夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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21 壊れる音

夏休みも終わり、私の学生生活も残りあと1年になってしまった。あまりにあっという間であまり実感がない。

 

 

 

 

 

ポッターが今までのあの傲慢の行動が嘘かのように単なる好青年になってしまったものだから、廊下を歩いていてももうポッターとセブルスの喧嘩をする声も聞こえることはもうなくなった。あんなに日常茶飯事だった喧嘩ももうすっかりなくなった代わりに最近は当たり前のように付き合い始めた2人の姿がよく目に入る。

 

 

 

 

 

「…………本当に…鬱陶しい…」

 

 

私はポッターとエバンズが楽しそうに手を繋いでいる姿を見て呟いた。

 

 

 

…どうして貴女ばかり幸せになるの?

 

 

……どうして…セブルスじゃなくて、ポッターを選んだの?

 

 

……どうして、気づいてくれないの?

 

 

ポッターの横で笑うエバンズを少し見つめながら問いかけるが、声を出していないんだから聞こえるわけがない。

 

 

 

 

 

2人とも首席に選ばれたということもあるし、色々と目立っていて、周りからはお似合いだと祝福されていた。

そんな2人を目にするたびに私は周りにセブルスがいないか確認をすることにしている。彼も知っていると思うが、出来るだけこんな光景は見せたくなかった。

 

あの時止めれる勇気がなかった私の、今できるせめてもの償いだと思ったから。

 

 

 

 

……2人を見つめるセブルスを見て、耐えきれるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何回歩いたか分からない廊下をいつも通り歩いている時に、2人が楽しそうに話しているにすれ違った。私は出来るだけ表情を変えないようにしながら耐えるように制服を力一杯握りしめた。エバンズの隣にいるのはセブルスではなく、ポッターで…こうなったのは私のせいだと思い知らされる。

 

 

 

…そんなことは知っている。もう痛いほど分かってる。

 

 

 

エバンズを見る度にこの浮き出てくる感情を抑えるには一苦労で、まだ私はセブルスが彼女達を見ている姿を目にしていなかったからなんとか抑えることができていた。

 

それだというのに、何故私は振り返ってしまったのだろうか。

 

 

 

…他の生徒達に紛れているポッターとエバンズを横目にすれ違い、無意識に振り返ると、明らかに彼女たちを見て、泣きそうな表情を浮かべているセブルスが目に入ったのだ。

 

 

その場から逃げるように2人に背を向けをして小さくなっていく彼は隠れるように他の生徒達に溶けるかのように見えなくなる。

 

 

 

「………待って…」

 

 

 

小さくなっていくセブルスに向かって無意識に呟いて、私の体は勝手に元きた道を走り戻って早歩きをしているセブルスの後を追いかけた。

 

 

……追いかけないと…

 

 

ここで追いかけなかったらまた後悔する気がして、私の足は勝手に動きだした。

 

 

途中でエバンズの肩にぶつかったがそんなこと気にしている暇もない。

 

 

 

 

 

 

 

私よりも小さかったはずのセブルスはもうすっかり私よりも背が大きくなっていて、あの頃よりかはたくましくなっていた。それでも相変わらず痩せているし、肌色は不健康なぐらい白い。

 

私より背の高いセブルスを見ると余計に時間が進んでいることを実感させられる。

 

 

 

彼の姿を見つけて前を歩くセブルスの腕を何とか握ると、彼は反動で私の方を振り返り、一瞬だけセブルスの泣いている顔が見えてた。すぐに彼は私に見せないようにと前を見る。

 

 

 

肩手の甲で流れ落ちてくる涙を必死に拭おうとしている姿を見ているだけでも胸が痛くなった。

 

すぐにここが生徒達がよく通る階段であることを思い出して、私は無理矢理彼の腕を引いて人気のないところに連れて行った。

 

 

「なんなんだ!離せ!」

 

 

彼がこんな人のいるところで泣くなんて、きっとそれだけいっぱいいっぱいなんだろう。

 

 

 

そう思うと、私まで泣きそうになる。

 

 

 

今私ができることは、泣かずに彼を人気のないところに連れて行くことしかできない。それしか思いつかない。

 

 

 

 

 

 

