北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~   作:far

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黄金(へ)の精神

 気付けばチームは、大変な事になっていた。

 どうしてこうなった。

 この言葉は、あと何回俺の前に立ちはだかってくるんだろうか。

 

 今回は、キッカケくらいはワカっている。

 名前だ。チームの名前を、付けたんだ。

 そういえば付けてなかったな、という軽い気持ちだった。名前は烈怒・乱舞羅亜(レッド・ランブラー)にした。

 とある暴走族マンガに名前だけ出てきて、そのままほとんど登場せずに、エンディングまで平和に過ごす事に成功したチームの名前だ。

 漢字を思い出すのが地味に大変だった。これで合っているのか、実は自信が無い。

 

 だがまあ、大丈夫だろう。不運と踊る夜叉神やら、敵が欲しい魍魎とか、ヒデト君な外道とは違うはずだ。

 十年後だかの続編がやっているらしいが、作画の人が変わって、絵柄が少女マンガ風になってたせいで拒否反応が出て読んでなかったんだよなあ……

 

 そんな記憶の断片を手に入れつつ、ポップしてきたウィンドウに目をやる。

 さて、今度はなんだ。何が起きた?

 

 [P:9→4 モヒカン:5がモヒカンリーダー:1に変化しました!]

 [P:4→7 トロフィー(銀):スキルを上位のものに変化させる を達成しました!]

 

 カンストじゃなかったんかい!

 モヒカンが、まだ上がるのかよ。もういいよ。おなかいっぱいだよ。

 というか、配下のモヒカンたちがイマイチ統制が取れなかったりしてたのは、このせいか。

 そうだよな。指揮とか統率とか、そういうスキルを俺が持ってなかったもんな。

 これでようやく、勝手に村を襲うなよ、という指示が、俺の監視無しでも守られ―――ることは無いらしいな。

 

 解説スキルによると。モヒカンリーダー:1で掌握できるモヒカンの数は、10人までらしい。

 

 さいわい、モヒカンリーダーを2に上げると、掌握できる人数は一気に100人になった。

 上位スキルだけあって、ポイントを4も持っていかれたが、まあ、よしとしよう。

 

 そう言えば、上げる数字の倍のポイントを持っていかれるのは、北斗神拳も同じだな。あれも上位スキル扱いなんだろうか。

 その割には、北斗神拳:1の解説が「腕のいい按摩・鍼灸師です」だったんだが。

 北斗神拳:2の解説も「筋力などの身体能力の上昇と、衣装がもらえます」だったしなあ。

 

 衣装については、デザインは同じだが、壊れても何度でももらえるということが判明している。

 ケンシロウが何度「お前ら人間じゃねぇ!」して筋肉を膨張させて破ったり、戦闘で敗れたり脱いだりしても、シーンが変われば服を着ていた理由がこれで分かった。

 謎が一つ解けたな。

 原作にも、こんなシステムがあったとしたらの話だが。

 

 どうでもいいが、北斗神拳:2を“ほくとしんけんツー”と読むと、ゲームのタイトルに聞こえて仕方が無いのだが。

 

 もし他のプレイヤーにでも会ったら、そんなバカ話でもしてみたいもんだ。

 

 話を戻して、残ったポイントはこれで3。調理技術を2に上げて、1だけになった。

 なお、調理技術:2の恩恵は、小麦粉と各種スパイスとフライパンだった。調理技術だけ妙に優遇されていると思うのは、気のせいだろうか? いや、助かるからいいんだけどさ。

 

 その辺は、置いておこう。スキルだって優遇枠や不遇枠とか、あるもんだというのは知っている。

 今、重要なのは。さっそく出してみた、目の前にあるスパイスたちだ。

 

 クミン、カルダモン、ナツメグ、唐辛子、ニンニク、ショウガ、生石膏、八角、丁子、胡椒、ターメリック、コリアンダー(パクチー)、シナモン、等々。

 

