夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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3 勿忘草を貴方に

 

 

ルーナの元へ戻ったのとほぼ同時に汽車はゆっくりと動きだし、ルーピンであろう影が扉の向こうを通ったのを見ていると彼女が話しかけてきた。

 

「様子は…どうだった?」

 

ゆっくりと話すルーナの声を聞きながら、私は口を開く。

 

「何も問題はなかったわ。…ほら、もうすぐ着くから着替えた方がいいんじゃない?」

 

私の言葉を聞いたルーナは、自分のトランクを開けて制服を引っ張り出す。トランクの中に何か不思議なものが入っていたような気がしたが、見なかったことにしよう。

 

「…あっ、これありがと」

 

ルーナは私のローブを綺麗に畳み、お礼を言いながら渡してくると、あっという間に制服に着替え終えた。

レイブンクローの色のローブを身に纏ったルーナは、着ていた私服や雑誌をトランクの中にしまっている。

 

「…レイブンクローなのね。」

 

支度が終わった彼女に話しかけると、足を少し浮かせ、揺らしながら答えた。

 

「うん、青色は好きだから結構気に入っているの。」

 

「…学校は、楽しい?」

 

「うん、楽しいよ。毎日楽しいことばかり起こるから、好きだよ。」

 

学校を楽しいと思えなかった私にとっては、今目の前にいる彼女が羨ましくてたまらない。

あの時はとにかく、セブルスが死んでしまう未来のことで頭がいっぱいで、息をしているだけでも胸が苦しくなる時だってあったぐらいだ。

 

 

「それで、ヘルキャットさんは、どこ?」

 

「ん?」

 

ルーナの声で我に返った私は、彼女が言ったことを聞いておらず、聞き返すとルーナはリズムよく声に出した。

 

「グリフィンドール?ハッフルパフ?」

 

「あぁ………私は、スリザリンよ。」

 

スリザリンという言葉を聞いた彼女は、変わらない表情のまま話し出す。

 

「スリザリン、うん。あんたにぴったりだと思うよ。緑色は人を癒す効果があるっていつか聞いた。……あんたと居ると安心するもの。」

 

ルーナは大分ポジティブ思考らしい。

 

 

「……そう……ルーナは物知りね。」

 

そんなこと他人から言われたことがない。

ただ、彼女は私に対して相当良い印象を抱いたということだけは分かった。

 

「あたしは物知りじゃないよ。パパからいつも教えてもらってるの。あたしじゃなくてパパが物知りなんだ。」

 

ルーナは、父親の話をしているときとても自慢げに話す。きっと相当父親のことが好きなのだろう。

 

走っていた汽車がだんだんとスピードを緩めていることに気づいたルーナは、窓の外を見て足をぶんぶん振りながら、声を出した。

 

「もう、着くみたい。」

 

ゆっくりとスピードを緩め、汽車が駅に止まり煙を吐く音が聞こえると、一斉に汽車から降りる生徒達の話し声や足音で騒がしくなった。

中々外に出ようとしないルーナは、じっと私の方を見てくる。私は網棚の上に置いてあるトランクを下ろし、ローブを羽織ると彼女に話しかけた。

 

「……ほら、降りましょう。」

 

私が彼女の分のトランクを手に持って、コンパートメントから出ると、ルーナは何も言わずに後を付いてくる。

生徒達のトランクが一箇所に集まっている所にルーナのトランクを置き、自分のものは端の方に寄せて置いた。ここに置いとけば、トランクをそれぞれの部屋に運んでくれる。

 

「1年生はこっちだぞ!」

 

大きな体を持ったハグリッドの太い声が聞こえる中、私は何も言わず見てくるルーナに向き合った。

 

「また、後でね。ヘルキャットさん」

 

そう言った彼女は、少し口角を上げると軽く手を振って、生徒達の中に入っていく。私は胸元で軽めに手を振りながら、遠くなっていくルーナの後ろ姿を見えなくなるまで見送った。

 

