清々しい青空と、肌寒い外の空気。
そして、波打つ太もも。
俺は今、合宿に向かう電車の中、向かいに座った同級生の太ももの付け根の少し膨らんだところを凝視していた。
ああ、なんと素晴らしいものだろう。
この美しさは、きっとどんな芸術家にだって再現することはできず、どんな最新技術を用いても解析することは不可能だろう。
太ももとは、人類の最高峰の宝なのである。
と、俺が太ももについて熱く脳内で語っていると、目の前の太ももがシャキッとのびて、目の前にやってくる。
おぉ、太ももよ。
俺の思いが届いたのか。
俺の気持ちが通じて、俺のところに自らやって来てくれたのか……!
俺が軽く感動していると、鈍い音がして、こめかみに太ももが強く打ちつけられる。
「……いってぇ!」
「……バーカ。見すぎだよ」
今のが太ももを凝視していた罰だったとしたら、きっと、こんなに幸運なことはないだろう。
……罰が軽いから?
いいや、俺にとって今の一撃は、ご褒美だったからだ。
ショートパンツにTシャツ、白いカーディガンを羽織って、こちらにかわいく舌を出している少女、赤羽紅葉はまだそのことには気づいてないみたいだったけど。
……また蹴られるのが嫌だ、というのは全然ないが、赤羽との関係が悪化するのが嫌なので、俺は太ももを凝視するのをやめ、チラ見するくらいにとどめておく。
そこで、チラ見するにあたって丁度いい道具、スマートフォンを取り出してみると……。
昨日から恋人同士になった、俺の妹からのメッセージが届いていた。
「合宿、楽しんでくださいねっ!」
俺たちの合宿は、残念ながら、冬に行われる。
「夏だったらもっと女子の水着とか見られたかもしれないのになー」
隣の、眼鏡をかけたイケメン男子、光野太陽が愚痴をこぼす。
「合宿っていったら海だろうが! なんで俺たちの合宿は寺なんだよ!」
……その点については、全面的に同意せざるを得ない。
なぜ短歌部の合宿で、寺に行くのか。
かつて一年生の同級生で部長の紅葉は言っていた。
「静かな雰囲気の中で想像力を働かせれば、自然といい短歌が浮かんでくるよ……創造だけに」って。
いやくだらん。
そんなことを思い出して、その洒落を想像し創造した張本人をみると、視線はこちらにあり、また黙って舌を覗かせるのであった。
目的の駅に到着するまで、三十分。
俺は、再びスマートフォンを取り出して、動画サイトでも見てみようかなぁ、なんて思いながら電源を入れた。
すると、もう一件、妹からのメッセージが。
「お兄ちゃん、好きです」
……なんだこれ、かわいすぎるだろ。
俺も、ゆっくりと、想いを噛み締めながら、文字を打つ。
「俺も、京香のこと、大好きだぞ」
……これ、顔が急に熱くなってくるな。
俺、今顔真っ赤じゃない?
実のところ、俺はずっと、京香のことが好きだった。
小さい頃から俺なんかによくくっついて来てくれてたし、遊んだり、宿題を手伝ったり。
それに、俺が高校に入ってからは、お弁当まで毎日作ってくれた。
俺は、この環境に対して思ったんだ。
……これ、夫婦じゃんって。
妹が俺のことを恋愛的に好きかどうかは分からなかった。
俺にべったりくっついて来ていても、それはただの兄妹愛の延長かも知れない。
というか、そう考えるのが普通だろう。
そこで俺は、自分の気持ちを確かめる意味も込めて、京香と距離をとることを提案した。
……もちろん京香に恋愛感情がないのなら、お互いに兄妹以外の人との交際を推奨するつもりだった。
しかし!
たった半日でも、俺が耐えきれなかった!
……いつも平日は普通に離れている時間なのに、すごく長いものに感じた。
もしかしたらこのままずっと、離れていってしまうのかもしれない……と、不安になった。
だから俺は、何年もの間、何十年もの間隠してきた想いを、妹に告げたのだった。
……結果、二人にとってよかったのかはわからない。
だけど、今の俺は、この上なく自分を褒めたくて、妹の頭を撫でてやりたい気分だった。
続く。