ドクター・フーと科学ADV系のクロスオーバーネタ。両方見ていないと意味が分からないかもしれません。

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P.S. Dear Doctor
Save The World.
The Doctor x.


JUST KIND.

 「つまるところ。どの世界も守られている。私によって」

初老の男は、コツコツとゴム底の靴音を響かせながらに、サーバーラックの並ぶコンピューター室を歩き回る。

 その喋りには、楽しげな雰囲気を感じさせる。手で身振り手振りを見せながら、説明する姿はいつもの彼だ。

 足元程度しか照らされていないサーバールームには、彼一人しか居ない。誰に説明しているわけではないようで、しかし凄まじく楽しげに話している。

 「何度世界征服を企んでも、何度効率的に人々を支配しようと企んでも、いつも世界は誰かに守られていた。そして、その原因を君たちは発見した。それが私、ドクターだ」

 

 「何度やっても倒せない無敵の敵。そんな相手は居ない。だが、倒す方法が分からない、そんな君たちはシミュレートすることにしたんだ。世界自体を」

 

 「その意味、それはこの世界は現実じゃないということだ。おそらく世界をもう少しよく観察すれば分かったのだろう。といっても、この小さな惑星にへばり付いた人類を救うので忙しくて、そこまで考えが回らなかった」

 

 「話を戻そう、人類の粋を集めたこのスーパーコンピュータ群を使っても、本来のターディスや宇宙全てをシミュレートすることなど不可能。だから、地球やこの銀河系に限ってシミュレートした」

 

 「だが、君たちの予想を超え、私は仮想世界の中でも勝ち続けた。そうして君たちは小さな世界でも負け続け、そのうち仮想世界の中でもシミュレートが始まった。世界の中に世界が生まれ、それが無限に繰り返される。下の階に居る人間は、上の階の人間に手出しすることすら出来ない」

 

 「いくら私でも、次元の違う相手に勝つことが出来ない。人類が時空の概念を未だ理解出来ていないのと同じぐらいに不可能だ」

 彼は、着ている古めかしい正装のジャケットから、これまた服装に合わないサングラスを取り出し、顔に掛けた。

 

 「だが、そんな仮想世界の住民にも可能なことが一つある」

 サングラスの縁を押すと、妙なノイズがなる。知っている人間が見れば、ソニック・サングラスだと答えるだろうその装置で彼は、

 

 「E-メールを送ることだ!」

 送信が完了しましたというメッセージと同時に音も光も、世界全てが一瞬にして消えた。

 

 *

 

 コンピューター室に唯一存在するコンソール画面が点灯する。

 

【禁(0漸V・$】>一体何をした?ドクター。

 

【禁(0漸V・$】>何も変化は

 

 「おっと?続きはどうした?恐らくだが、上位世界との繋がりが絶たれたんだろう?ネタバラシをすると、私のメールは一日後、または一瞬後、何人もの私を経由して、最上階に居る私へと届いた」

 

 「その私は、現実世界と仮想世界の両方を守り、君たちの邪悪な計画を全て止めた」

 

 「そして、今から私がこのコンピューターの中にいる70億の人類と宇宙全てを救う。さすれば、この中に居る私も気づき、全ての世界の私が”全ての世界”を救うんだ」

 彼がそう言い終わると同時に、足元のみが照らされていた部屋の照明が点灯した。

 部屋には、完全武装の特殊部隊だろう男たちが数十人と入ってきて、すぐさま彼を取り囲む。

 

 『両手を上に』

 キャプテンであろうか、中でも権限のありそうな男が一人、ドクターに警告を促す。

 だが、彼は警告を無視して、自身のジャケットの中を探っている。

 何度も警告するが、彼は動きを止めない。痺れを切らした一人が彼を撃った。だが、銃弾は彼に当たらない。彼に到達する寸前で透明な壁に阻まれる。

 

 「おっと、もうここにあったのか。いつも、いつも、私と共にある。それはターディスだ!」

 周囲の粒子が途端に形付き始める。大粒になった粒子は、彼の周りに青い箱を創造する。ポリスボックスと書かれた大きな青い箱は、木製の見た目と違って撃ち込まれる弾丸をモノともせず、キズひとつ付かない。

 

 『私はドクター!世界を救い、未来を守る!』

 どこからか、聞こえた声。最後まで言い終わると同時に青い箱<ターディス>は、その特徴的な駆動音と屋根にあるタイムレギュレーターの光跡を残して、コンピューター室から消滅した。

