ダンまちに妄想作家が生きるのは間違っているのだろうか。 作:だんご
原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
タグ:オリ主 転生 性転換 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ダンまち 非冒険者
転生した。
神様と会話したこともなければ、事故にあったり、具体的に言えばトラックに跳ねられたこともない。
意識がぱっと切り替わり、気がついたら自分のいるところが異世界だと知っていたのだ。
命を新たに生まれ育ったこの世界には、神様がいる。魔物もいる。冒険者もいる。魔法だって存在する。
まるで自分が夢見ていたような、空想の世界が現実となって現れていた。
はしゃいだ。興奮した。未知への興奮と、希望に溢れていたのだ。
そして自分も冒険者になり、漫画やアニメや本で読んだような英雄になるのだと願った。
かつていた世界、あの息苦しくて、面倒くさくて、色あせていた現代の社会。あそこから解放された喜びと、妄想していた世界への期待感が全能感を生み出して自分を包み込んでいた。
まずは人の話を聞こう。この世界を知ることが必要だ。情報が必要だ。そして自分も、あの夢見た世界で生きたキャラクターのように羽ばたいていくのだと考えた。
今、考えると───それがこの世界を楽しんでいた絶頂期だったのかもしれない。
話を聞けば聞くほどに興奮が冷めていき、希望が薄れていった。
ああ、自分はもっと早く気がつくべきであった。夢見た世界は、夢であるからこそ楽しいものであるということに。
人の本質は変わらないのだ。空想で描かれるキャラクターは魅力的であった。しかし、それを取り巻く存在と世界の根底は、私達が生きていたあの世界と何も変わりがなかった。
私はあの世界と変わらず、モブのようにつまらない人間であったし、そんな人間が生きる世界も退屈でありきたりなものでしかなかった。
嘔吐を催した。そして吐いてしまった。
話を聞かせてくれる冒険者たちは、なんてつまらない人物であったのだろう。なんて俗物的な人物であったのだろう。
語られる言葉に未知なものはなく、私が既に知りうる世界でしかなかった。つまるところは酒と女に富と名誉。全てはそこに行き着く。しかしそこに面白さは何も感じられない。わくわくも感じない。それで冒険者とはなんの冗談だと憤りを隠して、笑顔で話を聞き終わった。
そこに輝きはなかった。勇者もおらず、魔王もおらず。神はいたとしても、崇敬も畏敬の念も感じない。山程の空想の世界に親しんできた自分を、そう感じさせてくれることはなかった。彼ら冒険者との会話はなんとムダで、退屈極まりない時間だったのだろうと呆れ果てた。
しかしそれが二度も、三度も。目的へたどり着けない事を知るまで、足掻いて足掻いた問答の終わりにの果てに、すっかり私はこの世界の現実を知ってしまった。
この世界が面白いかもしれないことは否定できない。
しかし、自分がそれを知る立場にある人間、そこに関われる立場にある人間ではないのだと思い至ったのだ。それは悲劇であった。悲嘆であった。絶望と言っても良かった。
おとぎ話に憧れたのに、いざそのおとぎ話の世界に生まれたら、作られたおとぎ話のほうがよっぽど面白かったのだ。
おとぎ話の世界は、自分を主観とした現実に貶められた時点で、退屈な現実世界と何も変わらないのだ。
ああ、話が長くなってしまったね。許してほしい。職業ゆえの無駄話だ。作家が奇人変人が多いというのは、耳にタコができるほど聞いた話だろう。私も例外なく、そうなってしまったらしいね。
つまるところ、私は妄想するのが好きであって、妄想の世界に生れてはいけないようなただの凡人だったのだ。
しかもあの妄想する喜びを、妄想する素材を知ってしまっているだけに、苦痛はさらに激しいものとなってしまった。
例えるなら、白内障にかかった老人の話はどうだろう。
彼はインドの奥深く、経済的な地域から離れた、未だ獣を狩るような世界で生きている。しかし文化は発達しているのだから、ラジオぐらいは手に入る。
そして老人は知るのだ、自分が患っている病気は白内障と呼ばれるものであり、治療できるものであると。
