にする事はない。先日のフィリア祭ではお前達の世話になっている。その礼だ」

「……礼も何も、あれは私達の失態なのだが」

「馬鹿な事を。モンスター脱走に関してならともかく、デーモン襲撃はお前達の責ではない」

 そして、私が深手を負わされた相手はデーモンだ。

 流石にフィリア祭で調教(テイム)されるようなモンスター相手なら今さら遅れを取りはしない。

「これは?」

 ともあれ、羽織っていた外套を脱いで差し出すと、彼女は怪訝そうに首を傾げた。

「使うといい。服がだいぶ傷んでいるだろう」

 胸元から臍にかけて戦闘衣(バトルクロス)が引き裂かれ、素肌が晒されている。

 幸い、今のところ他に人目はないが、それもいつまで続く事か。

「もう胸を見られて恥じるような歳でもないがな」

 気まずさを誤魔化すように、彼女が(うそぶ)く。

「そういう台詞は私の半分も生きてから言え」

 それに彼女はもうLv.5だ。『器』は昇華され、同性から見ても美しい顔立ちやその肌は暗黒期の頃から何も変わっていない。ならば、若い男にとっては充分に目に毒だろう。

 彼女もそれ以上は何も言わず、外套を受け取るときっちりと着込んだ。

 そして、

「これは?」

「礼だ。受け取ってくれ」

 彼女が差し出してきたのはハイ・ポーションだった。

 首を傾げていると、彼女が自分の肩を軽く指さす。

 そこで思い出した。

「ああ、そうだったな」

 あの女の魔法――いや、魔術か――に、肩口辺りを貫かれていたか。

 先に施した魔法によって治癒はすでに始まっていたし……何より、痛みにかまけている暇もなかったので、すっかり忘れていた。

 その不満を訴えるかのように傷が痛み出す。

 礼を言ってそれを受け取り。傷口にかけるとそれだけで完全に傷が塞がった。

 フィリア祭でも思ったが、流石は【ガネーシャ・ファミリア】。良い物を使っている。

「しかし、あの女は何者だ?」

「それについて、少し相談がある」

 互いに一息ついたところで、問いかけると彼女はこう言った。

「もしよければ少し付き合ってもらえないだろうか?」

 私達の派閥が疑われている――と、いう事はないだろう。

 いや、私が到着する前に何か吹き込まれている可能性はあるが……

(そう言った雰囲気ではないな)

 彼女が得体の知れない情報に安易に流されるはずがない。

 何より、すでに彼女が何を聞きたいかは見当がついていた。

 それが正しいなら、なるほど、このオラリオで()()できるのは私だけか。

 下手なところに持ち込めば、他派閥間のやり取りよりもさらに面倒な事になりかねない。

 もちろん、今の私にどれだけの事ができるかは定かではないが――

「ああ、もちろんだ」

 無視する事も出来ない。

 城からは出奔できても、生まれ持った血までは捨て去れないのだから。

 

 

 

 密談の場所は【ガネーシャ・ファミリア】の本拠地(ホーム)の一室だった。

 基本的には、よほど親しい派閥でもない限り他派閥の団員を本拠地(ホーム)に招く事はないのだが……神ガネーシャは『神の宴』を自派閥の本拠地(ホーム)で開く事でも有名だった。

 フィリア祭の少し前に開かれた宴にはロキも出席している。

 主神を招く事に比べれば、副団長を招くなど容易い事という事だろう。

 団員達は特に驚きを見せなかった。……いや、同族(エルフ)達は驚いていたが、それはいつもの事だ。こればかりはどうにもならないらしい。

(……まぁ、私も少々躊躇ったがな)

 出された紅茶に口をつけながら、小さくため息を吐く。

 その……建物への入口を潜る時は。

 もちろん、ロキから話は聞いていたが……まさか本当だったとは。

 そこはいつもの冗談だと信じたかった。

「口に合わなかったか?」

「いや、そんな事はない」

 対面に座る【象神の杖(アンクーシャ)】に応じた。

 芳醇な香りと甘く濃厚な味。これ程のミルクティーはなかなか味わえない。

 せめて茶葉の銘柄だけでも教わりたいものだ。

「それで、相談とは?」

 心地よさに浸っていたいのは山々だが、そうも言っていられない。

 そろそろ本題に入らなくては。

「ああ」

 頷きながら、【象神の杖(アンクーシャ)】はポーチから何かを取り出し、テーブルに置いた。

「これは……」

 質素な意匠の首飾り(ペンダント)。おそらく純金製だが、装飾品として見るなら質素でありそこまでの値打ちはつかないだろう。

 問題はそれに施された紋章だ。

 確かに見覚えがあった。そして、予想していたものでもある。

 だが、それでも驚きと、ある種の嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

「……これをどこで?」

「【イシュタル・ファミリア】の本拠地(ホーム)。より詳しく言えば、神イシュタルの神室だ」

「何だと? 確かなのか?」

 あり得ない。これが神の元にあるなど。

「ああ。……私も多少は知識がある。だから、我が目を疑ったものだ」

「だろうな。……今さらだが、私に話しても良かったのか? 【イシュタル・ファミリア】と言えば、クオン絡みでもあるだろう?」

「分からない。それも含めて、お前くらいしか相談できる相手がいないんだ」

 ……そう言われてしまえば、確かに反論の余地もないが。

 とはいえ、私とてクオンについて特別何かを知っている訳ではない。だからこそ、こうしてあちらこちらに足を運んでは調べ物をしているのだ。

「ただ、他言は無用に願いたい」

「分かっているとも。他の同族(エルフ)達に知られでもしたらどんな騒ぎになるか」

 想像するのも億劫だ。

 それにしても――

(最近、主神(ロキ)団長(フィン)にも話せない秘密が増えてきたな)

『火の時代』に『殺生石』。……ああ、どれもクオン絡みか。

 まったく、相変わらず厄介な相手だ。

「何故、これを神イシュタルが持っていたと思う?」

「客の忘れ物……と言うのが、一番無難な答えだろうな」

 いや、それでも場合によっては大事(おおごと)だが――この際、それで済むならまだいい。

「神イシュタルの客になったと?」

「確かにあり得ないな」

 自分で言った言葉の荒唐無稽さに、思わず嘆息していた。

 そんな事はあり得ない。クオンが客になったようなものだ。

 ……いや、それを上回る異常事態だ。

「それより、まずは互いに()()()()()をしておこう。念のためな」

「ああ。この紋章は――」

 私の言葉に【象神の杖(アンクーシャ)】は頷き、こう切り出した。

「カインハースト家のものだ」

 答えが重なった。

「エルフの英雄、メタス・ハーストのもう一つの血統か」

 正しく言えば、ハースト家の旧紋章。

 フレーキ・ハーストが宮廷魔導士長として王家から家紋を下賜される前に用いていたものだ。

 ――が、その詳細を知る者はもはや少ない。

 文字通り徹底して消されたからだ。

 アールヴ家によってだけではない。神々すら巻き込んでいる。

 いや、神が先導した、と言うのが最も正しい。

 

『古代』の英雄が一人メタス・ハースト。

 エルフ随一の剣士であり、並行詠唱を()()()()()人物とも伝えられている。

 攻撃、防御、移動、回避、詠唱。その五つの完全なる同時展開。

 魔導士にとっての理想を完全に体現し、その稀代の絶技を以って最前線で戦い続けたエルフの戦士であり――

 

「旧オラリオの開闢を成し遂げた『円卓の誓い(ラウンズ)』の一人、か」

 神速の剣技と圧倒的な魔法火力によりモンスターの大群を貫き、オラリオへの道を開いたと語られる【閃穿(つらぬき)の騎士】。

「そこまでだったら、聖女セルディアに匹敵する英雄だっただろうが……」

 英雄同盟――『円卓の誓い(ラウンズ)』の盟主は【狼騎士】アルトリウス。

『古代』において並び立つ者はいないとも謳われた大英雄は、しかし今やその名を禁じられている。

 降臨した神々への反逆。その咎によってだ。

 オラリオ開闢を成し遂げた大英雄でありながら、神々公認の英雄譚――『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』にその名は一切記されていない。

 だが、それでも完全にその名を消し切れないほど、彼の功績は大きい。

 そして――

「メタス・ハーストはアルトリウスの腹心の一人だった」

 数多の英雄が集った誉れ高き『円卓の誓い(ラウンズ)』の最初期構成員である四人――のちに『四騎士』と称された一人が【閃穿(つらぬき)の騎士】メタス・ハーストである。

 アルトリウスの反逆さえなければ、オラリオ開闢の大英雄として聖女セルディアと並び称されていた事だろう。実際、その反逆により失墜して後、アールヴ王家による名誉回復がなされるまでの間もパルシファルという名で語り継がれていたほどだ。

 ……とはいえ。

 厳密に言えば、メタス・ハースト本人はアルトリウスの反逆に加わっていない。

 神々が降臨する少し前、ダンジョンの深奥に斃れ天へと帰っていたからだ。

 だが、その英雄の血が途絶えたわけではない。

 彼の血をひく()()が、その後この世に生まれていた。

 それが【大賢人(ディア・アベル)】フレーキ・ハーストであり――

「運命の双子の片割れ、ウルベイン・ハーストか」

 そして【大罪人(ディス・カイン)】ウルベイン・ハーストである。

「ああ。彼はアルトリウスに従い、神々へと反逆した」

 と、言っても彼らが物心つく頃にはすでにアルトリウスはこの世に――少なくとも、オラリオに存在しなかったはずだが。

 神々によって作り直されたオラリオで、フレーキと共に父親の弟子達から教えを受けた彼は、その才が充分に開花するや否や神々への反逆を開始したという。

 オラリオ史に残る最初の『神殺し』。それこそがウルベイン・ハーストである。

「その後、彼はアルトリウスに従いオラリオを去った反逆者の生き残りと合流したとされる。この頃にアールヴ家によって『罪人(カイン)』の烙印を捺されたとも」

 そして、メタス・ハーストの完全なる名誉回復は不可能となった。

 だからこそ、今もその名声は聖女セルディアには及ばないのだ。

「その通りだ」

 彼女の博識さに内心で舌を巻く。

 何しろ、ウルベインの凶行はエルフの歴史の中でも屈指の汚点だ。

 その名前はエルフの間で語る事すら憚られており、他種族に伝わる事は少ない。

 今となってはその名前を知っている者ですら、いったい何人いる事か。

「私が聞きたいのは、わざわざ家名に烙印を押した理由だ」

 神を殺し、英雄の血を穢した『罪人』。カインハースト(罪深き血統)

「ウルベインの子孫達は、何を企んでいる?」

 あえて血統そのものを罪とした理由。

 彼女が聞いているのはそれだ。

「…………」

 もちろん、王族(ハイエルフ)であればそれを知っている。

(ああ、そうか……)

 それを思い浮かべ、ふと気づいた。

 今までは眉唾物、単なる狂人の絵空事だと思っていたが――

(あるいは、本当に可能なのかもしれないな)

 その妄執は、すでに現実と繋がっていると言える。

「それは王族(ハイエルフ)の秘事だ。口外できない」

 クオン。あいつは、ある意味においてカインハースト家の理想の体現だ。

 今まで意識してこなかったが……こうして冷静に思い返せば、この両者の思想はかなりの部分で通じ合うものがある。

 ならば――

「だから、聞かなかったにしてもらおう」

 落胆した【象神の杖(アンクーシャ)】に、少し意地の悪い笑みを浮かべて見せる。

「分かった。感謝する」

 彼女が頷くのを見届けてから、さっそく本題に入る。

「アルトリウスは神々の降臨に際して、『世界の終わりが訪れた』と叫んだとされる」

 神々こそが世界の終わりと語ったアルトリウス。

 すでに『神時代』は終わっていると語ったクオン。

 終わった時代の住民が、もし今もまだ地上を闊歩しているなら、それはあるいは『亡者』と呼べるのではないだろうか。

「その根拠は分からない。だが、彼に従った数多の英雄はそれを信じたとされる」

 だからこそ、彼らは神々へと戦いを挑んだ。

 彼らに勝算はあったのだろうか。

(あったのだろうな)

