夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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18 本の正体

汽笛が鳴る音を聞きながら、私は汽車の窓から顔を出して付き添いに来てくれた母と父、それから兄に手を振った。小さくなっていくまで手を振り続け、見えなくなると窓を閉めて空いているコンパートメントを探す。

どこも空いているところがなくて、しょうがなくひとりで座っている生徒に話しかけて席を少し譲ってもらい、ホグワーツまでゆったりと時間を過ごした。

 

 

一眠りをしてしてしまえばあっという間につき、ホグワーツ城を見た瞬間に去年の出来事が嫌という程鮮明に思い出したが、兄の姿がすぐに浮かぶと少し楽になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長期休暇明けの授業は、やっぱり疲れるもので私はノタノタと教科書を抱えながら歩く。

これまでと変わらず私の隣で歩いてくれるような友達なんておらず、楽しそうに話しながら前からも後ろからも歩いてくる生徒達とすれ違う度に、私は体を縮めた。こんなこと始めてで、何故か胸がキュッと締め付けられた。

 

 

……どうして…こんなにも………

 

 

 

寂しく…感じるんだろ…

 

 

 

これまでと何も変わらない。ずっと友達なんてものもいないし、どんなに素晴らしいものなのかも知らない。何も変わってないはずだ。

 

それなのに…どうしてこんなにも廊下が暗く感じるのだろ…

 

廊下に響く生徒達の賑やかな声の中に、よく聞き覚えのある声がやけにはっきりと聞こえてきた。声がした方を見ると、案の定ポッター達がセブルスに突っかかっていた。

 

少し遠くて、はっきりとは見えなかったが相変わらず杖を取り出して、言い争っている。

 

 

 

………いつもだったら……この辺で……エバンズが止めに入っていたはずなのに…

 

 

 

 

彼らを避けるように廊下を歩く生徒達の中にエバンズがいたのか、喧嘩をしていたはずのポッターのエバンズの名前を呼ぶ声が私の所まではっきりと聞こえてきた。

 

彼女は近寄ってくるポッターをひらりとかわして、他人のように何も感情もない瞳を浮かべてセブルスの横を通り過ぎる。エバンズの後をポッターが追いかけたものだから喧嘩は自然に終わって、ただ1人セブルスがそこに取り残されていた。エバンズを目で追うように振り返るセブルスを見た瞬間私は何を思ったのか、彼に近寄っていた。

 

 

 

………ただ…限界だった…

 

 

 

これ以上、エバンズを見る彼を見ていたら私の何かが壊れてしまいそうで、醜い何かが溢れかえって外に出てしまいそうで怖かった。

 

 

私はもうこれ以上セブルスの視界に彼女を入らないようにするために咄嗟に名前を呼ぼうと息を吸い込むが、周りにいる生徒達の声でかき消されてしまったかのように声にならない。私はセブルスの名前を口にする勇気もない自分に腹を立てながら、彼の腕を握ろうと手を伸ばす。

 

 

 

 

 

───────セブルスの腕を握ろうとした瞬間だった。

 

 

 

 

さっきまで聞こえていた騒がしい生徒達の声が一瞬だけ聞こえなくなり、まるで時が止まったかのように感じると、私の中で何かが大きなヒビが入ったような音がして、汚く醜い何かがそのヒビから漏れだした。私はセブルスに伸ばしていた手を下ろして急いで彼に背を向けその場を逃げるように早足で歩く。

 

 

 

……どうして…あんな時だけ…周りの声が聞こえなくなるの…

 

 

 

私は、静まり返ったように感じたあの一瞬で聞こえてしまったセブルスの声を忘れるように耳を塞ぐ。

 

 

 

……違う…あれは気のせいだ……

 

 

 

何度も自分に言い聞かせても、何度も何度もセブルスの声が聞こえてくる。

 

 

 

 

『……リリー……』

 

 

 

 

 

…………気のせいだと思わせて…

 

 

 

 

 

 

……………お願い………やめて………

 

 

 

 

 

『…………待っていて………』

 

 

 

 

 

何度も幻聴として聞こえてくるセブルスの声を聞きながら、私は寮に戻る足を早めた。

 

 

まだ希望を持っている彼の言葉が重くのしかかり、彼女だけを見ているその言葉でこれ以上にないほど胸が苦しくなって息ができなくなる。

 

 

 

…どうして、どうして、そこまで彼女に執着するの

 

 

 

どうして、振り向きもしない彼女ばかり見るのよ

 

 

 

 

次々と浮き上がってくる感情を必死に胸の内にしまいこみながら、涙を堪える。

 

 

 

私が隣にいたらだめなの?

