夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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14 臆病者の言い訳

それぞれの色のローブを身に纏い腰掛けている生徒達に紛れながら組み分け帽子の歌を聞き流す。みんな何故か組み分けを楽しみにしていたが、私にはとっても楽しみには感じない。この組み分けは、長いのだ。もう4回目となるとつまらなくてしょうがない。

 

 

やっと組み分けが終わったと思うとダンブルドアが一言二言話して、目の前に豪華な食事があらわれた。新入生は初めてみた光景に、驚いたような声を上げて大広間は生徒達が話す声とナイフとフォークの音で賑やかになった。

 

ふとグリフィンドールの席に視線を移すと、ポッター達と楽しそうに騒ぐブラックの姿が目に入った。…あの時の彼はどこにもいなくて、今目の前にいるブラックを見ているとあの時のことが嘘のようだ。まぁ、こんなに目立つほど騒ぐほどの元気があるのならあの時私の言葉で、ブラックも傷ついていないだろと1人勝手に決めて、目の前にあったパイを手に取った。口に運ぶとホワイトソースと野菜がたっぷり入っていた。ホグワーツの料理は、そこら辺のホテルよりかは普通に美味しいと思う。屋敷妖精がこんな量の料理を作っている姿を想像しながら、私は肉を手にとって口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が始まれば、勿論授業もあるわけで苦手な魔法薬学は去年よりも複雑さを増して私の頭を悩ませていた。年々難しくなる魔法薬学に覚える種類が増える薬草学、この2つはどう頑張っても苦手なままで、魔法薬学の課題は相変わらずセブルスの手を借りながら何とか乗り切っていた。

 

 

 

私は湯気が立ち上る大鍋を覗き込みながら、中の液体をぐるぐるとかき混ぜてみる。今は魔法薬学の授業で、私は教室の端の席で調合をしている。隣の生徒の大鍋をバレないように見て、何色の液体か確認して自分のと比べてみた。

 

濁った青、透き通った水色、…何度交互に確認しても、隣の生徒は透き通った水色だし、私の大鍋の中の液体は濁った青をしている。

 

どういうことなんだろう…ちゃんと教科書通りにしたし、材料を入れる順番も、かき混ぜるタイミングも火の強さも、あっているはずだ。どこかで間違えたのかな…

 

私は液体をすくい上げて上からタラタラと垂らしながら考え込んでいると、周りの生徒達は小さな瓶に出来上がった薬を移して名前を記入しだしていた。

 

私はしょうがなく完全に失敗しているであろう薬を提出しようかと、側にあった瓶を手に取るとふわりと横から落ち着く香りがした。

 

「………青か……」

 

耳元で聞こえた声に私の心臓は突然緊張したように運動をしだす。

私の大鍋の中をかき混ぜるセブルスは、ちらりと私の方を見てきた。課題も色々とお世話になっている私は少し気まずくて視線をそらす。

 

「…これでも、教科書通りにやったのよ」

 

「…教科書通りにやったからと言って上手くいかない時もあるが、これは教科書通りにやれば失敗することなんてないはずなんだが」

 

「………でも青色も水色もそう変わらないじゃない?」

 

開き直った私の言葉には聞く耳も持たずに、セブルスは慣れた様子で余っている刻まれている薬草をナイフで潰し、汁を取り出すと3滴ほど入れて液体を優しくかき混ぜる。彼が、横髪を耳にかけた瞬間に私はなぜか見てはいけないものを見てしまった気がして視線を逸らした。

 

やばい………隣にいて、こんなに普通に会話できていること自体が奇跡に近いというのに…

 

耳に髪をかけている姿なんて、私の心臓がもつわけがない!