私は彼が泣いていることなんて気づいていない振りをしながら無理矢理セブルスを引っ張った。…本気になれば私の手の力なんて簡単に振り払うことができるはずなのに、セブルスは大人しく付いてきてくれる。

 

 

 

人気のないところに着くと私はセブルスの手を離して、顔を見ずに思いっきり抱きついた。セブルスは突然の出来事に体を硬直させて、驚いている様子だった。勿論私も冷静を装ってはいるが、心臓が緊張したように激しく動き続けている。本当は恥ずかしくて早くここから離れたい気持ちだが、それよりも今のセブルスの気持ちを少しでも軽くできたらそれでいいという思いの方が勝った。

 

 

 

薬草の香りとどこか懐かしくて落ち着く匂いが香る。私が櫛で梳いていないセブルスの髪をよく家族がしてくれるように優しく撫でるとセブルスの戸惑っているような声が耳元で聞こえてきた。

 

 

 

「……なっ何をし「今日って、とても冷えるじゃない?」

 

私が全く関係ないことを言うとセブルスは何も言わなくなり大人しくなる。

 

「………少し寒くて、人肌で温まりたい気分なの…」

 

自分でも何を言っているのか分からなかったが、私の口からはこんな言葉しか出てこなかった。

 

 

関係ないことを言って、

 

何とか少しでもセブルスが人肌のぬくもりで少しぐらい楽になれるように、

 

さっき見た光景を忘れられるように、

 

 

私は震える手で彼の体を力強く抱きしめ続けた。

 

 

 

セブルスが私にもたれかかってきたからだろう。突然彼の体重を感じたと思うと、耳元で声を押し殺しながら泣くセブルスの微かな嗚咽音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「………私の我儘に付き合わせて…ごめんね」

 

 

それ以上は言葉もでなくて、私はただセブルスの頭を撫で続けながら自分の感情を必死に抑え込んだ。

 

 

 

…なんでセブルスが苦しい思いをしているというのに…

 

私は今こんなにも…

 

 

 

 

 

 

 

幸せなんだろう…

 

 

 

彼の香りも温もりも感じられている今が、

 

2人っきりのこの空間が、

 

彼に触れられていることが、

 

 

セブルスが側に居てくれている今この時が

 

 

 

 

ものすごく幸せだ。

 

 

 

 

 

……このまま時間が止まればいいのに…

 

 

 

 

私は自分の思ってしまったことを誤魔化すために、血が出るほど唇を噛み締めた。

 

 

 

 

本当に私は自分のことしか考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年のクリスマス休暇は、最後だからといってホグワーツに残る生徒が結構いたらしいが私は勿論そんなこと気にもせずに家に帰宅した。

 

 

家族揃っての夕食は何も変わらないが、やっぱりクリスマスともなると出てくる料理が豪華だった。兄の怪我も心配だったが、楽しそうに話す兄を見る限りどうやら痛みは引いたらしい。

 

 

 

……何を隠しているんだろう…

 

 

 

夕食中、家族の姿を見ているとどこか引っかかったようにもやもやとするがそれも私が大好きな焼き菓子がデザートとして出てきて、そんな気持ちも呆気なく消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族とのんびりと過ごしているとクリスマス休暇もあっという間に過ぎて、気がつけば明日ホグワーツ特急に乗らなければならない。ホグワーツに行く支度も全て終えて、あの本を誰にも見つからないように引き出しの奥に隠し、そろそろ寝ようかとベッドに横になった。

 

 

 

 

 

…………寝れない………

 

 

 

 

 

 

いくら瞼を閉じても、毛布に潜り込んでも、本を読んでいても全然眠気が襲ってこない。

私はベッドを抜け出して、自分の部屋から出ると少し冷えている廊下を歩き進めながら、温かい飲み物でも貰おうかと、アウラがいるであろうキッチンに向かった。

 

 

 

 

 

 

廊下を歩き進めると玄関前に立っているアウラの姿が見えて、二階の手すりを掴んで、上から話しかける。

 

 

「アウラ、丁度良かった。」

 

 

私の声を聞いたアウラが、振り返り見上げていたが、どこか困っているような様子だった。

 

 

「…どうしたの?」

 

 

