夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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32 日記

 

カルカロフに名前を出されて、散々な目にあったあの日から、私は決して部屋の外には出ようとはせず、ただ地道に自分の仕事をこなしていた。なぜなら、魔法省中に噂が広まったからだ。どうやら、ここは一度死喰い人だと疑われると生きにくい職場らしい。

 

それでも、私はここから離れる気などさらさらない。ホグワーツに教師として働けるなら、1番良いのだが、それだとセブルスが動きにくくなってしまう。きっと彼は私が根元からの死喰い人だと思っているだろうから、私が動きやすくなったとしても、結局彼が1番辛くなる。

 

 

私は深いため息をつきながら、机にひれ伏せた。

 

 

 

 

……………会いたい…な……

 

 

 

 

今、セブルスは何をやっているのだろうか。ホグワーツで、生徒達に魔法薬を教えているのだろうか。

 

彼の教え方は、分かりやすい。苦手な私でも理解できたぐらいなのだから。

 

 

私は学生の頃のことを思い出し、しょうもないことを思いながら、ぼんやりと一点を見つめた。

 

 

 

 

 

私は胸らへんに硬いものが当たっているような感触に気づいて、触れてみると正体は首からかけているペンダントだった。

 

……あっ、時を止めて会いに行こうかな…

 

 

いや、それは時間が足りない。

 

 

私は思ったことを自分で突っ込みながら、ペンダントを手に取る。

 

最近、ペンダントについて分かったことがある。それは連続的には使えないということだ。一度使ったら、最低でも5分以上は待たないといけないし、その空き時間によって、時が止まる時間も変わってくる。空き時間が長ければ長いほど、止まっている時間は長いし、短ければ短いほど、止まっている時間は短い。

 

 

制限時間はあるし、それに連続して使えない。更には時を止めている間は、物も動かせないのだ。ただ、私が移動することしかできない。

 

あまりに条件が多すぎて、最近は使っていない。だって、本当にこのペンダントの力が必要な時に、時が止まっている間が短いといけないだろう。

 

 

 

私はペンダントを服の中にしまいこみ、背筋を伸ばすと仕事に取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々に仕事に打ち込んだ私が立ち上がり、体を動かしている時だった。扉をノックする音が聞こえてきて、返事をするとゆっくりと扉が開く。部屋に入ってきたのは、ミンチャムで私は驚きのあまり少し体が反応した。

 

 

「…お久しぶりです。………あ、どうぞ腰掛けてください。」

 

 

私が声を掛けると、彼はにこやかな笑顔を浮かべながら腰掛けた。私は、慣れない手つきでお茶を淹れて彼の前に差し出すと、向かい側のソファーに腰を下ろした。

 

 

「…今日は、少し話があってきたんだ。」

 

 

話を切り出すミンチャムの顔を見ながら、私は小さく返事をする。

 

 

「……もう、君の命を狙うような者達は居なくなった訳だし、君がここにいる理由ももうないんだ。だから、無理にここに居なくても大丈夫だよ。」

 

 

そんなこと言われるとは思ってなかった私は、彼の言葉を聞いて思ったことを問いかける。

 

 

「……それは…ここに居てはいけないという意味でしょうか?」

 

 

「いや、そういう訳ではないんだ。ただ、あれから、ここは君にとって過ごしにくそうだし、それに、ダンブルドアが君をホグワーツに迎えてくれるとまで、私に言ってきたからね。だから、君に伝えておこうと思って今日ここに来たんだが………。まぁ君の好きな方を選びなさい。」

 

 

説明し終わった彼は、私が淹れたお茶を飲むと、後を続ける。

 

 

「…後悔しない方を選ぶんだよ?周りのことなど、考える必要などないんだから」

 

 

そう言ってくるミンチャムがあまりにも、父に似ていたからだろうか。私の口からは全く関係ないことが溢れていた。

 

 

「………父は……どんな人でしたか……?」

 

 

 

下を向いていたから、ミンチャムがどんな顔をしたのかも分からないが、聞こえてきたのは優しい声だった。

 

 

「……そうだな…一言で言えば、変わっている人だったな…。」

 

 

私は顔を上げて、思い出すように話すミンチャムの顔を見つめながら、聞く耳を立てる。

 

