夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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19 楽しくないお茶会

 

本が伝えようとしたことは大体理解できた。物語の流れが変わることを恐れてばかりだと救えるものも救えない。人の死を変えるには、他の人の死を変えて物語に気づかれないように流れを変える必要がある。

 

それと私はあとひとつ悟ったことがある。それは、セブルスの死は物語に大きく関係しているということだ。

…そうでなければわざわざあの時に物語に関係している人の死の変え方を丁寧に教えるはずがない。

 

 

…確かによく考えてみれば、彼の死であの人はニワトコの杖が自分のものになったと思い込み、そのおかげでハリーは死なずに済んで、あの人をこの世から消滅させることができた…

 

 

全く、関係がないわけじゃない…

 

 

 

 

 

………でも今は…まず

 

 

……セブルスに謝らないと…

 

 

 

あの時のことをまだちゃんと謝っていなかった私は、謝ろうと思っても中々タイミングが掴めずにいて時間だけが残酷に過ぎていっていた。

 

 

話しかけようとしても、声が出ず、一歩が踏み出せない。

 

 

 

今日こそは今日こそはと言い聞かせても、伸びに伸びているから今こうしてセブルスの後を追っているストーカーのようになってしまっている。

 

 

私は、壁から覗き込んでは廊下をひとりで歩いている彼を確認して、呼吸を整えて、一定の距離を保ちながらセブルスの後を追いかけた。

すれ違う生徒からはちらちらと、何か変人を見るような目で見られているが今はそんなこと気にしていられず、人気の少なくなったところに出た時に話しかけようと自分に言い聞かせる。

 

 

運良く、前を歩くセブルスは人気の少ないところへと出てくれて、私はばくばくと緊張しだす心臓の鼓動を全身で感じながら、覚悟を決めて彼の名前を呼ぼうと息を吸い込んだ。

 

「…何か用か?」

 

前を歩いていたセブルスはどうやら私が後をつけていたことに気づいていたようで、しびれを切らしたように彼の方から問いかけてくる。

私の方を振り返り、問いかけてくるセブルスの声は低くて、体は自然と緊張しだした。

 

 

「………貴方に…言いたい…ことがあるの…」

 

 

声は震えていたし、途切れ途切れだったがちゃんと声に出せたことにまずはほっとした。

 

 

 

「……あの時…貴方に……酷いことを言ってしまったことを…謝りたくて…」

 

 

 

一度声が出れば後は簡単に出るもので、私はセブルスの瞳を見ながら声を出す。

 

 

………許してくれるとは思っていない…

 

 

こんなの…私の自己満足だ………

 

 

そんなこと分かってる。

 

 

 

 

「……別に謝らなくてもいいだろ」

 

 

セブルスの口から出た冷静で淡々とした声に、私は驚きを隠せず黙り込んだ。

 

 

「お前が言ったことは正しいじゃないか。僕が彼女にあんな言葉を言ったのも、彼女を傷つけたのも、あんなことを言う資格がないことだって、全部お前の言う通りだ」

 

 

あまりに冷静に淡々と言うものだから、私は声が出なかった。

 

 

 

「だからそんなこと気にしなくていい」

 

 

………どうしよう…何て言えばいいのか分からない…

 

 

「違う…あれは私が悪くて……貴方は悪くない」

 

 

思っていることを上手く言葉にできなくて、私の口からは途切れ途切れの言葉しか出てこない。

 

 

「私が勝手に怒って、逆ギレして」

 

 

「僕も、杖を向けた」

 

 

「酷いことを言った」

 

 

「だから、それは気にしていない」

 

 

途切れ途切れの私の言葉に1つずつ返してくるセブルスの言葉が、私にのしかかってくる。

 

 

「…お前が後ろめたく思う必要なんてない。だから、もう気にするな」

 

 

表情ひとつ変えずに言ったセブルスは、それだけ私に言い残して、その場から去っていく。私はそんなセブルスにかける言葉を見つけることが出来ず小さくなる後ろ姿を見つめるしかなかった。

 

 

私は瞼を下ろして呼吸を整えると、あの時怒りに身を任せた自分にも、自分で壊したくせに悲しくなる私にも、何故か無性に腹が立ってくる。

 

 

どんなに後悔しても、もう元には戻せない。

 