 人は神を殺せる。

「クオンの神殺し。その詳細は知っているか?」

 ロキの話を信じるなら、クオンはそれを成し遂げている。

「……『完全なる神殺し』だとガネーシャは言っていたな」

 やはりか。神ガネーシャがそう言ったなら、ロキの言葉もまた正しかったという事になる。

「私も確証がある訳ではないが、おそらく本当だろう」

 内心で呟いていると、【象神の杖(アンクーシャ)】は続けた。

「クオンが神イシュタルを殺害したと思しき場所を調査したが、そこで奇妙な痕跡を見つけた」

「奇妙な痕跡だと?」

「ああ。そこに用意されていた神座の前に少し湾曲して何かが削り取ったような跡があった。その場所から魔導士が魔法でも放ったかのようにだ」

 紅茶で唇を湿らせてから、彼女はさらに続ける。

「当時歓楽街にいた神々の何柱からも証言を得ている。彼らは一様に『神の力(アルカナム)』を感じたそうだ」

 真っ当に考えれば天界に還る際に発揮されたものだろうが――と、いう前置きと、

「だが……別に気が触れたわけではないのだが」

 躊躇いを宿したうめき声の後に彼女は言った。

「クオンは神イシュタルに『神の力(アルカナム)』を使()()()()のではないかと」

 確かに普通であれば気が触れたと思うところだ。

 だが――

「使わせたうえで、殺した。あの痕跡を見る限り、私にはそうとしか思えない」

 今回ばかりは素直に受け入れられた。

「おそらく、アルトリウスも同様だろう」

 アルトリウスもまた、クオンと同じ『力』を持っていたとするなら――

「オラリオ史による最初の『神殺し』はウルベインだが、旧オラリオ史を含めれば話は変わる。人類史最初の『神殺し』はアルトリウスをはじめとした『古代』の英雄達だ。まぁ、これだけなら今さら言うまでもない話だろうが……」

「彼らの『神殺し』もまた天界への送還ではなく、完全なる殺害だったという事になる、か……」

 あるいは、ウルベインの犯した『神殺し』もまた。

「ああ。アルトリウスの名が徹底して抹殺されたのはそのせいだろう」

 だとすれば、神々にとってその英雄達は怨敵だ。

 彼らの名を歴史から徹底して抹殺した理由も分かる。

「何故、そこまで神々を嫌ったのか。それは私にも分からない」

 ダンジョンは封印されず、モンスターの脅威が野放しだった『古代』において神々の降臨は世界の終わりどころか希望だったはずだ。

(と、言うのは今の私達の感覚だな)

 本当にクオンと同じ力を持っていたなら、不要だったとも言える。

 だが、世界の終わりと言うほどのものではない。彼らは他種族共存を成し遂げていたはずだ。

 そこに新たな一つ種族が加わるだけの事ではないのか?

(まぁ、神々がそれで納得するかはまた別の話だが)

 神は私達(人類)に混じって生活している。だが、溶け込んでいるかと言われれば返事に困る。

 何しろ世界の多くを動かしているのは神意だ。各地の王権はそれに及ばない。

 それどころか――

(王権神授と言えば聞こえはいいが……)

 ラキアをはじめとしたいくらかは傀儡と言ってもいい。

 数多いる種族の一つ、と呼ぶには影響力が強すぎる。

 下界とは神の遊び場。人間はただの遊具であり、遊戯(ゲーム)の駒。

 そう嘆く者もいると聞く。

「カインハースト家が望むのは『神殺し』だ。彼らは、今もアルトリウスの言葉を信じている」

 少なくとも、ウルベインを突き動かしたのはそれへの怒りだとされる。

 人の尊厳と矜持を捨て、大恩ある英雄達を裏切った薄汚い神の奴隷どもから、父祖の御霊が眠る地を奪還せよ。それが彼らの宿願だった。

 

我らが地を取り戻せ(レコンキスタ)

 

(いや、違うか)

 アルトリウスが遺したとも言われるその号令を思い出し、それを否定する。

 これでは矮小化しすぎだ。

「そのために、『聖杯(グラール)』と呼ばれる何かを継ぐ者を生み出す。彼らはその研究を続けていると聞く。あの女がお前に子を、と言ったのはおそらくそのせいだろうな」

 我らが地とはオラリオに限らない。この下界全てだ。

 

『下界から神々を一掃せよ』

 この号令が真に意味する事はそれである。

 

「『聖杯(グラール)』とは?」

「私も詳しい事は分からない。だが、来るべき神との決戦にはそれを持つ者が必要だと、アルトリウスは説いたらしい」

「血を重ねる事で、それが手に入ると?」

「分からん。だが、彼らはそのために『魂の真理(アヌヴェン)』と呼ばれる邪法を用いていると聞く」

 そう言えば、『火継ぎの王』の物語にも『魂の真理』という言葉が記されていたが……果たして関係があるのかないのか。

「それによって『聖杯(グラール)』を得て、『継承者(リア・ファル)』を生みそうとしている――と、いう事なのだが……」

 正統なる王。新たなる時代を告げるもの。すなわち『継承者(リア・ファル)』――と、そんな一節を耳にしたことがあるが、それだけだった。

 それ以上の事は何も知らず、その言葉の意味も分からない。

「先にも言った通り、私も詳細は知らない。伝え聞く話から察するに、神を超える人間を生み出そうとしているようなのだが……」

 いや、違うか――と、すぐにその言葉を訂正した。

「神を超えるエルフを生み出そうとしている、と言った方がいいな。こう言っては何だが、やはりウルベインもエルフの業からは逃げられないという事だ」

 他の種族を見下し、自分達こそが至上であるとするその気質。オラリオのように他種族に囲まれて過ごし、充分に世慣れたエルフでも完全に捨てきれないその(カルマ)

 むしろ、血を濃くすればするほど、その深みに嵌まっていくのかも知れなかった。

(もし、そうでないなら……)

 おそらく、今頃はクオンと接触を持っているだろう。

 あいつこそがカインハーストの理想だ。

 神に依らずとも強大な力を有し、完全なる『神殺し』すら可能な人間。

 これで種族がエルフだったなら文句など何もないだろう。

「強い血を生む、か。……もしや闘国(テルスキュラ)のようなものなのか?」

 彼女が口にしたのは、オラリオから遥か東南に位置する半島に存在する血と闘争の国の名だ。

 またの名を【カーリー・ファミリア】。国家系派閥の一つである。

 その国は『より強い戦士を生み出す』ことを至上命題とし、日夜眷属同士を殺し合わせている。

「理念としては通じるものがあるかも知れないな。だが、相容れないだろう」

 何しろ、テルスキュラの闘争は神が主導しているのだ。

 ……おそらく、だが。カインハーストにとってはオラリオに並び忌まわしい場所だろう。

(クオンが知れば、その日のうちに焼き払われそうだな)

 一人を生贄にしようとしただけで派閥を潰しているのだ。

 蠱毒のように殺し合わせているあの派閥を見逃すはずがない。

「ひとまずカインハースト家についてだ」

 ため息を一つついてから、話を戻す事にした。

「もし彼らが成功したなら、神なき下界を統べるのはエルフという事になる。少なくとも王族(ハイエルフ)の多くがそう考えている」

 何故、ウルベインが……いや、カインハースト家が討滅されないのか。

 堕ちたとはいえ英雄の血だから――など、ただの詭弁に過ぎない。

 神へとなり替われるかもしれない――彼らが示すその可能性。

 誰もがそれに魅入られているのだ。

 だが、一体どこの誰がそんな事を公になどできる?

「まさに魔性だ。その囁きは王族(ハイエルフ)をとらえて離さない」

 父上に――あるいは己の血に挑むような気分で、言葉を紡ぎ続ける。

 自らを高潔で博識高い種族と謳うエルフの闇そのものを。

「だからこそ、散々忌避し咎人の烙印を捺しながらも、王族(ハイエルフ)は彼らの討滅命令を出そうとはしない。表立っては糾弾もするが……誰かが討伐を計画しても、別の誰かがうやむやにする」

 だからこそ、カインハースト家は数百年の間存続している。

 そして、『咎人(カイン)』の烙印を捺されながら、『ハースト(英雄)』の名を奪われない。

 

大逆の英雄(カインハースト)

 

 それこそが、私達エルフが抱える最も深い闇の名前だ。

「今も勢力を拡大していると聞く。すでにオラリオに手の者が潜んでいるとなると、計画は進行しているのだろうな」

 かくしてオラリオに迫る脅威がまた一つ、という訳だ。

「俄かには信じがたいが……」

 しばらくの沈黙の後、【象神の杖(アンクーシャ)】が呻いた。

「だが、否定はできないな。私も『神殺し』の実例を知ってしまった」

 そんな彼女だからこそ、私もこうして話した訳だが。

「そのうえで、一つ訊きたい。クオンもカインハースト家の一員なのか?」

「いや、それは違う」

 問われるだろうと思っていた。

 そして、その答えもすでにある。

「少なくとも、クオンはエルフではない。先に言ったように、ウルベインはエルフの血にこだわっている。ヒューマンのあいつにその秘術を伝えるとは思えないな」

 少しだけ言葉を切ってから、

「これは完全に私の推測だが……クオンが会得している『力』こそが『魂の真理(アヌヴェン)』の原型なのだろう」

 その推測を口にした。

「『古代』の英雄には二種類ある」

 それは根拠のない推測だが、それでも目を瞑って射たわけではない。

「一つは精霊に導かれ、その加護を受けた英雄」

 精霊――ひいてはそれを遣わした神によって生み出された英雄。

 いわば冒険者の前身とも言える存在だ。

「もう一つはそう言った逸話を一切持たない英雄だ」

 人より生まれた英雄。

 しかし、彼らもまた常人離れした逸話を持っている。

「精霊との逸話が伝わっていないのではなく、別の『何か』を得ていたと?」

「ああ。その通りだ」

 あるいは、だからこそ彼らの逸話はその多くが失われているのかもしれない。

 精霊の加護に匹敵するその『何か』は、神殺しを可能とするものだったから。

「そして、その『何か』を今もその身に宿しているのが、クオンだ」

 今に生きる『古代』――いや、人の英雄。

「あいつの神嫌い。それは、アルトリウスと同じなのかもしれない」

「神々の存在が、世界を終わらせると?」

「分からないな。私にも」

 だが、仮にそうだとするなら、それこそが神意だ。

 一体誰が抗えるというのか。

 

 いや、抗える。あいつは今も抗っている。人は神を――…

 

「それなら、一応の納得がいく。ただそれだけの話だ」

 内なる囁きは黙殺して、ひとまずの結論を結んだ。

 いや、

「何やら、質問からずいぶんとかけ離れてしまったな」

 残ってた紅茶を飲み干してから言った。

 これでは【象神の杖(アンクーシャ)】の質問に答えられていない。

()()()()カインハースト家が神イシュタルに与するとはとても思えない」

 その理由については、充分に語ったつもりだ。

「他の可能性としては、襲撃した際にクオンが落としていった――」

「いや、それはないな。あいつはあの神室に立ち入っていない」

 まぁ、予想はできていたが。

「ならば、先に言った客の忘れ物か、もしくは代金か」

 何しろ純金製だ。装飾品としてはともかく、それそのものにも相応の価値がある。

「神イシュタルの一夜を買うには、少々安すぎる気がするな」

「かもしれないな」

 もっとも、相場など知らないが。

 それに、質草を必要とするような相手を客にするか?――と、いう疑問もある。

「神の気まぐれ、という可能性はあるだろう」

 軽く肩をすくめてから、それよりはいくらか確実性がある言葉を口にした。

「他に考えられるとしたら、カインハースト家に異端がいるという可能性だ」

 神に与するという異端。カインハーストの理想に完全に対立する存在ないし勢力。

 それとも、悲願成就のために手段を選ばないだけなのだろうか。

「この一件……いや、今のオラリオで蠢く何かは、今までとは訳が違う。暗黒期の様に単純な対立構造では済まないだろう」

 もちろん、言うほど単純ではない。何しろ、オラリオの覇権をかけての群雄割拠だ。

 だが、中核にあったのは闇派閥(イヴィルス)との抗争である。

 そして、彼らは実に分かりやすく悪徳を働き、私達はそれに抗った。

 とはいえ、その対立を生み出したのも、究極的にはそれぞれの派閥の神意と言っていい。

 もちろん、私達もそれに賛同した。闇派閥(イヴィルス)が悲劇の元凶であり、明確な『悪』である以上、野放しになどしておけない。オラリオに住む神と人の利害は一致していた。

 だが――

(今度の対立は人と神だ)

 そして、もしアルトリウスの言葉に一欠けらでも真実が含まれているなら――

(その時は……)

 神意に従い、『世界の終わり』を受け入れるのか。

 それともその全てに抗うのか。

 今度は人類(私達)が自ら決めなくてはならないという事になる。

 

 ――そう。今一度、それを選択しなくては。

 

「神ウラノスは一体何を考えている?」

「私も詳しい事は何も」

 それもまた、予想できていた。

 彼女は私よりクオンに近いかも知れないが……それでも、まだ真相には触れていない。

「だが、これから先、()()()()()()()ためにもクオンが必要となると言っていたそうだ」

「オラリオを守る、か……」

 やはり、デーモンへの対抗策か。あるいは、その『飼い主』への。

「クオンについて、何か知っているか?」

「かつて世界を救った【薪の王】の一人。私はそう聞いている」

 一体誰から?――とは訊ねなかった。

「本人と約束している故、詳しい話はできない」

 そう訊く前に、彼女が言葉を続けていたからだ。

「だが、そいつはクオンを友と呼んだ。無二の親友(とも)だと」

 そして――と、彼女は続けた。

「これから先、オラリオには過酷な『試練』が訪れる。先日現れたデーモンは、その尖兵に過ぎないとも言っていた。だから、自分達もクオンを追ってきたのだと」

「あれが尖兵だと?」

 フィリア祭の日に猛威を振るった厄災の化身。

 私達が総出で挑み、なお苦戦を強いられたあの怪物ですら尖兵だと?

