夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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5 喧嘩とテスト

6月の学年末試験に向けてなのか課題の量もだんだんと多くなりその分みんなの苛立ちが募っていた。

勿論私だって勉強嫌いだったし、何だったらやりたくなかったが、やる気のおこらない頭を奮い立たせて羊皮紙に向き合った。談話室にある机に課題を広げ、出来るだけ端によりながら目立たないようにと取り組んでいると後ろから爽やかな香水の香りが鼻をさわった。

 

「薬草学か……どうやら手こずっているようだね?」

 

聞いただけでも寒気のする声が耳に入った瞬間私は、鳥肌を立たせながら後ろを振り返った。すぐ後ろには、私が苦手で、どうも好きになれない相手、ルシウス・マルフォイがいた。

純血である私を気にかけているのか、それとも純血でありながらあまり純血主義ではない私の家系を面白がって興味本位で近づいてきているのか知らないが、とにかく私はこの人が苦手だ。

 

「…私が手伝ってあげようか?見たところによると、君はまだ魔法薬の課題も終わってないのだろう?」

 

机に置いてある魔法薬の教科書をちらっと見て、私に話しかけてくる。

羨ましそうにこちらを見て、私の方を睨んでくる周りのスリザリンの生徒達を横目に羽根ペンと、羊皮紙をくるくるとしまった。

彼は今のスリザリンの生徒にとって憧れの存在で、あの憧れの死喰い人とも繋がっているというのだから、皆が彼に気に入れられようとするのは当たり前だった。

 

 

「…いや結構です。課題は自分でやった方が身になりますし、魔法薬は他の人に教えてもらう約束をしているのでご心配なく」

 

 

散らかっている教科書を閉じて、数冊重ね立ち上がるとルシウスは、にこりと張り付いた笑みを浮かべながらまた話しかけてくる。

 

 

「それもそうだね。……ところで、誰に教えてもらうんだい?…魔法薬」

 

 

この人は、私に恥をかかせようとしているのだろうか。私がスリザリンで浮いていることぐらい、此処にいる全員が知っている。教えてもらえる友達なんているわけ無いが、もう私の頭には魔法薬といったら彼の名前が浮かんでいた。中々答えない私を見て、周りにいる生徒、何人かがクスクスと笑いをこぼしだす。

 

 

「…………セブルスに、

…セブルス・スネイプに教えてもらう予定ですが、それが何か?」

 

「…そうかい。…確かに彼は、魔法薬に関しても詳しいからね」

 

「えぇ…その通りですよ。もういいですか。私は貴方ほど優秀では無いので、課題が終わらないんですよ」

 

そう早口でルシウスに告げ、逃げるように驚いている様子のセブルスへと足を向かわせた。どうやら結構目立っていたらしく、セブルスも見ていたらしい。

 

「ということで、隣いい?」

 

私が問いかけには何も答えない代わりに、机の上に置いてあった教科書を寄せて場所を空けてくれた。私が疲れたように、椅子に腰掛けると不思議そうにセブルスが問いかけてくる。

 

「何で、僕なんかの所に来たんだ?絶対にルシウス先輩の方が良いと思うけど?」

 

「…教えてもらう相手は、やっぱり同じ年の方がやり易いじゃない?」

 

 

適当に言葉を繋げて、もう一枚の羊皮紙を取り出し魔法薬の教科書を開いた。セブルスは何も言わずに私の顔を見てきたが、特に詮索も何もしてこなかったのが助かった。

レポートは苦手だしさらには魔法薬学も苦手なので色々と手こずったが、セブルスがアドバイスをしてくれたため、なんとかやり終えることができた。

 

……あんなに自然に話せたのは奇跡だと思う。いつもセブルスに話しかけようとすると緊張して、何もかも上手くいかないのにごく普通に質問だってできたし名前だって呼べた。(一回だけだけど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を食べるために大広間に行こうと伸びをしながら歩いていると、なぜか盛り上がっている声が耳に入って、私は自然と引き寄せられるように声がする方に足を向かわせていた。

どうやら盛り上がっているのは中庭らしく、吹き抜けている中庭で誰かが喧嘩をしているらしい。

皆がまるで観戦するように、廊下の窓枠の近くに円を囲むように人が集まり、凄い盛り上がりをみせていた。

 

