記憶を思い出してから何度も何度も眠りについては忘れようとした。もし、これ自体が夢だったらどんなに幸せなんだろうと思いながら毎日寝床についていたが、どうやら夢からは覚めることはできないらしい。
目を覚ませば、そこは変わらない風景で同じ部屋のルームメイトが寝息を立てながら眠りについていた。
ほら、また覚めなかった。前世の私はこの世界に行きたいと何度も願っていたらしいが、それはお勧めしない。この世界では、杖一本と言葉を並べた呪文を唱えるだけで、人を思い通りに操ったり、怪我をさせたり傷つけたり、命を簡単に奪ったりできるのだから。現に今死喰い人の活動が活発になってきていて、魔法界には不穏な空気が漂っていた。
両親から手紙を書くように言われたことを思い出して私は手紙に羽ペンを走らせた。
新しい学期も始まり、もう二カ月も経っていた。長期休暇で家に帰省した時に、手紙を送らなかったことを酷く両親に叱られたことを思い出しながら、あったことをつらつらと書き出していく。
ぱっと見ただけでも適当に書いたと分かる手紙を見て、封筒に入れて封をした。
気づけば、ルームメイトも起き始めていた。私は、朝の挨拶もせずに重い腰をゆっくりと上げて、制服に着替えると部屋を後にする。
勿論朝食を一緒にする友達なんてものはいる訳がなく、ちらほらとしかいない大広間で適当に済ませた。どうやら、少し起きるのが早すぎたらしい。
私は、楽しそうに話しながら隣を通り過ぎるグリフィンドールの女子生徒達のグループを目で追いながら、梟小屋へと足を向かわせた。残念ながら私は自分の梟を飼っていない。だから、学校で管理している梟を使うしか他なかった。
曲がりくねった階段を上り、扉のない石造りの小さな小屋に入るとまず1番に目に入ったのは梟でもなく、本を読んでいるセブルスの姿だった。
私の足音にゆっくりと顔を上げたセブルスは、ちらっと顔を見るとまた本に視線を戻す。
どうしてこんな所で本を読んでいるのだろうか。セブルスの制服の裾から微かに見える包帯が巻かれた手首を見て、そんな疑問に私は勝手に答えを出す。
ポッター達がいる大広間で本を読むのはあまりに危険すぎるだろう。きっと取り上げられて返ってこなくなる可能性だってある。だからといって、寮の談話室で読んでいても最近純血主義の思想が一層に強くなっているスリザリンで読んでも気が散るだけだ。
そう考えると、こんな朝早くに梟小屋に来る生徒なんて早々いないし、梟の糞と動物特有の臭いを我慢さえすれば、本を一人静かに読みたい彼にこんなとっておきの場所なんてないだろう。
私は、起きている梟を抱きかかえて、手紙を咥えさせた。優しく、外に放してやると梟は翼を広げて飛び立っていった。何処か飛べることに嬉しそうな梟はだんだんと小さくなっていく。
梟を見送って、セブルスに視線を移すと彼は少し険しそうな表情を浮かべながら本を読んでいた。
少し眉間に皺を寄せているのを見て、つい最近みた彼の最期を思い出した。
……彼が命がけでエバンズが残した子を守り抜く姿、最後まで誤解されたまま命を絶つ彼、首から血を流し、ハリーに記憶を託す貴方の涙が頭を駆け巡ってくる。少し、胸が苦しくなって鼓動が速くなった。
私は、『ハリーポッター』の登場人物達に関わってはいけない。関わってしまったら、ここで未来を変えてしまったら、私が思い出した未来は意味がなくなる。
それだというのに、私はセブルスに話しかけていた。
「…貴方、闇の魔術…興味あるの?」
急に話しかけられたセブルスは、驚いた様子で私の顔を見てくる。
「その本…よく最近読んでるよね」
私がセブルスが持っていた本の表紙に視線を落とすと、彼は何も答えずに本の表紙をゆっくりと隠した。
私は何も言わずにただただセブルスの真っ暗な瞳を見つめた。私の方から話しかけておいてなんだが、これ以上どう話せばいいか分からないからだ。
「………僕が何を読もうとお前には関係ない」
静まり返っていた梟小屋に彼の声が響き、耳に入ってくる。セブルスの口から出た言葉は何とも冷たいものだった。どうやら、私は闇の魔術に対してよく思っていないと思っているらしい。……セブルスに誤解されたままは嫌だが、訂正するのも面倒さいし、何より誤解されたままの方が今後動きやすいかもしれない。
「…そうね…貴方が何を読もうと私には関係ない、…けど、もう少し周りを見渡してみたらどうかしら?」
私は、セブルスに自分が言える範囲のことを言って、梟小屋を後にしようと背を向けた。
彼はどんな表情をしているのだろう。セブルスはよく頭が回るから、この意味がわかる日は早々遅くはないとは思うけど、こんなふんわりとした言葉で未来が変わるはずもない。
これは私の自己満足だ。このままセブルスと彼女の中が引き裂かれることを分かっておきながら、何もせず見ているだけの自分をいつか許せなくなるかもしれない。
セブルスが苦しみ悔やみ、嘆き悲しむ姿を見たら、自分が壊れてしまうような気がしたから。…大切な人が苦しむ姿を見るというのは胸が痛く苦しくなるものだろう?