 

………あの言葉を無しにはできない…

 

 

私は、小さくなったセブルスに背を向けてゆっくりと歩きだす。

 

 

…………こんな気持ちだったのかな…

 

 

 

私は後悔の念に押しつぶされて痛む胸の痛みを感じながら、彼とは逆の方向に歩き進めた。

 

 

………セブルスも……彼女にあの言葉言ってしまった後…こんな苦しくて、痛かったのかな

 

 

結局私は自分のことしか考えてない。

 

彼の幸せも願えず、

 

彼を苦しめるような言葉を簡単に吐き出して、

 

 

 

……何が、セブルスを救いたいよ。

 

 

 

こんなんじゃ、絶対に救えない。

 

 

変わらないと、

 

 

こんな弱くて、臆病者な私を

 

 

自分のことしか考えられないような私を

 

 

泣いてばかりな私を

 

 

 

 

 

捨てるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これから…どうしようか…」

 

 

 

私は呑気にそんなことを呟きながら、遠目で友達と話しているセブルスの姿を目で追った。物語に干渉しないことが一番の近道ではないことは分かった。…だが、この状況で一体どうすればいいのだろうか。

 

謝ったとはいえ、関係が元に戻るわけがない。すっかり闇の魔術に染まったセブルスとどう関わればいいというのだろう。彼は、あちら側の友達と行動しているから、話しかける隙なんて見せてくれない。それに、私がそんな急に動けるほどの勇気もあるわけがない。

 

……やれないじゃなくて…やらないと

 

そう思ってもそう簡単に動けなくて、私の為に時間が止まってくれるはずもなく、ただ時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

ひとつ変わったことといったら、日付が増えるごとに連れてポッターがセブルスに突っかかることが極端に減っていったことだ。私が怒鳴り散らしたあの出来事から、本当に最近は見ていない。

あんなに顔を合わせただけで日常茶飯事のように喧嘩をしていたはずなのに、今はもう顔を合わせてもお互い杖を取り出すことはなく、平然と通り過ぎていくのだ。

 

ポッターの傲慢さが少しずつなくなるのに比例するかのようにセブルスはどんどんと闇の魔術に没頭していっている様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両手に教科書と羊皮紙を抱え、これから一体どうしようかと考えながら、図書館で勉強をしようかと移動している時に、こちらを見てにこにこと笑いながら手招きをしているダンブルドアが目に入った。どうやら彼は散歩をしていたような様子だったが、…全く話したことのない長髭のお爺さんに親しげに手招きをされるのはある意味恐怖でしかない。

 

 

辺りを見回して見ても、完全に私を呼んでいて、渋々ダンブルドアに近寄った。

 

 

「……何か用ですか?ダンブルドア先生」

 

少しめんどくさいオーラを出しながら、言うと笑い声が聞こえてきた。

 

「露骨に嫌がらんでもよかろう。」

 

「それで、何か用ですか」

 

「儂と少しお茶をせんかの?」

 

「いや、結構です。」

 

めんどくさい事になる事が大体想像できた私は、断りを入れてダンブルドアの青い瞳を見つめた。

 

「…先生方が、来年はN.E.W.T試験があるからといってすごい量の課題をお出しになるので、終わらないんですよ。……先生が少し減らすようにと言ってくれるのであれば、お茶をする余裕もあるんですけどね」

 

適当な言葉をペラペラと並べてその場を立ち去ろうとすると、少し考え込んだダンブルドアは、驚くようなことを言い出した。

 

「…では儂から少し減らすようにと先生方にお願いをしてみようかの。そうすればお主とお茶をする事ができるということじゃろう?」

 

相変わらずにこにこと笑いながら話すダンブルドアを見つめて、私は溜息をついて渋々了解すると表情を変える事なく日時を伝えてきた。

 

 

「今週の日曜日の3時ぐらいに校長室に来るといい。美味しいお茶とお菓子を用意しとくでの。くれぐれも忘れる事がないようにすることじゃよ」

 

 

そう告げたダンブルドアは満足そうにその場を去っていく。

 

 

……日曜日の3時か……

 

 

少し憂鬱になりながら、その日は図書館で課題を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

日曜日なんてあっという間にきて、私はすっかり3時を指している時計の針を見ながら、重い腰を上げてゆっくりと校長室に向かった。

 