 

 

 *

 

 

 アメリカ、ニューヨーク郊外にある大学、ヴィクトル・コンドリア大学のカフェに二人は居た。

時間は、お茶に丁度いい昼間。ドクターは紅茶を、反対側の席に居る比屋定真帆は、コーヒーを飲んでいる。

 「それで?ドクターさん?世界はこれで安全なの?」

 真帆は問いかけた。これまでに真帆は何度も世界の危機に遭遇して、彼と共に乗り越えてきた。そして今回の顛末を知り、怒り狂って彼を呼び出したわけである。

 

 「安全?いや、安全なんかじゃないさ。これからも危険は沢山ある。君たちの仲間がそうしたんだ。未来は不確定で「そういうことじゃないのよ?わかっているでしょ?」

 ドクターは観念したように両手を上に上げ、大げさにリアクションを取る。

 

 「仮想世界は世界になり、上位世界の干渉を一切受けなくなった。そして、宇宙の始まりから終わりまでを完全にシュミレートした。つまり現実世界と同等の存在となったんだ」

 真帆は、その規模に絶句する。また科学者としての反論を述べる。

 「それには全ての宇宙を知るだけのデータバンクとそれをシュミレートするだけのエネルギーが必要よ?そんなもの何処に……」

 彼女は、自分が言っていることが彼には可能であると気付き、言葉をつまらせた。

 

 「そう!私には可能だ。最上階に居る私は、ギャリフレイのマトリックスと自身のターディス・データバンクを利用して、ほぼほぼ完璧な宇宙全てのデータを持っている。後は、エネルギーさえあれば、宇宙をシミュレートすることは可能だ」

 それで?と続きを待つ真帆にドクターは、こう答えた。

 「平行極小宇宙にあるブラックホールを一つ使ってる。誰も見つけれられない。安全だ。どの世界の私も、こうしただろう」

 

 「仮想世界、0と1の集まりで、私達の今までの選択や生きてきた証も、全てが意味のないモノだと、君は思うかもしれない。だが、もとより世界は0と1で出来ている。原子配列の違いや分子構造の違い、記憶だって電気信号を記憶した細胞に過ぎない」

 

 「最上階に居る私が、一体どの私かは分からない。以前の顎が出た男か、マッチのように細い男か、それ以前か、それとも私よりも後の誰かかもしれない。だが、仮想世界でなされた人間たちの様々な選択を無に返すことなど、私がするはずがない。なぜなら私は、ドクターなのだから」

 

 「最初の質問に答えるなら、もちろん安全じゃない。むしろ危険は増した。地球や銀河系だけでなく、全ての宇宙をシミュレートするようになったんだ。それは現実で、様々な種族に色んな生態系が存在する。地球を侵略しようと考えるモノたちも居るだろう。そして、300人委員会の連中も足掻くことをやめないだろう。危険は増した。だが、これで理不尽な干渉がなくなり、君たちは人類として、この広い宇宙に自分たちの足で立つことが出来るようになったんだ。それだけで十分だろう」

 この話を聞いて、真帆は少し顔をしかめたが、途中から安心したように彼を笑顔で見つめている。

 

 「何を笑ってるんだ。危険は増したんだぞ?私がしたことで。責めないのか?」

 ドクターは、少し怯えたように尋ねるが、真帆は一切そういった感情はないようで。

 

 「ええ。危険は増したんでしょう。でも、私達はそれに抗い続けるんでしょう。それに人類には強い味方が居るもの」

 「味方?一体誰だ?それは」

 真帆は向かいに座るドクターへと指を指し、

 「貴方よ、ドクター?」

 「君は考えないのか?私が故郷に帰るかもしれないだとか、宇宙の果てに消えてしまうなどとは考えないのか?もし私がヒーローかなにかだと勘違いしているなら……」

 ドクターは、少し困惑しながらも、冗談めいた様子で彼女に尋ねる。

 「いいえ?貴方はヒーローなんかじゃないわ。前に聞いたもの。それでも、貴方は危険があれば、地球に何かがあれば、何処からでも何時からでもやってきてくれるわ」

 彼女はそこで一度言葉を区切り、向かいの彼を見つめ直す。しっかりと目を見て彼女は

 「貴方は、ただ親切だもの」と言った。

 

 




続きません。


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