しかし薬は手に入らない。病院も近くにはなく、お金もない。
ラジオがなければ治るという喜びを見出さなかった老人は、治る病を抱えながら己の境遇を呪って生きることになってしまった。そんな話だ。
これは私が前の世界で生きていたときに聞いた話だ。私はこの老人ほど大変ではないかもしれないが、同じように『知っている』ために苦しんでしまうことになった。
『夢』がない。この世界には『夢』がない。
魅力的なキャラクターもいないし、魅力的な敵もいない。魅力的な愛もなく、魅力的な失恋もない。
洗練され、時代と共に築き上げられたファンタジーをこれでもかと堪能した自分が、いまさらありきたりな王子様とお姫様と魔王の話に感動しろというのか。それはひどい話じゃないか。
特に気になった点がある。正義よりも酷いのは悪の存在だ。カリスマがあり、魅力をもった悪が必要だ。悪にもストーリーが必要だ。
『ジョジョの奇妙な冒険』のラスボス達のように。『キン肉マン』の悪魔将軍のように。『ダンガンロンパ』の江ノ島盾子のように。『めだかボックス』の球磨川禊のように。『fate』の言峰綺礼や殺生院キアラのように。『鋼の錬金術師』のキング・ブラッドレイのように。白面の者、ハオ、ラインハルト、ああもう語り尽くせない。
この世界の悪には深みがない、恐怖がない、面白みがない。背景もなく、思わず悪に傾いてしまうようなストーリー性もない。童話のようなチープさとテンプレ具合だ。設定だってもっとドキドキする深みがほしいのだ。もっと妄想したり、邪推したいのだ。そして思ったよりも中身が薄くてガッカリだってしてみたいのだ。
だから私は思い至る。
ああそうだ、私がその種を蒔いてやろうと思ったのだ。
私は物語を一から作り上げる才能はない。一から深いキャラクターを想像できたりはしない。
他人から世界観を、キャラクターを借りて妄想するしかできない女だ。正しくいうと、元男だ。
だが私は覚えているぞ。あの感動を、あの場面を、あの言葉を、作品をしっかりと今ここで覚えている。
故に、その作品達をこの世界に打ち出す。そしてこの世界で物語が洗練されれば、きっと生れた新たな物語は、私を妄想の波にさらってくれるのだろう。
それはなんと素晴らしく、面白いことだろうか。つまらなき世を面白く変えていくのだ。こんなにやりがいを感じられるものはない。
私の昔の名前はもう忘れた。今生きる私の名前は、サレナ・エーデルファルト。エルフの女だ。
そしてこの世界に、かつて私がみた夢をもたらそうとみっともなく足掻く者だよ。
「……うん、こんなところでどうだろう」
ペンを横に置いて、背伸びをしてほっと一息。それなりの大きさの胸が揺れた。
「岸辺露伴がリアルを求めて取材していた気持ちが、なんとなくわかってきたかもしれないな。頭でなく心で理解するような、感覚的な実感が必要なんだ」
パンを頬張り、酒を口に含む。
眼の前に重なった原稿は、ある吸血鬼のカリスマを描いたもの。スタンド使いはいないが、とある特別な魔法を手に入れた戦士の戦いということで物語を描いていく。
ついこの間、花京院役であった勇敢な獣人の戦士が死んだ場面を描いた。
死を賭して手がかりを残した彼に対する読者からの反響は凄まじく、その勇気と志をファンレターの中で讃えていた。わかるぞ、私も彼は好きだった。
ああ、インターネットがないこの世界で作品を読んだ感動を分かち合えるのは、このファンレターを読んでいるときぐらいなものだ。作品を語るファングループはあるが、この世界では作者扱いだから入って行きづらいんだよ。畜生、私も語り合いたいしディスり合いたいぞ。
「……サレナ、もしかしてまた誰か死ぬんですか」
小休止している私の横を通りがかった店員が、目を不安に染めてそんな事を聞いてきた。
私はニッコリと微笑むと、よくぞ聞いてくれたと口をすぐに開く。
「ネタバレをしても?」
「……いえ、やっぱりいいで───」
「グランが殺されるね。止められた時の中で、吸血鬼に首をナイフで一突きだ」
「───ッ!?」
思わず皿を落としてしまった友人。何事かとこちらを見る周囲に、駆けつけてくる仕事の仲間の店員さん。
すまない、だがネタバレをする愉悦には勝てなかった。実は私もそれについて話したかったのだ。あの展開は私も絶望を感じたからね。この驚きと悲しみを思い出し、共有する仲間が欲しくなったのだ。身勝手ですまない。