目の前に立っているガーゴイルを見つめて私は合言葉を教えてもらってない事に気付いた。

 

ダンブルドアが合言葉にしそうな言葉をいくつも口に出してみたが、ガーゴイルが動くことはなく私はもう諦めて帰ろうとする。

背を向けた時に後ろから、石が擦れる音が聞こえてきて振り返るとなんとあんなに何も反応がなかったガーゴイルが動いて螺旋階段が目の前に現れた。

 

「………最初からそうして…」

 

ダンブルドアが開けてくれたのか、何なのか知らないが、最初から開けてほしかったし何よりダンブルドアが合言葉を教えてくれていればこんな廊下にひとりずっと佇んでいることもなかったはずなのだ。

 

私は少し苛つきながら階段を上っていたが、校長室の扉を見た時には、初めての校長室に少しドキドキしながら中に入った。

 

 

 

 

思い出した記憶と全く同じ内装で、ダンブルドアが1人がけの椅子に深く腰掛けてひとりお茶をしていた。

 

「よくきてくれたの。もう3時半じゃからきてくれないのかと思ってひとり寂しくお茶をしてしまったわい。…ほらそこにお座り」

 

 

にこにこと笑いながら話すダンブルドアの声を聞きながら、ひとりでに私の所まで近寄ってきた椅子に腰掛けて、ふよふよと宙を浮きながら私の手元まできたティーカップとクッキーがのったお皿を受け取って近くの机に置いた。

 

紅茶を一口飲んでいると、ダンブルドアが愉快そうに話しかけてくる。

 

「ご両親は元気かね?」

 

「えぇ…というより、母と父を知っているんですか?」

 

「勿論じゃよ。2人ともこの学校を卒業したからの。……そういえば、ノアも元気かな?」

 

「あぁ…兄は相変わらずドラゴンに熱中していますよ。」

 

「あの子は少し変わっておったからの」

 

何か思い出したようにダンブルドアは1人笑い出した。あまりこのお茶会自体乗り気ではなかった私は、クッキーをひとつ頬張るとまだ笑っている彼を見つめて本題を切り出す事にした。

 

 

「………それで、私に何の用ですか?」

 

 

私の言葉に、ダンブルドアの表情が変わったのを感じたが、出来るだけ瞳を見つめた。

 

 

「…お主とお茶会をしようかと思っただけじゃよ。」

 

「………死喰い人のことですか?」

 

誤魔化そうとするダンブルドアの言葉を無視して私は、彼に呼び出される心当たりを口に出した。

 

「……貴方なら、もう知っているのですよね?今母も父も兄も勿論私も、命を狙われていることぐらい。」

 

ダンブルドアは何も言わずに私をただ見つめてきた。

 

「……大丈夫ですよ。人は死ぬ時には死ぬのですから。私の場合はそれが少し人よりも早いかもしれないというだけです。」

 

「………君は死を恐れていないのか?」

 

ダンブルドアの青い瞳が私を捉えて、じっと見つめてきた。

 

……本当にこの目は嫌いだ。

 

まるで全てを見透かしてきそうで、今この時も私がこの世界の未来を知っていることさえも彼だったらとっくに知っているのではないかと思うくらいだ。

 

 

「……私はそんなに強くありませんよ。

 

…死ぬなんて怖いに決まっています。………やりたいこともありますし…」

 

 

私はゆっくりと立ち上がって、校長室を後にしようとダンブルドアを見つめた。

 

 

「貴方がいる限り此処は安全なのでしょう?…だったら大丈夫ではありませんか。……

 

……それで、話は終わりですか?」

 

 

私が少しめんどくさそうに言うと、ダンブルドアはゆっくりと口を開く。

 

「…少し儂の耳に真面目な君が、今年に入って授業を無断欠席しているという話が入ってきての」

 

 

「…あぁ…大丈夫です。ちゃんとこれからは、授業をサボることなんてしませんから」

 

 

私はさっさとこのお茶会を終わらせたくてしょうがなく、作り笑顔を浮かべる。

 

 

「じゃあ、そろそろ失礼しますね。

 

美味しいお茶ありがとうございました。」

 

 

