夜に太陽なんて必要ない   作:望月(もちづき)

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17 悪夢

 

 

 

あの場から逃げるように自室に戻った私は、部屋に入った瞬間扉を閉め、直ぐに鍵をかけた。

ここには誰もいないと思うと、足は緊張が途切れたように力が抜け、扉にもたれながら床に座り込む。どんなに落ち着こうとゆっくりと呼吸を繰り返しても、切れていた息が整っていくだけで心臓の鼓動は増していき、少し頭も痛みだした。

 

 

.......違う...きっと何かの間違いだ

 

 

さっき見たエバンズの姿を思い出しながら、私は自分自身に嘘をつく。私がどんなに自分を誤魔化そうとしても、ボガートが彼女の姿に変身したという事実は変わらず、更には確証づけるようにさっきから手の震えが止まらない。

自分の恐ろしいものが例のあの人でも、セブルスが息絶える姿でもなく、もうこの世にいない彼女だという事実を受け入れたくない私は、小さく声に出した。

 

 

「.......違う...」

 

 

現実を見せてくるように、エバンズの姿をしたボガートを消さないでくれと訴えてくるセブルスの表情が鮮明に何度も何度も頭の中で再生され、手の震えを止めるために服を握りしめる。

 

 

「違う違う違う違う」

 

 

呪文を唱えるように小さく呟いていても、一体何が違うのか、私は何を否定しているのか自分でもよく分からない。

自分の心臓の鼓動が耳元で聞こえたような気がして、私は胸を押さえながら瞼を下ろした。

少しでも落ち着くために目を瞑ったというのに、視界が真っ暗になるとさっき見たセブルスの辛そうで悲しそうなそれでも彼女を求める表情がはっきりと瞼の裏に映り、私は目を逸らすように瞼を上げる。

 

.......セブルスがあんなに苦しそうなのは私のせい...

 

「...そんなの分かってる」

 

ずっと奥深くにしまっていたはずの記憶が、まるで私を責め立てるように鮮明に浮かび上がってくる。

 

 

.....あの時何もしなかったのは私自身

 

「分かってる」

 

 

暗がりで聞いたセブルスの嘆き、泣き叫ぶ声が頭の中で何回も再生されては、エバンズの亡骸を力いっぱい抱きしめる姿が焼き付けるように、浮かんできて、ぎゅっと胸を締め付けた。

 

 

 

私に傷つく資格なんてない

 

 

「分かってるわよ!!!」

 

 

心の中に浮き上がってくる自分の言葉を消すように、声を張り上げ、何かに耐えるように胸を押さえて俯くとある思いがどんどんと大きくなっていく。

 

...........でも.....私は...

 

 

 

「...............殺してない」

 

 

思ったことを口にした私の掠れた声は、外に出ると空気に溶けて跡形も無く消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りを見回してみると、視界に入ってきたの一面に広がっている芝生と、湖の近くに立っているブナの木。見覚えのある景色に私の心臓は緊張するように鼓動を速めていく。

 

何故こんな所に居るのか、分からなかった私は直ぐに城に戻ろうと後ろを振り向くと、この場には似つかない赤が目に入ってきた。

赤いローブを見に纏い、赤い髪を靡かせ、緑色の瞳を持っている彼女は、まるで私をこの場から逃がさないように立っていた。

 

『私が怖いの?』

 

......逃げなきゃ、彼女から逃げなきゃ

 

そんな言葉が頭に巡り、後ずさりをしながら杖を向ける。思いつく呪文を口にしても、何故かエバンズの体に当たることなく通り抜けていく。

 

『当たるわけないじゃない。私は貴女が殺したんだから「殺してない!!」

 

私が彼女に声を張り上げ反論した瞬間、遠くにいたはずのエバンズは目の前にいて、簡単に芝生に押し倒される。横を向くと、落とした杖が見え直ぐに手に取ろうとしたが、上に乗っかってきたエバンズに首を絞められた。

 