これからどこに行けばいいのか分からないまま、周りを見回してみるが、生徒しか目に入らない。とりあえず私も生徒達が歩いている方向に行こうかとした時、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「レイラ!」

 

振り向けば、ルーピンが小走りで駆け寄ってくる。どうやら彼は私を探し回ってくれていたらしい。だからローブも乱れているのだろう。

 

「良かった。中々見つからなかったから少し心配したよ。」

 

固く口を閉ざしたままの私を見たルーピンは、優しい笑いかけてくると歩きだした。彼に付いて行くことにした私は、大人しく前を歩くルーピンの後を追った。

先頭を歩いていた生徒達を追い抜くと、ルーピンは薄暗い道をどんどんと歩いていく。

灯りがぽつぽつとしかない道の先に、ぼんやりと馬車のようなものが待機していることに気がついた。

 

近づけば、骨ばった黒色の体を持ち、背中からドラゴンのような羽根を生やしている馬のような動物の姿がはっきりと見えた。その動物と繋がっている馬車に乗った彼は、当たり前のように私に手を伸ばしてくる。

 

……見えた動物の正体はもう分かっている。

 

ルーピンの手を握り、私が馬車に乗ると、セストラルはゆっくりとホグワーツを目指して歩き出した。

2人だけで乗るには少し寂しく感じるほど、広く作られている馬車の椅子に座りながら結構なスピードで走るセストラルを見つめた。

 

前に腰掛けているルーピンの様子からして、彼は見えていないらしい。

何か話しかけてくると思ったのだが、雨が降る音だけしか聞こえてこない。

ルーピンも勿論私も別に話しかけることもせずに、結局一言も話さないままホグワーツの姿が視界に入った。

 

 

 

 

 

ホグワーツの前で止まった馬車から降りると、セストラルはくるりと後ろを向いて元来た道を戻っていく。

 

あの時と変わらず、目の前にそびえ立っているホグワーツを見上げると懐かしい気持ちと一緒に思い出したくのない記憶が頭の中を駆け巡った。

 

「レイラ?どうしたんだい?」

 

「……何でもないわ」

 

中々中に入ろうとしない私に問いかけてくるルーピンに適当な言葉を返して、彼の後を追いかけた。

中に入れば、学生の時に戻ったように感じられるほど見覚えのある階段や、廊下、話したり動いたりしている絵画達に空中に浮きながら移動している半透明の幽霊達が視界に入ってくる。

 

何度も通ったことのある廊下は、どんなに年月が経っても覚えているものらしい。彼が大広間に向かっていることが直ぐに分かったほどに、私は道順を忘れていなかった。

 

 

 

大広間から暖かい光が漏れているのを見る限り、どうやら扉はもう開いているらしく、中に入れば少し薄暗い廊下を歩いていたせいか、少し目が眩んだ。

真っ暗だった視界がだんだんとはっきりと見えるようになると、一気に懐かしい風景が目に飛び込んでくる。

 

本物と錯覚してしまうぐらいにそっくりな夜空が広がっている天井に、空中に浮いている何本もの蝋燭。真ん中の道を開けるように並べられた4つの寮の長机と長椅子。

そんな懐かしい風景を目にすると、まるで学生時代に戻ったようにそれぞれの寮の色のローブを着た何千人という子供達の姿が見えた。

 

 

……そうだ…よくセブルスを探していたっけ…

 

学生の時の私は、ご飯を食べながらよく無意識に彼のことを目で追いかけていた。今思えば、外から見たら単なる変人だろう。

あまりに懐かしい風景に少しぼっと見ていると遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「……ラ、レイラ!」

 

我に返った私の前には心配そうな表情を浮かべるルーピンの顔が視界に入ると、彼の声がはっきりと聞こえてくる。

 

「本当に大丈夫?…それに少し顔色も悪い」

 

「…大丈夫よ。懐かしんでいただけ。」

 

彼の後ろには、さっきまで確かに見えていた生徒達の姿はどこにもなく、代わりに奥には何人かの教師達の姿があった。私は心配してくれたルーピンをよそにして、ダンブルドアに近づいていく。