温かい飲み物を頂戴と言うつもりだったが、困っているアウラを見るとそんなことを言うつもりだったことは忘れて、階段を下りて彼に近寄る。

 

 

「…先程、玄関を叩く音が聞こえたのです。今夜お客様がお越しになるとはご主人様から聞いておりませんし…どうすれば良いか」

 

 

…たしかにこんな夜に突然の訪問とは考えにくい

 

 

アウラの説明する声を聞きながら私は玄関に近寄って覗き穴を覗き込んだ。

 

 

 

玄関の前に確かに人が立っていて、寒そうに体を縮こませている肩には雪が積もっている。

 

 

 

「……やはり、ご主人様を呼んできます」

 

 

 

「…うん……お願い」

 

 

 

遠ざかっていくアウラの足音を聞きながら、私は肌寒かったことも忘れて、少し玄関と距離を置くと、玄関を叩く音が聞こえてきた。

 

少し強めで、どこか焦っているようなそんな音に聞こえた。

 

 

 

恐る恐る覗き穴を覗き込むと、さっき少し俯いていたその人が、じっと玄関の扉を見ているものだからはっきりと顔が見えた。

 

 

 

…エド…叔父さん

 

 

 

私は玄関越しにいる人物が自分の知っている人だということにほっとして、早く中に入れないとという衝動に駆られ、玄関の鍵を開けるとゆっくりと開けると外の冷たい空気が流れ込んできた。一気に肌寒くなり少し体を縮こませながら招き入れようと声をかけようとすると、私の顔を見た瞬間に叔父が抱きついてくる。

 

いきなりのことで戸惑いながらも、自分の体を支えることで精一杯で声が出ない。

 

 

 

「……よかった…レイラ」

 

 

 

どれぐらい外にいたのだろう。叔父の体はすっかり冷えていて、抱きつかれた私の体もだんだんと低くなっていく。

 

 

「……どうしたの…?…」

 

 

叔父らしくない行動に戸惑いながらも、問いかけながら抱き締め返すと、彼はゆっくりと私の顔を見つめて、焦ったかのように言い出す。

 

 

「…レイラ、一緒に行こう」

 

 

 

 

……………えっ?……

 

 

…何言ってるの…

 

 

あまりに突然の言葉に、叔父が何を伝えたいのかが分からない。叔父は私の手首を力強く握ってくる。

 

 

「……急にどうしたの?…もうこんなに夜も更けているのよ?……それに明日から学「こんな所に居ては駄目だ」

 

 

私の言葉を途中で遮ってくる叔父の目は真剣そのもので、何故か今目の前にいる叔父が恐ろしく感じた。手首を力強く握ってくるのも、…まるで私を逃がさないようにしているみたいだ。

 

 

「…エド…………こんな夜中に何の用かな?」

 

 

後ろから聞こえた声に振り向くと父が、アウラと一緒に階段を下りてきていた。

 

 

父の姿を見た瞬間に叔父の握ってくる手の力が強まり、手首が痛みだす。

 

 

「………そう殺伐しないでいいじゃないか」

 

 

父の穏やかな声が聞こえてくるのと比例するかのように叔父の手の力もどんどんと強くなる。

 

 

「アウラの作ったミンスパイは絶品なんだ。どうだい?久々に2人でゆっくりお茶をするというのも、いいと「いい加減にしてくれないか」

 

 

そう言う叔父の声はあまりにドスが効いていて、その場の空気が緊迫した。

 

 

 

「そんな必要はもうない。」

 

 

 

はっきりと言い捨てる叔父は明らかに父に憤りを感じているようで、父を睨む瞳は殺気の色を浮かべている。黙り込み、さっきまでの穏やかな表情とは一変した父は、私の手首を掴んでいる叔父の手に視線を移した。

 

 

「……とりあえず…レイラを離してくれないか?……それから話をし「話をするために来たんじゃない。」

 

 

はっきりそう宣言する叔父の様子はいつもと違すぎて、私の体は緊張しだしたのか、熱くなりだした。

 

何か言わないといけない気がしたが、私の口からは声が出てこなくて、何もできない。

 

 

「こんな夜中に何をしているの?」

 

 