私は、大体は想像ついたが少し気になって覗いてみると中庭で杖を構えているセブルスの姿が見えた。その瞬間に体から血の気が引いたのが分かった。今までで1番激しい喧嘩だと見ただけでも分かったからだ。相手はもちろんポッターで、側にはブラックが楽しそうに見ている。

 

 

2人ともお互い頰から血を流したりしていたが、セブルスの息の乱れぐらいからみると完全にポッターの方が余裕があった。

 

その場は誰も止めようとする者もおらず、どちかというと勉強詰めの日々のストレスを発散しているかのようだ。まだ、2年生だし、相手を死にいたしめる呪文を習得しているわけはないが、魔法というのは、便利で簡単で時には怖いものになる。

……もしかするとどちらかが病院送りになる可能性だってある。

 

私が知っている未来は、『ハリーポッター』の本に書かれた内容と、それが映像化された物語だけ。だから、この時期に何が起こるなんて分かるはずもなく、もしセブルスが酷い怪我をしてしまったらどうしようという不安だけが募ってきた。こんな激しい喧嘩になる前にいつもだったらエバンズが止めている。私は、必死に彼女の姿を探したが勿論居るはずもなく、私は急いで大広間に駆けだした。

 

……彼女じゃないといけないんだ。

 

……私が止めても意味がない。

 

大広間に駆け込んで、周りを見回してみるが、どこにもおらず私は少し腹を立てながら額から垂れてくる汗を拭った。

 

「こんな時に…限って……」

 

見つけられない。

毎日嫌という程目に入るくせに、こういう時だけは全然見当たらない。

 

大広間から出て、グリフィンドールの寮に行こうか、それか図書館かと、思い悩んでいると今だけは会いたかった明るい彼女の声が聞こえてきた。

大勢のグリフィドールの女子生徒の中に入って楽しそうに話す姿が目に入り、私は彼女に向かって駆けだした。私が、エバンズの腕を握った時に、彼女はやっと私に気がついて不思議そうに眉を下げ問いかけてくる。

 

「どうしたの?…貴女凄い汗をかいてるじゃない」

 

ちょっと待ってねと言って、ご丁寧にローブのポケットからハンカチを取り出して私に渡してくる。私は受け取りもせずに、彼女を睨みつけるとエバンズを無理矢理引っ張った。

後ろからは、戸惑ったような声が聞こえてくるが、気にしてる時間なんてあるわけなく、私は腕が痛いというエバンズの声を聞きながら、中庭へと急いだ。

 

 

 

 

中庭に近づくにつれ、盛り上がっている声が聞こえてくるとどうやら察しがついたのだろう。彼女は、私の隣に並んで一緒に走りだした。

 

中庭につくと、彼女はちょっと通してと、中へと入っていき、一瞬で見えなくなる。久々に走って疲れた私は、壁にもたれながら、しゃがみこんだ。

 

「セブ!!!何をしているの!!!」

 

彼女の怒鳴り声とも近い叫び声が響くと、盛り上がっていた声もだんだんと小さくなるのを感じて安堵した。

もたれかかっている石造りの壁がひんやりと冷たく感じて汗をかくほど熱い私の体にはちょうど良かった。少しして、周りにいた生徒達は面白くなさそうに散っていき、心配そうにセブルスの泥だらけのローブをはらっているエバンズの姿が目に入り、疲れた体を立ち上がらせた。

怪我はしているけど、大事に至るものはなかったし、ちゃんとエバンズが止めに入ったし、私にしては良くやったと自分で自分を褒めてその場を立ち去ろうとすると、後ろから嫌な声が聞こえてきた。

 

「君も、見物していたのか?」

 

声の正体は勿論ポッターで、まるで私を挑発するように話しかけてくる。

 

「…見物?……何が貴方達のしょうもない喧嘩を見て楽しまなきゃいけないの?」

 

私は、哀れなものを見るかのように少し笑いながらポッター達を挑発するように言葉を選んだ。

 

「…その言葉をそのままそっくり貴方達に返すわよ」

 

ポッターではなく、周りに立っているブラックや、ルーピン、ペティグリューを睨みつける。小心者のペティグリューは、私に睨まれたぐらいで怖じ気付いたように後ずさりをした。