 

「お久しぶりです。ダンブルドア先生。」

 

「おぉ〜レイラ、随分と久しぶりじゃの。元気にしておったか?」

 

「えぇ、おかげでさまで。先生は相変わらずお元気そうで何よりです。」

 

上手く笑えているかどうかは分からないが、社交辞令の言葉を並べながらダンブルドアと一言二言話していると、少し遅れてルーピンも挨拶を交わしていた。ダンブルドアの近くにいたマクゴナガルが私の方を見ていることに気づき、私は彼女に近づいて挨拶をする。

 

「お久しぶりです。マクゴナガル先生、お元気でしたか?」

 

「……えぇ」

 

「お変わりないようで良かったです。」

 

私がそう言葉を並べると、何も変わっていないマクゴナガルの口から思ってもいなかった言葉が聞こえてきた。

 

「そう言う貴女は………随分と変わりましたね。

 

 

……学生の頃の面影が感じられませんよ」

 

「…そうですか?……自分では分からないものですね。」

 

彼女に言われた心当たりがある私は、自分を誤魔化すように、曖昧な言葉を並べた。

元々話すことは得意ではないから、そう話すことも長くは続かず、いつも気まずい雰囲気が流れてそこで会話が終わってしまう。

次何と言えばいいのか悩んでいると、有難いことにダンブルドアの呼びかける声が聞こえてきた。

 

「先生方、ちょいといいかの?」

 

これで、無理矢理話す話題を考えなくてもいい。

散らばっていた教師達が彼の周辺に集まっていく姿を見ていると、ルーピンが私にこっちに来るようにと手招きをしてくる。

 

「事前に知らせておったが、一応紹介しておく。まず、闇の魔術に対する防衛術の授業を受け持ってくれる、リーマス・ルーピン先生じゃ。」

 

私が彼の隣に移動したことを確認するように見てきたダンブルドアが一言紹介すると、ルーピンは一言言って、浅くお辞儀をする。

 

「そしてこちらが、魔法省から派遣されたレイラ・ヘルキャットさんじゃ。」

 

ルーピンに集まっていた視線が一気に私に集まり、私は何も言わずに浅くお辞儀をして、教師達の顔をひと通り見た。

 

 

 

………やっぱり……いない。

 

どんなに探してもセブルスの姿がどこにもなく、何か言っているダンブルドアの声を聞き流しながら、視線を下ろした。

 

……一体どこにいるのだろう…。

 

 

 

………まさか………教師ではないとか。

 

私の頭には様々な可能性が浮かんできて、変な汗が出てくる。

 

…彼が居なかったら……私がここにいる意味なんて

 

ダンブルドアの話し声を上の空で聞いていると、それに混じって、微かに足音が聞こえたような気がした。ゆっくりと近づいてきているような足音が聞こえる度に、私の心臓は鼓動を速くし、頭は速く後ろを振り向けと命令してくる。

隣にいるルーピンに視線を移してみるが、彼は気づいているような様子は見せない。

 

意を決して振り向くと自分の髪がふわりと舞い、視界を遮ってくる。まるで時間がゆっくり進んでいるような感覚に襲われると、薬草の香りがしたような気がした。

視界を覆っていた髪の隙間から、人の姿がこちらに向かってきているのが見えると、目が自然と大きく見開いた。

 

 

………セブ……ルス……

 

 

視界がはっきりと見えた時には、少し距離はあったが、確かにそこには真っ黒なローブに身に纏い、こちらに歩いてくる人の姿が視界に入ってきた。

 

……セブルス…

 

決して口には出さないように、ずっと会いたかった人の名前を、

 

ずっと愛しい人を心の中で呼びかけた。

 

だんだんと近づいてくるセブルスを見ていると、私の心臓は相変わらず緊張したように鼓動の速度を上げ、熱があるのではないかと思うほど体温が熱くなる。

 

 

 

「セブルス、君には紹介しなくても大丈夫じゃな?」

 