静まり返ったその場空気を壊すかのように、少し明るめの声が聞こえてきた。母は、叔父と父の姿を見るとしょうがなさそうに溜息をつく。

 

「全く、こんな寒い日に扉も開けっぱなしで一体いい大人が子供を巻き込んで何を言い争いしているの?」

 

玄関の扉を閉め、少し苛ついているような様子の母の足元にはアウラがいた。

 

 

どうやら、アウラが状況を察して母を起こしに行ってくれたらしい。

 

 

母は、私の手首を握っている叔父に気付きゆっくりと近づくと私の体を自分の方に抱き寄せた。

 

 

「言い争いは結構だけど、この子を巻き込まないでくれないかしら。レイラは明日から学校なのよ。」

 

 

母に抱き寄せられ、叔父の手は自然と離れたがまだ手首は痛くて、少し赤く跡ついていた。私を部屋に戻そうとする母に押されながら、歩こうとすると何かはち切れたように、叔父は母を睨みつけながらゆっくりと口を開く。

 

 

「学校?…こんな時にか?

 

命を狙われている時に、1人学校に行かせるのか?」

 

 

「えぇ、そうよ。この子は今年で最後だもの」

 

 

そう言う母の声は力強く、ハキハキとしていて私は喧嘩が始まりそうな雰囲気にどうすることも出来ずに、母と叔父を交互に見る。

 

 

「何の冗談だ、アメリア…」

 

 

「冗談でも何もないわ。」

 

 

「…エド、こういう時こそ、ごく普通に過ごすのがいいと思ったんだ。」

 

 

 

今にも喧嘩しだしそうな母と叔父を宥めようとと父が叔父に話しかけるが、どうやら状況は悪化しただけみたいで、父の声を聞いた瞬間叔父の声が興奮したように大きくなる。

 

 

「ごく普通に過ごして、死んだら何も意味がないだろ⁈大人の勝手な都合で子供の命を危険に晒すのか⁈」

 

 

「落ち着け…エド、とりあえず座ってゆっくり話をしよう」

 

 

こんなに我を失っているような叔父の姿は初めてで、私は何か不安に駆られた。

 

 

「何を話すというんだ。もう今更話すことなんてないだろう」

 

 

睨みつけながら言った叔父の手にはさっきまで握っていなかった杖を握っていることに気づいた瞬間何か嫌な予感がして、私は慌てて口を挟もうとしたがそれよりも叔父の低い声を聞くと声が出ない。

 

 

 

「……レイラを…こっちに渡せ」

 

 

 

突然低い声で名前を呼ばれ、まるで心臓を誰かに撫でられたような気持ちの悪い感触に襲われた。

 

 

 

 

……知らない…

 

 

 

 

……こんなエド叔父さんは知らない。

 

 

今目の前にいる叔父がまるで他人のように感じて一気に恐怖心が波のように襲ってくると、母が私の体をぎゅっと抱き締めて身構えたのが分かった。

 

 

「…エド……何があった?」

 

 

杖を持つことはせずに叔父に問いかける父の声を聞いた瞬間、持っていた杖を父に向けた叔父の目がはっきりと見えた。

 

 

誰かに裏切られたような、

 

何かに怖がっているような、

 

……悲しそうな目だった。

 

 

叔父の名前を呼ぼうとした時、後ろから足音が聞こえてきたと思うとその音はぴたりと止まり、いつも聞いている声が聞こえてくる。

 

 

 

「……杖を下ろしてくれませんか?」

 

 

 

兄が私の横を通り過ぎた時始めて、兄が叔父に杖を向けているのが目に見えた瞬間に何かが壊れるような音が聞こえたような気がした。

 

 

………止めないと……

 

 

 

今すぐに…杖を下ろさせないと…

 

 

 

 

 

 

 

…元に戻れなくなる。

 

 

 

 

 

 

「………本当に……そっくりだな」

 

 

 

叔父の呟いた声も聞こえるほど静まり返っていたこの場の空気は息苦しくて、私は杖を握る叔父を見つめながら、声を出す。

 

 

「…………エド…叔父さんも」

 

 

私が突然声を出したからだろう。叔父が体を強張らせながら私の方を見てくる。

 

 

「……ノアも…杖を下ろして」

 

