秋川さんにホットココアを淹れ、ふにゃふにゃの即席麺を食べ終え。
今、私と秋川さんはテーブルを挟んで向かい合って座っています。
「今日はね……相談したいことがあったの」
秋川さんが、俯きがちに呟きます。
まあ、そんなことだろうと思っていましたが、私はそんなことを今口に出すべきではないと言葉を飲み込みました。
秋川さんは、無言の私に続けます。
「私、ね。今日、振られちゃったの」
その声にいつもの快活さは微塵もなく、弱々しくなってしまっています。
声色と、今にも泣き出しそうな表情。
それから、ここに来るまでのものと考えられる、泣きあと。
そのどれもが今の彼女の心を表しているようで、胸が痛みます。
これから話を聞くにあたって必要ではないかと、私は秋川さんに質問します。
「その人は、どんな人なんですか?」
……すると、その人のことを思い出したのか、秋川さんの目にじんわりと涙が滲んだかと思うと、やがて堰を切ったようにそれは溢れ出しました。
(あっ、デリカシーなかったですかね……)
私は、自分が質問した内容を申し訳なく思います。
べつに泣かせようとしたつもりは無いんですよ!
……ただ、人の相談を聞くことなんて初めてで、どうしたらいいのか分からないだけなんです。
かつては人の悩みなんてどうでもいいと思っていたのに、目の前で泣きながら話されると、確かに同情してしまうものがあります。
それとともに、私には嬉しさという、別の感情も湧いていました。
……私は、悪い子なんでしょうか?
私は、秋川さんがここまでプライベートな姿を私に見せてくれていることを、嬉しく思ってしまっているのです。
しかし、それらの私の感情は、秋川さんの返答によって、すぐに別のものへと変わりました。
「うちのクラスに帝野っているでしょ?……あいつよ」
……はい、今焦りに変わりました。
うわー。絶対私が絡んでくるじゃないですか。
数日前に告白されたのだから、関わってないはずがありません。うわー。
私は、私とこの話にはなんの関係もないのか、聞き出すことにしました。
「とりあえず、今日あったことを全部話してくれますか?」
「うん……わかったわ」
秋川さんは流れる涙を気にすることもなく、話し始めます。
「朝起きて、目覚ましを止めて、布団から出ようとしたわ。でも、布団が温かくって外は寒いし、なかなか布団から出られなくて、遅刻しそうになったのよ。で、パンをくわえて走っていたら気づいたの。……土曜日だって」
……何を聞かされてるんでしょう。
私は小噺をしろとは言っていませんが!
それと、朝から何をやってるんですか。
「それからね、家に帰って、帝野にメールして、待ってる間はテレビの録画を見て……」
……もういいですよ。
ボケでやっているのだとしたら、頭にデスボールを撃ち込んでやりますが。
しかし、彼女はただの説明下手のようなので、スルーします。
こぼれる涙がその証です。
秋川さんの話を要約すると、待ち合わせをして帝野くんに告白したところ、好きな人が諦められないと言われて振られたとのことでした。
…………私、思いっきり関わっているではないですか。
(帝野くん……私はもう彼氏出来てますよ……)
どうしたものかと頭を抱えていると、秋川さんが衝撃のひとことを放ちました。
「……でも、もういいわ。なんか、有栖川さんに話したらスッキリしちゃった! お部屋に案内してちょうだい」
えぇー。
え、えぇーーーーーー。
「……ふふっ」
「何笑ってるのよー!」
「いえ、秋川さんらしいと思っておかしくなってしまって……」
私は、正直に言います。
今は、本来ならば、お兄ちゃんがいない一人だけの寂しい時間だったのでしょう。
でも、実際には秋川さんが来てくれて……。
「……ありがとうございます」
「なっ、なにがよ!」
私は、色々な感情を、感謝のひとことで伝えます。
友だちって、いいですね!
助け合うのが友だちだと誰かが言っていましたが、本当に、その通りです。
しかし、秋川さんはその感謝の気持ちを伝えられてーーー。
「あんたも、大概変なところがあるわよね」
「あなたに言われたくありませんがっ!」
こんな反応を、示したのでした。
続く。