あんなに楽しかったデートの時間も、もう終わり。
ソーラー式の間接照明が照らす我が家が、少し、また少しと近づいてきます。
……家に帰っても、二人は一緒にいられます。
……私が他校に進学しても、お家では、ずっとお兄ちゃんと一緒です。
でも、今日という日は特別で。
恋人として外で過ごした、記念すべき日で。
玄関が近づく度に、一歩の歩幅がだんだんと狭くなっていきます。
そして、ついに玄関に到着して。
ゆっくりと、家の中に入ります。
開けた家の中は、暖房もついていなくて肌寒いです。
その中で、お兄ちゃんの手だけが、あたたかい。
その事実が、とっても愛おしくて。
「お兄ちゃん」
「……うん」
「……お風呂、入りますか?」
先程のお兄ちゃんの発言を、頬を熱くしながら、確認します。
するとお兄ちゃんも、頭が茹で上がったかのように顔が真っ赤に染まっていって。
「……うん。入ろう」
「じ、じゃあ、ちょっと荷物を置いてきちゃいますねっ!」
「あ、お、俺も行くから……先に入ってていいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
お兄ちゃんは、私のカバンを丁寧に受け取ると、二つのカバンを手に二階へと向かいます。
一方、お兄ちゃんに見られる前に体を綺麗にしておける権利を貰えた私はといえば。
少しでも綺麗な自分をお兄ちゃんに見てもらうため、そして、あわよくば間違いを起こして貰えるような色っぽさで迎えられるように、お風呂場へと急ぐのでした。
しかし、お風呂に一緒に入る提案は、先程までのデートの興奮が収まって理性を取り戻してしまったお兄ちゃんからストップがかかり、お風呂の温度よりも熱くなってしまった私の心と身体を鎮めてくれるものがなんにもなくなって……。
私は、火照った身体のまま、湯船に残されてしまいます。
そして、湯船に浸かること数十分。
私は、お兄ちゃんに対する不満で、火照りによる熱さが、怒りによる熱さへと変わっていくことに気が付きます。
「大体、お兄ちゃんは真面目すぎるんですっ! 家の中でも、観覧車でも、私に一切手を出してくれませんし……。そういうところがかわいいってのは分かってます! でも、もう…………もう! ……………………お兄ちゃんが好きすぎておかしくなってしまいますっ!」
お兄ちゃんにかわいがられたいです。
お兄ちゃんになでなでしてほしいです。
お兄ちゃんにだっこしてほしいです。
お兄ちゃんにきすしてほしいです。
お兄ちゃんにぺろぺろしてほしいです。
お兄ちゃんのにおいをかぎたいです。
お兄ちゃんの、ものにしてほしいですっ!!
色々な思いが、堰を切ったように脳内で渦を巻きます。
お兄ちゃんをかわいがりたいです! お兄ちゃんをなでなでしたいです! お兄ちゃんをだっこしたいです! お兄ちゃんにきすしたいです! お兄ちゃんをぺろぺろしたいです! お兄ちゃんのにおいをかぎたいです! お兄ちゃんの…………すきにしてほしいですっ!!
考えすぎて、頭の中が吹っ飛んだような感覚に陥った私は、その爆発四散した思考を振り落としながら進むかのように、裸のままで牛馬のように自室へと駆け出します。
瞳の中に宿るものは、ただ一つ。
どす黒い桃色に染まった、ハート型の感情のみ。
私の全身は、獣と化し、焦燥、欲望、底知れぬ愛情、そしてほんのちょっぴりの憎悪など、色々な感情に突き動かされ、ずいずいと前方を侵食します。
そして、自室に到着したとき。
私が目にしたものは、なぜか小さい頃にお母さんがくれた、手錠。
私は、思考そのものが停止し、ただ一目散に、それを引っ掴んで部屋を飛び出します。
そして、標的は隣室に。
私は、いつものお淑やかな私の皮を被り、接触を試みます……。
「お兄ちゃん、いらっしゃいますか……?」
デートが終わり、お風呂イベントは……まぁ、冷静に考えてちょっと行き過ぎてたから中止したけど、その後の、自室。
俺はベッドに無造作に転がると、大きく伸びをしつつ今日あった出来事に思いを巡らせる。
……待ち合わせから、調理器具を二人で吟味し、ホラー映画で肝を冷やし、スイーツを食べさせあったり、ゲームセンターで対決したり、観覧車でいちゃいちゃしたり。
「今日は、本当に楽しい一日だったなぁ……」
俺は、心底満足げに呟く。
「……あ、そういえば、今日は全く携帯を確認してなかったっけ……?」
俺は、一日遊び疲れた重たい腰をぐっと浮かせ、勉強机に置いたスマートフォンを手に取ってメッセージアプリを確認する。
すると……。
「あれ、知らないアカウントからだ」
俺の知らないアカウントから、メッセージが届いている。
「ええと、なになに? 初めまして、あなたの父です……!?」
と、父さん!?
なんで、これまで連絡もつかなかった父さんが、いきなり……?
風呂から上がったらしい京香がなにやらバタバタしている足音も気にせずに、俺は続きに目を通す。
俺は今、ある場所に監禁されている。
お前達が産まれる前、俺はお前達の母親に、突然拘束器具を使って、監禁された。
それから、お前達の母親は、俺を部屋に閉じ込め、俺を独占した。
今日も家に来たお前達の母親は、俺に抱きついて頬ずりをしながら言った。
ついに今日、私たちの娘が目覚める日が来たと。
これはつまり、お前の妹が、何かしらよからぬ事に目覚める日だということを暗示している。
俺なりの推測だが、お前は今日、妹と初デートをしたはずだ。
それなら、まずい。
俺が監禁された日も……。
「お兄ちゃん、いらっしゃいますか……?」
……しんとした室内に、妹のかわいらしい声が、響く。
急速に口の中が渇いていくのが、分かる。
(こ、これはもしかして、俺を監禁しに……?)
俺は、今の今まで読んでいたメッセージに、もう一度目を通す。
これが本当だとしたら、俺は……。
「お兄ちゃん、勝手に入りますね〜!」
京香が、ドアノブに手をかける。
そして、ゆっくりと、時間を掛けて、回す。
俺は、隠れることも出来ないまま、その場に、立ち尽くす。
「あ、お兄ちゃん! いたなら返事してくださいよ!」
京香が、近づいてくる。
手にした手錠を、隠そうともせずに、近づいてくる。
そして、俺はといえば。
京香に。
愛する妹に、両手を差し出していた。
(これが本当だとしたら……最高じゃないか)
俺は、メッセージアプリを読んで、思ってしまった。
妹との、監禁生活が、非常に魅力的であり、この地に産み落とされた悦びのうちにおいて、最高であると。
俺は、正直、その後の生活で何をされるか覚悟をしていた。
しかし、妹が俺にしてきた行為には、おかしいどころなど何一つなく、今までより少しベタベタしているくらいの、甘い恋人のいちゃつきで。
ただ、一夜の妹の感情を、若干収めることになっただけに過ぎなかった。
なお、両親のことにおける真実は、今でも分からない。
母親に父親について尋ねても、今までどおり、海外で暮らしているの一点張り。
ただ、俺の生活で唯一変わったことはといえば……。
月に一度くらいのペースで、妹が俺に手錠をかけて、甘えてくるようになったことくらいだった。
そして今日も、妹は、俺の部屋にやってくる。
「お兄ちゃんは、全部、私のものですっ!」
って、手錠を片手にはにかみながら。
終わり。