北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~ 作:far
気付けば、いつの間にか眠っちまったらしい。
うん、まあ。腹を刺されたどころか、腕でブチ貫かれた状況でよく眠れるな、と思うだろうが。あれ、別に痛くはなかったしなあ。
でなかったら、さすがに泣き喚いている、と思う。
ヒャッハーと北斗と南斗に染まった自覚があるだけ、そんな一般人な反応ができたのか、イマイチ自信はないが。
なんつーかな。こう、ヒマだったんだよ。
当初はパニクッたし、いつまでもそのままなんで不安にもなった。
なんせ、腹を腕が通り抜けたままだし、ピクリとも動けないし。
おまけに女人像まで固まって、他に誰もいない空間だろ? なんかもう、時間まで止まってんじゃねーかってくらいシーンと静かで、動きがなくてさあ。
イヤな意味で、精神と時の部屋みたいだったわ。
だが人間、なんにでも慣れるし、飽きる。
なーんの刺激もない状態で、動けもしないとなるとだな。一旦落ち着いてしまいさえすりゃあ、もうどうって事はなかったよ。
今思うと、落ち着いたというよりも、開き直ったんじゃねえかとも思う。
で、そっから、色々試したり、考えたりはしたんだ。
渾身の力を込めてムリヤリ動こうとしたり、闘気を発動しようとしたり、ヨガテレポートをひたすら念じたりだ。
どれもダメだったけどな。
力はそもそも入りすらしないし、闘気も湧き上がる気配すらない。ヨガテレポートに至っては、目を閉じて念じていたら、こうしていつの間にか寝てしまうという始末だ。
こうして寝ているのを自覚しながらも、そのまま夢の中にいる状態はなんと言ったか。確か、
自分の夢の中だけあって、一応は動けるようになっているし、女人像の腕も刺さってない。
しかしだ。この状況で寝てて現実逃避してるってのは、さすがにどうかと思うんで起きようと思う。
まあ、しょせんは夢だ。目の前の夢の方ではなく、現実の身体の感覚の方に集中して、動かしたりしたら起きられたりする。はずなんだが。
なんか、どうやっても目が覚めないんだけど。
そもそも、寝る前も身体の感覚はほぼ無かったからなあ。
あれが麻酔みたいに、痛覚をカットしてた副作用なのか、それともなんかの仕様なのか。確かめる方法は今の所、何もない。
思い起こせば、呼吸もしてなかった気がする。
だとすると、考えるだけでも酸素を消費してるはずの脳みそがヤバい事になるんだが。
心臓の方は、どうだろうか。動いていたのかどうか。さすがにちょっとわからない。
うん。なんかまた怖くなってきたんだけど。
そんなタイミングで、俺の目の前に待ち人がようやく現れた。人じゃないけど。
[お待たせしました。これより開始します]
うん、待ってたよウィンドウさん! すげえ待ってたよ!
よっしゃ救助開始だな! ちゃっちゃと始めちゃって! はよ!
だが、始まったのは何か別のものだった。
最初は、ウィンドウがぐわっと広がった。
これは以前に一回だけあった。あれだ。ゲンジロウと出会った頃の、三択だ。
思えばあの選択のせいで、世紀末救世主ケンシロウっぽかった謎の拳士が、味皇 村田ゲンジロウ になっちゃったんだよなあ。
しかし今回はそれよりも大きく広がって、しかも出てきたのは選択肢ではなく、なにやら動画が映し出された。
俺だった。
ただ、荒野でバイクにまたがっているのはいいが、格好が少し引っかかる。
北斗神拳のスキルで生えてきた、革のツナギと肩パットじゃなくって、半裸に近い世紀末モヒカンスタイルをしている。
あんなのは初期も初期。ゲンジロウと出会う前くらいしか、していた覚えは無いんだが。
だとすると、これはひょっとしたらゲームスタート直後のあたりか?
そう思っていたんだが、動画の中の俺は記憶にない事をやり始めた。
なんか、バイクを押してるんですけど。
エンジンかけるのに失敗して、それでもバイクを捨てていくのがもったいなくて、押してるんですけど。
なにあれ、みみっちい。
え~っと、あの後何があったっけ。ゲンジロウのインパクトが強すぎて思い出せないんだが、出会う前になんかあったはずだ。
なんだっけ。
そう俺が考え込んでいると、答えの方が先に現れた。野良モヒカンたちだ。
そうそう。ここで野良モヒカンと初遭遇したんだよな。
当時は戦闘スキル一個も持ってなかったから、必死こいて逃げたっけ。思い出してきたぞ。
バイク取り扱いスキルもまだ1レベルだったから、路面のデコボコで跳ねるバイクにビビりながらも、気合いでアクセル全開にひねってたわ。
いや~。今思えば懐かし―――
―――ってマテマテマテ! ちょっと待てぃ!
