SOUL REGALIA   作:秋水

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※18/06/24現在、仮公開中。
大幅な変更、改訂を行う可能性があります。


第五節 英雄譚の始まり

 

「さぁーねっ!」

「―――?」

 シルさんを探している間、何故か突然不機嫌になってしまった神様におろおろとしていると、不意に世界が静止した。

 いや、それは錯覚だ。でも、この感覚には覚えがある。

 例えばクオンさんと森に入って熊が近づいていた時。猪が突進してくる直前。蜂の巣に気づかず近づいてしまった時。……まぁ、つまり危険が近づいている時のものだ。

 冒険者となってさらに研ぎ澄まされた五感で、反射的に周囲を探る。

(悲鳴……?)

 祭りの喧騒ではない。闘技場から響く喝采でもない。

 もっと切迫した、鋭い声を確かに聞いた。

「ど、どうしたんだよベル君……?」

 とっさに神様の手を掴み、もう片手を身に着けたままのショートソードに伸ばす。

 その動作に、ゾッとした。

(ひょっとして、今近づいてきているのは――)

 半ば護身用になった短刀ではなく、この剣が必要になる程の脅威という事なのか……?

「モ、モンスターだあぁああああああっ!?」

 その答えは即座に示された。

 人混みが割れ、その脅威が姿を示す。

「シ、シルバー、バック……っ!?」

 どうしてこんなところにモンスターがいるのか。一体何が起こっているのか。そんな事を考えるより早く、エイナさんに叩き込まれた知識が、その脅威の名前を導き出す。

 純白の毛皮を持つ大猿。それが出現するのは一一階層に至ってから。

 その一一階層の攻略難度は、基本アビリティ到達基準B~Sに該当する。

 シルバーバック単体を相手にするにしても、アビリティ平均Eは必要だとされる。

「べ、ベル君……!」

 そこまで思い浮かべたところで、そいつと視線が交わる。

 この感覚にも覚えがある。忘れもしない。あの『ミノタウロス』と遭遇(エンカウント)した時に感じたあの戦慄と同じだ。

 そして。最後にどうしようもない情報を付け足す。

(僕のアビリティ平均は――)

 ベル・クラネルのアビリティ平均はG。一番高い敏捷ですらまだFでしかない。

 それが意味する事はいたって単純だ。

 このまま対峙すれば、蹂躙されるのは僕の方である。

 

 ――さぁ、頑張ってね?

 

 どこからか、そんな声が聞こえたような気がした。

『ギァ……!』

 それと同時、シルバーバックは微かに両膝を折り曲げる。

(来る――!)

 締め上げられた心臓が悲鳴を上げると同時、シルバーバックは迷わず僕らに飛びかかってきた。

(速―――!?)

 悲鳴を上げる暇もない。

 だが、身体は何とか動いてくれた。

「うわあぁっ!?」

 神様に飛びつき、そのまま地面を転がる。

 神様は悲鳴を上げたけど、気を使っている余裕なんてすでにない。

 跳ね起きながら、神様を背後に庇う。それと同時にショートソードを引き抜く。いつもなら頼もしいはずのそれも、今はさっぱり頼りない。

『ゥウッ……!』

 突進を躱されたシルバーバックは、すでにこちらを見据えていた。

 どう考えても、狙われているのは僕だった。

 慌てて神様を右側に押しのけ、敵の進路から逃がす。

 そして、自分の思い違いに気づいた。

(違う!?)

 狙われているのは僕じゃない。神様だ。

 奴の視線の先には常に神様がいる!

「うわあぁああああっ!?」

 こうなると、神様から距離を置いてしまったのは失策だ。

 悲鳴を上げながら、再び神様に飛びつく。それより一瞬だけ遅れて、シルバーバックも動いていた。

 最も高い敏捷ですら、相手には届かない。しかし、今回ばかりは距離と時間がどうにか味方してくれた。

 まだ身に着けたままの拘束具。そこから垂れ下がる太い鎖が僕を掠めこそしたが、神様には何一つ届かなかった。

「ぅあ!?」

 掠めただけだというのに、衝撃は安い革鎧を素通りしてきた。

 いや、違う。減弱されてなおこの威力というだけだ。

「ベル君!」

 骨まで響く激痛が動きを鈍らせる。

 それを無視して立ち上がり、神様の手を引いて走り出した。

(大通りにいると捕まる!)

 奴の方が早い。真っ当な方法では逃げ切れない。

 それなら、地形を利用しなければ。

「ベル君!」

「うわあぁあああああっ?!」

 だが、それすら遅すぎた。

 跳躍したシルバーバックが僕らの行く手を遮る。

 自分から間合いを詰めてしまったようなものだ。そう毒づくより早く、その太い腕が振るわれる。

(やられる―――!)

 もう回避は間に合わない。防御などできるわけもない。

「【ソウル・レイ】!」

 しかし。その腕が僕らを粉砕するより一瞬だけ早く、青白い閃光がシルバーバックの胸元に突き刺さる。おかげで一瞬だけ動きが止まる。

 その隙に再び神様に飛びつき、地面を転がる。転がる方向は、光が放たれた場所だ。

「師匠っ!」

 そして、歓声を上げながら跳ね起きた。

 何しろあの輝きは、クオンさんの魔法の一つにそっくりだった。

 でも、

「残念。アイツじゃないわ」

「え? 霞さん……?」

 そこにいたのは師匠ではなく、霞さんだった。

「あっちゃー。やっぱりちょっと込める魔力が足りなかったわねー」

 いつもの口調は、しかしその響きに宿る戦慄までは隠しきれていない。

『グゴォオオ……』

 恐る恐る振り返ると、シルバーバックは胸を掻き毟りもがいていた。いや、ただ単に痛みに耐えているだけだ。もう数秒もしないうちに立ち直るだろう。

「こっちよ!」

 霞さんの言葉に従い、立ち上がって走り出す。

「か、霞君も冒険者だったのかいっ?!」

「そうだったら良かったんですけどねっ!」

 神様の問いかけに、霞さんは走りながら器用に肩をすくめて見せた。

「えっ? でも、今のって魔法ですよねっ!?」

「そうよ。どう? 少しはエルフらしいところもあるでしょ?」

 霞さんは笑いながら、パチリと片目を閉じて見せる。

 うん、こんな時だというのにちょっとときめいてしまった。

「そうか。エルフは生来の魔法種族(マジック・ユーザー)だ。ハーフでも血が濃い君なら、恩恵無しでも魔法が発現する可能性は充分にあるね」

 ああ、なるほど。そもそも神様達が『降臨』してくる前、魔法とは基本的に精霊かエルフのものだったのだ。なら、エルフである霞さんが恩恵を持たないまま魔法を発現させていても何もおかしい事はない。

精神力(マインド)をしっかり込めれば、どれくらいのモンスターまで倒せるんだいっ?!」

「ブラッドサウルスくらいなら。外の、ですけど」

 そのブラッドサウルスというのがどういうモンスターなのかは分からないけど……外のモンスターはダンジョンの中のモンスターよりもずっと弱いと言われている。

 実際、ゴブリンなんて幼い頃の僕が襲われても、お祖父ちゃんに助けてもらうまでの間、何とか生き延びれた程度の力しかない。

 でも、今僕らを追いかけているあのシルバーバックが外のモンスターだとはとても思えなかった。

「ダンジョンのだとっ?!」

「確かオークくらいって言ってましたよ、アイツは」

 神様達のやり取りを聞きながら、エイナさんに教わった知識を大急ぎで引っ張り出す。

(ええと、確かオークは……)

 確か一〇階層から出現するモンスターだったはずだ。

 それを恩恵無しで倒せるんだから、やっぱり魔法の力は凄い。

 いや、そうじゃなくて。

(出現階層はシルバーバックとほぼ同列。確か、力はあるけど敏捷さに欠ける)

 一方でシルバーバックにはそういう目立った弱点はなく、身体能力は総じて高い。

 ただ、防御力に関して言えば、シルバーバックが最硬ではない。

(オークに通じるなら、通じるはず……!)

 問題は当たるかどうかだ。敏捷さに欠けるオークと違い、シルバーバックは見ての通り素早い。恩恵の無い霞さんが魔法を当てるには動きを止めなければ……最低でも鈍らせなければならない。

 それは、おそらく容易ではない。前衛を担うのは僕しかいないのだから。

 でも、一方で少しだけ希望が見えてきていた。たった一人、どうあがいても勝ち目のないミノタウロスと遭遇した時よりはずっとマシだ。

「待った、霞君。こっちはだめだ……っ!」

 と、そこで。神様の呻き声が聞こえた。

 その理由はすぐに分かった。眼下――と言うほどの距離もないが――に広がるのは、よじれたような通路。壁から不自然に突き出た正方形の部屋。入り混じる数多の階段。路地を形成する人家の群れがまさに無秩序に立ち並んだ猥雑な空間。

 重層的なその造りは、そろそろ通い慣れてきたダンジョンを思わせた。

『ダイダロス通り』

 オラリオに存在するもう一つの迷宮。一度迷い込んだら、二度と出てこれないとまで言われる複雑怪奇な領域が行く手には広がっていた。

「霞さん!」

「大丈夫。こんなの、私にとっては生まれ育った遊び場よ」

 それは多分、本当の事なんだとは思う。

 でも、モンスターに追われているとなると話は変わるはず。

 声が強張っているのは、多分そのせいだ。

「頼りにしてるよ……!」

 苦渋の表情で神様は言った。

 どのみち、僕らには前進する以外の選択肢はない。

(霞さんとはぐれたら終わりだ)

 いや、どのみちここから逆転するには最低でも霞さんの魔法が必要なのだから、状況は悪化している訳じゃない。

 覚悟を決めて――いや、そんな暇もなく、僕は地上の迷宮へと飛び込んだ。

「ええと、確かこの辺に――」

 ダンジョンよりもダンジョンらしい。それが『ダイダロス通り』の感想だった。

 路地の繋がりがまるで予想できない。結構広めの路地がいきなり袋小路になっていたり、一見すると壁しかないようなところに隠し通路めいた道や階段があったり。ちょっとした跳ね橋みたいな仕掛けがあったり、本物の隠し通路があったり。いっそ危険な罠の類がないだけマシと言った有様だった。

 度重なる区画整理で秩序が狂った結果らしいけど、こうして中を進んでいるとむしろ最初から人を惑わせるために設計されているようにしか思えなくなってくる。

 いや、惑わされるのは人だけじゃない。モンスターにも多少は効果があるようだ。

 確実に僕らの……正しくは一般人と変わらない神様と、魔法こそ使えても『神の恩恵(ファルナ)』を宿さない霞さんの体力は限界に近づいている。その結果、足も重くなっているけど、まだそこまで距離は詰められていない。

 それもこれも、ひとえに霞さんのルートガイドのおかげだった。複雑怪奇な『ダイダロス通り』を見事に利用してくれている。

「そろそろ走り回るのも限界ねー…」

 とはいえ、本当に体力が底をついてしまってはそれまでだ。

「霞さん、お願いがあります!」

「何かしら?!」

「もう一度魔法を使えますか!?」

「そりゃ使えるけど、あのお猿さんを倒すには全力で撃たないとダメよ?!」

「僕が何とか足止めしますっ! だから――」

「OK、頼りにしてるわよ!」

 不敵に笑ってから、霞さんは少しだけ走る速さを上げた。

「それならまずいい場所を選ばないとね!」

「心当たりはあるのかい?」

「ええ。程々に広くて、程々に入り組んでいて、しっかり狙いを定められるくらいには隠れる場所もあるところが確かこの近くにあったはずですよ」

 神様の問いかけに、霞さんはそう言って頷く。

 確か。そう言いながら、その足に迷いはない。導かれるままに進むと――

(なるほど。確かにあそこなら!)

 その先にあったのは、でたらめな階段とそれを繋ぐ通路が幾重にも重なり、多層構造がひと際顕著になった空間だった。しかも、おあつらえ向きにその中央辺りにちょっとした広場までまである。あの広場に誘導できれば、でたらめに重なる通路や階段を飛び回る事で攪乱できる。

(あとはどうにかして動きを止められれば――)

 と、その時。

「えっ?」

 ガコン、と何か重いものが動く音がして。

 それと同時、霞さんが踏み込んだ通路が消えた。

「しまっ!?」

 いや、正しくはここも多重構造の一部だったらしい。下にある坂道に繋がっただけだ。これも隠し通路の一つなのだろう。

「誰よ、こんな時に仕掛けを動かしたのはっ!?」

 その叫びが聞こえたせいなのかどうなのか。

 霞さんが下まで滑り落ちると同時、もう一度その『仕掛け』が動かされた。

「嘘だろう?!」

 これで、霞さんと分断されてしまった。

 案内役と切り札の双方を同時に失い、神様が悲鳴を上げる。

 僕はと言えば、辛うじて呻き声が絞り出せただけだった。

 どこにその『仕掛け』を動かす装置があるのかも分からない僕らでは、もう一度動かして霞さんと合流する事もままならない。

 もちろん、時間があるならその装置を探すことも可能だろう。

 でも、今はそうじゃない。

「聞こえる!? アイツを探して連れて来るから、もうちょっとだけ頑張りなさい! いいわね!?」

 通路の下から、霞さんの叫び声が聞こえた。

 それで、ギリギリ正気に戻る。

「行きましょう、神様!」

 神様の手を引き、走りだす。

 追い付かれないためには霞さんがやってきたように、路地を縫って走るしかない。

 ただ、まったく見知らぬこの場所で霞さんのようにうまく道を選べるはずもなかった。

 そもそもちゃんと距離を取る事ができているのかどうなのか――

『ギャアアアアアアアッ!』

 突如として頭上に影が生まれ、奇怪な雄叫びが響き渡る。

「マズ――!?」

 呻くより早く、シルバーバックが空から降ってきた。

 民家の屋根を伝ってきたのだろう。恐れていた事態が早速起こってしまった。

「っだああああぁっ!」

 なりふり構わず強引に横に跳ぶ。そんな状態では着地どころか受け身すら取れず、滅茶苦茶になって地面を転がった。

 転がって、跳ね起き、いっそ近くの建物にでも逃げ込もうかと辺りを見回すと、様子を窺っていた住民らしき人影が次々に引っ込んでいく。

「ちくしょう――!」

 そりゃそうだ。誰だって下手に匿ったせいでモンスターに襲われるのは嫌だろう。

『オオオオオオオオッ!』

 あざ笑うかのように、シルバーバックは大声を上げる。

 ついに獲物を追い詰めた歓喜の雄叫びだろうか。

「ぅ、ぁ……っ」

 一歩だけ後ずさった足は、もうそれ以上には動かなかった。

 息すらできない。心臓だって止まってしまいそうだ。

「ベ、ベル君……!」

 そこで、神様の声を聴いた。

 震えて、今にも消えてしまいそうなか細い声を。

(逃げるな!)