苦しい筈なのに苦しくなく、息ができない筈なのに、普通に息が出来る。

 

目の前にある緑色の瞳が視界に入るのが嫌でしょうがなく、視線を逸らそうとするが彼女がそうはさせてはくれない。

 

『......可哀想』

 

彼女のその一言を聞いた瞬間、何故か緊張したように心臓の鼓動が速くなっていく。

 

『......貴女は死んだ私にさえ勝つことが出来ない』

 

「...止めて」

 

知りたくのない事を知ってしまいそうで、後を続けようとするエバンズを止めようとするが、彼女は薄ら笑いを浮かべながら口を開いた。

 

『...ねぇ、愛している人に見てくれないのはどんな気持ち?』

 

「止めて!!」

 

声を張り上げながら、体を起き上がらせると目の前にいたはずのエバンズの姿はなく、外にいたはずが部屋のソファーに腰掛けていた。

 

夢だと理解した私はほっとしたように、ため息をつくがやけにはっきりと夢の内容が頭に浮かんでくる。

 

「......最悪...」

 

エバンズの夢を見て、いい気分になれる訳がなく、頭が重たく感じぼんやりとする。ソファーに横になり、もう一度眠りにつこうと瞼を下ろしてみるが睡魔は襲ってこない。

手探りで首からかけているペンダントを服から取り出し、胸元で握り締めると、少しだけ安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局眠ることが出来なかった私は、顔色が明らかに悪い自分の顔を鏡で見て、自分に喝を入れるように頰を両手で叩く。

 

「...よし...」

 

何も大丈夫ではなかったが、そう呟くだけで少し軽くなった。

不思議とお腹は減っておらず、胃に何も入れたくなかったが、私はとりあえず机に置いてあったお菓子を1つ頬張りながら、杖を一振りして紅茶を淹れると口に流し込んだ。

 

 

ソファーに投げ捨ててあったローブを身に纏い、扉を開けるとどうやら扉の目の前に人が立っていたようで、突然誰かの顔が視界に入ってきた。

扉を開けた瞬間人がいて驚かない訳がなく、私も相手も同じタイミングで驚き、何か落ちる音が聞こえてきたが、目の前にいた正体が分かった私は少し体が固まった。

 

「.....何か用かしら...ルーピン」

 

昨日のことを知っているルーピンと朝から対面することになるとは、気まずくてしょうがなかったが、今だけはセブルスと対面するよりかは何倍もましだと思えた。

 

「朝食の時間が終わってしまったから、レイラの分を持ってきたんだけど、あぁ.....これは食べれないな」

 

しゃがみながら答えるルーピンは床に落ちているパンを手に持ち、袋を覗き込んでいる。

 

「良かった、これだったら食べれそうだ」

 

袋の中に何か食べ物が入ってるんだろう。ルーピンが少しホッとしたような表情を浮かべる。彼が私に気を使って持ってきてくれたことぐらい分かっているが、私はいつも通りルーピンをあしらった。

 

「私はそんなことしてほしいなんて頼んでなんかないわよ。」

 

「ごめん.....迷惑だったかな...」

 

「えぇ、貴方が来なければ朝から驚くこともなかったんですもの。」

 

申し訳なさそうに謝ってくるルーピンの隣を通り過ぎながら、適当に言葉を返し、振り向くこともせずに前を向いて歩き続けた。

 

「レイラ...あの「ルーピン」

 

突然後ろから私の名前を呼ぶ彼の声を途中で遮ると、その場は静まり返る。

 

「何も言わないで」

 

ルーピンに頼むように、はっきりと言葉にするとそれ以上は何も言ってこなかった。振り向かなかったせいで、一体彼がどんな表情を浮かべていたのかは分からないし、どんなことを言おうとしてたのかも分からないが、今は昨日のことに関しては触れて欲しくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が始まる鐘の音が城中に響き渡ると、廊下にいた生徒達は教室の中へと入っていき、誰の姿も見えなくなった。

やることがない私は壁と隣接している石のベンチに腰掛けて、何となく外を眺め時間を潰す。空はどこまでも晴れ渡っていて、吹き込んできた風に髪の先がゆったりと舞い上がる。

あんなに寒かった冬も終わりを告げ、地面の隅に少し名残惜しそうに残っている雪ももうほとんど溶けていた。

 

.......もう少しで...ここにもいれなくなる...

