さて、前提としてカレイドステッキを使うには魔術回路が必要だ。
魔術礼装であるからして本来当然のことであるのだが、自立行動してたり性格がアレだったりで忘れがちな話だ。
まぁ立香ちゃんはグランドマスターであるからにして、今回ルビーが暴走してもA組の皆に魔術回路がない以上、最悪の場合でも立香ちゃんの恥ずかしい話、あるいは写真や動画をばら撒かれたりするぐらいの被害ですむだろうと考えていた。
いや、立香ちゃんのカルデアでの経験を思えば、これも立香ちゃんが絶望するに足る被害なのだが。
実際その予想は当たっており、ルビーはA組女子に立香ちゃんの恥ずかしい話etcを吹き込むだけのつもりだった。
これは立香ちゃんが死にそうになったことへの罰であったり、暴れて人外認定されかけている立香ちゃんへのフォローであったりもするのだが。
それらの思いや推測は、fate界隈では概ねイレギュラーによって、思ってもみない最悪の方向に進むのである。
◇◇◇
「なん……だよ、これ」
切島と藤丸はその惨状を目にし茫然とした。
公園の木々、遊具はなぎ倒され、砂場では炎が立ち上がり、鉄骨が杭のようにそこら中に無造作に突き立っている。
どこかUSJを思わせる光景に、切島は吐き気を覚え……そして、公園の中で、血に塗れ倒れているクラスメートを見つけて我を忘れた。
「峰田ァ!」
駆け寄り、抱き起こす。
息はある。生きてる。
しかし、それも荒く、出血量から一刻を争うように見えた。
「おい、峰田! しっかりしろ! 警察、いや、ヒーロー、それより救急車か、ああくそ! なんで圏外なんだよ! こんな町中の公園で!」
「きり……し、ま……」
「峰田! 良かった、意識が」
「
しかし、そんな有様でも、峰田の目には力が宿っていた。
その目は切島を見ていない、切島の向こうの何か見ていた。
そして切島を払いのけ、血塗れになりながらも、震えながらも、自力で立ち上がった。
(峰田、お前……)
USJの帰りのバスでは、震えて前に出られなかったと後悔していた峰田。しかし、それからたった一日で、このクラスメートはヒーローとしての殻を一つ破ったのだと切島は理解した。
切島自身、後悔して迷っているうちに、クラスメートが前に進んでいたことが悔しくも嬉しくあった。
そして、その峰田と藤丸が空を見上げていることに気付き、切島も空を見た。
『おや、さっきぶりですね切島さん』
「ヤオモモ……?」
空には、さっき見たばかりのステッキと、そのステッキと雰囲気を合わせたかのような、紫色の魔法少女然とした八百万百がいた。
『来るのはグランドマ……あーえーっと、立香さん? だけだと思っていたんですけどね、ええ。人払いの結界を張ってるんですけど、『硬化』の個性を持っていると人扱いにならないんでしょうか』
「てめぇ! 俺のクラスメートに何しやがった!」
八百万はこうして空が飛べるような個性ではない。公園の鉄の杭や、砂場の炎――おそらくナパーム――などは八百万の個性なのだろうが、こんな事をするような彼女ではない。
何より、クラスメートに手を出す訳がない。
脳が沸き立つような怒りとともに睨みつけると、ステッキはニヤリと笑った気がした。
『……フフ、まぁ良いでしょう。やれますね
「は、
え? と声を上げる間もなく、八百万は力いっぱい腕を振り上げた。まさかと思うこともできず、ただ見ている事しかできなかった。
「胸に輝くは正義の光、愛と希望のミライを創る。魔法少女クリエティ☆モモ! おいたをする子はお仕置きしちゃうぞ!」
キュピピーン シュワーン
SEに合わせて、創造で作られた造花が背景を彩る。
「は?」
