別に避けるつもりなどなかったのだが、セブルスは教師でずっと私の相手をしていられるほど暇なわけで、あれからお互い話すこともしようともしなかった。
夜の散歩も毎日欠かさず行っているが、最近10月を迎えたからなのか、少し肌寒くなってきた。
ホグワーツに来て、気づけばもう1ヶ月ぐらい経っており、私の毎日の行動も決まってきていた。朝起きて朝食を食べ終えた後は、学校中を歩き回ったり、飛行訓練を眺めたりして昼食まで時間を潰し、午後の授業中は図書館に寄り、本を適当に眺めたり、クィディチの練習をしている日にはぼんやりと見学して夕食まで時間を潰す。そして生徒達が寝静まった後は意味のない夜の散歩をし、夢遊病のルーナに会った時は、簡単なお話をしながら彼女を談話室に送り届ける。
別に自室に篭っていてもいいのだが、仕事をさぼっているなんて思われたくない。
もうすっかりハロウィン一色に染まったホグワーツには、朝からパーティーを楽しみにしている生徒達の賑やかな声が溢れかえっていた。大広間はハロウィンの装飾が施され、廊下には簡単な魔法をかけて変装している生徒もいれば、悪戯を仕掛けている生徒がいるせいで、仕事がいつもの倍以上に増えたフィルチは苛立っているような様子だった。
そんな中に紛れて、私服に着替えている生徒達は、ホグズミードに行くのか大きな振り子がある扉に向かっていた。
楽しそうに外に出ていく生徒達は、友達と話しながらにこにこと笑っている。フィルチはそんな生徒と手に持っている羊皮紙を交互に見ては、確認していた。
そんな生徒達に紛れている、暗い顔したハリーは羊皮紙を握りしめたまま俯いていた。そんな彼を励ますように、ハーマイオニーとロンは声を掛けるが、ハリーは複雑そうな表情を浮かべながら、どこか落ち込んでいるような様子だ。
………残念ながら、そんなハリーを見ても可哀想などという感情は浮かんでこない。
友達と行けず、ひとりでホグワーツで待つというのは彼にとって結構辛いものだというのは分かるが、………所詮は私には関係ないことだ。
私はハリー達を横目にその場から離れ、騒がしい生徒達の声が響いている廊下を歩いた。
……きっと…これだから私は友達というものが居なかったのだろう。
つくづく自分の性格に嫌になりながら、静かな図書館に足を向かわせる。あの試験中のような静まり返り、空気が張り詰めているのは嫌いだが、時々鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどに騒がしく、わちゃわちゃしている空間も好きではない。
誰かの声が聞こえる授業中のあの緩い空間が私にとっては居心地がいい。
「……随分と…我儘…ね」
自分に呆れて溢れた声は、楽しそうに話す生徒や、悪戯を仕掛けられ絶叫する生徒、そして仕掛けた側の生徒の笑い声で、口から出た瞬間かき消された。
図書館の奥の端に1人掛けの椅子に座り、適当に選んだ本のページをめくる。つまらない文書がつらつらと載っている読もうともせず、ただの手の運動をしているとしか思えないようなことをさっきから繰り返していた。
ハーマイオニーらへんだったら、こんな本もきっと楽しく読めるなのだろうが、今の私の頭には今後起きる事が浮かんでいた。
……ハロウィンの日に、ホグズミード………
ページをめくる音を聞きながら、椅子に深く座り直す。
…………私の記憶が正しければ、今日ブラックが動く。
もうこの時私は、本さえも見ておらずただ手を動かしているだけだった。
太ったレディーの絵画を引き裂くのが今日だとしたら……勿論ブラックがホグワーツに侵入したと大騒ぎになって、自然と私の仕事が増える。
セブルスにどんな目で見られるのかが想像ついてしまい必死にかき消すと、ページをめくっていた本の次がもうないことに気づいた。
私が何となく開いていた表紙を閉じ、元の位置に返しに行こうかと、側にある本の山積みに視線を移した時だった。
