北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ 作:far
気付けば、俺はまた卓を囲んでいた。
と言っても、修羅の国での話じゃない。サザンクロスに帰ってからの事だ。
まずは、シンに怒られた。
一応はKING軍の幹部でもあったのに、無断で脱走して職場放棄してたのは事実だからな。
でもファルコけしかけたよね? と聞くと目を逸らしていたが。
おい、何とか言ってみろよ。
「ケ……」
「うん?」
「ケンシロウと仲が良さそうだったから…… つい……」
ついじゃねーよバカヤロウ。もっかい出てくぞ、コラ。
まあいいや。とにかく聞け。
修羅の国に行って来た。向こうの状況を、少しは調べてきたから聞いとけ。
あ、ちょっと待て。ついでだから、ラオウとケンシロウも呼び出してくれ。一緒に聞かせるから。
二人が来るまでの間に、そっちから報告する事があったら聞かせてくれ。
……え? サウザーがいなくなった? なんで?
「いつものように、お前のカレーを食べに来たんだが、お前がいなかったのでな。探しに行ったらしいぞ」
お、おう。どんだけカレー好きなんだよ。夕飯はいつもカレーだとか言ってたが、まさかマジなのか。
週イチくらいでウチに来てたのは、ローテの一つだったのか。
で、いなくなったって、どこ行ったのよ。
「それがわからなくてな…… なぜかレイとシュウも連れて行った所までは確認が取れているんだが」
南斗聖拳でもっとも有名かもしれない、南斗水鳥拳の使い手レイと、目が見えないという設定の白鷺拳のシュウか。
レイの方はケンと一時一緒に旅をしていた、レギュラーだった事がある大物キャラ。
シュウは南斗十人組手になぜか参加していたケンシロウが、無事9人まで抜いた時に「見所ありそうだな」と出てきて、ケンシロウをボコった男だ。
そしてケンシロウが「負けたなら処刑な」となった所で「ヤッベそんな掟あったな。忘れてた」とケンシロウをかばいに出てきた男でもある。
彼の目が見えなくなっているのは、その時の「代わりに俺が視力捨てるから、それで勘弁してクレメンス」という交渉の結果だったりする。
南斗の男は、なにか余計な事をしないといけない掟でもあるのだろうか。
なお無くした視力は、心の目で物を見ているから、影響は無いそうです。だから『そういう設定』って言ったんだよな。
南斗の拳士には珍しく、蹴り技主体の戦法だったり、サウザーの聖帝軍に対するレジスタンスのリーダーだったり、子供好きな善人だったりといい設定も多々あるんだけどなあ……
あと甘い人でもあるな。人質100人取られたら、大人しく無抵抗で殺されちゃった人だからね。
それとレイの親友っていう設定もあったな。
その二人を連れて行ったって、本当にサウザーはどこ行ったんだ?
そのタイミングでラオウとケンシロウが一緒に部屋へと入ってきた。
なんか、仲良さそうなんですけど。
両方、あんまり見た事が無い笑顔なんですけど。キミらに何があったの。
よし。後で聞こう。
そう心の中にメモをして、俺は修羅の国の事情を話し始めた。
「よし、まずは最後まで聞いてくれ。修羅の国は、カイオウってのが支配しててな―――」
案の定、カイオウの名前に反応するラオウを、最後まで聞けって、となだめて話を進めた。
修羅の国の支配体制、修羅という少数精鋭の正規兵と、羅将という幹部。
それらをまとめるのも、運営するのも、すべては力。
拳法の腕と、麻雀の腕であるという、オカしな事実。
マー… ジャン?
ケンシロウとラオウとシン。この三人がそろってポカンとした顔をしている光景はレアなんだろうが、予想通りだ。
だよね。意表を突かれるよね。なんでだよって思うよね。
「どこの誰だかわからねーが、カイオウに麻雀での勝負を飲ませて、勝って。しかも約束を守らせた、とんでもねーのがいるらしいのよ」
どこのどいつなんだろうな、ホントに。
味皇とか秋山師匠とかいたし、他の作品のキャラもいるんだろうか?