 

「私では到底考えもしないことを言い出すこともあったし、………1番驚いたのは、まだ死喰い人の行動が活発ではない時期に、私にトムを止めてくれと言ってきたことかな。」

 

 

「………えっ……」

 

 

私が驚いたような声をこぼしたことに気づかなかったのか、ミンチャムは気にすることなく後を続ける。

 

 

 

「凄い慌てた様子で、魔法省に飛び込んできてね。凄い剣幕で言ってきたから、今でもよく覚えているよ。あの時は、仲が良かった訳ではないからね。彼が、トム・リドルがヴォルデモートだと言ってきても、何を言っているのか分からなかった。」

 

 

 

「……それは…ヴォルデモートの名前がまだ世の中に広まっていない時にですか…?」

 

 

私の問いかけに、彼はお茶を飲むと頷きながら答える。

 

 

「…そうだよ。……私も全くその名前を知らない時に、彼はそう言ってきたんだ。

 

 

あの時、彼が言っていたことを信じて何か行動を起こしていたら、今頃何か変わっていたのかも知れないな…」

 

 

後悔しているように話すミンチャムの目には、悲しそうな色が浮かんでいた。

 

 

 

 

「………その他に…父は…何か言っていましたか。」

 

 

私の心臓は、何故か少し緊張したように鼓動を速くする。

 

 

「…その他…?…その他は、……あぁ…何か夢を見たと言っていたよ。」

 

 

夢という単語が聞こえると、私の頭にはある可能性が浮かび上がってくる。

 

 

「…会ったばかりの時に、相談するような人がいなかったらしくてね。私に相談してきたんだ。

 

最近、不思議な夢ばかりを見ると。」

 

 

 

私は、口元を押さえながらある考えの可能性がどんどんと高くなっていくことを感じながら、後を続けるミンチャムの声に耳を傾けた。

 

 

「その頃は、まだ若かったし、それに父親を亡くしたばかりだったから、色々気が参っていたんだろう。少し経ったら、もう夢の相談もしてくることもなくなったからね。」

 

 

 

お茶を一口飲む彼を見て、私は自分を落ち着かせるためにティーカップを手に取る。中に入っている紅茶を見ても、全然飲む気になれない。

 

 

父は………私と同じ……

 

 

 

 

 

 

 

未来を知っていたのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミンチャムから聞いたことがどうしても頭に引っかかっていた私は、日がすっかりと落ちて、辺りが真っ暗になった時間帯に、我が家に来ていた。久々に来た我が家は、埃もすっかりと被り、相変わらず荒れ果てたままだ。

 

 

杖先を灯しながら父の自室に向かうと、あるはずの扉は存在しておらず、扉であっただろう残骸が床に落ちてあった。

 

中に入り、部屋の中を見回してみると、物書きができる机もふかふかなソファーも原型を留めておらず、床にはもう読むことができないような沢山の本が散らばっている。

 

 

……何か…あるかも知れない。

 

 

 

 

もし、父が未来を知っていたという確証が持てたら、何か今後役立つようなものがあるかも知れない。

 

 

 

床に散らばっている破れている本を一冊、一冊見てみても、特にそれに関する本などはなく、机の引き出しも開けてみても、当然何も入っていなかった。

 

 

 

 

何も見つけることができない私は、もう諦めて帰ろうかと立ち上がると突然どこからか声が聞こえてきた。

 

 

「貴女、セシルのお嬢さんよね?」

 

 

「誰⁈」

 

 

振り向いても誰もおらず、私は警戒するような辺りを見回す。

 

 

「上よ。上を見て」

 

 

そう言われ、まさかと思いながらも見上げると天井に描かれている女の人が私に話しかけてきていた。

 

 

「何を探しているの?」

 

 

優しく問いかけてくる女の人の奥には、女の人が2人と、男の人が1人何やらお茶会をしている。

 

 

「…えっと…父の秘密を知ってるもの」

 

 

「セシルの?……日記のことかしら?」

 

 

そう言う彼女は少し考え込むと、私に話しかけてくる。

 

 

「日記なら、暖炉の中よ。」

 

 

私は言われた通り、暖炉の前に身を屈めて彼女を見た。

 