「マグルに興味があるのですか?」
どこからともなく聞こえた声は女性のもので、後ろを振り向けば、すぐ後ろに愛想のいい笑顔を浮かべる教師が立っていた。
声では気づかなかったが、彼女の顔を見た瞬間、名前が頭に浮かんでくる。
チャリティ・バーベッジ、日刊予言者新聞に載せた記事のせいで、あの人に殺されてしまうマグル学の教師だ。
セブルスに助けを求める彼女の声が聞こえたような気がして、私はバーベッジから視線を逸らした。
「すいません。マグルに関しての本をお読みになっているのをたまたま見かけたものですから。」
そんな彼女の声を聞いた私は自然と手に持っていた本に視線を移すと、確かに表紙には『マグルと共存する為には』と書かれていた。
図書館でマグルのことをわざわざ調べにくる生徒などいるはずもない。私は少し埃が被っていたことに納得しながら、立ち上がった。
「…そうですね……少し」
山積みの本を宙に浮かしながら、適当な返答をすると、バーベッジはうわべだけの私の言葉を真に受けたらしく嬉しそうに話しかけてくる。
「やはり、そうなのですね。マグルに興味を持つ人が中々いなくてですね。話す相手が限られていたんです。まさか、こんな身近に居たとは」
私の手を握りながらぶんぶんと嬉しそうに振っている彼女の力は意外に強く、少し腕が痛んだ。
「……そんなことはないでしょう。……ダンブルドアは、何に対しても興味をお持ちだと思いますが…」
「えぇ勿論ですとも。しかし、あの方は私の話を毎日聞くほど暇ではないですから。」
それは、私が暇だと言いたいのだろうか。
私が複雑そうな表情を浮かべたことに気づいた彼女は冷静さを取り戻し、握っていた私の手をパッと離した。
「すいません。そういうつもりで言った訳では」
「いえ、大丈夫です。謝らないでください。」
ホグワーツの教師達が私に対してどんな風に思っているのかは分からないが、きっと良い印象ではないだろう。それだというのに、今目の前にいる彼女は嫌な表情を浮かべるどころか好意的に話しかけてきている。
申し訳なさそうに謝ってくるバーベッジを見ながら、本に元の位置に戻るように魔法をかけるとひとりでに動きだした。
「…ご迷惑でなければ、今度お時間がある時にお茶でもいかがですか?」
その場から離れようとすると、彼女の落ち着いた声が耳に入ってくる。笑みを浮かべてくる彼女の表情を見ると、キュッと胸が締め付けられた。
「えぇ、勿論です。」
あと何年もしたら彼女は殺される。自分の考えたことを口に出しただけで命を奪われる時代が来てしまう。
時間が経つにつれ、セブルスが苦しむことになることを考えると、胸が苦しく締め付けられた。
『お願い、助けて!』
私に命乞いをしてきたいつかの女の人の声が頭にこびりついたまま何度も再生してくる。
私はそんな声を消し去る為に手を力強く握りしめて、図書館を後にした。
行き先も決めずに廊下を歩きながら、強く吹いた風のせいで、大きく波打つように舞う髪を耳にかけると、視界の端に黒い人影が見えた。私の体は無意識にその方向を見て、足を止める。
向かい側の廊下にいたセブルスが生徒と話している姿が視界に入り、私は気付かれないことをいいことに彼の横顔をじっと見つめた。
生徒と何やら話をしているセブルスの表情は、私と話す時よりかは柔らかく、言い表すことができない気持ちが溢れ出してくる。
…………見て……
私は心の中で、セブルスに話しかけるように訴えかけた。
………私を…見て…
決して口に出してしまわないように、唇をぎゅっと結んだまま思ったことを飲み込んだ。
「ヘルキャットさん」
私の名前を呼ぶ、ふんわりとした声の方を振り返ると、そこには本を抱えているルーナが不思議そうに私を見ていた。
「こんにちは。」
何を言われるのかと思えば彼女は挨拶の言葉を言うだけで、私の言葉を待っている。
「こんにちは、ルーナ。」
挨拶を返しても、じっと見つめてくるルーナの顔を見ていると今日がハロウィンだということを思い出した。