 

2人を交互に見るが、お互い杖を下ろさず少し睨むように見つめるだけだ。

 

 

 

「何をそんなに杖を向ける必要があるの?……

 

 

 

ねぇ、ノア、相手は叔父さんよ?」

 

 

 

兄は私を見て何か考えると、ゆっくりと杖を下げるが、叔父は杖を下ろす気配がない。

 

 

「…エド叔父さん、……杖なんて必要ないじゃない。……出掛けるなら別の日「今日じゃないとだめなんだ」

 

 

私の言葉を途中で遮り、叔父は父に杖を突きつけ続けた。

 

 

「……いくら血の繋がった弟でも訳も話さず、こんな真夜中に娘を連れ出すのを許す訳がないだろ?………

 

エド……一体何があったのか話してくれ」

 

 

叔父は父の言葉を聞いても、口を閉じたままで睨み続けていた。

父は一呼吸おいて、ゆっくりと叔父に近づくと恐れる様子もなく向けられている杖を握る。

 

 

「………どんなことでも受け入れる。……………

 

私は、お前を信じてる……だから「冗談じゃない」

 

 

父の言葉を途中で遮った叔父の声はもうこれ以上聞きたくないといった様子で、低く聞こえた瞬間身震いがした。

 

 

「信じてる?馬鹿を言うな。よくそんな嘘をすらすらとつけるな。」

 

 

叔父は父の胸ぐらを掴み、今までのものを吐き出すように声を張り上げた。

 

 

「何が信じてるだ⁈…何がどんなことでも受け入れるだ⁈」

 

 

「エド…落ち着け、みんな怖がってる」

 

 

父が落ち着かそうと話しかけるが、落ち着くどころか酷くなるばかりだ。

 

 

「子供達に話さないというのも反対したのに、聞く耳を持ってくれなかったのはどこのどいつだよ⁈何が子供達の為だ?

 

ただ知られたくなかっただけだろ⁈

 

全部自分の為じゃないか!!!!」

 

 

 

父は黙り込み、グッと何かを堪える手を握りしめると叔父と向き合い胸ぐらを掴んだ。

 

 

「僕の方がレイラを守れる!!!」

 

 

「いい加減にしろ!!!!!!」

 

 

 

今にも殴り合いが始まりそうなこの状況に兄は飛び込んで、仲裁に入った。

 

 

「父さん!!!落ち着いて!!!叔父さんも!!!」

 

 

声を張り上げながら必死に止めに入る兄の声を聞いた瞬間、叔父は何か思い出したように父に怒鳴りつけた。

 

 

「言われた通りのことを信じて、守ってきたのに結局全部嘘だったじゃないか⁈⁈」

 

 

その言葉に、あんなにうるさかった玄関は一気に静まり返って父や兄の動きが止まり、私を守るように、手を握っていた母の手の力が強くなった気がした。

 

 

「何が、信じてるだ⁈結局僕のことなんて信じていなかったじゃないか⁈ずっと騙しといて今更なんなんだ⁈」

 

 

 

……騙す…?

 

 

 

静まり返っているのを気づいていない様子の叔父は口を滑らすように怒鳴り終わると、呼吸を整える。

 

 

「………何で…それを……知ってるんだ」

 

 

静かに、途切れ途切れに言った父の言葉を聞いた瞬間に叔父は何か言ってはいけないことを口した後みたいに顔色がさっきよりも悪くなった。

 

 

「…エド………まさか……」

 

 

父の言葉を消すように鍵が閉まってなかった玄関の扉をが勢いよく開いて、一気に寒い冷気が中に入ってくる。

 

 

「エド…やっぱり……ここにいた」

 

 

ノックもせず入ってきた叔母が、叔父の姿を見るとほっとしたように安堵の表情を浮かべたのが視界に入った。叔父は逃げるように来たばかりの叔母の横を通り過ぎて、家を飛び出す。

 

 

「エド叔父さん⁈」

 

 

叔父を呼び止めようと声をかけたのは私だけで、後を追いかけようとすると母が何も言わず引き止めてきた。

 

 

「…セシル…何があったの?」

 

 

