周りにいる人の話し声や足音などの雑音を聞きながら、病院の待合室のソファーに腰掛ける私は持っている予言者新聞を読まずに、ただページだけめくっていく。
大人しく病室に引きこもっていたお陰か、怪我は順調に治っていき、最近では自由に歩けるほどに回復したが、最近は何故か気づけば溜息ばかりついているような気がする。
どんなに甘いものを食べても甘味が足りないような気がするし、特に何をしている訳では無いというのに一日が終わった頃には疲れ、かと言ってぐっすり眠れる訳でもない。
気づけば予言者新聞のページを最後まで捲ったようで、視線を下ろせば最後のページの動いている写真と、完治して包帯も外れている左腕の肌が目に入ってきた。
ゆっくりと袖を捲り、左腕の内側を上向きにしてみるとまだあの印はなく、無意識にほっと安心すると同時に不安が襲いかかってくる。
.........来年...か......
そう、例のあの人が蘇る日までそう遠くない。
......もうこの際、あの人が蘇るのを阻止してしまおうか...
そんなことを考えてみるものの、一体何をどうしたらいいのか分からない。
ペティグリューを殺せばいい?分霊箱を全て壊してしまえばいい?
そんなこと出来るなら、こんなに苦労している訳がない。
......どうしよう...
悩むように心の中で呟いてみるが、私は勿論動く気などさらさらなく、ただ今後の不安から溢れたもののだけだ。
これからどうすればいいのか分からない私の頭に、一瞬思い出したくもない彼の顔が横切り、私は誤魔化すように舐めていた飴玉を噛んで粉々にした。
周りの人達の雑談の声を聞きながら瞼を下ろすと、まるで私が現実から逃げることを阻止するかのように聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「こんな所で寝たら風邪を引いてしまうよ」
明らかに自分に言われているその言葉に、ゆっくりと瞼を開けてみると、前に立っていたのは何か袋を持ったアーサーだった。
「久しぶりだね。レイラ。隣いいかな?」
「えぇ、勿論」
あまりに思いもしなかった人物に驚きながらも、席を譲ると、彼はゆっくりと私の隣に腰を下ろし、袋を抱える。
「...誰かのお見舞いですか?」
無意識に問いかける私の声を聞いたアーサーは、少し呆気に取られると、面白そうに笑い出す。
「アハハ、レイラは面白いことを言うね。」
「...そうですか...」
何がそんなに笑うことがあったのか分からない私は、全く検討もつかずに呟いた。
「君のお見舞いに来たんだよ。」
「...あっ......そうなんですか。すいませんわざわざ」
すっかり回復していた私は、病室に居ないせいか今怪我をして病院に入院しているということをすっかりと忘れていた。
「その様子だと怪我は大丈夫そうだね」
「えぇ...もうほとんど完治しているというのに解放させてくれないんですよ。」
私が溜息をつきながら話すと、アーサーは嬉しそうに笑いながら話を聞いてくれる。
「こんな時ぐらい仕事のことは忘れてしまえばいいのに。本当にレイラは仕事熱心だね。」
「...それぐらいしかやることもありませんし...」
彼と話すのは楽しく、不思議とさっきまで感じていた不安は消え去っていった。
「あっこれ、お見舞いの品とお土産が入っているんだ。甘いものは好きだったよね?」
「はい、ありがとうございます。」
お礼を言いながら袋を受け取ると、想像していた重さよりも重くずっしりとしていた。一体何が入っているのか不思議に思い、袋の中を見てみると結構な大きさの球体と、包み紙と絹の紐でラッピングされている箱が入っている。
私が不思議そうに見ていたからなのか説明する声が横から聞こえてきた。
「その丸いものは、エジプトでは有名な魔法道具らしいんだ。使う人の必要なものや望むものに変わるらしいから人それぞれ魔法も色も形も異なるらしい。