「中って、本当に中?」

 

 

「違う違う。手前のレンガ少し浮いてるでしょ?それを取ってみて」

 

 

確かに言われてみれば、浮いている。隙間に指を滑り込ませて、レンガを二個取り除き、ぽっかりと穴が空いたそこには、何も変哲もない本があった。表紙は少し、汚れているし、色も褪せている。

 

 

「あった?」

 

 

問いかけてくる彼女に、本を見せると少し興奮したように声を上げた。

 

 

「そうよ、それ!良かった。まだ捨ててなかったのね。」

 

 

私が本を見ていると、上から彼女が話しかけてくる。

 

 

「きっと、それに貴女が知りたいことが書いてあるわよ。」

 

 

そう言ってくる彼女は、少し悲しそうだった。

 

 

 

「……貴女、名前は?」

 

 

私が見上げながら問いかけると、彼女は笑みを浮かべる。

 

 

「…アマータよ。」

 

 

 

アマータ……。

 

 

どこかで聞いたことのある名前に私が頭を悩ませていると、アマータは後を続けた。

 

 

 

「貴女のことはよくセシルが話していたからよく知っているわよ。……ほら、そろそろ行きなさい。」

 

 

 

「……教えてくれて、ありがとう。」

 

 

私がお礼を言うと、嬉しそうに笑うアマータは手を振ってくる。

 

 

「本を読む時は、明るい所で読むのよ。」

 

 

 

母親みたいなことを言った彼女に手を振り返すと、後ろにいた3人も私の方を見て、微笑んできていた。

 

 

……アマータ………3人の女の人に……男の人

 

 

 

 

どこかで聞いたことがある名前、それと何か引っかかるあの人数。私は少しモヤモヤしながらも、姿くらましをして、魔法省に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り、椅子に腰掛けた私は、早速持って帰ってきた父の日記に被っていた埃を払い、表紙を開いた。少し、ヨレヨレになっていて少し力を入れただけで破れそうだ。

 

表紙を開き、最初に目が入った文字は、父の文字というより、何か幼い子供が書いているような字体だった。

 

 

 

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今日、不思議な夢を見た。夢といっていいのか分からないほどに、現実的で、まだはっきりと内容も覚えてる。

 

 

少し、怖いけど、忘れてはいけないような気がするから、一応書いておくことにするよ。

 

 

少し視線が高くて、周りには同じ歳っぽい子たちがいた。前には、帽子を被った女の人がいて、周りのみんなも、そして僕も付いていった。大きな扉の奥に入ると、そこには、赤、緑、青、黄の4色のローブを見に纏った人達がそれぞれの机で固まって、僕たちを歓迎していた。

真ん中の道を通ると、椅子が用意してあった。帽子と羊皮紙を手に取った女の人は、1人ずつ名前を呼びあげて、その子に帽子を被せては、帽子がグリフィンドールとか、ハッフルパフとか叫ぶ。

 

僕の名前が呼ばれて、椅子に座ると、頭の上の帽子が、スリザリンって大きな声で叫んだ。体が勝手に動くから、どうしようもできないけど、何故かこれが夢じゃないような気がしてならなかった。

 

緑色のローブを羽織っている人達のところに行くと、歓迎してくれた。

 

それから、お爺さんみたいな人が話すと、目の前にご飯がいっぱい現れて、僕は肉を食べるんだ。そしたら、目の前にいる男の子が僕に話しかけてきて、笑いかけてくる。僕の名前を知った彼が、トム・マールヴォロ・リドルと名乗ったのを聞いて、僕は目が覚めた。

 

 

 

よく分からない夢だったよ。夢って、起きたら大体薄っすらとしか思い出せないはずなのに、今でもはっきりと覚えているんだ。

 

……なんか…不気味だ。

 

 

 

 

1936/8

 

 

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文書と日付は幼いというのに、年を表す数字だけ少し整っていて、後から書き込んだように端っこに書いてあった。

 

 

 

 

 

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この日記を見て、思い出したよ。今は、ホグワーツに入学して、クリスマス休暇で家に帰ってきてる。

 

 

日記に書いてある通り、そのまま通りのことが起こったんだ。トム・マールヴォロ・リドルていう子もいた。彼とは同じ部屋になった。気が合いそうな人がいて、ほっとしたよ。

 

