罰則など忘れていないかなと少し期待していたが、ちゃんと後日知らされて、その内容も何とも言えないものだった。罰則はフィルチの掃除の手伝いというもので、私は杖を一振りして終わらせたい気持ちを必死に抑えながらマグル形式で掃除をした。
あれからセブルスと私の仲は良くも悪くも、今まで通りになっていた。
私がエバンズのことを嫌いだってことは事実には変わらなかったからセブルスから話しかけることはなかったが、それでも授業で分からない所を聞いたりしてみると、普通に教えてくれた。それなのに教えてくれるセブルスの顔を見るたびにあることが頭に浮かぶのだ。
…これ以上彼に関わったら……物語がずれるのだろうか
この不安は波のように絶えなく襲いかかってきて、最近の私はどうもおかしかった。
だから今もこうして、図書館で無意識のうちに人狼のことに関しての本を借りているのだと思う。
何をしてるんだろう……
自分でも分からなかった。どうしてこんな無意味なことをしているのか。人狼のことに関してなんて興味もないのに、どうして本を借りたんだろう。借りたばかりの本を見つめながら、そんなことを考えているとよく聞き覚えのある声が聞こえてきてきた。
「何度言ったら分かるんだ!!その名で呼ぶな!!!」
すぐにセブルスのものだと分かり、自然と足は声のする方へと向かっていた。
案の定セブルスはポッター達に絡まれていて、ポッターとブラックの面白いおもちゃを見るような表情から暇つぶしのためにセブルスに突っかかっているのが分かる。2人は兄弟のように息があっていて、セブルスに杖を振っていた。セブルスも、杖を取り出し2人からの攻撃を防いでいる。
周りにちらほらといる生徒達は、どう見てもポッター達を応援していた。
ポッターが一瞬の隙を見つけ、簡単にセブルスの手から杖を弾き飛ばすと、周りにいた生徒達の歓声は大きくなる。周りを見渡して見たが、エバンズの姿はなかった。
ふと視線を戻すと、ポッター達の中には参加していないルーピンとペティグリューが周りにいる生徒達の中に交じっていることに気がついた。ルーピンはじっと見つめて止めようという素振りも見せず、ペティグリューはその横で心配そうな素振りを見せながらも、どこか面白そうに見ている。ペティグリューの口角が少し上がった瞬間、私の中に何かが浮き上がってきた。
胸らへんの所で何かドロドロしたものが次々と浮かび出て、それが怒りだということに気づくにはそう時間はかからなかった。もう私にはペティグリューしか見えなくなり、体が勝手に動きだす。
…こいつが裏切ったからセブルスは悲しみ絶望の暗闇の中に落ちていくことになる…
そう頭に浮かぶと私は杖を軽く握りしめながら、さっきよりも集まりだしていた生徒達の間を掻き分けて、囲まれているセブルスやポッター達に交ざっていた。
急に現れた私に、ポッターとブラックは眉間にしわを寄せ、セブルスは私の方を振り返ってくる。
「おやおや君も参加したくなったのかい?」
意地悪そうな声でポッターが話しかけてきたが、私にはそんな声も雑音にしか聞こえず、何も答えない。戸惑っているセブルスの横を通り、ポッターとブラックに歩み寄っていく。
勘違いをした2人は杖を向けてきたが、そんな2人には目もくれずに、ポッターとブラックの先にいる、生徒達に紛れてルーピンの横に立っているペティグリューだけを睨むように見ながら2人の間を通り抜ける。
ペティグリューは私と目が合うと、自分が狙われていることに気づいたらしく怖じ気付いたように後ずさりをした。私は逃がさないように彼に杖を向けて、杖の先からでた色のついた閃光が標的を間違うことなく襲いかかるが、それは近くにいたルーピンに防がれる。
何も考えられなくなり、笑うペティグリューが憎くてたまらなくなっていた私は追い討ちをかけるように杖を振るがルーピンは彼を庇うように私の攻撃を防いでいった。
自分に被害がくるのを恐れ、それぞれ散っていく生徒達を一瞬見たルーピンの隙を狙い、呪文を唱える。
「エクスペリアームス!」
ルーピンの手から弾き飛ばされた杖を見て、私が一歩歩み寄ると後ろから低い声がした。
「動くな」
ゆっくり振り返るとブラックが私に向かって杖を向けていた。
「…お前は何がしたいんだ」
その言葉に怒りで、何も考えられなくなっていた私はだんだんと落ち着きを取り戻していく。私は勝手に動く口に任せてみることにした。
「……気に食わないから、杖を向けたのよ。
貴方達の陰に隠れて腰巾着のようなこいつが気に食わないから。」
ブラックは、ゆっくりと私に近づこうとするがポッターがそれを止めに入る。私は、ルーピンに杖を向けるのをやめて、2人に背を向けた。
恐怖で立ち尽くすペティグリューと、私を目で追いかけるルーピンの間を通る時に小さく呟く。
「良かったわね。独りぼっちにならなくて」
ルーピンは、私が持っている本に視線を落とすと顔色を変えた。目を見開いて驚き、彼も小さく呟いた。
「…………何で………」