彼に気づいたダンブルドアが問いかけると、セブルスはルーピンと私を見て、少し嫌そうに顔を歪ませた。

一体どっちに対してそんな表情をしたのだろう。ルーピンかそれとも私か、いや2人ともという可能性もある。

 

「そのようなことより、校長。生徒達がホグワーツに到着したようです。」

 

セブルスの低い声が耳に入ってくると、私の心臓は速度を増して動き続ける。あまりに久々に愛しい人に会うと人は周りも見えなくなり、声も聞こえなくなるらしい。

 

ダンブルドアと話しているセブルスをじっと見つめ続ける私は他の人の話し声も聞こえなければ、セブルス以外の人間はぼやけて見えていた。

私に見られていることさえも気づかずに、話し続ける彼を見ていると私はどうしようもない不安が襲いかかってくる。

 

………セブルスは…私のことを憶えているだろうか……。

 

もしかしたら、忘れられてしまったかも知れない。

 

そう考えてしまうと少し胸らへんがぎゅっと苦しめられて、心臓の鼓動が聞こえるごとに何かどろどろしたものが吐き出されているような気がした。

あまりに私が見ていたからだろう。

ダンブルドアと話していたセブルスが私の方に視線を移して、ばっちり目が合う。

 

髪を左右に分け、色白い肌に、どこまでも吸い込まれそうな真っ黒な瞳。彼は何も変わっておらず、自然と学生の頃のセブルスと重なった。

眉間に皺を寄せることも何もなく、表情を全く変えない彼を見ていると、私の口は勝手に動きだしていた。

 

「……私のこと………憶えてる?…」

 

一体私がどんな表情をしていたのかは分からないが、セブルスの瞳孔が少しだけ大きくなったことだけは分かった。

 

 

……お願い………憶えていると…言って

 

 

 

 

 

 

「……あぁ…憶えているが…」

 

私の気持ちとは裏腹に、彼はその言葉を簡単に口から出してくれた。こんなことで、私が救われているなんて思ってもいないだろう。

 

きっとセブルスはそのあと、それが何なんだと言いたかったのだろうが、何か言いたげに少し口を開いて、閉じてしまった。戸惑ったような様子は一瞬見せたが、流石二重スパイをしているだけあって、今一体何を思っているのか、何を考えているのか表情からは分からない。

 

「……そう………良かった…。」

 

ほっとした私は、小さく呟いて彼から視線を逸らし、他の教師達が席に着いているのを見て、私も後を追った。

 

先に座っていたルーピンが私の席まで取っておいてくれていたらしく、自然と彼の隣の席になってしまったが、ルーピンの隣にセブルスが腰掛けるのを見て、少しだけ嬉しくなった。

座る時、少し嫌そうな表情を浮かべたような気もするが、その理由が私ではないことを願いながら、彼から視線を逸らした。

 

…………私は…貴方に忘れてしまわれたらと考えただけで、こんなにも不安になる。

 

愛しい人に憶えていてほしいと、私を忘れないでほしいと思うのは私がおかしいのだろうか。

 

……勿忘草でも贈って、彼の記憶に私が少しでも残るように、

 

遠回しにこの想いを伝えたいという気持ちもあるのだが、…私にはそんな勇気さえもないことは身をもって分かっている。

 

 

 

 

 

それぞれの寮の色のローブを身に纏った生徒達が、大広間に入ってきたのはその後すぐのことで、一気に騒がしくなった。

ルーピンの奥に座っているセブルスを横目で見て、気づかれそうになる前に直ぐに逸らす。そんなことをしていれば、新入生の組み分けが始まっていた。

 

 

最後の生徒の寮を組み分け帽子が叫ぶと、マクゴナガルが椅子を消し、ダンブルドアがゆっくりと立ち上がった。

 

「さて、ご馳走の前に皆がボーっとなる前にいくつか知らせておかなければならないことがある。」

 

生徒達に向かって話をするダンブルドアの後ろ姿を見ながら、私は静かに耳を傾けた。

 