 折れそうな心を叱咤する。

(僕は、『男』だろう!)

 勝てない。勝てる訳がない。

 本能が叫ぶ。いや、冷静な理性だったのかもしれない。

 それすら無視して、震える身体を動かす。

(勝てない、だって……?)

 クオンさんから借りているショートソードを。手に馴染んだ短刀を。

(まだ僕は抜いてすらいないじゃないか――!)

 一気に抜剣した。

「うあああああああっっ!」

 ありったけの勇気をすべて振り絞って吠える。

 そして、地を蹴った。

『ガアァァァァッ!』

 シルバーバックの迎撃はごくシンプルだった。

 丸太めいた腕を振りかざし、振り下ろす。クオンさんの剣劇に比べれば――いや、ミノタウロスの一撃と比較しても遅い。

 だが、本人の意思とは無関係のところで脅威となるものがあった。

 腕に残された拘束具。そこに残された鎖だ。

 シルバーバックを縛り付けるだけの強度を持つその太い鎖は、今や鞭となって猛威を振るっている。

(軌跡が読めない……っ!)

 いや、そもそも読めるはずがない。そこには誰の意思も宿ってはいないのだ。

 実際、鎖の動きはまるでデタラメだ。いくら太くて丈夫な鎖でも充分な加速がなければ致命的な脅威にはならない。しかし、シルバーバックの剛腕は致命傷にならないはずの鎖に、突如として致命的な加速を宿させる。……本人も意図しないままに。

(飛び込めえぇええええっ!)

 逃げ腰になりそうな自分を叱咤して、さらに加速。

 鎖の内側。いや、腕の内側まで。そして、僕自身の間合いまで飛び込まなければ。

「おおおおおおおっ!」

 左手に構えた短刀を一閃する。

 しかし――

「っっ?!」

 振るった左手に鈍い痛み。そして、僕の意思に反した動きが加わる。

 その剛毛を断ち切れず、弾かれたのだ。

 いや、それどころか、

(刃こぼれ……っ!)

 体を電撃めいた悪寒が駆け抜けるより早く、銀粉となった刃が束の間煌いては風を切る鎖に散らされていく。

 この短刀ではこのモンスターには傷一つつけられない。

 そのまま竜巻から吐き出されるようにして、間合いが開かれる。

(いけない。間合いを開いたら、次に狙われるのは神様だ!)

 二度目の特攻は恐怖を感じている暇もなかった。

 反射的に短刀を鞘に戻し、ショートソードを両手で構える。

『いーい、ベル君。これから言う事は参考程度に聞いておいて――』

 地を蹴る刹那、エイナさんの言葉を思い出した。

 それは、ドラゴンだって倒せるとっておきの一手。

『そう。それはどんなモンスターでも胸の中に隠し持っている――』

 魔石。それさえ破壊できるなら、理論上はどんなモンスターでも一撃で倒せる。

(なら、狙うのは――!)

 両手でショートソードを構え、デタラメに振り回される棍棒めいた腕と、それ以上に乱舞する鉄の鎖の嵐の中へ一気に突撃する。

「届けえええええっ!!」

 そして激突。だが、

(しまった!)

 死角から飛んできた鎖を避けたせいで、最後の最後で狙いがぶれた。

 剣は魔石のある胸ではなく、左肩に突き刺さる。

『ギィイイイイイッ!』

 肩の筋肉が引き締められる。

 狙ったものか。それとも痛みが生み出す生理的なものだったのか。

 どちらにしても、それが剣を握り締めて離さない。

「うわあああああっ!」

 再び竜巻から放り出された。

 切り札であるショートソードをその肩に残したまま。

「ベル君っ!」

 これで、自力での逆転の目は完全に失われた。

(それなら!)

 やるべき事は一つしかない。

 いや、まだできる事があるだけマシだった。

 何とか受け身を取って、跳ね起きる。

「し、失礼します、神様っ!」

 そして、神様を横抱きに抱きかかえて、脇目も降らず全力で逃走した。

 不躾なのは百も承知。それでも他に方法はない。

 こうなっては逃げ回って霞さんがクオンさんを連れてきてくれるのを待つしかない。

(どうか袋小路に行き当たりませんようにっ!)

 横抱き――御伽噺で英雄達がよくやっているお姫様だっこ――をしている神様に全力で祈ると、何故だか神様は顔を赤く染めて、ぐぬぬっ、と唸りだした。

「すまない、ベル君っ。ボクはこんな状況なのに、心から幸せを感じてしまっているっ……!」

「もう何言ってるんですか神様ぁ!?」

 さっぱりその神意は読めないものの、考え込んでいる暇もない。

 ひしっ、と抱き着いてくる神様をがしっと抱き返し、両脚に全力を注ぎ込む。

 手当たり次第に路地に飛び込み、迷宮の中を縦横無尽に走り回る。

 その甲斐あってか、少しずつ引き離している実感があった。

(奇襲も、ないな……!)

 図らずも飛び出してしまった大通りを走りながら、空を確認する。

 僕らも姿を隠せない反面、向こうも奇襲を仕掛けづらいはずだ。少なくとも屋根の上を走り回っている様子はない。

(あんまりここにいるのも不安だけど……)

 見つかる不安はあるけど、それ以外の不安はない。

 まさかこんな大きな道がいきなり袋小路に繋がっているはずが――

「あるのっ!?」

 結構広いはずの道が突然途切れていた。

(確かにさっきも似たような場所はあったけど!)

 ここにきて、ついに運に見放されたらしい。

 やっぱり神様をお姫様だっこするという不躾の天罰が下ったのだろうか。

「急いで引き返して……!」

 それでギリギリ間に合うか?

 いや、無理だ。ここまで結構な距離の一本道だった。

 それを引き返すのは、自分から死にに行くようなものだ。

(やっぱり建物の中に――)

 周りを見回すが、やはりここでも反応は同じだった。

 錠が落ちる音の合唱が聞こえて来る。

(いっそ蹴破るしかないか……?)

 深刻に差し迫る焦燥と、無関係な人を巻き込む事への抵抗感が胸中で取っ組み合う。

「いや、好都合だ」

 その決着がつく前に神様は凛とした眼差しで僕を見つめ、こう言った。

「ベル君。君があのモンスターを倒すんだ」

「で、でも……!」

 あのショートソードがない今、僕の攻撃は通じない。

「分かってる。でも、まだ武器がなくなった訳じゃない」

 神様は、ずっと背負っていた包みをほどき、包まれていたケースを差し出す。

 中に入っていたのは、一振りのナイフ。

 反りの無い直刀。鞘から抜き放つと、刀身までが漆黒だった。

 そして、そこには複雑な刻印が無数に施されている。

「ボクが君を勝たせてやる。勝たせてみせる」

 その言葉に――そして、僕の鼓動に応じるように、刀身に紫紺の紫紺の輝きが宿った。

 

 

 

 実際、そのモンスター……いや、牛頭のデーモンは難敵だった。

「硬ったぁ!? カドモス並み……下手するとそれ以上だよこいつ!」

「ああもう、武器がないのが本当に痛すぎるわ!」

 いくら互いに武器を持たないとはいえ、Lv.5の冒険者であるティオナとティオネの猛攻も物ともせず突進してくる。狙いは――

「リヴェリア!」

「チッ! 意外と知恵が回るのかっ!?」

 魔導士であり、目下最大の戦力であるリヴェリアだった。

(多分、だけど)

 知恵が回っている訳ではないのだ。

 ただ、このモンスターにはリヴェリアのソウルとやらがこの中で一番『美味しそう』に見えているに違いない。

 エルフだからなのか。それともLv.6の冒険者だからかなのかは分からないけれど。

(ただのモンスターじゃない)

 全てのモンスターにとって力の……いや、命の源であるはずの魔石がない。

 最弱のゴブリンから『深層』域の階層主まで、例外なく全てのモンスターが持つはずのそれがない。それはつまり、必殺を果たす手段が存在しないという事だ。

「アイズ!」

 戦斧が振り下ろされる。

 辛うじて避け切ったが、その一撃をまともに受けては一級冒険者でも命がない。

 こうなると、≪デスペレート≫と愛用の鎧がない事が心から悔やまれた。

「アイズ、魔石がないって本当なの?」

「多分本当。もっと奥まで貫けばいいのかもしれないけど……」

 いや、それはきっとあり得ない。

「こうなるとやはり丸腰なのが悔やまれるな」

 そういうリヴェリアだけは愛用の杖を持っているけど。

 この中で最も万全の状態にあるのは彼女だった。

 その彼女を狙っての突進を何とか揃って掻い潜ってから――

「階層主と丸腰でやり合うのは、さすがのあたしも初めての経験よ」

 少し皮がむけたらしい拳を振りながら、ティオネが呻いた。

「いっそどこかの武器屋からこっそり借りちゃおっか?」

「あんたにしちゃ珍しくいい案だけどね」

 この辺りで普通に売られている武器で、果たして通じるだろうか。

(正直、この剣だって……)

 切れ味はともかく、強度に不安がある。一体いつまで無事でいてくれるか。

 この剣は決して不壊属性(デュランダル)ではない。いつも通りに振り続ければ確実に刀身が砕けてしまう。

「早くしないと――」

 流石のクオンさんだって――と、とっさに彼の方を見やる。

(嘘……)

 彼はこのモンスターを圧倒していた。

 このモンスターを知っている――つまり、戦った経験がある事を差し引いても、たった一人で互角以上に渡り合っている。

 私達を気遣って、引き離そうとする余裕がある程に。

『まとめて相手をするのは死にに行くようなもの』

 だが、一対一なら勝てる――と、彼の真意はそうに違いない。

 なるほど、分断さえすれば各個撃破できるという確信があるのも納得だ。

「アイズ、よそ見をするな!」

 一瞬のつもりが、しばらく見入っていたらしい。

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 気づけばモンスターの戦斧の間合いには捕らわれていた。

「【エアリエル】」

 風を纏い、大きく後ろへ飛翔する。

 それでもギリギリだった。相手の動きが速いというより、私自身の反応が遅かった。

 リヴェリアの声がなければ、良くても手傷を負っていただろう。

 しかし、己の不甲斐なさを嘆いている暇もない。

 背後の壁を蹴って、今度は一息に間合いを詰める。

 すれ違いざまに五度、風を纏わせて剣を振るう。しかし――

(浅い……!)

 薄皮一枚とは言わないまでも、致命傷には程遠い。

 それでも、確実に削ってはいるはずだった。

「【集え、大地の息吹――我が名はアールヴ】!」

 杖を構えたリヴェリアが素早く詠唱を終えた。

「【ヴェール・ブレス】!」

 緑光が私達の身体を包み込む。

 リヴェリアが扱う補助防御魔法。物理属性と魔力属性、両方の攻撃に対する抵抗力を上昇させ、僅かだが体の傷すら癒やしてくれる。

 相手の力は強大だけど、これで鎧がない分だけは補ってくれるはずだった。

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 続けて、レフィーヤが詠唱を追える。

「アイズさん! 行きます!」

 レフィーヤの声に、いったん間合いを開く。

「【アルクス・レイ】!」

 閃光が奔り、直撃した。

 でも――

「そんな……!」

 それを全く感じていないかのように、そのモンスター……デーモンは猛り続けている。

 痛みを知らず。恐れを知らず。それはただ――

(私達の魂を狙っている……?)

 魂を持つ者全てにとっての厄災――その言葉の意味がようやく分かってきた。

 これは目につく全てを餌としか思っていない。

 それを喰い尽くす事しか考えていない。

 まさに厄災そのものだ。

 それを認め、微かに体温が下がるのを自覚した。

 かつてダンジョンのモンスターに感じたものとはまた違う恐怖。

 肉体を食い千切られた冒険者の亡骸は今まで何人も見た。だが、これに喰われれば魂すら貪られる。……それは、魂を持つもの全てにとって身体を捕食されるのと同じ、あるいはそれ以上に根深いところにある根源的な恐怖だった。

「いい加減、倒れろってのぉぉぉぉ!」

 ただ、レフィーヤの魔法はその動きをほんの僅かだけ止めた。

 その隙に、ティオナとティオネが間合いを詰め、一気に猛攻に転じる。

 並みのモンスターだったら、それだけで灰になっていたはずだ。

 でも、

『―――――ォ!』

 牛頭のデーモンは逆にティオネの足を引っ掴み、まるで武器のように振り回す。

「しま――っ!?」

 いくつかの屋台が巻き込まれ、完全に消し飛び、かすめた建物の一部はビスケットのように粉々に砕け散った。

「マズい……! アイズ、頼む!」

 言われるまでもなかった。

 せめてあの勢いで地面に叩きつけられる前にどうにかしなければ。

 三度風を纏い、突撃する。

(落ち着いて――!)

