藤丸立香ちゃんの無個性ヒロアカ   作:夢ノ語部

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第6話

 どうすんだよこれ。

 

 ヒーローもヒーローの卵も(ヴィラン)の幹部、雑魚共に気持ちが一つになった瞬間である。

 この世が平和になる日は近い。

 

◇◇◇

 

 イレイザーヘッドが立香ちゃんを引き止めた後、無事(?)黒モヤから押し出された名も知らぬ(ヴィラン)はどさりと地面に倒れた。

 そこで明らかにやりすぎた事に遅まきながら立香ちゃんも気付いたのだった。

 

「やっべ」

「っ! ああ、まずいな」

 

 イレイザーヘッドは周囲に(ヴィラン)が続々と出てきて囲まれそうな事について言っているが、立香ちゃんは名も知らぬ敵くんの命の灯火が消えそうな事について言っている。

 あの痙攣具合はすぐに心筋痙攣に繋がる。立香ちゃんは経験豊富だから詳しいのだ。

 

 そしてヒーローというのは殺害禁止なのである。いや、そうでなくとも聖杯探索でローマ兵に対して峰打ちを指示していた立香ちゃんは、こうして自らの手で命を奪うことに忌避感を覚えるのだ。

 そしてもう一つ、もっとも大切な事がある。

 

――――命は救わねばならない。たとえ命を奪ってでも。

 

「貴様、死柄木をっ!」

「こいつっ! ワープはこいつの個性か!」

 

 黒モヤの(ヴィラン)がイレイザーヘッドにモヤを飛ばして仕掛けた。

 その黒モヤはイレイザーヘッドの『個性』でかき消したが、黒モヤに呼応するように周りの(ヴィラン)達も突出したイレイザーヘッドと立香ちゃんに向かってきた。正直、トップがいきなり虫の息で大多数の(ヴィラン)は結構ビビっていたが、忠誠心がある訳でもないし、数がいる今ならと襲いかかってきたのだった。

 イレイザーヘッドはその動きに対応する為に、立香ちゃんを捕まえていた捕縛布を外しゴーグルをかけて臨戦態勢に入った。

 

「仕方ないか……。藤丸、包囲網を突破する。あわせるから前に出ろ」

 

 現状はイレイザーヘッドにとって最悪と言っていい。

 イレイザーヘッドの個性『抹消』は、視た相手の個性を一時的に消すというもの。もちろん視なければ使えない為、背後の敵に対しては対応が遅れる。生徒を守りながらではその遅れが致命的になり得るのだ。

 幸いその守るべき対象である藤丸は、その類稀なる身体能力に高い武術の腕がある。

 守るべき対象でなく、逆に共闘相手として見れば悪くない。近接戦闘を藤丸に任せて、中距離での撹乱、捕縛をイレイザーヘッドが担えば、この程度の包囲網なら突破できる可能性は高い。

 ……藤丸を戦わせれば、必ず始末書が待っているのが問題か。

 

 いや、それよりも藤丸が前に出ていかないのが問題か。

 

「あ?」

 

 捕縛布が緩み、動けるようになった立香ちゃんは相澤先生と共闘……することなく、名も知らぬ、もとい、死柄木とか呼ばれた(ヴィラン)のところへ迷いなく向かっていた。

 その動きに(ヴィラン)達は反応出来なかった。プロヒーローが突破するとか言ってるのに逆走して、なおかつすでに戦闘不能になっている相手に攻撃を仕掛けるとか想像の拉致外だったからだ。

 

「緊急治療!」

「かっはぁぁ!」

 

 どう見ても治療行為ではない。

 

 ◇◇◇

 

 そして冒頭に戻る。

 

 皆ドン引きである。どっちが(ヴィラン)なのか本格的に迷子になりつつある。

 立香ちゃん的には今のは治療行為で死柄木なる(ヴィラン)の特攻隊長が心筋痙攣にならないようにしたのだが、誰一人に対しても伝わっていない。

 

 中でも一番慄いているのは、さっきまで襲いかかろうとしていた雑魚敵達だった。今は完全に腰が退けている。

 

「お、おいお前行けよ」

「馬鹿押すなよ! あんなイカれた女の相手するぐらいならイレイザーヘッドのがマシだわ」

()りきったって笑顔してやがる。あれがヒーロー目指してるとか間違ってるだろ」

「世も末だな」

 

 イレイザーヘッドは、一人を徹底的に痛めつけるのは相手の戦意を折るのに合理的なのだなぁと考えていた。ヒーロー的にやらないが。多分。

 黒霧は動けない。女生徒が何をするか分からない現状、女生徒と死柄木の距離が近すぎる為下手に動けずにいた。イレイザーヘッドに警戒されているのも痛い、状況を動かすにはあまりに不利だ。