 

溶けている雪を見ているとそんなことが頭に浮かんできた。ここにいる生徒達や教師達は、今年が終わろうともまた来年がくる。だけど、私の場合は違う。

今年が終われば、魔法省に戻らなければならない。またあの羊皮紙と向き合う日々に戻るだけだ。

 

...また...彼が遠くなる...

 

ホグワーツに居るだけで傍に居るようなそんな感覚を感じてしまっている私は、きっともう引き戻れない。

傍に居ないということは痛いほど分かっているのに、こんなにも貴方が居てくれているようなそんな気がする。エバンズを想っているのを知っているのに、決して私が抱いているこの想いは叶わないことも分かっているというのに、何度も何度も消そうとしても、忘れようとしても、私は貴方を忘れることも、想いを消すことも出来ない。

 

.....傍にいさせて...お願い....

 

.......私をひとりにしないで...

 

 

 

...貴方を好きでいさせて...

 

 

 

今思ってしまった事を消し去るように立ち上がった私は、必死に自分を押し殺す。誰もいない廊下をひとりで歩く事など珍しいことではないというのに、何故か今だけは隣が寂しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業の終わりを知らせる鐘の音が城中に響き渡ると、静かだった廊下は生徒達の声や足音で騒がしくなり、雑音が耳に入ってくる。

友人と仲良く話す姿や、教科書を開き何か教え合っている姿など、いつも通りの光景を目にしながら歩き続けていると、視界に自然と3人組の姿が入ってきた。栗色の髪の少女と、赤毛の少年に挟まれて歩いてるハリーの瞳は相変わず緑色で、頭には自然とエバンズの顔が浮かび、夢の内容が流れ出す。

 

2人と話していたはずの彼は私に気づいたのか、少しだけ口を開いて見つめてきた。昨日の事を思い出しているのか、何か迷っているように見つめてくる彼から視線を逸らす。

 

「どうしたの?ハリー」

 

雑音に混じって聞こえてきたハーマイオニーの声を聞き流しながら、彼らとすれ違った私は逃げるように廊下を歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食の時間を迎えたホグワーツには、生徒達の足音や話し声で一気に騒がしくなり、私は生徒達の間をぶつからないように通り抜けて、人気のない所を目指した。決して余計な所は見ないようにして、真っ直ぐに前だけを見る。そうすればもう余計なことも視界に入らない。

 

だけど今回ばかりはそれが間違いだったらしい。

真っ直ぐに前だけを見て歩いていると、黒い人影がこちらに歩いてきていることに気づいてしまった。こんな太陽が昇っている明るい時間帯に黒い人影なんて、顔を見なくても大体分かる。

 

脳裏に昨日見たエバンズの姿が過ぎった私は歩いていた足が止まり、咄嗟に彼に背を向けた。

会わないつもりでいる時に限って、こういう気まづい時に限って、会うのをどうにかして欲しい。

頭は冷静なのだが、体は正直で緊張するように心臓の鼓動が速くなっていく。

 

...早くこの場から離れないと。

 

そんなことを考えていると後ろからふわりと風が巻き起こり、髪の毛の先が宙を舞うと同時に微かに薬品の香りが香ってきた。

手の先に何か布のようなものが当たった気がして、俯いていた視線を少し上げれば丁度すぐ側を通り過ぎるセブルスの横顔が視界に入ってくる。揺れる黒い髪の隙間から見える彼の長い睫毛に白い肌、綺麗な黒い瞳。

ほんの一瞬なはずだというのに、私にとっては何分も見ているように感じ、胸が高鳴ってセブルス以外の人間が映らなくなる。

 

