藤丸立香ちゃんの無個性ヒロアカ   作:夢ノ語部

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閑話 前

 雄英は一日休校である。

 急に学校が休みになれば、イヤッホー休みだー! と普通なら喜ぶ所であるが、当然というかA組の彼、彼女らは葛藤だの落ち込んだり鬱憤をためたりとめちゃくちゃネガネガしていた。

 例外といえば立香ちゃんだが、彼女は彼女で焦っていた。

 

『マジカル☆ルビーちゃん復活!』

「は?」

 

 急に聞こえてきた念話に、立香ちゃんは朝ごはんの玉子焼きをぽろりと落とした。

 

『あれ? パス繋がってますね、あーあー、テステス、本日は晴天なり、グランドマスター聞こえてますー?』

「は? はぇ?」

 

 絶望である。脳無に対しては感じなかった、それこそ聖杯探索(グランドオーダー)の七章とかそこらへんに匹敵するほどの絶望を立香ちゃんは、今まさに感じていた。

 あの封印を解いたというのか馬鹿な! と(おのの)いて、額を抑えて蹌踉(よろ)めくぐらいだ。立香ちゃんに封印の良し悪しなんて分かりはしないが。

 

『いやぁそれがですね、グランドマスターがボコボコにされたというのがカルデアに伝わって、カルデアから封印を弱めたんですって』

「えぇ……」

『封印を弱める際に、こっちに念話が飛んできて伝言も預かってるんですよ』

「え?」

『おっぱいタイツ師匠からですね、こほんこほん、あーあー。「心臓が止まったぐらいで動けなくなるとは情けない、これは鍛えなおさねばな。首を洗って待っておけ、首を落とした時に雑菌が入っては蘇生が面倒だ」とのことです』

 

 ……首を落とされても動けるようになれと? 酒呑童子じゃないんだから。

 そんな軽口も叩けないぐらいに、歯の音がカチカチとなる。脳無相手には覚えなかった恐怖である。

 つい手を伸ばして自分の首がついているか確認する。今までの修行では流石に首を飛ばされた経験はなかった……はずだ。なかったかなぁ……? あったかもしれない。うっ頭が。

 開けてはいけない記憶の箱を厳重に封印しなおす。苦しいと思ったら首を確認した手で自分の喉を締め付けていたので、指を緩める。

 

――今死んだほうが楽に逝ける――

 

 そんな考えを頭を振って追い出した。死んでも蘇生されるか死霊とかにされて、修行(ごうもん)からは逃れられないと気付いた為だ。

 

『グランドマスターの精神状態に、正直ルビーちゃんドン引きなんですけど。』

 

 はて、なんのことかな。

 とりあえず脳無との一戦をカルデアに伝えた奴を見つけて……というか十中八九花の魔術師の仕業なので、マーリンを粛清せねばならないと立香ちゃんは心に決めた。

 

『ま、まぁいいんですけど。じゃあ確かに伝言は伝えましたからね! ではではー』

「おー……はっ!? ちょ待っ!」

 

 プツンという音とともに念話が切れ、ツーツーツーというサウンドが流れる。

 

「念話にそんなSEないでしょ! じゃなくてルビー! ルビー!」

『ただいま念話に出ることが出来ません、ピーという放送禁止用語の後に伝言をどうぞ。ピー』

「ツッコミ所が多い! ああもう! お父さんお母さん、ちょっと出かけてくる!」

 

 野放しにされた愉快型魔術礼装はこの上ない危険物だ。被害者が出る前に止めなければ。

 立香ちゃんはあわてて玄関に向かい……リビングに戻ってきてご飯を全部平らげて「ご馳走さま!」と言ってから家を飛び出していった。

 

「……あの娘、遅い中二病なのかしら」

「今日の玉子焼きうまいな」

 

 残された藤丸父、母は呑気であった。

 

◇◇◇

 

 切島は町中をジョギングしていた。

 はじめこそランニングのつもりで走っていたのだが、つい力が入りスピードが上がりすぎた結果バテてしまい、今はジョギングで体力を戻しているのだった。

 

「ちくしょー……ゼェ……情けねぇ、っ、はぁ……ゼェ……くそ……」

 

 切島の脳裏によぎるのは体力テストの時の藤丸の姿だ。

 藤丸はバイクと並走しながらゴールして息一つ乱さなかった。あのぐらいの体力が俺にあれば、もしかするとあの(ヴィラン)相手に……。

 いや、体力以外にも技術、スピードとか色々。自信のあった根性ですら、どれをとっても藤丸にかなわない。

 ボロボロになりながらも諦めなかったあの姿が、俺の目指すヒーロー像だったんじゃないか。

 

 俺は、どこか甘えていたんじゃないか?

 あそこまでボロボロになった時に俺は立ち上がれるのか?

 

 脳無という(ヴィラン)の事を思い出せば今も震えるほどに怖い。

 恐怖と疲労で崩れそうになる体に鞭を打って足を動かす。

 

 止まってしまえば動けなくなるような、そんな気がしたからだ。

 

「……ゼェ……っ、ゼェ……ゼェ……」

『がんばれ♡ がんばれ♡』

 

 朦朧とした意識の中、声が聞こえた。

 頑張れなんて言われるまでもなく、自分では頑張っているつもりだった。雄英に入る為に、入った後も俺は頑張ってきた。はずだ。

 今もこれだけ苦しい思いをして走ってるじゃないか、これでも頑張りが足りないのか。一体これ以上、何を頑張ればいい……?