 

案の定、今すぐ破裂しそうなほど運動する心臓の鼓動を全身で感じながら自分を落ち着かせるために目を閉じて、深呼吸を繰り返す。

 

 

「………何をしているんだ?…」

 

 

声が聞こえて、彼の方を見るとセブルスは不思議そうに私の方を見ながら問いかけてきたが今の私には目の前にいるセブルスの色気にやられ何も答えられない。

 

彼は頭を傾げて、特に何も気にしていない様子で柄杓を手から離すとちらりとスグラホーンに視線を移した。

 

「…瓶に移すぐらいはできるだろ?」

 

大鍋を覗き込むと、濁っていた青色の液体は透き通った水色とまではいえないが確かにさっきよりかはましになっていた。

 

その場から立ち去ろうとするセブルスに、お礼を言わないとという思いに駆られながら、勇気を振り絞って声をかけた。

 

「………ありがとう…」

 

少し小さな声だったが、聞き取ってくれたセブルスは私の方を振り向くと少し口角を上げて優しく微笑んできた。

 

耳にかけていた髪がふわりと宙を舞うと、落ち着いたばかりの心臓がまた激しく動き出して体が熱くなったのが分かった。

 

 

 

………あぁ…やばい……

 

 

 

 

止まるどころか溢れてくるこの気持ちを蓋するように、私は瓶に薬を移す作業に集中する。

 

 

体がだんだんと熱くなり、どんなに考えないようにしようとしても、なぜか頭にはセブルスが微笑んできた映像が何回も流れ続ける。

 

 

 

………お願いだから、落ち着いて。

 

 

 

自分の体だというのにいうことが効かなくて、薬を少しこぼしてしまった。

 

 

 

もう、全部が愛おしい。セブルスの表情も仕草も、全部、全部愛おしい。

 

 

 

 

 

…………私だけのものにしたい…

 

 

 

 

私は口元を押さえて、今自分が思ってしまったことを消し去るように呼吸を繰り返す。

 

 

駄目、こんなこと思ってしまってはいけない。

 

セブルスはエバンズが好きなんだ。私じゃない。エバンズだけを見ているのだから…。

 

彼の幸せを願ってあげられない私がそんなこと思う資格なんてない。

 

 

 

 

外から見てもどうやら私の様子がおかしいことに気づいたらしく何人かの生徒達はこちらを見ながらヒソヒソと話しだした。

 

 

 

なんとか外に出さずに自分の体の奥底へ沈めることができた私は、呼吸を整えながら平然なふりをして瓶を提出した。

 

 

 

……いくら奥底に沈めようと、この気持ちは決して消えてくれない。跡形もなく溶けてくれたらどんなに楽なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セブルスとポッターは顔を合わせるたびに杖を取り出し、喧嘩が勃発するのは相変わらずの光景だった。4年生にもなると、最初の頃と比べて喧嘩も激しくなっていた。だから少しハラハラされる事は何度もあったが、気づけばエバンズが止めに入っていたのでそう心配することもなくなった。

 

それなのに、何故こういう時にエバンズは居ないのだろうか。

確かに彼女もそう毎回彼らの喧嘩の仲裁に入るほど暇ではないのは分かる。しかし出来ればこういう時にこそ止め欲しいものだ。

 

雲ひとつない青空の下には、ポッターが自由自在に箒を操りながら乗りこなしている。彼は、何度も読み返しているような本を地面に足をつけて睨んでいるセブルスにちらちらと見せびらかすように落とす仕草をしてみたりしている。

そんなポッターを見上げながらセブルスは悔しそうに、怒鳴っていた。

 

「返せ!!!!!!」

 

どうやら虫の居所が悪いセブルスはいつも以上に怒りながら、今にも人を1人殺してしまいそうな目つきで睨んでいる。

 

「そんなに返して欲しければ自分で取りに行けばいいだろ」

 

ブラックは、少し馬鹿にしたように笑みを浮かべながらセブルスの足元に箒を落とす。セブルスが箒に乗るのが苦手な事ぐらい私も彼らもよく知っている。

セブルスは、箒を手にとって高い所を飛んでいるポッターを見上げると息を呑んでいた。

きっと少し怖いんだろう。だから飛びたくても、飛べない。

 