 

明らかに私と彼ら(ポッターとブラック)の間には火花が散るかのようにただただお互いを睨みつけ、私はいつでも杖が取り出せるようにと構える。

そんな空気をぶち壊したのは、エバンズだった。セブルスの腕を引っ張りながら今にも喧嘩をしそうな私達の間に割り込んで止めに入る。

 

「何をしているの⁈もうなんで貴方達はそんなに喧嘩が好きなのよ!女の子相手に、やめなさい!」

 

少し呆れたように私の前に仁王立ちして、彼らの母親のように説教しだした。セブルスはというと、エバンズの後ろからポッター達を睨みつけて、こちらでもまた喧嘩が勃発しそうだ。

 

私は、構えるのをやめて、彼らに背を向けてさっさと寮に戻り、午後の授業の準備をして、机にあったお菓子を何個か口に含み教室に移動した。

あんまり関わりたくなかったし、何より

 

……エバンズと一緒に居たくなかった。

 

 

 

 

喧嘩のおかげで昼食を食べ損ねた私は、さっき食べたお菓子だけではお腹なんて満たされる訳もなく、空腹に耐えながらその日の授業を何とか乗り切った。

その後、セブルスやエバンズと話すことも、ポッター達と衝突することもなかった。

セブルスとポッター達は顔を合わせただけで、お互い呪文を掛け合っていたから、毎日談話室に帰ってくるセブルスは傷をつくってきたし、包帯が巻かれもう大怪我を負っているような姿をしていた。だからこそ、遠めで彼らが喧嘩をしていたらどんなに遠回りになろうがその道を避けて通っていたから私はあの時のように衝突することもなかった。

セブルスはポッター達と喧嘩をすればするほど、闇の魔術に熱中し最近ではもう闇の魔術に関する本を肌身離さず持ち歩いている。

きっと彼は、呪文を開発しては試しているのだろう。

 

 

 

イースト休暇なんてものは、もう休みじゃなかった。課題の山のような量を終わらせないといけなかったし、来年の選択教科を選ばないといけなかったからだ。結局私は、悩みに悩んだ後、数占い学と古代ルーン文字学を選択した。占い学にも、マグル学にも興味なかったし、魔法生物学に関しては選択肢にも入れてなかった。

 

それを乗り越えても、それから毎日は課題の山。授業のない土日は、ほぼ課題をするために潰され、学年末テストが近づいてくると、もう毎日羊皮紙と教科書と向き合った。じめじめとした空気で、頭の回らない脳を必死に叩き起こしながらテストに出そうなところを詰め込むのは、全然楽しくもなんともない、辛いだけの作業だ。

 

学年末テストの直前の日といったら、いつもは騒がしい談話室も、何人かの話し声しか聞こえず、みんながページをめくる音だけが響きわたっていた。私はそんな空間に耐えきれなくなり、自分のベットの上で見直しをしながら、明日に備えた。

 

そんなこんなんで学年末テストを迎え、終えた日の談話室には勿論皆の安堵したため息や疲れたように友達と話し出す声などいつも通り騒がしさが戻った。テストが終われば、ストレス発散ができるクィディッチの試合が待っていた。でも、あんまり乗り気はしない。何故なら今日あるのは、グリフィンドールVSレイブンクローの対決。

何せグリフィンドールには、ポッターがいるし、レイブンクローが負ければ、グリフィドールの優勝になるのだから、私としては面白くない。

 

 

だからクィディッチ観戦には行かずにゆっくりと談話室で時間を潰したのだが、本当に行かなくて正解だと思った。

レイブンクローが負けて、グリフィンドールが優勝したと後から聞いたからだ。

 

 

 

 

その知らせを聞いた後、嬉しそうに歩くポッターとすれ違いそうになり、私は慌ててその道を避けるように壁の陰に身を隠した。

何でこんな広いホグワーツでこんなにも会う頻度が高いのか気になっるが、こればかりはしょうがないことだと最近は諦めている。

 

ブラックやルーピン、ペティグリューに囲まれて笑うポッターの顔は、怖いほどハリーと瓜二つで、ハリー自身を見ているようだ。

 

 

「本当に…そっくりだな…」

 

 

私が感心する声は、誰にも聞かれることなく消えていった。

 


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