「秋川さん……」
「な、なによ……?」
私は起き上がり、ベッドの上に正座をして、秋川さんに向き直ります。
そして、勢いよく頭を下げるとともに、懇願しました。
「私を、抱いてくださいっ!」
今の秋川さんは、お兄ちゃんのシャンプーを使って、お兄ちゃんの匂いになっています。
いくら寝ぼけていたとはいえ、さっきまでは本物のお兄ちゃんと間違えるくらいでした。
しかし!
本物のお兄ちゃんではないとわかった今!
私には、名案が浮かびました。
名付けて、秋川さんでお兄ちゃんがいない寂しさを紛らわせよう作戦ですっ!
内容は名前の通り、お兄ちゃんの匂いがする秋川さんに、お兄ちゃんにして欲しいことをあれこれ再現してもらうというものです。
……かってに押しかけてきたんですから、このくらいやってもらわないと割に合いませんっ!
そう、私が一人で勝手に興奮していると。
(……あれ? 当の本人から反応が全くありませんね)
秋川さん本人からの反応が全くないことに気がつきます。
不思議に思って秋川さんの顔を覗き込むと、そこには。
顔を真っ赤にして後ずさる、赤毛の友だちの姿がありました。
「あ、あんたって、そっちだったの……?」
動揺を顕にしながら、秋川さんが言います。
そっちとは、何のことでしょう。
私は頭を捻りますが、すぐに考えられる言葉を探します。
ああ、私がお兄ちゃんに恋愛感情を抱いていることを言っているんですね。
それなら納得できます。
確かに、愛し合っている兄妹なんて、神に選ばれし私とお兄ちゃんだけですから、驚くのも無理はありません。
私は、大きく頷きます。
「それにしても、あんた……えぇ」
秋川さんが、若干。
いえ、かなり引いています。
私のお兄ちゃんを思う気持ちが強すぎて、少し威圧感を与えてしまったのでしょうか?
では、今度こそこわくないように、優しく頼みます。
「秋川さん。私を抱いて、ナデナデするだけで私は満足しますから」
すると、秋川さんはいいます。
「あんた自分が何言ってるかわかってる!?」
いや、あなたには言われたくないです。
あなたはいつも何言ってるかも、何やってるかも、全部わからないじゃないですか。
仕方ない人ですね。
もう一度言いますよ?
「私を、抱いて欲しいんです」
「だからそれよ!」
秋川さんは顔を真っ赤にして、何故か何度も私にツッコミを入れてくるのでした。
……そしてしばらくして、私は寝ぼけて思考と言動が混同していたことに気がつき、悶絶することになるのでした。
しかし私は、言動に気づいたとはいえ、引き下がりません。
明日からまた二日、お兄ちゃんに会えないんです。
私のお兄ちゃん成分が足りなくなる前に、擬似的にも補給しておかなければいけません!
あっ、お兄ちゃん成分っていうのは、私にとって五大栄養素よりも大切な動力源となる栄養素で、足りないと最悪死に至ることもあります。
私は改めて、秋川さんにお願いします。
「私を抱っこして、ナデナデしながら寝てくださいっ!」
「……やっぱりあんた常人じゃないわね」
なんだか秋川さんに呆れられているようですが、気にしている場合ではありません。
秋川さんの寝ている隣に滑り込むと、秋川さんは面倒くさそうな表情を隠しませんでしたが、私を受け入れてくれました。
そんな秋川さんを安心させようと、私は言います。
「天井のシミでも数えていれば終わりますから」
「なにが!? ねぇ、なにが!?」
……その夜の秋川さんは、普段の言動や行動からは考えられないほど情熱的でした。
同じ女性だから求めていることがわかるのでしょうか。
撫でてもらいたいときには優しくナデナデしてくれました。
それに、抱き締めてほしいときは、強くぎゅーってしてくれました。
……でも、やっぱりお兄ちゃんの代わりにはならなくて。
お兄ちゃんの帰りを、より待ち遠しく思う私なのでした。
続く。