藤丸立香ちゃんの無個性ヒロアカ   作:夢ノ語部

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お久しぶりです
ぐだ子がヒロアカ世界に転生した話
https://syosetu.org/novel/184379/
が面白かったので、モチベーション復活して投稿です。


結果

「藤丸!」

 

 脳無が暴れようとするが、鉄骨は脳無の四肢を貫通し、完全に地面に縫い付けていた。危険な戦いに決着がついた事は間違いなかった。

 しかし、それを喜ぶ事は誰にも出来なかった。

 

「へへ、うぷっ、が、はぁ……ろろろ……」

 

 鉄骨の上に立っていた藤丸立香が、嘔吐のように赤い血反吐を撒き散らす。

 ビチャビチャと脳無の体を赤く染めていく。人間の体にこれほどの体液があるのかと目を疑うほどに、それは明確に致死量だった。

 

 藤丸立香の体から力が抜ける。

 鉄骨の上からフラリと倒れ落ちる。

 

 そこは脳無の顔の上。鉄骨で縫い付けられながらも未だに衰えぬ悪意をもって、口を開く。

 ビチビチと顎の力で己の頬を裂きながら、落ちてくるソレを食い千切らんと牙を向く。

 

「アアあああ゛アア゛ァァァアアあ゛ぁ」

「いやあああああああ!」

 

 誰の悲鳴だか、しかしその悲嘆的な未来は訪れない。

 

 バキンと歯と歯が噛み合い砕けた音が響く。

 

「思わず飛び込んだが、これは一体どういう状況だ!」

「オールマイト! 藤丸をはやくリカバリーガールの元へ! 頼みます!」

 

「くっ!」

 

 一瞬の逡巡。

 明らかに重傷である藤丸少女を動かして大丈夫か、どのぐらいの速度なら大丈夫だろうかという思いからだが、選んだ選択肢は藤丸少女への負担を無視した全速力――可能な限り揺れないようにはするが――だった。

 

 すでに手遅れなのだ。負担を気にする段階はとうに超え、一刻もはやくリカバリーガールに見せる必要がある。いや、それも気休めか、あるいは現実逃避か。

 藤丸少女の心臓はもう動いていないのだから。

 

(何が平和の象徴だっ!)

 

 平和の象徴は間に合わなかった。

 それはどうしようもない事実であった。

 

 ◇◇◇

 

 

「クソ、納得いかねぇ……!」

「かっちゃん、駄目だよそんなこと言っちゃ」

 

 身体中に包帯を巻かれた状態でベッドに倒れている爆豪が唸る。

 足と腕を折った為に、ベッドで安静にしている緑谷も、窘めはしたが内心同じ思いだった。

 

 オールマイトが藤丸立香を連れて行ったあと、他の教師陣と警察が来た。

 脳無や(ヴィラン)の残党を捕縛し、イレイザーヘッドと13号、そして生徒達から事情聴取を行い、怪我をしていた爆豪と緑谷は早々にリカバリーガールの元に送られた。

 

「完全復活!」

「なんでだよ! そこは死んでろやクソがっ!」

 

 立香ちゃんはピンピンしていた!

 

「体力お化けにも程があるねぇ……人生で一番驚いたよ。あの状態でここまで体力が残ってるなんて、一体どうなってんだい?」

 

 血液が流れ、骨があるのかと思えるほどにグニャグニャとぶら下がった腕、他も骨折箇所は数え切れず、内臓もいくつか破れていた。

 リカバリーガールが一目見てまず助からないと匙を投げた。これは死体であると。

 それでもあのオールマイトが泣いて頼むものだから、期待はするんじゃないよと言い含め個性を使ったのだ。

 そうしたらコレである。

 

「俺も完治させろや!」

「ベッドから立ち上がれるぐらいの体力があれば考えるよ」

「くっ……がるるる……」

「あははは……」

 

◇◇◇

 

 

 USJから帰りのバス内。

 行きより三人少ない為空席がある。

 緊張感と楽しみと、色々な意味で盛り上がっていた行きに比べ、誰一人として顔をあげず、暗い雰囲気が蔓延していた。

 

「私……思ったこと何でも言っちゃうの」

「……」

「まるで、葬式のようね」

「……」

 

 蛙水の言葉に誰も顔をあげない。

 

「先生はもちろん、爆豪ちゃんも、緑谷ちゃんも、立香ちゃんも、凄かったわ。だから被害も最小限ですんだと思うの」

「……私、立香ちゃんが死んじゃったと思ったわ。でも生きててくれた。それがとても嬉しいの」

「でも、嬉しいのと同時に、ね、今、とても悔しい。……悔しいわ」

 

 途切れ途切れの独白。それは少なからずこの場の全員が感じていた事だった。

 

「俺、何も出来なかった」

 

 切島が手を固く握りしめ、口を開く。

 

「俺、変わるんだって決めて、雄英に入って、今度は守るんだって、漢気ある漢になるってよ……でもさ、俺、何も変わってねぇ、変わってなかったんだ……! 畜生、畜生……!」

 

 涙が溢れてくる。バスの中ですすり泣きが聞こえる。徐々にそれは伝播していく。

 

「切島はちゃんと前に出て、あんな凄いパンチ2発耐えてたじゃん、私なんて……そんな事言うなよ馬鹿ぁぁ、わぁぁん!」

「芦戸! 酸! 酸!」

 

「オイラ、皆が向かっていった時も、足が竦んで動けなかったんだぜ。皆格好よくてよぉ、くそぅ……」

「前に出て足手まといになった俺よりマシだろ。雄英に入れて、俺出来るんだって天狗になってた」

 

「フン……」

「……」

 

「立香ちゃん大丈夫やろか……」

「藤丸さんならきっと大丈夫ですわ……ええ、きっと」

 

 

 史実では黒霧のワープで飛ばされた先で(ヴィラン)と遭遇し勝利を収めた1−Aの生徒達だが、本作に置いてはまともに敵対した(ヴィラン)は脳無一人であり、手も足も出なかった。

 その現実に誰も打ちひしがれていた。

 

 

 それ以上に、ショックを受けている生徒もいた。

 

「お、れ……は……」

 

 生徒が脳無に立ち向かった時、前に出なかった生徒の中には轟焦凍がいた。右手を見つめる瞳には、氷を粉砕する脳無の姿が焼き付いていた。

 

 

 バスは走る。




轟くんを精神的にイジメたかった脳無戦終了です。
このあと休校の時とか幕間書いて、体育祭までやります。

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