トムは、魔法界のことは何も知らないらしい。それなのに、魔法を扱うのが上手いんだ。下手したら、僕より上手なんじゃないかな。彼と、友達になれるといいんだけど。

 

 

それから、母さんにペンダントを貰った。クリスマスプレゼントではないらしい。肌身離さず持っとくように言われたんだけど、あんまり乗り気はしない。なんか嫌な感覚しかしないんだよな。このペンダント。

 

 

 

 

1938/12

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

トムのおかげで、テストの点数が割と取れた。彼は凄いよ。僕よりも知っていることが多いし、魔法の扱いだって上手い。テストの点数も高かったし、少し羨ましいな。

 

 

それだというのに、彼はあることに執着しすぎてる。トム曰く、特別な存在でなければいけないんだって。理由は教えてくれなかったけど、とにかく特別な存在になりたいらしい。

 

僕は、もう勝手に友達だと思っていたし、友達ならそれは僕にとって特別な存在だと思っていたんだけど、違ったのかな?

 

 

それを言ったら、驚いたような表情をしていたから、そろそろ思ったことが口から出てしまう癖を直さないと。

 

 

 

1939/6

 

 

 

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今のところ、日記に書いてあることで未来のことを書いてあるのは、最初のページだけでその他は、主にあの人のことばかり書いていた。自慢するように、色々と、沢山のことが綴られていた。それだというのに、次のページをめくると、今まではぎっしりと書かれていたというのに、このページだけ数行しか書かれていなかった。

 

 

 

 

 

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トムに純血主義のことを聞かれた。だから、今まで通り変わらず、教えた。もしかすると、これが間違いだったのかもしれない。

 

それまでは、純血かどうか聞かれもしなかったのに、彼は血のことを気にしだした。そして最近言ってくるんだ。穢れた血は、ホグワーツで学習する権利など必要ないんじゃないか、魔力を持っていないマグルなど、この世に必要なのだろうか、って。僕が知ってるトムじゃない。

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

ある噂が飛び込んできた。トムが裏で自分の友達をいいように利用しているらしい。でも、僕は利用されていない。きっと嘘に決まってる。……そう、言い切りたいのに、否定できない自分がいて、凄く苦しいんだ。

 

 

 

 

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それまで、毎日欠かさず年月を書いていたというのに、ここでは、書く余裕がなかったのか、どこにも書かれていなかった。

 

何ページか飛ばして、書かれていた文章はパッと見ただけでも何かあったと分かるほど乱れていて、戸惑っているのが私でも分かる。

 

 

 

 

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またあの不思議な夢を見た。今度はトムが人を殺す夢だ。あの時と感覚が似ている。

 

立派な屋敷で人を殺していた。3人の人に向かって、杖を向けていたんだ。でもなぜかその杖は彼のものではなかった。

緑色の閃光が目の前が眩むと、僕は手に新聞を持っていた。どうしてだか、それが予言者新聞ではなく、マグルの新聞だと分かっていた。新聞に書かれてあったことは、少し曖昧で覚えてないが、頭にトムが自分の家族を殺したということが浮かんできた。

 

 

そこで、夢は終わった。分からないんだ。これが夢なのか、それとも違うのか、分からない。だって、これが本当に起こることだと考えたくても、未来の出来事を夢で見るなんて普通じゃない。

 

 

 

僕は、どうしたらいい?誰かに相談できる人なんて、いない。……未来が見えたなんて、誰が信じてくれるっていうんだ。

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

混乱し、苦しみ悩みながら、父は1人この日記を書いたのだろうか。

 

 

父は、どうやら本当に未来で起こることを夢として見ていたらしい。でも、私とはちょっと違う。

 

この日記を見る限り、父は、未来の自分の視点の夢を見ているらしいし、それに比べ私が、この世界の未来を知ったのは、前世の自分の記憶を思い出したからだ。それに父が断片的なものに比べて、私はほとんど全てのことを思い出している。父は未来を見たという感覚なのに、私は思い出したという感覚なのだ。

 

 

 

 

 

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変えたかったんだ。もし、あの時見た夢が本当に、未来に起こる出来事だとしたら、トムが家族を殺してしまう。それだけは止めたかった。止めなければいけないと思った。

