積み上げられている羊皮紙を横目に、ひとりでに忙しそうに動く羽根ペンから手元の日刊予言者新聞に視線を移した。そこには少し小さめだが、ガリオンくじグランプリの当選者の名前と本人のメッセージが一言書かれてある。
【当選者、アーサー・ウィーズリー氏
賞金は家族を連れて、エジプト旅行の資金に使うと語った。】
読み終わった新聞をたたんで、机の上に置くと、丁度マグル製品不正使用取締局に用があったことを思い出した私は、羊皮紙の束を抱えて部屋を出た。
もうこんなに時間が経てば、私の存在などないに等しく、魔法省に居てもただ羊皮紙を眺める日々。一言も声を出さないという日もざらではなく、正直言ってここにいる意味も分からなくなってきている。
そんな私を気にかけてくれているのが、アーサーだった。社交辞令のように話していたのは最初だけで、今では下の名前で呼ぶほど仲良くなっている。
エレベーターに乗り、1番奥の部屋に向かう。字が消えかかっている札は相変わらず今にも外れそうで、扉を開けば嫌な音を立てながら少し埃が舞った。
パーキンスと話しかけながら、皺くちゃなローブを羽織っていたアーサーは、私の姿を見ると優しく微笑みながら、話しかけくる。
「あぁ、レイラ。今日は一体どうしたんだい?」
「これを届けに来ました。」
私が持っていた羊皮紙の束に視線を移したアーサーは、少し申し訳なそうにお礼を言ってくる。彼からは、敬語じゃなくてもいいと言われたが、歳上の相手にそんな崩した口調で話しかけられない。
「ありがとう。そこの机の上にでも置いといてくれ。」
そうは言われても、私の近くにある机には羊皮紙を置けるスペースなどなく、大量の手紙や、羊皮紙、更にはマグル達が使っている道具かは分からないが、見たことのないものが転がっている。
懐から杖を取り出して、一振りしてしまえば散らかっていた机の上は、羊皮紙を置けるスペースが空いた。
「そういえば、ガリオンくじ当たったんですね?新聞見ましたよ。」
顔を上げれば、嬉しそうな表情を浮かべているアーサーが視界に入った。
「そうなんだよ。いや、こんなこと本当にあるんだね。」
「エジプト旅行でしたっけ?」
少し部屋の奥に入り、机の上にあった取っ手のようなものが上に乗っかっている見たことのないものを少し触りながら問いかける。
「長男のビルがエジプトで呪い破りの仕事をしているからね。
子供達が喜ぶ姿を見るだけで、私まで嬉しくなるよ。」
彼の話を聞きながら、私は目の前にある物の、取っ手の部分を握り取ってみたが、一体何をする為のものなのか全く予想がつかない。
「最近、ジョージとフレッドの悪戯が少しやんちゃしてきて、そこが少し悩んでいるところなんだ。2人の悪戯にはしょっちゅうロンが巻き込まれているんだが、…全く本当に手がつけられない。」
旅行とは関係ないことを話し出したアーサーは、そう言いながらもどこか嬉しそうだった。きっと自分の子供の成長が嬉しくてたまらないのだろう。
「それは、奥さんも大変でしょうね。今は丁度、学校も休みですから。」
「そりゃあ、毎日モリーの怒鳴り声が家中に響いてるよ。彼女の怒鳴り声が聞こえない日なんてないな。」
笑いながら話す彼を見ていると、ついつい私まで笑みがこぼれる。私が笑いながら持っていた取っ手のようなものを元の位置に戻すと、アーサーが話しかけてきた。
「それは、電話という物だよ。」
どうやら、私が興味を持ったことが分かったらしく、近づいてきたアーサーは軽々とそれを持ち上げる。
「…電話?一体何をするものですか?」
少し懐かしい言葉の響きに、頭を悩ませながら問いかけると、彼はいかにも自分が開発したように自慢げに話し出す。
「マグルが連絡手段として、使っているものなんだ。この紐のような先についているこれをコンセントというものに差し込んで使うらしい。」
アーサーは紐の先にある凸凹したものを握りながら、説明する。