 疑問、迷い、苛立ちのままに切島は声の方向に顔を向けた。

 

「う、ん……?」

『いやん、そんな熱い目で見つめないでくださいよ、きゃっ』

 

 魔法少女のステッキっぽいのが浮いていた。

 

 走っている切島に並走? 並飛行? しながら、サイドの羽根っぽい部分を折り曲げて顔を? 星を? 隠すようにして、いやんいやんとばかりにクネクネしていた。

 切島は理解が追いつかないなりに、ステッキだけが浮いてる事から、クラスメートの透明人間のいたずらだろうかと考え聞いてみた。

 

「……葉隠?」

『誰ですそれ』

 

 声も違うもんなぁと思いながらも、切島は、このステッキとこの声、どこかで見たような聞いたようなと首を傾げる。

 実際ヒーロー基礎学の時にチラリと見ているが思い出せないでいた。

 

『わたしは愛と正義のマジカルステッキ、マジカル☆ルビーちゃんです! 透明人間に持ってもらわないと浮遊できないただのステッキとは違うのですよ! ただのステッキとは!』

「えぇ……」

『あ、コラ、透明人間ならいるであろう場所を触ろうとするんじゃありません。もし女の子がいたら胸を触って、「きゃ」「あ、ご、ごめん」「ううん驚いただけ」みたいなラブコメしようって魂胆でしょう! わたしの目が黒いうちはそんな事させませんよ!』

 

 誰も考えてないし、お前の目ってどこだよ、黒い場所すらないだろ。

 そうツッコミかけたところ、ステッキがキュピーンというSEとともに、いきなり顔(?)を背けた。

 

『むっ、プレッシャー……もう近くまできてますね、パスからは追えないようにしたのに、どうして真っ直ぐ向かってこれるのでしょうか。グランドマスターってこういう所ありますよね、全く』

 

 ステッキが焦りを見せる。何も知らない切島からすれば「はぁ」としか言いようがない。

 ステッキは『さて』と声をあげ、置いてけぼりの切島に再度顔を向けた。

 

切島鋭児郎(・・・・・)さん』

「は?」

 

 ステッキは目を合わせ、名前を呼んできた。いや、目なんてないのでそんな雰囲気という事だが。

 ステッキは真面目な雰囲気のまま、切島の様子を気にかけることなく、言葉を紡ぐ。

 

『あの人は弱い人です』

「――――」

『どこまでいっても普通の人、英雄(ヒーロー)とは真逆の人です。そう在りたいと望むことはあるでしょうが、そうは成り得ない。背負って歩くのに根本的に向いてないんですよ、ええ、ええ、あんな中立・中庸な顔してますけど、多分混沌・悪ですよ、混沌・悪』

 

 なんの話だ? そう聞こうと思っても、その真剣な口調に口を挟めない。

 

『それでも無理して背負おうとするから心配になっちゃうんですよねぇ……。とにかく、私達は近くにいれないので代わりにあの人の事お願いしますよ、という話です! 切島鋭児郎(英雄の卵)さん!』

「お、おい! ちょっと!」

 

 言い逃げるようにステッキが空に飛んでいく。透明人間なら人が持っている訳で空を飛べるはずがない。

 葉隠説が頭から離れていなかった切島は何がなんだか分からなかった。

 

「異形型……かな?」

 

 多分違う。ふと、いつの間にか止めていた足に気付く。

 ……足を止めているけど、さっきまでのような焦燥感は襲ってこなかった。

 

「きぃりしまくぅぅん!」

「お? よう藤ま、るぉ! あぶねぇ!」

 

 ブレーキをかけようとしていたが、止まりきれず突進してきた藤丸に、走馬灯を見た切島は横っ飛びで避けた。

 キィィィというブレーキ音に、アスファルトが焼ける臭いがして、藤丸は止まった。

 

「切島くん! 大丈夫!?」

「お、おお、間一髪避けれたけど、気をつけろよそのうち事故るぞ」

「〜〜〜〜っ、じゃなくて! さっき飛んでったアレ! ニチアサっぽいステッキ」

「ニチアサ」

 

 関係ない話だが、プリズマ☆イリヤは深夜アニメである。

 

「何かされなかった? 危険物だから、関わらないようにしてね……あぁ、ルビーのことだしやっぱりA組狙いなのかなぁ、まずいまずいまずい……」

「ええ……何、俺ら狙われてんの?」

 

 あの藤丸が焦るような相手だったのかさっきの。と切島は冷や汗をかいた。

 

「ごめん、何も無かったら良いんだ。じゃ、私急ぐから!」

「あ、じゃあこっちでもクラスメートに注意喚起しとこうか? 藤丸からメールも電話も来てないし、やってないんだろ?」

「あ」

 

 ◇◇◇

 

 まずA組の皆に連絡しようという話になった。

 もし見つけても、ステッキに関わらず場所を教えてほしいという話をしていく。電話の中でプロヒーローに頼ったほうが良いという話も出たが、立香ちゃんからすれば身内の恥なので断固拒否した。

 

 あいうえお順に電話して、最後である八百万百と電話がつながった直後にそれは起きた。

 

『きゃっ!』

「ヤオモモ!?」

 

 短い悲鳴がしたと思えば、携帯からはもう電子音しか帰ってこない。

 

「おいおい、やべぇぞこりゃ」

「くっ、居場所だけでも聞けてたら……! 走って探すしか……」

「! いや、待て、峰田からメールだ」

「峰田くんから? これ、位置情報だけ……?」

 

 本文もなく、位置情報だけのメール。

 それは近くの公園の場所を示していた。

 

「……行ってみよう、無意味にこんなメール送らないよ、きっと何かあったんだ」

「ヤオモモ、峰田……!」




一体ヤオモモと峰田に何があったんだー(
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