 

トムが家族を殺してしまう未来を変えたかっただけなのに、僕が勇気がないせいで結局何も出来なかった。ただ、目の前で見ただけだ。トムが家族を殺す瞬間を目にしたら足がすくんで動かなかったんだ。結局、間に合わなかった。

 

僕がいるのに気づいた彼は、酷く驚いていた。ただ何かの間違いで殺してしまったんだろうと、彼の本心からではなく衝動的にやってしまったんだろうと、…藁にすがる思いでトムに問いただした。でも、それが間違いだったらしい。彼は僕の思っているような人じゃなかった。負けず嫌いで、誰よりも努力して、僕の自慢できる友達だった。羨ましくて、彼みたいになりたいと何度も思ったこともある。彼のことだったら何でも理解しているつもりだった。

 

 

でも、知らない。あんな冷たい笑みを浮かべるトムなど知らない。見たことない。

 

 

 

 

僕だけだったのかも知れない。友達だと思っていたのは、きっと僕だけだったんだ。

 

 

 

間に合っていれば、勇気がいれば、こんな思いせずに済んだのかも知れない。僕が知っているトムを殺したのは、きっと僕自身だ。

 

 

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父は、新聞を見て、あの人が家族を殺したのを知ったと言っていたのに、ここには人を殺す瞬間を見たと書いている。となると、父は私に嘘をついたということになる。

 

もう、この先を見てはいけないような気がしてならなかったが、ページをめくる手は止まることはなかった。

 

 

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母に言われた。いつか貰ったあのペンダントは、代々受け継がれているものらしい。身近な人の死を見れば、時を止めれるようになり、僕が死ねば過去に戻れると教えてくれた。

 

 

それに、このペンダント自身が次の所有者を決めるらしいのだが、母によると、少なくとも僕がホグワーツに入学する前にはもうペンダントが選んでいたらしい。母は、幼い僕に渡すのが怖くて、どうしても渡せなかったと言っていた。

 

 

…きっと僕が時々未来が見えるのは、ペンダントが関係している。あの不思議な夢を見るのは、いつも決まってペンダントが手元にない時だった。

 

でも母は、未来が見えるなんて一度も言わなかった。

 

やっぱり、僕の勘違いなのかも知れない。

 

 

 

 

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その後は、白紙が続いていて、もう書かれていないのかと思いながらもページをめくり続けると、綺麗な字体の文章が簡単にメモるように綴られていた。

 

 

 

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父が死んだ。僕が殺したと言っても間違いじゃない。

 

エドが死ぬ夢を見たんだ。もうあの時はこれが夢で終わらないことは理解していた。エドが死ぬ未来が来ると知って、阻止しないわけがない。

 

 

エドの代わりに父が死んだ。分からないことがたくさんあるから、今混乱している。時を止められたんだ。身近な人の死を見ていないというのに、僕は時間を止めてエドを死なせずに済んだ。でも、その結果がこれだ。父が死んで、僕が当主にならないといけない。悲しみに暮れている母や、セリーヌ、エドを見ていると苦しくてたまらない。

 

正しかったのだろうか。僕は一体どうしたらよかったんだろう。

 

 

 

あと1つ、身近な人の死というのは、本当にその人の心臓が止まり、身体が冷たくなることだけを言っていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

……父は…ペンダントを使っていた。それに最後の文章の意味は、どういった意味だろう。

私は、文章をなぞりながら何度も読み返してみると、ある文章が頭に浮かんできた。

 

 

 

【僕が知っているトムを殺したのは、きっと僕自身だ。】

 

 

まさか、あの人が家族を殺す瞬間を見た父の目には、自分の知っている、トム・リドルという人物が死んでしまったように映ったのだろうか。

 

 

きっと、父にとって家族以外にもあの人は身近な人だった。

 

 

 

考えられることなんてこれぐらいだ。

 

 

 

考えを巡らせながら、次のページをめくろうとした時だった。本の1番下に、少し掠れているインクで小さく何か書かれてあることに気がついた。私は目を凝らしながら、目で追っていく。

 

 

 

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誰か、助けて。

 