「あの女はLv.6と言ったところだろうな」

 それには答えず、彼女は言った。

「ああ」

「私もまだ未熟だな」

 と、己の手を見ながら【象神の杖(アンクーシャ)】が――オラリオでも少ないLv.5が自嘲する。

「Lv.7を超えるLv.0が現れた。なら、私達もたった一レベル程度、軽く超えて見せなくては」

 その手が固く握られる。

 彼女が挑むように(Lv.6)を――いや、その先にいるオッタル(Lv.7)を見据えた。

「さもなくば、これから先オラリオに未来はない。それは認められない」

 それとも、それ以上の何かだろうか。

 オラリオに迫りくる何か。クオンの友をして過酷と呼ぶ試練。

 彼女の目には、それが映っているのかもしれない。

「私は『群衆の主(ガネーシャ)』の眷属だからな」

 それを読み解く前に、彼女は言った。

 それはもはや神意ではない。彼女(人間)の意志だ。

 私を見つめるその瞳には、透明な炎を宿っていた。

 

 

 

「―――――?」

 ふとした違和感が、微睡を乱した。

 とはいえ、それが不快なものかと言われると返答に困る。

 少なくとも、痛みではなかった。むしろ、少し心地よいくらいの――

「む。起きたか?」

 眼を開くと、視界を埋め尽くしたのは人斬りの顔だった。

 愛用の鎧兜は装備していないが、そんな事はどうでもいい。

「何をしている?」

 いや、訊くまでもない事だった。

「うむ。夜這いだ」

 愛用の戦闘衣(バトルクロス)は解かれ、臍下まで脱がされている。

 違和感――開放感の正体はそれだった。

「―――――」

 ひとまずあらん限りの力で蹴り飛ばしてから、体を起こす。

「つれない。つれないな。先日は身を挺してそなたを助けたというのに」

 だが、大した痛撃を受けた様子もない。

 舌打ちしながら、戦闘衣(バトルクロス)を着なおす。

「何が助けただ。勝手に盛ってただけだろう」

 いつもなら感じないはずの違和感――胸元にだけ感じる微妙な圧迫感に舌打ちした。

「仕方なかろう? そなたが相手をしてくれんから欲求不満なのだ。神の言うところの『ふらすとれーしょん』というやつだな」

 忌々しい。心底忌々しいが、今の私ではまだこの男を()()()()()事はできないだろう。

 その前に斬り殺されて終わる。

 この人斬りもそれを分かっているから、酔狂にも私に女を求めているのだ。

「そんなにこの身体が欲しいなら、あの時に好きにすれば良かっただろう?」

 初めて出会った時。なす術もなく――それどころか満足な反応もできないまま、斬り捨てられた後の事だ。

 死の淵を彷徨い、しかし魔石の力で死ぬ事もままならず。しばらくの間、まるで人間のように魘されていた私を治療したのはこの人斬りだった。

 記憶ははっきりしない。別に思い出す必要もない。

 だが、治療のために服を脱がされたのは確かだった。

 ――目覚めた時に、何も着ていなかったのだから。

「はっはっは。怪我人を襲う趣味などないとも」

 その人斬りは、柄にもなく快活に笑った。

「第一、獣でもあるまいに、無理やりに女子を襲うものか。そういう事は、やはり同意がなくてはな」

「寝込みを襲っておいて、一体どこに同意がある?」

 こめかみ辺りが引きつるのを感じながら問いかける。

 いや、あれほど接近されても気づかなかった私も私だが。

「事後承諾というやつだな。夜這いとはそういうもの。伝統というものよ」

「その伝統もろとも死ね」

 臆面もなく言い切った人斬りに毒づく。

 まったく、何故こんなものに付きまとわれているのか。

 今さら幸運に期待するつもりもないが、この不運を毒づく権利くらいはあるはずだ。

「それで、何の用だ?」

「だから一夜を共にしようと――」

 傍らに突き立てておいた剣に手を伸ばすと、人斬りは露骨に首をすくめて見せた。

 忌々しい。どういう脅威も感じていないのは明らかだというのに。

 いい加減、力の差は埋まってきているはずだが……そもそも、それがこの男の狙いなのだから恐れるはずもない。

 むしろ、その時が来たら狂喜するのは目に見えている。

「客が見えられたぞ」

 剣から手を離し、嘆息していると人斬りが言った。

「客だと?」

 私を訪ねてくるなど、いずれにせよろくな相手ではない。

 いや、それよりも――

「なら、さっきのはどういうつもりだ?」

「何、()()()()()ならこのまま帰ると言っているのでな」

 ……分かっている。

 この人斬りにまともな気遣いなど、期待するだけ無駄だという事くらいは。

 うんざりした気分で人斬りの後を追うと、少し先にその客の姿があった。

「あら、Mrs.レヴィス。ごきげんよう」

「誰がミセスだ」

 どいつもこいつも――血のように赤い唇を歪めた、その緑髪碧眼の女エルフに毒づく。

「失礼、Ms.レヴィス。お会いできて光栄です」

 そして、その傍らには大仰な鎧を着込んだ金髪碧眼の大男。

 普段は大兜で隠しているその作り物めいた顔に、今は薄ら笑いを浮かべている。

「何の用だ?」

 この二人について、私が知っている事は少ない。

 闇派閥(イヴィルス)の主神が鎧の大男の()()と繋がりを持っているらしいという事と、傍らの人斬りやいつぞやの黒衣の男と同じ『何か』――私とはまた違う怪物だという事くらいか。

 ああ、それと。

 おそらく、その()()とやらも、どうせ禄でもない化物なのだろうという事もか。

「いえ、貴女がたの主神と打ち合わせがありましたので、こうしてご挨拶に」

 大男――その騎士はあくまで慇懃にそう言った。

「あの死神は私の主神ではない」

 利用される代わりに利用しているだけだ。

「それより早く要件を言え」

 そして、この騎士とも特別これと言った接点はない。

 何しろ、闇派閥(イヴィルス)はおろか『エニュオ』とも別の勢力だ。

 一体何を企んでいるのか。……どうせ禄でもない事だろうが。

「では、お言葉に甘えて。地上の騒ぎはご存知ですか?」

「……イシュタルとかいう神が死んだ話か?」

 その女神は闇派閥(イヴィルス)どもに資金提供をしていたという。

 情報……と、何より『鍵』の流出を恐れて死兵を送り、無様に失敗したという話なら聞いているが。

「ええ。その神を殺した男について詳しくお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

「そう言われてもな……」

 そもそも、そのイシュタルとやらとも碌に関わっていない。

 あの死神は資金源がどうこう言ってはしゃいでいたが、私の知った事ではなかった。

「黒衣を纏い、≪竜紋章の盾≫――失礼、竜の紋章が施されたブルーシールドとクレイモアを携えた男。それで間違いありませんか?」

「あいつがやったのか」

 一八階層で対峙したあの男を思い出す。

 装備品からするに、まず間違いない。

「ならば、なおさら貴様らの方が詳しいだろう?」

 あの死神に吹き込んだのは、おそらくこの連中のはずなのだが。

 ……それとも、あの死神は初めから知っていたのか。

「ええ、おそらくは。ですので、なおさら本人かどうかを早急に確かめたいのです」

 何しろ、厄介な男と聞いていますから――と、呟いてから、

「貴女はリヴィラの街で直接出会っているとお聞きしたので」

「『アリア』より確実に強い。そして、そこの人斬りと同じ力を持つ。それくらいしか知らん」

 そして、今の私よりも怪物じみていると言ってもいいだろう。

「もし、よろしいか?」

 そこで人斬りが騎士に声をかけた。

「ええ、構いませんよ」

「その男。おそらく、私も四年ほど前に出会っている」

「何と。よくご無事でしたね」

 騎士は、大仰に驚いて見せた。

 ……いや、あながち演技とも言い難いか。

「それよ。あの男、本当にそれほどの大物なのか? つい先だっても軽く死合ったが、貴殿が気にかける程とはとても思えん」

「なるほど……」

 ふむ――と、顎先に手を当て小さく唸ってから、

「あるいは、力を失っているという可能性もありますね」

「私達がか? 冒険者とやらではあるまいに」

「それはその通りなのですが……。彼を()()()()者がいると聞きます」

「召喚? 霊体召喚だと? だが、あ奴は肉体を持っていたぞ?」

「もちろん、それはあくまで下地で実際にはもっと別の手法が用いられたのでしょうね。肉体ごと召喚したという前例はいくらか知っています。それに、『転送』という手法もありますから」

「ふむ……。生憎と私は貴殿と違い魔術や奇跡にはとんと疎い。真偽を論ずるほどの知識など持ち合わせがないが……」

 一体、何の話をしているのやら。

 相変わらず得体のしれない連中だ。

「問題は誰が呼んだかです。仮に白霊召喚と同じ理屈だとするなら……そして、その男が我が主君の仰る者なら、生半な者では()()()()()()()()

「ならば、人違いなのではないか? あの程度の使い手なら、さして珍しくもない。我らと同じく、知らぬ間に流れ着いただけの『同胞』かもしれん」

「無論、その可能性もありえます。ですが……」

 少し躊躇うような仕草をしてから、大男はそのまま言葉を濁した。

「いえ、憶測で話すのはやめましょう。人違いであれ力を失っているのであれ、その方が我々にとっては都合がいいですからね」

「そうか? せっかく死合える相手があれでは張り合いがない。今の身の上では、流石に貴殿と死合う訳にもいかんからな」

「ええ。そうしていただけると助かります」

 宮仕えとは息苦しいものよ――と、嘆く人斬りにその騎士は苦笑した。

「いずれにせよ、不安要素は早めに取り除きたいのです。件の男はギルドに肩入れしていると聞きますし。そうでなくとも、先日は貴方の手を焼かせるほどの同胞まで現れたと聞きましたが?」

「うむ。おそらくファランの者だろうな。噂に違わぬ奇剣であった」

 実に楽しそうに人斬りが嗤う。

「ファラン。不死の旅団ですか……。また厄介なものが現れましたね」

「【深淵の監視者】を自負していると聞き及んでいるが」

「ええ。それに、【薪の王】も輩出しています。……いえ、王と言っても少々特異な形なのですが」

「噂に聞く救世の王を? それは面白い」

「今の私達でも、まだ玉座は遠いですよ。見えてはいますがね。もしそのファランの剣士がそこに手を届かせているとするなら、できれば敵対せずに済ませたいものです」

「巡礼地とはそれほどか。『玉座』になど興味はないが、挑まなかった事が悔やまれるな」

 ……つくづく、この二人の会話は意味が分からない。

「新たな時代を導く資格があるかどうか。『継承者(リア・ファル)』となりえるのかどうかを言い合っているのよ」

 ため息を吐いていると、女エルフが恍惚とした顔で言った。

「忌まわしき神を殺し、新たな時代を導く救世者であり『人の王』。私達が千年かけてたどり着けなかった……いいえ、この二人ですらまだ至らない境地。本当に、我らが故郷にいるのかしら?」

(ああ、この女もか……)