こんなふんわりとした言葉を言っただけでも、事実私は何もしていない訳ではない。
きっと私は後からこれを使って言い訳をする。少しでも、感じる罪の意識を軽くするために…
未来を変える度胸なんてない卑怯な私を、貴方の1番の幸せを願うことができない最低な私をどうか許してほしい。
心の中で、セブルスに許しを乞うように謝り続けた。声に出さなければ届かないなんて、本当に人間というのは面倒だ。
私は、大鍋の中でグツグツと煮込まれている泥のような色のどろっとした液体を棒のようなもので優しくかき回した。今は、グリフィンドールとの魔法薬学の合同授業だ。斜め前の机で作業しているセブルスは、いつもの不気味な雰囲気とは一変し、まるでお気に入りのおもちゃで遊ぶ子供のように楽しそうな雰囲気が溢れ出ていた。
後ろ姿を見ただけで分かるのだから、よっぽどだと思う。
私は、自分の大鍋に視線を戻して、さっき潰したばかりの薬草からとれた液体を2、3滴大鍋へと入れた。泥のような色のどろっとした液体はたちまち綺麗な赤色に変わると、少しキラキラしたような湯気が立ち上った。これで終わりでいいと思うのだが、どうやらそんな簡単ではないらしく、もうひと煮えさせないといけないらしい。
魔法薬学は、あまり好きではない。材料を入れる量やタイミング、薬を掻き回す方向に回数、熱する温度や時間など、ひとつひとつ慎重にことを運ばなければ、失敗してしまう。
私は赤色の液体を反時計回りに3回半掻き回しながら、教科書に視線を移して確認する。後はグツグツと煮えるまで待つだけだった。
ふとグリフィンドールの寮の机に視線を移すと、明らかにポッター達がセブルスの方を見て何やら企んでいる様子だった。
前世の記憶を思い出してからは、何かと自分の気持ちには嘘をついてきた。記憶を思い出したといっても、『ハリーポッター』の物語以外は途切れ途切れで、自分がどのように死んだのか、何歳まで生きたのかも分からない。だが、明らかにここにいる誰よりも精神年齢は勝っている自信はあるし、楽しそうに企むポッター達を見て、若いなーと思ってしまった私はもう年寄りだと思った。
何やら楽しそうに企むポッター達と、楽しそうに調合を続けるセブルスの後ろ姿を交互に見る。
…何もしないと決めていたが、もう少しで調合が終わるであろうセブルスの後ろ姿を見て、杖を取り出そうとしている彼らに近づいた。
幸いなことに、生徒達は自分の大鍋に集中していたし、スラグホーンもひとりの生徒にアドバイスをしていたため、誰も私がグリフィンドールの席に近づくのには気づいていなかった。
ローブの中にある自分の杖を取り出そうとするポッターの腕を後ろから握ると、彼は首がもげるんじゃないかと思うほどの速さで振り返った。それほど驚いたのだろう。勿論、側にいたブラックやルーピン、ペティグリューも私の顔を見てくる。
「お前、何で」
私の言葉より先に、ポッターが口走った。
