北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ 作:far
気付けば、俺はトキに弟子入りしていたらしい。
[P:4→8 トロフィー(銀):トキに弟子入りする を達成しました!]
ねえ、教えて。トロフィーって全部でいくつあるの?
両手を頭の上で組んで、思いっきり右へと倒し。
女座りから右足をムリヤリ上へと持ち上げて、足先を右ひじとくっつける。
鳩のポーズと呼ばれる、ヨガのポーズのひとつをやらされながら、そんな事を思った。
実際、いいストレッチにはなったらしく、終わった後に呼吸が楽になったのが少しムカつく。
もし俺が今、何をやらされているのかと聞かれれたなら。
「北斗神拳の練習だ、たぶんな」
そう、自信なさげに答えるだろう。
だって、さしあたっての目標が、アレだぜ? 座ったまま、空中に浮け。という北斗有情破顔拳の前準備になる動作…… 動作? うん、たぶん動作だ。
トキはこの動作を、ここカサンドラに来てから学んだという。
カサンドラには、ラオウが拳法家や武道家を、奥義書を取り上げた後に放り込んでいた。
自分が他流派の技をも身に着けて強くなるため、というのもあったかもしれないが、これ、何と善意からの行動であったらしい。
戦いの中、倒れていく敵味方の拳法使いたち。そして彼らの中には、他にもう使い手のいない拳法も多々あって、それらの拳法は乱世の中、はかなく消えていった。
それを目の当たりにしたラオウが、後世に伝えねばという使命感に目覚めてしまったらしいのだ。
奥義書を奪って収集、使い手たちはテキトーにカサンドラに放り込む、という手段はどうかと思うが。
まあ、味方にならない以上は、仕方が無いと言えば仕方が無いし、これでも有情なのだろう。
拷問して殺すのが大好きなあの獄長に運営を任せていたのは、確実にアウトだけどな。
まあ、それでな。そうして集められた拳法家、武道家の中に、ひとり。ヨガの使い手という、ジャンルが違うんじゃないかって人がいたんだわ。
座禅からの空中浮遊というキワモノは、元々は彼の技であったらしい。
剃ってあるのか全身の毛が無く、その肌の色は褐色で、赤いラインの刺青が鮮やかだった。
しなやかな筋肉に、長い手足。何よりも強い生命力を感じさせる身体の持ち主だった。
手腕と足首にリングをはめている以外は、悪趣味なドクロのネックレスとヒザまでの短いズボンを身に着けているだけの半裸の男だった。
ていうか、ダルシムだった。
ああ、そりゃ座禅の姿勢で浮くわ。むしろそこからテレポートするわ。
なんで居るんだよ。世界から何から違うだろうお前。
いや、待て。
トキが、ダルシムから学んだ。と、いう事は…… まさか手足が伸びるのか?
吐くのか? 火も、吐いちゃうのか?
そこんとこ、どうなんだトキ! はっきりしろ!
「残念ながら、私にはそこまでヨガの素質は無かったらしい」
……ッセェーーフッ!!
守られた。何がかは分からないが、今、確実に何かが守られたッッ!
「いま少し研鑽を積めば、テレポートは出来そうなのだが…… →↓↘、もしくは←↓/PPPもしくはKKKという感覚がわからなくてな……」
ごめん。俺もわかんないよ。
どっからツッコめばいいのか、そろそろわかんなくなってきた。
たぶん、読んでる人も困ってると思う。
「スーーーーー… フーーー… スーーーーー… フーーー…」
舌をストローのようにして口から出して、息を吸う。そして鼻から吐く。
教わったばかりの、体温を下げて頭をスッキリさせるヨガのシータリー呼吸法で、少し自分を落ち着かせた。
うん。よし。落ち着いた。
まあ、何でもいいや。有るものや居るものは、もうそういうもんだ。仕方ないよな。
それを言ってたら、そもそも俺が何で世紀末に居るんだって話になるしなあ。
ところでさあ。トキ先生よ、なんでヨガから入るの?