......名前はなんて言ったかな............まぁとにかく、何か困った時にでも使ってみるといい。
あっそれからその箱は今マグルの間で流行っているお菓子屋さんのクッキーだよ。」
「.....困った時...」
呟きながら、袋を隣に置いていると横から今までとは打って変わって真剣な声が聞こえてきた。
「......レイラ...ハリーを救ってくれてありがとう。」
「...突然どうしたんですか?」
あまりに突然なことに苦笑いしながら、問いかけてみるといつも通りにこりと笑いながら話し出した。
「君が居なかったら、今頃ハリーはこの世に居ないだろうから。」
まるで息子の事を話している父親の表情を浮かべるアーサーの横顔を見た私は、彼から視線を逸らして声を出す。
「.........あの子の事...心配ですか?」
「あはは、そりゃあ心配だよ。少し強引に行動する時があるから」
「確かに.........こんな時ぐらい校則を平気で破る癖は直して欲しいですね。」
溜息混じりの私の言葉に、笑いながら返事をするアーサーの横顔をちらりと見て、ゆっくりと口を開いた。
「...大丈夫ですよ。貴方のお子さん達の安全を確保するのも私の仕事ですから。」
彼に見つめられる視線を感じながら、そう声に出すと、横から明るい声が聞こえてきた。
「確かに君が居れば心強いな」
どうしてこんなことを言ったのかは分からないが、ただ彼には余計な心配はかけさせたくはない気持ちになった。
「...ごめん、レイラ。仕事の最中に抜け出してしまったから、そろそろ戻るよ。」
「いえ、わざわざありがとうございました。」
立ち上がるアーサーにお礼を言うと、彼はいつも通りの笑みを浮かべながら言ってくる。
「じゃあ無理だけはしないようにね。」
「...えぇ、アーサーも気をつけて」
そう言葉を返して彼の背中を見送った私は、アーサーから貰った袋と予言者新聞を手に持って病室に足を向かわせた。
久々にシャツに腕を通し、ローブを羽織ると私は忘れ物がないか私物が入ったトランクの中を確認する。アーサーから貰ったお土産とお見舞いの品と、ルーナから貰ったクリスマスプレゼントをある事を確認し、トランクの蓋を閉めて鍵をかけた。
......長かったな......
今日でやっとこのお世話になった病室ともお別れできる。そう今日で私は病院を退院出来るのだ。
さっきお世話になった癒者に挨拶をし終えて、後はもうここから出るだけ。
......ホグワーツに行く前にダイアゴン横丁に寄って…
そんなことを頭の中に巡らせていると、病室の部屋の扉を開く音が聞こえ、振り向けばそこにはルーピンが立っていた。
「やぁ、レイラ。久しぶりだね。」
相変わずの彼の顔には傷があったが、顔色はよく調子は良さそうだ。
「えぇ...見舞いに来てくれたのなら申し訳ないんだけど私、今日退院よ。」
「うん、知っているよ。お見舞いに行きたかったんだけど、間に合わなかったから退院の付き添いにね。」
「いや、遠慮しておくわ。」
ホグワーツに真っ直ぐ帰らず、ダイアゴン横丁に寄ってルーナのクリスマスプレゼントを探しに行こうかと考えていた私は、トランクを手に持ってルーピンの横を通り過ぎては、病室を後にした。
「持つよ。」
後ろからそんな声が聞こえてきたが、私は聞こえない振りをしながらすたすたと廊下を歩く。
「私は大丈夫だから、ホグワーツに戻って新学期の準備でもしたらどうかしら?」
横に並んできた彼に冷たく言ってみるが、何とも思っていないような平然とした声が返ってくる。
「それは大体終わったから大丈夫だよ。
怪我が治ったばっかりだからってダンブルドアに退院の日を教えて貰ってね。今日はダンブルドアの代わりで来たんだ。」
「そう、じゃあそのダンブルドアに付き添いは必要ないほど元気でしたって今すぐに伝えに行ってくれない?見ての通りどこも問題ないから。」