 

 

 

…何で私じゃだめなの?

 

 

 

もう歯止めが効かなくなったように、浮き上がってくる思いはどんなに消し去ろうと頑張っても消えてくれなくて、私はあまりに辛くなり外に飛び出した。もうすぐ次の授業も始まることもあり生徒の姿は私以外にいなかった。私はローブを握りしめながら、あの言葉から逃げるように歩き続けた。

 

 

…駄目、こんなこと思っては駄目。

 

どんなに思っても、どうせ気づきもされないのだから、後から辛くなるだけだから。

 

 

……早く、早く消し去らないと

 

 

自分に必死に言い聞かせながらふと顔を上げると、何故か私はあの出来事があった湖に来ていた。

 

 

あんなに思い出したくないほど辛い事があった場所だというのに、まるで家に帰ったみたいに落ち着く。

 

私は近くの木の下に腰を下ろして膝に顔を埋め、目を閉じて体を小さくすると、あんなに動転していた体も落ち着き、次々と浮き上がってきたあの感情も思いも、静かに消えて穏やかになった。

 

 

 

 

 

…………代わりたい………

 

 

 

 

 

私はゆっくりと顔を上げて、日差しが当たり反射している湖の水面を見つめる。優しく吹く風でゆらりゆらりと揺れるものだからまるで風で靡いているカーテンのように見えて、不思議なことに見とれていた。

 

 

 

 

 

……………彼女に、エバンズに代わりたい…

 

 

 

 

 

ゆっくりと瞬きをして、決して声に出さないようにキュッと口を結ぶ。

 

 

 

 

…………彼にあの瞳で見つめられることが、

 

 

 

……彼があの幸せそうな笑みを浮かべてくれるのが、

 

 

 

 

 

…彼に好きだと言われることが、どんなに幸せなものかを…

 

 

 

 

ただ…知りたい…

 

 

 

 

 

 

自分が考えたことを痛みで消そうと思い、腕を爪を立てて握りしめるが、私はゆっくりと吐き出してしまうように声は出さず口だけを動かしていた。

 

 

 

 

 

『………もうどうしようもないぐらい…貴方のことが大好きなの…』

 

 

 

 

 

自然と耐えきれなくなった涙が頰を流れたのが分かった。声には出さなかったが、少し楽になった気がして私は涙を拭い教科書を手に取る。

 

 

 

 

…………大丈夫…安心して…………セブルス

 

 

 

 

私には……この気持ちを伝える気持ちなんてないから大丈夫よ…

 

 

 

この気持ちを…伝えるつもりなんて…ないから

 

 

 

 

私はゆっくりと瞼を下ろし、全身の力を抜いて木にもたれかかった。

 

 

 

 

 

優しい貴方が…私の気持ちを知ってしまったらきっと深く考えて、今よりも無理をして、苦しんで、全部自分一人で背負いこもうとするから…

 

 

だから…せめて、貴方が私の気持ちなんて知らないまま、彼女だけを純粋に愛せるようにするから…

 

 

 

だから………勝手に1人で嫉妬して、怒って、悲しんで、涙を流して、貴方に想いを寄せ、愛しく想う私を…

 

 

 

 

貴方を愛し続けることだけは…許して…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業をサボった私はあの後勿論、その時間変身術だったから、マクゴナガルに呼び出されて軽く注意された。

 

 

 

 

あれから特に変わったこともなく、私は授業をサボることはせずちゃんと出席した。出席しようがしまいが心配してくれるような友達なんているわけがなかったが、学年末試験もあるし、来年にはN.E.W.T試験もある。流石に授業もでないというのはきっと家族に心配をかけてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は教科書を枕にして、遠くに聞こえる淡々と教科書を読む声を子守唄にして聞き流しながら、仮眠につく。今は一応魔法史の授業なのだが、起きている生徒などいるわけもない。

 

 

 

 

 

 

 

遠くで微かに聞こえていた声が聞こえなくなると視界がガラリと変わって、私は何故かあの黒表紙の本、もう触れないと誓ったあの本を手に持っていた。

 

するとまた目の前の光景が変わり、私は見覚えのない部屋にいて物書きをする机の前に腰掛け、目の前にいるアウラらしき屋敷妖精に話しかける。

 

 

『………後は…お願いね……』

 

 

『……お嬢様…本当になさるおつもりですか』

 

 

屋敷妖精の声は確かに震えていて、何故か涙を溜めている。

 

 

『………これ…しか…方法がないのよ…………』

 