お前、なにフレンドリーにバイクの乗り方を聞きに行っちゃってるの?
相手はモヒカンよ? その場の事しか考えずに、衝動任せで、損得勘定すらしないで、ノリだけで生きてるモヒカンよ?
それもかなりヒャッハー度が高めの、野良モヒカン相手になにトーク選んでんだ。
モヒカンスキルのレベルが、相手よりも高くないと交渉どころか、ヘタすりゃ会話すら成り立たんぞ。
あっ。案の定、殴られた。言わんこっちゃない。
あっ。逃げられない。そらそうだ。バイク乗れないどころか、動かせないもん。
あっ。モヒカンたちがジェットストリームアタックの構えに。死んだな、これ。このまま謎の拳士が助けにでも現れない限りは―――
―――――――――うん。無事、死亡確認だな。
首とか完全に折れちゃってるし、アレは完全に逝ったわ。ナムナム。
それで、ウィンドウさんよ。これは一体、どういう意味があるんだ?
俺が何かに気付くまで、この先延々と自分の死亡動画シリーズを見せられるのも気分悪いし、早めの答え合わせにしようぜ。
今のは、有り得た可能性だ。実際にあった事かどうかまでは、わかんねえけどよ。可能性はあるわ。
いきなり放り込まれた世紀末っていうワケわかんねえ状況で、取り説もチュートリアルもガイドキャラも、なんもなかった。
あそこからバイク取り扱いのスキル習得までこぎつけるにゃあ、運が無きゃムリだった。
その後も、色々だ。サウザーも、ラオウも、シンも。ケンシロウですら、何か間違ったら俺が死んでたケースもあっただろうさ。
いや。サウザーだけは、なんか死ななかった気がするな。なんでだろう。
アイツだけギャグ時空に片足どころか、腰まで突っ込んでる気がするんだよなあ。
たまにシリアスなんで、上半身くらいはかろうじてギャグ時空に漬かっていない、と思う。
え? シリアスな時があったかって?
うん。あったんだ。話してもつまんないからカットしたけど。
天帝をどこかに隠して、それを人質に元斗皇拳や帝都を牛耳って、好き勝手やってたジャコウってヤツがいたんだがな。
南斗六星の最後の将以外のメンツをサウザーがまとめて、帝都に殴り込みをかけて倒してたわ。
で、まあなんやかんやあって、天帝も発見されて救出。帝都が落ち着くまで、と南斗に預けられたんだが。
どこもかしこも、だいたい天帝の教育に悪かった。
そもそも天帝が幼女だったのな。というか、リンの双子の姉妹だった。
双子はアカンというエラいさんトコにありがちな掟で始末されそうになった所を、ファルコが叔父夫婦に託して逃がした方がリン。残って天帝になった方がルイな。
どっちが姉でどっちが妹かは、正直わからんが。
んで、まあ。そのルイを南斗でどこに預けるかって話になって、最初にサウザーのトコがどうよってなったんだよ。
ほら、あそこ学校あるし。大人はウソを付くし裏切るからという理由で、サウザーが労働力に子供を採用してるせいで、同じくらいの子供がいっぱいいるし。
でも自分よりエラそうな子供はイヤだって、サウザーがダダこねてなあ……
シュウのとこは、そんなサウザーに対抗してるレジスタンスで、近いけど危険かも知れんし。
レイは住所不定無職だし。
ユダはなんかもう 論外 だし。あそこに子供を預けようとか、正気かキミたち。
それで消去法で、シンのトコに天帝来ちゃって。
ケンシロウとおそろいという事に気付いちゃったシンが受け入れて。
更にはバットに似た少年も、どっからともなく連れて来て。
なんか入れ込んじゃって、気付けばムダに殉星を輝かせて、ルイをいつか取り返しに来るだろうファルコが死なないかな、と祈るシンが完成してしまったわけで。
うん。カットした理由、シリアスなサウザーはつまんないだけじゃなかったわ。
更にヤバいヤツになっちゃった、自分の上司のシンを、俺が見ない振りをしたかっただけだったわ。
で、なんだっけ。
ウィンドウさんが、俺に死亡動画を見せた理由だったっけ? うん、何? 何でも言って?
たいがいの事は、落ち着いて聞ける自信があるから。
はあ。数多くのプレイヤーが倒れて、あるいは途中で小さな幸せ見つけて冒険人生リタイヤして。ここまで来れたのは俺くらいだと。
クリアして仕事を終わらせて欲しくて、わざとバグらせて、システムの監視を無効にしてまで頼みに来たの? ほーん
ああ、はいはい。とにかく、クリアすればいいのね。二周目とか、死んでもコンティニューとかはないのね。了解了解。
で、あと俺は何をすればいいんだって?