どんなに言葉を並べても引き下がる様子のないルーピンの姿を見て、私は病院の玄関の前で足を止める。前触れもなく急に止まったからだろう。少し前に出ているルーピンに視線を移し、はっきりと言葉にした。
「私、他に行きたい所があるの。1人でゆっくりとお買い物をしたい気分だから、ついてきて欲しくないのよ。」
「そうは言われても、病み上がりな君をひとりには出来ないし。...私のことは荷物持ちでも思って気にしないで。」
そう言いながら私の持っていたトランクを手に取るルーピンはにこりと笑ってくる。
この場合の彼はどんな事を言っても引き下がってくれない。
私は諦めてトランクから手を離すと、ルーピンの隣を歩いて、病院の玄関の扉を開けた。
冷たい空気が流れ込んできて、一気に体温が下がったが、久々に外に出ると部屋にこもりっぱなしな私にとっては息がしやすく感じた。
それでも寒いものは寒く、もう1枚ぐらい着込めば良かったと後悔しながら、自分の吐く白い息を見ていると、ルーピンが話しかけてきた。
「それで、どこに行くんだい?」
「...ダイアゴン横丁」
答えながら、姿くらましで行こうかと考えているとふわりと首元に温もりを感じ、咄嗟にルーピンの方を見ると彼は自分がしていたマフラーを私に巻いていた。
「いや、何をしてるの。」
「そんな薄着で、寒いわけがないでしょ。怪我の次は風邪で休むことになるよ。」
「...大丈夫よ。」
「遠慮しないで。こう見えても結構着込んでるから」
意地でも返そうとルーピンが巻いてきたマフラーを取ろうとしたが、彼の表情といい、何より寒さには勝つことは出来ず戸惑いながらも有難く借りることにした。
この寒さのせいか道には、マグルもほとんど歩いておらず、道に積もっている足跡さえもついていない白い雪に視線を移し、お礼を言おうと口を開きかけた瞬間だった。
今まで何も通る気配はなかったというのに目の前を凄い速さで通り過ぎた時のような強風が巻き起こり、一気に冷え込んだ。
.........さむ...
ポケットに手を突っ込みながら、分かり切っている事を心の中で呟く私は、いつの間にか目の前に止まっている3階建てのバスをじっと見つめた。
......なるほど...ルーピンが動かなかったのはこれを待っていたのか
全く動く気配がなかった理由が分かった私は、何気に夜の騎士バスを見るのは初めてで、少し見上げながら先を歩くルーピンの後を追った。
バスから身を乗り出し挨拶をする車掌姿の男の顔を見てみるが、私の知っている顔ではなく、気だるそうな彼と比べて、今目の前にいる男はにこやかな表情を浮かべている。
ルーピンの後を追ってバスの中に入ると、昼間だからなのかベッドはなく、代わりに椅子が並んでいた。とりあえず1番近い椅子に腰掛け、物珍しさに色々見回していると、車掌と話していたルーピンが紙を握りながら私の横に腰掛けてくる。
「どうしたんだい?そんなにキョロキョロして」
「乗ったのはこれが初めてで、少し物珍しかったから」
可笑しそうに笑うルーピンの言葉にぶっきらぼうに返すと、車掌の男が話しかけてくる。
「どこまで行きますか?」
「あっ...漏れ鍋までお願いします。」
私の代わりに答えてくれるルーピンの言葉を聞いた車掌の男が運転席の窓ガラスを叩いた瞬間だった。合図もなしに急に発進したせいなのか、椅子が固定されていないせいで凄い勢いで左右に揺れているせいなのか、どちらにせよ少し酔いそうになった。
それなのに男はごく普通に立っているし、隣に座っているルーピンも何事もないような表情を浮かべている。
......あっ...これ合わないな…
そんな事を思いながら、これ以上気持ち悪くならないように瞼を閉じた。
急ブレーキを効かせ、止まったせいで一気に気分が悪くなった私が少し瞼を開けると、男の声が聞こえてきた。
「漏れ鍋、着きましたよ。」
着いた、この言葉を聞いた瞬間、私は真っ先にバスから降りて、外の空気を吸い込むとそのまましゃがみこむ。
......あぁ...気持ち悪い...
