夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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27 もう分からない

 

 

何とかその場をやり過ごせた私は、姿くらましで家に戻った。相変わらず、荒れている部屋をぐるりと見回して、アウラの名前を呼んでみる。

 

 

「アウラ…もういいわよ」

 

 

私の声に答えるように、ばちんという音が聞こえると、アウラとレギュラスが私の前に姿を現した。

 

 

 

「…お嬢様!お怪我は⁈」

 

 

「大丈夫よ。…そんなことよりも早くここを離れた方がいい。」

 

 

私の姿を見た瞬間に、慌てて駆け寄ってくるアウラに答えながら、私は2人に話し出す。

 

 

「…ここに来た人は、一体誰だったんですか?」

 

 

「…魔法大臣と、多分闇祓い。…父が頼んでいたらしいの。自分が死んだ時に、子供達の安全を確保してほしいって」

 

 

私の言葉に考え込むレギュラスを見ながら、私は後を続けた。

 

 

「…私は魔法省に身を置くことになったけど、貴方達の安全が確保できる場所はまだ見つかってないし…「…何か隠していませんか?」

 

 

私の話を遮り、問いかけてくるレギュラスは見つめてくる。

 

 

「…そんなことで、焦っているなんて貴女らしくない。……別にあるのでしょう?ここを離れないといけない理由が」

 

 

「……それは…」

 

 

「しっかりしてください。貴女がひとり抱え込んだ所でどうにかなるものじゃない。……僕は、貴女に協力すると言った。

 

 

………大丈夫です。

 

…僕を…信じて…」

 

 

 

私に語りかけてくるレギュラスの言葉を聞いて、自然と落ち着いていく自分の体から力が抜けていくのを感じながら、声を出した。

 

 

「………あの人に呼び出された。…」

 

 

私の小さな声がはっきりと響くほどに静まり返った部屋には、緊張した空気が流れた。

 

 

「…エド叔父さんを……庇っていると疑われて、何とかその場をやり過ごせたけど、……疑われるにはそれなりの理由があるはず。……まだ確証はないけど、…誰かを匿っているということが薄っすらとばれているのかも知れない」

 

 

あの時感じたことを言葉にすると、どんどんと思っていることが外に出て止まってくれない。

 

 

「…このままだと、貴方も私も…殺される」

 

 

「一旦落ち着きましょう。……今焦っても状況は変わらないですし…」

 

 

そう言いながら、私の肩を持ってくるレギュラスは少し頼もしく見えた。

 

 

「…………そうね……。とりあえず、貴方達の安全を確保することに集中するわ。」

 

 

私は少し息を整えながら、レギュラスに言い、アウラに視線を移した。

 

 

「……明日には、確保するからそれまでに身支度を済ましといて。……アウラ、貴方は彼からひと時も離れないで」

 

 

「分かりました。」

 

 

アウラの返事を聞いて、私はひと息ついて、考え込む。

 

 

やっぱり…マグルが住んでいる所に紛れ込むのが1番だろう。

 

 

 

 

 

 

「……探してくる」

 

 

私が部屋を出ようとすると、後ろから腕を掴まれ、呼び止められた。

 

 

「…………今は行くべきではないと思います。

 

……どこかで、貴女のことを見張っている可能性が高いですし、それに……もう日が暮れてますから。」

 

 

じっと見つめてくる真剣なレギュラスの表情を見ていると、私もだんだんと落ち着きを取り戻し、冷静になる。

 

 

「…………そうね…」

 

 

私の言葉に、安堵したような表情を浮かべた彼は私の腕を離した。

 

 

 

 

 

大体、目星はつけてある所は何箇所かある。

 

明日、そこを回って、決めればいい。

 

…大丈夫

 

 

そう何回も自分に言い聞かせても、心臓は緊張しっぱなしで、勿論眠ることなどできる訳がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝一で出掛けた私は、街の中の、マグルが普通に住んでいるアパートのような建物の一部屋を借りることができた。

 

 

ダイアゴン横丁に行き、グリンゴッツで両替をして、部屋を借りる手続きを色々と済ましていると、気づけば夕方になっていた。お金は、両親が残してくれたおかげで困る気配もない。

 

 

 

 

 

 

 

