翌日。
いつもなら、部屋の扉の前に綺麗に整えて置かれている京香のスリッパが、ない。
階下にいるのかと、その影を探す。
すると、こたつに行儀よく正座して俯く、京香の姿があった。
……隣に、座る。
京香は一瞬こちらをちらりと見ると、また前髪で表情を隠してしまった。
俺は、昨日の晩、胸に決めた。
今日、俺は京香に想いを伝える。
確実に、明確に。
これから兄妹がどうしていくのか、どうなっていくのか。
決意を、しっかりと。
お兄ちゃんが、隣に座ってきました。
私は、昨晩は結局眠ることが出来ず、お兄ちゃんが眠りについたことを確認してから、自室を出ました。
我が家には玄関が無いため、リビングからあがりがまちを抜け、ドアを開ければそこは既に外です。
私は外に飛び出したい衝動に駆られました。
衝動を抑え机を見ると、やはり手のつけられていない食事が見栄えよく並べられています。
しかしそのどれもが冷たくなり、腐り始め、目も向けられないほどの悲しさを放っていました。
私は、それらから目を離したくなりましたが、仕方ありません。
全てを、台所のビニール袋のなかにこぼしました。
そして、色々とまた思考が回復し、本当に色々と考えて。
考えて、考えて、考え抜いた結果、思考が停止しました。
感情など、消え去りました。
自然と流れ出る、涙。
その涙が何を示しているのか、私には分かりません。
何を感じているのか、分かりません。
そんな状態のとき、隣にやってきたのが、お兄ちゃんでした。
お兄ちゃんは、なにも話しません。
どんな表情をしているのかも、分かりません。
理不尽に怒ってしまった私に、失望しているのでしょうか。
私は、取り返しのつかないことを、してしまったのでしょうか。
数時間にも思える、数秒間が過ぎ去ります。
決して気まずくない、沈黙。
お互いが、お互いを意識していない、まるで別の世界にいるかのような、そんな沈黙。
私は、周囲に漂う灰色のオーラを味方にして、包み込みます。
「……ごめんなさい」
お兄ちゃんは、微動だにしません。
「…………勝手に舞い上がって、勝手に準備して、勝手に怒って」
そうです。
全てこれは、私が勝手にやったこと。
……私の、お節介。
「…………邪魔者、でしたよね」
ブワッッッッッッッッッ………………!
その瞬間。
目の前が、なにか大きなものに包まれました。
私の羽毛布団よりも、大きくて、優しくて、安心感のある、あったかい抱擁。
その抱擁は、私の全てを。
命を、包み込み。
唇を、奪いました。
それが、私のファーストキスでした。
チュッと、一回。
たった、一回。
たった、一瞬。
それが、私の脳内を闇から一気に救い出し、解放し。
浅緋色のドロドロした思考群が、新たに私を席捲しました。
私は目を見開いて、お兄ちゃんを見つめます。
お兄ちゃんが真剣な顔で、私を見つめます。
それだけで、言葉はいらない。
それだけで、もう、心は満たされて。
もう一度。
今度はゆっくり、唇を重ねました。
続く