北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~   作:far

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プルス・ウルトラ…… そんな言葉は使う必要がねーんだ。なぜならその言葉を(中略)プルス・ウルトラ(した)! なら使ってもいい!

 気付けば、オールマイト in デビルリバースがサザンクロスのトップっぽくなってしまっていた。

 

 下克上か。そんなプルスウルトラはいらんかったぞ。

 見ろ。シンを。アミバと一緒に部屋の隅っこで体育座りしてるじゃないか。

 

 あっ。こっち見た。 コッチミンナ

 

 だがデビルリバース… デビルリバース? まあ、ともかくあいつに文句とかは言い辛い。

 勝てないからとか怖いからじゃなくて、そもそもあいつ…… もう八木さんでいいか。八木さんにトップの座を取ろうとか、取ったとかいう意識は無いんだよなあ。

 八木さんにしてみれば、ごくごく普通の価値観で、あたりまえの行為で、いつも通りの言動だったんだろう。

 

 トップヒーローとしてのな。

 

 長年ナチュラルボーン・ヒーローを演じて、もはや魂にまで染み付いてしまったソレは。

 どうやら、生まれ変わったのか人格だけコピったのかは不明だが、その程度では消えるどころか、揺らぎもしなかったらしい。

 

 それ自体は素晴らしいとも、もはや呪いのようだとも思う。だが問題なのはそこじゃない。ポイントは八木さんに助けられた人らの数と、反応だ。

 

 メッチャ、多かった。そしてものっそい、反応が良かった。

 

 

 例を挙げよう。

 

 

 シンが町を視察していたときの事だ。

 サザンクロスにはそもそも傾いたビルとかが多い。

 ビー玉を置いて、ひとりでに転がり出したら欠陥だと騒げるような、そんな繊細な神経の持ち主など、もはやどこにもいない。

 だが何事にも限度はある。

 10度以上傾いたビルの、上層で暮らせるような強靭な神経の持ち主も、またどこにもいなかった。

 世紀末の住人にも、限界はあったらしいな。

 

 そもそも土地がダダ余りしてるからなあ。

 核戦争前なら、どこぞの試されっぱなしな大地でもなければ、周りを見渡して民家の無い場所なんぞ、山や森の見晴らしの悪い所ぐらいじゃなかっただろうか。

 個人的な記憶があやふやなんで、断言までは出来ねえけどよ。

 

 盛大に話がズレたな。戻そう。

 

 そん時のシンの視察も、そんな傾きすぎたビルが目的だった。そのビルの近所にねぐらがある住人から、陳情があったんだ。

 

「そろそろあのビルが崩れるか倒れそうなんで、何とかして欲しい」

 

 ムチャ振りだった。

 確かに南斗の拳士は破壊が得意だけどもよ。車や一軒家くらいなら壊せるけども、ビルはムリだろ。しかも10階建て以上の高層ビルだぞ。

 だがモノは高層ビル。放っておいてヘタに崩壊したら、大惨事。

 

「よし。ヘタに壊せないなら、うまく壊そう」

 

 シンがそう、方針を固めた。

 そしてビルの影の長さと、テキトーに選んだモヒカンの影の長さの比から、だいたいのビルの高さを割り出したり。

 シンのデク作製スキルを生かして、模型を造って、安全に崩壊させる実験を繰り返したり。

 核戦争前に発破解体をしていたという老人を探してきたり。

 念のための周辺住人の避難計画を立てたりと。配下の俺らを使って、まあ色々と対策を立てていったわけだ。

 

 一方、八木さんは腕力でビルを押してまっすぐに立てた。

 

 それがたまたま、住人集めて説明会やってる最中でさあ。

 一緒にそれ聞いてた八木さんが、それならワタシが力になろう! って言って、みんなの目の前でちょちょいと直しちゃってさあ。

 住人たち、大フィーバーよ。もうドッカンドッカンよ。シンなんて最初っからいらんかったんや!

 

 盛り上がる住人らをよそに、直ったビルの安全性を確認させるシンの背中は震えていた。

 

 

 

 他にも俺がちょっと、いやかなり長く野良モヒカンの群れを間引いてなかったせいで、なんか大連合が出来ちゃったらしくて、そいつらが襲来した時だ。

 

 [イベント:モヒカン連合襲来 が 発生しました! がんばって都市を防衛してください]

 

 ウィンドウさんのこんな告知もあって、よっしゃ、ポイントゲットのチャンスだなって俺も思ったのよ。

 シンも、兵を集めよ! ってマジになってたさ。その姿を見た天帝ルイちゃんとレン少年も、目を輝かせてたっけなあ。

 

 全部、八木さんが持ってったけどな。

 

 モヒカンの群れ? そらもうスマッシュ一発よ。

 もう巨大オールマイトにしか見えないデビルリバースが、大ジャンプから着地でド派手に登場。

 記憶が無いせいか技名は叫ばなかったが、右腕を思い切り振るって衝撃をカッ飛ばしてモヒカン達の大半を宙に飛ばす。

 そこで笑顔でヤツはこう言った。

 

「まだ、やるかい?」

 

 残ったモヒカン達も一目散に逃げ出して行ったね。

 それから八木さんがサザンクロスの方へと振り返って、あの画風の違う笑顔でグイッと親指を立てたもんだからさあ。

 もうまたドッカンよ。

 ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん! の大合唱と手拍子が、しばらく鳴り止まなかったね。

 