 

私はペンダントを握っていて、屋敷妖精に向かって本を差し出した。

 

 

 

『…………彼がいない…世界に…生きている意味なんてないの……』

 

 

 

私の声は涙声で震えていた。屋敷妖精を見つめるとまた視界が変わり、気づけば鋭い刃物を手に取っていた。

 

瞬きをした瞬間、耳元で肉が裂ける音が聞こえると目の前が真っ暗になり、一気に息がしづらくなり私は咄嗟に瞼を開けた。気づけば授業が終わったようで教室から出る生徒達の足音や話し声で聞こえてくる。

 

 

 

 

 

………あまりにリアルな夢だった…

 

 

 

 

 

 

 

夢であの刃物で確かに自分で首筋を切り裂いていたことを思い出して、咄嗟に首筋を触れてみるが勿論血なんてついているわけがない。

 

 

あまりにリアルすぎて、目が覚めた今でも体が震える。耳元で聞こえた肉の裂ける音も、血の匂いも、あの生々しい息苦しさも覚えている。

 

 

 

……まるで夢じゃないみたいだ…

 

 

 

 

あんな気味の悪い夢を見て、気分が良くなるわけがない。私はもやもやしたまま教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気持ちの悪いあの夢を見ることはなかったが、どんなに寝ても何故か疲れが取れずそれどころか溜まる一方で、私は気晴らしに静かな図書館で仮眠でもしようかと廊下をゆっくりと歩いていた。

 

 

 

最近は課題に追われているし、何もかも上手くいかないことばかりだから自分でもいつも以上に気が立っているのが分かった。

 

 

 

「エクスペリアームス」

 

 

 

そんな時に何故こんなにもタイミングよくポッターがセブルスに喧嘩をしかける所を見てしまったのだろう。声がした方を無意識に振り向いたのが、運が悪かった。

 

彼らはどうやらセブルスの背後からいきなり呪文をかけたようで、完全にセブルスは丸腰だった。勿論私は見なかったことにしようとしたが、まるで面白い見物をしているかのような周りに集まりだしていた生徒達の歓声を聞いた瞬間に、頭に血が上って、杖を取り出し彼らの中に向かって、歩き出していた。

 

 

ほんと、苛々する。

 

 

今まで1番腹が立っていた私は、相変わらず盛り上がりを見せている生徒達を無理矢理押しのけて、ポッターの姿を捉えると何も考えずに杖を振っていた。いきなり入ってきて私が何も言わず呪文を仕掛けてきたことに驚いたのだろう。ポッターが少し後ずさりをして、体勢を崩す。何故だか知らないが、盛り上がった生徒達の声を聞いた瞬間、もう我慢の限界だった。

 

 

「うるさい!!!!!!!黙れ!!!」

 

 

私が周りに集まっている生徒達を睨みつけながら、声を張り上げながら言うとあんなに盛り上がり暑くなっていた廊下は一気に静まり返り、冷たくなる。

 

 

 

「何をそんなに、苛ついてるんだい?」

 

 

 

腹立つ顔で尋ねてくるポッターを睨みながら私は杖を握る手を強めた。

 

 

「貴方が彼に突っかかっているのは何故?」

 

 

私は尋ねてきたポッターの言葉は無視をし、セブルスの横を通り過ぎて、彼に近寄る。

 

 

「理由?…スニベルスがそこに存在していること以外に理由なんて必要か?」

 

 

冷たい言葉に、私は少し背筋が凍りついたがそれもすぐに怒りで忘れた。

 

 

「…………なによ…それ…」

 

 

こんな感情は初めてで、今目の前にいるポッターを今すぐに殺したい衝動に駆られ、もう何も考えなくなると頭は真っ白になった。ペティグリューの時とは全く違うもので、血は逆上し頭からまるで火をかけられたかのように熱く感じた。

 

 

「良かったな。スニベリー、エバンズ以外にも庇ってくれるような奴がいて」

 

 

嘲笑いながら言うブラックを見た瞬間に頭の血管が切れたようなブチっという音が聞こえると私は彼らに杖を振っていた。自分達にまで被害がくると思った生徒達が悲鳴をあげながらそれぞれ散っていく姿が視界の端に見えた。

 

 

様子のおかしい私に気づいたのか、いつも参戦しないようなルーピンも杖を取り出して、後ろにいたセブルスでさえも私を止めるために腕を握ってきた。

3人相手に勝てるわけもなく、簡単に杖を弾き飛ばされて、セブルスに腕を握られ続けていたがそれでも私の怒りは静まるどころか増すばかりで、普段思ったことなんてスラスラ出ないくせにこういう時だけ意図も簡単に出てくる。