冷静に父に問いかける叔母は、何も答えない父とこの場の空気を感じてか何かを悟ったようにすぐに叔父の後を追いかけようと背を向ける。

 

「セリーヌ」

 

 

父に呼び止められた叔母はすぐに振り返り、真剣な眼差しで見つめた。

 

 

「……すまない………エドを…頼む」

 

 

「…勿論よ」

 

 

少し笑った叔母は、先が見えない夜の暗闇に溶けていった。

 

 

 

 

誰も動こうとしない空間にアウラが玄関の扉を閉める音と鍵をかける音が響くと、父は何も言わず部屋に戻ろうとする。

 

 

……聞くなら…もう今しかない

 

 

 

「………騙すって…何?……エド叔父さんに何の嘘をついていたの?」

 

 

私の声を聞いた瞬間、動きを止めてゆっくりと振り返ってきた。

 

 

「お父さんは何を知ってるの?何を隠しているの?」

 

 

「……レイラ…」

 

 

父に問い詰める私を引き止める為か、兄の声が聞こえてきたが私は聞こえないふりをした。

 

 

「何か隠していることなんてもう知ってるよ。………何で私には教えてくれないの?」

 

 

「…レイラ、違うのよ。貴女には「お父さん、もういいから、」

 

 

母の声に被せて言い寄るが父は話そうとする様子も見せず、私は声を張り上げた。

 

 

「私はもう守られてばかりは嫌なの!!!」

 

 

私の声が響き渡ると、その場は静まり返り私は父の返答を待った。

 

 

……これで…話してくれなかったら

 

もう…

 

 

 

二度と話してくれないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………分かったよ……レイラ、少し遅めのお茶をしようか」

 

 

溜息混じりで言った父は、私に背を向けて自分の部屋に向かって歩き出す。もうきっと深夜を迎えているはずなのに、眠気が遅いかかってくるはずもなく、私は父の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今お茶を淹れるから」

 

 

部屋に入り、父の声を聞きながら私は1番近くにあったソファーに腰掛けた。燃え続ける暖炉の薪を眺めていると横から手が伸びてきて前にティーカップが置かれた。

 

 

「ありがとう」

 

 

お礼を言って一口飲むと、冷えていた体の芯が温まる。

 

 

「……何から…話そうか………」

 

 

ぼそりと言った父の声を聞いて私はティーカップを置き、乗り出すように聞く耳を立てた。

 

 

「………明日は学校だろう?……少し長くなるけどいいかい?」

 

 

「…えぇ。このまま横になっても寝れそうにないもの」

 

 

確認してきた父の言葉に返答した私の声を聞いて父はゆっくりと話し出した。

 

 

 

 

 

「……死喰い人が何故私達の命を狙うのか、分からないと言ったが…

 

…それは嘘だ。」

 

 

ゆっくりと座り直した父は私を見つめてくる。

 

 

「………命を狙われるようになったのは……

 

 

…私のせいなんだよ」

 

 

無理矢理笑う父の笑顔は痛々しかった。

 

 

「…どういう意味なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……トム・マールヴォロ・リドル」

 

 

 

父の口から突然出た名前に私は体を強張らせた。まさか父の口からあの人の本名が出るとは思いもしなかった。

 

 

「…名前を言っていてはいけないあの人と魔法使い達から恐れられ、ヴォルデモートと名乗っている人物の本当の名だ。」

 

 

私を見つめながら、ひと息ついてまたゆっくりと口を開く。

 

 

 

「…そして……彼は私の昔の友人だった。」

 

 

 

「……友達?……お父さんが?」

 

 

あまりに衝撃なことに、そんな言葉しか出てこなくて、父は私の言葉にゆっくりと頷いた。

 

 

「…きっかけはただ同じ寮で、一緒の部屋だったから、何となく話しだしただけのことだ。学生の時から、あんな冷酷だったわけではないんだ。少々貪欲で、そう簡単には打ち解けられない性格だったが、彼は誰よりも努力家で、…私自身そう嫌いではなかった。

 

全く魔法界のことを知らないと言った彼に、私は喜んで色々と教えたよ。何も知らないと言っても成績も良く、私も勉強面は随分と助けてもらったものだ。」

 

懐かしそうに話す父の表情が少し暗くなると、声が一段と低くなり、小さくなる。

 