 この女も狂信者(ファナティック)か――と、ぎらついた目に小さく嘆息する。

 もっとも、まともな者がこの薄暗い穴倉にいるはずもないが。

「件の男は、その巡礼を三度に渡り成し遂げた怪物です。もし本人なら、力を取り戻す前に退場していただきたいのですが……」

「そこまで手が回らんか?」

「残念ながら。Ms.ハーストの助力で手勢は揃いましたが、まだ練度に難がありまして」

「カインハーストよ。Mr.」

「失礼。そちらは忌み名だと聞いていたもので」

「神に忌まれているなら、この上ない名声だわ」

 怒気――いや、狂気すら宿したその言葉に、騎士が肩をすくめる。

「ともあれ、まだ戦況は膠着としています。騎士団長として恥じ入るばかりですが……」

「ほう。噂に聞く【ドラン騎士団】とはそれほどか?」

「ええ。まったく手を焼かされますよ、あの御仁には」

 やれやれ――と、芝居がかった仕草で騎士が大げさに嘆いて見せる。

「ふむ。そちらに助太刀してもよいが、あまり長く留守にもできんぞ?」

「別に構わん。好きにしろ」

 むしろ、そのまま帰ってくるな。その方が清々する。

「つれない。つれないなぁ。私がいなくては、一体誰が魔石を集めるというのだ?」

食人花(ヴィオラス)どもにやらせる」

 わざとらしい人斬りの嘆きを、一言で切って捨てた。

「まぁ、女子が花と戯れる姿はそれだけで絵になるが」

 ……つくづく悪趣味な男だ。審美眼が腐り果てているらしい。

「いえ、今すぐご足労願うつもりはありません。私にもそれなりの矜持がありますからね。もちろん、貴方が入団してくれるというなら大歓迎ですが」

「流れ者の私が言うのも何だが……貴殿らはそう簡単に主君を鞍替えする者を欲するのか?」

「ごもっとも。どうやら、私もまだ精進が足りませんね」

 騎士は苦笑してから続けた。

「ひとまず今は件の男に関する、もしくは他の『同胞』の情報が手に入りましたら、私共にも伝えていただければと」

「斬ったという報告でも良いのなら、な」

「ええ。それならそれに越した事はありません。……まぁ、可能であれば私達の同志になっていただきたいところですが」

「それは少々つまらんなぁ」

 露骨に肩を落とす人斬りに、騎士は再び苦笑を浮かべてから私へと視線を移した。

「ところでMs.レヴィス。そちらの進捗はいかがですか?」

「あの神から聞いたのではないのか?」

「ええ。ですが、実際に前線に立つ方にも話を聞いておきたいと思いまして。あのオリヴァス殿が戦死されたとお聞きしましたが……」

「うむ。面白い――もとい、惜しい御仁を亡くしたものだ」

 腕を組み、白々と人斬りが頷いた。

 まぁ、この人斬りを押し付けておくには都合のいい男だったが。

「それほどですか、地上を穢す神の眷属とは?」

「厄介なのは『アリア』とその取り巻き――【ロキ・ファミリア】とかいう連中だ。今のところ、な」

 

…――

 

「――――ッ!」

 ズキン!――と、突然首筋が痛んだ。

 思わず手を添えるが、そこに傷はない。

 ……今は、もう。

(強かった)

 まだ朝霧の匂いが残る風が、髪を撫でていく。

 とあるギルド職員の頼みで一〇階層に向かったのは――そして、そこで出会った奇妙な魔導師(メイジ)冒険者依頼(クエスト)を受け、二四階層に向かったのはおよそ一〇日前のこと。

 リヴィラの街で殺人事件が起こった頃からその兆候があったモンスターの『大量発生』は深刻化しており、その原因調査と鎮圧が依頼内容だった。

 北の食糧庫(パントリー)が占拠された結果、餌を求めてモンスターが()()()していた。

 これが真相だ。

 そして、その食糧庫(パントリー)を占拠していたのが――

怪人(クリーチャー)……)

 リヴィラの街で対峙した赤髪の女調教師(テイマー)

 いや、食人花(ヴィオラス)を率いる怪物(モンスター)との混成体(ハイブリッド)

 あれから迷宮の孤王(ウダイオス)との死闘を経てLv.6へと至ったものの――それでも、まだ互角。()()使()()()()()()圧倒できなかった。

 驚異的な成長速度。けれど、それも当然か。

 怪人(レヴィス)混成体(ハイブリッド)。モンスターと同じく、魔石を摂取する事で強化される。

 事実、私達の目の前で同じく怪人(クリーチャー)として()()()()()白髪鬼(ヴェンデッタ)】――オリヴァス・アクトの魔石を奪い、それを喰らう事で力を高めて見せた。

(まだ私の方が強い)

 剣を交えた感触からして、それは間違いない。

 だが、次に相まみえる時はどうだろう。

 こうしている間にも彼女は魔石を取り込んでいるはず。

 通常のモンスターであっても、魔石を五つも取り込めば能力の変化は顕著に現れるとされる。

 最悪の場合、Lv.7相当にまで――いや、それすら上回る可能性も充分にあり得る。

「――――ぅ!」

 再び、首筋が痛んだ。

 分かっている。最悪の事態など、すでに起こっている。

(強かった……)

 彼女の傍らにいた黒い鎧の剣士。

 魔導師(メイジ)が別途雇っていた協力者――【ヘルメス・ファミリア】の半数以上を斬殺し、Lv.4のアスフィさんやLv.5のベートさんすら容易く斬り捨てた正体不明の剣士。

 私も、もう少しで首を落とされているところだった。

(強かった……!)

 ()().()()()()ではとても届かない程に。

 それも当然か。

 あの剣士――人斬りの話を信じるなら、

 

『無論斬ったとも』

 

 彼は四年前に【正体不明(イレギュラー)】クオンを退けている。

 それも、ただ退けた訳ではない。

 

『多少は遊べたが……まぁ、取るに足らぬ相手であったな』

 

 何て悪夢。

 オラリオにいる全ての冒険者が『灰色の悪夢(アッシュ・オブ・シンダー)』と恐れるあの人を取るに足らないと言ってのける実力者が、よりによって迷宮都市(オラリオ)滅亡を目論む者達に与しているなんて。

(奪わせない。殺させない。死なせない)

 未だ見ぬ五九階層――レヴィスが向かえと言った……そこに私が知りたいものがあるといったダンジョンの奥深くを見据える。

 リヴェリアもいる。フィンもいる。ガレスもいる。他にも、ティオナやティオネ、レフィーヤ達も。

 皆、強い。けれど……。

 

『やれやれ。最強というからあれこれと用意してきたんだが……』

 

 四年前、私の軽はずみな行動が原因となって起こったクオンさんとの派閥抗争――いや、あの人は派閥になど所属していないのだから、そうとは言えないのかも知れないけれど。

 

『まさかこの程度だったとはな』

 

 あの時――リヴェリア達と一緒に駆け付けた時には、もうフィンもガレスも倒れていた。

 ティオネや他のみんなも。

 もう少し遅かったら、ロキも含めて皆()()()()いた。

(今の私達なら、あの人に勝てる?)

 ここ(地上)ではなく、ダンジョンの奥底。

 主神(ロキ)を狙えない状況下なら、私達はあの人に勝てるだろうか?

 Lv.6が四人。Lv.5が三人。そして、レフィーヤたち、Lv.4も。

「―――――」

 小さく首を横に振った。

 きっと無理だ。『深層』を一人進み、強竜(カドモス)を単独で――しかも、あんなに容易く――討伐するだけの力はまだない。少なくとも、私には。

 ダンジョンの様に入り組んだ地形では、包囲を突破されて各個撃破されるだけ。

 いや、三七階層の『闘技場(コロシアム)』に誘導すれば――

「…………」

 あそこでは私達も陣形を保てない。やはり突破され、各個撃破されるだろう。

 いっそ大規模な『怪物進呈(パス・パレード)』でも――などと考え始めている自分に気づき、思わず慄然とした。

闇派閥(イヴィルス)の真似事なんて正気じゃない)

 モンスターに頼るなんて論外だった。

 ああ、でも。それなら――

「ぅ……」

 膝の上で兎の様に白い頭が小さく動いた。

 火の粉を上げていた黒い炎が消えていく。

 白いその髪を撫でながら、大きく息を吐いた。

 この少年をようやく捕まえたのが六日前。謝罪を済ませ、預かっていた武器とプロテクターを返して――そのままこうして訓練の約束をした。

 ……善意ではない。

 ただ、知りたかった。わずかな時間で――たった二〇日余りで一〇階層進出を可能とした、その異常なまでの成長の秘訣を。

 ……それに、ある程度の心当たりと打算もあった。

 この少年はクオンさんが目にかけている唯一の冒険者だ。

 あの人達の力の秘密――()()()()()()()()()を伝えられているのではないか。

 この少年を経由して、私もそれを知る事が出来たなら――と。

「…………」

 結論から言うのであれば、それは空振りに終わった。

 この少年は()()()()()は何も教わってはいない。それを訓練初日の時点で確信した。

 落胆を感じなかった、と言えば当然嘘になる。

 ただ、それよりも疑問と興味が勝った。

 私と同じ条件(冒険者)なら、何故これほどの『成長力』を有しているのか。

(教え方、かな)

 たった一週間の約束とは言え、教導役を受け持った身としては少なからず気まずい結論だった。

 とはいえ、クオンさんがこの少年に何を伝えたのかはあまりに明白だ。

 

 生き残り方。

 

 それ以外の何物でもない。

 初日に、私はこの少年に臆病だと言ってしまった。

 それは――多分間違いではないと思う。

 ただ、あの人はそれを否定しなかった。むしろ、得難い個性として活かして――

「わぁ!?」

 と、そこで少年が目覚める。

「す、すみません! また気絶しちゃって……!」

「ううん。ずいぶん減ってきたよ」

 理由はさておき、急成長は今も健在だった。

 真っ白な純粋さ。純朴な素直さ。

 冒険者らしからぬその性格は、一方で私の教えを愚直に身に着ける要因にもなっている。

 教えを発展させていく。つまり私の思惑を超える――と、言う意味では今一つだけど、愚直に繰り返し、確実に自分の物としていくひたむきさは目を見張るものがある。

「そ、それじゃ……」

「うん。続けよう」

 間合いを開き、鞘を構える。

「はぁあああっ!」

 動きは悪くない。

 一〇階層でも感じた通り、下級冒険者(Lv.1)の中では最上位に食い込むと思う。

 魔法の扱いについては特別教えられる事がないので――それと、市壁の上とは言え街中なので――今回は使用禁止という事にしているけど……それでも変わらない。

 何よりも――

(やっぱり、良い足を持ってる)

 いや、それ以上に。

(この子、凄く敏感……)

 堅実に固められた防御もそうだけど……それ以上に回避が上手い。

 いや、もちろん動きにはまだまだ粗さが目立つ。

 今も必要以上に飛び退いては、反撃の機会を見逃している。

 ただ、とにかく当てづらい。力加減がうまくいかない理由の一つだと思うくらいには。

 加えて、半端に捉えた程度では防がれる。もちろん、反応が間に合わず完全に受け止める形になっている。そうなると、互いのLv.差から防御ごと押しのけられる結果になり、やはり反撃には繋げない訳だけれど。

 危機を察知する感覚が驚くほど鋭いのだ。野兎が微かな足音すら聞き分けて逃げ出すように。

 おそらくは少年が生来持っていたであろう『臆病さ』は、今や驚異的な『危機察知能力(生き残るための力)』へと昇華されつつあった。

 そして、それを活かし切るだけの(速さ)もある。

 単独(ソロ)で、しかもこの短時間に――あと、あまり高いポーションを買えない零細派閥だと聞いているのに――激烈な勢いで到達階層を伸ばしながら、今までそこまで大きな負傷がないのはこの二つのおかげだろう。

(むぅ……)

 この子が、クオンさんを師匠と呼ぶ理由も分かる。

 この驚異的な危機察知能力は、どう考えてもあの人譲りだとしか思えない。

 四年前。あの人にはとにかく奇襲が通じなかった。

 背後や頭上から仕掛けようが、風を使って煙幕を張ろうが……それこそ姿()()()()()()()()とも戦い慣れていると言わんばかりに。

(まぁ、あの人なら、そうだとしても驚かないかな)

 あの驚異的な危機察知本能を前にすれば、むしろ納得すらできそうだった。

 ともあれ。

 もし、この少年に()()()()()が伝えられているとしたらおそらくそれだけだ。

 悔やまれるのは、彼がクオンさんに師事を受けた期間が短すぎる事だろう。

 先に言った通り、回避や防御から反撃へと繋げない。もっと言えば、反撃できないような場所へと()()()()()できてしまう。

 これは【ステイタス】と言うよりは経験――『技と駆け引き』の問題だった。

 この辺りは、キャリア相応という事なのだろう。

(あとは……)