……お菓子が欲しいのだろうか。
私は試しにローブのポケットに手を突っ込んで何かお菓子を持っていないか探ってみたが、準備をしている筈もなく、何も入っていなかった。
部屋には自分用にお菓子は常備している。
「ちょっとだけ私に付き合ってくれない?」
もうそろそろ夕食の時間が近づいてきてはいたが、私が笑いかけながら問いかけてみると、ルーナは愛想よく頷く。
「うん。丁度暇していたところなんだ。」
そんな彼女の言葉を聞いた私が歩き出すと、ルーナが小走りで私の隣に並んだ。
お互い話すことはなく、自室まで一言も話さなかったが、不思議と苦ではなかった。
「ちょっと待ってて。」
ルーナを部屋に入れて、棚からお菓子を適当に選び、何かいいサイズの袋がないかと探しているとキョロキョロと周りを見渡している彼女の姿が目に入った。
「そんなに物珍しいものがあった?」
お菓子を入れた小袋を持ちながら、ルーナに近づき問いかけてみると、さっきまで周りを見ていた彼女がじっと目を見つめてくる。
「少し意外だっただけ。あんまり本読むのは好きじゃないって思ってたから。」
どうやら彼女は本の量に驚いていたらしい。
「読んでいたら色々な事を知ることができるし、後時間が潰せるから好きではない訳でないわよ。」
私の言葉を聞きながら本棚に近づいたルーナは背表紙をじっと見つめたまま、動かなくなった。
「何か気になるものがあった?」
彼女に近づき、問いかけてみても返事は返ってこず、ただ一点を見つめている。不思議に思いながらも、ルーナが見ている方に視線を移すと彼女の目線の先にあったのは、魔法薬の本だった。
別に興味がある訳でない。ただセブルスが魔法薬が得意で好きだったからというそんな訳の分からない理由で買った。
学生の時だって、私が魔法薬の本を読んでいたのは彼の側に少しでも長く入れられるようにするためだ。少しでも長く話したいばかりにセブルスが興味を持っているものの知識は頭に叩き込んだ。
それだというのに、魔法薬学の成績が悪かったのだから、私はよっぽど向いていなかったらしい。
私はルーナが見つめていた本を手にとって、お菓子が入った小袋と一緒に差し出した。
「返すのはいつになっても大丈夫よ。あぁ、それからもうご飯だからこれは明日にでも食べて。」
受け取ったルーナはお礼の言葉を言うと、手に持っている小袋をじっと見つめる。
「ほら、そろそろ夕食の時間だから大広間に行きなさい。」
そう言いながら、優しく背中を押してやると彼女は扉の前で問いかけてくる。
「ヘルキャットさんは行かないの?」
「勿論、すぐ行くわよ。」
言葉を濁らせて返すと、ルーナはじっと私を見つめてきた。
「そうだ、ルーナ。今度の月曜日にでもお昼一緒に食べないかしら?」
言うタイミングが掴めず、未だにルーナとお昼を食べていなかった事を思い出し、問いかけみるとルーナの表情が少し嬉しそうに綻んだ。
「じゃあ月曜日は、ヘルキャットさんを探さないといけないね。」
嬉しそうにそんな事を言ってくる彼女を見ていると、私は無意識に頭を撫でていた。
「大丈夫よ。私から会いに行くわ。
ほら、もう始まってしまうわよ。」
そう後押ししてあげれば、ルーナは手を振りながら部屋から出ていった。
ひとりになった私は、机の引き出しからペンダントを取り出して首からかけると服にしまい込んだ。最近はペンダントは机の引き出しにしまい込んでいたが、今回は万が一何かあった時の事を考えると、ペンダントが必要になるかもしれない。
私は目を閉じ、深呼吸をして、扉に手をかけ自室を後にした。
ハロウィンの装飾が施されている大広間には、食事をする生徒達の楽しそうな声が響いている。
教員席の1番端に腰掛けていた私は、デザートのかぼちゃプリンを食べながらその時が来るまでじっと待っていた。いつになればこのパーティーが終わるのかは分からないが、もうそろそろだと思う。
