北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ 作:far
気付けば、旅の連れが増えていた。
うん。まあ、この世紀末でタダでメシを振る舞ってたら、付いてくるやつも出るわな。
たこ焼き対決は、俺がドリンクとしてジョッキで生ビールを出したあたりから、観客の大半が勝敗なにそれおいしいね。状態になってしまって、結局勝負は付かなかった。
肉系の中身のカリカリたこ焼きに、生ビールは相性が良すぎたらしい。
それが勝因だか敗因だかはわからんが。それでも決して悪い事じゃあなかった。
まるでかつての、核戦争前の祭りか縁日のように。笑顔で騒ぎ、飲み食いする人々に、たこ焼き屋杉本が勝手に改心してしまったからだ。
「せやったな。メシを食わすっちゅうんは、こういうもんやったな……」
別にこの状態に持って行くつもりは、カケラもなかったんだが。
観客も杉本も、なんかイイカンジに出来上がってしまったんで、何も言わないでおいた。
知らない方がいい事も、この世にはたくさんあるのだ。
そういうわけで、祭りの喧騒を背に、このモヒカンはクールに去るぜ!
そんな感じでバイクにまたがった所で、誰かがサイドカーに乗り込んできた。
ターバンのガキだった。
アイエエエ! ターバンノガキ! ターバンノガキナンデ!
思わず飛びのいて、下半身をガードした俺は悪くない。
だって無想転生ですら貫いてダメージ与えてきそうなんだもん、コイツ。
その身を一枚の羽根と化す、南斗鳳凰拳には何人たりとも致命の拳をつきいれることはできぬのだー! とか言ってたサウザーにアッサリとナイフを突き立てていたし。
北斗神拳にも空極流舞という、空気の流れを読み取って攻撃をかわす回避技やら、相手の持つ刀の上に立つほどの軽功やらがある。
それらあっての無想転生だけども、南斗も、というか南斗鳳凰拳も似たような経緯で、無想転生に近い状態へとたどり着いていたのではなかろうか。
ターバンのガキの一刺しの前には無力だったわけだが。
こいつホントに何者なの。
なんかサイドカーに居座って、謎のプレッシャーをこっちへかけてきてるんですけど。
えっ。なに。来るの? 付いて来ちゃうの?
彼はニヤリと笑って、うなづいた。
よし。あきらめよう。
なあに。どうしようもない現実を受け入れるのなんざあ、毎朝の事さ!
寝ても醒めても、このゲームモドキの世紀末世界というわけわかんねえ状況で、毎朝目が覚めるたびに、あきらめて受け入れてるもんな!
もう慣れたもんだぜ! HAHAHA!
…………ハァ。
さて、行くか。もはや懐かしき、カサンドラへ。
今思えば、あそこの生活は本当に平穏だったなあ。トキ先生と秋山師匠の下で、修業して料理して食べて寝て飲んで話して。
うん、スッゲー楽しかったな。
よし。あそこならターバンのガキが紛れ込んでても、イケそうな気がしてきたぞ。気のせいな気もするが、気にしないでいこう。そこはスルーしていこう。
今は、トキ先生も秋山師匠も居ないけども、そこも気にしないでいこう。
うん?
あれ? そうすると、今ってあそこの責任者、誰よ。
アミバもいないだろ? えっ。まさかのダルシム? いや、確かに食糧危機に対応するために、住人総ヨガ使い化計画をトキ先生が実行してた町だけども。
ヤバイ、なんか見たいような見たくないような、微妙な気持ちになってきた。
まあ、行くんだけどね。ターバンのガキさんが、サイドカーから降りてくれないみたいだしね。
どうでもいいけども、普通こういう旅の連れってさ。ロリが付いてくるんじゃねえの? こう、テコ入れ的なアレで。
まあ、いいんだけどもさ。せめて、会話できる相手が良かったなって、思うんだ。この子、しゃべらないのよね。
そして俺も何を話題にしたらいいのかわからないまま、クッキーを渡してその場をごまかし、結局は無言のまま辿りついたカサンドラ。
そこで、俺が見たものは。
両側に崖のそそり立つ広い谷に、高層ビルの立ち並び、その中心に塔が建っていたはずのカサンドラ。
その塔の代わりに、白い漆喰で塗り固められた壁と、瓦屋根。そして金のシャチの飾りのある天守閣。
見事な日本式のお城が建っている、よくわからない状況だった。
いや、待てよ。あの瓦の中央の、頂点の所。 ∧ こうなってるのの、一番上のトコな。
普通は、鬼瓦とか置いてあるじゃん。そこにさあ。
なんか見覚えのある鉄仮面が置いてあるんですけど。
なんかもう、明らかにアイツの仕業なんですけど。
どうしよう。やっぱりシバきに行った方がいいかなあ?
チラッと横にいるターバンさんに目線をやると、その目はシンプルにこう言っていた。
殺れ。
アッハイ。
でもまずは情報収集だよね。というか、町へ入らないと始まらないよね。
という事で、ライガとフウガの兄弟が門番やってるはずの入り口へとバイクを進めた。
あの2人も家庭板案件をかかえていたが、あれは解決したんだろうか。
していなかったとしても、どうにもしてやれんが。
町の入り口に、なんか居た。
お神輿だった。
フンドシ一丁で、筋肉モリモリマッチョメンたちが担いでた。
ジャギが乗ってた。
日本風の黒い鎧を着込んでたけど、鉄仮面はそのままだったんで、全く似合っていなかった。
すいません。もうお腹いっぱいなんで、帰っていいッスか?
それが俺の素直な気持ちだったが、どうにもそういうわけにはいかないらしい。
グッタリしている俺とは逆に、ジャギが輝くような笑顔で、やる気満々な様子でこう宣言したからだ。
「よくここまで来たな! 味将軍ジャギ様が、お前の相手をしてやろう!」
お前がラスボスかよ。
それでいいのかこのシナリオ。
正直カサンドラに来たのって、癒しを求めてなんだが。
本来のシナリオだと、あちこちアテもなくさまよって、たまたまかち合った味将軍グループの手先を倒して情報集めて、それでここに味将軍がいるってわかってからやって来るってパターンなんだろうが……
たまたま来ちゃっても、ラスボス出てきちゃうのかよ。
ロックかけとけよ。フラグ建つまでしまっとけよ。ボスだろ。
ラーミアいないのに、バラモス城に行けちゃダメだろ。
ああ、もう。なんか疲れた。
料理するのもダルいんで、ターバンのガキさん、ヤってもらっちゃダメですか?
えっ。いいの? マジで?
では先生。お願いします。必要ないとは思いますが、このモヒカンスラッガーもどうぞ。
「うぎゃぁぁぁー!」
おお、相変わらず正確に足の急所を刺すなあ。さすが。
よし。悪は滅びた。
これにて、一件落着。
めでたしめでたし。
え? 本当にめでたしでいいのかって?
いや、だって所詮ジャギだし。出オチで仕事はしただろうから、もういいかなって。
じゃあ久々のカサンドラだ。ゆっくりして行こうかね。
ターバンのガキさん、お疲れっしたー!
……お疲れっしたー!
えっ。なんでまだ付いてくるの?
えっ。