宙に浮いた足が、地面につき、体勢を整えると、荒れた部屋に変わらずいる2人の姿が目に入ってきた。無事な姿を見ると、安心から体の力が抜ける。

 

 

「見つかりましたか?」

 

 

「えぇ…確実に安全な場所とは言えないけど、この場所よりかは何倍もましよ。……身支度は済んだ?」

 

 

「…はい、大丈夫です。」

 

 

少し笑いながら言ってくるレギュラスを見て、私はふとあの本のことを思い出した。

 

 

「少し…待ってて。すぐに戻るわ」

 

 

私は、部屋から出て、本を取りに自分の部屋に向かった。

 

 

ひさびさに入った自分の部屋も、すごい荒らされようで、廃墟のようだった。床に散らばっている本の中に、混じっていた、黒い表紙の本を拾い上げて砂埃を払う。

 

…逆に、変に隠さなくて良かったかもしれない。

 

 

そう思いながら、ページをパラパラとめくり無事なことを確認して、2人の元に戻った。

 

 

 

 

「…ごめんなさい。…じゃあ行きましょうか。」

 

 

戻った私の手の中にある本をちらりとレギュラスは見たが、何も言わずに私の手を握る。アウラが私の手を握った瞬間に視界が歪んだ。

 

 

 

 

 

 

まだ見慣れていない部屋に視界が変わると、2人は確認するようにキョロキョロと見回す。

 

 

「ここは好きに使って構わないから、……もう少しだけ外に出るのは我慢してほしいの。」

 

 

「大丈夫ですよ。……意外と良い部屋ですし、それに興味深い本もいくつかありますし、暇は潰せそうです。」

 

 

レギュラスは、前の住人が置いていった本を興味深そうに手を取り、ページをめくっていた。

 

 

「……あぁ…それは、前の住人が置いていったものらしいから…きっとマグルの本よ」

 

 

「…なるほど、だから見たことなかった訳ですか」

 

 

レギュラスは納得したように呟いて、本を机の上に置くと、ソファーに腰掛けた。見ただけでも柔らかくなさそうなソファーに座った彼の表情から、やっぱり柔らかくないらしい。

 

 

 

「本当に、最低限の部屋しかないの。奥には寝室とバスルーム、それから隣の部屋には小さなキッチン。

 

落ち着くまでは、とりあえずここで我慢して。」

 

 

「十分です。意外と見つかりにくそうですし、それに…」

 

 

レギュラスはカーテンを少し開けて、人通りが多いことを確認するように、外を覗き込んだ。

 

 

「…これだったら、マグルに紛れ込めそうですしね」

 

 

カーテンを閉めて、ソファーに腰掛けるレギュラスを見ていると私はずっと思っていたことを問いかけていた。

 

 

「……本当に…家族に会わなくても良いの?」

 

 

ずっと思っていた。彼の為だと思ってやってきたことでも、実際はそれが苦しめているのかも知れない。家族想いのレギュラスが、家族に会いたいと思わない訳がない。

 

 

今後、1人ではやれないこともあると思って、彼に力を貸して欲しいと頼んだけど……本当にそれが正しかったのかも…分からない。

 

 

「……今だったら……まだ、間に合うわよ。…私から提案しといてなんだけど…まだ今だったら家族の元に戻「レイラ」

 

 

話を遮られたことよりも、名前を呼ばれたことに驚いて、こっちを見ていたレギュラスを見つめた。

 

 

「……今更、家族の元に戻るつもりなんてさらさらないですよ。…例のあの人がいつ僕が裏切ったのかを気づくかも分からない状態で、戻れる訳もないじゃないですか。」

 

 

にこりと笑いかけながら話すレギュラスは、後を続けていく。

 

 

「……自分の欲のために、家族を危険な目に晒すなんてしたくないんです。

 

それに………僕が家族の元に戻ったら…………

 

 

 

 

 

 

貴女が独りになる。」

 

 

 

彼の言葉が重くのしかかり、少し声が出しづらくなった。

 

 

「……独りなんて…もう慣れっこよ。」

 

 

 

私は彼から視線を逸らし、近くにあった机の上に持っていた本を置き、話題を変えるために話しかける。

 

 

「この本、私の大切なものなの。……無くさないように、預かっててもらっていいかしら?」

 