まさかこんなに酔うとは思っていなかった私は、頭を抱えてゆっくりと呼吸を繰り返していると、上からルーピンの声が聞こえてきた。
「大丈夫かい?」
「.........大丈夫...良くなったわ...あっ......お金」
バスの料金の事を思い出した私が呟くように声に出すと、さっきまで後ろにいたはずのバスはもうそこにはいなかった。
「大丈夫、払っておいたよ。」
「......いくら?返すわ。」
「それぐらい気にしないで。とりあえず、中に入って休もう。外は風邪をひいてしまう」
伸ばしてくるルーピンの手を借りて立ち上がり、店内の中へと入ると、客人は意外に多く店内は賑やかだった。
空いている席に腰掛けると、ルーピンは私のトランクを置いて、どこかに行くと両手に水を持って戻ってきた。
「............ありがとう」
何も言わず置いてくれた冷たい水を一気に飲むと、さっきまであんなに気分が悪かったというのにすっきりとし、頭も痛くなくなった。
「体調は良くなった?」
「えぇ、お陰様で戻ったわ。」
そう言いながら、座り直すとルーピンは良かったとだけ呟いて水を一口飲む。
「本当に大丈夫なの?新学期の準備は。」
喋ることも無く気まづい空気に耐えきれなくなった私は、話題を振ってみた。
「大丈夫だよ。生徒達が学校に戻ってくるのも明日の夕方だからね。まだ時間はたっぷりある。」
「......そう」
聞いておいてなんだが、そうとしか言えず、特に話が膨らむこともないまま、また気まずい空気が流れるが、今度はルーピンが私に話しかけてきた。
「怪我は本当に大丈夫なのかい?」
「えぇ、どこも問題ないわ。」
別に仲良く話す程では無いし、話したい事がある訳でもないがこの気まずい空気はどうも好きになれない。
「じゃあそろそろ行こうか。」
そんな私の気持ちを察してか、ルーピンは私のトランクを持って立ち上がった。私は答える事もせず、店内の奥へと進み裏庭に出ると、目の前の煉瓦に杖の先を当て、決められた順番になぞっていく。
ガタガタと音を立ててゆっくりと煉瓦が動くと、目の前には懐かしい風景が広がった。
今も昔も何も変わっていないダイアゴン横丁に一歩足を踏み出せば、一気に賑やか声が耳に入ってくる。
「レイラ、ところで何を買う予定なんだい?」
「人に贈るものを買うつもり。...貴方も私に構わずお買い物したらどう?」
「いや、欲しいものはないからね。レイラに付いていくよ。」
1人でゆっくり買い物をしたかったのだが、気にしないでと言うルーピンを見た私はとりあえずグリンゴッツでお金を下ろし、何かルーナへのクリスマスプレゼントにするようないいものがないか探し回る。
私の後ろを付いてくるルーピンは、中々決められない私に文句1つ言わずに、トランクを持ちながら店の外で私が出てくるのを待ってくれた。
頼んだ訳では無いが、寒い中文句一つ言わず待っているルーピンを見ると悪い気がして、自分用のお菓子と一緒に、甘ったるそうなチョコレートのお菓子を何個か買って、お菓子屋の前で待っているルーピンに何も言わず差し出した。
「ん?」
「お菓子、貴方甘い物好きだったわよね。」
状況が掴めていない彼は、私の言葉で理解したのか首を横に振って中々受け取ってくれない。
「いや、悪いよ。」
「遠慮しないで。さっき私の分のバス代払ってくれたでしょ。安心して、別に毒なんて入れてないわよ。」
無理矢理押し付けると、やっと受け取ってくれたルーピンはお礼を言いながら少し苦笑いをしていた。
目に入った店に入っては、色々手にとって探してみたものの、中々いいものが見つからず、ここに来てから結構時間が経っていた。ルーナが欲しいものを考えてながら、じっとノクターン横丁を見つめていたせいだろう。私は誰が考えても答えが分かるような事を無意識に呟いていた。