 伝えられた生き残り方もまた、()()()()()()()()()

 その証拠に――

(防御力……ううん、()()が低いのが問題かな)

 一番低いのは耐久?――と、そう訊ねた時、この子は否定しなかった。

 当然ながら、具体的な数値は訊いていない。けど、伝わってくる感覚からしてまず間違いない。

 ……もちろん、実際には多分成長が始まったばかりの魔力の方が低いだろうけど。

 もちろん、一切攻撃があたらないというなら、それはどれほど堅牢な防御に勝るとは思う。

 でも――

(これから先は、そうはいかない)

 この子がこの調子で到達階層を増やしていくなら、いつか必ず回避しきれない事態に陥る。

 今のままではその一撃がそのまま致命傷となりかねなかった。

 従って、この少年の課題は二つ。

 その敏捷さと危機察知能力を反撃へと繋げていくための『技と駆け引き』の習得。

 そして、 防御力……いや、耐久の向上。

 一つ目は、それなりに形になっていると思う。格段に――とは言えないまでも、確実に動きが良くなっている。

 問題は二つ目。

「うわっ!?」

 回避するか防御するかの判断も悪くはない。

 あまり手加減していては当たらない程だ。それこそ、一対一なら――あるいは、相応のパーティを組めるなら――『中層』上部のモンスターでもきっと問題ない。

 ただ――

(防御の方は、もう少し……)

 教えたのがクオンさんだからなのか、この子自身の装備と防御術が噛み合っていないというのが気にはなる。

「くぅ!?」

 今も真正面から鞘を受け止め――貫通した衝撃に顔をしかめている。

 クオンさんのように頑丈な盾を持っていればいいけど、この子の装備ではそうはいかない。

 その辺りは自覚しているのか――無意識に、なのかもしれないけど――あくまで防御は緊急時の選択として割り切っている節があった。

(そういう戦い方を、否定はできないけど……)

 知識や技術として、この子にもっと適切な防御術を教えられるはずだ。

 そして、冒険者なら、やはり【ステイタス】面も強化しておきたい。

 目指すのは文字通りの耐久力――つまり、耐久アビリティの向上だ。

 そのためには、攻撃を受けるのが一番の近道なのだけれど――

「うぉわぁ!?」

 当たらない。

 なかなか当たらない。

 加減するのがもどかしいくらいに当たらない。

(これだけ成長してるのに、耐久だけが低い理由はよく分かったかな)

 回避に特化させすぎた弊害だった。

 いや、少年の性格と噛み合ってクオンさんの予想以上に伸びたからなのかもしれない。

 いずれにしても、耐久アビリティの向上という課題は思った以上に困難だった。

(でも、これは――)

 迂闊に指摘できない。

 何しろ、この回避術には少年が生まれ持った性質が強く影響している。

 技術的なものなら、伝えれば伝えるだけこの少年は物にするだろう。しかし、この回避は多分、本人も意識していない部分が大きく関係してきているのだ。

 それが悪いとは思わない。むしろ、反射的に致命傷を逸らせるというのは、冒険者にとってそれだけでも価値のある能力だと言える。

 だからこそ、悩ましい。

 下手に指摘して、それが()()()()()()()()()()()()と、逆に今のように動けなくなってしまう可能性がある。それでは本末転倒だ。

(でも、耐久の低さは見過ごせない)

 どれほど強くなろうと。どれほど卓越した回避術を身に着けようと。

 それでも、手痛い一撃を受ける時はいつか必ず訪れる。ダンジョンとはそういう場所だ。

 その一撃を受けたら終わり。そんな状況のまま先に進むのはあまりに危険すぎた。

 むむむっ――と、思いもしなかった難題に幼いアイズも唸り声を上げる。

 とにかく惜しいのだ。攻撃を恐れて、反撃に転じられないでいる事が。

 この少年がシルバーバックを討伐できた理由。

 あの時、ミノタウロス相手に生き延び、さらには()()()()()()()理由。

 それは間違いなく、この速さと生存能力のおかげだ。

 この素晴らしい(速さ)と誰よりも敏感な(感覚)を持った白兎は、おそらく鋭い牙をも秘めている。でも、この子自身がまだそれに気づいていない。それとも、信じ切れていないのか。

 白兎の牙(ヴォーパル・ファング)

 今はまだ眠ったままのそれがもし解放されたなら――

(圧倒的な速さと手数を武器とした凄い冒険者になる、かも)

 双刀装備(ダブル・ナイフ)を極めればなおいい。

 攻防一体となる圧倒的な速さを誇り、相手の反撃すら許さない一方的な猛攻(ラッシュ)を武器としたその白兎はオラリオに広くその名を馳せるかもしれない。

 と、いつか来るかもしれない未来を夢想しながら、ぴょんぴょんと跳び回る白兎を追い回して――ふと思い至った。

 ここまで回避と防御が上手いなら、多少加減を誤ったところで平気なのではないだろうか。

 実際、気絶している時間はかなり短くなっている。

 咄嗟にダメージを受け流すなり、急所を逸らすなり出来ている証拠だ。

 それなら――

(うん、当てちゃおう)

 数日前の様に膝枕するためではない。

 これは耐久を高めるために必要な事だ。

「――――」

 大きく飛び退いた少年をあえて追わず、呼吸を整えた。

 感覚が今までよりも一回り鋭く研ぎ澄まされていく。

 がんばれー!――と、鉢巻を巻いた幼いアイズも全力で応援してくれている。

 ならば、心を(オウガ)にしてでも――!

「あ、あのアイズさん? また目の色が――!」

 危機察知能力を発揮した白兎が慌てた様子で何か言いかけたけれど――

「行くよ……!」

 今までよりちょっと本気で当てに行く。

「ぎゃあー!?」

 それからまたしばらくの間、少年の悲鳴が割と等間隔に響き渡るのだった。

 

 

 

「ハッ! ハッ! ハッ!」

 肺が焼ける。

 下界でこんなにも走った事はない。

 天界なら、こんな無様に走る必要はない。

(クソッ! クソッ! クソッ!!)

 この私が、汗まみれになって、よだれや鼻水さえ垂れ流しながら走るなど――!

(こんなことが!)

 一〇の派閥連合による――『神罰同盟』も、もはや四派閥を残すのみ。

 だが、他の三派閥は当てにならない。強引に従わせているだけのあの派閥なら、今この時に裏切っていても何ら不思議ではなかった。

「ぅげ」

 傍らの眷属が、短い悲鳴と共に倒れる。

 こめかみを矢が貫いていた。

 即死。そして、その魂は天界には向かわない。

 ああ。神だからこそ分かる。

 あれは――

(『魂喰らい(ソウル・イーター)』だと……!?)

 あり得ない。それは天界に伝わる怪談――ただの作り話のはずだ。

 存在するはずがない。まして、私達(神々)の魂すら喰い尽くすなど、あってはいけない。

 でたらめだ。人間たちを焚きつける単なる作り話のはずだ。

 そう思っていたのに――!

「何故だ? 何故だ!? 何故だ!!」

 何故ウラノスはこれを野放しにしている?!

 こんな人間――こんなモノは下界にあってはいけない。世界にあってはいけない。

 超越存在(かみ)を殺す存在など――!

「我らが何をしたと言う!?」

 人間の小娘一人生贄にしようとしただけで、何故私達()が殺されなくてはならない!?

 たかが玩具(にんげん)(ひと)一つ(ひとり)。それが一体どれほどのものだというのだ。

阻塞(バリケード)急げ!」

 死に物狂いで本拠地(ホーム)に駆け込むと同時、団長が指示を飛ばす。

 家具から何から持ち込んでは乱雑に積み上げていく。

 いくつか壊れたかもしれないが、もはや気にする事はない。

 窓の鎧戸を落とし、さらに針金で縛りあげていく。普段なら指示を出すだけで済ますであろうその作業に、知らぬ間に加わっていた。

「これなら、簡単には入ってこれねぇだろう」

「ああ。主神が生きてりゃまだどうにかなる」

 さらに食堂に立てこもる。

 ここなら食糧もあった。三日か四日は耐えられるはずだ。

「ひぃ!?」

 爆発音が複数回にわたって響く。

 堅牢な造りだが、要塞という訳でもない。火力に物を言わせれば、突破も容易い。

「お、治まった?」

「諦めた、のか……?」

 だが、程なくして爆発音は治まる。

 眷属達に安堵の色が広がるが……それも、束の間の事だった。

「いや待て! 見ろ、煙だ!!」

本拠地(ホーム)ごと焼き殺す気か!?」

「嘘でしょ?! 本気で私達を皆殺しにするつもりなの?!」

「いいから開けろ! 本気で焼き殺されるぞ!」

 食堂の入口に積み上げた机をどかそうとして団員が殺到する。

 それと同時――

「なッ―――!?」

 その扉が、阻塞(バリケード)もろとも消滅した。

 いや、傍にいた団員すらまとめて。

「ひ、ひぃ……!」

 一瞬で蒸発した扉の向こうから、黒衣の化物が入ってくる。

 槍と竜の紋章が施された盾を携えた悪夢の化身。

「こ、殺せ! 殺せぇえぇぇ!」

 檄を飛ばす。だが――

「もう嫌だぁあああああっ!」

「お前のために死にたくない!!」

「そこまでの義理はねぇえええっ!」

 武器を投げ捨て、一斉に眷属達が逃げ出していく。

「ふ、ふざけ――!」

 罵声を吐き出す暇すらなかった。

「残念だが、もう遅い」

 腐肉のような蔦が絡みついた薄気味悪い槍が閃き、出口を強行突破しようとした全ての眷属を瞬く間に串刺しにしていく。

「喋らない! 誰にも言わないから!! だから、殺さないで! 貴方の女にだってなる――ぅげ!」

 命乞いする眷属にも、その槍は無慈悲につきたてられた。

「ぎぃ、がぁ……ッ!?」

 瞬く間に傷口は気味の悪い薄紫に変色していく。

 血反吐を吐き、あるいは全身から血を吹き出しながら、苦悶の末に眷属達は絶命していく。

「ひっ、ひっ、ひっ……!」

 その凄惨な光景に、笑い声とも泣き声ともつかない何かを上げる眷属。

 腰を抜かし、失禁している。いや、発狂しているのか。

「逃げろおおおおぁぁああぁああぁああっ!」

 派閥随一の剛力を誇る眷属が、信じられない力を発揮して壁をぶち破った。

 私を押しのけて、全員がそこに殺到する。

「【Anima mea.Sive Quantum RMN】」

 そうは言っても小さな穴だ。

 たちまちのうちに詰まり、そのまま怪物が放った闇の塊に呑まれて消滅した。

「ひ、ひ、ひ……」

 どこかでガチガチと音がする。

 あり得ない。今のはあり得ない。あんな闇を私は知らない。あんな力はあってはいけない。

「やれやれ。その逃げ足の速さは、まるで結晶トカゲだな」

 団長も含めて幹部はほぼ全滅。生き残っているのは全員、気が触れてしまっている。

 怪物と二人きり。

(あ、『神の力(アルカナム)』だ……)

 使え。使うしかない。天界に送還されるくらいで済めば安いものだ。

 ()()()()()()()()()

「ぉ……」

 封印を解いた。神威が辺りを支配する。

 眷属たちまでが恐れ戦いているのが分かる。

 そうだ。畏れよ、人間! 私は神だぞ!

 だというのに――

「何故だ! 何故とまらない……!」

 その怪物は平然と近づいてくる。

 いや、むしろ加速して――

「くるなあああああああああ!」

 掌に、今使えるだけの『神の力(アルカナム)』を集めて――

「遅い」

 放つより先に、その毒槍が心臓を貫いた。

(がががががががががががががががががががががががががが――ぁぁ!!!)

 毒に侵された身体が腐り落ちる。魂が貪られていく。

 殺されている。私が。神が。人間風情に。

 何故。どうして。何故私が殺されなくては――

「殺そうとしたんだ。殺されもするだろう」

「馬鹿、な――」

 人間を、一人、殺そうとした、だけで――

「そのソウル。俺が貰い受ける」

 ()が、どうして殺されなくてはならない?