その後の続きは聞こえなかったが、大体予想がついて自分の口角が上がったのが分かった。
貴方が少しでも止めに入ってくれていたら、セブルスが死ぬ未来なんて存在しなかったはずなのに。
ルーピンを見るたびにそう思ってしまう自分がいたのはずっと前から知っていた。だからさっきの真っ青のルーピンを思い出すとなんとも言えない幸福感で満たされる。
…私は……本当に性格が悪い
つくづく思いながら、持っている本に視線を落とした。
どうやら読みもしないくせに借りた本は意外と役に立ったらしい。
日も沈み、夕食も食べ終わって部屋でゆっくりと過ごしている時に、私は冷静になって今日やってしまったことを思い返す。
…………自分から関わるようなことをしてどうする。
ペティグリューに苛ついたとしても、あそこは踏みとどまるべきだった…
あの時の私を少し恨みながら、引き出しから本を取り出して助けを求めるように話しかけていた。
【これ以上彼らに関わってしまったら、物語の流れは変わるの?】
今まで話しかけても何も反応がなかったのに私が作った文章の下にゆっくりと文字が浮かび上がってくる。
【運命というのは、そう簡単に変えられません。貴女が存在するだけで流れが変わるなどあり得ません。貴女にそんな力はない】
本は、相変わらず曖昧に答えた。…まるで、私が本当に悩んでいるタイミングが分かっているかのようだ。
【時の流れは、複雑です。それぞれが絡み合って繋がっています。ひとつのことだけを変えようなんて不可能です。
貴女にとっての最悪の結末を変えるためには、その糸を手繰り、その糸の始まりを切るしか方法はありません。】
【どういう意味?分かりやすく説明して】
私の心臓は緊張したように鼓動を早くした。
【でももし貴女が耐えきれないというのなら忘れないでください。関わりの深い人の死は連鎖です。死は時の流れの糸とは全く別にありますが、時にお互いは絡み合っています。時に人の死は、死ぬ必要のなかったものもあることを、忘れないでください。】
私は音もたてずに文字が消えていくのを見つめながら、考え込むように目を閉じた。
この本がいうことはいつも曖昧でわざと明確なことは言わないようにしている。たぶんこの本が伝えようとしたことは、物語はそう簡単に変わらない。……セブルスの死を変えたいのなら、その始まりを防ぐしかない。
……セブルスの死の始まりは……
「…………エバンズ」
自分の口から出た名前を聞いて、嫌なほど思い知らされる。
……そうだ。全ての始まりは、セブルスが彼女に穢れた血と言ってしまうことから始まる。
でもそれを変えないといけないって…そうなったら、2人はどうなるの?
額を合わせて幸せそうに笑い合う2人の姿が目に浮かび、脳がそれを拒絶した。
……嫌だ…絶対に見たくない。それだけは嫌だ
無意識に血が出るほど唇を噛み、口の中には鉄の味が広がった。
……でも…そうしないとセブルスを救うことはできないってこと?
私は考えるだけでも辛くなり、本を閉じて布団に潜り込んだ。
目を閉じて何も考えないようにすると、本に浮かび上がってきた文章を思い出した。
【でももし貴女が耐えきれないというのなら忘れないでください。関わりの深い人の死は連鎖です。死は時の流れの糸とは全く別にありすが、時にお互いは絡み合っています。時に人の死は、死ぬ必要のなかったものもあることを、忘れないでください。】
まるで……今この状況を予測しているみたいな言い方だ。私はゆっくりと目を開けてまた考えた。
物語を変えるのは、簡単じゃない。変えるには全ての始まりを変えないと終わりも変わらない。
……でも、私が変えたいのはセブルスの死。
死は、物語とは関係ないってことなら………
別に始まりを変えなくても、セブルスを救うことができる。
「関わり深い人の死…………死ぬ必要などなかった死」
この2つが、当てはまっている人。……それが、セブルスの死に連鎖しているのだとしたら。
「………ブラック…」
そうだ……彼の死は、何も物語に影響していなかったはず。
ブラックがハリーの目の前で死んで、それから歯止めを失ったかのようにどんどんと死んでいった。
この本が本当のことをいっているという確信もないが、それでも私には何故かこの本は真実を知っているということを信じれた。根拠も証拠もない。単なる私の勘だ。
……でも、何故わざわざこんなことを言ってきたんだろう。
よく、考えてみれば何故この本は私を物語を変えさせそうとしてくるのだろう。……どうして、ブラックの死を変える必要がある?
セブルスの死だけを変えたいのなら、彼を確実に救うために物語に干渉しない方が一番良いに決まってる。
……結局、この本は何を伝えたかったんのだろう…
でも…ブラックの死を変えればセブルスが死ぬ未来を変えられるということは伝えたかったということには変わりない…
そう思っただけでも、気持ちが楽になり私は襲ってくる睡魔に逆らうこともせず眠りについた。