夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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アズカバンの囚人
プロローグ


 

 

 

 

小さな英雄が闇の帝王を倒してから一年とまた一年と時は過ぎていった。

 

 

 

私は相変わらず、魔法省で雑用係として尻拭いをしている。変わったことをしたことといえば、あの後父の日記を焼いたことと、ダンブルドアとお茶をしたことぐらいで他は特に何もない。

 

 

 

 

闇の帝王が倒れて年月が経つにつれて、私に対する噂も消えていったようで、あの変な視線を感じることもなくなった。

その代わりに、あんなに家族を死喰い人に殺されて可哀想な少女と思われていたのが嘘のように、役職につくわけもなく、ただふらふらと居候しているような私は今ではすっかり変人として浮きまくっていた。

 

全員がそういう態度をするわけじゃない。例えば、アーサー・ウィーズリーのような人の良い人達は愛想よく接してくれている。

 

学生の頃と同じ立場だといえば、分かりやすいと思う。

 

 

 

しょうがないことだが、どうも落ち着けず、今までは魔法省でも寝泊まりをしていたが、今では、レギュラスがいる部屋に帰ることが多くなっている。身の回りは今までと変わらずアウラがこなしていてくれているから、特に不自由はない。

 

ただ、そろそろ役職が欲しいと思っている。

だってあれから私はずっと皆の尻拭いや、人手の足りない部署を手伝ったりと仕事内容は変わりなかった。

 

正直言って、魔法大臣の秘書的立場に立てれば今後色々と動きやすいのだが………

 

魔法大臣の秘書になれなんて言われたら、嬉しいんだけどな……

 

望みの薄いことを思いながら、私は期待するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は少しため息をつきながら、魔法省の中を早歩きである部署に向かっていた。地下二階に下りて、その階の1番奥、ここまで通る人などごく僅かで、他の部署と明らかに孤立している。

 

『マグル製品不正使用取締局』

 

と書かれたぼろぼろの札がかかってある扉を開けると、もう扉は外れかけていて嫌な音を立てた。

 

部屋に入って1番最初の印象は、散らかった物置部屋だと思った。あちらこちらに、マグルの製品が散らばり、山積みになった羊皮紙ができていて中には山が崩れているものもある。籠の中に大量の手紙が無謀座に重ねてある。

 

 

「…失礼します。……上から言われて手伝いに来ました」

 

 

少し埃っぽい空気で咳き込みそうになりながらも、中に入ると年老いた男の人が目に入った。マグル製品不正使用取締局の貴重な局員の一人であるパーキンスだ。

 

「あぁ…何度もすいません……」

 

パーキンスは、私に申し訳なさそうに言ってくる。

 

「…いえ、これが私の仕事なので。気にしないでください。」

 

私は慣れたように積み上がった羊皮紙を机の端に移動させ、一枚の羊皮紙に向き合った。もうここに手伝いとして派遣されるのは、一度のことではないので慣れたもんだ。

 

 

「…ところで、ウィーズリーさんは?」

 

 

「…あぁ……何やら息子さんが空飛ぶ車を運転したのがマグル達に見られたようで、上から呼び出されていますよ」

 

 

「……そうなんですか…」

 

私はパーキンスからの言葉を聞いて素っ気なく返し、羊皮紙に視線を戻した。

 

あれからどれほど時間が経ったかは分からないが、私が羊皮紙を10枚ほど片付け終わった時に後ろのはずれかかっている扉が開く音がした。

この扉を開く人は決まっているから、大体は誰が入ってきたかは想像できる。振り向くと案の定アーサー・ウィーズリーが入ってきた。

 

 

少しげっそりとしている様子で、疲れたように部屋に入ってくると、私に笑顔を向けて話しかけてくる。

 

「すいません…何度も手伝ってもらって」

 

「…いえ、お気になさらず……それよりも大丈夫でしたか?呼び出されたのでしょう?」

 

「……大丈夫です。…50ガリオンの罰金と注意喚起で終わりましたし、何とか辞職には持っていかれなかったので…」

 

アーサーは、思い出したように苦笑いを浮かべた。

 

「…今、職を失っては辛いですものね…子供が7人でしたっけ?」

 

「えぇ…今年は末っ子もホグワーツに入学しましてね、グリフィンドールだったと聞いた時は嬉しかったですよ」

 

ジニーのことを思いながら話すアーサーは、満面の笑みを浮かべていた。本当に良い父親だと感じて私は少し笑みが零れおちる。

 

 

「そうですか、それは良かったですね。」

 

私は出来るだけ自然な笑みを浮かべて、羊皮紙に向き直った。

 

 

 

「……そういえば、あの子もホグワーツにいるんですっけ?」

 

私が思い出したように言うと、アーサーが聞き返してくる。

 

「あの子って?」

 

「…生き残った男の子」

 

「あぁ…ハリーのことですか。あの子は、去年ホグワーツに入学しましたよ。グリフィドールだったと息子に聞きました。」

 

「会ったことがあるんですか?」

 

私は、何も知らないという風な雰囲気をだしながらアーサーを見つめた。

 

「えぇ、息子の友人なもので、今年の長期休暇に何日かうちに泊まりにきていましたね」

 

「…へぇ……私も一度は会ってみたいですよ」

 

 

そんなことをポロリと口に出しながら、羽根ペンを動かす手を見ながら後に続けた。

 

 

 

……どうせならまだ誰も死なない内に

 

 

 

アーサーがこっちを見てきたような気がしたが私は特に気にする事なく、手を動かし続けた。まさか、心の中で思ったことが分かるはずがないし、きっと私の気のせいだったんだろう。

 

 

 

 

 

 

こんなにも時間が経つのが早く感じるのは年のせいなのか、それとも単なる感覚の問題なのか分からないが、気づけばもう私が知っているこの世界の物語の一部は始まっていた。

 

 

 

…………もう……始まったんだ……

 

 

 

 

そう思うと、緊張したように心臓の鼓動がいつもより耳元で聞こえる気がした。

 

 

 

 


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