「んっ、寒いです……」
時は巡って、週末。
私は、お兄ちゃんとデートをするため、午前九時に待ち合わせをしています。
えっ?
なんで同じ家なのに外で待ち合わせをするのか……ですか?
そんなの、その方がお兄ちゃんとのデートが楽しめると思ったからですっ!
お兄ちゃんがどんな服装でデートにくるのか、私の服装をかわいいって思ってくれるか。
そういった初々しいドキドキが、二人で家から出かけるよりも大きくなると思ったんですっ!
実際、今だって待ち合わせの駅前に向かいながら、人という字をごくごくと飲んでいます!
人を飲みすぎて、お腹の中が人でいっぱいになってしまうのではないかっていうくらいにです。
しばらく歩くと、駅のシンボルである、大きな時計台が見えてきます。
その時計台を見ると、時刻は七時五十分。
…………早く来すぎました。
でも、いいんです。
家にいても、することといったらお兄ちゃんとのデートの妄想ばかり。
なんといっても、今日は付き合ってからの初デートですから、家族でのお出かけとは気分の高揚感が違います!
普段のお出かけが踊り出したくなるくらいの興奮だとしたら、今日のデートは、きゅうりを両手に持ってお腹に巻いた太鼓をリズミカルに叩きながら火の輪を潜って行ったり来たりしたいほどの興奮です!
そしてまた歩きながら今日のデートを空想して、顔が熱くなります。
外の、快晴にもかかわらず冷たい空気に熱々の素肌が触れ、乙女しか知らない謎の化学反応が起こりそうです!
私は手袋のまま携帯電話を取り出して時刻を確認すると、歩みをゆっくりに改めました。
八時の、駅。
私はぐんぐんと、時計台に近づきます。
これから一時間、空想の世界にフライハイです! なんて考えながら、時計台の下に行きます。
土曜の八時となると、平日の慌ただしい空気と違って、部活動のユニフォーム姿でのんびり歩く学生や、私服で肩を並べて歩くカップルが目立ち、落ち着いた雰囲気が周囲に漂います。
私は、どこまでも真っ青な空を仰ぎながら、携帯電話の画面を開きます。
そして、アプリケーションの画面で、決定。
表示されたのは、二つ折りの携帯電話によくある、星占いアプリです。
三月生まれの私は、うお座。
十月生まれのお兄ちゃんは、さそり座です。
今日の運勢をみると、一位はさそり座で、二位はうお座でした。
……私が楽しむと同時に、お兄ちゃんにも全力でこのデートを楽しんで欲しい。
そのため、私はこの占いの結果に、頬を緩めて、満足するのでした。
続いて、携帯を閉じてハンドバッグにしまいます。
そして、今日のデートのために購入した、ショッピングモールを楽しむためのガイドブックを開きます。
前日までずっとこの本を見ては印をつけ、行きたいところを確認していたのですが、いざ当日になると、もう少し下準備をしておきたくなるものです。
お昼は、どこで食べましょうか。
今上映中の映画は……。
昨日までに何度も繰り返した行為を、また繰り返し、繰り返し。
すると、私の見ていたガイドブックの少し先に、グレーのパーカーの上に紺色のチェスターコートを羽織った、スレンダーな影が見えました。
…………お兄ちゃんです!
お兄ちゃんは、私に気づかれていないつもりなのか、抜き足差し足で、私に近づいてきます。
すると、次の瞬間!
私の後ろから、首を絡ませるように、抱きついてきました!
「ひゃんっ!」
これには、接近に気づいていた私も、驚いた声を上げてしまいます。
…………恥ずかしいです。
「京香、待ったか?」
お兄ちゃんが、首を絡ませたまま、私の頭をくしゃくしゃします。
私の、ふんわりするように日々心がけている髪の手触りをお兄ちゃんが気に入ってくれたのかと思うと、心がじんわりと満たされていきます。
「いえ、今来たところですっ!」
「そうか」
お兄ちゃんは、なぜか、口をもにゅっとさせて、残念そうな表情をしています。
「どうかしたんですか?」
私が見上げて尋ねると、お兄ちゃんは。
「そのセリフ、俺が言いたかったなぁって思って」
後ろから私の顔を覗き込んで、彼がニコッと爽やかに微笑みます。
「じゃあ、行くか!」
お兄ちゃんは、私の髪をまたわしゃわしゃと撫でると、大分背の小さな私の、小さな手を握って、ショッピングモールへと歩きだしました。
…………時刻は、午前八時五分のことでした……。
続く。