「どうやら数字の組み合わせの違いによって、色々な人と連絡する。凄いのはここからなんだ。これを耳に当てて何と相手の声を聞きながら、会話をすることができる。」
さっきまであんなに家族の話をしていたというのに、今はお気に入りのおもちゃを手に入れた少年のように、目を輝かせながら得意げに話を続ける。
「凄いと思わないか?こんな小さな箱のようなもので会話をすることができるんだ。マグルが考えることには本当にいつも驚かされる。」
確かに凄いとは思うが、どちらかというと彼の勢いに押されて、そっちの方に驚いている。そんな私に気づくこともなく、アーサーは熱弁する口を止まらせることはしなかった。
「一度使ってみたいんだが、コンセントというものはないから、マグルの家に行って貸してもらうしかないだろうな」
笑いながら話すアーサーは、多分冗談で言っているのだろうが、彼だと本当にやってしまいそうで少し怖い。というより、私は完全に彼のマグルに対する好奇心を簡単に見ていた。まさか、こんなにも熱中していたとは思わなかった。
「……時間は大丈夫何ですか?……外に出なければいけなかったのでは……」
申し訳なさそうに聞こえてきた小さな声は、パーキンスのもので、彼の声を聞いた瞬間、アーサーは何かを思い出したように凄い勢いで身支度を済ませた。
「すまない。レイラ、この話はゆっくり別の日にしよう。…そうだ、今度我が家に遊びに来ないか?一度、モリーや子供達に紹介していたいんだが…あぁ勿論乗り気じゃなかったら…」
「もちろん、ご家族が良いというのなら、喜んで」
振り返りながら早口で問いかけてくるアーサーに返すと、彼の頰が安心したように綻んであっという間に部屋を出て行った。
アーサーが居なくなったこの部屋には、パーキンスと私の2人しかおらず、羽根ペンが動く音しか響いていない。あんなに話し声で溢れかえっていたのが不思議に思えるぐらいに静まり返っている。
パーキンスと2人っきりで話したことがあまりない私と彼の間には、きっと誰が見ても気まずい雰囲気が流れていることは目に見えて分かるだろう。
「………あと、どれぐらい終わってないんですか?」
恐る恐る彼に話しかけると、顔を上げたパーキンスは部屋をぐるりと見回した。私に視線を移す、パーキンスは困ったように眉を下げながら口を開く。
「……実は…これ、全部なんです。」
彼が申し訳なさそうに言った全部というのは、大量の羊皮紙や手紙でできた山々のことを言っているのだろう。まぁ、よくよく考えてみれば、2人だけしかいない部署にこれだけの羊皮紙が送られてくるのもおかしな話だ。
私は背もたれのない椅子に座り、手をつけていなさそうな羊皮紙の山から1枚引っ張り抜いた。
「手伝いますよ。」
「そんな、悪いですよ。」
私が強引に引っ張り抜いたせいで、羊皮紙の束が勢いよく崩れ、その音で彼の声が少し聞こえにくかった。
「大丈夫ですよ。私、丁度暇をしていたんです。…それにこの量と1人で向き合っていると気がおかしくなりますよ。」
パーキンスの顔も見ずに、近くあった羽根ペンを勝手に借り、ひとりでに動く羽根ペンを横目に私もペンを走らせる。
本当に今、実際に私が知っている未来が訪れているのだろうか。
ふとそんなことが頭をよぎり、私は羽根ペンを動かす手を止めた。幸い、パーキンスからは、羊皮紙の山で見えない角度にいるから様子がおかしいことも気づいていないだろう。
一度思ってしまうと次から次へと、色々なことがが浮かび上がってきた。
本当に、ハリーが賢者の石をあの人に渡すのを防ぎ、去年トム・リドルの日記からジニーを救ったのだろうか。
というか、本当にハリー・ポッターという少年はホグワーツに通ってるのかな……
彼を見たのは赤ん坊の時だけだからなのか、実際あまり実感がないのだ。最近は、エバンズそっくりの瞳を持った、ポッターにそっくりな男の子など本当に存在しているのかどうかも怪しいと思っているほどだ。もしかすると、そんなにポッターに似ていないかも知れないし、私の知っているような彼ではないかも知れない。