 ついにそれを理解できないまま、私はその闇へと完全に飲み込まれた。

 

 …――

 

 名も知れぬ神が消え去るのを見届けて。

 仮にも自分達が仕えていた神の気迫に呑まれて呆けている眷属どもを皆殺しにしてから。

「これで、残り三派閥か」

 数多の呪いを取り込み異形と化した『呪腹の大樹』。その腹にあった呪いの一つ≪アルスターの槍≫の柄で肩を軽く叩き、呟いた。

 自分でも驚くほどに一方的な虐殺となったが……まぁ、この槍の持ち主は【串刺し公】の異名で恐れられたアルスター公だと聞く。

 ならば、この悍ましい殺戮劇にも満足してもらえるかもしれない。

 何しろ、この毒槍は【薪の王】がひとり、クールラントのルドレスによって改めて錬成されたものだ。

 ならば持ち主のアルスター公のみならず、『呪腹の大樹』のソウルに宿っていた数多の陰惨な呪詛をも取り込んでいるに違いない。

「また派手にやったね」

 嘆息を手向け代わりに、いよいよ本格的に炎に包まれる本拠地(ホーム)から抜け出すと、近くに身を潜めていたアイシャが少し呆れたように言った。

「そろそろ愛想が尽きたか?」

「馬鹿言ってんじゃないよ。納得づくだって言ってるだろう?」

 と、派閥を一つ潰す度にこうして同じようなやり取りを繰り返しているわけだが。

 神はおろか幹部どもまで皆殺しにしているのは、別に人間性が限界を迎えたわけではないし、ソウルや人間性を求めての事でもない。

 この連中……『神罰同盟』とやらの本当の狙いが『殺生石』だという事は、最初に始末した派閥の主神に吐かせてある。

 もちろん、その情報を知っているのが各派閥の主神と幹部のみという事も。

 これは口封じ――と、何より()()()()だ。

 この連中の狙いが『殺生石』――イシュタルの『遺産』だというのは、いずれ露見する。

 いくら主神や幹部連中を皆殺しにしたとして、それでも人の口に戸は立てられない。

 だからこそ、()()()()()()()()のだと知らしめておく必要がある。

 もちろん、俺とアイシャだけの秘密だ。フェルズやウラノスにすら話してはいない。

 ……まぁ、あの二人ならそろそろ察しているだろうが。

「ったく、あのヘッポコ狐は……。最後まで世話がかかるね」

 間違っても、あの少女――春姫と言う少女にだけは伝えられない。

 無数の死の上に成り立つ安寧など、あの少女は耐えられない――と、アイシャからも聞いている。

 単なる派閥抗争。表向きはそれで押し通す。ギルド連中やシャクティ達が追ってきたとしても、だ。

 つまるところが、完全なる汚れ仕事だった。

 無論、敵対しているのは無辜の民などではないが……この有様では、そのうち青霊に襲われたとしても文句は言えそうにない。

(いや、暗月騎士なら普通に襲ってきそうだな)

 それも仕方がない。まず間違いなく今の俺は『神の敵』なのだから。

「お前だって無理に付き合う必要はないんだぞ?」

 今さらながらに陰鬱な気分でため息を吐いてから、アイシャに告げた。

 まぁ、これもまた今までの繰り言でしかないが。

「あん? 何か言ったかい、()()()()?」

 そして、どうやらこれも一夜限りの冗談ではなかったらしい。

 しかし、身請けも何も、代金を払うべき主人(イシュタル)はすでにいないのだが。

「それに、連中の言い分が本当なら今ので最後だろう?」

「……まぁな」

 これでひとまず『殺生石』について知る派閥の殲滅は完了した。

 残る三派閥は数合わせ。重要な事は何も知らず、ただ無理やり参加させられているだけらしい。

 となれば、別に皆殺しにする必要はない。

 むしろ、今感じている恐怖を少しでも広く語ってもらった方がありがたい。

(しかし、流石に食いつかないか……)

 ある意味全ての元凶とも言えるあのクソ野郎(ヘルメス)の事だ。

 今回は石はアン・ディールが作り出した物だろうが……それでも、『殺生石』の存在を知っている事に変わりはない。イシュタルがそれを用いて何かを企んでいた事も。

 そのうえで、平然と渡せるとするなら、やはり生かしておくのは危険だった。

(ま、奴にとって人間など遊戯(ゲーム)の駒でしかないからな)

 英雄の先導役を気取っているらしいが……実際にはカアスやフラムトと同じだ。

 いや、神らしい神というべきか。

 ここでまとめて始末したかったが――流石にそう簡単にはいかないか。

 だが、手を緩める気はない。何しろ、気がかりならまだ他にもあるのだ。

「さて、と。それじゃ軽く驚かしにいくか」

 そして、本当の標的は未だに誰も尻尾すら掴ませてくれないときた。

 八つ当たりもかねて残りの連中も少し脅かすくらいは大目に見てもらいたいものだ。

「もう死ぬほどビビってると思うけどね」

 嘆息しながら呻くと、アイシャは呆れまじりにぼやくのだった。

 

 ……そして、女の勘とは相変わらず恐ろしいのだと思い知るのはこれから数時間後の事だった。

 

 

 

「残り三派閥……」

「め、盟主の座が巡ってきましたが……」

 己の主神に告げる。

 生きた心地がしなかった。

 今まで七つの派閥は主神はおろか幹部まで皆殺しにされている。

「い、嫌だ。盟主なんて……」

「そ、そんな事を言われましても――」

 そもそも、俺達は闇派閥(イヴィルス)に片足を突っ込んでいた他の連中と違う。

 自分達で言うのも何だが、単なるチンピラだ。

 精々がリヴィラの街で管を巻き、阿漕な商売をする程度でしかない。

 ……その程度の勢力だったからこそ、こうして詳しい話も聞かされないまま、無理やりに参加させられているわけだが。

 残り二派閥も事情は同じだ。

 もはや士気は皆無。処刑の順番を待つ囚人と大差なかった。

「な、何でこんな事に……!」

 あんたが安請け合いしたからだ――と、告げる事が出来たらどれだけ痛快だろう。

 訳も分からず参戦させられ、訳も分からないまま殺されるのを待つ身だ。その程度の事は許されてしかるべきかもしれない。

「逃げ場はありません」

 そう。もはや逃げ場はない。

 ギルドは敵に回した。リヴィラ(一八階層)程度、あの剣闘士なら散歩気分で到達してくる。

 あとは、オラリオの外に抜け出せるかどうか――

「に、逃げ場? 逃げ場か……」

 狂ったように、主神が呻く。

 そして、顔を引き裂くような笑みを浮かべた。

「逃げ場か。あるだろう。あるに決まっている!」

 げらげらと発狂したように笑いながら、主神が神威を解放した。

 いや、違う。これは――

「追ってこれるはずがない! いくらあの化物でも、()()()()()!!」

 圧倒的な力の奔流が嵐の如く室内を蹂躙する。

 それなりに大きな机が枯葉のように舞い上がり、窓を突き破っては外へと吹き飛ぶ。

 それが崩壊の始まりだった。

 堤防が蟻の巣穴ひとつで決壊するように、窓を中心に壁が崩れ去り、ついには屋根までが崩落し始める。

 当然だ。大嵐を無理やり室内に閉じ込めたようなものなのだから。

「お、おやめください!」

 圧倒的な神威が生み出す畏怖に縛られ、碌に身動きもできない。

 幸い、瓦礫もまた吹き荒れる力に弾かれて()()にまでは落ちてこないが――

「これで助かる! 私は死なない!」

 神々の禁忌を破った主神が、狂笑と共に()()()()()()されていく。

 巨大な光の柱。いや、間近で見れば光の濁流だ。

 瞼を閉じても意味をなさないほどに圧倒的な輝きは、消えてなお視界に焼き付いている。

 だが、それを生み出した主神はそこにはいなかった。

「ふ――」

 ……俺達を見捨てて、一柱(ひとり)天界へと逃げていった。

「ふざけんなぁああぁあああぁあああっ!?」

 それを理解して――その場にいた全員の絶叫が重なった。

 これでオレ達は戦えない。抵抗もできない。逃げる事すらままならない。

 いくら冒険者とは言え、【ステイタス】を封じられたなら常人と大差ないのだから。

「冗談じゃねぇ! あのクソ野郎てめぇだけ逃げ出したやがった!」

「黙って殺されろってのか!?」

「どうすんだよ! あの剣闘士は、【ステイタス】封じられてたって殺しに来るぞ!?」

 混乱が加速する。

 囚人と大差ない――ではない。もはや、そのものだ。

「ギ、ギルドだ……!」

 誰かが呻いた。

 いや、俺自身だったのだろうか。

「ギルドに逃げ込む! いくら罰則(ペナルティ)を科せられても、まさか殺されはしねぇだろ!」

 ギルド職員に死人は出ていない。

 そもそも、俺達はその場にいただけで襲っていない!

 その叫びが引き金となった。

「お、おい? 一体何の騒ぎ――」

 別室で待っていた残り二派閥が恐る恐る顔をのぞかせた。

「まさかあいつ、天界に戻ったのか!?」

「し、信じらんねぇ! 眷属見捨ててテメェだけ逃げやがった!?」

 あちらの派閥の主神は、俺達の主神よりいくらかマシだったらしい。

 だが、もうどうでもいいことだ。

「俺達は降りるぞ! 神罰同盟なんて知った事か!」

「ふざけんな! そんなの俺達だって同じだ!」

 二派閥の連中が口々に怒鳴り返してくる。

 そんな中で――

 

「やれやれ。一匹取り逃がすとは締まらない話だ」

 

 冷めた灰のような声がした。

 辺りが闇に閉ざされていくような錯覚。

 この感じを知っている。ギルドを襲ったあの時と同じだ。

「い、【正体不明(イレギュラー)】……ッ!!」

 あのクソ野郎が派手にやったせいで勘付かれた。

「逃げろぉぉおおおおおおぉおっ!」

 その叫びが最後の一押しとなった。

 全員が武器を投げ捨て、一斉に本拠地(ホーム)から飛び出す。

 恥も外聞もない。抜けかけた腰に鞭打って走る。

 いつもなら煩わしいくらいに近い万神殿(パンテオン)が遠い。

【ステイタス】を失った体はこんなにも重いものだったか。

「ひぃいいいいいいっ!?」

 巨大な杭が次々に降り注ぐ。その衝撃だけで地面が揺れた。

 当たったら、今のオレ達などバラバラに吹き飛ぶだろう。

 止まったら殺される――その一念だけを頼りに笑う膝を動かし続けた。

 狙撃は止まらない。その影響で、他の二派閥の連中もまだ周りを走っている。

 一網打尽にするつもりなのか。生きた心地がしない。

「止まれ!」

 それからどれだけ走ったか。ようやく万神殿(パンテオン)が見えてきた。

 武装した【ガネーシャ・ファミリア】の団員が叫ぶが知った事か。

 止まったら殺される。だが、この連中さえ突破できれば――

「助けて――」

 一丸となって雪崩れ込む。

 象神の眷属に取り押さえられた者。入口から逸れて壁に激突したもの。勢いあまって窓から中へと飛び込んだ者。誰が誰だか分からないし、自分がどこに所属しているのかも定かではない。

 だが、

「助けてくれぇえええぇええええッ!?」

 騒然とするギルド本部の中で、確かにそう絶叫していた。

 

 …――

 

「ひとまず、終わったようだな」

「ああ」

 祈祷の間で、ウラノスとため息を吐きあう。

 神罰同盟の生き残りが駆け込んできてから数時間が経ち、凶行の記憶が冷めやらず大混乱を起こすギルド職員と、その彼らに発狂寸前の神罰同盟が縋りつくという、あるいは先日のギルド襲撃よりも混沌とした惨状も、どうにか静める事ができた。

「取り調べの様子はどうなんだ?」

「ガネーシャが受け持っている。だが、おそらく彼らは何も知らないだろう」

 主神二柱(ふたり)が本当に知らないかは分からないが――と、ウラノスが小さく付け足す。

「この程度の騒ぎで済んで良かったというべきなのか……」

「今はそう思っておくとしよう。『殺生石』……いや、生贄の少女について露見したなら、この程度では済まなかったかもしれん」

 しかし、神罰同盟の動きは少々解せない。

 彼らは一体どこから『殺生石』や生贄の少女の話を聞きつけたのか。

(神イシュタルから、とは考えづらい)

 おそらく、アイシャ・ベルカにとってもこの事態は想定外だったはずだ。

 いや、今は仮に【ガネーシャ・ファミリア】に身を寄せている戦闘娼婦(バーベラ)達――その幹部達にとってすら。

(となると、消息不明の団長(フリュネ)副団長(タンムズ)か?)