人間というのは、一度突き放されたら今まで以上に自分にとって大切な人が酷く美しく見えるらしい。嫌いになれれば楽だというのに、忘れてしまえば楽なのに、彼の事で胸がいっぱいになる。

 

この経験は1度や2度じゃないが、それでも慣れるものではない。届かない、そう分かれば分かるほど、愛している人が自分にとって必要なものだと痛いほど実感させられるのだ。

 

 

私の方を見向く気配もないセブルスは、黒のローブの裾を靡かせながらスタスタと生徒達の間を歩いていく。

私がいた事に気づいているかどうかも分からない彼の背中はどんどんと小さくなっていき、私の脳裏には昨日見たセブルスの表情が過ぎってきた。

 

.........ごめんね...セブルス......

 

私はまた貴方を苦しめた。

 

彼の温もりを求めるかのように昨日掴まれた腕を力強く握って、セブルスに背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜も、次の日の夜も、眠りにつけばあの夢に魘されて、十分な睡眠を取れずままあっという間に3日過ぎていった。

 

日にちが経つごとに顔色は明らかに悪化していき、隈は酷くなっていく。

 

「......どうしよう...」

 

自分のひどい顔を鏡で眺めながら、隈をなぞってみるが消えてはくれない。人間にとって睡眠というのはやはり大切なものだという事を身に持って分かったが、何せ瞼を閉じて、眠りにつけたとしてもあの夢に魘されて飛び起きてしまう。

単なる夢だということは分かってはいるが、夢の中の私にとっては目の前に広がっている現実でどうすることも出来ない。

最近ではあの夢を避けるためか、体が勝手に眠る事を拒絶し、睡眠の時間が朝日が昇るまでただ待ち続けるという苦痛な時間になっていた。

 

それでも仕事を休むことは出来ない訳で、この顔色と隈をどうやって隠そうかと考えながら、試しにフードを被ってみる。影になってましに見えたもののフードを被り生活するのは、何か隠しているのが外から見て丸分かりだ。

私は隠すことを諦めて、気合いを入れるために少し強めに頬を叩き部屋を出た。

 

 

 

 

できるだけ人に会いたくなかったが、朝食を食べないで寝不足な体が1日持つ訳がない為、しょうがなく大広間に向かった。

席に座るとパンをひとつ手に取って、一口サイズにちぎり、水で流し込む。視界の端にルーピンの姿が見え、何か言われたら面倒だと思った私は温かいスープを無理矢理胃に入れる。

 

あまりに勢いがあったからだろうか。隣に座っていた教師からチラチラと見られていたような気がしたが、私は気にせずに立ち上がると逃げるように大広間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

午前中の授業が終わり、昼食の時間を迎えても私のお腹は空くことがなく、まだ胃の中に朝食べたパンが残っているような感覚がしていた。

お腹も空いていないし、大広間に行くのも面倒だ。

窓際の石造りのベンチに腰掛けると、体の力は抜けていき、自然とため息が出てくる。

 

元気良く廊下を走る生徒達が私の前を横切ると、ふわりと風が舞い上がった。

 

......元気だな...

 

そんな事を思いながら、目で追いかけると視界には友人と楽しそうに満面の笑みを浮かべる子供達の顔が入ってくる。

少し胸がちくりと痛み、ふと視線を逸らすが胸が痛んだ正体は消えるどころか膨らんでいるような気がした。

 

...例のあの人が蘇ったらあの子供たちは一体どうなるのだろう。

 

来年あの人が蘇ると分かっていようが、あの人を倒す術を知っていようが動くつもりはない。私はセブルスを救うために、彼に生きて欲しいからここにいる。

その為には未来が変わっては意味がない。私の強みはただ人より少し先のことを知っているということだけで、それを失ってはきっと私がここにいる意味なんて無くなってしまうだろう。それを失ったら、きっと私はセブルスを救えない。

 

頭ではそう言い聞かせても、自分を誤魔化しても罪悪感というものは消えることは無い。

 

