全部、お兄ちゃんのものですっ!   作:雨宮照

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蓬莱の珠の枝、ですっ!

ふと時計を見やると、時刻は、午前六時。

私とお兄ちゃんは、少し早く学校に行くことを決め、朝食を摂ります。

今日の朝食は、ご飯にみそ汁、梅干しの入った納豆、鮭、ヨーグルトです。

目の前でお兄ちゃんが、鮭の骨を丁寧に端に寄せて、赤い身をつつきます。

そういえば、鮭は白身魚なんでしたっけ。

でも、赤く見えるから、いいんです。

 

朝食を食べながら、私はふと思いつきます。

この間読んだライトノベルで、彼女が彼氏にご飯を食べさせてあげるシーンが甘酸っぱく描かれていました。

それに、どんな媒体で見たのかはわかりませんが、恋人同士のイメージとして、ご飯やスイーツを「あーん」するというものが第一に頭に浮かびます!

……ちなみに、二位と三位は映画館と水族館です。

 

私は、お兄ちゃんにあーんをしてあげようと、食事に箸を伸ばします。

しかし、そこで私は絶句しました。

この食事で、あーんは出来ませんっ!

辛うじてできるものと言えば鮭ですが、なんか、全く甘酸っぱくないじゃないですか!

むむぅ。

甘いヨーグルトと酸っぱい梅干しなら入っているのに……。

いっそのこと、梅入りヨーグルトにしてお兄ちゃんにあーんしてあげれば……?

いえ、さすがにそんなドリンクバーの子どもみたいなことはしませんけど。

 

そこで私は思い立ちます。

年の功ということで、こういう場合の打開策を、お兄ちゃんに教えてもらいましょう!

私はお兄ちゃんに、かぐや姫ばりの難題を突きつけます。

「お兄ちゃん」

「なんだ、京香」

お兄ちゃんは私に話しかけられて、まゆを上げて微笑みます。

ほんっっっとに可愛いです。

巷で話題のカリスマジェンダーレス男子たちなんかよりもよっぽどかわいいですよお兄ちゃん!

まあ、なんといっても世界一、いや宇宙一のお兄ちゃんですからね。

そこらの芸能人やショップ店員と比べては、勝ち目がないのは当然でしょう。

……はっ!

若干黒目を上に向けながら口を開けて幸せな表情をしてお兄ちゃんについて思考していたところを、お兄ちゃんにじっと見られてしまっていました!

「…………京香?」

「い、いえっ、続けますね」

私はさっきまでの思考を、私の頭の中の消しゴムで消し去って、話し始めます。

「お兄ちゃん。私は今、あーんして欲しいです」

「……お、おう」

お兄ちゃんは、顔を少し赤らめながら、返事をします。

これまたかわいいです。

「しかし、ここには昔ながらの和食とヨーグルトしかありません」

「確かに」

お兄ちゃんも、気づいたようです。

「お兄ちゃんは、私にどうやってあーんしますか?」

「……えぇー」

お兄ちゃんが、困ったような顔をします。

私は今、めんどくさい彼女なのでしょうか?

でも、うまく甘えられているとしたら、よしとします!

「……えー、それはだなぁ」

「それは…………?」

私は、身を乗り出してお兄ちゃんの答えを待ちます。

「……箸に納豆が糸引いてるから、無理だな」

「…………あ」

この問題は、いくらお兄ちゃんでも、蓬莱の珠の枝を見つけて持ってくるほどに難しかったようです。

しかし、お兄ちゃんはこのあと、私に思いがけない答えをくれます。

「だけど、その代わりといっちゃなんだけど」

「なんですか?」

「…………こんど、近くのショッピングモールのパフェでも食べに行かないか?」

「…………えっ」

お兄ちゃんと、で、デート!

思いがけないところで、お兄ちゃんとデートの約束を取りつけることに成功しました!

まさか、納豆がデートに繋がるとは、誰も予想だにしなかったのではないでしょうか。

でも、今この場においての納豆は、私にお兄ちゃんとのデートをくれた、神格化しても良いほどの代物で。

私は、今日から納豆のことを、蓬莱の珠と呼ぶことに決めたのでした。

 

 

続く。

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