しかし、彼女には悪いことをした。
彼女が好きなキャラが、花京院役とジョセフ役であることは解っていたというのに。もっと活躍させてほしい、もっとあの二人の冒険をみたいとねだられたときは、ものすごい罪悪感を感じたものだ。
まどか☆マギカを見ていて、友人が「マミさんが好きだ、活躍もっとしてほしい」と言い出したときのことを彼女を見ていて思い出す。私は既に最終話まで見ていたから、何も言えなかった。ちなみにアニメが進むと、友人は能面みたいになった。マミが「みんな死ぬしか無いじゃない」のところでは、死人に追い打ちになっていた。虚淵さん流石です。
涙目になる店員、シル・フローヴァはわなわなと震えだした。彼女、ストレイツォ役も好きだったからな。
もしかしたら、彼女は私を性格が悪い女で、わざとやっていると思っているに違いない。しかし、それは前世の大先生に言ってほしい。できればの話であるが。
「あー、まーたいじめているのかにゃ。いい加減にするにゃ」
「ぐ、グランが。そ、そんな……。前の部では主人公だったのですよ、それが、え、なんで……え?」
「シルも早く帰ってくるにゃ。おーいっ!」
現実を受け入れられず、固まっている店員に苦笑していると冷ややかな視線を感じた。
視線の方向に顔を向けると、みんなの肝っ玉母さんである店主の姿があった。ああ、これはやばいなと冷や汗が額から伝い落ちる。
「……あー、私は無実だよ?」
「はいはい、無実無実ね。大先生に口で勝てるほど達者じゃないが、あんまりうちの娘を泣かせると容赦しないよ」
「無実である。……しかし、反省することも必要だよね。あと大先生は止めてくれ、私は他人のわらじを履いている凡人に過ぎないのだ」
「あ、負けたにゃ。ごまかしてるにゃ」
うるさいぞ猫娘。
「そんなんだから性格がやばいとか噂されるんだにゃ。この前の新作は絶望したにゃ。『サラマンダーよりはやーい』とか、いろいろ酷すぎるにゃ。あの女マジで最悪にゃ。あんなの書けるなんて、いろんな意味ですごいにゃ」
うーむ、私はこんなにも理性的である。そして物語を過剰に悲劇的に、グロテスクに書くのが好きというわけではない。
しかし「あんなひどい展開をかけるなんて」と、作者の人間性を色眼鏡で見るのはこの世界でも変わらないらしい。別に妄想で書いているだけであって、現実に起こってもピンピンして動じないようなサイコパスじゃないんだぞ。
「ああ、これじゃ将来は『無辜の怪物』のスキルを手に入れそうだな。星を大量に生み出せるようになるに違いない……。いや、クリティカルだったか?どうにも記憶があやふやだ」
アンデルセン先生みたいになるのだろうか。皮膚が酷いことになってしまうのは避けたい。む、皮膚か。包帯キャラもそろそろ書きたいな。志々雄真と緋村剣心の戦いを描こう。うむ、そうしよう。
ぶつぶつと呟き始めるエルフに、また始まったのかと周囲は呆れ返った。
しかし、こうする中で数々の名作が生み出されていったことを、ここにいる全員が知っている。いや、このオラリオが知っている。この世界が知っている。
ある意味で言えば、彼女がこうなることを待ち望んでいるフシがある。
彼女がペンを取れば、世界がその完成を待ち望む。
神が、人間が、獣人が、エルフが、ドワーフが、アマゾネスが、ありとあらゆる種族が期待して待っている。
正義に憧れ、悪に恐怖し、愛に焦がれ、悲劇に哀しむ。英雄の話、国の話、ラブロマンスにホラーにサスペンス。推理小説だって彼女は書いてみせる。
冒険者以上に、冒険を知っている者。神様以上に、神話を知っている者。人間以上に、人間を知っている者。
そう呼ばれるサレナは、冒険者ではないのにも関わらず二つ名を持っていた。神に名付けられたのではない。ありとあらゆる本を読む存在が、自然と彼女をそう呼び始めたのだ。
人読んで『大作家』『大先生』。
サレナ・エーデルファルトは今日も妄想し、思い出し、物語を紡いでいく。やがては自分が物語を楽しむために。
こんなキャラがいても良いんじゃないかと思ったのです。
ちなみにオリ主はダンまちを知っていますが見ていません。
彼は食わず嫌いだったのです。食べてたら、ドハマリしておりました。