私はどうせエバンズがいずれ来て止めてくれるだろうと思いその場を離れようとしたが、ブラックの声が聞こえてきて、その気も失せてしまった。

 

「スニベルス、まさか箒に乗れないなんて事はないよな?」

 

何も言い返せず、黙り込むセブルスを見てしまっては助けない他にはなかった。私は廊下から中庭に出てセブルス達に近づき、呪文を唱える。

 

「アクシオ、箒」

 

セブルスが持っていた箒は私の手の中に飛んできて、セブルスは私の方を見つめていた。私が貸してと声をかけても彼が簡単には渡してくれないことぐらい大体想像がつく。

ブラックが何か言おうと口を開いたのが見えたがそんな事には目もくれずに、箒に跨って地面を蹴った。

 

どうやらこの箒は優秀らしい。少し傾けただけで簡単に方向を変えてくれるし、少し前のめりになればスピードを上げてくれた。

ポッターが飛んでいる高さまで上がると、少し驚いたような様子の彼は嫌味ったらしく話す。

 

「へぇ〜君得意なんだ」

 

「まぁ…貴方よりかは負けるけど」

 

「そんなに褒められるなんて照れちゃうな」

 

「その貴方が持っている本。返して欲しいんだけど」

 

私はポッターの言っていることは完全にスルーして、本に視線を移した。

 

「君のじゃないのに、返すなんておかしいだろ」

 

ポッターはへらへらと笑いながら本の表紙だけを持ち、ページが風で勢いよくめくりあがる。

 

「じゃあ、貸して。」

 

「残念ながら、これはスニベルスのものだからね。僕に言われても困るな」

 

「……だったら早く彼に返したらどうかしら」

 

「僕は、スニベルスに取りにきて欲しかったんだけどな………まあいいよ。そんなにお望みなら返してあげる」

 

そう言ったポッターの手から本が離れて、重量に逆らうことなく落ちていく。

 

体を前に倒して、落下し続ける本に手を伸ばしたが、本にかすりもしなかった。私は反射的に箒から宙へ体を放り投げた。本を抱きしめるように両手で抱える箒に乗っていない私の体は、当然すごい速度で下へと落下していく。

 

劈く悲鳴のような声が聞こえてきたが、私にはどうしようもできずに地面に叩きつけられたら痛いかなと思いながら私は青空を見つめた。

 

落ちていくのは本当にゆっくりに感じて、そろそろかなと思い私は少しでも痛みが和らぐようにと目を瞑ってみるが、体には何も衝撃はこない代わりに腕を誰かに思いっきり掴まれる感覚がした。

 

落下する風も何も感じなくなり、ゆっくりと上を見上げるとポッターが片手で箒に宙にぶら下がりながら、私の腕を握って凄い顔をしていた。

 

「絶対動くなよ!!!」

 

ポッターは、額に汗をかきながら私の腕を握り続ける。彼の手が箒から離れてしまいそうなのを見て、私はポッターに話しかけていた。

 

「離していいよ…………この高さだったらどっかの骨が折れるぐらいだから」

 

「はぁ⁈何言っ「私が落ちたらすぐに先生を呼んで」

 

私の腕を握っているポッターの指を一本ずつ離して、私の体は再び宙に投げ出された。真っ青になったポッターの顔がだんだんと小さくなっていき、地面が近づいてくるのが分かった。

少し怖かったが、セブルスの本が自分の手の中にあるのを感じて私は痛みに耐えれるように目を閉じる。

 

さっきよりかは落下の速度もそんなに速くないし、腕が折れて背中が痛むぐらいだろうと思っていると背中ではなくお腹に突然殴られたような衝撃に襲われ私の体は落下するのをやめていた。私は恐る恐る目を開けてみると、目の前にいたのはセブルスだった。

彼は私の体をかろうじて抱きかかえて、そのまま壁に激突したらしい。

だから背中ではなくお腹に衝撃があったんだ。

……その他に衝撃がなかったのは壁にぶつかる時にセブルスがわざと私を庇うように自分を盾にしたからだと、辛そうに顔を歪めるセブルスを見てわかった。

 