本当に彼はお喋り好きらしい。そんなにすらすら思っていることが口に出せるなんて羨ましい限りだ。
私は、ポッターの大鍋の中に入っているまだ煮えていない少し赤黒い色をした液体を見つめた。
「まだ、煮えてない。…杖を振るのは、液がグツグツ煮えてからって教科書に書いてるわよ」
私の言葉に、見開いていたポッターの瞳は、優しそうな光を取り戻して私に笑みを向けた。
「あぁ…ありがとう。本当だね、君のいう通りだ」
そう言うポッターの表情は、私のローブの色を少し睨みつけていた。
横目で、出来上がった薬を瓶の中に入れるセブルスの姿を確認して、ポッターの腕を手から離す。ブラックは、瓶に薬を移し満足そうなセブルスの姿を見て、悔しそうな様子で私を睨みつけてくる。
「……貴方達も何のためにいるか分からないわね。…こんなに側にいるのに誰も止めないなんて」
ポッターの周りに立っている、3人の顔を一人一人見て、顔に大きな傷のあるルーピンの瞳を見つめた。
もし、ここにいる彼らの中で誰かがポッターとセブルスが犬猿の仲になるのを止めてくれていたらどんなに良かったのだろう。
もし、君達が抵抗のできないセブルスを虐めるポッターを1分でも1秒でも止めていれば、あんな未来なんて存在しなくて済んだはずだし、なんだったら組分け帽子がセブルスをスリザリンではなく、グリフィドールに組み分けをしていたら、何かが変わっていただろう。
セブルスはスリザリンではなくても、グリフィンドールの色のローブもきっと似合っていただろうし、彼にとっても幸せな学生生活になっていた筈だ。
…そしたら、私が彼に恋に落ちることも何もなかったのに。
「おや、何故君がここにいるんだい?」
様子を見に周りに来たスラグホーンが、グリフィンドールの生徒達の中にただ一人スリザリン色のローブを身に纏った私を見て不思議そうに問いかけてきた。何も答えない私を見つめ、スラグホーンは私に助言をしてくる。
「ほら、早く戻りなさい。見たところによると君はまだ調合が終わってないだろう」
スラグホーンが、あまりにごく普通に注意するものだから、今まで大鍋に集中していた生徒達も顔を上げ、私は注目の的だった。
スリザリンの生徒達は、私の方を見て変わったものを見るかのような目つきで睨んでくる。私の家系が純血でありながら、純血主義の思考が強くないのはもう有名で、それが彼らにとっては面白くないらしい。そんな奴がグリフィンドールの中に混じり、何やら手伝っている様子を見たらそりゃあもう睨まれるに決まっている。
私は、そんな睨んでくるスリザリンの生徒達の中にセブルスの姿もあることに気がついた。彼は何を思って感じているのだろうか。やっぱり私を嫌っているのだろうか、それともどうでもいいと感心さえもないのだろうか。直ぐに教科書に視線を戻して何やら書き込み始めたセブルスの姿を見て彼に問いかけた。
…貴方は私をどう思ってるの?