 それ始めたのって  だけどな。

 

 いや、うっかり生マイトの、それも特大生マイトの活躍に盛り上がっちゃって……

 正直、スマンかった。

 俺まではしゃいでいるのに気付いたシンの「お前もかブルータス」という顔には、少しだけ罪悪感を覚えたぜ。

 

 で、その時だ。

 歓声の中、八木さんが刺された。

 誰にも気付かれずに、いつの間にか攻撃を終了させる、熟練の技。ターバンのガキだ。

 

 歓声が止まる。

 しかしそれが悲鳴に変わる、ほんの少し前。みんなが息を吸ったタイミングで、そこで八木さんが悲鳴を止めた。

 

「元気がいいな少年! だがワタシにはその程度では通じないぞ!」

 

 身体の大きさと、筋肉の厚さと固さ。

 八木さんのそれの前じゃあ、一部で最強説さえ流れたあのターバンのガキすらも、子ども扱いだった。

 

 ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん! ヤ・ギ・さん!

 

 再びの大合唱。この時ばかりは、シンも一緒に手拍子をして叫んでた。

 

 

 

 それと食糧だ。

 最初こそガッツリいった八木さんだったけども、その後は一向に食事を取ろうとはしなかったんだ。

 何でかって聞いたらさ。

 

「ここでは食糧は貴重なんだろう? すっかりごちそうになってしまって、すまなかった。だがもう大丈夫だ。ワタシはなぜか食べなくっても平気みたいでね! みんなでキチンと3食食べてくれよ!」

 

 HAHAHA! とアメリカンに笑って、八木さんはそう答えた。

 それが広まって、また彼の人望が上がってしまったのは言うまでもない。

 

 しかし食べなくてもいいとは、やはり持っているな。ヨガ。

 炎を吹くか、手足を伸ばすか、テレポートするか。

 本格的にヨガを教えるべきか、スルーするべきか。これもまた To be or not to be 案件だな。どうしたもんか。

 とりあえずは棚上げしとくか。俺も調理スキル上げるのに忙しいし。

 

 

 

 他にも、組織作りとか意外と得意なんだよな。カネや資材の回し方を解っているというか。

 最近さあ。サザンクロスの近郊に農村が着々と増えてるんだよなあ。

 そこまでの流通とか連絡も、ちゃんと取れてるんだよなあ。

 

 シンじゃなくて、八木さんの仕業なんだよなあ。

 

 ここまで自分の作った町で勝手されたら、シンもキレていいと思う。

 でもほら。シンって、中途半端に良識とかあるから。

 サザンクロスにとっていい事をしているのに、とがめるのはどうなんだ、とか。

 功績に嫉妬するダメ領主って感じで、カッコ悪くないか? とか考え込んじゃってなあ……

 

 そして考え込んでいる間も、八木さんのおかげでサザンクロスの運営は回るというね。

 むしろシンがいない方が、スムーズに回るというね。

 なんというか、もう、ね。

 

 居場所とか存在感が…… ね?

 

 どうしてこうなった。

 ここからの巻き返しとか、正直ムリゲーだぞ。どうすりゃいいんだ。

 どうもしなくても、問題ないっちゃないんだが、こう、何と言うか。謎の罪悪感があるんだ。

 もっと早く殺っときゃよかったとか、あの時盛り上げなければとか、うっかり八木さんを町のあちこちに紹介しちゃったのはマズったかなあとか。色々とな。

 

 というわけで、一計を案じてみた。

 

 題して、お兄ちゃん作戦だ。

 

 うん。解ってる。解っているから、引かないでくれ。実行するの俺じゃないから。レンとルイの少年少女だから。

 あの二人にとってのヒーローである事ができたら、それでいいだろ。

 きっとそれで納得してくれるはずだ。だってシンだもん

 作戦内容についてはだいたいわかると思うんで、省かせてもらう。

 

 前向きに考えよう。サザンクロスが安泰になった。シンは子守りに全力を尽くせるようになった。それでいいじゃないか。

 いずれファルコが迎えに来ちゃった時のやっかいさが上がったけど、それは将来の事なんで今は忘れろ

 

 さて。今回の一連のデビルリバース(仮)の騒動で、増えたポイントは10。

 トロフィーの金と銀を1つずつ達成、そのポイントを使って調理技術を9に上げた。

 出せるようになったのは、肉類全般と加工食品という、範囲が広すぎて逆に困るヤツ。

 研究を重ね、ラスボスに備えねば。料理勝負に負けたらどうなるか。大したことがなさそうなのが逆に怖い。

 秋山師匠を巻き込んだら、たいていの相手には勝てる気がするが、タッグバトルというのはアリなんだろうか。

 

 調理技術を10に上げたら、始まってしまう。そんな予感がある。

 あと少し。

 あと少しか。

 この世界も、この生活も。

 この日々が、終わるのか。必死に生きてたはずが、気付けば必死にツッコミ入れてた記憶しかない、この日々が。

 

 …………あれ?

 

 別に終わっちゃっても、特に思うところがあんまり無いぞ……?

 

 あれれ~?

 

 

 




このサブタイトル、作中で使いたかったけどさすがに使えなかったw
こんなセリフを言うオールマイトはステキだけどイヤだw

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