セブルスが左腕をゆっくりと私の背中に回して安定するようにするもんだからセブルスと私は向き合った状態でさらには、彼にもたれかかる体勢になってしまっていた。薬草とどこか懐かしい香りがして、心臓が飛び出そうなほど鼓動を早くなったのが分かり、体温が上がる。今絶対顔が真っ赤になっている自信しかない。

 

何も言わないセブルスは、ゆっくりとそのまま降下していく。

 

 

………この時間が…ずっと続けばいいのに

 

 

力なくだらんと垂れ下がる右腕を見て、そんな気持ちも一瞬にして消え去った。

 

地面に足がついた瞬間に、セブルスは痛そうに右肩を押さえ出して、私から離れていく。その瞬間に、血の気が引くと体に嫌な汗が流れた。

私はセブルスに駆け寄って怪我をしていない左腕を引っ張った。

 

ポッター達に構っている暇などない。

 

早く医務室に連れて行かないと!!

 

そればかりが頭をよぎり私はセブルスを連れて医務室に駆け込んだ。私があまりにも顔色を悪くしていたからだろう。マダムはすぐに駆け寄ってくれてセブルスの治療をしてくれた。

 

「落ち着きなさい。肩は脱臼しただけです。すぐに治ります」

 

マダムは私を安心させるような言って、セブルスと何か話して医務室から出ていく。

 

私は手に持っている本に視線を落としカーテン越しにいるセブルス話しかけていた。

 

「………本……ここに置いとくね…」

 

気まづくてこの場から逃げ出したくて、私はそう言うのが精一杯だった。

 

セブルスを助けたくて行動を起こしたはずが、逆に彼を怪我させてしまった。

 

 

………私のせいだ……

 

 

罪悪感が押し寄せてきて私が立ち上がった時、セブルスの声が聞こえてきた。

 

「……怪我…なかったのか…?」

 

私は答えずに頷いた。答えることができなかった。声が出なかった。

 

……本当に、私は臆病だ…

 

「……………そっか………よかった………」

 

どうやらカーテンに映っている私の影を見たらしく安心したように小さく呟いた声が聞こえてきた。

今、この状況だったらお礼を言えそうな気がして私は勇気を振り絞って彼の名前を口にする。

 

 

「……セ「セブ!!!!!!!!!」

 

 

私の声は、耳に響くような大声と重なって消えていった。

 

どうしていつも彼女が来るのだろう。

 

どうして彼女は邪魔ばかりしてくるの…

 

思いっきり開いた扉には、エバンズがいた。エバンズは私と目が合うと気まずそうに逸らして、奥に進んでいく。

 

「セブ大丈夫⁈怪我をしたって聞いて」

 

「……リリー…大丈夫だよ」

 

カーテンに2人の影が動いているのを見て、最近はあまり生まれなかった気持ちがふつふつと浮き出てきた。

心臓が苦しくなり、辛くなる。これが嫉妬だってことぐらい知っている。

 

私は、本を腰掛けているベッドに置いて静かに医務室を後にした。

 

 

最近は、エバンズを徹底的に避けてきた。だから、こんな思いなんてせずに済んだ。

久々に感じるこの胸の苦しみに耐えながら、私は廊下をひとりで歩く。

 

 

きっと……今日は、セブルスの体に触れてしまったから、セブルスの温もりを香りを感じてしまったから、だからこんなに辛くて苦しいんだ。

 

 

貴方の温もりに触れてしまったら、そんな幸せな時間があることを知ってしまったら………私はもっと求めてしまう。

 

今セブルスが生きているだけで幸せなはずなのに、ただ話しているだけで幸せだったはずなのに人間なんて貪欲で自分勝手だ。

 