「...意外とノクターンにあったりして」
「いや、それはないと思うよ。」
隣にいたルーピンはどうやら私の呟く声が聞こえていたらしく、冷静で的確な言葉が返ってくる。
「分かってるわよ。...ただ...何をプレゼントすればいいのかよく分からないの。」
今までクリスマスプレゼントを渡すような友達がいなかった私にとって、一体何をあげれば良いのかよく分からない。だからこんなに時間がかかっているのだ。
「自分が貰って嬉しいものをあげればいいと思うよ。私の場合は、やっぱり甘いお菓子とか、チョコレートとか。」
チョコレートはお菓子の中に入るんじゃないかと思ったが声には出さず、ふと視線を移すとなんとなく目に入った店と店の隙間が気になった。
「レイラ、何かあった?」
急に足を止めた私に問いかけてくるルーピンの言葉は聞き流して、近づいてみるとその隙間は人が2人ほど並んで歩けるのがぎりぎりな広さだった。
ふと地面に視線を移すと確かにこの先道が奥に続いているのを示すかのように、色褪せた煉瓦が不規則に並んでいる。
今まで何度もダイアゴン横丁には来ているはずだというのに、今目の前にある道のようなものは初めて目にした。単に私が気づいていなかったのか、それとも最近できたのか分からないが、ノクターン横丁に続く道ではないことは確かだ。
「...こんな所に道あったかな...」
どうやらルーピンも気づいたようで、不思議そうに歩いている人の気配はなく、先が少し薄暗いその道を覗き込む。
「...さぁ......少なくとも私は知らないわ。」
ルーピンは、直ぐに他の店を探しに行こうと口にしたが、私は気になって気になって仕方がなく吸い込まれるようにその小道に入っていった。
「レイラ、ちょっと!」
後ろから慌てる声が聞こえてきたが、気にせずに歩み進めると、どうやら後をついてきたらしい彼が話しかけてくる。
「戻ろう。こんな所にお店はないと思うよ。」
「......分からないわよ。隠れた店があるかも」
ほとんど冗談で言ったつもりなのに、少し進んだ先に目の前に突然営業しているのかどうかもわからないような店が現れた。
「......あったね...」
ちょっと驚いたように呟くルーピンの声を聞きながら、店の前で足を止めて外観を見てみるが、見た目だけで見れば廃墟だった。
一応ぶら下がっている看板を見てみても、色褪せているせいでなんて書いてあるか分からず、その隣にあるランタンも埃かぶっている。外に出ている椅子と机も誰がみても分かるほどに使える状態ではない。
「......営業はしてなさそうだし...戻ろうか」
隣で話すルーピンの声を聞いて、戻ろうと店に背を向けると後ろから優しい鈴の音が聞こえてきた。
咄嗟に振り向くと、固く閉じられていた店の扉はゆっくりと開き、人影が立っていた。
「また来るよ。」
そう言いながら、店から出てきた若い男の人は私達に気づくと、店に来たと勘違いしたのか扉を開けたまま道を譲ってくれた。
こんなことをされては中に入る以外道がなくなってしまい、紳士なことをしてくれた男の人に軽くお礼を言いながら中へと入ると外見からは想像もつかないほど温かい場所だった。
天井からは古そうなシャンデリアが温かいオレンジ色の光を灯していて、店内に不規則に並んでいる4つの丸い机の上には、指輪やネックレスなどアクセサリーが置いてあったり、壁に隣接している本棚には古い本がずらりと並んでいる。
隣にいるルーピンも意外な内装に驚いたのか、天井を見上げていた。
「お客さん、ここに来るのは初めてですか?」