 いや、それもどうだか。

 副団長はともかく、団長はそう言った小細工とは無縁だった。

「俺が! 取り調べを終えたガネーシャだっ!」

 と、そこで快活な叫び声が祈祷の間に響き渡った。

 それだけで、この祈祷の間がいくらか明るくなった気がするのだから不思議なものだ。

「終わったか?」

「うむ。一通り話を聞いてきた!」

 ウラノスの問いかけに、ビシッとポーズを決めながら、神ガネーシャが応じた。

「結論から言って、ギルドに逃げ込んできた者達は何も知らない! 数合わせとして無理やり巻き込まれただけのようだ!!」

「確かか?」

「二柱の神については、流石に断言できん! だが、眷属達は間違いない!!」

 と、なると――

「クオンめ。わざと見逃したか」

 ウラノスが呟いた。

「ああ。私もそう思う」

 神罰同盟の本当の目的は、いずれオラリオの噂となるだろう。

 これは、それを見越しての凶行――つまりは見せしめだ。

 イシュタルの『遺産』に関われば殺される。

 その認識を植え付けるためには、その恐怖を語り継ぐ何者かが必要だ。

 生き残った者達は、黙っていてもその役割を担うだろう。

 これでも長く生きている身だ。似たような手法が用いられた例はいくつか心当たりがある。

(それでも少々やりすぎのように思えるが)

 いや、出会ったばかりの事を思えば、ずいぶんと丸くなったと言うべきか。

「他に何か分かったか?」

「残念ながら、これといって新しい情報はない!」

「……と、なると。ある意味において神罰同盟も犠牲者と言えるのか」

 何者かに唆されたという意味において。

 ……無論、だからと言ってギルド職員への凶行が許されるはずもないが。

「だが、一体誰が唆した? 情報流出が早すぎる」

「イシュタルと繋がりがある何者か。そう見るのが妥当だが……」

 それは具体的に何者なのか?――と、言うところで思考が行き詰まる。

「少し状況を整理してみるとしよう」

 ウラノスの言葉に、神ガネーシャ共々頷く。

「まずイシュタルは件の少女を生贄に、『殺生石』を作り出そうとしていた。クオンの話からすると、それを用いて【フレイヤ・ファミリア】に抗争を挑む算段だったのだろう」

「うむ。イシュタルがフレイヤに絡むのは、神会(デナトゥス)でもよく見る光景だった!」

「【フレイヤ・ファミリア】への派閥抗争を勝ち抜く策の一つとして、クオンを抱き込もうと企んだという事か」

 仮に成功していれば、【フレイヤ・ファミリア】を壊滅させるどころか、オラリオそのものを手中に入れられたかもしれないが。

「だが、結果としてそれこそがイシュタルの命取りとなってしまった!」

「ああ。アイシャ・ベルカという最高の切り札を持っていながら、ついにそれを活かせなかった」

 神イシュタルは交渉方法を誤った。

 もしクオンを抱き込みたいなら、最低でも()()()()()であるべきだったのだ。

「イシュタルに『殺生石』を届けたのは?」

「決定的な物証はない! だが、いくつかの状況証拠を照らし合わせるに、ほぼ間違いなくヘルメスだ!」

「となると、そちらもクオンの証言通りか」

「うむ! 他にも複数人の戦闘娼婦(バーベラ)達もイシュタルがクオンと接触する数日前に、それらしき男が訪ねてきていたと証言している!!」

 これと言って驚きはなかった。

 そろそろ長い付き合いだが、どうにもあの男神は信用ならない。

 獅子身中の虫。あの男神の顔を見ていると、その言葉が脳裏から離れない。

「……そうか」

 やはり何か思うところがあるのか、ウラノスもまた苦々しく呻いた。

「経路はともかく、神イシュタルが持っていた『殺生石』を作ったのはアン・ディールと見て良い。おそらく【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】以降の【フレイヤ・ファミリア】襲撃も彼の手の者だろう」

 ともあれ、今はそれに拘泥している暇はない。

「となると、その何者かは異端児(ゼノス)という事になるが……」

「人間に変身するモンスターなどいたか?!」

 残念ながら、心当たりがない。

「何かの『強化種』か。あるいは、アン・ディールが何かしら施したか、だな」

「ああ。有力なのは魔術。あるいは『ソウルの業』といったところか」

 それなら、【フレイヤ・ファミリア】の眷属達とも充分に渡り合えよう。

 何しろ異端児(ゼノス)達の多くはいわゆる『強化種』でもあるのだから。

「【フレイヤ・ファミリア】襲撃はイシュタルを焚きつけるためのものと見ていいだろうな」

「おそらくは。クオンと神イシュタルが接触して以降は、一件も報告されていない」

 それより前に【フレイヤ・ファミリア】――それも、オッタル自身が動いたとも聞いているが……今さら理由にこだわる事はないか。

 何であれ、その何者かの目的は見事に果たされているのだから。

「シャクティ達の調査によれば、イシュタルが闇派閥(イヴィルス)残党に資金提供をしていたのは間違いない! 少なくとも、奇妙な金銭の動きがあるのは確かだ!!」

 おそらく、違法な人身売買に用いられた分も混ざっているのだろう。

 木を隠すには森の中――と、神イシュタルが企んだかどうかは定かではないが。

「となると、神イシュタルは闇派閥(イヴィルス)と『殺生石』、さらにクオンを抱き込む事で【フレイヤ・ファミリア】に決戦を挑むつもりだったという事になるな」

「う~む……。ひとまずクオンを外して考えるが、それで戦力は足りるのか?!」

 なかなか難しい。【イシュタル・ファミリア】の最大戦力はLv.5。『殺生石』で底上げしてLv.6となっても、Lv.7【猛者(おうじゃ)】には及ばない。

 それに、【フレイヤ・ファミリア】には他に【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】をはじめとしたLv.6が複数所属している。Lv.6が一人いた程度ではまず戦いにならないだろう。

「さて……。だが、気になるのは闇派閥(イヴィルス)だ。どうやら、彼らは私達が知らない『何か』と繋がりを持っている。あるいは、神罰同盟に『殺生石』の情報を流したのもここかもしれん」

「クオンに口封じを押し付けたと?」

「ああ。あるいは、アン・ディールと同じくクオンへの『試練』に利用した、と見るべきか……」

 今の状況を鑑みれば、どちらもありそうな話だ。

 両方を兼ねていたとしても、驚くには値しない。

「『殺生石』は勿論だが、闇霊を召喚できる魔道具(マジック・アイテム)も無視はできん!!」

「『ひび割れた赤い瞳のオーブ』か……」

 誰もが闇霊を召喚できる。

 これは、考えようによっては『殺生石』よりも遥かに差し迫った脅威となるだろう。

「ああ。それの出所も気になる。そして、二四階層の一件から、例の新種やそれを率いる何者か……『都市の破壊者(エニュオ)』を名乗る勢力とも繋がりを持っているのは明らかだ」

「神イシュタルはその辺りも戦力として期待していたのかもしれないな」

「なるほど。それなら、勝算も出てくるな! ガネーシャ納得!!」

 リヴィラの街を襲撃した『新種』も、多くの冒険者にとっては充分過ぎる強敵だ。

 ……もっとも、かの女神の眷属はそれ以上の化物揃いだが。

「もう一つ二つ何か企んでいそうだが……。いずれにせよ、闇派閥(イヴィルス)と接点があったのは事実だ。本拠地(ホーム)襲撃は、口封じと見て良い」

「よほど都合の悪い物があったか?」

「今のところ、それらしいものは発見できていない! すでに持ち出された後なのではないか、というのがシャクティの推測だ!!」

「ふむ……。誰が持ち出したのか分かるか?」

「分からん! が、状況的に行方不明のタンムズではないかと、サミラ達は予想している!!」

「……こう言っては何だが、今のところ確たる証拠があるものは少ないな」

 確定的なのは神イシュタルが『殺生石』を作り出そうとしたという事くらいか。

 他は状況証拠と予測、推論ばかりだ。

(あちらの手際がいいのか、それとも私達が後手に回りすぎているのか……)

 あるいは、その両方なのかもしれない。

闇派閥(イヴィルス)との接点は、もう少し調査すれば何とか確定させられるはずだ!」

「頼りにしている。……イシュタル達には悪いが、この事態を鎮静化するにはそれを全面に押し出すしかない」

 闇派閥(イヴィルス)の残党狩り。

 この騒ぎをそう定義してしまえば、幕引きはずいぶんと簡単になる。

闇派閥(イヴィルス)と言えば、二四階層での一件も重要だろう」

「レヴィスと呼ばれる赤髪の女。『怪人(クリーチャー)』か……」

「ハシャーナを殺したボンバーな美女だな!!」

「ああ。そして死んだと思われていた【白髪鬼(ヴェンデッタ)】もだ」

「まさか生きていたとは! ガネーシャ驚愕!!」

 彼女達の首魁と思しき『彼女』なる存在は、死の淵にいた【白髪鬼(ヴェンデッタ)】に『極彩色の魔石』を移植する事で彼を怪物(モンスター)との異種混成(ハイブリッド)として再誕させた。

 レヴィスと言う女性がそうなった経緯は不明だが、彼女もまた怪人(クリーチャー)なのは疑いない。

 人智はおろか、神智すら超えたその怪物はモンスターと同じく、魔石を取り込んで己の力を強化する。ダンジョンがある限り、彼女達は無限に強くなっていく可能性すらあるという事だ。

「【白髪鬼(ヴェンデッタ)】の発言から、『彼女』の望みはモンスターと同じく地上への進出と考えてよいだろう」

「ああ。そして、今までそれらしい目撃例がない事を合わせれば、『彼女』が棲息しているのは深層深部と見るべきだろうな」

『地中深くに眠る』

『空を見たい』

白髪鬼(ヴェンデッタ)】の発言から察すれば、概ね間違いではないはずだ。

 もちろん、目撃者が全員口封じされている可能性もあるが。

「彼女らが口にした『エニュオ』は、我々(神々)の言葉で『都市の破壊者』を意味する」

「となると、彼らの狙いは明らかだ!!」

「オラリオの破壊か。確かに【白髪鬼(ヴェンデッタ)】もそう叫んだと聞くが……」

「ともに暗躍している闇派閥(イヴィルス)は【タナトス・ファミリア】と見ていい!! それが全てかは分からないが、【イシュタル・ファミリア】の本拠地(ホーム)を襲ったのはこの派閥だ!!」

 生け捕り――ではなくなったようだが……ひとまず自爆だけは阻止した構成員の【ステイタス】を暴いたところ、かの神の名が刻まれていたという。

 暗黒期が終わってから五年もの間、彼らはオラリオに潜伏していたという事だ。

 だが、一体どこに? 残党狩りは念には念を入れて行われたというのに。

「タナトス。そこまで子供達の死を望むか……」

 蒼色の目を伏せ、ウラノスが呻いた。

闇派閥(イヴィルス)都市の破壊者(エニュオ)、闇霊。この三勢力が繋がっているのはほぼ間違いないということか……」

「いや、それだけではない!」

「どういう意味だ?」

「これを見て欲しい!」

 神ガネーシャが懐から首飾りを取り出した。

 大鷹の紋章の上から別の刻印を付け足した歪な意匠。

「これは、カインハーストの紋章?」

 オラリオ侵略を企むエルフの過激派集団。

 世間一般では、知られていても精々その程度の物だ。

「フェルズよ。何か詳しい話は知らないか!?」

「そう言われましても……」

 およそ八〇〇年前――私がまだ()()()()()()だった頃にも確かに存在していたが。

 しかし、その頃はまだ組織の規模も小さく、英雄の名を騙る過激な狂信(カルト)集団があるという程度の認識しかなかった。

 そして、この一派が規模を拡大し本格的に暗躍し始めた頃には、私は今の体となっており、彼ら以上に人目を避けて過ごさねばならなくなっていた。

 同じ時代を生き、同じ闇に潜みながらもすれ違い続けている――と。

 私にとってはそうとしか言いようがない。

「それをどこで手に入れた?」

「ウラノスよ、聞いて驚け! 何とイシュタルの私室にあったのだ! ガネーシャ驚愕!!」

「そんな馬鹿な!? カインハーストは『神々の全処刑』を掲げているはず。間違っても神に与するわけが――!」

 思わず声を荒げていた。

 いかにすれ違っているとはいえ、噂の一つや二つは聞いている。

我らが地を取り戻せ(レコンキスタ)』――と。

 彼らが掲げるその標語の真意は、下界から神々を追放――全処刑する事である。

 およそ千年に渡り執念を燃やしてきた彼らが、今さら神と与するとはとても思えないが……。

「カインハースト。『古代』の英雄メタス・ハーストの血統、か……」

 神々の追放。それこそが反逆の英雄アルトリウスの遺志だとされている。

 やはり、『古代』から『神時代』への転換期に何かがあったのだ。

 神の降臨。それ自体に何か裏があるのか。

「彼らが私達(神々)に与する事はあり得ない」

 私の考えを肯定するかのように、ウラノスが断言した。

「おそらく、闇霊……『ひび割れた赤い瞳のオーブ』を闇派閥(イヴィルス)達に渡した何者かと与しているのだろう。何しろ、目的は同じなのだからな」

「オラリオを滅ぼす……」

「その通りだ。カインハーストにとっても、現体制のオラリオは邪魔だろう。ひとまずオラリオを滅ぼすところまでは協力し、その後は改めて()()()を争う。おそらくそんなところか」