もうちょっと他の、ほら、なにかあるでしょ。なにかさあ。
え? ヨガの奥義の一つに、空腹を忘れるというのがあって、食べなくても死ななくなる?
あー。そりゃあ、この世紀末では重要だわ。でも、副作用とかない? モヒカンになっても、似たような事が出来るけどさあ。代わりにヒャッハーになるよ?
少し素直になる? そんだけ?
あっ。も し か し て。
アミバがあんな性格になってるのって、まさか……
おい。目を逸らすな。こっちを見ろよ。
「食糧が、無かったんだ……」
だとしてもなあ。アミバひとりだけそれで助かっても、ここにはわりと大勢の人間が―――
―――おい。おい。
まさか、アンタ……
「食糧が、無かったんだ……」
カサンドラの人間全部にヨガを広めたのかー!?
何してんだ、アンタ!
拳王軍が突然無くなって、補給も来なくなって、仕方なかったとか俺に言われても知らねーよ!
特に問題は無いはずだからって、そう思うなら、いい加減にこっちを見ろよ。
いいのか? ある意味世界の危機な気がするんだが、本当に大丈夫なのか?
[大丈夫ですよ]
あっ、大丈夫なんだ。そっかー。
って待てい。なに普通に受け答えしてるんだウィンドウ!
やっぱお前、中の人いるだろ! 誰だ、出て来い!
ああ、もう! 誰かー!
お客様の中に、ツッコミが得意な方はいらっしゃいませんかー!
……誰か、代わりにツッコんでくれ。
[あっ、そうそう。P:8→7 ヨガを習得しますか?(Y/N)]
……うん。一応、習得しとくわ。
今日はもう、ツッコミ入れねえぞ、チクショウ。
そして、翌日。
アミバの横で、手を出来るだけ多く巻いて組む、ヨガの鷲のポーズをマネしようと悪戦苦闘するサウザーの姿が!
何してんの、キミ。
「この帝王への献上品が無いなどというのでなあ。この俺自ら、わざわざ受け取りに来てやったのよ!」
思わず素で聞いた俺に、サウザーはそう答えた。
アミバに手伝ってもらって、ゆっくりと手を曲げながら偉そうに話すのは、割とこっけいだったが。
え~っと、献上品?
もしかして、週一で食べに来てた、カレーのことかな?
あれタカりに来てたんじゃなくて、献上品って認識だったのかよ。
しかし困ったな。ここには米なんてないぞ。仕方ない。小麦粉からナンでも―――
―――いや。待て。今、俺。7ポイント持ってる。
ならば―――取るか?
[P:7→3 調理技術:5を習得しますか? 今だけ1ポイント値引きのチャンス!(Y/N)]
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……………………ツ、ツッコんでなんかあげないんだからねっ!
ありがたく値引きは受け入れるけども、勘違いしないでよ! 許したわけじゃないんだからねっ!
……でも、ありがとう。
[調理技術:5を習得しました! これ以上を目指すには、師匠を見つけてください]
ツッコミをガマンした結果、自分でもよくわからんツンデレっぽいムーブをしてしまったが、無事に調理技術を極める事はできた。
しかし、師匠か。ゲンジロウに再び出会う時が近いのだろうか。
おっと、それよりもだ。今は新しく、何が出せるようになったかの確認が先だな。
え~っと、どれどれ……トウモロコシと、トマトとジャガイモのアメリカ大陸原産のチート野菜セット。それにニンニクと乳製品か。
うむ、これはこれで素晴らしいな。料理の幅もグッと広がる、まさに一般技能カンストにふさわしいラインナップだ。
でもコレジャナイ。これじゃないんだよ、ウィンドウさんよぉ~!
米だ! 米をくれって言ってたじゃねーか!
わかってやってるだろ!
チクショウ。こうなったらカレーうどんでも作ってやるぜ! ヒャッハー!!