 焦る自分に言い聞かせる。

 ティオネに当てないよう、完璧なタイミングを狙うしかない。

 でなければ、最悪は私の剣が彼女を殺しかねなかった。

「やあああああっ!」

 限界まで研ぎ澄ました集中力が、その一瞬を捉える。

 狙うのは敵の親指。いかに痛みを感じない厄災と言えど、そこを断てば手を放すしかないはずだ。

 そして、一瞬の永遠が訪れ――

「やった――!」

 過ぎ去る。

 狙い通り。渾身の突きはようやくそのモンスター……いや、デーモンに深手を負わせた。例え指一本と言えども、それは変わりない。

 しかし、会心の一太刀に満足している暇はない。デーモンの手から解放された――というより、正しくはすっぽ抜けて宙を舞うティオネを捕まえて再び離脱する。

 どのみち、一撃離脱を繰り返すしかない相手だ。真っ向から斬り合うにはこの剣では脆すぎる。

≪デスペレート≫か、クオンさんのような大剣でなければ、まず間違いなく刀身が持たない。

(ううん。私の身体が持たないかも……)

 これは間違いなくLv.5以上存在だ。

 階層主(格上)殺しを得意とする【ロキ・ファミリア】に長年身を置き、そういう戦いを続けてきた自分達ですらこの状態だ。並の冒険者なら今頃はすでに殺されている。

「ったぁ……」

 あの状況でもとっさに防御していたのだろう。それに、リヴェリアの魔法のおかげもあって、ティオネは今も生きている。

 しかし、戦えるかどうかは別だ。どれだけ楽観視しても、今まで通りには動けない。

(スキル……)

 いや、ティオネならスキルの後押しがあるか。

(でも……)

 損傷の差は著しい。

 向こうは指一本失っただけだ。あの程度であれば、まだ握力で補われてしまうだろう。

 ティオネのスキルは強力だが、傷を癒してくれるものではない。

「ちくしょう! あの牛頭!」

 姉を傷つけられたティオナがいつにないほどに殺気立つ。

 それは、あるいはモンスターでさえ怖気づくかもしれない。

 しかし、それでもあの厄災には通じない。

「頭を冷やせ。あれは確実に階層主に匹敵する存在だ。武器のない今、冷静さを欠けばあっという間に殺されるぞ」

 油断なく杖を構えたリヴェリアが言った。

 その頬には一筋の汗が伝っている。疲労というより冷や汗だろう。

「……格上殺しはいつものこと、って言いたいところだけどね」

 苦痛を押し殺した顔で、ティオネが体を起こした。

 並の冒険者なら、それだけでも驚愕に値する。

 そんな状態では、やはりいつも通りの動きを期待できはしない。

「せめてどこかでポーションでも……」

 ふらついたティオネを支えながら、レフィーヤが呟く。

 確かに武器よりは望みがありそうだが、ポーションはポーションで各ギルドの秘伝レシピが存在する。悪く言えば、ピンキリだ。得意先の【ディアンケヒト・ファミリア】を基準に考えると痛い目を見るかもしれない。

(……でも、それでもないよりはずっといいはず)

 内心で呟きながら、再びデーモンに突撃する。

 いま前衛として満足に戦えるのは私しかいないのだから。

(倒れるまで斬り続ける……!)

 それはむしろ自分に言い聞かせるように。

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 可能な限りの精神力を注ぎ込む。

「【エアリエル】……!」

 より速く。より鋭く。振り回される戦斧を。叩きつけられる剛腕を掻い潜り、目の前の敵を斬り伏せる。それでもまだ足りない。もっと。もっと。もっと――!

「しま――!?」

 どこまでも加速していくはずの剣戟は、しかし突如として途絶えた。

 一撃を受けた訳ではない。ただ、刀身が動きについてこれなくなっただけだ。

 急に無防備になった獲物を前に、牛に似た異形の顔が嗤ったような気がした。

「アイズ、避けて!」

 ティオナが叫ぶ。それは、目の前に迫る戦斧の事ではない。

 むしろその斜め後ろから迫りくる青い閃光――!

『――――ァ!』

 その閃光に穿たれ、初めてそのデーモンが苦悶の声のようなものを上げた。

「嘘……」

 クオンさんはすでにデーモンを倒し終わっていた。

 ガネーシャ様達を助けに行くついでに援護してくれたらしい。改めて視線を向けると、すでに近くの路地に再び走り出そうとしていた。

「倒したならせめて何か武器置いてってよぉぉ!」

 ティオナが叫ぶと、再び彼は足を止めた。

「ええい、世話の焼ける……!」

 言うが早いか、何かが飛んでくる。

 武器が三種。それとハイ・ポーション――あるいはエリクサーが入っていたらしいボトルがティオネの額に直撃して割れた。荒っぽい運ばれ方を前提としているはずのボトルが簡単に割れる訳がないので、あらかじめヒビでも入っていたのだろう。そう言えば、投げる前に手に力を入れるような仕草をしていたか。

(あれはあれでいい方法なのかも……)

 遠くの仲間に素早くポーションを届けるには。

 私の握力でも真似できるか、あとで空きボトルに水でも入れて試してみよう。

「いったぁ! 女の子の顔に何てことすんのよ!」

 額を押さえながら彼女は文句を言っているけれど――中身を浴びたおかげで傷はだいぶ癒えたらしい。やっぱりいい方法のようだ。

「回復薬はともかく、武器はあとできっちり返せよ!」

 ティオネの文句はさらりと聞き流し。

 代わりにそれだけ言い残すと、今度こそ彼はその路地へと消えていった。

 どのみち、これ以上の助力は望めない。ガネーシャ様を――いや、彼が引き付けている山羊頭のデーモン達を追ってもらう必要がある。

(こんなのが他に五体もいる……)

 むしろ、こちらも早く片付けて後を追わなければ。

 もしガネーシャ様に何かあれば治安維持に支障が出る。それより先に、今度こそあの山羊頭のデーモン達は手当たり次第に人々を襲うだろう。

 そして、ロキも一緒にいる。何かあれば私達も終わりだ。

 例えどんな惨劇が目の前で起こったとしても、もう戦えない。

 技と駆け引きだけで補うには流石に限界があった。

 少なくとも、私はまだその域には達していない。

(急がないと!)

 決意を新たに、まずは武器を回収する。

「わぁ! あたし好みの武器じゃん! 意外と気が利いてる~!」

 ティオナが大双刃(ウルガ)に似た形状――つまり柄の前後に幅広で無骨な刃のついた剣を持ち上げ、軽く振り回した。どうやら気に入ったらしい。

「こっちはまた平凡な武器ね」

 ボトルが直撃した額を撫でるティオネの片手にはごく平凡なファルシオン。

「私はこれ」

 最後に残っていたのはごくシンプルなエストック。

 ファルシオンと同じく、実用性一点張りの無骨な造りだった。

 ううん、無骨なのはみんな同じか。

 ともあれ、時間を稼ぐため回避に徹し囮となってくれているリヴェリア達もそろそろ限界だった。

「あとは切れ味に期待……!?」

 ファルシオン片手に飛び込んだティオネが絶句する。

「うっそぉ……」

 刃が通り抜けたそこには、今までのどれよりも深い傷が残されていた。

「期待以上っていうか……。平凡なファルシオンじゃないの、これ!?」

 返すのが惜しいくらいよ――と、慌てて距離を取りながら彼女は言った。

 予想以上の切れ味にむしろ驚いたらしい。

「よぉし、これならいけるじゃん!」

 大双刃(ウルガ)に似た剣を振り回しながらティオナは心から嬉しそうな歓声を上げる。

 向こうも切れ味は負けていない。いや、むしろ向こうは叩き切るといった感じか。

「はああああっ!」

 風を纏い、何度目かの突撃を行う。

 するりと切っ先がデーモンの身体へと滑り込む。

 思った以上の切れ味。それだけなら、確実に≪デスペレート≫以上。

 何より――

(私についてきてくれる!)

 危なげのない、頼もしい感触だった。

 さすがに不壊属性(デュランダル)ではないだろうけど――それでも充分。

「さて、と。それじゃ仕切り直しよ!」

 ティオネが剣を構え、声高に宣言する。

 ようやくまともに傷を負わせられるようになった。

「デーモンだか何だか知らないけど、【ロキ・ファミリア】を舐めるっての!」

 これなら、あとはいつも通り格上殺しに挑むだけだった。

「うわ?! 大双刃(ウルガ)より良く斬れるかも!?」

「本当にこの剣何なの? 本気で返すの惜しくなってきたんだけど……!」

 ファルシオン片手にティオネが笑った。

 敵の体力は確実に削っている。これなら、いける。

「一気に決めるぞ」

「はい!」

 リヴェリアとレフィーヤが詠唱に入る。

 それなら、あとは彼女達が詠唱を終えるまで、このデーモンを引き付けるだけだ。

「何かもうこのままあたし達だけで倒せちゃうんじゃない?」

 大双刃(ウルガ)に似た剣を自在に操りながら、ティオナが言った。

「油断しない! 確実に削っちゃいるけど、やたらタフよ。こいつ!」

 一撃でも受ければ戦況は再び悪化する。しかし、それこそいつもの事だ。

 慎重に。それでも果敢に剣を振るい続ける。

「【終末の前触れよ、白き雪よ――】」

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)――】」

 彼女達が充分に精神力を籠められるように。

 詠唱に集中できるように。

(それに……)

 正直なところ、この剣の切れ味をもっと確かめたい。そんな気分もあった。

 切っ先がデーモンの身体を抉り取る。この切れ味は本当に見事だった。冒険者達であれば、誰もが言い値で買うに違いない。

「【アルクス・レイ】!!」

 会心の手ごたえを感じるとほぼ同時、レフィーヤの魔法が完成する。

 自動追尾するその砲撃は、致命傷とは言えないまでもデーモンの動きを鈍らせた。

「【吹雪け、三度の厳冬――終焉の訪れ】」

 そして、リヴェリアの詠唱が()()された。

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ――】」

 そして、レフィーヤもまた次の詠唱を始める。

「リル・ラファーガ!」

 風を一気に解き放つ。

 防御を捨て、移動にも回さず、純粋な破壊の力として。

『―――――ァ!!』

 直撃だったはず。

 それでも、倒しきれない。むしろ大斧の一撃で半ば相殺されてしまった。

「アイズさん!?」

 私の『必殺』を単純な暴力がねじ伏せる。その事実に、改めて血の気が引いた。

「こんにゃろー!」

 全力を注いだ攻撃直後に起こる僅かな硬直。

 致命的なその隙を、ティオナが補ってくれた。

 感謝しつつ、体勢を立て直す。

「レフィーヤ、詠唱!」

「お、【帯びよ炎、森の灯火(ともしび)――】」

 ティオネの声に、レフィーヤが束の間途絶えていた詠唱を再開させる。

 そして、二人は一気に歌い切った。

「【――焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】」

「【―― 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

「よーし! 全員退避ぃぃぃ!」

 魔法名の宣言を残すのみとなった瞬間、ティオネが叫ぶ。

「【レア・ラーヴァテイン】!」

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!」

 私達が近くの建物に飛び込むと同時、業火の嵐が吹き荒れた。

 それこそ太陽でも落ちてきたのかと思ったほどに。

「あちあちあち!」

 建物に飛び込み、身を屈めている私達でも肌を焼くほどの熱を感じる。

「やっと終わったわね――!?」

 それが静まってから、まだ熱の残る外へと踏した途端、ティオネが絶句した。

「野郎、燃え残りやがった……!」

 ティオネが毒づく。いや、慄いたのかもしれない。

 いくら勇猛なアマゾネスであったとしても、今ならあり得る。

『―――――ォ!』

 焼け爛れた――いや、未だ火の粉が燻る身体で。

 しかし、それすら気にもせず雄たけびを上げるデーモンの姿がそこにあるのだから。

「逃げ――!」

 悲鳴を上げる暇もなかった。

 デーモンは咆哮と共に跳躍した。その巨体は、ただそれだけでも脅威となるだろう。

 そこに加わるのは、巨大な戦斧。それも親指を欠いた手すら使った両手持ちの一撃だ。

「リヴェリア、レフィーヤ!」

 焼かれて脆くなった石畳が砕け散り、霧のような粉塵を上げた。

 デーモンの巨体すら隠すそれの中で、二人の姿を確認する事はできない。

 ただ――

「うわ! 建物が!」

 粉塵の向こうからデーモンの咆哮が響き、何かを追っているかのように次々と近くの建物が崩落していく。

 何かを追っているというなら、それはもちろんリヴェリア達しかありえない。

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

 風を纏いながら突撃した。デーモンの位置は声で大体分かる。

 だが、一撃受ければそこまでだ。そんな状況では、極めて危険な選択だった。

「【エアリエル】!!」

 それでもやるしかない。纏った風が、粉塵を強引に薙ぎ払う。

「このおおおおおお!」

 ティオナが続いて突撃してくる。

 デーモンとて深手を負っているのは間違いない。あと一押しのはずだ。

『――――ァ!』

 それでもその厄災は止まらない。

 ただひたすらに私達の魂を喰おうとする。

「リヴェリア! しっかり!」

 私とティオネが引き付けている間に、ティオナが二人をひとまず安全な――安全だと思う距離まで下がらせる。

「さすがに……全て遮断とは、いかなかったな……」

 リヴィエラの口元から血が零れる。それに、右腕は折れているようだった。

 杖はない。どこかに埋まっているのだろう。

「いいからじっとしてて。レフィーヤ、リヴィエラをお願い!」

「は、はい!」

 会話だけが聞こえて来る。

 そして、すぐにティオネが飛び込んできた。

「こいつだって虫の息だ。死ぬ気で殺すぞ!」

 理性的な仮面は剥がれ、【怒蛇(ヨルムンガンド)】と謳われる本性が現れていた。

 これはこれで不安だが――しかし、死力を尽くさねばならない相手なのは間違いない。

「さっさと倒れろってのぉぉ!」

 叫びながら、それでも踊るようにその独特な形状の剣を振り回す。

 もう一息なのだが。だが、その一息が今は遥かに遠い。

 私と同じく風を纏っているのかと思うほどに凄まじい勢いで戦斧が繰り出される。

 鎧すら着ていない今、直撃を許せばそこまでだ。きっと死んだ事すら気づかないうちに、じゃが丸くんになる直前のジャガイモのようにされてしまう。

(……しばらく、じゃが丸くん食べれないかも)

 変な想像をしてしまった自分を責めている暇もなかった。

 どのみち、これを倒さなければ二度と食べる事は叶わないのだから。

 

 

 

「神威を抑えろっ!」

 その声が聞こえたどうか。

「のあああああっ!?」

 神ロキの悲鳴が瞬く間に遠ざかっていく。

 どうやら、あの木箱の向こう側に隠し通路か何かあったらしい。

 相変わらず訳の分からないところに意味の分からない細工が施された場所だが……、

(今回ばかりは幸いなのか?)