もっともっとセブルスに触れていたい。貴方に優しく抱きしめられて、私も抱き返して、何でもないことで笑いあって、辛いことも悲しいことも2人で分け合って、彼女を向ける目を、私に向けてほしい。彼女の名前を呼ぶように私も名前で呼んでほしい。

 

 

 

 

 

…彼女じゃなくて、私を見て

 

 

貴方の幸せさえも祈ってあげられない私が、こんなことを思う資格なんてない。

 

でも、ただただ愛しいの。私の手が届かないことぐらい分かってる。私に振り向いてくれないのも知ってる。何度も何度も諦めようとした、忘れようとしたけど無理だった。

 

だから……せめて…

 

 

 

 

 

 

貴方のことを愛しく想うことぐらい許して。

 

 

………決して口に出したりして、貴方を困らせたりはしないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年のクリスマスは、家に帰った。最後まで残ろうかどうか悩んでいたのだが、どうやら帰って正解だったらしい。…何故か今年のクリスマスはエバンズも残っていたらしいから。

 

 

 

 

 

 

降り積もった雪もだんだんと溶け出している景色を眺めながら私は大量に出された課題を抱え歩いていた。

どうやら来年にあるO.W.L試験に備えてらしく、ひと山は出来そうな課題が出たのだ。課題を出せばいいってもんじゃない。こんな量をやったところで私の頭の中に入る訳などなかった。

溜息をついて、図書館から寮に戻ろうと廊下を歩いていると、私が今避けている人物が目の前に立っていた。まるで私を待ち伏せしていたかのように仁王立ちしている。私はすぐさま背を向けてその場から逃げようとするが、課題を持っているので簡単に腕を掴まれてしまった。

 

「…何か用?」

 

顔だけ振り返り私の腕を握っているエバンズに声を低くして問いかける。

 

「……貴女が私のことを嫌っているのはよく分かったわ。……でも、理由を教えてほしいの。私がいつ貴女に嫌われるようなことをしてしまったのか。」

 

「……それを貴女に言ったところで何になるっていうの?」

 

私はエバンズを睨みながら、言うと彼女は変わらず明るめの声で話を続けた。

 

「……何にもならないわよ。……ただ教えてほしいの」

 

「………理由なんてない。あんたを嫌いになった理由なんて必要?」

 

何かしら理由があると思っていたであろうエバンズは少し傷ついたように顔を歪めたが、すぐに元に戻して私を見つめてくる。

 

「………貴女には、友達がたくさんいるじゃない。…別に自分のことが嫌いな奴にそんなに構って何がしたいの?」

 

私は今思ったことを、エバンズに問いかけてみた。どうして今更そんなことをわざわざ本人に聞かないといけないのだろうか。

 

「………セブ……セブが最近闇の魔術に前よりも没頭しているの。…私が何度言っても聞く耳を持ってくれなくて…でも貴女だったら!」

 

「……私が彼を止めれるとでも思ったの?」

 

エバンズは、静かに頷きまた口を開いた。

 

「貴女と話しているところはよく見かけるし、それに同じスリザ「同じ寮だからなんなの?」

 

私の冷たい声に凍りついたように、彼女は固まった。目を点にして私を見つめてくる。

 

「私よりも貴女の方が彼のことを知っているんじゃないの?私よりも前に出会っているんだから」

 

「でも、私じゃ駄目なの。私の声は彼に届かない」

 

届かない…?……彼女は何を言ってるの?なんでそんなに気づかないの?

 

 

「…………よくそんなことがすらすらと言えるわね……届かない?冗談もいい加減にして!」

 

私は、エバンズの手を振り払って彼女を睨みつけた。

 

「………どうして嫌いな奴の頼みをわざわざ聞かないといけないのよ」

 

エバンズの隣を通り、私は寮の中に逃げ込んだ。

 

貴女の声が届かない? ふざけないで!

