「ごめん、混んでて遅くなった!」
お兄ちゃんが、お手洗いから帰ってきて。
私たちは、またお店をぶらぶらと、もといらぶらぶと物色します。
石鹸の専門店や携帯ゲームソフトのお店など、パンフレットではあまり注目されていなかったところも、実際に行ってみると新しい発見があって面白かったりして。
「見てくださいお兄ちゃん! カレー石鹸なんてものがありますよ!」
「おおっ。使うとカレーの匂いがするとかそういうやつか?」
「いえ、カレーのシミを落とすための石鹸らしいです!」
「あはは、そりゃそうか!」
こんな何気ない、ライトノベルではシーンとしてカットされてしまいそうなデートのひとコマだって、異常なほどに楽しくて。
お兄ちゃんの愛しさが、溢れてきちゃいそうです!
そして......。
「そろそろ、暗くなってきたな」
「.........えへへ、暗くなってきましたね」
「じゃあ、上、行こっか」
「.........はいっ!」
ついに、私たちはショッピングモールの屋上、観覧車へとやって参りました!
お兄ちゃんは女の子と観覧車に乗るのが初めてらしく、相当に緊張した笑顔で私の手を引いています。
また、私はといえば、こんなお兄ちゃんとらぶらぶ萌え萌えな状況に冷静でいられるはずもなく.........。
節操もなく先ほどから、えへへえへへと隠しきれない気持ち悪い笑顔をだらしなく浮かべているのでした。
だって、お兄ちゃんと観覧車の密閉空間で二人っきりですよ!?
そんなの、期待しちゃうに決まってるじゃないですか!
きっと、向かい合った席に座ったお兄ちゃんは、言うんです。
「京香......やっと、二人っきりになれたな」
「えっ、えっ……どうしたんですか、お兄ちゃんっ」
「俺......もう我慢出来ないよ。京香、目をつぶって……」
そうして、私の前髪を上にあげて、お兄ちゃんの唇が迫ってきて......!
それで、私は目を開けてるんです!
だって、お兄ちゃんが観覧車で私にキスしてくれるんですよ! そんなの、見逃せるはずがありますか!?
無理です、無理に決まってます!
私は、お兄ちゃんの全てを、全身全霊をもって拝み倒したいんですからっ!
ああっ......好きですっ……もうホント好きです……お兄ちゃんっ…………!
……様……。
お客様ー!
「はっ!」
ど、どうしましたっ!?
「京香、俺たちの番が来たぞ」
「え、ええっ! もう、だってお兄ちゃんと観覧車に乗って、熱いキスを交わしたはずではでは!?」
「何言ってんのお前!? これから乗るんだぞ! マジでどうした!」
え……まさか、これまでのは妄想ですかっ!
自分でも最近、自分の妄想への浸り具合にびっくりですよ!
で、でも、これから観覧車……ですか。
「えへへぇー♪」
「んー? 今度はどうした?」
「いえ、えへへ。幸せだなぁ……って」
「ああ……。そうだな!」
やっぱりお兄ちゃんは、妄想のお兄ちゃんよりも本物の、いつも少し緊張してる、恥ずかしそうなお兄ちゃんの方が大好きですっ!
「じゃあ、乗るか」
「そうですねっ!」
「ほら、レディファーストだ!」
お兄ちゃんが、手を取ってエスコートしてくれます!
えへへ、お兄ちゃんの手、あったかいです!
「お兄ちゃん〜」
「んー?」
「好きです〜!」
「ふふっ、俺もだ」
扉が閉じた観覧車は、ゆっくりと二人を乗せて、夜景の上へ上へとあがっていきます。
私は、夜景を見ようと横の手すりに手を掛け、下を覗いています。
すると……。
ぽん、と。
私の頭に、お兄ちゃんの手が置かれました。
いわゆる、頭ぽんぽんと言うやつです!
「えへへ。いきなりどうしたんですか〜」
「京香に、渡したいものがあってな」
「ええっ、もしかして、プレゼントですか!」
「まあ、そんなところかな!」
お兄ちゃんは、いくつかショッピングモールで買ったものが入った袋から、比較的小さなものを手に取ります。
そして、開けると、そこには。
ゲーム対決中に私が見ていた、犬のぬいぐるみがありました。
「えっ! お、お兄ちゃん、これ……」
「あははっ、実はな、トイレに行くふりをしてこれを取りに行ってたんだ」
「私が見てたのを知ってて……?」
「え? あ、うん。し、知ってたし!」
「知らなかったなら正直に言ってください! どっちにしろ喜ぶので!」
「お前が欲しそうだっていう推測でな」
「お、お兄ちゃんが私のためを思って……!」
私は、思わず向かい側に座っているお兄ちゃんに抱きつきます。
するとお兄ちゃんも頭をなでなでしながら、私を抱き締め返してくれて……。
……気づいたときには、観覧車のスタッフの方から、降りてくださーいって、苦笑しながら声を掛けられていました。
……恥ずかしさなんて、お兄ちゃんとだっこできた嬉しさには到底及ばないですけどねっ!
続く。