「……だが、口が達者で私以外にも友達の輪がどんどんと広がっていった時に彼は純血主義という言葉を耳にした。

 

私にどういう意味か聞いてきてね。何も考えずにいつも通り教えたがそれが仇となった。

 

あの時の私はまさか彼が、あんな思想を抱くなんて思いもよらなかったんだ。」

 

 

父はどこか後悔しているような表情を浮かべて後を続ける。

 

 

「…純血主義の意味を知った日から、物凄くのめり込んで、私のことを純血だと知った彼は私に色々と自分の理想を語ってきた。私は元々純血主義でもなければ、そんな理想を抱いたこともなかったから、共感はできなかったが否定するのは違うと思って話は聞いていたんだ。

 

 

 

…ただある日、風の噂で彼が裏で色々と悪事を働いているというものを耳にしたんだ。彼は私が彼の友人だと思っていた生徒達に、そういったことをさせていると聞いた時は何かの間違いかと思った。

 

 

私が知っている彼は、努力家で成績優秀のいわゆる優等生。…時々、引っかかるような場面を見たこともあったが、それでも私は彼を確かに友人と思っていたし、実際私はそんなことをさせられた覚えもないし、あの時の私はその噂は信じなかった。

 

 

…だけど…その後たまたまマグルの新聞を見る機会があって、そこである一家が不可解な死を遂げたと書いてあるのを目にしたんだ。

 

 

その一家の名前がリドルというのを目にしたら、やっぱり何か引っかかって本当に軽い気持ちで問い詰めた。きっと馬鹿にされて終わると思っていたが、彼は何も隠すことなく平然と殺したと言ったんだ。

 

彼の表情を見た瞬間、体が凍りついたように固まって……今でもあの感覚は忘れられないよ。」

 

 

 

燃え続ける暖炉の火がこの時だけ、少し不気味に感じた。

 

 

 

「…何か知ってはいけないものを知った気がしたが、何か事情があってそうせざるを得ない状況だったんだと思いたくて、私は何故殺したのか問いかけた。……彼は私の思いとは裏腹に笑みを浮かべながら、自分の理想を叶えるためには、あいつらは存在してはいけないからだと平然と言ってきたよ。

 

 

 

 

…本当に、あの時の笑みは冷たい笑みだった。……人間じゃないんじゃないかと思うぐらいに温かみが感じられなかったよ。」

 

 

 

私はあの人の冷たい声を思い出して気を紛らわせようと唾を飲み込んだが、心臓は緊張したように鼓動を速くする。

 

 

 

「私は、周りの大人達に彼が人を殺したとは言わなかった。………言えなかったんだ。彼がもし私のせいで、アズカバンに行ってしまったらと考えると恐ろしかったし、本当に自分の友人が人を殺したとは思いたくなかった。

 

彼が躊躇なく人を殺せる奴だと信じたくなかった。

 

 

 

 

自分の知らない彼を知った瞬間、もう友人だと思えなくなっていて、友人だと思いたくないと思った。……止められないと。関わりたくないと、関わってはいけない気がした。

 

 

あんなに親しく話しかけていたのに、あんな一瞬の出来事で何もかも簡単に崩れ落ちて、その後は自然と話さなくなったよ。

 

彼から話しかけてくることもなかったから、きっと向こうももう友人とは思ってないと思い込んで、ホグワーツを卒業して、アメリアと結婚して、そしてノアとレイラが生まれた。」

 

 

目が合うと、父は優しく微笑んで本題に入るように険しい表情を浮かべながら話し出した。

 

 

 

「………本当につい最近、レイラがホグワーツに入学したぐらいに、外でばったりと彼に会ったんだ。…ばったりというより、待ち伏せされていたと言った方が正しいな…」

 

 

 

瞼を下ろして思い出すかのように話を続ける父の声は少しだけ震えているような気がした。

 

 

 

「…最初は外見が変わっていたから、誰だが分からなかったが目を見た瞬間に分かってね。その瞬間血の気が引いたよ。

 

彼は何を思ったのか私を誘ってきた。

 

私の力を貸してくれと、友人である私に仲間になってほしいと、そう言われたけど…

 