 

少し考えてみればいい、すぐにわかることじゃない。あんな分かりやすい反応を見ていれば、貴女に気があることぐらいすぐに気づくはずでしょ⁈

 

 

…セブルスには貴女の声しか届かないのよ

 

 

今すぐにでもエバンズに言ってやりたい気持ちをぐっと堪えて、ベッドに飛び乗った。

 

 

 

 

 

……セブルスは彼女を彼女だけを永遠に想い続ける。

 

 

 

 

どうして………彼女なの…

 

 

どうして…

 

 

 

 

私じゃないの………

 

 

 

 

ほらまた醜いものが溢れ出てきた。

 

 

 

 

 

 

それからは全てが、あっという間に過ぎていき、学年末試験を終えてしまうともう夏休みが迫ってきていた。今回の試験はセブルスのおかげもあって結構手応えは感じている。

セブルスとの仲は、別に良くもなく悪くもなかった。進展なんてしてるはずもなく、お互い友達とはいえない微妙な距離を置いて接していた。

セブルスにも、エバンズがあまり良く思っていない友達が何人か出来たらしく、私が話す機会も減った。今までは、お互い浮いている存在同士何となく話している時もあったからしょうがないと思う。だけど、セブルスと話していただけの時間は私にとって暖かいものだったから、少し寂しくて、何か物足りないのを感じていた。

それでも、彼と彼の友達の間に割って入るほど私に勇気があるわけがない。少し楽しそうに話すセブルスを見てしまえば、遠くから見ているだけで幸せだと思ってしまう。

それなのに、何故かエバンズとセブルスが2人で仲良く話す光景だけは頭も体も拒絶する。

 

ほら今こうして、廊下の窓からひらけている中庭に2人が仲良く話す姿が目に入っただけで私は無意識に抱えていた教科書のページを握りしめて、2人の後ろ姿を睨みつけている。私の心臓は苦しそうにゆっくりと動いて締めつけられるような痛みに襲われた。セブルスはそんなことも知るはずもなく、エバンズを見て笑っている横顔が視界に入った。

 

最初の頃に比べるとセブルスとも話すようになった。だけど、いくら頑張ってもセブルスはエバンズを見るような目で私を見てくれないし、彼女にだけ向けるあの笑顔は私には見せてくれない。

 

 

……大丈夫…私は大丈夫………

 

 

自分に言い聞かせるように何度も繰り返しながら廊下の壁にもたれかかる。

 

 

…………平気だから…泣かないで…耐えて

 

 

 

泣きそうになるのを堪えるために目をつぶって俯いた。こんな生徒が行き来しているような廊下で泣いたら、絶対にセブルスに気づかれてしまう。騒ぎを駆けつけて、エバンズの後から、私が泣いているのを見て彼はなんと思うのだろうか。

 

考えただけで、怖い。

 

 

 

「…………大丈夫…ですか?…」

 

 

 

前から声が聞こえてきて、ゆっくりと顔をあげると意外にもレギュラスが心配そうに私を覗き込んでいた。目が合った瞬間少し気まずそうにしながらも、話しかけてくる。

 

「………顔色が悪いですし…医務室に行きますか?」

 

「……いや、少し考え事をしていただけなの。気にしないで。」

 

私が笑いながら言うと、彼は少し考えるように黙り込みそして口を開いた。

 

「………とりあえず、寮にでも…一緒に行きましょう…ここに放っておけませんし…」

 

目の前にいる彼は心配になるほど優しすぎる。…嫌いな私がいくら体調が悪そうだからといってわざわざ話しかける必要なんてないだろう。それにあのパーティーで、兄と対立したぐらいなのに。

 

前を歩くレギュラスの後をゆっくりとついていき、横に並ぶと突然小さな声が聞こえてきた。

 

「………貴女のお兄様に怪我を負わせてしまい、申し訳ありませんでした。」

 

あまりに突然なことだったから聞き逃しそうになったが、そんなことよりも少し申し訳なさそうに落ち込んでいるようなレギュラスの方が気になっていた。

 

「……いや、気にしないで。………大した怪我じゃなかったし、兄も自分が悪かったと言っていたから」

 

