北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~   作:far
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さらばゲンジロウ。また会う日まで(また出会うとは言っていない)

 気付けば、若き味皇ゲンジロウは消えていた。

 

 山までたどり着いたので、ぐるりと回ってみて川を探していて、川と同時に村を見つけた。

 そして俺が村へと入ると、ゲンジロウが突然「俺はここまでだ。では、達者でな」とだけ言い残して、姿が見えなくなってしまったのだ。

 

 村は山あいの、近づかなければ分からない場所に、隠れるように作られていた。

 いや、隠れているのだろう。この世界は、モヒカンのうろうろしているヒャッハーな世紀末なのだ。

 村を支配して、定期的に貢ぎ物を要求するのではなく、根こそぎ略奪、無駄に破壊して去っていくという蛮族スタイルが主流。そんな恐ろしい世界だ。

 そんな世界で、遠くからでも見えるように村を作るとか、正気の沙汰じゃないわな。

 

 ゲンジロウと同行していると、食事には困らないのだが、色々と付いていけないところもあったので、正直助かるといえば助かる。

 しかしメシは美味かった。そこだけがつくづく残念でならない。

 

 なお、食材や調理器具はどこから取り出したのか聞いたら「調理スキルだ」とだけ言っていた。

 そういえば俺も、バイク取り扱い:2でバイクが出せるようになっている。調理スキルでも、食材やらが出せるのだろう。

 わけがわからんが、この世界ではそういうものなのだろう。

 

 理解できないが実在するものは、もうそういうものだと諦めて、その概念ごと自分の中に取り込む。

 それも学習の一つのやり方だと、俺は学生生活で悟った。ような記憶がある気がする。

 相変わらず色々と思い出せないが、今思い出したとしても、このわけのわからない現状に役立つかというと、だ。

 正直。あまり意味が無いとしか思えない。

 しかし、なんかモヤッとするので、ストレスになる。

 

 「あれっ? あの人の名前なんだっけ?」みたいな、知っているはずなのに出てこない、あの感じ。あれだ。

 あのモヤッと感に、ずっとつきまとわれているんだ。

 気にしなければいい、というのも分かるが。

 

 「お前は誰だ?」

 

 鏡に向かって、そう繰り返しつぶやく。

 それを何時間か繰り返すと、人にもよるが、それだけで精神に深刻なダメージを受けるらしい。

 

 今の俺は、それの軽い状態だ。

 

 顔はどうだか分からないが、髪型は確実にモヒカンではなかったと思う。

 身体も、こんな筋肉質ではなかったはずだ。北斗神拳を習得してから、さらに筋肉がついた。

 それとあまりに違和感が無かったんで気付いていなかったが、やはり北斗神拳を習得してから、服も肩パッド付きの革ジャンに変わっている。以前はボロい作業着だった。

 

 すごいね、北斗神拳。

 

 急にノリが軽くなったって? 現実逃避だよ。言わせんな。

 一事が万事、こんな感じなんだよ。

 深刻な問題のはずなんだよ。アイデンティティクライシスなんだよ。“俺”という人格の危機なんだよ。

 

 なのに、状況がそれどころじゃねーんだよ。

 ツッコミが追いつかねーほど、加速すんな。もう少し穏やかに流れろ、時間。俺に優しくしろ、状況。

 

 そういう意味では、ゲンジロウがいなくなったのもプラス材料だな。

 

「北斗神拳? 何の事だ? 俺があいつらを殺ったのは、調理技術のちょっとした応用だ」

 

 実はゲンジロウというのがウソなんだろう? 実はケンシロウなんだろう? と一縷の望みにワンチャンかけて聞いてみた結果の、アイツの答えがこれだった。

 

 すごいね、調理技術。

 

 ポイントが残り少ないというのに、思わず調理技術:1を習得しちゃったよ。これで残りポイントは1だけだ。

 しかし1だというのに、いきなり手鍋と水と塩が出せた。

 

 すごいね、調理技術。

 

 それでもって、これ、ゲームだろ。もうこれ、絶対ゲームだろこの世界。

 ゲンジロウが消えてからすぐに出たウィンドウも、こんなんだしさあ。

 

 [P:1→6 チュートリアルをクリアしました]

 

 ああ、うん。ありがとう。5ポイントね。もらっとくわ。

 もうやだ。俺、この村で調理技術上げて、料理人として一生引きこもりプレイするんだ……

 

 

 

 そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

 いや、さあ。イベントっていうの?

 村に入ったら、あったわけよ。

 いきなりさあ。普通の村人(男)が一人、モヒカン二人にカラまれてんの。

 

 あん? いきなり口調が軽い?

 疲れてんだよ。言わせんな、メンドくさい。

 

 で、まあ。ハナシ、戻すぞ。

 

 なんで村の中にモヒカンいるんだよ、と思ったけども、いるもんはしょうがないし。

 ドラ○エとかでも、町の中で唐突に戦闘になる場合とかあったしな。

 で、まあ、北斗神拳:2もあることだし、負けることはないだろうと、仲裁に出たのよ。これこれ童たちよ、カメさんをいじめてはいけませんって感じでな。

 

 その結果。家庭板案件に巻き込まれました。

 

 助けた男がね。お礼にと、酒場でオゴってくれるっていうんで、ホイホイ付いていったのよ。

 したら、なんかだんだんグチがコボれてきたのよ。嫁の態度とか。

 俺もメンドくさくなっちゃって、言っちゃったのね。

 

「ああ、それ奥さん浮気してるわ」

 

 その瞬間、周りの聞き耳立ててた奴らが「あ、コイツ言っちゃったよ」って引いたのがワカったね。

 男も、ワカってたんだろうね。怒るでもなく、否定するでもなく、静かに、声も出さずに泣き出しちゃったのよ。

 

 周りの連中に、視線で助けを求めたけど、酒場のオヤジすら目を逸らしやんの。

 

 仕方ないから、もうこれテキトーに終わらせよう。そう思って、つきつけたのよ。

 

「選べよ。取り戻すか、別れるか」

 

 問題があるのは確かなんで、あとは行動するか、しないかだ。

 それでこの場合、行動しないのは俺が解放されない気がする。

 だから行動させるべく、選択肢をこの上なくシンプルにしてやったのだ。

 

 とりあえず、男は泣くのはやめた。

 だが答えは出せないようだったんで、ヒントを出した。思考を誘導したとも言う。

 

「浮気の証拠を、これ見よがしにどっかに出してるなら、もっと私にカマえってシルシだ。でも、そういうのが一切無いんなら……」

 

 たぶん。アンタにもう興味があんまり無いんじゃないかなあ。

 

 さすがに、最後まで口には出せなかったが、男は何となく察したようだった。

 

「離婚します」

 

 それが男の答えだったよ。

 

 その場にいた男衆は、だいたい味方になってくれたね。実際に何か動いてくれる、という意味での味方に。

 動いてはくれないけども、邪魔もしない、心情的な味方なら100%だ。

 

 それでとにかく嫁の浮気相手の情報やら、行動やらを抑えて、嫁の親にも根回しして、最後は現場に踏み込んで。

 離婚成立。嫁さんは実家へ、男は慰謝料もらって、新生活へ。とカタは付いた。

 

 疲れた。肉体的にじゃなく、精神的に疲れた。

 

 なんで丸っきり他人の事だってーのに、こんなに重いかな。

 

 それでウィンドウさん。イベントはクリアしたと思うんですけど。

 ポイント、まだっスか?

 

 

 




ここから続かない。はず。


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