 

 

「何が!!!英雄よ!!!!!!何が!!!正義よ!!!!!!!!!」

 

 

私は、声を張り上げながらセブルスの握ってくる手を振り払って杖も持ってないのも忘れたまま彼らに近寄る。

 

 

「人に自分の意見を押し付けて!!!!!!相手の思いも聞かず、それが悪いと決めつけて一方的に痛めつけることがそんなに楽しいの⁈」

 

 

「…レイラ、落ち着いて」

 

 

私を止めようと、ポッターと私の間に入ってくるルーピンの言葉なんて耳に入ってくる訳がなかった。

 

 

「全部貴方達のせいじゃない!!!!!!」

 

 

もし、セブルスをあの時虐めるようなことがなければ、

 

 

もしあの時、吊るすような馬鹿なことをしなければ

 

 

こんなに悩むこともなかった。

 

 

セブルスが苦しむ未来なんて存在していなかった。

 

 

「何をしているの!!!やめなさい!!!」

 

 

騒ぎを聞きつけたエバンズが、ルーピンと私の間に入り込んできて私を宥めようとしてくるが今の私には火に油で、彼女に手首を掴まれた瞬間、私の中で何がざわりと騒いだ。

 

 

「私に触らないで!!!!!!!!!!」

 

 

もう歯止めの効かなくなった私は、エバンズの手を払い除けて彼女の体を押し倒す。

 

 

「おい!!!今エバンズは関係ないだろ⁈」

 

 

ポッターの怒鳴り声が聞こえてきたが、私の中にある塞き止めるものはもうすっかりぼろぼろに崩れだし、今までの思いを吐き出すように座り込む彼女に声を張り上げていた。

 

 

 

 

「貴女なんかさっさといなくなればいいのよ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

青ざめるエバンズを見た瞬間あんなに何も考えられないほどいっぱいだった頭が一気に冷静さを取り戻して自分が何を言ってしまったのかが分かった。エバンズがゆっくりと立ち上がりその場から逃げるように立ち去ると静まり返っていたその場に怒っている様子のポッターが、何も言わずに私に近づいてくる。

 

 

「ジェームズ、落ち着け」

 

 

ブラックが彼を止めるかのように静かに呼び止めて杖を握る。

 

 

「………レイラ…大丈夫だから、落ち着いて」

 

 

私があまりに酷い顔をしていたからなのかルーピンが優しく話しかけながら近づいてきたが、私はそれが追い詰められるような気がして後ずさりをした。

 

 

…………違う………

 

 

 

私は……

 

 

 

「…取り消せ」

 

もう自分のことでいっぱいいっぱいな私の耳にドスの効いた低い声が聞こえてきた。ゆっくりと声のした方を見ると、セブルスが私を睨みつけながら杖をこちらに向けていた。そんな彼の姿を見た瞬間、私の中の汚く、醜い何かが入った殻は、大きな音をたてながれ崩れて、溢れ出すと一気に足の指先まで染まったように感じた。

 

 

 

「………………何よ………」

 

 

 

………本当に、貴方は…彼女のことばかりね

 

 

私の言葉にピクリと反応したセブルスを見て、私の口は勝手に動く。

 

 

「………何を、取り消せっていうの?」

 

 

そんなに彼女が大切ならさっさと好きだと言って、一緒になってしまえばよかったじゃない。

 

ただ彼女のことを庇うセブルスを見るのが辛くて、苦しくて、悔しかった私は拳をつくって力強く握った。

 

 

セブルスに睨まれていることが、杖を向けられていることがだんだんと悲しくなると、もう何も考えられなくなり、こういう時だけ簡単に口から言葉が出てくる。

 

 

 

「……私は悪くないじゃない。ただ思っていることを言っただけよ」

 

 

「…取り消せと言っているだろ!!!!」

 

 

「私は思っていることも言葉にしてはいけないの⁈」

 

 

 

セブルスの怒鳴り声を聞いた瞬間、私も彼に声を張り上げる。

 

 

「2人とも、落ち着いて」

 

 

何とかその場を鎮めようとしているルーピンは、私達を落ち着かせようとしてくるが、落ち着くわけがなかった。

 

 

「リリーに言ったことを取り消せと言っているんだ!!!!!!!」

 

 

彼の口から彼女の名前が出た瞬間、私の体は震えて胸が痛みだし、今まで大切に守ってきた何かは意図も簡単にまるで砂のように崩れ落ちると、私は彼を睨みつけていた。

 

 

何も知らないくせに!!!!!!!!!!