最近時々思うことがある。
随分と昔に見た未来の出来事も、今まで起きたことも全て夢かもしれないと。今この瞬間も、単なる私の頭の中で想像の世界のかもしれない。
そんなことを思っても、何も解決などされないのは分かっている。夢ではないこともしっかりと理解しているつもりだ。その証拠に、よく今まで殺した人達の顔や、声、その時の感覚が鮮明に蘇ってくる時がある。こんなのを思い出すということは、きちんと現実だと頭では分かっていることだということにしている。
私は、文字が並んだ羊皮紙を眺めながら静かに羽根ペンを置いた。
………でも…何かが…おかしい…
私が今見ている世界は、何故か色がない。別にモノクロに見えるという訳ではない。何か失ってしまったような、噛み合わない歯車がそのまま回り続けているような何か小さな違和感がある。
私は一体……何を…失くしたのだろう。
少し不安になった気持ちをかき消すように、羽根ペンを握り直して、羊皮紙の上を滑らした。
こんな、羊皮紙ばかりを見ているからそう感じてしまっただけだと言い聞かせても、胸に大きな穴が空いたような空虚感は誤魔化すことができなかった。
いつも通り日が昇り、外が明るくなると外からはマグルが仕事へ行く足音や、車のエンジン音が聞こえてくる。
私は、家のソファーに深く腰掛けアウラが淹れてくれたコーヒーを飲むながら日刊予言者新聞に目を通していた。
いつもは、ただ細かいところなんて見ずに新聞を閉じるのだが、今日だけは写真と印刷されている文字を見て、視線は一点に集中した。
【シリウス・ブラック、アズカバンを脱獄】
写真の中のブラックは、こちらに何か叫ぶように大きく口を開けている。
……あんなイケメンがこうなるとは…
顔だけは良かったのに、今じゃすっかりと髭も髪も伸びていておじさんになっている。
新聞を閉じて、机の上に置くと起きてきたレギュラスが、目元を擦りながら、部屋に入ってくるのが見えた。
「おはようございます。相変わらず、朝早いですね」
レギュラスは、眠たそうに欠伸をしながらソファーに腰掛ける。
「今日は、仕事が忙しくなるからね。」
彼は日刊予言者新聞を手に取ると、声をこぼした。
「…あぁ……もうですか……早いですね。時間が経つのも」
「…きっと歳のせいよ。」
私の言葉を聞いたレギュラスは、笑いながら新聞に目を通している。
「………いよいよ…ですね…」
静かに言ったレギュラスの声が、部屋に響くと静まり返り、空気が重くなったのを感じた。
「………そうね。」
ハリーが例のあの人を倒したあの日から、今日まで本当にあっという間だった。今があまりに平和なものだから、正直あの人が蘇るなんて想像もつかない。
あの人が蘇ったら、私は死喰い人ととして過ごさなければならない。
また人を殺したり、拷問しないといけない日々がくるのだろうか。
そう思えば、私に助けを求めてくる若い男の表情や、もがき苦しむ女の悲痛の叫び声が聞こえた気がした。
私は後、何人の人間を殺さなければならない羽目になるのだろう。人を殺したことを後悔しているかと聞かれても、私は直ぐに後悔していないと答えられる自信がある。
……人を殺しても何も思わない私を見たら、彼は一体何と思うのかな。
セブルスの顔が浮かんだ私は、無意識に掻き消そうと窓の外に視線を移した。
どこまでも青く、晴れ渡っている空を鳥が自由に羽ばたいている姿を見ても、脳裏に浮かんだセブルスの姿を搔き消すどころか、彼のことしか考えられなくなる。
今……何事もなく平和でも……彼はずっと苦しんでいる。
ずっとひとりで……今この時も、
「どうかしましたか?」
声が聞こえた私は我に返り、彼の方を向くと新聞を手に持ったまま、不思議そうに私を見つめていたレギュラスと目が合った。
「……いや、少し眠くなっただけよ。」
さっきまで考えていたことを誤魔化すために、口から出た言葉は分かりやすいものだったが、今の私にはそれ以外の嘘は思いつかない。