 

「……えぇ…いいですよ」

 

 

レギュラスは、本をちらりと見て、何か言いたげに返事をした。

 

 

 

「じゃあ、……アウラ、少しここをお願いね」

 

 

アウラに視線を移し、部屋から出ようとすると腕を握られ、引き止められた。振り返ると、私の腕を握るレギュラスが視界に入った。

 

 

 

「…どこに行くんですか?」

 

 

 

そう問いかけてくる彼の瞳は、真剣そのものだった。

 

 

「……魔法省よ。…早く帰らないと、どこに行っていたのか聞かれそうでしょ?」

 

 

「……何か…隠していませんか?」

 

 

 

私の言葉が聞こえていないように、質問ばかりしてくるレギュラスは後を続ける。

 

 

「……………何を…するつもりですか…」

 

 

 

 

少し不安そうな表情を浮かべてくる彼は、いつもよりか幼く見えて、ついつい子供を安心させるように頭を撫でた。

 

 

「…………貴方が不安がることなんて…何もしないわよ」

 

 

私に頭を撫でられたことに驚いたのか、少し体を固まらせたレギュラスを見て、ゆっくりと手を離すと、彼の顔がぐらりと歪んだ。

 

 

 

 

 

レギュラスは、どこまで勘づいているのだろう。

 

 

……私が叔父を殺さないといけないことも薄々気づいているのだろうか。

 

 

彼に全て話した方がいいのだろうか。

 

 

何だったら私は、本当に信じていいのかさえも分からなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中々帰ってこなかった私を心配してなのか、案の定どこに行っていたのかミンチャムから問いただされたが、何とか誤魔化すことができた。

 

 

 

案内された部屋は、少し狭い部屋だったが、それでも身を置かせてくれる私からすれば、十分過ぎるものだった。

 

 

「すまないね…空いている部屋がここしかなかったものだから。」

 

 

「いえ…私には十分過ぎるほどですよ」

 

 

私の言葉を聞いた彼は、優しく微笑みながら杖を一振りする。

 

少し埃かぶっていた机も椅子も綺麗になり、散らかっていた羊皮紙や、何冊かの本が元の位置に戻るかのように移動して、見違えるほどになった。

 

 

「そこの扉は、寝室に繋がっているからね。そんなに良いベッドじゃないから、寝苦しかったり、何かあったら直ぐに私に言いなさい。」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

まさかこんなにも整った環境を用意してくれるとは思っていなかった私は、少し戸惑いながらお礼を言った。

 

 

「まだ仕事が残っているから、私は戻るとするよ。…あぁ、この部屋は好きに使ってもらって構わないからね。」

 

 

そう言いながら、部屋を後にするミンチャムの後ろ姿を見送って、ローブを1人掛けのソファーにかけて、椅子に座った。

 

 

……さて…これからどうすればいいのだろう。

 

 

腰掛けて一休みすると、あの人の顔や言葉が頭に浮かんでくる。

 

 

死なないためには…叔父を殺さないといけない。でも、その叔父がどこにいるのかも分からない。

 

 

そもそも、本当に生きているのかどうかも分からない。今考えれば考える私は、叔母の言葉を聞いただけで、叔父が死ぬ瞬間も、死体も見ていない。

 

 

 

 

 

……死ぬ…瞬間…か……

 

 

 

 

 

…あっ…ペンダント…

 

 

 

私は急に、ペンダントのことを思い出して、服の中から取り出し、手に持ってみた。

 

 

「……身近な人が死ぬ瞬間を目にしたら…時を止められる……」

 

 

父に言われたことを繰り返すように呟いて、ペンダントを開いてみると、変わらず4つの惑星のような球体が飛び出し、周りを回りだす。

 

見た感じでは、特に何も変わっておらず、相変わらず何本の針がそれぞれの速さで動いている。とりあえず、ペンダントの色々なところを押してみたり、触れてみたりしてみたが、何も変わることはなかった。

 

変化がないペンダントを見ていると、父が言ったことはデタラメなんじゃないかと思いだした私は、やけくそに針の中心を押してみると、ボタンのようにカチッという音が聞こえた。

 

すると、それぞれの速さで動いていた針は、ピタリと止まり、周りを回っている球体の動きも止まった。

 