 

 

 

私のこの虚しさも、悲しみも、苦しみも辛さも、貴方を見る度に胸が温かくなって、苦しくなって愛しく思うこの気持ちも!!!!!

 

 

 

 

 

今でさえもう歯止めが効かないというのに、今目の前にいるセブルスをみた瞬間私は何故か怒りが溢れてくる。

 

 

私を見てくれないくせに!!!!!!!!!

 

 

あんなに愛しく想っているセブルスにこんなに苛ついたのは初めてで、こんな不思議な感情の消し去り方など知らない私は簡単に怒りに呑まれ、我を失った。怒りに任せて大声で彼に怒鳴りつける私の口からは、思ってもいないことを、セブルスに決して言ってはいけないこと意図も簡単に出てしまった。

 

 

 

 

「エバンズに穢れた血と言った貴方に取り消せなんて言われたくもないわ!!!!!!!!」

 

 

一瞬私は自分が何を言ったのか分からなかったが私の言葉を聞いた瞬間、セブルスの真っ黒な瞳に差し込んでいた光が一瞬だけ消えたような気がして、杖がゆっくりと下ろす彼の姿を見た瞬間、私は全身から血の気が引いた。

 

 

「………っあ…ちが…違うの…今のは…」

 

 

自分が何を言ってしまったのかすぐに分かって私は、セブルスに近寄りながら手を伸ばすが、彼はゆらりと後ずさりをした。

 

 

 

「……………………そう……か…………」

 

 

 

小さく呟くセブルスの声を聞いた瞬間、私の心臓は大きく飛び跳ねた。

 

 

「……………………その…通りだ……」

 

 

「…違う、セブルス、違うの。ごめんなさい。」

 

 

私は必死に彼に近寄って謝るが、彼は少し下を俯いたまま、何かを思い出すような表情を浮かべて、ぼそりと呟いた。

 

 

「…………………お前の…言う……通りだ」

 

 

 

「セブルス、ごめんなさい、こんなこと言うつもりなんてなかったの」

 

 

私の声は震えていて、彼に必死に近寄り手を伸ばすがセブルスの腕を掴むことは出来ず宙を切っただけだった。

 

 

……違うの、ごめんなさい。セブルス

 

 

今目の前にいる表情を変えずに少し俯いているセブルスを見た瞬間、自分が取り返しのつかないようなことを言ってしまったという事実が嫌という程はっきり思い知らされて、心臓が今にも爆発するんじゃないかと思うぐらいに緊張したように動き続ける。

 

 

…そんなこと言うつもりなんてなかったの

 

 

 

込み上げてくる涙を堪えながら彼に近寄ろうとするが、私の体は何故か動くことができなかった。

 

 

 

「一体何事ですか⁈」

 

 

騒ぎを聞きつけたマクゴナガルが入ってきたが何もかもが遅すぎて、セブルスは私の顔を見ずに背を向けた。

 

 

「少しお待ちなさい。」

 

 

帰ろうとするセブルスを引き止めるマクゴナガルの声を聞いても私はさっき簡単に口に出してしまった言葉を思い出して、その後は誰の声も聞こえなくなってひとり引きこもった。

 

 

……あっ…やってしまった………

 

怒りに任せてしまうのがどんなに怖いことか分かっていたことなのに…

 

 

何で、私はセブルスを苦しめるような言葉を簡単に口にできたのよ…

 

 

彼を苦しめるようなことをしてどうするのよ…

 

 

私はマクゴナガルと話しているルーピンに視線を移し、大人しく待っているセブルスの表情を見た。

 

無表情だったが、どこか傷ついたような悲しそうな苦しそうなセブルスの姿を見た瞬間私はもうその場にはいられなくなって、後ずさりをする。

 

 

「……レイラ…?」

 

 

 

私の様子がおかしいことに気づいたルーピンが私の名前を呼んできたが、あんなことを言ってしまった後悔が襲いかかってきていた私は、俯いたまま小さく呟くことしかできなかった。

 

 

「………………ごめんなさい………」

 

 

耐えきれなくなった私が逃げるようにその場から走り出すと、後ろからルーピンの声とマクゴナガルの呼び止める声が聞こえてきたが、足を止めることなんてできるわけがなく、私は自然と湖のところへ足を向かわせていた。

 

 

 

今日はやけに風が強く、髪も鬱陶しいほどに顔に当たってくるが今はそれどころじゃなかった。

木の下に座り、手で顔を隠して目を閉じる。

 