 これらをうまく組み合わせれば。アレが作れる。

 残念ながら米はないが、小麦粉はある。ナンならば作れるだろう。

 いい加減、塩茹でするか、塩振って焼くだけの料理には飽き飽きしていたのだ。

 作らねばなるまい。

 

 さあ、俺よ。ほとんどの日本人にかかっている、リミッターを外す時だ。

 ヘタに目立って痛い目を見た経験からかかってしまう、出る杭が打たれた結果のリミッター。それを外すのだ。

 夏休みが残り一週間を切った時のように。

 サッカーの国際大会予選で、あとがなくなったサムライジャパンのように。

 追い詰められた時と、メシが絡んだ時と、趣味に走った時。その限られた本気になれる時は、今なんだ。

 

 組み合わせは、無限大。センスとカンで、なんとか再現するんだ。

 さあ、挑むぞ。日本人に愛されすぎて、おいしいけどもう別物だと本場の人に言われてしまった、日本人の国民食。

 

 カレーを! この手で! この世紀末の世に! 再現するのだぁ!!

 

 なお、食べようと思えば、たまにレトルトの物が発掘される模様。

 ただルーだけなので、あまり喜ばれないらしい。

 

 だがそんなレトルトの、それも賞味期限切れのカレーなどは今、どうでもいい。

 この香ばしいスパイスの数々から作ったカレーを、俺が食べたいのだ。

 作らねば。作りたい。そして食べるのだ。

 

 そこから、試作の日々が始まった。

 とりあえず、モヒカンリーダーになった事を生かして、配下のヤツらに指示を飛ばす。

 小麦粉に塩と水を加えて、生地を作って焼かせて、ナンを量産させた。

 俺はカレーに集中したかったんで、実にありがたかった。

 

 ルーを少量作る。試食する。残りをモヒカンに食わせる。

 ルーを少量作る。試食する。残りをモヒカンに食わせる。

 ルーを少量作る。試食する。そこそこ食える出来だったので、残りをラオウが強奪する。

 

 その果てに。とうとう俺は、自分好みのカレーを作り上げることに成功した。

 

「よっしゃああ!! 出来たぁ!」

 

 身体に、特に手にはスパイスの香りが染み付いている。胃袋も、試食続きでカレーにまみれている。

 それでも、それを越えて食欲をかき立てる香りと、味。

 これだ。これを、俺は、作りたかったんだ―――!

 

「そうか。ではさっそく、この俺に献上する事を許す。持って来るがいい、下郎」

 

 アアン!?

 最高潮に気分が良かった所に水を注されて、イラッと来た俺が振り返った先には、オールバックの金髪で額にホクロ(?)のあるタンクトップの男。

 南斗の拳士たちの一応はトップである、サウザーがいた。

 どこから来たキサマ。

 

「おう。早く持って来いや! このカレーの天才、堺カズマさまがどんなもんか判定したるわ!」

 

 それと、八重歯の関西人の子供もいた。

 

 いや、なんでだよ。ゲンジロウで味っ子キャラは終わりじゃなかったのかよ。

 

 フッ。しかし、まあいい。

 細かいことは、よしとしよう。細かくは無いが、今は気分がいいので、あえて目をつむろう。

 このカレーは会心の出来。それを食べたいというのだ。

 思う存分、食べていくがいい。

 これが俺の、世紀末カレーだっ!!

 

 

 

 そしてカレーについては合格点をもらったものの。

 チームの運営をスッカリ忘れて仕事をブッチしたせいで、取り引き先の村々との信頼関係がガッタガタになってしまっていたりするのだが。

 どうして、こうなったんだろうなあ……

 

 

 




今日の昼ご飯がカレーだったのが悪い。

○堺カズマ
ミスター味っ子より。主人公味吉ヨウイチのライバルポジの男。油断して思わぬところで敗北するのがお約束。そしてフリーになったところで、主人公に助力するまでがセット。
続編の味っ子2では、建設会社社長代理兼料理人をやっていた。そして立場は変われど、お約束は変わらずに引き継いでいた、悲しい男である。

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