私は食べ終わると、容器を重ねてまたかぼちゃプリンに手を伸ばし、手に取ると今からどうしようかと考え込む。
絵画が引き裂かれていることに皆が気づいた時に、私はその場に居るべきだろうか。それとも騒ぎを聞きつけた風に少し遅れていった方がいいのか、はたまた行かない方がいいのか。
どうすればいいのか分からずに考え込む私の手は止まる事なく、口にプリンを運んでいた。
どちらにせよ、その後教師達はブラックが潜んでいないか学校中を探すわけだし、勿論私もそうなるだろう。
私は生徒達の安全を守るためにここにいるというのに、ブラックに侵入されたということが分かればきっと教師達から厳しい視線を浴びせられることも想像できる。
私が5個目のかぼちゃプリンを食べ終わると、丁度パーティーは終わり、少しして生徒達は大広間から出ていった。
こういうのは意識するほど、行動が変になってしまうものだ。
私は、水を飲みながら自分に言い聞かせるようにそう心の中で言って、もう何も考えないことにした。そんな事をしていれば、大広間の出口らへんにいる生徒達の様子がおかしいことに気づいた。
絵画が引き裂かれているということが広まったのか、ほとんどの生徒達が同じ方向に向かっている。そんな光景を見れば、誰もが何かあったと分かったのだろう。
腰掛けていたダンブルドアは何か悟ったように、立ち上がると大広間から出ていく。私はその後を追いかけるように、少し遅れをとって大広間から出るとグリフィンドールの寮へと向かった。
好奇心で生徒達が集まっているせいで、通りにくかったが声を一言かければ狭い道を作ってくれるし、通れない訳ではなかった。
何とか生徒達を掻き分けて前に進むと、よく見たことのある3人の後ろ姿が目に入った。
「ごめんなさい、少し通してくれないかしら?」
そう呼びかけ、振り返る顔を見ると案の定ハリー達だった。彼らが開けてくれた道を抜けると、引き裂かれた絵画に触れるダンブルドアと、その後ろには猫を抱いているフィルチの姿が見えた。
「何かありましたか?」
私の声を聞いたダンブルドアとフィルチは振り返り、フィルチは何故だか少し険しい表情を浮かべている。いや、険しい顔はいつものことだから気のせいなのかもしれない。
私は引き裂かれた肖像画に視線を移し、ゆっくりと近づき、まるで今初めて知った風を装いながら触れてみる。
「………誰がやったのか、君の意見を聞きたいの。」
後ろからダンブルドアに話しかけられ、振り返ると慌てたように階段を駆け上る足音が聞こえてきた。
人波を掻き分け、騒ぎを聞きつけたマクゴナガル、ルーピン、セブルスが駆け寄ってくる足音だと分かるにはそう時間はかからなかった。肖像画を見て驚く彼らを見て、私はダンブルドアに向き直る。
「貴方が考えていることと同じです。寮に生徒達が居なかったのが不幸中の幸いですね。」
もう誰がやったのか大体予想がついているだろうダンブルドアに言うと、彼越しに無残な姿になった肖像画と私を交互に見ているセブルスと目が合った。睨んでるような怪しんでいるような、決して見られて気持ち良くならない視線を感じながら私は視線を逸らす。
「………どちらにせよ、レディーを探さなくちゃならん。フィルチ城中の絵を集めて探してくれぬか?」
指示を受けたフィルチが動き出そうとした時、ピーブズが空中を漂いながら話す嬉しそうな声が聞こえてきた。
「あの女はズタズタでしたよ。ひどく泣き叫びながら、5階の風景画の中を走ってゆくのを見ましたよ。木にぶつからないように走ってゆきました。」
ニタニタと笑いながら言うピーブズは、白々しく言い添える。
「お可哀想に」
「レディーは、誰がやったか話したかね?」
ダンブルドアが確認するように見上げながら静かに問いかけると、ピーブズはくるりと宙返りをして楽しそうに話し出した。
「ばっちりと見ていましたとも。そいつは、婦人が入れてやらないんでひどく怒っていましたねぇ」
彼はまるで今から素敵なお話をするかのように楽しそうに後を続けた。