心の中で問いかけた答えを教えてくれる声など聞こえることもなく、私は溜息をついてルーピンの瞳を見つめた。
この中で1番セブルスを止めてくれる望みがあるのは、彼だ。人狼であるルーピンは、相手に敵対心があるかどうか日常的に神経を常に研ぎ澄まして過ごしている。だから、きっとその人の言動や表情で心情を読み取るのが得意だろう。常にどう自分が行動すれば相手が喜んでくれるのか考えながら行動に身を移す。
「…僕の顔に何か付いてる?」
あまりに私が顔を見つめるもんだから、ルーピンは少し戸惑ったように聞いてきた。ある一定の場所を見ながら頭の中で考え込む私の悪い癖は直ることなく、それどころか私はついつい口に出してしまった。
「痛そうね。その顔の傷、まるで獣の鋭い爪に襲われたみたい。」
獣という言葉に、目を見開いたルーピンをしっかりと見て、その場を立ち去った。…そんな傷つけるつもりはなかったのよ。ただ、何か言わないとまずいかなと思ったら、もう口から出ていたから。
私は何気ない顔で、自分の大鍋が置いてある席に戻り、覗き込んだ。大鍋に入ってある液体はもうすでに沸騰していて、少し煮込みすぎたかもしれないと思ったほどだった。私は火から下ろして、杖を一振りする。赤色だった液体はピンクっぽい色に変わり、少し濁ったような湯気が立ち上った。どうやら煮込みすぎたらしいが、何も害がなかったセブルスを見て結果オーライだと自分に言い聞かせながら提出用の瓶に詰め込んだ。
少しグリフィンドールの席の方から、騒がしい声が聞こえ私は視線を移した。
さっきまで元気そうだったルーピンが、顔色を真っ青にしていて、そんな彼の周りを心配そうに友人達が囲んでいた。
ルーピンは心配かけまいと、大丈夫だとみんなに言い聞かせているようだ。ブラックはどこからどう見ても様子がおかしいルーピンを見て、私の方を睨んでくる。丁度私も彼らの方を見ていたため、私とブラックは目が合ってしまった。睨んでいるブラックに元々目つきの悪い私は、外から見ればどうやら睨み合っているみたいらしく何人かがそわそわと話し出した。いや別に睨んでいるわけではないし、見ていただけだ。もしルーピンの様子がおかしくなった原因が私のあの発言のせいだとしたら私にも非はあるし、申し訳ないと思わないほど薄情者ではない。……でも、私が今彼らに近寄ったら状況が悪化するだけだろう。
私が視線を逸らそうとすると、嫌いな声が耳に入ってきた。明るく、落ち着いた彼女の女の子らしい声は嫌という程私の耳に入ってくる。
「大丈夫?リーマス。顔色が悪いわよ」
ルーピンを心配するエバンズは、私の方を睨み続けるブラックに気づき彼の頭を叩いた。
「何をそんな睨んでいるのよ、ブラック。女の子に対してそんな態度はいけないでしょ」
まるで母親のようなことをいう彼女は、うざったいポッターをひらりとかわして、ルーピンに近づいていっていた。
ルーピンは、大丈夫だと痛々しい笑みを浮かべながら、彼女を見ている。私は、心配そうにルーピンに何かを言っている彼女をひと睨みして、自分の瓶を手に取った。
気づけば、スラグホーンが今日授業で調合した薬は提出してから帰るようにと生徒達に説明しているところだった。スラグホーンの言葉を聞くと、生徒達は自分で作った薬が入った瓶を手に持って一列に並び出した。スラグホーンの前に置いてある木箱のようなものに、一人一人スムーズに瓶を並べながら立てていく。
私は、提出し終わると教科書を手に取り教室を後にした。今日は午後の授業がないこともあり、色々とのんびりと過ごしたかったためゆっくりと寮へと足を向かわせた。
石造りでできた廊下を歩いていると、すっかり調子が戻っているルーピンがポッター達と楽しそうに話していた。私は何も聞かないように、あまり彼らを意識しないようにしながら通り過ぎる。
ポッター達は、私が隣を通ったこと自体気づいていない様子だった。それはそうだ。彼らはこの世界の主要人物で、私は良くてもスリザリン寮の女子生徒ぐらいの認識だ。気付かれなくて当然。さっきがイレギュラーだったのだ。
寮に戻ろうと、歩き進めると先に見覚えのある後ろ姿が目に入った。同じスリザリン色のローブに真っ黒な髪。
「………セブルス…」
小さく小さく呟いた私の声は、廊下を行き来している生徒達の足音や話し声の波に押し流されるようにすぐに消えていった。