私が軽くお礼を言うとダンブルドアはまたいつもと変わらずにこりと笑みを浮かべた。

 

 

「いつでもおいで。儂は結構暇じゃからの」

 

 

何とも嬉しくのないお誘いを受けて私は貼り付けた笑顔を浮かべながら、校長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

このお茶会は、結局何のためにやったのだろうか。私に何か変化がないか見るためなのか、何か探りを入れるためなのか。

ダンブルドアのあの様子だと、父と母のことは知っている様子だったし、何より兄とは親しそうな感じだった。

 

……流石のダンブルドアでも私が未来を知っていることはまだ知らないだろう

 

だけど…この調子だとすぐにばれてしまいそうな気がしてならない…

 

 

いつも通り笑みを浮かべてくるダンブルドアの顔が浮かんできて溜息がでた。

 

しかし…何とも楽しくないお茶会だった。これは断言できる。……あんな威圧をかけられては、せっかくの美味しいお茶も不味く感じるし、…というより私はあまりダンブルドアは好きではないからそう感じただけかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読む気などさらさらない魔法薬の本を片手に、歩き慣れた廊下をただ歩き進める。すっかり暖かくなり、天気もいいこんな日には外に出て空気を吸ってみたい気分だ。

 

外に出ると、太陽の日差しで目が眩み前が見えなくなるがそれも適当に歩いていると段々と慣れてきた。何人もの生徒達とすれ違いながら無意識に私は湖の方へと歩いていたらしく、あの場所に着いていた。ちらほらとしか人がおらず、私は木の影に腰を下ろして、もたれながらきらきらと輝いている湖を見つめる。

 

 

木の影にいると気温もちょうどよく時々ふく風が気持ちよかった。少しウトウトしながら、ただぼんやりと過ごす。

 

 

……お昼ご飯…食べに行かないと…

 

 

 

そう思っても、私は動くこともせずに読む気がないがとりあえず本を開く。

 

魔法薬の本を持っているとセブルスが側にいるような気がするのは気のせいだということも分かってる。だけど、やめられない。

だからこうして気づけば私は図書館で魔法薬の本を借りては、肌身離さず持っている。

 

 

………本当にそろそろ…病気だな…

 

 

そう思うと、乾いた笑いが溢れた。私は襲いかかってくる眠気に抵抗もせず、瞼を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暖かい日差しがまるで体を包み込んでくれているみたいでもう気づけば意識などなく、ゆっくりと目の前にはセブルスがふわりと現れた。

 

私の方を見て満面の笑みを浮かべるセブルスに駆け寄り、思いっきり抱きつくと彼は優しい包み込んでくれる。

 

 

『……レイラ…』

 

 

私の名前を読んでくれるセブルスの声を耳元で聞きながら私は口を開く。

 

「………セブルス…大好きよ、愛してる」

 

当たり前のようにセブルスの手が優しく頭を撫でてくると少し恥ずかしそうな声が聞こえてきた。

 

 

『………僕も…君を、愛してる…』

 

 

あぁ……幸せだ…

 

こんなに近くにいる。

 

セブルスが抱きしめてくれている。

 

彼が私の愛を受け取ってくれる。

 

 

 

私に笑いかけてくるセブルスを見て、私も自然と頰が緩んだ。彼の頰に手を伸ばし、触れた瞬間に誰かが私の中に入ってきたような感覚に襲われたかと思うと、寒気が襲いかかってきて、気持ち悪い感触がする。すると目の前にいたはずのセブルスは、煙になって消えて目の前には、今まで見たことあるような光景が混ざっているかのように、色々な色が急激に移り変わっていく。

突然止まったかと思えば、目の前にはいつも通っている廊下が広がっていた。私は何が起こっているのか分からないまま、何かをすることもできない。

 

 

…少し……視線が低い…?

 

 

いつもより明らかに視線が低くく、自分が手に持っている魔法薬の本は真新しいもので、見覚えのあるものだった。体はいうことを効かず、まるで一人称の映画を見ているかのように、ただ勝手に視線の方向も変わっていく。

 

ゆっくりと本から視線が上がったかと思うと、目の前には幼いセブルスとエバンズの2人の姿が目に入った。その瞬間、ヒュッと息がもれて、血の気がひく。

 

 

…いや…やだ…見たくない!!!やだ!!!