 

……最低だ………本当に最低だ

 

 

 

私が悪いのに………逆ギレして……

 

 

更には……彼を追い詰めるようなことを言って

 

 

本当に私は何がしたいのよ………

 

 

「…こんなんじゃ………彼を救えないよ…」

 

 

口に出すと嫌という程思い知らされて、涙が溢れ出てくる。

 

 

こんなんじゃ…セブルスの死を変えられない

 

 

………これじゃあ…変わるわけがない。

 

 

 

もう…………どうすればいいか…分からない

 

 

 

どうすればセブルスが笑ってくれるのか、

 

 

どうすればセブルスが生きている未来にたどり着けるのか、

 

 

どうすれば彼が幸せになれて、心から笑える日がくるのか…

 

 

 

もう分からない……

 

 

 

 

 

 

「…………誰か……助けて……」

 

 

 

 

 

私を助けて欲しいんじゃない…

 

 

誰か…私の代わりにセブルスを助けて欲しい

 

 

 

 

助けを求める声なんて、強い風に吹き飛ばされてしまったかのようにすぐに消えてしまって、誰にも届くことなんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場を逃げ出した私はあの後どうなったかは分からないが、あの後すぐにうずくまっている私を見つけたマクゴナガルに連れていかれたが特に説教も受けることはなかった。叱ってくれた方が楽だというのに、何も言わないものだから逆に責められているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠くないがベッドに横になりなりながら、誰もいるはずがない部屋を見回した。結局、あの後セブルスやエバンズにちゃんと謝ることもしないまま私は寮に戻って一夜を過ごしてしまった。

 

 

…………あぁ…授業…またさぼってしまった

 

 

 

私は呑気にそんなことを思いながら額に腕を当ててゆっくりと瞼を下ろす。今他の生徒は授業の真っ最中だろう。目が覚めても何故か食欲もなかったから大広間にも行っていないし、一応制服には着替えたものの、セブルスに会うのが怖くて、部屋から出ることができなかった。

 

 

 

…………嫌われたかな…

 

 

 

昨日のことを思い出して、私はまた溢れてきそうになる涙を堪えるために唇を噛み締める。今までだってセブルスと別に仲が良い友達だったわけではない。だけど、普通に話すことができるほどまでにやっと進展したというのに、昨日のたった一言で今後彼と話すことなんてないだろう。今まで、普通に彼と話していたことを思い出して、手を握りしめた。

 

 

 

……………本当に……馬鹿だな…

 

 

 

私はあの時の自分を責めるように心の中で呟いた。誰もいない部屋は勿論少しの物音でも聞こえるぐらいに静まり返っていて、私が少し眠ろうかと全身の力を抜いた瞬間、私を起こすかのように突然足元に置いてあるトランクが音をたてだした。それはあまりに大きな音で、驚いた私は最初何が起きているのか分からなかったが、直ぐに自分のトランクの様子がおかしいことに気がついた。ベッドから抜け出して暴れるトランクを駆け寄る。何かが中から出ようとしているかのように、鍵が今でも壊れてしまうのではないかと思うぐらい嫌な音を立てていた。

 

暴れ続けるトランクを手に持ち、ベッドの上に置くとトランクの重みで、毛布が沈み、恐る恐る暴れるトランクの鍵を開けた。その瞬間に勢いよく飛び出た何かは私の顔の前ギリギリを通り、天上にぶつかるとまた空いているトランクの中に落ちてくる。

 

危うく顔面に当たりそうだった私は何が起きたのかさっぱり分からずに少し放心状態だったが、トランクの中を覗き込んだ。

 

服などの着替えが少し入っているトランクの一番上には

 

………もう、あれから随分と開いていないあの本があった。

 

 

もうこの本には触らないと決めていた私は、トランクから出すこともしておらず、とりあえずトランクを閉めようと決心して手を伸ばす。

 

 

 

 

すると、目の前にある本はまるで私が触らないことを分かっているかのようにひとりでにパラパラとページがめくられて、白紙のページでぴたっと止まった。

 

そのページに今まで通り少し滲んでいる黒いインクで書かれた文章が浮き出てくる。

 

【貴女に伝えなければならないことがあります。】

 

その文章は、どこか焦っているように少し乱れていた。

 

【私は、的確なことは言えません。貴女なら気付いてくれると信じています。】

 

私が本に手を伸ばそうとした時、また文字が浮き上がってきた。

 

 

 

【今貴女はきっと私のことを怖がって触れないとでも決めたか、それか私のことなどもう信用していないのではありませんか?】

 

