北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~   作:far

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三人の王の物語

 気付けば、俺は捕まっていた。

 ヨガテレポートに失敗したってわけじゃない。確実に成功した。そのはずだ。

 ちゃんと手ごたえというか、空間を渡ろうとする感覚はあった。だって、エレベーターが始動する時の、あのフッて感じしたもん。

 

 だというのに、だ。

 なんかカイオウから伸びた、魔闘気の腕に捕まってるんですけど。フォースグ○ップみたいなんですけど。

 じたばたモガいても、どうにもなりそうにないんですけど。助けてオビワ○!

 えっ。なに。魔闘気って、次元も超えて攻撃できるの? なにそれスゴイ。

 いや、ちょっ。離して。離しやがっておくんなさい。

 

 そんなわちゃわちゃしている俺に、カイオウがその重い声でこう告げた。

 

「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない……」

 

 いや、それ別の世界のセリフゥ!

 掲載雑誌一緒だけど時期が違うし、ゲームとマンガの垣根を飛び越した共通点はあるけども。

 そもそもアンタ大魔王じゃないだろ。それにだ。

 

「さっきサウザーに逃げられましたよね? ってイタタタタタ!」

 

 コノヤロウ。ごまかすために、思いっきり締め付けてきやがった! 痛い、痛いよオイ!

 オイ、シャチ! 助けろ、そこのシャチ! 不可能を可能に。まさに我が愛の成せる業だな。とかドヤ顔してないで! はよ!

 この際、ジャギでも…… ってアイツもいねぇー!

 

 見捨てようと思ったら、逆に見捨てられたでござる。

 

 いや、逆にこれは勝機! これでここに残った人数が4人。つまり!

 

「待て、カイオウ! ここで俺を殺したら、麻雀のメンツが足りなくなるぞぉ!」

「むぅ」

 

 ならば仕方が無いな。そんなニュアンスをありありと感じたが、魔闘気から俺は解放された。

 あー。苦しかった。

 こうして一息ついて考えてみると、南斗の技で魔闘気を斬れたのか、試してみればよかったな。

 まあ、そんな余裕はなかったわけだが。

 それに水影心でも、魔闘気がパクれそうにない。実は元斗もムリだったし、知ってたけども。

 しかし、さすがはラスボス。強いぞ。普通に戦っても、こらあ勝てんわ。

 

 ああ、そのためのラオウか。今、どこにいるんだろうなあ。

 なんで後を追いかけたはずの俺が、カイオウんトコに先にたどり着いてんだ。

 

 そーいや、ここ修羅の国にはラオウ警報あったよな。あの赤い水。あれを水路に流して、ラオウが来たぞー! と各地に素早くお知らせする仕掛けが。

 なあ、シャチ。あれどうなってるのよ。もう流れた?

 

 何も考えずに聞いてしまった問いに、答えたのはカイオウだった。

 

「来たか。ラオウ」

 

 あっ。まだ赤い水、流れてなかったのか。

 やっべ。ラオウが来てるって教えちゃったよ。カイオウもテンション上がっちゃってるよ。魔闘気ぶわって広がったよ。

 

 うん。ここはやっぱ逃げるしかねえな。シャチの耳に、こっそりとささやく。

 

「これからカイオウと、ついでにヒョウに隙を作る。そうしたら、逃げるぞ。カイオウはラオウに任せろ」

 

 少し考えていたようだったが、シャチもカイオウのヤバさは分かっていたのか、小さくうなづいた。

 分かってたんなら、何しに出てきたんだろう、こいつ。

 

 それとヒョウも、居るだけでリアクションすらしないんだが。

 よく見ると魔闘気をうっすらと発しているんで、魔界に入りたてで精神が安定してないんだろう。

 原作だと、カイオウの妹が恋人だか婚約者だったかで、その人をカイオウが殺して「これもケンシロウってヤツの仕業なんだ」ってウソついたらサクッと信じて、怒りで魔界墜ちしたんだよな。

 ここだと、どんな設定なんだろうなあ。まだケンシロウ修羅の国に来てないからなあ。

 まあいいや。何やったかは知らんけど、たぶんこれでイケるだろ。

 

「殺ったのは、カイオウだよ?」

 

 ヒョウの近くで、小声でささやいた。

 うむ。こうか は ばつぐんだ!

 魔闘気がスッと消えて「いや、まさか… でもカイオウなら」とかブツブツ言い出したぞ。

 よし。次はカイオウだ! くらえ南斗 家庭板案拳

 

カイオウ、ラオウと来て、急にトキ。そしてサヤカ。急だよな。急に変わったよなあ。名前の感じも、顔つきも、髪の色も」

「…………!!!」

 

 おお。無言でショックを受けておられる。きいてるきいてる。

 カイオウは小さい頃に目の前で、オカンがヒョウとケンシロウの兄弟を火事から助けて死んでるんだよなあ。

 その時にオカンが「北斗宗家のために」って言っちゃったせいで、えっ。母親としての愛情よりそっち優先!? ってグレちゃったんだよなあ。

 

 ここへ来て、そのトラウマの原点(オリジン)のオカンに、新事実発覚。これはキッツイ。

 

 だが俺は謝らない。ここで謝ったら、逆に傷つけるからね!