 

 

拒絶しようとも、今まで思い出さないようにしてきた記憶は意図も簡単に進んでいく。

 

まだきらきらと輝いている私の世界は、一途にセブルスを見つめながら、期待するかのように勇気を振り絞って2人に近づこうとする。

 

友達に呼ばれたエバンズがセブルスの側を離れると今だと言わんばかりに大切そうに本を抱えながら駆け寄ろうとした瞬間耐えきれなくなった私は叫んでいた。

 

やめて!!!!!!!!!!!!

 

今から見てしまう光景を見てしまわないように、止めさせるように手を伸ばすと、誰かの腕を握った。

 

 

瞼を勢いよく開けると、私は呼吸を乱しながらレギュラスの腕を握っていた。彼の後ろに広がっている湖は、さっきと変わらずきらきらと輝いている。

 

 

少し前のめりになっている彼と、さっき見たことを思い出してレギュラスが何をしたのか大体予想がついた。

 

 

………開心術…

 

 

やった本人も私が閉心術を使えることに驚いた様子だった。私自身、使えるなんて思ってもいなかった。

 

今この時だって実感がない。

 

 

 

 

「………覗き見なんて……最低ね…」

 

 

 

 

私は苛立つ気持ちを抑えられず、彼の体を乱暴に突き放す。他人に勝手に記憶を見られるのは、気持ちの良いものじゃない。

 

 

……彼はどこまで見たのだろう?…一体どこからどこまで…

 

 

立ち去ろうとする私の腕を握って、引き止めてくる。

 

 

「………勝手に覗いたことは謝ります。…だけど、貴女がクリーチャーにあのコインを渡した理由が知りたかったんです。」

 

 

必死に話しかけてくるレギュラスは、随分と彼らしくなかった。

 

 

「クリーチャーが教えてくれた貴女の言葉はまるで、未来を知っているみたいだ………

 

 

 

 

貴女は一体何を知っているんですか?」

 

 

 

レギュラスは私を逃さないようにと手首をきつく握りしめてきて、少し痛かった。

 

 

「……どうしてそれを私に聞こうともせず、最初から覗いてきたの」

 

 

 

「…それは……貴女に直接聞いたところできっと誤魔化されるのは明白ですし、…話したくても貴女が僕のことを避けるので、話すタイミングなんてなかったから…」

 

 

「別に貴方を避けているつもりなんてないわよ。……用がないのに、話すこともないじゃない。」

 

 

私は彼の手を剥ぎ取って、睨みつける。

 

 

「勝手に覗いておいて色々と都合良すぎないかしら。

 

 

 

 

そんな奴に答えたくもないわ………貴方には、がっかりよ」

 

 

彼に背を向け立ち去ろうとするが、それでも諦めない彼の声が後ろから聞こえた。

 

 

「待ってください!」

 

 

私は足を止めて杖を取り出し、近寄ってくる彼に向けた。レギュラスは、びくりと体を停止させ、私を見つめてくる。

 

 

「……付いてこないで。…………私は貴方を傷つけたくない。」

 

 

夢だろうと、セブルスに抱きしめられたのが嬉しかった私は、彼が覗いてきたことと、彼の開心術のせいで夢が消えてしまったことに腹を立てていた。

 

私の低い声を聞いたレギュラスは自分を責めるような表情を浮かべる。私は、彼に背を向けて駆け足で学校に戻った。

 

少し泣きそうになって涙が溢れてしまう前に目を擦り、逃げるように寮に向かう。

 

 

だめ、泣いたらだめ。

 

 

あまりに幸せすぎたあの夢から覚めた私には、ただ胸のあたりが重苦しくなって虚しくなると、悲しみだけが襲いかかってくる。

 

 

あんな夢を見ても、幸せな時はその時だけ。

 

 

セブルスが言ってくれたあの言葉も、

 

 

抱きしめてくれた感触も、

 

 

貴方が私にだけを見て向けてくれた笑顔も、

 

 

 

……もう…何も残ってない。

 

 

 

 

 

こんなに悲しくて、虚しくて、苦しいのに、なんでもう一度見たいと思ってしまうんだろう。

 

 

 

 

…なんで………

 

 

 

 

 

 

…私はまだ期待をしているの……

 

 


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