「あいつは癇癪持ちだねぇ、あのシリウス・ブラックは」
シリウス・ブラックという名が出ただけで、その場は凍りついたように静まり返ると、生徒達の騒ついた声が大きくなった。騒ついている生徒達の中にいるハリーの顔色は良くなく、隣にいるハーマイオニーが心配そうに声をかけている。
ダンブルドアが大広間に戻るように言い渡すと、生徒達はぞろぞろと大広間へと戻っていく。
「ミネルバ、先生方にこの事態を知らせ、学校中を隅々まで探すよう伝えておくれ。それからフィルチ、玄関の扉を閉めるのじゃ。
安全が確保するまでは、生徒達を寮に戻すことはできん。」
ダンブルドアに指示された者達は、それぞれの方向へと散っていく。
今私のやることは、城中を回ることだと思い、階段を下りるためにセブルスの横を通り過ぎようとすると、後ろからダンブルドアが彼を呼ぶ声が聞こえてくる。
彼が横を通り過ぎた時は、決してその方向を見ないように真っ直ぐ前を向いたまま階段を下りた。
私はそのままブラックが潜んでいそうな所に適当に足を運んだ。本来だったらこの時間帯に廊下を歩いていたら、まだ生徒達の声が聞こえてくるはずだが、今は静まり返っており、更には少し薄暗いせいで不気味だ。
ブラックが居ないことは知っていたが、一応杖を握りしめながら、廊下の角を曲がると何か物体が突然に視界に入った。あまりに突然のことで驚いた私が持っていた杖を向けると、向こうも私に何かを向けてくる。
「レイラ?」
誰か分かる前に聞こえてきたのは、私の名前を呼ぶ声で、目が慣れるとそこには私に杖を向けるルーピンがいた。
杖を下ろす彼は、少し顔色が悪く、体調が良くないように見えた。私はゆっくりと杖を下ろしながら、じっとルーピンを見つめる。
「何かおかしいことはあった?」
「いや、何も問題なかったわ。多分もうブラックはここには居ないわね。」
問いかけてくる彼に言葉を返して、私は横を通り過ぎる。満月までまだ時間はある。体調が悪そうに見えたのは、単なる風邪なのかそれとも薄暗いせいでそう見えただけなのか、分からないが私は気にすることなく、歩き進めた。
ひと通り探し終えた頃には、空には星が出ていて、肌寒くなっていた。薄着だった私は、手の摩擦で体を温めながら、私は皆が寝静まっているであろう大広間に足を向かわせる。
階段を上れば直ぐにある大広間への入り口から、丁度タイミングよくダンブルドアが出てきた。
「先生、ひと通り探してみましたが、どこにも居ませんでした。」
「すまんの。わざわざ報告をありがとう」
私の報告する声を聞いたダンブルドアは、どこまだ余裕があるようにお礼を言ってくる。
「……すいませんでした。生徒達の安全を確保すると言っておきながらこんなことになってしまい…」
周りの人間からしたらきっと私の印象は、もっと悪化しただろう。魔法省の人間というだけできっと良く思わない人もいるというのに、結局こんな不始末になったのだから。
「今回のことはしょうがないことじゃ。誰にも予想つかなかったことじゃろうし、君ばかりが責任を感じることではない…が……ひとつ君に聞きたいことがある。」
私を励ますように言うダンブルドアの青い瞳が、突然獲物を捕らえたように私を映した。
「君がもしディメンターを潜り抜け、ここに入るとしたらどうするかの?」
問いかけるダンブルドアは、完全に私を怪しんでいるような言い方だった。
「それはどういった意味でしょうか?」
慎重に言葉を選びながら問いかけみると、彼の瞳はいつも通り優しい色になる。
「君の考えというのは、到底儂には考えつかないものばかりでの。君の考えの中にヒントが隠されていないかと思ったのじゃ。」
「…残念ながらディメンターを潜り抜ける方法など想像もつきません。」
ダンブルドアにそう言い告げていると、大広間から出てきたセブルスの姿が視界の端に入った。
私はセブルスを気にしないようにしながら、その場を後にした。