 

咄嗟に周りを、見回してみるが、特に変わっている様子はない。

 

 

ペンダントに視線を戻すと、今まで動いていなかった針が静かに時を刻んでいることに気がついた。

 

 

 

ペンダントを手に持ち、少し緊張しながら、部屋の扉を開けると、最初に目に飛び込んできたのは、まるで石像のように全く動かない人の姿だった。

 

ゆっくりと近づき、顔の前で手を振って見ても、瞬き1つしない。

 

 

……本当に…時間が止まった…

 

 

そう確信した私は、全く音が聞こえないことに気がついた。足音も、物音も、音というものがこの世界から消えてしまったかのように、静まり返っている。

 

 

…今この世界で…動いているのは……私だけ

 

 

 

そう思うと、本当にこのペンダントをあの人に渡さなくて良かったという安堵感が襲ってきた。

 

 

何となく、ペンダントに視線を移すと、時を刻んでいる針が12時を指し、カチッという音がした瞬間に、音が聞こえてくる。咄嗟に後ろを振り返るとさっきまで動いていなかった人が何も気にすることなく歩いていた。

 

 

…時間制限がある…ということか。

 

 

部屋に戻った私は、ペンダントを眺め、首からかけると服の中にしまい、瞼を閉じた。

 

 

 

 

時間が止められるということは、本当に、父も母も兄も…死んだということだ。分かっていた。あんな状態で生きていることがおかしい。

 

 

でも、どうやら私はまだどこから生きているのかもと馬鹿なことを思っていたようだ。

 

でないと、今こんなにも胸が苦しくならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、魔法省に身を置いた私は尻拭いというの名の仕事をこなしていた。ただで身を置かせてもらっている者だから、文句を言ってはいけないことぐらい分かっているのだが、毎日羊皮紙と向き合い続けて正直言って溜息しか出てこない。

急に現れた私は、死喰い人に家族を殺された可哀想な少女として魔法省中に広まったらしく、すれ違うたびに情をかけてくるものもいれば、変に気にしてくる者もいた。

 

最初は慣れなかったが、時々アウラが身の回りのことをしに来てくれていたお陰で、魔法省で寝泊まりすることもすっかりと慣れた。何か頼みたいことがあったら、アウラのことを呼ぶと直ぐに前に現れてくれる彼は、とても頼りになる。

 

レギュラスの様子を見には、時々行ってはいるが、今の私は自由に外を歩ける身でもないし、長い時間魔法省を留守にできるわけもない。

ただ、夜に毎日叔父に会うために、家に戻ってはいる。叔父が私に会いに来てくれるのなら、まず最初に家に来るだろうと思ったからだ。

 

でもまだ一回も会うことが出来ておらず、本当に生きているかどうかも怪しく思うほどに時間が経ってしまっていた。

生きていたとしても、私に会いに来てくれる保証なんてどこにもない。このままだったら、私はきっとあの人に殺されるだろう。

こんな賭けをやっていること自体、きっと間違っているんだろうが、あの時のこの方法しか思いつかず、後先考えずに言ってしまったのだからしょうがない。

 

 

………叔父を見つけて………殺さないと…

 

 

 

自分の掌を眺めながら、簡単にそう考えてしまうこと自体、私はきっともうおかしくなっているのだろう。

 

 

正直言って、今後何をするのが正解なのか、何をすればいいのか分からない。レギュラスに協力を強制したことも、彼の命を救ったことも、魔法省に身を置いたことも、家族の命を奪ってまで、生き残ったことも本当に正しかったのだろうか。

 

 

………あの時……一緒に……死ねばよかったんじゃないかと時々頭によぎっては、頭が真っ白になる。

 

何も考えられなくなった頭には、いつも必ず最初に浮かぶのは、セブルスのことだった。

 

 

学生の頃のセブルスの後ろ姿が浮かんでは、消えると、体に力が自然と入る。

 

 

 

 

彼を………助けるまでは………

 

 

 

こんな腐った世界を終わらせるまでは……

 

 

 

セブルスが…心から笑える日が来るまでは…

 

 

 

 

 

死ねない。

 

 

…死んではいけない。

 

 

 

 

そう思うと、……何故か胸らへんが寂しくなった。

 

 

 

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