 13号とA組生徒達は物理的に距離が遠い。あまりな状況に絶句するばかりだ。

 

 そんな中、立香ちゃんに殴られた死柄木がかすかに身じろぎするように動いた。

 

 よかった生きてた。

 

 そんな風に感じたのが間違い(・・・)だったのだろうか。

 

「のう……むぅ………ころ……せ……ぐっ!」

 

 立香ちゃんが死柄木を踏みつけて黙らせるのと、(ヴィラン)の一人の頭が握りつぶされるのは同時だった。

 

「あ?」

 

 ドシャリと首無しの(ヴィラン)が倒れ、近くにいた(ヴィラン)がその異常に気付いたが、それはあまりに遅かった。

 衝撃、轟音、風。

 天井に張り付いた人体は個性によるものか岩のような体表をしているが、それが剥がれ胸部が陥没していた。

 

 殴りぬいた格好で止まっているその(ヴィラン)は個性社会の中でも異様な見た目だった。脳が剥き出しになり、黒く染まったような肌は発達した筋肉で波打っている。

 その怪力でもって、(ヴィラン)を殴りぬいた。

 そう理解するのに時間はかからなかった。

 

「に」

 

 圧倒的暴力が動く。

 

「逃げろぉぉ!」

 

 一斉に逃げ始める(ヴィラン)達。そこに脳無の腕が振り上げられる。が、そこでイレイザーヘッドの捕縛布が脳無の腕を捕まえた。

 

「やらせん!」

 

 捕縛布は切断する事こそ出来るが、他の物理手段では破壊は難しい。見たところあの脳無は刃物は持っていない。その異様な怪力も『抹消』すれば捕らえられるとイレイザーヘッドは判断していた。

 だから『抹消』しても変わらなかった怪力に反応が遅れた。

 

「うぉ、おおお!?」

 

 捕縛布を掴んで引っ張った。脳無のやったことはそれだけだが、それは捕縛布の先にいたイレイザーヘッドを引っ張り飛ばした(・・・・・・・・)

 イレイザーヘッドはナイフで捕縛布を切断した。しかし、体はすでに空中に浮いていて進行方向のコントロールはきかない。

 そしてその先には脳無がいる。その右腕は大きく振りかぶられていた。

 

(くそっ、冗談じゃない!)

 

 残った捕縛布を前面に集め、両腕をクロスしてガードする。これにどれだけの意味があるかは分からないが生存確率はあがるはずだ。

 

(13号、すまない、生徒達を頼む)

 

 たとえ生き延びても動く事は出来なくなるだろう。

 拳が、届いた。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

 藤丸立香の拳が、脳無の拳を横から叩き落とした。

 これは『ショック吸収』を『抹消』していたから出来た事ではあるが、オールマイト並のスピードの拳にあわせて殴るだけで神業といえた。

 

 イレイザーヘッドは一回転して勢いを殺すことで怪我なく着地した。

 

「藤丸、逃げろ」

「嫌です」

 

 脳無は地面に大穴をあけて腕が肘まで埋まっていたが、すぐに引き抜いていた。あれが当たればやはり生存は難しかっただろうか。

 

「はぁ……お前には色々怒りたい所だが、逃してくれそうな相手じゃないな。あれを捌けるか?」

「ええ、時間稼ぎは得意です。あ、でも」

 

 時間を稼げば、避難も進み動きやすくなる。応援もそのうち来るだろう。最悪でも授業時間を超えれば不審に思った誰かが来るはずだ。

 

「別に倒してしまっても良いんでしょう」

 

 イレイザーヘッドは今日一番不安になった。

 

 ◇◇◇

 

 藤丸立香は英霊達から聞いた言葉を口にして自分を鼓舞していた。

 明らかに相手は格上だ。

 こうして相手取るのは避けろとカルデアの訓練では言われていた。

 令呪で誰かを呼ぶのが、カルデアでのこうした場合の対処方法だった。

 

 しかし、令呪はもうない。

 頼れる後輩も側にいない。

 

 先生がどれだけ出来るかも分かったが、この(ヴィラン)相手には相性が悪い。

 私が前で頑張る必要があるのだと、藤丸立香は分かっていた。

 

 藤丸立香は英雄ではない。その足はかすかに震えていた。




色々悩んだけどゴーサイン。
死人はヒロアカ的にNGかと思ったのですが、fate的には良いのかなと。
早く体育祭いこう(ぁ

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