 どこに繋がっているかは定かではないが、この場に留まられるよりはいくらか安全だと思いたい。

「シャクティ!」

「くっ!」

 ガネーシャの声に、反射的に腕を掲げる。

 同時、身体を浮遊感が包む。愛用の拳装(メタルフィスト)諸共に腕が()()()()

(これがデーモン! これほどのものなのか?!)

 いや、それは()()錯覚だ。しかし、そう錯覚するほどの衝撃。

 私の構えが十全ではなかった事を考慮したとして、片手の一撃でこの重さ。

 Lv.5以上の膂力は固い。

(避けられん……!)

 吹き飛ばされたままの状態では、飛び退く事もままならない。

 それなりに丈夫に作られているこの舞台衣装でも、この大鉈を前にすれば襤褸切れ同然だろう。

「くらいなっ!」

 死を覚悟するより先に、近くの建物から誰かが飛び降りてきた。

「【麗傑(アンティアネイラ)】!?」

 それはあの男のせいで何かと縁がある戦闘娼婦(バーベラ)だった。

「チッ! 両断できないってのかい!?」

 武骨な造りの巨大な曲剣を構え、彼女は舌打ちした。

 見慣れない武器だ。

 そもそも、闘技場では持っていなかった。おそらく、クオンが貸し与えたのだろう。

『――――ゥゥ』

 デーモンの持つ大鉈と大差ない重量がありそうなその大曲剣が頭頂部に叩き込まれたというのに、山羊頭のデーモンはまだ生きていた。

 流石に苦悶の声らしきものこそ上げているが、致命傷にはまだ遠い。

「子供達よ、慌てるな」

 神威を発揮したまま、ガネーシャが周囲の住人に告げる。

 いつもの暑苦しい……いや、騒々しい……でもない。活気ある声ではなく、落ち着いた声。団長としてそれなりに長く仕えているはずの私でも聞いた事がない『神』としての声。

「この厄災は私達が引き受ける。だから安心して、戸を閉め、窓を閉ざし、しばし我慢して欲しい」

 その声に従い、周囲の扉や窓が閉ざされていく。いや、外にいた者達すらも自然と建物の中に受け入れられていく。

「遅かったな?」

 その隙に【麗傑(アンティアネイラ)】に声をかけた。

 近くには居るだろうと思っていたが……どうせなら、もう少し早く来て欲しかった。

「あんたがあの神(ロキ)を抱きかかえてたせいさ。あいつとはそれなりに因縁がある神だからね。今さらとはいえ、繋がりがあるのをわざわざ公言したくない」

 なるほど。いかに戦闘娼婦(バーベラ)と言え、あのクオンと『懇意』だと知られれば、自派閥にも飛び火しかねない。ならば、それも止む無しか。

(まぁ、【九魔姫(ナイン・ヘル)】もその辺りは心得ているだろうからな……)

 それこそ彼女がいなければ、今頃【ロキ・ファミリア】は存在していなかった可能性すらあるのだ。

 あの男と懇意にしている人間を悪戯に危険に晒すような愚行はしないだろう。

(あとで念のため、団員達の口止めをしておいてやるか)

 ()()周辺にいた団員は把握している。

 彼女の派閥ともそれなりに因縁はあるが……この際だ、せめてそれくらいはしてやろう。

『――――ォォ!!』

 しかし。

 何であれ、全てはここを生き延びてからだ。

 ガネーシャの神威を前に『歓喜』の咆哮を上げる山羊頭のデーモンを見据え、改めて拳を構える。愛用の槍があればいいのだが、そうも言っていられない。

「どうやら、クオンはすでに追って来てくれているようだな」

 神威を発したまま、ガネーシャが言った。

「追ってくるデーモンの数が減っている。彼の話通りなら、今の私を見逃すはずがない。すでにクオンの手で討たれたと見るべきだろう」

「え、ええ」

 まさに神として振る舞うガネーシャに多少ならず戸惑いながらも頷く。

 確かに見える範囲では三体しかいない。まだ追い付いてきていないのか、それともすでに討伐されたのか。

「うむ! ならばあとは逃げまくるゾウ!」

 神威を少しだけ納め、いつも通りのガネーシャに戻る。

「そりゃ賛成だ」

「おお! 【麗傑(アンティアネイラ)】! 相変わらず色っぽいな!」

 いや、それは少し戻りすぎだが。

 ええい、幼い子供の前でデレデレするな。

「そりゃどうも」

「ガネーシャ、行くぞ!!」

 ガネーシャが抱えた少女もろともに改めて担ぎ上げ、最寄りの細道に飛び込む。

 やる事はこれまでと変わらない。細い路地を駆使し、向こうの群れを長く伸ばす。そうすれば、私達が集団に襲われる危険が減ると同時に、クオンが各個撃破しやすくなる。

(一体程度ならまだ何とかなるだろうが……)

 一太刀交えた感触としては、そんなものだった。

 無論、【麗傑(アンティアネイラ)】の助力は欠かせない。正しく言えば、彼女が持つ大曲剣の助けがいる。

(ああいや、やはり【麗傑(アンティアネイラ)】自身の助けもいるか)

 クオンを介してだが、それなりに付き合いがある。そのおかげで彼女の【ステイタス】もある程度は察していた。いや、それほど大げさなものではないが――

(致命傷を負わせられる可能性があるのは彼女の方か)

 もっとも、今は逃げに徹してあの男を待つのが得策か。

 彼女と二人きりならまだしも、こちらにはガネーシャと、抱えられた獣人の少女がいる。この状況で戦闘はリスクが高すぎた。

 しかし、仮にもここは『迷宮』だ。こちらの都合よく事態が動くなどあり得ない。

「むむ?! これはマズいぞ、シャクティ!」

 危機感を覚える程度には広い道だというのに、その先は唐突に袋小路になっていた。

「相変わらず訳の分からない構造をしてるね、ここは」

「くっ、やはり本腰を入れてマッピングしておくべきだったか……!」

 いや、今はそんな事を嘆いている暇はない。

 幸い五Mと戻らず別の横道があった。すぐに引き返して――

「こいつはやるしかなさそうだねっ!」

 などと、そんな考えは【麗傑(アンティアネイラ)】が吐き捨てた言葉と共に霧散した。すでに追い付かれている彼我の距離はおよそ一〇Mほど。

 相手の素早さを考慮すれば、引き返すにはもう近づかれすぎた。

「くっ! 本当にあの男は追ってきてくれているんだろうなっ!?」

 毒づきながらガネーシャ達を袋小路の奥の方に押しやる。

 もはや退路はない。私達が斃れればガネーシャも腕の中の少女も終わりだ。ならば、多少なりとも戦場から離れてもらうべきだった。

 ……私達が全力で戦うためにも。

「【麗傑(アンティアネイラ)】。私が時間を稼ぐ。止めはお前に任せた」

 重心を整えながら、告げた。

「Lv.3に期待しすぎじゃないのかい?」

 確かに、通常であれば彼女の言う通りだ。何しろ相手はLv.5の中でも最上位にいる【剣姫】の一撃を受けてなお平然としているような怪物どもである。

 私も同じLv.5だが、今の状態で彼女以上の戦いができるかと言われれば……それは何とも答えづらい話だ。

「その剣とお前の魔法があれば可能なはずだ。もちろん、それを当てられるお前自身の腕も欠かせないがな」

 一般的に魔法とは切り札だ。上手く使えばランクの違いを超えられる。

 加えて今彼女が持っているのはあのクオンが貸し与えた剣だ。あの男が愛用する大剣は神ヘファイストスですら驚愕する業物だと聞く。となれば、()()()()第一等級武装。

 そんなものを平然と扱うあいつが、【麗傑(アンティアネイラ)】に貸し与えた武器だ。やはり第一等級武装に劣るとは思えない。

「信用していいのだろう? 【麗傑(アンティアネイラ)】」

 そして、以前見た【麗傑(アンティアネイラ)】の魔法は、いかにも生粋の女戦士(アマゾネス)らしいものだった。

 この二つがかみ合えば、まだ勝算はある。

「フン。……仕方ないね。その口車にのせられてやるよ【象神の杖(アンクーシャ)】」

 実際のところ、私達に選択の余地などない。

 彼女一人を前衛に回したところで、数分と持ちはしないはずだ。

 ならば、一撃で逆転する可能性のある【麗傑(アンティアネイラ)】の魔法に全てを賭けるのみ。

 従って、彼女が万全の状態で詠唱に専念できる……魔力を練り上げられるように時間を稼ぐこと。それが私の役目となる。

 ランクを考慮しても妥当なところだ。しかし――

「くっ!?」

 遂行できるかどうかは別問題だ。

 間合いを詰め、拳を放つ。渾身の踏み込みだった――が、相手の反応の方が早い。

 そこに加えて間合いの広さも向こうが有利だ。

 拳が届くより先に、大鉈が振るわれる。攻撃の余裕を防御に回し、衝撃を受け流すが――

(拳装が保たないか……!?)

 二発受けただけで、拳装(メタルフィスト)が軋む。

 いや、保たないというなら……、

(つくづく恐ろしい膂力だ……!)

 それより先に私の身体が保たないだろう。

 受けに徹してなお拳装(メタルフィスト)を素通りする衝撃に腕が軋み、握力が覚束なくなる。

 もう数回も打ち合えば、例え拳装(メタルフィスト)が保っても腕が保たない。いや、『本気』の一撃を喰らおうものなら『共倒れ』だ。

「【来れ、蛮勇の覇者。雄々しき戦士よ――】」

 いっそ攻撃を捨て、回避に専念したいが、このデーモンは今もガネーシャを狙っている。迂闊に隙を見せれば私達を無視して飛び掛かりかねない。

「ふっ!」

 暴風めいた勢いで振るわれる大鉈を辛うじて掻い潜り、ようやく拳を触れさせる。

 だが、固い。拳は分厚い筋肉の鎧に跳ね返された。

(やはりダメか……)

 加減などしていないが、十全の威力が込められたとはとても言えない。

 その程度ではとても有効打とは言えない。

「がっ?!」

 細い尻尾が鞭のように横腹をかすめた。

 今纏っているのは舞台衣装とはいえ、モンスターと対峙する事を前提として作られている。防御力で言えば戦闘衣に見劣りするはずもない。

 だというのに、その一撃で衣装は大きく引き裂かれ、皮膚までが裂けた。いや、衝撃はそのまま内臓にすら達し、口腔を苦さを伴う血の味が満たす。

 仮にもLv.5の身体に、ただの一撃でこれほどの痛撃を与えるとは、つくづく恐ろしい存在だった。

(直撃すればそのまま殺されかねないな……)

 まだか。まだ詠唱は完成しないのか。

 戦いが始まってまだほんの数分程度のはずだというのに、すでに数十分も対峙しているような錯覚を覚えていた。

「【――我が身を満たし我が身を貫き、我が身を殺し証明せよ】」

麗傑(アンティアネイラ)】の魔力に反応しているのか、攻撃が激化する。

 こうなってはとても攻撃などできなかった。殺されないようにするのが精いっぱいだ。

(せめて何か武器があれば――!)

 だが、今はそんな思考すらも煩わしい。

「【――飢える我が()はヒッポリュテー】!」

 衣装は襤褸切れのようになり、決して浅くない傷をいくつも負ったあたりでようやく呪文の末尾が聞こえた。

「行くよ【象神の杖(アンクーシャ)】!」

 最後の問題は、どうやって【麗傑(アンティアネイラ)】の一撃を中てさせるかだ。

 掠めた程度では意味がない。

 理想的な一撃を然るべきところに中てなければ勝利などとても望めない。

「くそっ!」

 せめて一瞬でも動きが止まれば――

 と、その時。その一撃は唐突に放たれた。

「【ソウル・レイ】!」

 ちょうど真横辺りにある横道から、青白い閃光が放たれる。

 それは反射的にそちらを向いた山羊頭のデーモンの片目に直撃した。

『――――ァ!?』

 さすがに目は相応に柔らかかったらしい。

 片方の大鉈を投げ捨ててまで、そのデーモンは片目を押さえた。

 潰れたかどうかは分からないが――何であれ、千載一遇の好機だった。

「おおおおおおっ!」

 防御を捨て、渾身の蹴りを放つ。

 狙いはデーモンの膝。脆い関節なら、あるいは――!

『ガ―――――ァ!』

 真正面から膝を蹴り抜くと、健がねじれる感触が伝わってくる。

 同時、もう片方の腕が力任せに振るわれた。

 まともな回避運動では間に合わない。なりふり構わず地べたに突っ伏した。

 もし追撃があれば、もうどうあっても避けられない。

(だがっ!)