...あの子供達の中で命を落とす子もいるかもしれない。

 

あの子達自身でなくとも、周りが死ぬかもしれない。友人が家族が殺されてしまうかもしれない。

 

そんなことがこうやって時折頭に浮かべば、もしもの事が今の私を否定するように頭の中でぐるぐる回りだす。

 

私が彼みたいに優しく強かったら、私が彼女みたいに皆に愛されていたら、きっと何か変わっていたのだろうか。

もし私ではなく、エバンズが未来を知ったら彼女は一体どうするのだろう。もしセブルスが未来を知ったら、彼は命を懸けてあの人から彼女を守るのだろうか。

 

......もし...エバンズではなく、...私が死んでいたら...セブルスはきっと私の事など忘れてしまうのだろう。最初から私の事なんて居なかったように。

 

 

『...貴女は死んだ私にさえ勝つことは出来ない』

 

 

夢を何度も見たからだろうか。夢の中のエバンズが言った言葉が頭の中を駆け巡ってくる。

 

 

「...えぇ...本当ね......」

 

セブルスにとっては、私が死人なんじゃないかと思うぐらい、貴女しか見えていない。

 

小さく呟くと、自覚したくない思いが浮いてきて、色々なものが込み上げてくる。

 

『...ねぇ、愛している人に見てくれないのはどんな気持ち?』

 

聞こえてきたエバンズの声は空耳なことは分かっているというのに、ふわりと彼女が使っていたシャンプーの香りがしたような気がした。

 

......悲しくて...苦しくて.........

 

「.........辛い...」

 

とても辛い。体を鋭いナイフで切り刻まれるよりも痛くて、苦しくて、嫌になるほど、辛くて悲しくてしょうがない。

 

.........いっその事......このまま痛みで消えてしまえば楽なのに...

 

今だったら寝れそうな気がして、壁にもたれ掛かると意識がだんだんとぼんやりとしてきた。

 

「ヘルキャットさん」

 

そんな私の名前を呼ぶ声が聞こえてきて、下ろしかけていた瞼を上げるとルーナが私の腕を握っていた。

 

「...どうしたの?」

 

私のあげたネックレスをぶら下げている彼女の表情はいつも通りだったが、何かあったのかと思いながら声に出す。

 

「こんな所で寝たら風邪ひいちゃうよ」

 

「...ついうとうとしてしまって」

 

ルーナに微笑みかけながらできるだけ明るく答えると、彼女は私をじっと見つめながら話しかけてくる。

 

「...寝れてないの?」

 

「少しね」

 

誤魔化しながら答えると、ルーナ何を思ったのか私の隣に座って手を握ってきた。

 

「あたしもね、ちっちゃい頃怖い夢を見るのが怖くて眠れなかったんだ。」

 

戸惑っている私を見たからなのか、説明するように後を続ける彼女の瞳には顔色の悪い私の顔が映っていた。

 

「そんな時にママが手を握って、一緒に寝てくれたの。そしたら全然怖い夢なんて見なくなったんだよ」

 

「...そう」

 

他の生徒の話し声で掻き消される程の私の小さな声が聞こえたのが、ルーナは笑いかけてくると私にもたれてきた。

 

「おやすみ、ヘルキャットさん」

 

どうやら彼女はこのまま私と寝るつもりらしく、顔を覗き込むとぎゅっと手を握ったまま瞼を閉じている。

 

10分ぐらい経っただろうか。私にもたれているルーナが寝たのか、急に全体重がかかったかのように重く感じ、体温もだんだんと温かくなってきた。

一定のリズムで繰り返される呼吸と、彼女の心臓の鼓動がやけにはっきりと聞こえてくる。

 

......あぁ...眠れそう...

 

ペンダントを握りしめた時よりも、自分が安心している事に気づいてしまえば、自然と体の力は抜けていき、瞼も重くなっていく。

 

...いい夢が見れそう

 

薄れゆく意識の中、私はそんな事を思いながら、ルーナの手を握り返した。

 

 

 

 


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