優しい声で問いかけてきたのは前にあるカウンターの奥に腰掛けている年老いている老婆で、彼女の後ろにある背が高くガラスの戸の棚には、何か液体が入っている色々な形をした瓶や、薬草のようなものが入っている籠、不思議な色を放っている石が積んでいたりと、変わったものが並んでいる。
「えぇ……ここは一体何の店なんですか?」
「薬や、魔法薬の材料とかね。ここは湿気が多くて保存持ちが良いものでね。その代わり本が湿気でやられてしまってね。何か気になる本があったら持っていって貰っても構いませんよ。」
本棚に近づいていたルーピンが本に触れたからだろう。にこりと笑いながら話す彼女の言葉にルーピンは驚いたように問いかけていた。
「代金は?」
「流石に売り物にはしていませんよ。それにもうすぐ死にゆく老人が持っているよりお客さんのような未来のある人が持っていた方が本も嬉しいでしょう。」
まさかこんな大量の本を無料で持っていっていいとは言うなんて誰が想像つくだろう。本棚に近づいて、背表紙を見てみると殆どが魔法薬の事に関するものばかりだった。
.........ここにセブルスがいたら...きっと大喜びするんだろうな...
そう思いながら、本を取り出してページをめくってみると確かに傷んではいたが読めないという訳ではない。
私はルーナへのプレゼントを探しに来た事を思い出して、手に持っていた本を本棚にしまうとアクセサリーが置いてある丸机に近づいて、ネックレスを手に取ってみた。
金色に輝く紐の先についている青い宝石に惹き込まれた私は、周りにあるアクセサリーと見比べてみる。机に置いてある他のアクセサリーに付いている宝石は綺麗に形が整っているというのに、なぜかこれだけは不恰好だった。
「それは、私の夫が作ったものです。私の真似をして作ったみたいで、形は確かに不恰好ですけど、私はそんな綺麗な宝石は作れません。」
確かに彼女のいう通り、手に持っている宝石の中はまるで星を閉じ込めたようにキラキラと輝いている。
青が似合うルーナにぴったりだと思った私は、そのネックレスを手に持ってお金を払いに彼女に近づいた。
「……これにします。いくらですか?」
そう言いながら下ろしたお金を取り出し、言われた値段のお金を丁度机の上に置く。
「贈り物ですか?」
「えぇ」
ランピングをしながら問いかけてくる彼女にそう答えると、私の後ろを見て少し小声で話しかけてくる。
「...後ろの方に?」
後ろを振り向いてみるが、勿論店内にいるのは私とルーピンしかおらず、彼は相変わず本を眺めていた。
「違いますよ。これは女の子に渡す予定なんです。」
「そうなんですか。てっきり彼に渡すのかと」
「残念ながらそんな仲ではないんです。......ここのお店はおひとりでやられているんですか?」
にこにこと笑いながらラッピングを続ける老婆に、話題を振ってみると彼女は思い出すようにゆっくりと話し出した。
「......元々アクセサリーや小物を作るのが私の趣味で、少しでも生活の足しになればと思って随分昔に魔法薬好きの夫と始めたのがきっかけです。
私はアクセサリーを夫は魔法薬を作って売っていたら、おかげさまで結構長く続いているんですよ。」
「じゃあ、ご主人と2人で」
「えぇ、だけど最近先に逝ってしまいました。ですから今は独りですね」
少し寂しそうな表情を見た私の頭はその意味を瞬時に理解し、何か嫌な事を思い出させてしまったと申し訳ない気持ちに苛まれた。
「...すいません。」
「いえ、謝らないでください。今はこうして楽しくやらせてもらってますから。ぜひまたいらしてくださいね。」
「えぇ、勿論です。」
綺麗にラッピングされたネックレスを受け取り、振り向くと丁度ルーピンも読み終わったようで本を棚に直していた。