 

 

私の思っていることと全く同じことを的確に言い当てた本の文章を見て、私は少し本と距離を取る。

白紙のページにはまるで私に何か伝えたそうな文章がまた浮き出てきた。

 

 

【私が貴女が思っていることや感じていることを知っているのは当たり前なのです。

 

貴女は私。私は貴女です。…………しかし、貴女は私にはなってはいけない。】

 

 

「………貴女は…私?…」

 

 

私は浮き出てくる文章を目で追うので精一杯で、もうこの本が何を言っているのかがわからなかった。

 

 

【私は、…………

 

 

 

 

 

 

私と貴女にとって最悪の結末を迎えてしまった貴女です。】

 

 

 

「…ちょっと待って…」

 

私は無意識にそんなことを呟いていた。

 

 

【貴女に伝えたいことがあります。でも最初からそれを話したところで、きっと伝わらない。貴女がそんな簡単に信じれない性格なことは私が1番分かっています。だからこそ、私はこの本を作りました】

 

 

 

 

 

…この本が本当に私が作ったとしたら、考えられることはただ一つ。未来の自分が作ったということ。

 

……でも…そうなると…

 

……最悪の結末を迎えてしまったって……

 

 

「………セブルス…」

 

 

脳裏にセブルスが首から血を流し生き絶える姿が浮かび、心臓の鼓動が早くなった。今は、この本が本当のことを言っているのかはどうでもよくなって、私は吸い込まれるように何か必死に伝えようと浮き出てくる文章を読み続ける。

 

【…決して同じ結末ではありません。私は、貴女が今大切に想っている人を確実に救おうとその時がくるまで何も干渉もしなかった。

勿論確実に救えました。その時は、です。】

 

 

私に訴えかけるように乱れた文字が次々と浮かび上がってくると、消えていった。

 

 

【……私は、貴女は、一度救ったあの人を目の前で殺されます。もうすぐ全てが終わるという瞬間に、彼の真っ赤な血が流れることになる。いくら止血をしようとしても、治癒魔法をかけても血は止まらなくて、貴女は何も出来ない。

 

……本来の終わり方よりも、惨くて残酷で、彼は最後まで苦しんで息耐えます。貴女は自分の腕の中で、だんだんと冷たくなっていく彼を見て泣き叫び続けるしか出来ません。

 

…苦しんでいる彼を見て貴女は何も出来ない。】

 

 

浮かび上がってくる文章が必死に何かを訴えかけてきて、自然と頭に最近みた夢を思い出した。

 

 

『…………彼がいない…世界に…生きている意味なんてないの……』

 

「……あっ……」

 

 

そうか…そういうことだったんだ。

 

 

私はあることが思いついて、口から声が溢れた。

 

 

あれは夢じゃなかった…だからあの血の匂いも肉が裂ける音も、生々しい息苦しさもあんなに現実みたいだった。

 

あれは………この本を作った私の記憶……

 

 

 

 

 

【…よく考えてみてください。この世界の物語の流れはそう簡単に変えられません。貴女は、関わることのないはずの人間です。

 

そんな貴女が物語の流れの中の一部だけを変えれると思いますか?

 

今まで干渉もしてこなかった人間が行動を起こしたところでその時は変わったとしても、物語は歪んだ流れを戻してきます。結局のところ、貴女に物語を変えるほどの力などあるわけがないのです。】

 

もうこの本が誰か作ったのか分かった私は、この本が伝えようとしていることを必死で悟ろうと文章を目で追う。

 

 

私に物語を変えるほどの力がないことぐらいもうとっくに実感していた。だからそんなに驚くこともない。

 

…実際に変えられていないのだから。

 

 

 

【だったら、…もう物語の一部を変えるよりかは死の流れを変えるしかない。物語と死が別物だと気付いたのは私が彼を救えた時に死ぬはずだった人間が生きている姿を見たからです。彼が死んでも、その人たちが死ぬことはありませんでした。どうやら、彼の死がずれたことで死の流れが途切れたのでしょう。……もう分かったでしょう?