 目前に迫っていた死は一瞬だけ先送りにできた。

 背中に熱を覚えると同時、身体を捻ってその腕にしがみつく。

 おかげで目を押さえていた掌が私を叩き潰そうと振り下ろされるのがはっきりと見えた。新たな死が迫るその刹那。

「【麗傑(アンティアネイラ)】あああああああっ!」

 できるのはもはや叫ぶ事だけだった。

 両手とも私に向いている。これ以上の隙は用意できない。

「【ヘル・カイオス】!!」

 魔法名と共に紅色の衝撃波を纏った大曲剣が振り下ろされる。

 それは最初の奇襲によってもたらされた頭部の深手を更に抉り――

「あああああああっ!」

 それを見届けるより早く。立ち上がりもせず、腕の力だけで私も『走って』いた。

 狙いは投げ捨てられた大鉈。見た目以上の重量を誇るそれを渾身の力で持ち上げ、いっそ放り投げる勢いでなりふり構わず振り回す。

『ゴ――――ァ?!』

 横腹にめり込んだ大鉈に、デーモンの動きが一瞬だけ止まる。

「くたばりなっ!」

 ぶちっ――と、鈍い音と共に何かが限界を迎えたらしい。

 大量の精神力(マインド)を込められた紅い斬撃波が、ついにその身体にめり込み、デーモンの身体を両断する。

 それと同時、デーモンは断末魔の悲鳴すら残さず淡い燐光となって消えた。

「チッ、本当に魔石の一つも残さないとはね」

麗傑(アンティアネイラ)】の言葉通り、あとには何も残らなかった。

 あれだけの激闘で魔石もドロップアイテムもなしとは、冒険者にとっては全く割に合わない。

 ……いや、私達の命が残っただけ御の字というべきか。

「ちょっと二人とも大丈夫?」

 細道から飛び出してきたのは霞だった。

「見ての通りさ」

 いつもの軽口もなく、【麗傑(アンティアネイラ)】が肩をすくめる。

「やれやれ。あんたもうちに入らないかい?」

「嫌よ。何度でも言うけど、エルフは身持ちが固いのよ」

「だから、その貞操を捧げた相手が悪すぎだって」

「お互い様でしょ?」

「私は商売だよ。色んな意味で上得意なのは認めるけどね」

 いや、それはどちらの言葉も全くその通りなのだが。

 何というか、人間関係と言うのはいつだって複雑怪奇なものらしい。

 何故あのふしだらな男を選んだのか。この二人なら相手には困らないだろうに。

「助かったぞ、霞」

 ともあれ、感謝の言葉を伝える。

「あら、天下のLv.5にそんな事を言われると、私も頑張った甲斐があるわね」

 ソフト帽の鍔を指先で軽く押し上げ、霞は小さく笑った。

「【麗傑(アンティアネイラ)】ではないが、私達の同志にならないか?」

 それは半ば本気だった。

 何しろ、たった今魔法を放った彼女は『神の恩恵(ファルナ)』を受けていないのだから。

「堅苦しいのもちょっとね。大体、【ガネーシャ・ファミリア】に剣闘士のマネージャーが入団したらマズいでしょ? 私はアイツみたいに飛び抜けてる訳じゃないんだし」

「む……」

 確かに恩恵無しで魔法を使えるというのは稀な才能だが――エルフであれば、可能性は絶無ではない。何しろ、エルフこそが生来の魔法種族(マジック・ユーザー)なのだ。

 今の時代、魔法を体得するなら『神の恩恵(ファルナ)』を賜るのが一番確実だから、エルフ達もそうしているだけにすぎない。

 確かに珍しいが、あの男のように()()()()()()()道理が引っ込むほどの『規格外』という訳ではなかった。

「それよりも、二人ともちょっとついてきてよ」

「どうかしたのか?」

「どうしたもこうしたも――」

 と、そこで膨大な殺気が背筋を強張らせた。

「シャクティ! 気を抜くにはまだ早いぞっ!!」

 ガネーシャの叱咤の声を受け、反射的に霞を連れて飛び退く。

「チッ! もう一体かい!」

 霞を抱えたまま地面を転がり、跳ね起きるとそこには新たな山羊頭のデーモンが迫ってきていた。

「霞、もう一度撃てるか?」

「そりゃ撃てるけど、今の状況で意味があると思う? 私の魔法なんて全力で撃っても精々、ブラッドサウルスを一匹仕留めるのがやっとよ」

 もちろん、都市外(そと)のね――と、霞。

 都市外(そと)の『ブラッドサウルス』となると、精々ダンジョン内の『オーク』程度か。

 恩恵を持たない彼女がダンジョン内、それも一一階層に出現するモンスターを倒せる。

 なるほど。普通なら偉業と言っていい程の快挙だ。

 しかし、この状況では焼け石に水でしかない。

「くそっ! 【麗傑(アンティアネイラ)】もう一度だ!」

「分かってる! 私が途中で精神疲弊(マインドダウン)起こさない事を祈っときな!」

 先ほどの魔法がなりふり構わぬ渾身の一撃だったのは疑いない。もう一度と言うのは、控えめに言ってもかなりの負担だろう。

 いや、そもそももう一度彼女に詠唱に専念させる事ができるだろうか。

 私自身の身体もすでに限界が近い。

(やるしかないか!)

 戦慄を飲み込み、再び前衛を受け持つ――

「え?」

 より早く。その山羊頭のデーモンの胸から剣の切っ先が突き出てきた。

 より正しく言えば、雷を纏った剣の切っ先が、だ。

『ガ……ア―――ッ!』

 全身を振り回すようにして山羊頭のデーモンが大鉈を振り回す。

 だが、遅い。すでに剣は引き抜かれ、その担い手は次の行動へと移っていた。

 雷を帯びた黒い旋風が生じる。

 その風から横薙ぎの斬撃が放たれ、片腕諸共にその身体を半ばまで斬り裂いた。

『ガァア―――――ッ!?』

 悲鳴を上げながら、残った大鉈を振りかざす。

 しかし、それが振り下ろされるより早く、その黒い人影は跳躍し、さらに一回転。

 その加速に重力が加わった斬撃は山羊頭の脳天を直撃。そのまま股間まで一直線に奔り抜ける。それで終わりだ。

 そのまま『左右』に倒れるより先に、山羊頭のデーモンは霧散して消えた。

「やれやれ、どうやら間に合ったらしいな」

「クオン……」

 手にした大剣を軽く血払いするクオンを見やり、呆然と呟いた。

 安堵したというのも確かだが……、

「……『灰色の悪夢(アッシュ・オブ・シンダー)』とはよく言ったもんだね」

 その通りだ――と、【麗傑(アンティアネイラ)】の言葉に嘆息する。

猛者(おうじゃ)】と互角に渡り合い、【古王(スルト)】を撃退。さらに『非公式記録(アナザーレコード)』樹立という華々しい(冒険者泣かせ)の経歴は伊達ではないという事か。

「苦戦しろとまでは言わないけど、もう少し激闘を繰り広げてくれていいんだよ?」

 むしろ、せめてそれくらいしてもらわないと私達の立つ瀬がない。

 しかし――

「安心しろ。それはもうだいぶ昔に済ませた」

 半眼で毒づく【麗傑(アンティアネイラ)】に、クオンは笑って返す。

「大体、お前達が引き付けておいてくれたおかげで先手も取れたんだ。一対一ならこんなものだろう。飼い主の犬どももいないしな」

 相変わらずよく分からない事を言う男だった。

「飼い主の犬?」

 霞の問いかけに肩をすくめてから、クオンは続ける。

「初めてこいつと出くわした時は、ここより狭い路地でな。しかも、犬を二匹連れてたんだ。この犬どもが恐ろしく素早くてな。むしろ山羊頭よりもこいつらに散々食い散らかされたんだ」

 よく分からないが……まぁ、デーモンが連れている犬がただの犬のはずもない。

 あの巨体で道を塞がれた挙句、その『犬』とやらに襲われた――と、そんなところか。

 それは確かに厄介そうだ、とひとまず納得しておく。

「うむ! 見事だクオン! ガネーシャ、超感激っ!! ……というか、俺達がここにいるとよく分かったなっ?」

「まぁ、方法はいくらかあるからな」

「相変わらず多芸な奴だ! それで、他のデーモンは?」

「山羊頭は今のが最後だ。牛頭は一体は俺が始末した。もう片方は糸目の小僧の手下どもと戯れている。ま、武器も置いてきたんだ。上手くすれば生き残れるだろう」

「……【ロキ・ファミリア】の精鋭達でもそこまで苦戦する相手なのか」

 デーモン。聞きしに勝る怪物だった。

 となると、やはり今すぐにこの男を【剣姫】達の元へ戻すべきだろう。

「時に霞。何でお前までいるんだ?」

 そう言われてみれば。

 いくらこの男達と知り合いでも彼女は恩恵を持たない一般市民だ。この状況で避難していないどころか、自分から首を突っ込んでくるというのは不用心に過ぎる。

 まして、彼女はそれが分かる程度には荒事に慣れているはずだ。

「そう! それよ! ちょっとついてきて!」

 言うが早いか、彼女はクオンの腕をつかみ引っ張って歩き出そうとする。

「待て。どこに連れていくつもりだ?」

「どこって! アナタ達、元々は逃げたモンスターを追ってたんでしょ?!」

「あっ」

 ガネーシャはもちろんクオンとも……それどころか【麗傑(アンティアネイラ)】とも声が重なった。

 デーモン出現という緊急事態のせいで忘れていたが、そもそも事の発端はそれだ。

 さらに言えば、まだ最後の一体がどこかに残っているはず。

「仕留めてくれては……?」

「ないよ。探しちゃいたけど、真っ先に見つかったのがあんた達だったからね」

「右に同じく」

 いっそすがるような気分で【麗傑(アンティアネイラ)】に視線を向けるが、あっさり否定された挙句、クオンまでが肩をすくめた。

「でしょうね! ついさっきまで私達が追い回されてたものっ!」

「それはよく無事だったな……」

 いや、待て。感心している場合ではない。

「私達? 他に誰かいたのか?」

「ヘスティアっていう女神様とその眷属よ」

「女神はともかく、冒険者がいるなら何とかなるだろう?」

 その言葉に【麗傑(アンティアネイラ)】が肩をすくめて見せた。

 しかし――

「えっ? シルバーバックって冒険者になって半月の子でも倒せたっけ?」

 結構配当金は良かったはずだけど――と。普段ならまず聞き流せない呟きを、何とか聞こえなかった事にして。

「…………」

 思わず【麗傑(アンティアネイラ)】と顔を見合わせていた。

『シルバーバック』

 一一階層から出現するモンスターで、偏りの少ない身体能力を誇る強敵だ。

 いわば看板モンスターと言ったところか。

 なお、一一階層に進出するには、最低でもアビリティ平均Bである事が奨励されている。つまりは、最低限その基準を超えていなければシルバーバックに対する勝ち目はまずないという事だ。

 さらに言えば、『神の恩恵(ファルナ)』を得て半月でその基準に達する事などあり得なかった。

 あの【剣姫】ですらその『階層への進出』に半年以上を要しているのだから。

「アイシャ、シャクティ。そちらは任せていいか?」

「ああ。今の私達でもシルバーバック程度なら問題ないよ」

 いかに強敵とは言え、Lv.5やLv.3の冒険者にとっては脅威ではない。

 互いに消耗しているとはいえ、たった一体ならどうにでもなる。

「お前は急いで――」

【剣姫】達の援護に向かえ――と、私はそう続けるより早く、クオンは走り始めていた。

「ああ。そろそろ元凶にはご退場願うとしよう」

 最後にこう言い残して。

「うむ? クオンはデーモンを地上に放った元凶に心当たりがあるのか?」

 その背を見送ってから、ガネーシャが首を傾げた。

「確かにデーモンについて知っているのは間違いないだろうが……」

 しかし、三年も留守にしていたクオンがその元凶を突き止めているとは――

「いや、最初にモンスターを脱走させた方じゃないのかい?」

「あっ」

麗傑(アンティアネイラ)】の呆れたような言葉に、ガネーシャともども再び間の抜けた声を返していた。……まさか二度も同じ思い違いをするとは。

 決してモンスターの脱走を甘く見ていたつもりなどないのだが……それでもなお、デーモンを討った安堵はこれほどまでに気を緩めさせていたようだ。

「もしやフレイヤ超・絶体絶命ッ?!」

「もしかしなくてもその通りだろう、これはッ?!」

 この世界であの男ほど神殺しを忌避しない者は存在しない。

 さらに言えば、どれほど楽観的になったとして、それでもあの男が神フレイヤに情けをかけるとは思えなかった。

「うむ……。いくらこの騒ぎの元凶の一つとは言え、流石にフレイヤを討たせる訳にもいかん。シャクティよ。お前はシルバーバックを追え。俺はロキ達と合流しよう。何としてもクオンより先にフレイヤの身柄を押さえねばならん」

 それは正論だった。しかし――

「だが、ガネーシャ。一柱(ひとり)でここから出れるのか?」

 何しろここは『ダイダロス通り』だ。

 私自身、ここから真っすぐに戻れる自信はない。

「心配無用っ! 俺に考えがあるっ!」

 ガネーシャはビシッとポーズを決めてから、こう叫んだ。

「すまんが、誰かガネーシャ達を『ダイダロス通り』の外まで案内して欲しいっ!」

 すでに神威は普段通りに抑えられている。

 しかし、それでも――

「あ、あの。それなら私が……」

 ほどなく、一人の年配の女性が近くの扉から出てきた。

「今日は、闘技場の周りで夫が屋台を開いているはずですので……」

「何と。うむ、ではすぐに安否を確認しに行くとしようっ! なに、心配はいらん! 俺の超・有能な団員とギルド職員がすでに避難誘導を始めているからなっ!」

 いや、確かに避難誘導の指示は出してきたが。

 あの牛頭のデーモンが無事なら、今頃は闘技場まで陥落している可能性が……。

「ロキの子供達なら何とかしよう。それに、もしその場合でも子供達を危険にさらすような真似はすまい。俺とお前が育てた超・有能な団員達なのだからなっ!」

 珍しく小声で、ガネーシャが耳打ちした。

 そう言われれば、反論などできはしない。

 例え倒せなくとも、時間を稼ぎ市民を退避させるくらいの事はできる。団長である私がそれを疑っては何もできない。

「くれぐれも無理をなさらないでください」

「任せておけっ!」

 ガネーシャとそのご婦人に一礼してから、霞に案内されて私達はシルバーバックを追って『ダイダロス通り』を駆け抜けた。

 

 

 

 アイズさん達が牛頭のモンスターを引き付けている間に、負傷したリヴィエラ様を連れて後退する。

「丈夫な奴め……」

 苦痛をこらえながら、リヴェリア様が毒づいた。

 その細い右腕はすでに折られている。いや、並の冒険者であればすでに死んでいておかしくないだけのダメージを負っているはずだった。

(私を庇ったせいで……!)

 私もリヴェリア様もありったけの精神力を注いだ魔法だった。

 それでも、あのモンスターは燃え残った。それに恐怖して動けなかったのは私だけ。

 その私を庇ったから、リヴェリア様はこんなにも傷ついている。

「ごめん、なさい……」

 この戦場で足手まといだったのは私だけだ。

 憧れの人(アイズさん)やティオナさんはもちろん、深手を負ったはずのティオネさんですらまだ戦っている。【正体不明(イレギュラー)】に至ってはたった一人で早々にあのモンスターを仕留め、残りの山羊頭のモンスターを追って行った。

(あれでLv.0……?)