「今学期から新任の先生をお迎えすることになった。リーマス・ルーピン先生じゃ。ありがたいことに、今空席になっておる闇の魔術に対する防衛術の担当をお引き受け下さる。」

 

隣に座っていたルーピンが立ち上がり、軽くお辞儀をするとパラパラと気のない拍手が起こっただけだった。隣にいたセブルスは、胸元で2、3回手を叩いただけで、表情は少し険しかった。

立ち上がっていたルーピンが座ったものだからもうセブルスは見えなくなったが、多分今も苛立っていることだろう。

 

「そして、魔法生物飼育学の先生じゃったケトルバーン先生は、残念ながら退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ。そこで後任じゃが、嬉しいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが受け持ってくださることになった。」

 

長机がずれるようなガタッという大きな音が鳴り響くと、グリフィンドールの生徒達からは割れんばかりの拍手が送られた。ハグリッドの大きな体は、この距離からでもはっきりと見えた。

他の寮の生徒達はパラパラとしか拍手しておらず、スリザリンの生徒達に至っては、拍手していない生徒達の方が圧倒的に多い。

 

「さて、楽しい話の次は少し深刻な話じゃ。」

 

真剣なダンブルドアの声が大広間に響くと、拍手も徐々に止み、ハグリッドに集まっていた視線はダンブルドアに戻った。

 

「皆も知っての通り、ホグワーツはただいまアズカバンのディメンター達をシリウス・ブラックが捕まるまで受け入れておる。彼らは魔法省のご用でここに来ておるのじゃ。」

 

少しざわつく生徒達を気にすることなく、彼は後を続けた。

 

「ディメンター達は、学校の入り口を固めておる。彼らの影響で、日頃の学校生活に支障をきたすことはないが1つ言っておく。

…ディメンターは極めて凶暴で、獲物も行きずりのものも容赦なく襲ってくる。言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、彼らには生来できない相談じゃ。

 

……あの者たちに危害を加えるような口実を与えるでないぞ。」

 

ダンブルドアの話を聞いた生徒達が不安そうな様子を見てか、彼は穏やかな声で後を続けた。

 

「とはいえ暗闇の中でも幸せを見つけることは出来る。……明かりをともすことを忘れなければの。

 

 

 

……そして最後の知らせじゃが、今話した通り、ホグワーツにはディメンターが配置される他にも、魔法省から君達の安全を守る為にお越しいただいた方がいらっしゃっておる。」

 

ダンブルドアが、私のことを切り出すと明らかに生徒達のざわざわした声が大きくなる。こんな状態の中、わざわざ目立つようなことをしたくないのだが、…立たないわけにはいかない。

 

 

「それが、このレイラ・ヘルキャットさんじゃ。…彼女はシリウス・ブラックが捕まる間、君達がこれまでと変わりなく学校生活が送れるように守ってくれる。」

 

椅子を引いて立ち上がると、生徒達の顔が良く見えて、集まった視線を感じながら軽くお辞儀をした。パラパラと拍手の音が聞こえてきたが、何とも嬉しくない中途半端拍手は、数秒で消えていく。

 

椅子に腰掛けると、自然とため息が溢れて、ダンブルドアの声が聞こえてくると、突然目の前の机に豪華な食事が現れる。生徒達は待っていましたと言わんばかりに、手を伸ばして大広間は一気に生徒達の声で賑やかになった。

 

……相変わらず…豪華な食事だな…

 

私はそんなことを思いながら、何も考えずにかぼちゃパイに手を伸ばして、自分の皿の上に置いた。

 

……レギュラスはちゃんと食べているのだろうか。

 

そんなことを思いながら、食事と友達との会話に夢中になっている生徒達を見ていると、何となくハリーの姿を探していた。

夏休み中にあったことを話しているであろう生徒達は、楽しそうに笑いながら、それぞれ食べたい物を口に運んでいる。

 

 

「……………いた…………」

 

 

大勢の生徒達の中から、ハリーだけを見つけるのは意外と大変で、見つけた時には自然と口からこぼれ落ちた。

グリフィンドール色のローブを身に纏い、友達と話すハリーは、やっぱり気色悪いほどポッターと似ていた。

 