…彼に話しかけてもいいのだろうか。セブルスと仲良くなってもいいのだろうか。私は今手に持っている魔法薬学の教科書に視線を移して、ぐるぐると頭の中で話しかける口実を考えた。
適当にここが分からないから教えて欲しいと頼んでみようか。…断られても、少しでも貴方と話せれるのならそれでいい。
私は、勇気を振り絞ってあまり乗り気がしていない脚を無理矢理一歩踏み出した。先を行く彼の名前を呼ぼうと、息を吸い込むのと同時に後ろから私の嫌いな声が聞こえてきた。
「セブ!ちょっと待って!」
聞きたくのない声が聞こえ、硬直した私の隣を彼女は走り抜けて行く。彼女が走り起こった風が嫌という程感じられ、髪やローブが風に巻き込まれると私の心臓は悔しそうに鼓動を早くしていった。
彼の名前を呼び、彼の元へと駆け出して、私が出来なかったことをいとも簡単にやってしまった彼女を待つようにセブルスはゆっくりと振り返り足を止めた。
…2人は何かを話して、また小さくなっていく。
「…待ってよ……私が先だったじゃない……」
私の口から出た言葉は、自分でも思いがけのないものだった。
廊下を行き来する生徒達の賑やかな話し声が耳に入ってきて、まるで私だけが取り残されたみたいだ。その場から逃げるように、遠くなっていく2人に背を向けて寮とは真逆の方向に歩いた。遠回りになるがしょうがないと自分に言い聞かせ、少し俯きながら足を速めた。
余計なことをしたと私は後悔しながら、少し冷えている廊下を歩き続ける。慣れないことをしようとしたばかりに、彼女に先に越されてしまって、今までとは比にならないほど傷ついてしまったのがわかった。
気づけば、生徒達があまりいない人気のないところまで来たようで、通りすがる生徒にもあまり会わなくなっていた。
早歩きをして少し温まった体を停止させ、ふと大きな窓の外を眺めた。空は灰色の分厚い雲が覆いかぶさっていて、外にいる生徒達は、寒そうにローブを握りしめ体を丸めながらホグワーツの中へと入ってくる。
ビューという風の音まで聞こえてきて、きっと外は寒いんだろうなと思いながら、近くにあった壁に隣接してあるベンチに腰掛けた。石でできているからひんやりと冷たかったが、精神的にも体力的にも限界が近かった私はそんなことには何にも思わずに、外を眺め続けた。
手に持っている魔法薬学の教科書をパラパラと適当にページをめくっていると、外から帰ってきたであろう生徒達が寒そうに話している声が聞こえてくる。
「もう、すっかり冬ね。外でご飯も食べられない。」
「どうする?今日は、大広間ですましちゃう?」
「そうしましょう。…でも空いてるといいけど…」
そんな何気ない会話をしながら歩く女子生徒を目で追い、窓の外に視線を移すと見た光景がそのまま私の口からそのまま言葉として出てきた。
「……あっ…雪だ……」
ビューという風の音は聞こえなくなったかわりに、灰色の分厚い雲からは、少し早すぎる白い雪が羽根のようにふわふわっと降り出していた。白い雪は地面に落ちるとあっという間に溶けていき、また別の雪がふわりふわりと降ってくる。寒くなり始めていたが、まだ11月に入ったばかりだしまだ降らないと思っていたが、どうやら今年の雪はせっかちらしい。
実際雪というのを見ると、さっきまで身震いなんてしなかったはずなのに私の体は身震いをして急に寒さを感じた。
身を縮こませて、無意識に魔法薬学の教科書を開く自分の手を見て渇いた笑いがこぼれ、また窓を見つめるとそこに映った自分は、今でも溢れそうなほどの涙を瞳に溜め、酷い顔だった。まさかそんな表情をしているなんて自分でも思ってもいなくて、もう耐えきれなくなった涙はどうしようもなく頰へと流れ落ちてくる。
セブルスと彼女が仲良く話す姿も、笑い合う姿も見慣れたはずでしょ?
彼女の手や声はセブルスに届いても、私の声や手は届かないことぐらいもう分かりきったことじゃない。
それなのに何が原因でこんな涙を流しているのだろう。
……苦しいから?悲しいから?どうしてだろう。
……分からない、分かりたくない。
私は流れ続ける涙を拭うこともせずに、窓の外を眺めた。唯一の救いだったのは、私が涙を流している間、生徒や先生が通らなかったことだ。
窓に映る涙を流し酷い顔の自分を見て、自分が酷く滑稽で虚しくなり可笑しくなった。
「……馬鹿らしいわね……」
窓には眉を下げて、困ったように自虐するように痛々しく笑う自分の顔が映っていた。