「少し、寝てからでも大丈夫だと思いますよ。……少しは寝てみたらどうですか?」
寝不足だと心配してくれているのか、レギュラスは私に提案してくる。でも私は無理矢理、目を閉じても眠れないことはもう経験済みだった。
「大丈夫、どうせ私は雑用係なんだから。仮眠する時間なんて沢山あるし。それに羊皮紙って、眺めていたら眠たくなるでしょ?」
私は重い腰を上げて、ソファーに掛けていたローブを手に取る。皺くちゃだったはずのローブは見違えるように皺一つなく、アウラが洗濯しといてくれたことが大体予想がついた。
ローブを羽織って、杖を持っているか確認するためにポケットに手を入れる。
「行ってらっしゃいませ。お嬢様。」
キッチンの部屋から出てきたアウラが、朝食を手に持ちながら私に声を掛けてきた。適当に一言返しながら、杖を持っていることを確認できた私が正面を向くと、新聞を見ていたはずのレギュラスが私の方を見てきていた。私を見送るように笑いかけてきた彼の顔が歪むと、足が宙に浮いた。
私の予想は当たり、案の定魔法省はいつも以上に忙しかった。
凶悪犯が逃げ出したとなると、やはり色々と対応に追われるらしく、私の元には、ブラックの対応に追われている人たちの仕事がまわってきた。どうせなら、ブラックに関する仕事の方が何となく飽きずに働けそうだが、何せ私は雑用係なのでそんな仕事がまわってくる訳がない。
大量の羊皮紙を片付けたり、魔法省に届いた手紙に返事を書いたりと、ほぼいつもと何も変わらない仕事を淡々とこなす。
あんなにひと山できそうなほどの羊皮紙が、もう残り僅かなことに気づいて、私は一息つこうと紅茶を淹れるために立ち上がった。杖を一振りしてしまえば、もちろんわざわざ立ち上がらなくて済むのだが、魔法を使い淹れたお茶よりも、自分で淹れたお茶の方が美味しいのだ。そう感じるのは、きっと気のせいだろう。
葉にお湯を注いだ瞬間、紅茶のいい香りがするのがたまらなく好きで、最近ではお茶が淹れるのが上手いアウラに教えてもらっているほどだ。見よう見まねで、やってみるものの中々うまくいかないが、最近やっと近づいたような気がする。
私は杖を一振りして散らかっている羊皮紙を一つにまとめ、机の上を片付けると淹れたばかりの紅茶と、クッキーが入った瓶を置いた。
まだ淹れたばかりの温かい紅茶を一口飲めば、優しく、甘い香りが口いっぱいに広がった。今回は中々上手く淹れれたらしい。
少し嬉しくなりながらクッキーを食べようと蓋に手をかけた時、紙飛行機が部屋の中に入ってきたのが視界に入った。手を伸ばして掴み、紙飛行機を開こうと手をかける。これが来て良かったことなど一度もなく、少し開くのを躊躇ったが急用の用事だったら、後から色々と厄介だ。
案の定、書かれていた内容は仕事のことで、業務的な言葉が並んでいた。
【緊急業務
直ちに、忘却術士本部に出向き、業務を全うするように。】
これまた面倒くさい仕事が回ってきたものだ。
私は紙飛行機に書かれてある文字を見ながら、溜息をつく。
私はクッキーが食べられないことにがっかりしながら、ゆっくりと立ち上がって、脱ぎ捨てていたローブを身に纏う。
あんなに美味しく紅茶を淹れられたというのに、帰ってきたらきっと冷めているのだろう。そんなことが頭に浮かべば、また溜息が出てきた。
雲ひとつなく、晴れていたというのに今ではすっかりいつ雨が降り出してもおかしくないような黒く厚い雲が空を覆っている。
こういう時こそ、のんびりとお茶をしながら仕事に取り組みたいのだが、私は今マグルの記憶を消すよう命じられていた。
何やら、パンパンに膨らんだ1人のマグルが宙に浮く姿を数人目撃してしまったらしい。
どうしても人手が足りなかったらしく、私が呼び出されたと役員の人から説明された。
事前に知らされていたマグルの記憶を無事何事もなく消した私は、絶対この出来事を招いたであろうハリーの顔を浮かべながら溜息をついた。
今年ホグワーツに行ければいいのだが、タイミングが分からない。
