北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ 作:far
気付けば、俺は空を飛んでいた。それも、生身でだ。
頬に当たる風が、気持ちがいい。そして見下ろす大地が、やけに広く感じる。
やってみれば、意外といいもんだな。南斗人間砲弾。
うん。南斗人間砲弾だ。人間大砲として、芸人やらがたまにやっていたアレだな。
たけ○のお笑いなんちゃらで、昔の歌手の人が飛ばされながら歌うという企画で肋骨だったかを骨折して以来、見かけなくなった気がする。
アメリカだったかの家族サーカスの持ち芸でもあったらしいが、そっちはどうなったんだろうなあ。
内容としては、簡単なものだ。大砲に、弾として人間を込めます。撃ちます。異常。もとい、以上。
マジでこれだけなんだよなあ。普通の人間大砲なら、安全に着地できるように、飛距離やらを計算してクッションを配置したりするんだろうが……
南斗人間砲弾は、撃ちっぱなしで、着地は自前で何とかしろというテキトーさだから。
いや、上空から敵に襲いかかるというのが目的なんで、それをこなした上で着地も上手くキメろというあたり、実は高度な技だった可能性も?
しかも集団でやってたもんなあ。味方にぶつからないように、標的がカブらないように、あるいはタイミングをズラして襲いかかれるように、発射のタイミングと角度、空中での体サバキで調節していたとするならば、間違いなく高度な技だ。
一見バカにしか見えないのに、スゴイぞ南斗人間砲弾。一見バカにしか見えないけど!
さて。
今回、なぜ俺がこうして、南斗人間砲弾なんぞをやっているか。そろそろ話そうと思う。
南斗聖拳の練習だ。
うん。待ってくれ。言いたい事はワカるから。すっげーワカるから。
なんでよりによって、南斗人間砲弾を選んだんだ? って言いたいんだろ?
うん。聞いて驚け。これな? 南斗聖拳に共通する、基礎練習らしいぞ?
いや、マジで。
南斗聖拳の基本は、気による身体の硬化と、身体能力の強化によるジャンプらしい。
拳法の基本は、一撃で相手を倒せる攻撃力を得る事。そしてそれを必ず当てる事。
手足を固めて切れ味を持たせることで、あのジャギですら石像を音も無く貫通させられるようになる攻撃力を。
人が慣れていない、上空からの攻撃を繰り出す事で命中率の向上を。それぞれ達成しているわけだ。
そして南斗人間砲弾は、爆発に耐える事で硬化を、ジャンプする感覚と空中での身のこなし方を、と一度に両方学べるいい練習なんだそうな。
いや、マジで。
少なくとも、シンはそう言っている。
まあ、確かに。南斗の拳は、サウザーの鳳凰拳を筆頭に、シンの孤鷲拳、レイの水鳥拳、シュウの白鷺拳、ユダの紅鶴拳の幹部クラス、南斗六星の拳法全てに鳥の名前が入っている。
空中戦が本領だというのも、その練習に実際にやってみろというのも、わからんではない。
あれ? だとすると、だ。
六星の面々も、かつては大砲で空を飛んでたの?
うわあ。どう考えても、見た目がすっげーバカっぽいんですけど。
その点はどうなの。正直なとこ。
「大砲は、自力で跳ぶことが出来ぬ初心者用。言うなれば、自転車の補助輪よ。格好が悪いと思うのならば、早く跳べる様になるのだな」
ストレートにシンに尋ねたところ。そんなどこか年寄りくさい答えが返ってきた。
お前さん、絶対それ師匠に言われた言葉だろ。
悪いか? って、いやいや、悪くは無いよ。お師匠さんの言葉を弟子が受け継いでるのって、なんかいいじゃん。
育ててもらって、鍛えてもらった育ての親でもある師匠を、自分が強くなったら用済みとばかりに殺しにかかる。そんなとんでもない弟子もいると思うと、立派なもんさ。
「そんなヤツがいるのか?」
シンは顔をしかめて、聞き返してきた。
意外と情に厚い男なので、気に食わなかったらしい。
誰かと聞かれたら、ほら、いるじゃん。
こないだ、カレーを食べに来たサウザー―――
「おのれアヤツめ、そこまで外道だったか!」
えっ、ちょっ、まっ。
あーー…… 走ってっちゃったよ。どこ行くんだろう。
サウザー―――とケンカして、引き分けたことにスネて、あの大きな身体で体育座りしたり、不貞寝したり自棄酒して二日酔いに苦しんでるラオウだよって、言い終わる前に反応するんだもんなあ。
妙にシンの正義感が強くなってた気がするけども、何かあったんだろうか?
俺らのチームが統治するようになって、アッセイ! ヒャッハー! 状態から脱した村から「KINGさまありがとう」という子供の感謝のお便りが来てたせいか?
それとも、ケンシロウが近くに来てるらしいので、テンション上がっちゃってるのか?
まあ、何にせよ、アレだ。
サウザーも、師匠殺しをやっちゃってる部分は合ってるし、シンが最後まで話を聞かなかったのが悪い。
だから、俺の責任はあんまり無い。
南斗も北斗も、身内の争いでグダグダやってるのはいつもの事だし。
だから、まあ。気にしないで、もうひとっ飛びするとしようか。
ヒャッハー! 行くぜ、南斗人間砲弾!