 よーし。シャチよ。ゆっくりだ。ゆっくり、静かに移動だ。

 物陰まで行けたら、そこで解散な。俺はそこからテレポートするから。

 

「ああ。俺もトランスフォームするから大丈夫だ、達者でな」

 

 ああ、達者でな…… って待て。

 トランスフォームってなに?

 

 おお。どっからか出した布を頭からかぶって、空中をすべるようにスイーッと移動していく。

 速いなアレ。背丈も縮んでるし、なんだアレ。

 あれも北斗琉拳の技だったりするのかなあ。

 違うとは思うけど、イマイチ否定しきれないのは、なんでだろう。

 

 まあいいや。俺も消えるか。

 えーっと、たぶんサウザーが逃げたのはあっちかな。まあ、いなかったらテキトーに探すか。

 ラオウとかも探さないとだしな。じゃ、ヨガテレポートっと。

 

 

 

 そうして跳んだ先で、サウザーが「お師さん……」とつぶやきながら、体操座りして涙ぐんでいたのを発見した時の、俺の気持ちを答えよ。(配点:十連ガチャ)

 正直、リアクションに困ったわ。

 

 ちなみに九州では体操座り、関西では三角座り、それ以外では体育座りがあの座り方の呼び名として主流らしいぞ。

 

 それでとりあえず、サウザーの話に戻るが。まずは、無難に話しかけてみた。

 

「あの。何をしているんですか?」

 

 サウザーはビクッと小さく反応した後に、急いでゴシゴシと涙をぬぐうと、高笑いを始めた。

 

「フハハハー! 我が拳は常に制圧前進! 退かぬ! 媚びぬ 省みぬ!」

「ああ。なのに逃げちゃったから、落ち込んでたんですね」

「逃げてはおらぬ! 帝王に逃走はないのだー!」

 

 自分でもムリがあるとは思っているのか、若干キレが悪い。

 でもあきらめないで。言い張るのが大事って時もあるから。というか、ここで心が折れられたら、メンドクサ… もとい、連れ帰るのが大変だから。

 

「とりあえず、カレー…… 食べます?」

「うむ!」

 

 そのナプキンとスプーンどっから出した。

 やっぱ俺以外も、持ってるだろ。スキル。

 まあいいや。なんか久々な気がする、調理だ。テンション上がるぜ、ヒャッハー!

 

 ヒャッハー! 今回は現地で見つけた食材も使うぜー! たまねぎだー!

 みじん切りにして、バターで炒めるぜー! 中火だー! たまねぎは出来るだけ細かく刻むぜー!

 あめ色になったら、強火にしてコンソメと水を投入だー! 塩コショウすればとりあえずオニオンスープにはなるぜー!

 で、煮立ったところで、一口サイズにした鶏肉を投入。もちろん下味は処理済だー!

 そして火を消せ! 消火だー! そのまま鍋を保温だー! 余熱調理とたまねぎのおかげで、鶏肉が驚くほど柔らかくなるぜー!

 1時間したら加熱だー! カレールーか、スパイスセットを投入して、完成だー! 今回は隠し味程度にヨーグルトも入れたぜ、ヒャッハー!

 

 そして! 米がある! 米があるんだ! 修羅の国には米があったぜヒャッハー!

 

 入手方法? 無論強奪ですが何か。

 

 修羅たちが村人からヒャッハーして、俺が修羅をヒャッハーする。うん、何の問題もないな。

 直接民衆をアレしてないから、セーフ。きっとセーフ。

 ヒャッハーしてるヤツを倒して、何もフォローせずに去るというのはケンシロウもよくやってるし。報酬として、修羅のドロップアイテムもらったくらいは、たぶんセーフ。

 悪いのは、民衆を虐げてたあの名前も分からない修羅だからね。俺はその修羅から村人たちを解放した、むしろいい人だからね。

 仮に悪いとしても、手に入った食糧を食べたらサウザーも共犯だし。きっと大丈夫だ。

 

 さあ、めしあがれ。

 いつの間にか来てたラオウも一緒に、どうぞ。

 ていうか、あなた一体どこで何してたのよ。

 え? 船酔いがひどくて、寝込んでた?

 

 お、おぅ。

 馬とか乗り回してるのに、船はダメだったかー。

 そっかー。

 まあ、そういう事もあるよね。じゃ、俺もいただきますか。

 

 

 


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