「また来ます。」
老婆はにこやかな笑みを視界に入れながら店を出た瞬間、冷たい空気が肌に触り、一気に体が冷え込む。
「いいものは見つかった?」
「えぇ、お陰様で。プレゼントにぴったりなものが見つかったわ」
「そう、良かった。......他に用事はあるかい?」
「特には...そろそろホグワーツに戻った方がいい時間帯でしょうし。」
私の言葉にそうだねと声を出すルーピンの隣を歩きながら、小道を抜けると、とりあえず漏れ鍋に戻って外に出る。
「さて、どうやって行こうか。バスは...駄目だし「姿くらましでいいじゃない?」
私が横から提案すると、ルーピンは少し心配そうな表情を浮かべてくる。
「でも怪我治ったばっかりだし」
「大丈夫よ。ほら早く手出して。」
渋々出した彼の手を強引に握った私は、何か言われる前に姿くらましをした。
歪んでいた視界が元に戻ると、私が思い描いた通り、ホグズミード駅に無事着いた私はルーピンの手を離して、学生の頃に行き慣れた道を歩く。
「まさか、歩いていくの?」
「それしかないでしょ。ホグズミードの方が良かった?」
白い息と一緒に言葉を吐きながら、少し早歩きで歩くが、どんなに動いていても寒いものは寒い。
ふと隣を歩いているルーピンを見てみると、私にマフラーを貸したせいで首元が空いているし、私よりペラペラそうだし、寒そうだ。
「寒いんでしょ。返すわよ」
そう言いながら、マフラーを取ろうとするが彼はがんとなって受け取ろうとしない。
「大丈夫。女性の方が冷えやすいって良く言うだろう?それに病みやがりな君をこれ以上薄着にはさせたくないしね」
「.........そう」
私は少し溜息混じりに呟いて、マフラーを口元まで持ってくると、自分の息が籠るからなのか、暖かかった。
無事ホグワーツまで辿り着いた頃には、私達の肩には雪が積もり、体の芯まで冷えってしまっていた。
ここまでトランクを持ってくれたルーピンも、流石に寒かったのか体を少し震わせて、2人で駆け込むように城の中に入る。
外よりかは暖かい城の中に入ると、肩に積もった雪を払って、トランクを持つルーピンに近づいた。
「トランクありがとう。今日はごめんなさいね。付き合わせてしまって」
「いや、レイラと買い物が出来て楽しかったよ。それに良いお店も発見出来たことだしね。
......別にここまでじゃなくても、部屋まで運ぶよ。」
そう言い足すルーピンから半場強引にトランクを受け取って、言葉を付け足す。
「貴方も準備があるんでしょ?私もダンブルドアの所へ行かないと行けないから、ここで大丈夫よ。...じゃあ、また」
私はトランクを持ちながら、長い廊下を歩きながら自室を目指した。
地下に続く階段を下り、セブルスに会いたいのかそれとも会いたくないのか、私の心臓の鼓動は緊張したように速くなっていくばかりでそれに比例するかのように早歩きになっていく。
奥にある自室に入った私は、とりあえずトランクを置いてローブを脱ごうと手をかけるとマフラーをルーピンに返し忘れた事を思い出した。
............また今度返そう...
今返しに行くのは面倒に感じて、マフラーを綺麗に畳むと机の上に置くと、癖のようにペンダントをしているか確認をする。
............ダンブルドアの所へ行くのは...夕食前でいいか......
とにかく今はゆっくりしたかった私は、ローブを脱ぎ捨てるとソファに腰掛けて、一息つく。
ただぼんやりとしていただけだというのに、久々動いたせいなのか、眠気が襲いかかってきて、このまま目を閉じればぐっすり眠れるかと思った私は抵抗することなく瞼を下ろした。