 大昔……神々の恩恵を得ないままモンスターと対峙したという『本物』の戦士達。

 彼はそういう存在だ。Lv.0である事なんて何の問題にもならない。

 純粋に魔導士としても、見慣れぬ魔法を意のままに操る彼に及びはしない。

 そんな事は、あの五〇階層の戦いで知っていたはずなのに、今さらになってこんなにも打ちのめされている。

「ごめんなさい。足手まといでごめんなさい……!」

 膝から力が抜ける。崩れ落ちたら、きっと立ち上がれない。

 それより早く――

「足手まといなんて事はない」

 リヴェリア様の左手は頬に触れる。

「間違えてるな。敵を恐れるのは正しい」

 彼女の瞳に私の姿が写り込んでいた。

「勇気と蛮勇は別物だ。私とてあのモンスターは恐ろしい」

 ただ、それでも――

「私達は一人で戦っている訳ではない。そして、お前の力が必要なんだ」

 アイズさん達とモンスターの戦いは未だに拮抗している。

 そして。魔導士の役目とは、戦況を覆す事にある。

「今の私は、もうこれ以上は戦えない」

 リヴェリア様の身体はもう限界だ。今すぐにでも治療しなければならない。

 そんな身体で今も意識を保っている事自体が、彼女の強靭な精神を現している。

「だからお前に託す」

 心臓が跳ねた。

「任せられるか?」

 彼女の代わりを――Lv.6の冒険者。オラリオ最強の魔導士の代わりを私が務めなければならない。

「アイズ達を助けてやってくれ。()()()()()()()()だろう?」

「は、はい!」

 それでも躊躇う私に、リヴェリア様はそっと道を示してくれた。

 それなら――

(わ、私は……! このオラリオで最も強く、誇り高い、偉大な眷属の一員!)

 そうであり続けるためにも、逃げる訳にはいかない。

「【ウィーシェの名のもとに願う――】

 強大な敵を見据え、高らかに歌い上げる。

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ――】」

 遥か遠き憧れの人の姿を見つめ、

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ――】」

 共に戦う仲間たちを助けるために。

「【至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい】」

 この魔法を世界へと響かせる。

「【エルフ・リング】」

 繋がった。私が知る限り、最高のエルフの力は今、私と共にある。

「そうだ。それでいい……」

 偉大なるエルフの王女に背を押され、彼女の魔法を紡ぐ。

「【終末の前触れよ、白き雪よ――】」

 これが私の切り札。

「【黄昏を前に(うず)を巻け――】」

 本来は三つしか使えないはずの魔法。その上限を無視する前代未聞の反則技。

「【閉ざされる光、凍てつく大地――】」

 私の二つ名。『千の妖精(サウザンド・エルフ)』の元となったそれは、同胞(エルフ)のものに限り、詠唱および効果を把握した魔法を己のものとして行使する。

 つまり――

「【吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!」

 この魔法を以て、私はここにオラリオ最高の魔導士【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴが振るう必殺を再現する。

「お前達、避けろ!」

 リヴェリア様の叫び声を追って、高らかに魔法名を告げた。

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

『ガ――――ァ!』

 吹き荒れる極寒の吹雪。

 それは敵の動きを――いや、時さえも凍てつかせる無慈悲な雪波である。

 その中ですら、その咆哮を上げて突進してくる。

 それはもう一対一の勝負だった。

 私の魔法が通じるか。それとも、届かずに終わるのか。

 届かなければ、あの大斧が私を叩き潰すだろう。

 吹雪の向こうに迫る巨体を睨み、ありったけの精神力(マインド)を注ぎ込む。

「凍り付けええええええっ!」

 猛り狂う吹雪の向こう側に迫りくる足音を聞いて――

「―――――!」

 吹雪が消え去って。目の前には巨大な氷像が立っていた。

 いや、それはまだ動こうとしている――!?

「このおおおおおおっ!」

 戦慄が背筋を駆け抜けるより早く、アイズさんの――そして、ティオネさんとティオナさんの渾身の一撃によって粉々に砕かれる。

「勝った……?」

 悪夢のようなモンスターが粉雪となって散るのを見届けて、膝から力が抜ける。

 精神疲弊(マインドダウン)だ。どこかへ落ちていくような眩暈。

「ったく。つくづくしぶとい奴だったわね」

 曲剣を肩に担ぎ、ティオネさんが言った。

「やったね、レフィーヤ!」

 そして、ティオナさんは笑いながら抱き着いてきた。

「テ、ティオナさん……」

 ふわつく意識の中で、その身体を抱き返していると、

「ありがとう、レフィーヤ。リヴェリアみたいだったよ」

 アイズさんが微笑んだ。

「すごかった」

「ありがとう、ございます……!」

 もちろん、それで彼女との距離が少しでも縮まった訳ではないだろうけれど。

 ああ。それでも――まだ私はそこを目指して歩いて行ける。

 その微かな手ごたえと共に、意識を手放していた。

 

 

 

 袋小路のどん詰まり。

 そこにある、今ひとつ意味の分からない壁の裏側に身をひそめ、ボクはベル君の背中と向き合う。

 身に着けていたレザーアーマーはその辺りに放り出されている。黒のインナーを脱ぐ暇も惜しく、生地の上から神血を染み渡らせた。

(早くっ、早くっ、早く……っ!)

 喚きたてる本能を押しやって、【ステイタス】の更新に全神経を集中させる。

 別に【ステイタス】の更新を目で追う必要はない。血を触媒として、ベル君が蓄積した【経験値(エクセリア)】をくみ上げ、【ステイタス】として顕在させる。それが【ステイタス】更新という作業の全てだった。

 そうである以上、例え布地越しとは言え、血さえ行き届くなら、そんなものはもう何の障害にもなりはしない。

『――いーい、ヘスティア。よく聞きなさい』

 頭の片隅で思い浮かべるのは、最後の希望となったナイフの生みの親――神友であるヘファイストスの言葉だった。

『あんたが【神聖文字(ヒエログリフ)】を刻めたように、このナイフは生きているの。『神の恩恵(ファルナ)』を授かった子供達と同じようにね。そして、【経験値(エクセリア)】を糧に成長していく。普通の眷属と違いのは、自分のじゃなくて使い手の【経験値(エクセリア)】が糧になるってだけよ』

 その影響で、ボクの恩恵を受けた子供達でなければ使いこなせないという、ある意味致命的な欠陥を持ってしまった文字通りの専用装備(オーダーメイド)

『見ての通り、今のままだったらどんな武器よりも貧弱よ。でも、あんたの子……ベル・クラネルが成長していく限り、このナイフも強力になっていく』

 駆け出しの冒険者に持たせるため一級装備――ヘファイストスはこのナイフを言い表した。そして――

『もし、ベル・クラネルが【正体不明(イレギュラー)】の高みにまでたどり着けるなら、このナイフだって彼の持つどんな武器にも負けない力を発揮するでしょう』

 生かすも殺すもすべては使い手次第。

 もしも使い手が最強となるなら、このナイフもまた最強となる。

 人の可能性を示す生粋の特殊武装(スペリオルズ)

『勝手に至高に辿り着く武器なんて邪道だわ。二度と作らせないでよね?』

 至高に至ると、神匠(ヘファイストス)が保証した最高の一振り。

(問題は……)

 今のベル君の【ステイタス】がどこまで成長し、その力がナイフをどこまで強化するかが未知数ということ……っ!

(なっ!?)

 編纂が完了した【ステイタス】に、思わず絶句した。

 

 ベル・クラネル

 力 :G265→E484

 耐久:H174→G253

 器用:G278→E494

 敏捷:F376→C625

 魔力:I0

 

 全アビリティ熟練度、上昇値七〇〇オーバー。

 驚くべき事に、すでにランクアップに必要な最低値をクリアしている。

 たった半月で。まさに天井知らず。常軌を逸した成長速度だった。

(おのれヴァレン何某!! ああいや、それともクオン君の仕業なのか?!)

 正しくは、その二人の影響が見事にかみ合った結果だろう。

 嫉妬すればいいのか、それとも恐れ戦けばいいのか。

 その辺の判断は全くさっぱりつかないけど、確信は得た。

(これなら、後はベル君次第っ!)

 その確信に呼応するように、ベル君の手の中でナイフが紫紺の輝きを放つ。

「神様、来ましたっ!」

「よし! さぁ、行くんだベル君!」

 万感の思いを込めて、ボクはその熱い背中を叩いた。

 

 …――

 

「よし! さぁ、行くんだベル君!」

 神様に背中を押され、物陰から飛び出す。

 三日ぶりの【ステイタス】更新。

 その影響は、たったそれだけの動作でも明らかだった。

 とはいえ。それでも、相手の方が格上だ。まともに戦っても勝利はない。

 従って、取るべき戦術は先ほどと同じ。

 一撃必殺の魔石狙い。

(本当に、僕にやれるのか……?)

 三度目はない。失敗すれば、きっと神様の命もない。

『ボクが君を勝たせてやる。勝たせてみせる』

 自身への不信は拭えないにしても、神様の言葉を疑う事はない。

 神経を研ぎ澄まし、両脚にすべての力を込める。

「――――ッ!」

 世界の時間が止まった。

 蠢く鎖も。振り下ろされる腕の軌跡も。その全てが見えた。

 もちろん、それは錯覚だ。極限に研ぎ澄まされた感覚が見せた刹那の幻でしかない。

 でも、それで充分。

「うおおおおおおおおっ!」

 その一瞬に飛び込むために、地面を蹴りつける。

 受け取った力は全てナイフの切っ先に。その瞬間、僕の身体は一振りの槍となった。

 突撃槍(ペネトレイション)

 胸を狙うのではなく、その背中へと突き抜ける。

 恐怖も自身への不信も置き去りにした永遠の一瞬。

『ガァッッ!!』

 紫紺の輝きを放つ漆黒の刃が、シルバーバックの胸元に滑り込む。

 肉を裂く切っ先が、そのまま硬質な何かを粉砕した。

 限界にまで見開かれた濁った眼に、僕自身の姿が写り込んで――

「ッ!?」

 シルバーバックが仰向けに倒れ込む。それを見送りながら、僕は宙を舞った。

 何しろ、着地の事なんてまるっきり考えてもいなかったのだ。

 シルバーバックがあっさり倒れたおかげで、突撃の加速力は未だ健在。そのまま、明後日の方向に向けて束の間の空の旅を堪能してから、

「ぐえっ!?」

 蝋の翼すら持たない僕は、ごくあっさりと地面に激突した。

 それでも勢いを殺しきれず、地面を転がって、しばらく悶絶してから跳ね起きる。

「ッ!」

 そのまま――役に立たないのは承知の上で――短刀を構えたが……、

「やった……?」

 大の字に倒れたまま、シルバーバックの身体は灰となって消えた。

 残ったナイフとショートソードがそのまま石畳に落ちて、カランと音を立てる。

 それが、戦いの終わりを告げる鐘の音だった。

『―――――ッ!!』

 歓喜の声が、響き渡った。

 固唾をのんでシルバーバックとの戦いを見守っていた周囲の住人が、興奮を爆発させたのだ。閉ざされ、錠すら落とされていたはずの窓は開け放たれ、住人達が身体を乗り出して喝采する。それは、闘技場から響いていたそれにも負けない程だった。

 その喝采の中で、ようやく強張っていた頬が緩んできた。

 やりましたよ、神様!――そう言って、笑いかけようとして。

「神様っ!?」

 飛び出したのは悲鳴だった。

 視線の先で、神様が地に伏している。

 ナイフとショートソードを拾い上げ、大急ぎで駆け寄る。

「神様! 神様!?」

 呼びかけるも、蒼白な顔をした神様から帰ってくるのは曖昧な呻き声だけ。

 血が凍る思いで立ち上がり、神様を抱きかかえて疾走する。

「坊主! そっちは右だ右!」

「そこに近道があるぞ!」

 大歓声の祝福に交じって、住人の皆が口々に行く先を教えてくれる。

 それに感謝の言葉を返しながら、僕は再び地上の迷宮を走り抜けた。

 

 

 

「いたた……っ」

「ちょっとティオネ、本当に大丈夫なの?」

「万全じゃないけど、これくらいならね。さすがにアイズと二人きりだけじゃ行かせられないわ。あんただってそれくらい分かってるでしょ?」

「そりゃそうだけどさー」

 牛頭のデーモンを倒してから、私達は『ダイダロス通り』に向けて走っていた。

 私達、と言っても、さすがにリヴェリアとレフィーヤはいない。二人は【ガネーシャ・ファミリア】の人達に任せてある。

「じゃ、いいわね? 最優先はロキ達の保護。次に逃げたモンスターの討伐。ただ、ロキ達を見つけても、一人で突っ込むのは絶対厳禁。まず山羊頭が周りにいないかよく確認して。言うまでもないでしょうけど、奇襲にも充分に注意しなさい」

 入り口付近で、ティオネが作戦を確認する。

「ロキ達を見つけたら黄色の、山羊頭だけだったら赤の閃光弾だね?」

 リヴェリア達を保護してもらった際に【ガネーシャ・ファミリア】の団員達から貰い受けた三色セットの閃光弾。それにポーチ越しに触れながら、確認する。

「ええ。でも、使いどころには気をつけなさい。他の山羊頭がそれにつられて集まってくるかもしれないからね」

「山羊頭を相手にする時は三対一が基本。最低でも二体一。一対一なら逃げる、だね?」

「それと初撃は可能な限り奇襲を狙う、だよね?」

「ええ。ついでに言えば、奇襲の勢いのままの押し切りたいわね。あの牛頭よりタフじゃない事を祈っときなさい」

「っていうか、あんなのが他に五匹もいたらさすがに体が持たないよー…」

 リヴェリアとレフィーヤの魔法を一度は耐え凌いだその姿を思い出したのか、げんなりとした様子でティオナが呻いた。

「見た目は山羊頭の方が華奢だったし、多分大丈夫、かな?」

 もちろん、それは単なる気休めだった。

 攻撃力や耐久力がそれほど下がっているとは思えない。

 それが、私達の実際の共通認識だった。

 そもそも、あの体躯は華奢という言葉から程遠い。精々、牛頭のデーモンと比較して少しだけ小柄というだけだ。それでもミノタウロス並みの背丈があるのだから、華奢なんて言葉を当てはめる余地はどこにもなかった。

 ただ、少しだけ小柄になった分、敏捷性が上がっている可能性はあり得る。

 ダイダロス通りの入り組んだ地形を考えれば、むしろそちらの方が厄介だった。

 もし奇襲を受けでもしたら、ほぼ間違いなく終わりだろう。

「それじゃ散開。無理するんじゃないわよ?」

「今のティオネがそれを言うのー?」

「まぜっかえさない! さっさと返事!」

「はぁーい」

「うん」

 いつもの調子で言い合ってから、私達はダイダロス通りへと突入した。

「……?」

 しばらく走ると、行く手から人のざわめきが聞こえた。

 最悪の事態――山羊頭のデーモンが住人を襲っていること――を想定して、警戒を高める。

 しかし、

(歓声……?)