…やっぱり、教員になるしかないのだろうか。
この先のことが思いやられ、私は肩を落としながら魔法省に戻った。
マグルの記憶を消したあの日から数日が経った頃、いつものように尻拭いのような仕事をしていた私の元に紙飛行機が飛んできた。
また、どこかが人手が足りないのかと思いながら開いてみると、思いがけないことが書いてあり、ついつい落としてしまいそうになる。
紙飛行機には、魔法大臣室に来るようにと、コーネリウス・ファッジからの手紙だった。彼とは一度も話したこともないし、関わったことも勿論ない。
そんな魔法大臣から直々の呼び出しとは、一体どんな話なのだろう。
私は少し緊張しながらも、魔法大臣室に向かった。
地下一階にある魔法大臣室に入るとまず目に入ってきたのは、高価そうな椅子やテーブルだった。客人用かは分からないが、向かい合って置いてあるソファーは座り心地が良さそうだ。
「…大臣、私に何か用でしょうか?」
目の前に座っているファッジに問うと、彼はゆっくりと口を開いた。
「シリウス・ブラックが脱獄したことは知っているね?」
「勿論です。」
私がすぐに返すと、彼はゆっくりとその後を続けた。
「…それで、生徒達の安全を確保する為にホグワーツにディメンターを配置することにしたんだが、一応役員も配属させることに決定した。………そうなると今、魔法省で手が空いているのは君ぐらいなんだ」
……手が空いている…?
何を馬鹿げたことを言っているんだろう。
そんなの私が暇だと言っているようにしか聞こえない。こっちは、回ってくる仕事に毎日追われているというのに。
「…なるほど、雑用係である私に押し付けようということですか。」
私が不機嫌になったのを察して、ファッジはすぐにフォローするように口を挟んでくる。
「勿論、君の実力も認めているからこそ頼んでいるんだ。…ディメンターだけで充分だと思うが、もしもそれを潜られた時、中に君が居れば安心するだろ?」
これが、うわべだけの言葉だということは理解している。
でも、よく考えてみれば、魔法省の人間という立場でホグワーツに行けるならば、ラッキーかもしれない。…それに、私が知っている記憶ではなかった対策をしようとしていることが引っかかる。そんなに大きく変わっているという事ではないが、もし私以外の人間が行くとなったら話は別だろう。それだと、色々と後から大変になる。別に元に戻そうとはしなくてもいいとは思うが、変わりすぎるのも私が困る。
物語が私を巻き込んでくれるというのなら、今は流れに身を任せた方がいいのかもしれない。
さっきまで少し苛立っていた気持ちは、もうすっかりと消え失せて、確認するように言葉にした。
「…では、生徒の安全を守り、シリウス・ブラックを拘束するのが私の仕事だということですか?」
「そういうことだ」
頷くファッジを見て、私は少し違和感を覚えながらも、とりあえず今はポジティブに考えることにした。
この状況で、こんなにも自然とホグワーツに行けるきっかけができるとは何とも都合がいいと考えれば、さっきまで感じていた違和感なんて忘れていた。
「ダンブルドアには、私から手紙を送っておく。……ホグワーツには年度の初めから配属してくれ」
「…分かりました。お任せください」
愛想良く答えて部屋を後にし、廊下を歩いているとある思いだけで胸いっぱいになる。
ホグワーツに行けるということは、セブルスに会えるということ。
彼に会える、やっと会えるんだ。
私は口元が緩んだのを誰にも見られないように、手で覆い隠しながら、エレベーターに乗り込んだ。
私がホグワーツに行ったら、セブルスが大変な思いをするかも知れないということも勿論頭にはあったが、それよりも嬉しい気持ちの方が勝っていたのだからしょうがない。
まだ、行くのは先だというのに私の心臓は緊張したように鼓動を速くする。
単純な私はこれだけのことですっかり舞い上がり、ずっと感じていた小さな違和感もすっかり気のせいな気がしてきた。