 

 

彼を救うためには、死の流れを変える必要がある。

 

 

彼だけではなく、死の流れを変える。

 

 

これが大切なことだとどうか忘れないで】

 

 

 

私は、手を伸ばして本を手に取り文章を見つめた。

 

 

【……救いたいものがあるのなら、何かを代わりに犠牲にしなくてはなりません。流れに関係する死は、物語に気づかれないように。空白に気づかれてしまったら、強制的に動き出す前に空白を埋めて誤魔化すしか方法はないんです。まるで最初からその人が死ぬべき人であるかのように物語を騙すんです。…………

 

 

全く干渉してこなかった私が、物語を騙すことなど出来るわけがありません。

 

…もう意味が分かったでしょう?】

 

 

 

…だから、この本はあんなにも私を物語と関わらせようとしていたんだ。

 

 

 

{記憶に頼りすぎるな}

 

 

{運命というのは、そう簡単に変えられません。貴女が存在するだけで流れが変わるなどあり得ません。貴女にそんな力はない}

 

 

今までの本の言葉を思い出しながら、私は納得して本に視線を戻した。

 

 

 

【…もう時間です。…私が貴女に伝えることはもうありません。私は貴女の言葉を聞くことはできません。ただ貴女に一方的に伝えるしか方法がなかったのです。……どうか許して、

 

 

彼を救えなかった私を許して。

 

 

 

……どうかお願いです。

 

今私がいる世界が訪れないよう、今の私が存在しないよう、行動してください。

 

もう二度と同じ過ちを繰り返さないで。今ならまだ間に合う。

 

 

………まだ物語は始まってもいないのだから…】

 

 

滲んでいるインクで書かれた文章の上に頰を流れた涙が落ちて、染み込んでいるのに気がついた。

どうして自分が泣いているのかさっぱり分からなくて、ただ溢れてくる涙を拭いながら、本を見つめ続けた。

 

 

【全てが終わった後この本をまだこのことを知らない貴女へ】

 

 

白紙のページに浮かび上がると、音も立てずに消えて、本はまるでもう役目が終わったかのようにばたんと音を立てながら閉じた。

 

 

これは………

 

セブルスを救うことができなかった私が書いた本だった。

 

 

 

だから、記憶を思い出した頃に丁度タイミングよく私の隣に本を落とすことができた。……

だから私が悩む時期にタイミングよく忠告をすることもできた。

 

……間違っても本を捨ててしまわないようにと、私に未来を知っていると印象付けるために、拾った直後に未来を知っているような文章が浮き上がってきたんだ。

 

……未来の私が書いたとはいえ、所詮は私だから考え方も感じ方も全く同じで、気づくと思ったのだろう。

 

 

……でも、そうなるとあのクリスマス休暇を過ごした図書館で未来の私がいたことになる。

 

 

………逆転時計を使ったのだろうか…

 

 

いや…でも……それはありえないだろう。逆転時計は魔法省しかないし、そうなると盗んだことになる。それに手に入れたとしても私は、未来の私の姿を見ていないし、逆転時計を使ったということは今この世界にこの本を作った私がいることになる。

 

そう思い考えているとある言葉が頭によぎった。

 

 

『時は進むばかりで決して戻らない。…時が止まることはあっても戻ることはできない。

 

貴女は時を止められても時を戻すことはできない。

 

しかし貴女自身がそれを望むというのなら、時は戻れるのだろう。』

 

 

「……ペンダント…」

 

 

そうだ。ペンダント……

 

 

……じゃあ、ペンダントで時を戻し、止めて私に届けたのだろうか。

 

 

 

私は、最後浮かび上がった言葉を思い出しながら少し息をついた。

 

 

 

【全てが終わった後この本をまだこのことを知らない貴女へ】

 

 

 

 

…この言葉の意味は……次は私が過去の自分に届ける番だということだろう。

 

 

 

 

セブルスを確実に救おうと、このまま関わらず何もしないとところで何も変わらないということも、必死に本が伝えようとしたきたことも大体は理解できた。

 

………でも、できるだろうか。

 

 

…そんな簡単に、人は変われるものなのだろうか。今まで、ろくに関わろうともしなかった私がそんな急に動けるのだろうか。

 

……昨日あんなことを言ってしまったのに…

 

私は不安を抱きながらトランクの奥に本を丁寧にしまい込んだ時、ふとあの夢で見た記憶を内容を思い出した。

 

 

 

……どうして…私は………あの時自分で命を絶ったのだろうか…

 

 

 

彼を目の前で失い、死にたくなるのは分かるが私にそんな自分の首筋を刃物で切り裂けるほどの勇気があるとは思えない。

 

 

それに…なんで、アウラに本を託したの?

 

 

死ぬなら死ぬでその前に過去の自分に本を届けて全て終わらせてからの方がいいだろう。

 

 

どうして、わざわざ自分ではなく、アウラに本を渡したんだろうか…

 

 

 

「………何か…おかしい…」

 

 

 

何かモヤモヤとするものが胸に残ったが、どうすることもできなかった。

 

 

 

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