純血主義でもなければ、自分を犠牲にしてでも守りたいものができて、もう彼のことを友人だとは思っていない私が承諾する理由なんてあるわけがない。

 

純血主義ではないし、君の意見には賛同できない。…巻き込まないでくれと断ったが、彼は私に断られるとは思ってなかったらしくてね…

 

何とか、頷かせようとしてくるものだから鬱陶しくて、ついつい強い口調で言ってしまった。

 

 

お互い、少し口喧嘩程度に揉めだして彼が突然杖を取り出す仕草を目にした瞬間、すぐに呪文を唱えたら何とか杖を弾き飛ばすことはできたんだが、その後に口を滑らせて、君のことを友人だとは思っていないと言ってしまってんだ。」

 

 

 

私は父の言葉を聞いて、後のことが大体予想がついた。

 

 

 

「…私の言葉を聞いた瞬間に彼の表情が一変したのを見ても私は何も言わずにその場を逃げ出した。

 

 

………そして、その後にノアが襲われた。

 

…レイラ、意味が分かるかい?」

 

 

 

 

「……でも、それが理由で命を狙っているとは限らないじゃない」

 

 

だって…確かにあの人はペンダントを欲しがっていた…

 

 

私はペンダントのことを思い出して父に言うが、確信があるように話し出す。

 

 

「家族も自分にとって邪魔な存在だと思えば躊躇なく殺せるような奴だ。

 

友人と思っていた私から友人ではないと言われて、そいつが純血主義ではないと分かったら彼にとって私は邪魔な存在だろ?

 

私だけを殺してくれるのならまだしも…………最初に襲われたのはノアだ。

 

確実に私の周りの人間を殺して、最後に私を殺すつもりだろうね……」

 

 

 

父は少し笑みを浮かべて、紅茶を一口飲むと呟くように言った。

 

 

 

「……何にしろ、命を狙われるきっかけをつくってしまったのは私だ。……だから、ノアにもレイラにも出来るだけ普通の生活をして欲しくて黙っていた。「ノアの左腕の怪我は、死喰い人じゃないんでしょ?」

 

 

私が父の言葉を遮り問いかけると、父は口を開き、小さな声で言った。

 

 

「………それは…言えない…」

 

 

「どうして?」

 

 

「…………レイラ、元々お前がホグワーツを卒業したら全て話すつもりだったんだ。

 

学生でいる時ぐらい何も考えずに過ごして欲しくて今まで隠してきたつもりだった。…だけど、結局こんな中途半端になってしまった」

 

 

椅子に深く座り直した父を見て、私は叔父のことを思い出して聞こうとしたが、それを分かったかのように父の声が聞こえてきた。

 

 

「……レイラ、学校を卒業したら必ず全て話す。ノアのことも、エドのことも、全て説明すると約束するよ。

 

…だから今日はもう遅いし、明日に備えて寝なさい。」

 

 

父の目を見つめると、今はもうこれ以上話してくれないような気がして、私は父に言い聞かせるように声を出した。

 

 

 

「…………約束よ…」

 

 

 

「…大丈夫………ちゃんと守るさ」

 

 

父の言葉を聞いて、私は立ち上がり部屋を出ようとすると声が聞こえてきた。

 

 

「……レイラ、…おやすみ」

 

 

 

「……おやすみなさい」

 

 

部屋の扉を閉める瞬間に、暖炉の火に照らされた父のどこか悲しそうな表情が見えたが私は見なかったふりをして扉を閉めた。

 

 

 

 

あの人と、父は友人だった。

 

 

 

まさか父の隠していることがこんなことだなんて思いもしなかった。

 

あまりに衝撃的で、思ってもいなかったことを言われるとどうやら人間というのは意外と冷静でいられるらしい。

 

………そんな素振りなんて見せなかったのに

 

 

 

 

……でもそうなると…私はよく殺されなかったな…

 

 

 

あの人に会った時のことを思い出しながら私は考えながら自分の部屋に戻る。

 

 

 

………それほど、ペンダントが欲しいということなのかな…

 

 

 

どんなに考えてもあの人の考えを読み取るほど器用じゃない私は、ベッドに横になると気づけば眠っていた。

 

 

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