全部、お兄ちゃんのものですっ!   作:雨宮照

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待ちきれません、会うまでは。

そんなこんなで、お兄ちゃんが合宿に行ってからの二日が過ぎました。

秋川さんは、二日目の夕方に帰っていき、その日は私も早く寝て。

今は、三日目。

お兄ちゃんが合宿から帰ってくる、月曜日のお昼です!

今日は、お兄ちゃんと三日ぶりの夕食を愉しむ日です。

これは早く帰って、たっぷりと時間をかけて、豪華な料理を作らなくては!

……だって、お兄ちゃんが、楽しみにしてるって言ってくれたんです。

ここで美味しいご飯を作って、胃袋を掴む、いや、胃袋を握り潰すんです!

今日の私は珍しく授業に全く集中できず、百パーセントお兄ちゃんのことで頭が埋め尽くされていました。

 

お兄ちゃんは、帰ってきて、どんな反応をするのでしょう。

帰ってきて、第一声は?

きっと、お兄ちゃんなら、私が萌えおののくような、びっくりする展開を持ってきてくれる事でしょう。

…………はっ!

もしかして、ただいまのちゅーとか!?

帰ってきて私の唇を情熱的に奪ったお兄ちゃんは、言うんです。

「……ぷはぁ。京香のくちびるで、修行で空腹な俺の腹を満たしてくれよ?」

きゃぁぁぁぁぁぁぁ!

満たしますっ! 満たしますともっ!

っていうか、私まで満たされちゃうんですけど!

はぁ……お兄ちゃん。

何にしても、私は今日、お兄ちゃんと会うのが、楽しみで仕方が無いのでした。

 

五、六限の授業が終わり、ショートホームルームの時間が訪れます。

私は、貧乏ゆすりをしていました。

普段は大和撫子を心がけて生活し、座れば牡丹を体現するような生活を心がけている私が貧乏ゆすりをしている様は、クラスメイトにとったら一大事件だったのでしょう。

視線がこちらに集中するのが分かります。

でも、視線に気づいたところで、私は貧乏ゆすりを止められません。

なぜなら、お兄ちゃんに会いたい気持ちが先行しているから。

うきうきして、貧乏ゆすりだってしちゃいますよ!

ショートホームルームが終わり、静まり返っていた真面目な空気が、一瞬にして解き放たれます。

放課後となった今、自由を手にした中学生たちは、爆発します。

部活動に行く人、下校する人。

その誰もが、友人たちと、楽しそうに会話を弾ませます。

そんなクラスメイトたちの中に、一人。

よく知った赤色の髪が見えました。

私の唯一の友人である彼女を見つけて、今日のことについて妄想を語ろうかと、ウキウキしながら声をかけます。

しかし次の瞬間、私は、肩を叩こうとした手を引っ込めました。

…………秋川さんは、他の友人たちと、下校していました。

私の知らない、秋川さんの友だち。

わがままなのは分かっていながらも、私の眉が、ハの字型に変化していくのを感じます。

そして、力なく微笑みます。

そうです……そうでした。

秋川さんには、友達が大勢いるんでした。

クラスのキラキラした中心である秋川さんには、友達がたくさんいます。

それに、秋川さんに限った話ではないでしょう。

他にも、ほとんどの人に。

ほとんどの人には複数の友人がいて。

必ずしも、全員が顔見知りとは限らなくて。

…………勝手に、舞い上がっていたのかも、知れませんね。

先程までの興奮しすぎていた気持ちに、バケツで水をかけられたかのような衝撃に、私は理不尽ながらも寒さを感じます。

外に出ると、二月の冷たい風が、肌に触れて、痛いです。

お兄ちゃんもお寺で、こんな風を身に受けているのでしょうか。

…………早く、帰らなくては。

お兄ちゃんに、豪華な夕食を作るため。

それと…………。

私を愛してくれるお兄ちゃんに、甘えて…………孤独から、逃げるために。

私は自分の未熟さに、呆れます。

こんな友人関係の感情など、わがままな小学生でも、理解し、受け入れています。

それを、どうにも、処理できない。

私は、大人のようなフリをして、世間知らずでただの未熟な、大馬鹿者だったのかも、知れません。

左目から、冷たいものが溢れだします。

そして、後を追うように、暖かいものが。

目の中に溜まっていたしずくは、どんどんと別のものへと変わっていき、流れたしずくは、川をなします。

その川は、役に立つのでしょうか。

これから、文明が栄える?

……いえ。

こんな無駄な涙、流している場合ではありません。

やっぱり、信じるべきはお兄ちゃんです。

お兄ちゃんは、昔から、私を優先してきてくれました。

遊園地でも、おもちゃでも、なんでも。

お兄ちゃんは、私のことを想って、後回し。

だから、今日は、久しぶりのお兄ちゃんに甘やかしてもらって、気を紛らわせます。

……お兄ちゃんは、私の彼氏なんですから。

 

舗装されていない道路の、端を歩いていきます。

乾燥した道路のはずなのに、土煙は、出ません。

なにやら、重いものに、吹き立つのを阻害されているような。

……私と、地面は、同じ、どんよりしたものを背負って、これからを過ごしていくのでした。

 

続く。

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