「………そうですか…」

 

周りを行き交う生徒たちの話し声や足音で時々聞こえづらくなるが、それでも耳に入ってきた。

 

「………あまり無理して、私に話しかけないでも大丈夫よ。……」

 

レギュラスの方は見ずに、私は前を向いたまま話を続けた。

 

「辛いでしょ?気にくわない奴と話すのは」

 

「何を言っているんですか。そんなことありませんよ」

 

お手本のような笑みを浮かべるレギュラスの横顔を見た瞬間少し恐ろしく感じた。

 

 

 

 

………こんなに温かくない笑顔は初めて見た…

 

 

 

「…貴方が純血主義の考えを支持していることぐらい知っているし、……そんな笑顔を浮かべるぐらいのなら私に構わないで。」

 

 

もう少しで寮に着くというのに、レギュラスは足を止めて私の方を見てくる。

 

 

「………どういう…意味ですか?…」

 

 

「………貴方が優しい気遣いで私に今こうして接してくれているのは、もちろん分かってる。…浮いている私に情をかけて話しかけてくれたんでしょ?」

 

 

何か言いたげな彼の口からは、言葉は出てこなくて私は静かに言葉を繋げた。

 

 

「………でもそんな笑っていない笑顔を向けられても嬉しくないし、見ている方が苦しくなるのよ」

 

 

「…………面白いことを言うんですね……………

 

笑ってない笑顔ってどんな笑顔なんですか?」

 

 

ほら、また冷たい笑顔を浮かべてくる。

 

まるでこのタイミングで笑うようにと設定されたロボットみたいなのだ。彼の笑顔は、とても冷たくて、見ている私まで苦しくなる。

 

「…………それのことよ………

 

 

 

 

気にかけてくれてありがとね……」

 

 

私の言葉を聞いたレギュラスがゆっくりと自分の頰を触ったのを見て私は寮に逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動き出しそうなホグワーツ特急に急いで乗り込み、空いているコンパートメントを見つけ腰掛けた。色々と詰め込んだトランクを上に置いき、隣にお腹が空いたのか鳴いているアテールが鳥かごの中から嘴で突いてくる。

 

「分かったから。後からお菓子買ってあげるから」

 

その言葉に満足したように、ホォーとひと鳴きすると毛づくろいを始めた。窓にもたれかかり、動き出すのを待っていると控え気味にコンパートメントの扉が開く音が聞こえてきた。

 

 

「………いいかしら…他どこも空いてないの」

 

 

気まづそうに笑いながら私に訪ねてくるエバンズの後ろにはセブルスがいた。私は少し溜息をついて一言だけ返す。

 

 

「……えぇ……」

 

 

私の言葉にホッとしたような表情を見せてエバンズは平然と中に入ってくる。どちらかというとセブルスの方が、私と彼女を交互に見て心配そうな表情を浮かべていた。

 

私は寝るのをやめて、本を開き読み進めることにした。コンパートメントには私がページをめくる音と、2人の会話だけが響き、外の方が騒がしいぐらいだ。

 

おばちゃんがカートを押しながら、お菓子を売っている声が聞こえて、私は立ち上がりコンパートメントの扉を開けた。

 

「かぼちゃパイと蛙チョコ1つずつ」

 

皺くちゃな掌にコインを置き、おばちゃんからかぼちゃパイと蛙チョコを受け取って席に着くと、エバンズも百味ビーンズを買っていた。彼女は、隣に座っているセブルスに百味ビーンズを分けて、2人はまるでピクニックに来ているようで楽しそうだ。

 

「ん!ピーチ味だわ。今回は当たりねセブは?」

 

「チョコ味だよ。」

 

「良かったわね。この前、ゲロ味当ててたからね」

 

「あれは、本当にまずかった…」

 

2人は思い出したように笑い声をあげてた。私はというと、かぼちゃパイを小さくしてアテールの口に運んでやっていた。アテールは食べ終わると満足そうに鳴き、体を丸める。

 

