北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ 作:far
気付けば、俺はまたグチを聞かされていた。
この世界、溜め込んでるヤツ多い…… 多くない?
モヒカンだったらヒャッハーで解消できるんだけどなあ。マジメなヤツほど溜め込んじまうのかも知れねえなあ。
まあ、とりあえずは黙って聞いてやるさ。
取り合えず飲みなよ、トキさんよ。
後ろでアミバがワタワタと、飲みすぎはお体に、みたいな態度してるけどよ。その辺はあとで秘孔治療で何とでもなるだろ。
門番の部屋だか、取調べ室だかからの連絡でトキにアポを取った俺は、早々にトキに会う事ができた。
ラオウの件で話がある、と言っておいたのが効いたんだろうな。
手土産にと、養命酒を渡して会談に入った、んだが。
ここにきて特に要求する事とか、話しておく事とかが無い事に気付いちゃったんだよな。
いや、そもそもボスでも倒してポイント稼ぐかって事で来たんだけど、すでにトキが制覇済みですって事で、それはポシャっただろ?
特に話しておく事も、思いつかないんだよなあ。
まあ、口実に使ったラオウの話はするけども。
ふむ。ついでに、ラオウを今後どう扱うかの、ヤツの進路相談でもしておくかね。家族とは言え、弟相手にするのはどうよ、と思わんでもないが。
結果。なんかヘコまれた。
まさかモヒカン相手にカツアゲ生活したあげくに、有力チーム(うちのチームの事だな)のヒモになっていようとは、予想外だったらしい。
カイオウの事があるので、修行しているか、いっそ修羅の国に渡ったかの二択だと思っていたんだそうな。
カイオウ。ああ、そういえば居たね。強いのか弱いのか、よくわかんない人だけど。
むしろ同類と勝ち抜きの殺し合いして、百人勝ち抜いたという設定の、修羅の国版モヒカンである修羅たちの方が強キャラ感あったな。
元斗皇拳のファルコという、わりと強キャラムーブしてた人が、修羅の国編入ってすぐに名前も無い修羅と相打ちで死ぬという、あの展開は衝撃だった。
カイオウもなあ。無想転生破ったり、ラスボスだったりと強そうではあるんだけどもなあ。
実は自分より強いものと戦った事が無いとか、ケンシロウが覚醒したら困ると策略練るとか、メンタル弱めでみみっちい部分もあるんだよなあ。
なんか、どっかの手汗爆発ボーイみたいだな。
そのカイオウは、何かをこじらせた結果、愛や情などいらぬ! と言い出して、悪と力こそ全て! とか言っちゃってるらしい。
文字にすると、香ばしいな。
しかもそれを国家運営の基本にしてるから、民に厳しいってレベルじゃねーんだそうな。
情を排したくせに、効率とか数字で運営するんじゃなくて欲で運営してるから、そらもうヒドい事に。
ダメじゃん。
そんなカイオウを倒しに、いつかラオウがやって来る。そう修羅の国に救世主伝説が広がっていて、かの地の民は今でもラオウを待っているんだそうな。
その救世主。今、ビール飲んでフィギュア作って、ニートやってるけどな。
ダメじゃん。
そらトキもヘコむわ。
うん、まあ、こういう時はコレだよな。
まあ、飲めよ。
そう言って俺が差し出したのは、ソガペール・エ・フィス。長野県のワイン造ってるトコが、ワイン造り終わった後の時間を生かして、趣味で冬に少量だけ仕込む日本酒だ。
趣味に関わった事で本気を出す日本人のサガが、いい面で出ている酒。出回る量が少ないので、入手困難なのが惜しい。
年によって味が変わる、ワインのような面があるのは作り手がワイナリーなせいか。
仕込む酵母が5、6、7、9号の組み合わせの
俺は今回出した、
「ああ……」
トキも気に入ってくれたようだ。一口飲んで、満足げにため息をついた後は、コクリ、コクリとゆっくりと、しかし止まらずに飲み続けている。
ああ、カラ酒はいけないな。アミバ、なんかおつまみ。
えっ、俺? みたいな顔をしたが、トキの方を見て、穏やかな顔で飲んでいるのを見ると、ため息をついて部屋を出て行った。
本当に素直になってるな。パシらせといてなんだけど、なんか気持ち悪い。なにあの爽やかなアミバ。
そしてツマミが届き、トキに酒が回ってきた頃からだ。
その口から、溜めに溜め込んだグチが流れ始めたのは。
まずは、ラオウの事。
幼い頃、自分を常にかばってくれていたのは感謝しているが、自分以外にはただの乱暴者になっていったのはどうなのだと。
核戦争後は、暴力はいいぞ。とばかりに腕力だけで軍を作って領土の統治は適当!
南斗を相手にも、煮え切らない対応で、正直少しイラッとした事もあった。
当時のケンシロウひとりでも何とかなったんだから、軍を従えたラオウならば、もっと早くに何とでもなっただろうに、何をやっていたのか。
相手が死兆星が見えないからと、戦いを避けるとかどうなのだ。北斗の長兄ならば、自信を持って戦え。
北斗神拳は無敵だと言っていたケンシロウを見習え。
しかも今はニート!? 何をやっているんだ我が兄よ!
などなど。
普段は言えなかった文句やら、思うところがゴロゴロと転がり落ちてきた。
ポロっとこぼれるってレベルじゃねーぞ。
イメージとのギャップに、お、おぅ…… としかこちらが言えないので、グチも止まらない。
カサンドラも、元は城塞都市だった。引きこもれるだけの、物資の生産も出来ていたはずなのだ。
だが収容所にしたから、と全部破棄してあるとか、どういうことだ!
あの獄長め! 痛みを知らず安らかに、などと気を使ってやるのではなかったわ!
文官もほぼいないし、毎日私がどれだけ苦労をしていると……
なんか、トキにあるまじき事まで言い出したぞ。
うん。だいぶ酔ってるな。うん。
そうでなくとも、そういうことにしておこう。
もしくは、俺たちは何も聞かなかった。そういうことだ。
部屋の隅で耳をふさいでいるアミバも、きっと納得してくれるだろう。
だが、それでもまだトキのグチは止まらない。今度はケンシロウにまで、何かを言い出した。
ケンシロウについても、私がユリアを譲ったというのに、幸せに出来ていないではないか! しろよ!
それと弟子がいないし、作る様子もないとかどうなのだ。伝承者とは、伝えるのも使命だぞ! しろよ!
一子相伝だが、自分の子供に伝えようにも、ユリアが子供を生めそうにないから。などと考えているのではないか?
一子相伝と言うが、ラオウと私も身に付けた以上、もうそこはいいだろう。ならば私が残すぞ! 私が伝え、残すのだ!
「私こそが、北斗神拳伝承者だー!!」
[P0→6 トロフィー(金):トキを覚醒させる を達成しました!]
いや、これ酔ってるだけだと思うんだけどよ。
酔いが醒めても、覚えてるかなあ。
ところでさあ。
その後継者の候補って、まさかとは思うけどさあ。
もしかしてそこでメッチャ困った顔してるアミバだったりする?