「そんなパンケーキを切り分けるような気分で滅ぼされてはかなわないな……」

 しかもこの『パンケーキ』はオラリオではなく、下界全土を示しそうだった。

「問題は、その()()()()に加わりたい勢力がいくつあるかだ」

「む? 闇派閥(イヴィルス)都市の破壊者(エニュオ)、それに闇霊とカインハーストだけではないのか?!」

 いや、それでも四つもの勢力がオラリオの滅亡を望んでいることになる訳だが。

「まだ確証はない」

 神ガネーシャの言葉に、そう前置きしてからウラノスは言った。

「だが、デーモンと『暗い穴』を穿つロンドールの黒教会という脅威も残っている。さらに邪推するなら、アン・ディールの思惑もはっきりとはしない」

「アン・ディールという魔導士は、異端児(ゼノス)達を保護しているのだろう? ならば、俺達とは友好な関係か築けるのではないか?」

「私もそう願いたいものだ」

 瞑目し、ウラノスが呟いた。

「最悪の場合、七つもの勢力がオラリオの滅亡を望んでいると?」

 闇派閥(イヴィルス)。『都市の破壊者(エニュオ)』。闇霊。デーモン。黒教会。アン・ディール。カインハースト。

 それら全てがオラリオを滅ぼそうとしているとすれば、私達の未来はまさに暗澹たるものとなる。

「ああ。()()()()()()()()で望んでいるかを別とすれば、な」

 それはつまり、オラリオを根こそぎ消し飛ばさなくては満足できないか、それとも現体制を改変させるだけでいいのか――と、言ったところなのだろうか。

「変化は、起こる」

 ウラノスが神託を下した。

「オラリオだけではない。下界……いや、()()()()()を巻き込んだ変化が」

「それは、一体……」

 私の問いかけには応じず、ウラノスは続けた。

「いや、すでに起こったのだ。それを我らだけが認められずにいる」

 その我らとは誰の事なのか。

 いや、おそらくそれは――

「まずはアン・ディールだ。彼と接触をとりたい。『神罰同盟』の一件が収まった以上、多少強引にでもクオンの協力は取り付けられよう」

「やはりか! その魔導士の真意はともかく、目指す場所は同じ……少なくとも大体は同じ方向を向いている! ならば、協力体制を築ける可能性は充分にあるはずだな!!」

「現時点で断言はできない。だが、クオンはアン・ディールと面識がある。彼を介すれば、比較的安全に接触できるだろう。さらに言うのであれば――」

「デーモンや闇霊に関する情報を持っている可能性もある、か?」

「ああ。闇派閥(イヴィルス)都市の破壊者(エニュオ)なら、大派閥をあてがえば対応もできよう。だが、デーモンや闇霊、何よりそれらを束ねる『何か』はそうはいかない。オラリオの全てを使っても抗えるかどうか。これはそう言った脅威だ」

「まるで三大冒険者依頼(クエスト)だな……」

 今も未達成の黒竜討伐。かつて精強を誇った【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】ですら敗れた下界最大の脅威。

 かの偉大なる大神なき今のオラリオでは、その全てを投入しても討伐できるかどうか。

「最低でも黒竜と同程度。そう考えておく必要がある」

 私の嘆息に、ウラノスは真剣に応じた。

「次に接触が取れるとしたら、黒教会とやらだが……」

「こちらはクオンにも思う事があるらしいな」

 そう。仲介役となるであろうクオンがその調子では、真っ当な交渉は望めまい。

「それに『暗い穴』という呪詛(カーズ)をばら撒くとあっては、協力はできないのではないか?!」

「分かっている。だが、その思惑だけは知っておきたい」

「……それなら、クオンが何か知っていそうだが」

 もっとも、今すぐにあいつをここに呼び出せるわけもないが。

「ああ。まずはこの騒ぎを終わらせる。全てはその後だな」

 神座に深くもたれかかり、ウラノスが呻いた。

「……急ぐとしよう。今頃は彼らも気を揉んでいるだろうからな」

 

…――

 

 遠征予定日の二日前。

 

『緊急放送。緊急放送。これより、ギルドからオラリオの皆様にお伝えします』

 その昼下がり。大鐘楼の音と共に、ギルドからの緊急放送がオラリオに響いた。

「久しぶりじゃのう」

 よく聞こえるように執務室の窓を開けながら、ガレスが暢気に笑う。

「ああ。暗黒期が終わってからはずいぶんと出番も減ったからね」

 ギルド本部に設置された魔石製品の大型拡声器を用いたものだが……何しろ、オラリオ全域に響き渡る『大声』である。あまり乱用すると、周辺住民から苦情が出るとか何とか。

 まぁ、それが理由だと本気で思う訳ではない。そんな噂が立つことも含めて、暗黒期が終わり、それだけオラリオが平和になった証拠という訳だ。

 と、それはともかく。

『今回の抗争の闇派閥(イヴィルス)残党と手を組み、オラリオに致命的な混乱をもたらそうとした【イシュタル・ファミリア】および神罰同盟側に発端がある』

 それがギルドの公式見解らしい。

『都市運営の観点から、以後はギルドが対処する。各【ファミリア】は軽挙妄動を慎むよう願いたい。また、もし再びギルド職員に危害を加えるような事があれば、理由によらず厳罰に処すものと心得よ。繰り返します。今回の抗争は――』

 街中のざわめきが聞こえてくるようだった。

 だが、これで幕引きとなるのは間違いない。不満があったとして、それでも今さら【正体不明(イレギュラー)】に戦いを挑むような命知らずは多くない。

「ギルドの連中も、今回ばかりは動きが速かったのう。……いや、ギルド職員にも負傷者を出しておる。当然と言えば当然か」

 顎髭を撫でながら、ガレスが呻いた。

「状況を見れば遅すぎるくらいだが……相応の証拠を揃えるにはこの程度の時間はかかるか」

 ほっそりとした顎先に手を当てながら、リヴェリアがため息のように呟いた。

「けど、あのジジイ、やっぱアレを庇いよったな」

 ギルドが対処する――と、なればクオンを捕縛などできるはずもない。

 何しろ、ギルド職員は一切恩恵を受けていないのだ。

 いや、Lv.0なのはクオンも同じだが……しかし、Lv.7と渡り合える存在を本当にLv.0に含めていいのかどうなのか。

「まぁ、ここで懸賞金でも掛けたら、次に消えるんは【ソーマ・ファミリア】やったろうけど」

 思い止まってくれて良かったわ――と、酒好きのロキが冗談めかして言った。

 ただ、少なくとも何割かは本気だっただろう。

「しかし、本当に闇派閥(イヴィルス)が息を吹き返していたとは……」

「別にアイズたん達の話を疑っとった訳やないけど……本気でまだ無駄に頑張っとるんかいな、あのアホ共は。ゆーか、イシュタルも何でまたそんな馬鹿なことしたんやろなぁ」

 リヴェリアの呟きに、ロキが唸った。

「……確かに神イシュタルも馬鹿な事をしたとは思うけどね」

 神イシュタルが何を思って闇派閥(イヴィルス)と接触したかは定かではないが……そこを付け込まれ、自らの『死』を呼び込む事になったのは確かだ。

「馬鹿な事と言えば神罰連合のアホ共もなぁ」

 クオン憎しで集まったにしても、彼らはあまりに性急かつ強硬にすぎた。

 万神殿(パンテオン)に詰め寄り、ギルド職員にまで手をかけるなどまともではない。

 しかし、一体何故なのか?

(彼らを狂気に駆り立てる何かがあったはずだ)

 神イシュタルと懇意にしていた。クオンが憎かった。それだけでは理由としてあまりに弱い。

 いや、彼らもまたアン・ディールに踊らされただけなのだろうか。

(だが、一体その『餌』は何だったんだ?)

 どうにもまだ全容が見えてこない。

(……まぁ、『餌』についてはリヴェリアが知っているようだけど)

 それについては下手に探る事もないか。どうしても必要にならない限りは。

(下手に探ると後が怖いしね)

 闇派閥(イヴィルス)にクオン。どちらもオラリオ屈指の厄ネタだ。

 迂闊に関わるのは、破滅への近道でしかないだろう。

 神罰連合の末路がそれを証明している。

(とはいえ、闇派閥(イヴィルス)の残党と事を構えるのはもう確定事項だ)

 アイズ達が関わった『食糧庫(パントリー)』の一件を見るだけでも、もはや放置はできない。

 敵は確実に勢力を取り戻しつつある。ならば、あとは早いか遅いかの話でしかない。

 そして、敵を叩くなら早いに越した事はないのだ。

「まぁ、終わってくれたならそれでいいさ」

 小さく椅子を軋ませながら、宣言する。

「これで何の憂いもなく遠征に出立できる」

「では、予定通りに?」

「ああ。二日後に出立する。ガレス、悪いけどこれからギルドに本報告に行ってきてくれるかい? 僕は【ヘファイストス・ファミリア】に行ってくる」

「任せておけ。ついでに、少し突いてみるとしよう。……まぁ、受付の娘どもが詳しい話を知っとるとは思えんがな」

 それからしばらくして、

「帰還をお待ちしております。どうかご武運を」

 遠征の申請用紙にギルドの赤い印影が押され――僕ら【ロキ・ファミリア】の遠征が正式に決定された。

 

 




―お知らせ―
 お気に入り登録していただいた方、感想を送ってくださった方、ありがとうございます。
 次回更新は18/10中旬を予定しています。
 18/10/02:誤字修正・一部改訂
 18/10/06:誤字修正
 18/10/26:一部修正

―あとがき―

銀の腕(アガードラム)『獣の爪』
 魔術の触媒として機能する義手。さらに指先には毒を吸わせた隠し刃が仕込まれている。
 他に、愛用する魔術【古き閃穿】の持続時間を大幅に延長する特殊効果を有している。
 正に戦闘用の義手であり、彼女はこれを装備するために自ら腕を落とした。

 ――と、諸々の説明もかねてダークソウル風(のつもり)な、フレーバーテキストをでっちあげてみました。
 そんなわけで今回のオリキャラが使った魔術の一つはオリジナルとなります。
 イメージ的には『古き月光』……と、いうかあんな風に一時的に剣を生み出して、しばらく自由に使えるといった感じです。決して投〇開始(トレ〇ス・オン)しているわけではありません。某正義の味方や赤い弓兵とは一切関係ありませんので悪しからずご了承ください。

 またオリジナル風な用語がいくつか出てきてますが、今回のは基本的にダークソウルでお馴染みの用語をそれっぽく置き換えただけです。
 詳しくは後々作中で触れる予定ですが…特別捻ってもいないので、すぐにバレそうですね。ピンときた方はしばらくの間、そっと胸の内に秘めておいてください。
 また、今回はダークソウルの用語をダンまち風に――という事なので、主にケルト神話関係を参考にしています。
 聖杯――と、いうのは前述の正義の味方達が活躍する物語ではなく、アーサー王伝説から参照しています。アーサー王伝説はケルト神話からキリスト教まで色々な要素が取り込まれた物語という事なので、スペイン語の『レコンキスタ』が含まれているのもそういう繋がりから、という事で納得していただければと思います。

 久しぶりの登場となるベル君も若干ダークソウル風…というか、ダークソウルのプレイヤー的な育成をされています。
 まずはきっちり盾受け。初期装備で盾を持っていない素性ならしっかり回避すること。この辺りが基本になると思うのですがいかがでしょうか。
 あと、気配云々は…原作でも、とある女神様から英才教育を受けていますからね。
  
 と、何かいつもあとがきが長くなっていけませんね。
 もっと短く済ませたいと毎回思うのですが…
 
 それでは、どうか次回もよろしくお願いいたします。
 また、返信が遅くて恐縮ですが、感想など頂けましたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。