私は2人の会話を聞き流しながら、蛙チョコの封を開いて逃げようとするチョコをタイミングよく捕まえた。小さい時によく兄と蛙チョコを食べていたから慣れたもんだ。

 

口に運ぶと甘い香りが一気に広がっていき、おまけのカードを見てみるとサラザール・スリザリンだった。私は、セブルスにそのカードを渡そうと腕を伸ばしていた。

 

「……あげる」

 

セブルスは、困ったように眉を下げながらも受け取ってくれる。

 

「……男の子ってこういうのは集めるの好きでしょ?」

 

私がお菓子のゴミ屑を片付けていると、今度はエバンズが私に百味ビーンズを渡してくる。

 

「良かったらいかが?」

 

「………悪いけど、私嫌いなの。それ」

 

「…そお……残念ね」

 

エバンズは気にしてない様子でまた百味ビーンズを食べだした。

 

 

 

駅に着くまで、私は2人の会話を聞き流しながら本を読み続けた。楽しそうに話す2人を見て、時々気が狂いそうになったがそれでも楽しそうに笑っているセブルスをみると楽になって私まで楽しい気持ちになった。

 

ただ、幸せそうに笑うセブルスを見るたびに私は少し胸が締め付けられるような痛みに襲われて、あまり直視はできない。

 

 

………来年……この2人の関係が…壊れる…

 

 

 

本を読んでいても全くと言っていいほど内容なんて頭に入ってこなかったしページをめくるのを忘れるほど余裕がなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

駅に着き、汽車から降りる準備をしていると先に2人がコンパートメントを出ようと扉に手をかけた。

 

「…ありがと。席を分けてくれて」

 

エバンズがお礼を言ってきたが、私は返事もせずに視線を逸らした。セブルスが彼女の後に続いて出ようとする時、私は無意識に彼を呼び止めていた。

 

 

「…待って。」

 

 

セブルスは動きを止めて不思議そうに見つめてくる。本当に、呼び止めれただけでも褒めてほしい。

 

…分かってる。言葉にしないと、声に出して言わないと伝えたいことも伝わらない。

 

何か言わないといけないというのは分かるのだが、いざ目の前にすると緊張して言葉が喉で引っかかってしまう。

 

彼を呼び止めた理由は分かっていた。……最後まで悩んでいたのだ。彼に少しでも幸せになってもらうために、忠告をするかしないかを。

 

でも……でも

 

 

考えれば考えるほど、頭の中は混乱してローブを握りしめる手の力が強くなっていく。

 

 

来年貴方は彼女のことを穢れた血と呼んでしまうから、だから気をつけて……

 

なんて言えるわけがない。私が黙り込んでいると、セブルスは頭を傾げて私の言葉を待っていた。

 

 

「………っあ「セブ⁈行くよ〜!!!」

 

 

タイミングよく遠くで彼を呼ぶエバンズの声と重なり、私はもう言えなくなった。

 

 

「…うん!ちょっと待って!……それで、何だっけ?」

 

 

2人が幸せそうに笑いあっている姿が脳裏に浮かぶとやっぱり私には言う勇気なんてなかった。

 

「………いや、何でもないの。……ごめんなさい、引き止めて」

 

不思議そうな表情をしたセブルスはコンパートメントから出て行こうとするが、思い出したように振り返ると私にお礼を言ってきた。

 

「………そういえば、チョコのカードありがとう」

 

少し照れくさそうに言うセブルスは、それだけ言うと急いでエバンズの元に駆け出していった。

 

心臓の鼓動が早くなり、ドクンドクンうるさかった。

 

アテールも早くコンパートメントから出たいのだろう。鳥かごの中で私に向かって鳴き始めた。

 

 

 

「うるさい」

 

 

 

アテールに言ったのか、それとも自分の心臓に言ったのか自分でも分からない。

 

体が熱くなったのは夏の気温のせいにして、私もコンパートメントを後にした。

 

 

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