どうしてこんなにも瓜二つなのかが分からない。もし、ハリーが女の子で、エバンズに似ていたとしたら、セブルスもあんな複雑な気持ちを抱かなくて良かったかもしれない。

 

ありもしないことを思いながら彼を見つめていると、瞼がゆっくりと開いて、緑色の瞳が目に入る。エバンズと全く同じ色で、私の頭には自然と彼女が浮かんだ。

 

………緑色……

 

私も…緑色だったら、良かったのかな…

 

私の中で何かが弾けたと思うと突然、ハリーが私の方を見てばっちり目が合った。

……いや、ハリーだけではない。よく周りを見てみれば、ハリーの周りに座っているロンやハーマイオニー、前方に座っている生徒達、更には教師達も私に視線が集まっていた。大広間にいる全員ではないが、私の近くに座っているほとんどがこちらを凝視してくる。

 

「どうしたんだい?」

 

隣から聞こえたルーピンの声を聞いても、何故そんなことを言われるのかが分からない。ただ、ハリーを見ていただけで、何もしていない。

 

「…何が?」

 

そうルーピンに返すと、彼は私の手元を視線を移し何か訴えてくる。

自分でもよく分からずに視線を下ろすと、皿に置いてあるかぼちゃパイを、右手で握りしめたフォークで突き刺さしていた。かぼちゃパイは真っ二つに割れて、残骸が皿からはみ出している。

どうやら、無意識にフォークを握って思いっきりかぼちゃパイに突き刺したらしい。こんなにも視線を集めるということは、凄い音がしたのだろう。

 

「……切り分けたかっただけよ。」

 

私が何とも厳しい言い訳をすれば、ルーピンはナイフを渡してくる。優しく微笑んできたが、私はお礼も言わず、ルーピンからナイフを受け取った。

 

私が視線を気にせずに、かぼちゃパイにかぶりつくと、少し戸惑ったように生徒達はまた会話と食事を再開した。

かぼちゃパイを食べ終わって、隣から視線を感じて横を見ると、甘いお菓子を幸せそうに食べているルーピンの隣にいるセブルスが私の方をじっと見つめていた。

私がセブルスに気づけば、彼は私から視線を逸らして食事を再開しだす。

 

……私を監視するようダンブルドアに言われたのだろうか。

 

 

サラダを食べようとして口を開くセブルスを見つめていると、横からルーピンが話しかけてきた。

 

「……それにしても、セブルスもレイラも本当に久しぶりだね。……学生以来だっけ?」

 

セブルスは、ルーピンに話しかけられたこと自体をひどく嫌がっている様子で、眉間の皺を深くした。

 

「………そうね。学生以来。……まさか貴方が教師になるなんてね…」

 

私が、ルーピンを横目に言うと彼が少し苦笑いをしたのが見える。

 

「…何を考えているのかしらね。…ダンブルドアは」

 

私が小さく呟く声を聞かなかったことにして、またルーピンが話し出した。

 

「君が魔法省にいるのは知っていたけど、まさかこんな所で会えるとは思っていなかったよ。」

 

「…貴方の友達が、脱獄をしてくれたおかげで雑用係の私が駆り出されただけよ。」

 

セブルスが私達の会話を聞きながら無表情で口を動かしているのが見えて、私は彼に話を振る。

 

「…貴方もうまく教師をしているのね……どうやら見た感じだと、生徒にはあまり好かれてないようだけど…」

 

「…余計なお世話だ」

 

「生徒達に好かれようとは思わないの?」

 

セブルスは食べ物を飲み込むと、私の方も見ずに答えた。

 

「何故好かれる必要がある……そんなことどうだっていいことだ。」

 

「…君らしい答えだね」

 

眉を下げながら言うルーピンを見て、私も食事を再開した。

 

 

 