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その文字を見た瞬間に、何故か一気に怖くなり、私は日記から視線を逸らす。私は文字を見ないように次のページをめくった。

 

 

……怖かった。

 

鳥肌が立つほど怖くて、それと同時に何故か心臓がぎゅっと苦しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のページには、自分の友人がヴォルデモートという名で、罪のない人達を殺し、魔法界を支配しようとする夢を見たこと、居ても立っても居られずに、魔法大臣に頼みに行ったが相手にされなかったこと、ペンダントを使うことが怖くて、未来が見えても動く勇気がないことなど、父の葛藤している気持ちがつらつらと文章ととして、書き出されていた。

 

 

読み進めていると、上から下までぎっしりと文字で埋め尽くされているページを見つけて、目で追っていると私の名前が書かれていることに気づいた。

 

 

 

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ノアや、レイラが産まれて今のところ何事もなく過ごしている。子供達がいるおかげなのか、最近あのような夢を見ることもなくなった。毎日が楽しくて、幸せすぎて時々不安になる。そういえば、レイラが異常なほど箒に関心を示していた。まだ、やっと歩き出したばかりだというのに、よろよろしながら跨ぎながら家中を歩き回っていた。

体を支えながら箒に乗せて、少し浮かしてあげると上機嫌になっていたよ。

ノアは、最近魔法動物に興味があるみたいだ。毎日、本に釘付けになっている。時々、レイラに自分が覚えたことを教えているよ。レイラは一応、首は振ってるけど、本当に分かっているかどうかは分からないな。

 

そういえば、最近セリーヌとエドが遊びに来た。ノアは、セリーヌにばかり話しかけているし、レイラはエドにひっついてばかりだ。

本当にレイラはエドが大好きらしい。赤ん坊の時に誰が抱いても泣き止まなかったというのに、エドが抱いた瞬間ぴたって泣き止んだ時のことを思い出したよ。

 

最近、エドもよく笑うようになって嬉しい。

 

 

 

 

 

 

…どうか…あの2人にペンダントが回らないでくれ。こんな思いをするのは、私だけでいい。

 

 

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その後の日記は、毎日私やノアのことばかりで、ぎっしりと書かれていた。

ページをめくっては、何か今後に役立つものはないかと必死に文章を目で追っていると、突然、白紙のページが現れる。今までの日記を見ていても分かるように、時々白紙のページを挟んでいたから特に何も考えずにページをめくると、まず最初に目に入ったのは手紙のように宛名と書いている文字だった。

 

明らかに、今までとの書き方が違うから少し読むことを躊躇ったが、私は意を決して読み進めた。

 

 

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今、これを読んでいる貴方へ

 

 

これを読んでいるということは、貴方がきっとペンダントを持っているのでしょう。

一体貴方がペンダントのことについて知っているかは分かりませんが、一応私が知っていることと、仮説を書き出しておきます。少しでも、貴方の力になれば幸いです。

 

 

ペンダントは、意思を持っていると私は考えています。人間は、人に必要とされたい生き物です。それと全く同じで、このペンダントも自分を必要としてくれる人を所有者として選ぶのでしょう。

 

このペンダントは死と深い関係があるようです。時を止めれるようになるのは、身近な人の死、過去に戻れるようになるのは、所有者が死ななければならない。

どうして、死にそんなにもこだわっているのかは分かりませんが、私はこのペンダントに執着させるためにそういう仕組みになっているのではないかと思っています。

 

 

身近な人の死を目の前にし、時間を止めることができるというのなら、きっと人は、もう二度とあんな光景を目の当たりにしないように、死ぬ運命の人物を救うでしょう。自分が死んで、過去に戻れるというのなら、尚更です。過去に戻れるというのなら、身近な人の死さえも、防げるかも知れない。そう思えば、信頼できる人に頼んで自分の命を犠牲にする人もいるでしょう。別に人ではなく、屋敷しもべ妖精でもいいのですから。

 

 

 

 

 

突然ですが、貴方は未来が見えることはありますか?夢のようなんだけど、夢ではないようなそんな不思議な夢は見たことはありますか?あるというのなら、それはきっとこの先起こる出来事です。

 