でもなんか、女性キャラはいない気がする。なんでだろう。
「それ以来、修羅にも麻雀力が求められるようになったらしくてよ? 向こうでの勝負は、そっちも必須になってるらしいぜ。実際、不意打ちで気絶させられてとっ捕まったけど、麻雀で勝ったら開放してくれたしよ」
「「「お、おぅ……」」」
三人の反応がイマイチなんで、ここはひとつ実際に打ってみる事にした。
まあ、やってみればわかるだろ。
前回の勝利の後に覚えた、麻雀:1のスキルがうなるぜ。
うん。あったんだ。麻雀スキル。ちなみに1では、牌と麻雀卓と点棒などの麻雀セットを出す事ができるぞ。
だがこのスキルが存在するということは、麻雀が修羅の国で流行ってるのは、何らかのイレギュラーや異常事態じゃなくて、このゲームにとっては規定路線という事なんだろうか。
だとすると北斗神拳ならぬ、
まあ、その辺はいい。
イカサマアリアリの、無法にして無縫の麻雀。まずは体験してもらおうか―――!
「リーチ」
「チー」
自分のヨガフレイムで火をつけたタバコを指に挟んで、宣言する。
上家のラオウが叩きつけるように置いた牌を、食い取った。
「フン。一発消しか。小賢しい」
なぜかルールを知っていたラオウが、こちらを鼻で笑う。
初心者らしく、何を切ったらいいのかもよくワカらないで点数が沈み気味な、シンとケンシロウとは違って現在トップなのだ。
俺からいい酒でも巻き上げてやろうというつもりなのか、妙に張り切っているのが見て取れた。
だが、いい気になるのはまだ早い。
「ポン」
下家のシンの捨て牌を鳴く。
牌がさらされ、少なくなった俺の手牌から牌を切る。
「オレのリーチを流すつもりか? だから小賢しいというのだ!」
シンとケンシロウに、ラオウが捨てた牌なら大丈夫だとアドバイスする俺を、ラオウが更に見下す。
しかし問題はない。
「なあ、ラオウ。アンタ―――
―――背中が 煤けてるぜ
カンだ」
「カンだと……!?」
リーチをした者がいるのに、裏ドラやカンドラを増やすカンは悪手。ラオウが驚いたのは、そこだろう。
だが、問題はない。牌が光った。それがわかる。
嶺上牌をツモり、更にもうひとつカンを重ねる。そしてそのまま―――
「ツモだ」
身を削るように減らしていった、残り一枚の手牌の隣には、同じ絵柄の牌が並んでいた。
「嶺上開花、チャンタ、南、発、ドラ7。三倍満だ」
「キサマ何をしたぁ!」
ラオウがキレるが、別に何もしていない。
ただ、ツミコミをしただけだ。ケンシロウと、シンを使って。
なれない手つきで山を積む、彼らの手元にコッソリといくつかの牌を送り込んで、こちらに都合がいいように利用した。それだけだ。
鳴いて都合良く牌が来たり、ラオウが危険牌をつかんだのは、ぶっちゃけただの運である。
いや、ゲームっぽい世界だしなあ。ひょっとしたら、タバコやらセリフやらで、何らかのブーストがかかってるのかもしれない。
だとすると、これからも続けたほうがいいのか? このなんちゃって○きの竜。
まあ、ともあれラオウをごまかすか。
リアルファイトに持ち込まれると、さすがに勝てんからな。
「何をした? 勝ったんだよ。それが全てだ。文句があるなら―――麻雀で勝負しろよ」
ウワサによると、羅将とかは魔闘気で作った腕で、目にも映らぬ光速の牌のすり替えが出来るとか何とか言うからなあ。
この程度の軽いツミコミ程度、超えてもらわにゃ困るのよ。
さあ。他の二人も、そろそろ慣れてきただろう。
3人まとめて、かかってこいやぁ!