甘い焼き菓子を食べて、水を飲んでいるとハリー、ロン、ハーマイオニーが私の方を見て何やら話しているのが見えた。できれば、私ではなく、隣に座っているルーピンのことを話していて欲しいのだが、残念なことに私が気づいた瞬間、ロンとハーマイオニーが分かりやすく顔を逸らした。

あんなあからさまに逸らしたら、逆に気づいて欲しいと言っているものだ。かと言ってハリーのように、逸らさずに見つめてくるのもどうかと思う。

 

 

嫌いな彼女の瞳にそっくりな緑色の目を見つめてくるハリーは、決して目を逸らそうとはしない。私が逸らしてしまえばいいのだろうが、何故か逸らしてはいけない気がした。

 

あんなにポッターに瓜二つだというのに、目が似ているだけで、嫌いな彼女の顔とハリーが重なった。

 

………これは…複雑だな。

 

 

目だけというのが、逆に厄介なのかも知れない。私が見ても、彼女の顔が浮かぶのだから、セブルスはきっと彼女に見つめられているように感じるのだろう。

憎いポッターに似ている子供は、……エバンズが命をかけて守ったのだから。嫌いなのに、嫌いになりきれない。愛しい人の瞳を持っているんだから、拒絶なんてできるわけない。

 

…………こんなの…苦しすぎる。

 

 

残念ながら、ポッターもエバンズも、嫌いだった私は、ハリーを見て守りたいと思うわけがない。

彼女のことを思い出した私が彼を睨みつけると、ハリーは額の傷が痛んだのか押さえて視線を逸らしたが痛んだのは、多分気のせいだろう。今、あの人は近くにいない。

私を疑っているような目で見たせいで、変に感じてしまっただけだ。

 

勿論、ハリーはそんなこと思う訳もなくきっと今頃、私に対しての疑惑が深まったに違いない。

 

そんなハリーを心配そうに、話しかけるロンやハーマイオニーの姿が目に入った。

自然と、学生の頃の光景を思い出して急に胸が締め付けられるように苦しくなり、私は軽く胸のところの服を握りしめる。

 

……彼らを見ていると嫌でも学生時代のことを思い出す……

 

 

 

 

ハリーを見ているだけで、ドロドロとした感情が吹き出てくる。胸が苦しくなって、辛くなる。あの緑色の瞳が目に入る度に、私は彼を憎く思ってしまう。

 

違う……エバンズじゃない……。

 

そう自分に言い聞かせても、私の中にはあの気持ち悪い感覚が襲いかかってきていた。よく学生の時に、感じていた思い。

 

………こんな感情、捨てたはずなのに、

 

 

……忘れたはずだというのに。

 

 

 

2人と話すハリーを見て、私は無意識に呟いていた。

 

「…………本当に…そっくりだ……」

 

容姿はポッターと瓜二つで、瞳はエバンズと同じ緑色。……それだけじゃない。

 

私は、笑うハリーを見て心の中で呟く。

 

 

………笑い方が……彼女そっくり……

 

 

私に友達になろうと手を伸ばしてきた時のエバンズの笑い方とそっくりで、その時の彼女と重なった。

 

 

「……嫌なことを思い出す…」

 

 

ずっと忘れていたことを思い出して、私は顔を歪めた。

頰が殴られたように熱くなり少し痛みだすと、胸が針に刺されたように痛んだがそれが気のせいなことぐらい分かっていた。

 

 

 

あの頃が、1番幸せだったのかも知れない。そう思ってしまうと、これからやっていけるか不安になる。

 

エバンズのように………私が死んでも、セブルスはいつまでも私のことを憶えていてくれるだろうか。

それとも、やっぱり忘れてしまうのかな……

 

生徒達を見ていると何故かそんなことが、頭に浮かんできては、消えていく。

 

……大切な人のから忘れられてしまうことを想像しただけで、真っ暗な闇に突き落とされたような、救いようのない気持ちに駆られた。

 

 

やっぱり………勿忘草でも贈った方が良いのかな。

 

そんなことをしてもここにいると、学生の頃を思い出してしまうのはきっと避けられない。

 

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