北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ 作:far
気付けば、目の前にウィンドウがあった。
山のふもとまでたどり着き、ちょうど昼なので休憩しようと、焚き火を起こしたところだった。
ウィンドウは今までのものより少し大きく、選択肢がついていた。
| A.世紀末救世主 |
|あなたの同行者を選んでください B.その兄(整形済)|
| C.その他 |
うん。ちょっと待とうか。
え。なに。変わるの?
あのケンシロウもどき、俺のこの選択で、変わっちゃうの?
「なあ、おい。アンタ、名前なんだっけ? …おい? しっかりしろ、返事をしてくれよ!」
選ぶ前に、名前くらいは聞いてみよう。そう思ったのだが。
男は、焚き火を見つめたまま動かなくなっていた。叩こうが、つねろうが反応が無い。
それに、動かそうとしても1ミリも動かない。
うわ。なんだこれ。スッゲー怖いんだけど。
ゲームか? やはりここは、ゲームの中という認識でいいのか?
だとするならば、この選択肢を選ばない限りは、先へと進めないわけだ。
よし、制限時間が有るかどうかもわからんが、じっくりと考えてみようか。
まずAはわかる。スッゲーわかる。
だがBとC、テメーらはダメだ。なんだよ整形済って。ジャギか。Bを選ぶと、あいつジャギになるのか。
それとCのその他ってなんだよ。何になるんだよ。
こんなん、Aを選ぶしか―――
―――待てよ。俺、モヒカンだよな。
ケンシロウの主食みたいなもんだよな。
秘孔を突かれて、パーンして、ユカイな断末魔をあげてナンボの生き物だよなぁ。
Aを選んで、ケンシロウに固定された場合、俺の命が危なくないか?
そもそもだ。今は味方っぽい位置にいるが、あのケンシロウもどきはイマイチ信用できねえ。そう思っていた。
言動がケンシロウっぽいんだが、たまにブレる。というかバグる。
それが、まさかキャラが固定されていなかったからとは思いもしなかったが。固定された結果、敵対されたら、たまったもんじゃあない。
ケンシロウになったとしても、原作のどの時期かで、危険度が違う。
連載最初期の、ユリアをさらわれたままで、自分を鍛えながら彷徨うケンシロウだった場合。
尋問からの、何も知らないならば用済みだコースがワンチャンある。
Bは論外だ。あの出来の悪い兄は、その場の気分で、こちらを殺しにかかる可能性すらある。
伊達に四人いるのに、北斗三兄弟とか言われていない。
ハブられるだけの根拠と理由がある男だ。
ならばCか? しかしその他ってなあ…… なんだよその他って。何があるんだよ。
白髪を染めて、若作りしたトキとか? それとも、路線変更したアミバ?
どれを押すべきか。考えながら、もう一度ウィンドウを見る。
そして自分の人差し指を見てから、動かなくなった同行者を見た。
今からこの指で、コイツの運命を決めるんだよな。
そう思うと、少し指が震えた。
その震える指先で、俺は―――――――Cを、選んだ。
パチッ
焚き木が、はぜる音がした。どうやらそちらの方も、止まっていたらしい。
そして男が動き出す。
こちらを向き、話しかけてきた。
「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな。俺はゲンジロウ。お前は?」
いや、誰だよ。
また男が止まって、ウィンドウが出てきたけども、そんなことは今はどうでもいい。
誰だよゲンジロウ。知らねーよ。その他にもほどがあるわ。
何でそんなのが北斗神拳知ってるんだよ。って、秘孔じゃなくってツボって言ってたし、まさか別物なのか?
いやいや。でも俺、それで北斗神拳習得できたし。
なんなんだこれは。どうすればいいんだ。
チクショウ。これならAを選べばよかったぜ。なんかハズレを引いた気分だ。
まったくよぅ。で、ウィンドウさん。今度は何だって?
[あなたの名前は モヒカン でいいですね?(Y)]
選択肢がねーよ!!!
よこせや、そこはぁ! いいですね、じゃねーよ!
ああ、もういいよ! 何でもいいよ! どうせ名前も思い浮かばないし、思い出せないからさあ。
ヤケクソ気味に、ウィンドウをハタく。それでもYを選んだことにはなったらしく、ゲンジロウが動き出した。
「そうか。モヒカンというのか…… 変わった名だな」
名乗ってねえよ。イベント会話かよ。
ああ、もう。口に出せないツッコミは、やたらと消耗するわ。
なんなの、この世界。何がしたいの。俺にどうして欲しいの。
「メシにしよう。俺が作る」
俺がグッタリしていると、気を使ってくれたのか、ゲンジロウはそう言って火のそばで調理を始めた。
いいヤツではあるんだよな。
あのモヒカンたちから、一応は助けてくれたわけであるし、ツボも教えてくれたし。それにこうして食糧を分けてくれる。
まだ実感は無いが、この世紀末では、食糧は貴重なはず。それを分けてくれるというのは、実にありがたい。
感謝しながらゲンジロウを見ると、どこからともなく取り出した大きな葉の上に、やはりどこからともなく取り出した魚を乗せて切り分けている。
見事な包丁を使っているが、それもどこに持っていたのやら。
焚き火には、いつの間にかナベがかけられていて、大きなコンブが一枚沈んでいる。
そして湯が沸騰する直前を見切って、コンブを取り出し、火の通りにくい順に具材を入れてゆく。
切り身にされた魚は、酒とショウガをかけられ、しばらく置くようだ。臭みを取るための処理だろう。
というか、色々と取り出しすぎではなかろうか。
アイテムボックスか? アイテムボックスなのか?
聞いてみたいが、ゲンジロウの真剣な様子に、声がかけられない。
食材から声を聞こうとでもしているかのように、真剣な目で食材を見て、それぞれに手を入れていく。
そうして出来上がったナベは、美味かった。
汁は一点のニゴりもエグ味もなく澄みわたり、スッキリとした、しかし深いコクのある味わいだ。
野菜は甘く、柔らかく。特に汁を吸った長ネギがたまらない。
魚は白身の、これはタラか。かすかに香るユズは、どこでどう隠し味を仕込んだのか。
それらをポン酢でいただくと、口から自然と言葉が出て行った。
「うーーまーーいーーぞーーーー!!」
カッ!!
なんか出た。口から、なんか出た。
ビームだかレーザーだか分からんが、なんか出た。
おい。まさか……
「ゲンジロウの苗字って……ムラタ?」
「ああ。ムラタ。村田源二郎だ」
味皇かいっ!!
北斗関係ねーよ! 別のアニメだよ!
あー、もう。なんかさあ。なんつーか、さあ。
ほんと何なのこの世界ぃ!!
●村田源二郎
ミスター味っ子の登場人物。マンガ版とアニメ版でえらく印象の変わる作品である。アニメ版はスタッフが悪ノリして、過剰なリアクションを取り入れていった結果、すごい事になった。
そのリアクションは一部の料理マンガで伝統として受け継がれ、食戟のソーマにまでつながっている。
味皇料理会の会長、味皇として三十年以上君臨する男。ミスター味っ子2の後半ではボケ老人と化しており、料理人たちが彼を元の彼に戻そうと、料理を食わせた。
しかしそれは、アニメ版がすでに最終回あたりでやったネタなのだが、いいんだろうか。