 能力(ステイタス)によって強化された聴覚が拾い上げたのは、どう考えても悲鳴ではなかった。

 抜き身のまま持っていた剣を意識して、別の意味で慎重に路地を進む。

 その先には、ちょっとした人だかりができていた。

「あの、どうかしたんですか?」

 剣を背に隠しつつ、一番近くにいた年配の女性に声をかける。

 幸い、剣には気づかれなかったようでうまく話を聞く事ができた。

「奥の方にいる連中が知らせてくれたんだけどね。闘技場から逃げ出したってモンスターを、男の子が仕留めてくれたらしいんだよ。路地の奥に追い詰めて、一撃でだってさ!」

「男の子?」

 今、この辺りでモンスターを探しているとすれば、クオンさんだろう。

 でも、あの人を『男の子』と表現するだろうか?

「白い頭に紅い目の兎みたいな少年だよ。あんたは見てなかったのかい?」

(白い頭に紅い目?)

 そして、兎みたいな男の子。

 その特徴を持つ冒険者に、一人だけ心当たりがあった。

 そう言えば、今朝も見かけたはず。

 あの日、私のせいで傷つけてしまった、深紅の瞳を持つ、白髪の少年――

「すいません! 通してください!」

 でも、まさか。

 そう思った瞬間、新たな歓声が辺りを満たした。

 その冒険者が帰還したらしい。

 その姿を一目見ようと、辺りから人が集まりはじめ、あっという間に人だかりはその密度を高めた。

 抜き身の剣を持ったままそこに交じっては怪我をさせかねない。慌てて最後尾まで引き下がり……そこで、意を決して少し背伸びをした。

 ちょうどその時、

「――失礼します!」

 人ごみをかき分けた一人の少年が、すぐ目の前を駆け抜けていった。

(この子が……)

 あの日、ミノタウロスから助けた少年。見えたのは一瞬だけど、間違いない。

 確かに拙さが目立つ、駆け出しの冒険者だ。それは、私から見てもそう思う。

 でも、【ファミリア】の同僚は明らかに言い過ぎだった。改めて、そう確信する。

(シルバーバックを倒した……?)

 その驚きは、それこそ自分でも驚くほどあっさりと胸の中へと消えていった。

 あの子は、駆け出しの冒険者だった。逆立ちしてもシルバーバックには勝てない。

(そっか……)

 いいや、そんな事はない。

 声高に叫ぶ自分を自覚して――そして、ようやくその理由に気づいた。

 あの時。ミノタウロスから助けた時に感じた、ほんの些細な違和感。その正体こそが何よりの理由だった。

「おめでとう」

 ふと、そんな言葉を呟いていた。

 あの日、多くの者に馬鹿にされ、悔し涙を流していた少年に祝福を。

 そして、その原因となってしまった事に謝罪をしなければ。

(うん。でも、今は――)

 彼の偉業を穢さぬよう、山羊頭のデーモンをすべて討伐しなければならない。

 もちろん、油断なんてできない。けれど、どこか軽やかな気分で、私は再びもう一つの迷宮へと飛び込んだ。

 

 …――

 

「いっつー…。やっぱりもう一本、ハイ・ポーションを貰っておくべきだったかしら」

 ティオナとアイズを見送ってから、未だに軋む身体に毒づいた。

 走り出そうとした途端、また思い出したように痛み始めたせいで、こうして入り口付近の壁にもたれかかる羽目になっている。

(まぁ、そうは言ってもさすがに無視はできないしね)

 私達の主神であるロキを救出しなければならないのは当然として。

 オラリオの治安維持を担う【ガネーシャ・ファミリア】の主神に何かあれば、最悪また『暗黒期』が到来しかねない。

 そこまで大げさな事を考えなくとも、あの山羊頭やモンスターのせいで一般市民が犠牲になっては流石に寝覚めが悪い。

「さて、と。それじゃそろそろ――」

「あれ? ティオネやん」

 行こうかと、持たれていた壁から身体を引き離すと同時、すぐそこから唐突にロキが姿を現した。

「ロキ?! 今どっから湧いて出たの?!」

「うちはボウフラやないわ!」

 思わず叫ぶと、ロキもまた叫び返してきた。

「ただ単に、そこに地下水路に繋がる隠し通路があってな。今までそこに隠れとったんやけど、地上も静かになったようやから戻ってきたところや」

 言われると、木箱らしきもの残骸が散らばる壁がくるくる回っていた。壁に見せかけたちゃちな隠し扉らしい。

 ロキの話からすると、その先は地下水路なのだろうが……

「……あ、相変わらず訳の分からないところに訳の分からない仕掛けがあるところね」

 いったい何を目的にそんな仕掛けを作ったのやら。

「ま、ええわ。自分がここにいる言うことは、牛頭の方は片付いたようやな?」

「何とかね。リヴェリアは大怪我だし、レフィーヤは精神疲弊(マインドダウン)起こして倒れちゃったけど」

「え、マジで? ちゃんと杖持っとるリヴェリアがおってもそこまで苦戦したんか?」

「ええ。癪だけど【正体不明(イレギュラー)】から借りた武器がなかったら、ちょっと危なかったわね」

 そのファルシオンの峰で肩を叩きながら嘆息した。

 武器のおかげで勝てたとまでは言わないけど、なければもっと苦戦していたのは疑いない事実だった。しかも、その武器の持ち主があの【正体不明(イレギュラー)】だというのもまた面白くない。……まぁ、それでもこの曲剣は気に入ったけど。

「んん? ちょい待ち。この剣て――」

 ロキが眉をひそめながら、曲剣を覗き込んでくる。

 まぁ、どこからか珍品奇品を買い集めて来るような神だし、おかしくはないけど――

「む? ロキではないか。無事だったかっ!」

 突如響いた大声に視線を向けると、獣人の少女の手を引き、年配の女性ヒューマンに案内された神ガネーシャの姿がそこにあった。

「ガネーシャ! ……って、あれ? 【象神の杖(アンクーシャ)】はどうしたん?」

「シャクティなら、逃げたモンスターを追っていったぞ! モンスターを見かけたという情報提供があったのでなっ!」

「ゆーことは、あの山羊頭は――」

「シャクティ達が一体。残りはクオンが仕留めた」

「…………」

 口元が引きつるのが分かった。

 いや、予想はしていたし、それ以前にそういう『作戦』だったのも事実だけど……

「大丈夫なん?」

「うむ! だいぶ苦戦したが無事だっ! それに、残っているのはシルバーバック一匹だけ。今のシャクティでもまだどうにかなるだろうっ!」

 そんな私をよそに、ロキと神ガネーシャは言葉を交わす。

(【象神の杖(アンクーシャ)】って確か私と同じLv.5よね?)

 それが――どうやら誰かの助力を得た上で――シルバーバックを『まだどうにかできる』ほどになるまで追いやられたらしい。

 そんな化物を一人で四体。いや、あの牛頭を含めて五体。

 まぁ、おそらく予定通り各個撃破したのだろうけど、それにしたって――

(相っ変わらず冒険者をコケにしてくれるわね)

 あれでギルド公認のLv.0とか一体何の冗談なのか。

 悪夢と言うにも性質が悪すぎる。

「なら、おおむね一件落着いうことか?」

「いいやっ! クオンがフレイヤを追いかけて行ったっ!」

「それ絶対アカンやつやんっ!?」

 ロキは絶叫し、私はと言えば思わず変な笑い声が漏れた。

 いやもう、他にどうしろと。

 いっそ、今すぐホームに帰って頭から毛布を被って寝てしまいたいくらいだ。

「うむっ! フレイヤ超・絶体絶命っ!」

「言っとる場合かっ!?」

「分かっているっ! だから俺もこうして急いで戻ってきたのだっ! フレイヤ自身のためにも、クオンより先に発見して身柄を押さえねばならんっ!!」

 確かに。そうしないと、【フレイヤ・ファミリア】が文字通り消滅する。

「あーの腐れおっぱい、最後の最後まで世話かけさせよってえぇええええっ!!」

 両手で髪を掻き毟り絶叫してから、ロキが言った。

「ティオネ! アイズたん達は?!」

「今、ロキ達と山羊頭とモンスターを探してダイダロス通りに行きましたけど……」

 と、言うか。私も行くところだったんですけど。

 こうなると、いきなり身体が痛んだのは虫の知らせか何かだったのかもしれない。

「今すぐ呼び戻せるかっ?!」

「ええ、できますよ」

「無理やろなっ! 分かっとる――って、できるんかーいっ?!」

 ビシッと、ロキが何かを叩くような奇妙なポーズをとった。

「ええ。ちょうど【ガネーシャ・ファミリア】から貰った信号弾がありますから」

「おおっ! それは僥倖っ! さすが俺の団員。超・優秀っ!」

 ビシッと、まるでロキに対抗するように変なポーズをとる神ガネーシャに曖昧な笑みを返してから、三色セットの閃光弾の最後の一つを放った。

 しばらくして、破裂音と共に太陽にも負けない白い閃光が空を彩る。それは、『戦闘終了』を知らせる合図と念のため決めていた。

 ……もっとも、下手をするとこれから今日一番の激戦が待っているかもしれないけど。

 

 

 

「フフフッ」

 上機嫌に笑うフレイヤ様の少し後ろを歩く。

 それは、普段であれば心安らぐ一時だった。

 だが、今回ばかりはそうも言っていられない。

(どうやら、フレイヤ様の想定外の事態が起こっている節がある)

 護衛として傍にいた事もあり、さほど状況はつかめていない。

 が、その任を疎かにしない程度には見かけた住人から情報を集めている。そこまでしたのはひとえにあの男が動いているからだが――

(蛇もどきと山羊頭とは?)

 暴れたモンスターとして、そういった存在を上げる住人がいた。

 解せない話だ。詳しく聞けば聞くほどに。

(もっとも、どこまで信じていいかは定かではないがな)

 どのみち情報が錯綜しているのは疑いない事であり、仕方がない事でもある。

 しかし、気になる。

(地面を突き破って現れた。神ガネーシャを追っていった)

 そんなモンスターに心当たりはない。

 新種、という事はあるまい。事前情報のないモンスターをいきなり調教(テイム)するなど、いかに【ガネーシャ・ファミリア】の調教師(テイマー)と言えど無謀極まる。

「それにして、ガネーシャはどうしたのかしら?」

 随分と怒らせちゃったみたいね――と、フレイヤ様が呟く。

 と、言う事はやはり途中で感じた強烈な神威は神ガネーシャが発したのだろう。

(仮に【ガネーシャ・ファミリア】と全面戦争になった場合――)

 人数的には【ガネーシャ・ファミリア】が。団員の練度で言えば我々が勝る。

 しかし、この騒動を理由に、治安維持を名目として【ロキ・ファミリア】が横やりを入れて来るとなると少々面倒な事になる。

(あちらの団員が数名、この騒ぎの鎮圧に加わっているとも聞くが……)

 本来であれば、【ガネーシャ・ファミリア】が【ロキ・ファミリア】に借りを作ったという話で終わるはずだった。

 しかし、あの男がすでに勘づいている以上、そう上手くはいくまい。

(あの男が動いているなら……)

 もはや【ロキ・ファミリア】も【ガネーシャ・ファミリア】も問題ではない。

 最大の脅威となるのは、あの男だ。

「ッ!」

 そこで。ふわりとモンスターの目を思わせる燐光が漂ってきた。

 もはや反射的に剣を引き抜き、それを両断する。

 それで、その燐光自体はあっさりと消滅した。だが――

「フレイヤ様!」

 背に庇いながら、最大限に警戒する。

 いや、それすら必要ない。路地の向こう側に黒い影。

 右手にクレイモアを。左手には竜の紋章が施された青い盾を。

 奴はすでに構えている。

「――――」

 ならば、もはや言葉は不要だった。

「オオオオオオッ!」

 渾身の踏み込みから両手で剣を構えて大上段からの一撃へ。

 例え『深層』のモンスターであろうと、その一撃の前には敢え無く灰と化す。

 それだけの自負があった。が――

「――――」

 それを踏みにじるからこその『灰色の悪夢(アッシュ・オブ・シンダー)』。

 その一撃が空を斬ると同時に、横薙ぎの一閃が返ってくる。

 即座に飛び退いたが、微かに掠めた切っ先が火花を上げてブレストプレートに傷を刻む。

 掠めただけでこれだ。直撃すれば容易く両断されるだろう。

「フンッ!」

 袈裟切りの一撃もまた、虚空を斬るにとどまった。

 それを引き戻して、奴の一撃を受け止める。

(おのれ……っ)

 相変わらず、奇妙な感覚だった。

 力でも技量でも優っているはず。その手ごたえがある。

 だというのに、攻めきれない。むしろ、出し抜かれかねない。

(だが……!)