切島は混乱している。
「ひゅーお仕置きしてくれ〜!」
峰田は手を振り上げて息を荒くしている。血塗れなのもよく見れば鼻血なのが分かる。
「ああ変身シーン見逃したぁ! 貴重な初回変身シーンがっ!」
立香ちゃんは絶望して地面に膝をついている。目にハイライトがない、ガチである。
「は、恥ずかしい……」
八百万は顔を覆って、マトリョーシカをどんどん産んでいた。
『うひょーいいですねいいですねー、口上も恥ずかしがってるその表情もグッドですよー、あ、こっち視線くださーい』
ルビーはテンションをあげて写真をとっていた。
「なんだこれ」
切島のつぶやきは虚しく公園の中に消えていった。
◇◇◇
「で、弁明は?」
『いやー個性ってヤバイですね。創造でしたっけ? 魔術回路がないのに魔力が作れちゃうなんて、世の魔術師が知ったら封印指定もんですよ。こんなに面白そうならついつい契約の一つや二つ、ね? だからあの、立香さん、モモさん? どちらか手を離して頂ければ、ちょ、もげる、おお、大岡裁きぃぃぃ!!』
「ヤオモモは手を離すべきそうすべき」
「ルビーさんを渡せば酷いことするつもりなんでしょう!?」
「あのステッキと場所変わりてぇ……」
「やめとけ、死ぬぞ」
立香ちゃんの全力に、『強化』の魔術で対抗する八百万。生身の人間ではまずもげるだろう。
「こらルビー、抵抗しない! イリヤにチクるよ!」
「ふぬぬ」
『イリヤさんに言うのだけは止めてください! わたしだってまさかこんな事になると予想してなかったんですよ、不可抗力です! 折角だから楽しもうとしたのは事実ですが、あいたたたたた! ねじらないでねじらないで! 変身シーンの動画送りますから!』
「ええ!? あっ」
八百万はルビーに撮られてるなんて想像もしておらず、恥ずかしさで力が抜け、ルビーが手からすっぽ抜けた。
じゃらり
驚きから、立香ちゃんも思わずルビーを手放し、引き寄せられたルビーは八百万の手に戻った。
「……ヤオモモ?」
「ごめんなさい藤丸さん。でも、ルビーさんは渡せません」
ルビーから伸びた鎖は、八百万の右腕に繋がっていた。
『言ったでしょう不可抗力なんですって』
「私には力が必要なんです。ルビーさんがいれば私は、私は……! ち、チカラ、チカラが……あ、あ、あ」
考えてみればおかしい話だ。
この公園の惨状は一体誰がやったのか。八百万か、ルビーか。どちらにせよ暴れる理由はない。
正気であるならば。
「ルビー、説明」
『
「それって大分まずいのでは?」
「■■■■■■!!」
◇◇◇
「峰田くん意外と頑張るなぁ」
「お、おい藤丸、アレ止めなくて良いのかよ。そもそも何が起きてるのかサッパリなんだが」
「なに見物決め込んどんじゃあ! 助けやがれください!」
「■■■■■!」
「いやぁぁ!」
新たな鉄杭が放たれるが、峰田はモギモギを進行方向に投げ、ぶつかる事で急転換し回避する。
「ほら、切島くん今の見た? あれヤオモモから目を離さないままモギモギを投げたよね。一挙一動に集中してるから、回避に余裕があるんだよ」
「お、おう、すげーな確かに」
「くそぉ! そのスカートどうなってんだよ! 命狙われてんだからそのぐらいのご褒美あってもいいだろぉ! でも鉄杭を撃ったあと一瞬素肌が見えるのはとても良いと思います!」
「■■■■■■■■■■!!!!」
この暴走は峰田のスマホ(変身シーン録画)を破壊するまで続いた。
公園は正気になったヤオモモとルビーがなんとか元に戻したよ。やったね!
クリエティ☆モモの一発ネタがやりたかっただけ。
エミヤ並の解析能力が身につけば、エミヤの完全上位互換ワンチャンいける!?