未来が見えるのも、きっとペンダントが関係していると思っています。きっと、その人にとって変えたい未来を見せるのだと思います。

例えば、自分の命を犠牲にしてでも守りたい大切な人が殺されてしまう未来を見せれば、人はペンダントを使って救おうとする。その時の所有者、一人一人に合わせて、見せる未来も違うかも知れません。自分を使ってくれるように、必要としてくれるようにと、その人にとって辛い未来を見せる。

 

ただ、1つ引っかかるのは、前の所有者である母はそんなことは一言も言わなかったことです。未来が見えるということは言いませんでしたし、最低限のことだけを教えてくれました。

 

考えられるのは、2つです。1つは、未来が見えることを黙っていたか、そしてもう1つは、未来を見たということを忘れたか。

私は後者だと思っています。前者は、どう考えても、黙っている理由が思いつきませんし、未来を見たということを忘れたというのが何もかもが1番しっくりくるのです。

 

所有者が変わる際に、前の所有者の記憶は消えてしまうのかも知れません。未来を見たということや、このペンダントに関することなど、覚えているのはペンダントの使い方のみ。

 

 

でも、何故ペンダントの壊し方だけは私のところまで伝わってきたのかが疑問になります。自分を破壊させる方法など、1番最初に消えてしまう気がするので、もしかすると本当に、単なる言い伝えなのかも知れません。

 

 

 

 

私が知っていることは、これ以上ありません。本当に記憶がなくなるのか、これを確かめるために私はこれを書いています。

 

次の人にペンダントが回っても、私が覚えていたら、この日記は燃やします。しかし、まだ貴方の手にあるというのなら、私は未来を見たことも、ペンダントに関することも忘れてしまっていると考えてください。

 

この日記が、暖炉下から出てきたら、私はこのことを書いたことさえも忘れているということでしょう。

 

 

 

最後に、貴方がどこのどなたかは分かりませんが、出来ればペンダントを終わらせてください。私には、息子と娘がいます。子供達には回したくないのです。未来が見えて、良いことなど、1つもない。辛く、苦しい気持ちをするのは私だけで十分なのです。

 

 

 

 

もし、今これを見ているのが、私の子供達だったらなら、今すぐに誰でもいいからペンダントを使う前に不思議な夢を見たと、未来を見たと打ち明けて。

信じてもらえないかも知れないという気持ちも、話す勇気がどれほどのものなのかも、私は知っている。でも、もしかしたらそのおかげで忘れている私が思い出すかも知れない。

 

この負の連鎖を断ち切れるかも知れない。

 

 

君達を救えるかも知れない。

 

 

 

 

もし、どうしても言える勇気がないというのなら、覚えていて。

 

どんな時も私は、お前達の味方だ。決して、一人で抱え込む必要がないことも覚えていてくれ。

 

 

私は、いつでもお前達が幸せに過ごせる事だけを祈ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

セシル・ヘルキャット

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

「…遅すぎるよ……」

 

 

私の口からは、そんな言葉がこぼれ落ちる。

 

まだ、父が生きている頃に、これを見つけていたらどんなに良かったのだろう。

 

私だけではなかったんだ。未来を知っていたのは、私だけじゃなかった。

 

 

私は、日記を閉じて両手で顔を隠した。

 

 

 

………ということは…私が記憶を思い出したのは、ペンダントが私を次の所有者として選んだから。

 

この日記が、私の手元にあるということは、父の記憶は消えたということだろう。

 

 

そんなことを考えても、今の私には後悔が襲いかかってくる。

 

 

……ペンダントのせいで…思い出したのか。

 

 

私は、首からかけているペンダントを取り出して、力一杯に握りしめる。

 

 

………自分を必要とされたいがために、私に思い出させた。……意思があるというのなら、きっといい気味になっていたんだろう。

 

 

 

悲しいという感情よりも、今手に持っているペンダントが腹ただしく思えてきた私は、ペンダントに視線を移した。

 

 

 

………そんなに必要とされたいのなら、利用してあげるわよ。

 

 

どうせ、ここまできたんだ。セブルスを救って、ペンダントを終わらせる。

 

 

こんなペンダントに振り回されるのは、私が最後で十分だ。

 

 

 

 

 

でも、こんなにも過去に戻りたいと思ったのは、初めてかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 


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