 今はフレイヤ様を逃がすのが最優先だ。

 多少強引にでも連撃し、路地の奥へと押し戻す。

 その意図を汲んでくださったのか、背後のフレイヤ様が動き始めて――

「――――」

 それと同時、奴もまた後ろに跳んだ。

 左手の盾が工芸品めいた造りのクロスボウに『切り替わる』。

 その瞬間、神託が下った。

「ぬぅんっ!」

 一騎に飛び込み、なりふり構わぬ大振りの一撃を放つ。

 無論、そんなものが中るはずもないが――それでも、それは正しかった。

 ほんのわずかに遅れてクロスボウの引き金が引かれ、三本のボルトが連射される。

「きゃ?!」

 狙いは初めからフレイヤ様だった。

 もう一瞬遅れていれば、あのボルトはフレイヤ様を貫いていただろう。

「貴様あぁああああああっ!」

 激昂のままに刃を振るう。今なら階層主すら一撃の元に両断できる。

 その確信は――即座に凍り付いた。

 左手に再び盾が装備される。こちらの剣を迎え撃つべく構えられたそれは、まさに刃が中る瞬間に軽く捩じられる。

 刃が、盾の曲面を滑った。必殺の力は行くあてを失い、その標的を変える。

 俺の体が崩れるその瞬間。奴は無造作にその左腕を払った。

 虚脱した腕はその動きのままに払われ、体は死に体と化す。そして――

「――――ッ!」

 完全に無防備と化したその一瞬。奴の剣が突き出された。

 

 

 

「貴様あぁああああああっ!」

 ボルトは標的から外れたが、目的は達成した。

 激昂した敵が、力任せの一撃を放ってくる。

 威力だけはありそうだった。だが、狙いが単調なら軌跡も読める。

 左手の武装を≪アヴェリン≫から≪竜紋章の盾≫に戻し、その一瞬を待ち構える。

 狙いは剣に最大の力が宿るその一瞬前。

 その一瞬を捕え、盾をわずかに逸らす。

 緩やかな弧を描く盾の表面を、刃が撫でていく。自身の力に振り回され、敵の態勢が崩れたその瞬間、腕を払った。

 いかに剛力と言えど、もはやどうにもならない。その敵は俺の前で無防備になる。

受け流し(パリィ)

 致命の一撃を見舞える一瞬を生み出すべく磨いた技術。

 数多の難敵、強敵を前に必殺の一瞬を生み出してきたその技は、ここに新たな獲物を捕らえた。

 切っ先をがら空きとなった心臓に突き立てる。ただの生者ならそれで完全に詰みだ。

 ……もっとも。それも中れば、の話でしかないが。

「はぁああああああっ!」

 切っ先を突き出す刹那。死角から風が吹いた。

 突き出すつもりだった剣で、それを薙ぎ払い――同時、左手を斧槍に切り替え、突き出す。

 敵が増えた以上、一体ずつ始末するのが定石だ。

 しかし、すでに真に必殺となる一瞬は通り過ぎていた。斧槍の刃はその横腹を深く斬り裂いたものの、そのソウルにまでは届かなかった。

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 敵のソウルが流れてこない事に舌打ちする暇もなく、新たな敵が叫ぶ。

「【エアリエル】!!」

 突風が吹き荒れた。流石に踏みとどまれず、後退を余儀なくされる。

 もっとも、仕留め損ねた方の敵も似たようなものだったが。

 再び左手に盾を装備し、間合いをはかる。

 最初の敵は、すでに仕留めたも同然だ。不死人ならなんて事の無い傷だが、ただの生者にとっては深手である。

 目の前の剣士を抜いて、まずはそちらを確実に仕留めるべきか。

 大剣を構え、強引に押し通る。

「くっ!」

 その敵は、思いのほかあっさりと道を開けた。

 その呆気なさが、むしろ次の罠を予見させる。

「おりゃあぁああああっ!」

 三体目。両刃剣を構えたそいつは近くの屋根から飛び降りてきた。

 それを、投げナイフで迎撃する。

「うわっ?!」

 流石に防がれたが、そのおかげで攻撃は止まった。

 中空で無防備になったそいつをそのまま両断しようとして――

「ティオナ!」

 先ほどの剣士が再び割って入ってきた。

 攻撃を切り止め、横に跳ぶ。その間に、四体目の敵が追加されていた。

「まさか【猛者(おうじゃ)】を助ける日が来るなんてね……!」

 曲剣を装備した四体目の敵が、瀕死の敵の首根っこを引っ掴んで後退する。

 それと同時、傷口に回復薬をぶちまけた。

「ロキ!?」

「貸し一つやからなっ!」

 さらに、標的の亡者の傍にもう一体亡者が追加される。

「【Anima mea――】」

 その辺りで、流石に焦れてきた。

 左手に火を宿し、禁じられた邪法を詠唱する。

 その名を【ソウルの大きな共鳴】。

 取り込むばかりで使う当てのなかったソウルを惜しむ事無くそこに注ぎ込んで――

「【――Sive Quantum……】」

「全員剣を降ろせっ!」

 その闇を解き放つより早く、女の声が響き渡った。

 それと同時、周囲の路地から――いや、それどころか近くの窓から、一斉に弓矢や杖を構えた冒険者たちが姿を現す。

「クオン、ここから先は我々【ガネーシャ・ファミリア】に任せてもらうぞ」

 ボロボロになった舞台衣装の上からマントを羽織ったシャクティが告げてくる。

 それと同時、さっきからウロチョロしていた金髪小娘と、褐色小娘共が貸した武器をオッタル達に向けて構えた。

「ちょっと、ロキ。貸しなんじゃないの?」

「アホか! それはアレ相手に自分らの命助けた事や! うちの子らも巻き込まれとんのにそれ以上の面倒なんて見るかいっ!!」

 その時点で、少なくとも闇術の発動は停止させていた。

 放てばシャクティを巻き込む。

 いや、少なくとも射線にいる彼女の部下を巻き込むのは避けられない。

(……ああ、それに)

 今となってはあの金髪小娘(ベルの想い人)も巻き込む訳にもいかないか。

「フレイヤっ! それに、オッタルよっ!」

 糸目の小僧どもが揉め始めると同時――ついでに言えば、俺が腕を下げた頃、相変わらずの大声と共に仮面の男、ガネーシャが姿を現した。

「今回の騒ぎについて、お前達が関与しているという疑いがあるっ! 詳しく事情を聞かせてもらうぞっ!」

「ちなみに。言うまでもないやろけど、今回ガネーシャはマジやで。何が目的か知らんけど、三種類も新種引っ張り出してくるのはやりすぎやて」

「新種……?」

 フレイヤが虚を突かれたような表情を浮かべる。

(ふむ……)

 あの反応だけで決めつけるのは早計だが……まぁ、やはり、と言ったところか。

 少なくともデーモンについては関わってはいないようだ。

(『美の神』とやらの手に負えるようなものでもないからな)

 何しろ、デーモンを生み出すのは炎の魔女ですら手に負えなかった代物なのだ。

 あの亡者の手に負えるとは思えなかった。

(予想はしていた事だがな)

 落胆もしなければ安堵もしない。

「……そうね。騒ぎを起こしたのは認めるわ」

 小さくため息を吐いてから、その女はあっさりと言った。

「そちらの要望通り同行しましょう。今ここで何を言っても言い訳にしかならないでしょうから」

 ただ、その前にオッタルの手当だけはしてくれないかしら?――と、その言葉にガネーシャが頷き……それで、モンスター脱走から始まった一連の騒ぎはひとまずの終焉を迎える事となった。

 

 …――

 

 そして、その日の夜。

「いやー。今日は走ったわー。一月分くらいは走り回ったわね」

 いくつかの事後処理を済ませてから、俺は『酒夢猫(シャムネコ)亭』を訪ねていた。

「それにしても。あの子ったら、一人でシルバーバックを倒しちゃうんだから驚いたわ」

「あの坊や、本当にまだ半月の駆け出し(ルーキー)なのかい?」

 いつもの席に着くと、両脇に座った霞とアイシャが口々に言った。

 どうやらあれからベルは無事に自力でシルバーバックを倒したらしい。

「面白い奴だろう?」

 小さく笑って見せる。

 貸してあるショートソードがあれば、シルバーバックくらいは倒せる。

 そう踏んだからこそ、オッタル達の追跡を優先した訳だが……どうやら、俺の勘もまんざら捨てたものではなかったようだ。

「で。一方のあんたはフレイヤ達を仕留め損ねたってわけだね?」

「文句はシャクティに言ってくれ……」

 からかうようなアイシャに、憮然としたまま応じる。

 そもそも最初に見かけた時に彼女が邪魔さえしなければ、ここまでの大騒ぎには……

(ああいや、そうでもないか?)

 あの女がいなくとも、蛇もどきは暴れただろう。

 そうでなくてもデーモンが現れた可能性は充分にある。

(あ、嫌な予感……)

 むしろ、あの女が騒ぎを起こさなかったら被害はもっと深刻だったかもしれない。

 そう思った時点で、あの女に下されるであろう沙汰にも予想がついてしまった。

(これは罰金が精々だな)

 俺でも気づくような事を、あの女が気づかないはずがない。

 そして、ガネーシャとのやり取りで状況を察したなら、上手いこと言いくるめるに決まっていた。

「ま、そっちはともかく」

 嘆息していると、グラスを片手に霞が笑った。

「あの子達が無事でよかったわ。女神様が倒れた時は私も焦ったもの」

 そのせいで、霞達が呼び止める暇もなくベルは『ダイダロス通り』の外に向けて疾走して行ったという。

 ここまで聞いた時は、流石の俺も少し焦ったが――

「でも、倒れるほどの過労って何があったのかしら?」

 ヘスティアが倒れた要因は怪我ではなく過労らしい。

 ベルを探して『豊穣の女主人』まで行った――そして、実際にベル達はそこに駆け込んでいたらしい――霞が言うのだから間違いないだろう。

「下界の女神がモンスターと追いかけっこなんてすりゃそうだろうさ」

「ん~…。店員さんの話からすると、そういう訳でもないみたいだったけど……」

 その店員は、どうもリューらしい。彼女の見立てならまず間違いないか。

(しかし、そうなると……)

 倒れた原因は、空白の三日間にあると見るべきなのだろうか。

(本当にガネーシャのところで開催準備のバイトでもしてたんじゃないか?)

 いや、あのガネーシャが倒れるまでこき使うとも思えないが。

 しかし、出発間際の様子からして、ガネーシャ主催の『神の宴』が関わっているのも疑いない。

 ……何と言うか、予想通りにヘスティアお手製の詰め合わせセットが届いたし。

(まぁ、帰ったらゆっくり訊いてみるか)

 グラスに口をつけながら、のんびりと考えていると、霞が横腹をつついた。

「しっかし、相変わらず薄情な奴よねー。倒れたって聞きながら、こんなところで女を侍らせてるんだから」

「怪我をしているならまだしも、ただの過労なら俺の出る幕はないな」

 精々、緑花草を食わせてやるくらいしかできる事はない。

 だが、どうも緑花草の独特の苦みは、普通の人間からは敬遠されるものらしい。

(ミアハ辺りに相談すれば何とかしてくれるだろうか?)

 いや、補給する当てがない。群生地は少なく、栽培も難しいと聞く。

 実際、三年間の放浪の間でも、ついに見かけなかった。

 手持ちもそこまで多いわけはないし、そんな物のために、わざわざミアハ達に骨を折らせるのも気が引けた。

 大体、いくらミアハ達と言えど今すぐどうにかできるわけもない。

 それなら――

「ベルと二人きりにしておいてやるのが何よりの薬だろうさ」

 どちらにとっても、その方が効果があるだろう。

 それに、戦い終えた英雄が次に行うのは恋物語と相場は決まっているらしい。

 下手に邪魔をして馬に蹴られるのはごめんだ。

(頑張れよ、ヘスティア)

 初々しいあの二人なら、それはそれはじれったい……もとい、純情な物語が展開されるだろう。

 我が身を顧みた途端、居た堪れなくなるのは間違いなかった。

 それに、迂闊に乱入しようものなら本物の【神の怒り】が炸裂する可能性も――

「なら、私達も『報酬』をいただこうじゃないか?」

 ――などと考えていると、アイシャが腕に枝垂れかかってくる。

 ……その形の良い唇を舐めながら。

「アナタも元気ねー」

「おや? あんたはこないのかい?」

「せっかくだけど、今日はやめとくわ。疲れてるし、ホントに死んじゃいそう」

「あっはっはっ! そりゃまさに昇天ってやつだねぇ!」

 ほどよく酔いが回っているのか、アマゾネス流の冗句が炸裂した。

 今は何も言うまい。

 だが、アイシャ。お前は後で絶対に泣かす。泣くまで()()()

「なら、遠慮なく頂いていくとするよ」

 その覚悟を知ってか知らずか、アイシャは俺の腕に絡みついたまま歩き出した。

 一見すると健気にしな垂れかかっているように見えるかもしれないが、彼女は生粋のアマゾネスである。これは獲物を担いでの凱旋以外の何物でもなかった。

 というか、ちょっと力の加減を間違えてないか? 腕が痛いんだが……。

「お嬢さんや。その前にその伊達男に会計をさせてやってくれ」

 それは正論だが、アルドラ。お前って奴は……。

 それで、結局。

 アイシャの飲み代まで支払わされた俺は馴染みの宿に連行されるのだった。

 

 

 




―お知らせ―
 お気に入り登録していただいた方・感想を書き込んでいただいた方、ありがとうございます。
 次回更新は18/06/31の0時を予定しています。
 18/06/24:誤字・脱字修正
 18/06/30:一部修正
 18/07/07:誤字修正
 18/07/14:一部修正
 19/10/02:誤字修正
 19/12/22:一部改訂

―あとがき―

 これにて一章(原作1巻分)が無事終了いたしました。
 次話からは二章(原作および外伝2巻辺り)となります。
 最後のオッタル戦は、少し不完全燃焼だと思われる方もいるかもしれませんが…すみません、もう少しこんな調子です。ちょっと色々と考えておりまして…。後々ネタバレが済んだ際に納得していただけたら幸いです。
 さて。
 二章では、もう少し派手に主人公を動かしていきたいと思っています。
 その分だけ物語も動きますので、原作の話の流れから外れる部分も出てきます。まぁ、前倒しになるだけとも言えますが。
 一章ではだいぶ大人しかったので、そろそろ不死人らしい活躍をさせてあげたかったり…。

 と、そんなところで、今回はここまで!
 次章もよろしくお願いいたします。

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